リトルスターは夢をみる ⅰ
死んだ筈だったオレは、また天馬司として生き変わってしまった!?
そんな転生パロディ物語です
**
愛する類と、えむや寧々とは違う環境で第2の人生を歩むことになった小さなお星様の天馬司は、転生した事に困惑しながらも毎日を過ごすことに。平穏な毎日を過ごしていると、時々思い出すワンダーランズショウタイム、愛する妹の咲希、そして生涯一緒に生きると約束した類の存在。会いたくても会えるのは不可能。
みんなはもう大人の年齢で、家庭をもつそんな年齢まで成長している。小さな体のオレには高校の時のようなショーをすることが出来ない。だから忘れるためにもショーに関わらないように生きようと思っていた矢先……
**
novel/17427678続きました!
⚠︎︎年齢操作です。
類くんについての話は出ますが、今回本人はちょこっとしか出ません。時系列が時々交互になりますが*で判別出来ると思います。
誤字脱字は見逃してください。
リハビリがてら、転生物語を書きたかったのでここまで書けて満足しています。☺️
キリがいいのでぶっ切りました。
(この先のことについてはまだ私も分かりません。)
気が向いたら、続きを書きたいです…🌿彡
多分私の予想、山下と山崎が今後いい活躍すると思いますよ。
ちなみに、この話の設定として
天馬司(13)、神代類(29)くらいです。
ショタぁ…😨って思う人いるかもしれませんが最近私ショタ系の話にハマっているので許してください💕
(こてこてショタ受けのシーンも書きたいですね)
いつも色んな作品にいいねやコメントをして下さる方やフォローまでして下さる方がいて毎日嬉しく思っています。おかげさまでフォロワー数もわっ😳と嬉しい数になりまして、とても励みになっています⸜🌷︎⸝
これからもゆっくりと作品を更新していきたいと思いますので温かく見守ってくれたら嬉しいです。
最近、類司の小説が毎日たくさん投稿されてて嬉しい…♪
素敵な作品をいつもありがとうございます♡
illust/90351319
素敵な表紙をお借りしました!ありがとうございます!
【追記1】
ルーキーランキング14位
デイリーランキング34位
女子人気ランキング25位
にお邪魔させてもらいました。ありがとうございます😌⸜🌷︎⸝
【追記2】
1000ブクマありがとうございました!
たくさんのいいね、フォロー、感想ありがとうございます!
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まるで魔法だった。
自分と似たような手からはたくさんの機械を生み出して、自分と同じ形をした脳からはたくさんの演出を出している。ぽんぽんと無限に出るその魔法は全部素敵で素晴らしいものだった。ああ、こんな素晴らしい演出でオレは世界に羽ばたきたい、輝きたい。類が考えた演出のステージで、自分は全部を出し切ってスターになりたいとそう思った。高校2年の時、古びたステージに出会ったのをきっかけに人々を笑顔にするべく、日々ショーについて考えていたそんな毎日を送っていた。本業とも言える勉強を差し置いて、ほとんどの時間をショーに費やしたと言っても過言ではないだろう。隣にはいつも類がいた。最高の、演出家で、そしてオレの恋人でもある最愛の人。
だから…類がこれからも一緒にいるとそう信じていた。
オレ達の未来は、きっと一緒に輝くものだろうと。そう信じて誓った。
だけどーー………
「……ッ司くん!!!」
確かあの日は付き合った記念日で一緒にデートをし終えた後の帰り道。信号を待ちながらショーについての話をしていた時だった。
珍しく荒らげた声と共に聞こえる周りの悲鳴。オレは何が起きているのか分からずただ名前を呼ばれたことに嬉しく思いながら類の方を見る。
そして、一瞬の出来事。
最後に聞こえたのは類の声と、大きな音だった
オレたち2人の夢は
オレの隣に類がいても、類の隣にオレがいなければそんな夢、叶う訳ない。
好きだよ、そう言ってくれて一緒に頑張ろうねと約束したあの言葉はもうバラバラに散っていった。
オレ達の目指す夢は幕を閉じた。
そして、2人の幸せも
幕が下りた。
えー、今入ってきた速報、速報です。
今日の夕方、男子高校生と軽自動車の衝突事故が発生しました。場所は人通りの少ない道路で、その場を目撃した人によりますと信号待ちをしていた2人組の男子高校生へ向かって車が突っ込んだとの事です。後1人は死亡、もう1人は病院へ運ばれましたが軽傷との事です。尚、軽自動車を運転していた者は無傷であり、警察によりますと高度のアルコール度数が判明し飲酒運転ならびに自動車運転過失致死罪で現行犯逮捕しました。
繰り返します。
………
確かに
オレ、
天馬司は死んだ。
