深掘り

自衛隊の日米訓練にパランティアAI 2.8億円の契約と変わる戦闘

矢島大輔 佐藤瑞季 編集委員・五十嵐大介 グラフィック・中田竜成

 AI(人工知能)が、世界各地で戦争の形を変えている。日本の防衛省も、導入に向けて動き出している。

 今年1~2月、東京・市谷の防衛省。自衛隊と米インド太平洋軍の最高幹部が参加する日米共同の指揮所演習が行われた。

 2年に1度のシミュレーション訓練は「鋭利な切れ味」の意を込めて「キーン・エッジ」と呼ばれる。

 その内容は機密性が高く、公表されていない。

初めて使われた技術

 ただ、複数の政府関係者によると、この演習で初めて使われた技術がある。米データ解析企業パランティア・テクノロジーズのAIシステムだ。

 訓練は、南西諸島の有事で、米軍や自衛隊の艦艇などが攻撃される想定で行われた。日米が協力して反撃し、配備したばかりの長射程ミサイル「25式地対艦誘導弾」も発射するというシナリオだ。

 このミサイルの射程は1千キロ程度。地上から艦艇を狙えるが、遠く離れた標的に狙いを定める「ターゲティング」は難しい。衛星画像や無人機、陸海空のレーダーから集めた膨大な情報を分析して判断する必要がある。

 「ターゲティング機能でAIを使うことは有益だと考えている」。自衛隊制服組トップの内倉浩昭・統合幕僚長は4月の会見で、具体的な検討状況への言及は控えたうえで、自らの考えを話した。

写真・図版
写真・図版
写真・図版
写真・図版
AIを使った戦争のイメージ

進む「第3の軍事革命」

 人間が担っていた意思決定の速度を格段に速めるAI。その衝撃は、火薬と核兵器に続く「第3の軍事革命」とも言われる。

 米国防総省は今年2月のイランへの攻撃で、標的の選定にAIによるデータ分析ツールを活用したとされる。最初の24時間で1千カ所を攻撃したと米メディアが報じる作戦を可能にしたとされるのが、パランティアが基幹技術を提供する「メイブン・スマート・システム」だ。

 メイブンは、衛星画像や現場の隊員からの情報、SNSの投稿まで膨大なデータを駆使して攻撃対象の選定などをこなす。

メイブン・スマート・システムの仕組み

軍の意思決定をするシステム

入力データ

ほぼリアルタイム

・偵察、巡回によるデータベース

・衛星、ドローンなどの画像

・人的情報収集

データの分析・最適化・統合

作戦を遂行する

グローバルな情報収集

・標的リスト

・文化

・地形解析

・SNS

・OSINT(公開情報分析)

・敵の行動予測

 防衛省は、これまでもパランティアの技術の導入を検討してきた。

 昨年1月には防衛装備庁がパランティアと「潜入支援プラットフォーム(ターゲット情報処理装置)」という名称の契約を結んでいた。納入先は陸上自衛隊の専門部隊で、金額は2億8600万円。入札をおこなったものの落札者がおらず、随意契約となった。

第1次世界大戦

(1914-1918年)

砲火

機動力

砲撃が主体

第2次世界大戦

(1939-1945)

砲火

機動力

機動力が向上

AI

ちょうほう

諜報

AI駆動型

オペレーション

砲火

機動力

「AIによって戦争は永遠に変わった」

元国防総省のAI責任者ドルー・クーカー氏の発表から

 朝日新聞が情報公開請求で入手した調達品目表によると、契約したのはパランティアのソフトウェア「ゴッサム」と、操作用端末10台。このシステムは陸自の無人飛行機と接続。自律飛行させた上で指定した目標を撮影し、画像をリアルタイムで表示できる。味方の攻撃能力や機能を表示し、指揮官の意思決定を支援することもできるという。

指揮官の意思決定を支援

 ゴッサムは、米国防総省が使うメイブンの基盤技術とされる。パランティアのウェブサイトにはデモ動画がある。

 台湾有事を想定したとみられる事例はこうだ。

 中国の駆逐艦が沿岸部の港を離れたとの情報を、日本の自衛隊から受け取った米軍。するとゴッサムは、駆逐艦が台湾に向かっているとの警告を出し、沖縄の米軍基地から無人偵察機を派遣するよう提案する――。

 防衛装備庁の担当者によると、今回の契約はメイブンのような省全体を統合するシステムではなく、小規模なものだという。契約は「検証」の位置づけで、「現時点で導入は決まっていない」というが、着実に布石となっているようだ。