でも"天馬司"は生きていた。
【リトルスターは夢をみる】
「…よし、無事宿題も終わったな!」
目の前にあるプリントを眺めて1人そう呟くと後ろから夕飯を作っていた母親が褒めてくれた。リビングにある時計を見るともう7時でそろそろ父親も帰って来るところだろう。リビングの机を占領していた司は慌てて宿題を片付けてランドセルに詰め込む。そしてそのまま急ぎ足で母親の隣に立ち、ホカホカの夕飯を運ぶのを手伝うことにした。
「司!ご飯を運んでくれるのは嬉しいけどその前に手を洗ってからね!」
「あ、そうだった!洗ってくるぞ!」
消しカスや鉛筆で擦れて汚れた右手を睨む母親のその言葉にハッとして洗面所へ向かった。パタパタと履いているスリッパの音が廊下に響く。
手を洗って石鹸を丁寧に流し終え、蛇口を閉めた。
鏡に映る自分の顔を見る…。やっぱり、
「……やっぱり、オレだな。」
濡れた手で、なぞる。
そして、呟く。
死んだオレは、今日も生きている。
交通事故で死んだあの日、今でもオレは覚えている。
確かに自分の人生は終了した。
スターになるという夢は消え、隣にいた類にはとてつもなく申し訳ない気持ちと親より先に死んでしまった最悪な親孝行をしてしまったことに対しての後悔を抱えながら生涯を終えてしまった天馬司はこの世にはもういない者となった、はずだった。
そう、死んだはずだったのだ。
車と衝突して、確かに三途の川も渡ったし、天使にも会った。天使はとても小さくて可愛かった。
だから天国で過ごすんだろうなぁこれからは。なんて思っていた矢先、ウトウトして眠ってしまい、目を覚ましたら自分は複数の人から囲まれていたのだ。
オギャアというよりもウオゥッ?!に近い驚き声を出してしまい、隣にいた看護師とボロボロになった入院服を着ていた女性が笑って見ていたのは今でも覚えている。現実世界の、病院にいた。そして入院服を着ていた女性が実は母親だったことに気づいてまた叫び声を出したのは内緒だ。
目で見た自分の手はそれはそれは小さくて、ふにゃふにゃしている頬、反射越しに見えた自分は……赤ちゃんの姿。
そう、赤ちゃんだった。
はっきり言おう、オレは転生したのだ。
よくあるあのアニメみたいな、そんなやつ。第2の人生を、記憶ありのまま生きることになってしまったのだ。
しかももっと厄介なことは第2の人生なのにも関わらず名前は「天馬司」だということ。そしてそれ以上に厄介なことはかつての自分と同じ顔をしていたという事だ。
かつて生きていた頃の幼い自分の姿が、今の天馬司に引き継がれており、きっと天馬司を前から知っている者からしたら今のオレはドッペルゲンガーだと思うに違いないほどだ。
だから同じ容姿で同じ名をもって、2回目の人生を歩むことになってしまったこの現実に司は驚きを隠せなかった。
だけど変わっているもある。
それはー…
「司〜!ただいま〜〜!」
「お父さん!おかえりなさい!」
「今日の小学校楽しかったかぁ〜?」
「うん!とても楽しかったぞ、体育の50m走で1位になったしテストも満点だった!」
「それはすごいじゃないか!!さすが我が自慢の一人息子だなぁ〜!!!」
帰宅してきた父親からそう言われ少し汗臭いスーツのまま抱きしめられる。ニコニコしてその光景を眺める母親と、オレが大好きだと言わんばかりにぎゅうぎゅうと手加減しながら抱きしめる父親。2人とも、前の両親とは違う、両親。
そして今の司には妹もいない一人息子だと言うこと。(そりゃ咲希は今別のところで生きているから当たり前だろうけど。)
家族と、家族編成が2回目の人生で違うことだった。
今の自分の歳は12歳で来年中学生になる。本当に…ここまで長かったと思う。成長してまだ間もない頃、飲んだミルクは正直言って悲惨で離乳食なんかはろくに食べれた記憶ない。テーブルの上にあったポテトチップスとかチョコは当時の自分の体には良くないと思った両親だった為、食べることすら出来ず味しないご飯をひたすら食べていた長年月。
保育園の時もひどかった。見た目は年相応の姿であっても中身は高校2年の自分だったからか、保育園にいる子供とはウマが合うこともなく。…友達といえる友達もいなくて休み時間の時は1人寂しく絵を書いていたあの日々。
小学生になってからはランドセルを背負う懐かしさを感じながらも保育園の時に学んだ年相応の会話を熟知し、たくさんの友達を作ることが出来た。そしてなんとみんなにとっては難しいと言われる問題もスラスラ解けてしまうオレにクラスの女子ほとんどが恋をして第2の人生にしてモテ期というものを初めて体験した。(頭も未だ高校2年レベルだからテストも満点だったからな。)バレンタインのチョコなんかは紙袋5個使ってもパンパンのチョコだらけ。もちろん学年1位だ、すごいだろう?
そんなお利口さんに、優秀に成長しているオレを両親は瞬く間に褒めたたえて激愛するくらいに甘やかしてくれた。…正直言って、かつてのオレは咲希の事を第1優先で考えていたし、親も兄であるオレよりも体の弱い咲希を特に気にかけていたからこんなに全力の愛が自分にだけ向けられるということにはいまだに慣れない。嬉しいが、やっぱりどこかむずむずするのだ。
そう思いながらも第2の人生は特に何も無く過ごしている。むしろ何故何もないのだろうかと不思議に思うくらいだ。
だって自分に記憶があるのは、何かあるからだとそう思っている司は時々この幸せな平穏な日々が怖く感じる。そしてよく、思い出す。
咲希、そしてかつての両親…。
えむに寧々、冬弥と彰人、暁山も。
みんな元気に過ごしているのだろうか。
そして愛する類、
あいつは今、何をしているのだろうか……。
*
「オレは将来、スターになる男だ!その為には毎日の時間を惜しまずにショーの練習をしたり研究を積み重ねなければならない!!」
「ふふ、今のそのポーズはまたカッコイイポーズというものかい?」
「ああ、いつでもこのオレに取材が来てもいいように何個かのポージングを考えているんだ!これはその中のひとつ、夕暮れに黄昏ながら将来を見据える男という題のポーズだ!!」
フェニランで練習をしていた頃だろうか。休憩中、台本を読んでいる類の前でいきなり思いついたかっこいいポーズをしていた司は大きな声でそう言った。
ピシ、と肘を垂直に伸ばして類に向かってポーズを取るといつも以上に顔をふにゃりと歪ませてぱちぱちと手を叩いて拍手をした。バックが夕日だからか、類の顔にはオレンジ色の光が僅かに差し掛かっていて少しその光を眩しそうに訴えながら細目になっている。
「司くんはきっとスターになれるよ。」
「む?」
拍手した後スマホで司のポーズをカメラに収め終えた類はスマホから目を離さずにポツリと小さな声で呟いたその言葉に首を捻る。まだ夕日で眩しいのか、いつも以上に顔を歪ませている類を見て司は「お前もだろう?」と平然と言い返した。え、と声を上げて目を見開く類を見てもう一度司は同じ言葉を言う。
「お前も演出家になるんだろう?」
「ま、まあ…夢はそうだけど……。」
「なんだ、歯切れ悪いな。」
「いや、そこに司くんがいないのは嫌だなと思ってね…。」
「え?」
「ううん、なんでもないよ。」
帰ろう、そろそろ。
さっきまでショーの練習も終えて、今頃更衣室にいるえむと寧々に続いてステージ端にいた類はそう言って男子更衣室へ足を向けた。司はそんな重い足取りをした類の手を掴む。目を見開いて驚いた顔をした類と、それを見据えたように見つめる司の間に涼しい風が吹き始めた。
「何を遠慮しているのかわからないが、今もこれからもオレの隣にいるのはお前だろう。」
「えっ」
「オレはお前の演出で輝くスターになりたいから、その為にはお前がいなきゃ何も始まらないだろう。」
凛とした声でそう言った司だが、思い出したかのように次の瞬間顔を青くして慌て始めた。またもや、類は目を見開く。
「あっ、いや、お前がこれから先オレ以外に演出つけるだろうしこんなのはきっと未来にならないとわからないが、それでもオレはなるべくお前の演出でショーをしたいとは思っている。」
「それって…今だけじゃなくてこれからも僕と一緒にいてくれるってことかい…?」
「当たり前だろう!というか類は…これからオレと一緒にいてくれないのか?」
「いいや……。僕も、君と一緒にまだまだショーをしたいよ。」
その言葉が、嬉しかった。
まだ、付き合っていなかった時のそんな会話だ。
そして何ヶ月か後に…類から告白されて、付き合ったんだった。
慣れない2人で手探りで恋人らしいこともしたな。
手を初めて繋いだ時なんか手汗のことしか頭になかった。ハグは互いにいつのタイミングですればいいのかわからずにドギマギしながらしていた。
ああ、