 パランティアは、自社技術の売り込みを米国の同盟国に広げている。

米同盟国に広がるパランティア

 昨年にはメイブンと同様のシステム納入を、北大西洋条約機構(NATO)軍と契約。ドイツ、英国、フランスのAI企業との連携も進めている。

 メイブンは、もとは米国防総省が2017年に始めたプロジェクトだ。

 米軍はソマリアやアフガニスタンなどでもメイブンを活用してきたが、当初は組織内に分散するデータの統合や現場での画像認識技術、組織の縦割り文化など多くの「壁」に直面していた。

 「ウクライナが転換点となった」。国防総省でAI戦略を指揮し、メイブン計画を主導した元海兵隊大佐のドルー・クーカー氏は先月、朝日新聞の取材にそう話した。

 22年にロシアの侵攻で始まったウクライナ戦争で、米軍はメイブンを使って攻撃対象となるロシア軍を選定するなど、データを提供してウクライナ軍を支援した。

 現在は退役して民間に転じたクーカー氏によると、AIを使った分析ツールは常に進化しており、活用できるデータの規模や実戦での運用実績が大事になるという。

 「より多くのデータや経験、人間の調整が加えられるほど、システムは改善されていく。多くの米国の同盟国がパランティアを使っており、日本が使うことは、理にかなっている」

メイブン・スマート・システムの運用イメージ

情報・監視・偵察データ

分析サービス

衛星・ドローン・監視カメラ

パターン分析・データ検出

リアルタイム性を重視した軍事システム

前線地域

司令部

船舶/前線基地

データの処理、分析

車両、個人、小部隊の情報

司令部の情報分析など

現地の状況・環境

作戦

農村・都市・森林地帯・山岳・沿岸

大規模戦域戦争(対ゲリラ戦・急襲・空爆)

非戦闘員退避作戦(人道支援・災害救援)

 一方、「頭脳」ともいえるシステムで外国のAIに頼ることに、政府や与党内には戸惑いもある。機密データの扱いや、AIが憲法や「非核三原則」など日本が重視する価値観をどこまで守るのかなどがわからない不安があるからだ。

問われる日本の主権

 東大公共政策大学院の鈴木一人教授(国際政治学)は、「実戦を経験している米国製のシステムを使う方がより合理的ではあろうが、米国に頼り切っていいのかという問題は必ず出てくる」と指摘する。

 「米国産に頼る場合、いきなりサービスを止められるなど、自分たちのコントロールが及ばなくなるリスクはある。日本の主権が守れるのかが問われる」

「デジタル版を試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験

この記事を書いた人
五十嵐大介
編集委員
専門・関心分野
テクノロジー、経済、グローバリゼーション
中田竜成
デジタル編成本部 | デザイナー
専門・関心分野
グラフィックデザイン
  • commentatorHeader
    伊藤和子
    弁護士
    視点

    AIの軍事利用が拡大する中、日本政府は無批判かつ無邪気にAI システムを税金で爆買いしようとしており、識者の間で懸念が広がっている。 特にパランティア社といえば、ガザで7万人以上の人の命を奪った「ジェノサイド」と評価されるイスラエルの軍事行動に技術を提供したことで知られる。 イラン攻撃に関しては米トランプ政権に対して技術を提供、攻撃目標の分析などに関わったとされる。この戦争も明らかな国際法違反である。また米国内では移民を迫害し人権弾圧するICEに技術提供をしたことでも知られる。 同社がSNS上で公表した22か条からなる「マニフェスト」には 「問題は、AI兵器が開発されるかどうかではなく、誰が、どのような目的で開発するかである。」として米国の引き起こす戦争への貢献を表明、さらに「ナチスドイツの牙を抜いたことは行き過ぎた是正措置」などと記載され、多様性という「浅はかな誘惑に抵抗しなければならない」などと述べ、人権や多様性を軽視・あるいは敵視している様子がうかがわれる。  このように数々の人権侵害に加担し、将来的にも米国の軍事行動を支える意図を明確にし人権を極端に軽視している企業と、日本が安易に提携してよいのか。戦争犯罪やジェノサイド等の人権侵害に加担する企業と取引関係を結んでよいのか、国連ビジネスと人権に関する指導原則との関係でも重大な問題があることは明らかだ。  同時に、国家の中枢をなす防衛を米国AI企業に依存することのリスクも考えるべきだ。米政府は国家安全保障上の権限を根拠に、ミュトス5等へのアクセスを停止する輸出規制指令を発令し、日本の金融機関のミュトスへのアクセス権が停止されることへの懸念が浮上した。米政権はこのように予測不能であり、米国のAI技術に国家の根幹を委ねる結果、日本が主権国家としては完全に自律性を失う重大なリスクがある。欧州では、米国AIとりわけパランティアへの警戒心は極めて強い。 日本は果たして十分なリスク分析の下でパランティアとの取引関係を決断したのか、今後継続するつもりなのか。真剣な議論が求められる。

    2026年6月26日 01:02

関連トピック・ジャンル

トピックス