懐かしい、夢を見た。
*
春になった。6年間の小学生が終え、中学生になった今年。司はシワひとつない綺麗な制服を身にまとった。部屋にある姿鏡で、だんだん高校生の頃の自分に近づいてきている自分の成長を感じながら懐かしながらあの頃よくやっていたポーズを取った。
姿鏡は、第2の人生において初めて誕生日でおねだりした物だった。ベッドの上にあるペガサスのぬいぐるみも、星の形をしたクッションも、最初の人生を追いかけるかのように似たやつを探しておねだりをして揃えた。
ピアノはしなかった。…する目的がなかったからな。
首元のネクタイを最後に締めて、また司はポーズを取る。
心の中ではもちろん、かつて自分を紹介するために作ったあの自己紹介を唱えながら。
「司っていうんだな!よろしくな!」
「おお、隣の席で色々世話なるがよろしく頼むぞ!!」
入学式が終わった後、新しい教室にみんな集まり自分の席に着くと人懐っこい顔をしたスポーツ少年みたいな男から挨拶をされ司も笑顔を浮かべる。ザッと見た感じクラスの雰囲気も良い。そして担任も歳は取っているみたいだが優しそうなおじさん先生だ。着せられたような格好をするみんなに紛れて司はあと3分の1の義務教育の重さに少しため息が出そうになる。
あと2年後にはまた高校受験勉強をしなければならない。2回目の経験から、この最初の1年のうちに基礎をつけるのが後にどれだけ力になるか思い知らされたので気を引き締める。勉強は嫌いだが、せっかくの人生だ。最低点は取らないようにしないといけない。
前の人から1枚のプリントを配られて、それを見る。話を聞かずにボケっとしていた間にどうやら担任はこの中学の部活動の紹介をしているようだった。もらったプリントを急いで後ろの人に渡し、目を移す。
ある部活名を見て、思わず手が止まった。
(…演劇部、この中学にはあるんだな。)
後、担任によるとどうやら3年間、部活所属は必須らしいようだった。
昔の自分なら喜んで演劇部に入っただろう。でも今は何故か気が乗らなかった。
スターになる、という夢を諦めているわけでもなく。ショーは相変わらず今のままでも好きだ。暇なとき、ミュージカル映画もよく観る。そして両親もそんなオレを見て公認している。だから別にショーから離れたわけではない。断じて、離れたわけではない。
でも、
味をしめてしまったのだ。
あの毎日キラキラした日々、4人で頑張って作り上げたあの素晴らしいショー、大きい人から小さい子まで愛おしい笑顔になってくれたあの瞬間……あの記憶は類を含め3人がいたから、ワンダーランドステージだったから、出来たことでオレにとってのショーの形でもあった。
だから3人がいなくて、ショーをしても楽しいのだろうかと思う。
あの時以上にしていたショーは、きっとこれから生きていく上で越えられるわけないと思っているから。
だからショーというものはもう終わらせておきたかったのかもしれない。
あいつらがいたから、ショーが出来たのだから。
ならばなんの部活に入るかと考えても中々決断することは出来ずにいた。帰宅部とかあればまだ楽なのにな。そう考えて深いため息をする。
時々、思うのだ。皆は何をして、どう生きているのだろうと。きっと今のみんなはもう大人で、家庭をもつそんな年齢だ。
それにくらべて今の自分は学ランを着ていて、まだ顔は高校生の時に比べて幼い。
…同じ記憶を持っているのに、立場が違うのが時々苦しくなる。それに会うことも出来ずにたたこうして思い耽ることばかり。会おうにしても、会う手段もなければ会ったら会ったでどうする。きっとあいつらは同じ顔をして同じ名をもつふた周りくらい下な男が現れたら驚くだろうし混乱するだろう。そして、実は転生して二回目の人生を歩んでます☆なんて言ってしまえばただ事じゃなくなる。信じて貰えないand化け物扱いでもされたら泣くぞ、オレは。
でも、会いたい。
またアイツらとショーをしていたかった。事故にあったあの日、確か新しいショーを考えるために残っていたのだ。コテコテの冒険ショー。類は張り切っていたっけ、新作のロボットを作るんだとか。えむは生き生きとして悪魔役を引き受けていて楽しそうに練習していて、寧々はその様子を見て負けじと歌のシーンに熱を入れていた。
主人公のオレは、剣を巧みに使って途中モンスターから騙されたり殺されかけたりと色々困難はあるものの、最後はハッピーエンドにするという勇者役で…。本番では軽やかに動けるようにと毎日剣を振り回していたりした。ああ、懐かしいなぁ。オレを真似してか、えむも楽しそうに一緒に剣の練習に付き合ってくれたな。
あのショー、完成、させたかったなぁ……。
なんで死んじゃったのだろうか。
なんで記憶を残して、そして同じ顔、同じ名でまた人生を歩むことになったのだろうか。
同じ天馬司でも…あいつらが、類がいなければ、何も始まらないだろう。
どうせなら、転生などしなくて良かっただろう。
ああ、会いたいなぁ…。
みんな、家族、そして…
「類……。」
愛する類。
今、お前は何をしているのだろうか。
誰と、いるのだろうか。
無意識にそう呟いて手元にあったプリントはよれてしまっていた。
入学式からもう既に4日目が過ぎた。新しい環境で慣れず1人でいた子も今ではリラックスして色んな人と話している姿が見える。絶え間ない会話が飛び交う司のクラスはいつも賑やかで微笑ましい。世代が違うから色々大変かと思いきや周りの人達は皆優しい人ばかりで1年間気楽に過ごせそうだと安心するくらいの居心地の良さだった。
「あれ、司お前まだ仮入部の紙書いてないのか?」
ふと、隣の席の山下が話しかけてきて司は困ったように眉をひそめた。
「ああ。悩んでいてな。来週から仮入部期間だから焦ってはいるんだがどうもなぁ…。」
「まあ3年間だからそう簡単には決められないよな。意外とお前サッカーとかやってるのかと思ったぜ。」
「ははは…運動は多少齧るくらいだな。」
かつて、高校生の時昼にグラウンドの傍を歩いていたらサッカーボールが勢いよく飛んできて避けられずに顔面ヒットしたなんて言えない。あの頃から運動神経はどうやら今も変わらないようでサッカー部に入部してしまったら地獄を見るだろう。
隣の席の男、山下の手元にある司とは違いきちんと書き込みがある仮入部届けを見るとそこには『バスケ部』と書いてあった。
「山下はバスケか。元々していたのか?」
「おー、小学生の時からスポ少しててさ。兄も部活でバスケしてたから俺も後を追うんだ。」
「ほう、すごいな。ここのバスケ部は強いと聞くが…。」
「まあな、だからこそやってやんよ!一応スポ少でもエースだったからな。実力はともあれ切磋琢磨する環境が好きだからさ早く練習に参加したいんだよなぁ。」
活き活きした様子の顔はまるで希望に満ち溢れていた。夢中になれることがあって、司は少し羨ましく思う。好きなことを、無我夢中で堪能できることに。
自分だってショーが好きだ。演劇部に入部すればいいのにその一歩が踏み出せない。でもこのままもだめだ。
(だめだ、このままだと。)
だってどうせこの姿のままあいつらに会っても何も出来るわけないし、昔みたいにショーが出来るわけない。もう3人は、類はオレよりも先に前を向いて歩いているんだ。…転生して、記憶があって同じ顔で名を持っているからといってまた4人でワンダーランズショウタイムの時とおなじ活動なんて不可能に近いのだから。
…いつまでも、未練タラタラにしてるのは、だめなんだ。
「…お!司、演劇部にするのか。」
「ああ、…実はミュージカル映画とか好きでな。この部活にやっぱりしようと思う。」
司は決意した。
この2回目の人生は「スターにならない」ということを。趣味程度にショーに携わって生きていくということを。そして、みんなを影で応援するだけでも、幸せなのだからファンのひとりとして見守るということを。
スターになろうと思ったきっかけはほとんどは咲希の存在。そしてきっかけを大きくしたのはあのワンダーステージだ。今はその2つとも無い。第2の人生は、きっと爆発とか、そういった波乱万丈なこともないまま終える生涯になるだろう。
スターになることも、類と一緒に進む人生も、叶えられるのなら叶えたい。
でもきっとそれは夢物語。
*
「…司くん、僕のことどう思っている?」
「うん?突然どうしたんだ、類。」
手元にある台本を読み返しながら頭の上から聞こえるその質問に返答する。どう思っているとは。印象のことか、それとも最近学校で爆発したあの実験やらというものの感想か。なんの事に対するその質問かわからずにいた司を察したのか類は「僕のこと、どう思っている?」とゆっくりそう言ってきた。
「…類のこと?」
きょとん、と台本から目を離して類を見返すといつもの様に優しい柔らかい表情はなく、どこか緊張したような様子でこちらを見ていた。周りからは賑やかな笑い声が聞こえてくる。今、セカイにいる司と類はえむと寧々を待ちながら次やる公演の台本よ読み合わせをしていたところだった。賑やかな笑い声はどうやら少し離れたところでぬいぐるみ達とミクが遊んでいるらしい。
「そう、僕のこと。」
「類のことか…。それはやっぱりショーをする大事な仲間だな。」
「うんそれで?」
「それで…?あとは、なんだ。野菜が食べられない長身野郎とかか?」
野菜食べないくせに180もあるなんて羨ましい。なんど妬んだ事か。
だけどまあ、類は野菜は食べられないしよく爆発はするし学校巻き込むような事を平気でやる男だがなんだかんだ根は優しいとは思う。えむのときも、寧々のことも、あいつは大人相手だろうとなんだろうと仲間の為を思って前に出た。オレのこともよく見ていた。類は本当に優しいと思う。
「野菜食べられない長身野郎って…悪口かい。」
「本当のことだろう。あとは優しいな、お前は。よく周りを見ている。」
「ふぅん、そう…。」
「って、なんだその反応は!お前、質問しておいて不貞腐れたような顔をするな!」
「こんなにも僕たちの座長はあんぽんたんだなんて知らなくてね。今頭を抱えていたところさ。」
「なっ?!あんぽんたんー?!?!おい、オレを今あんぽんたんと言ったな?!」
「ああ、そうだとも。だってこんなにも僕分かりやすくアピールしているのに君は何にも気づいてないんだね。」
「アピール?なんのアピールだ、それは。」
そう言い返すと、ますますムッとした顔をする類がいた。そして少し顔を歪ませて、ボソボソと小さな声でしどろもどろにこう言った。
「……君の、気を引こうとしていたんだけど。」
今思えばあの頃、類からよく連絡がきていた。おはようからおやすみまで。それに時間が合えば電話もしていたし学校では昼休みほとんど一緒に共にしていた。休みの日は2人で映画とか水族館とかにも誘われて行ったっけ。
ああ、お互いの部屋にも行ったな。類の部屋はガレージを改造したようなおもちゃ箱の部屋で初めて来た時、すごく興奮したのを思い出す。天井にはぷかぷか浮かぶカラフルな風船から動き出しそうなロボットたちが沢山いて、夢あるものばかり詰め込まれた部屋だった。興味津々に見ていると、恥ずかしかったのか頬を赤らめて「なんか、そんなに見られると照れちゃうな。」とそう言った類が可愛くて。
一緒に語り合ったあの夜は楽しくて色んな類の話も聞けて。
すごく楽しかったのを覚えている。
友達という関係から少しずつオレたちは深い関係になりつつあった時、セカイでそう言われたオレは確かそれから類のことを意識しだしたんだー……。
*
「次は理科室か、」
机の中から理科の教科書を取り出して脇に抱える。4時間目が実験だと空腹も紛らわすことが出来るから嬉しいばかりでくぅくぅとお腹を鳴らしながら廊下に出た。
今週からいよいよ仮入部の期間に突入し、今日の放課後早速司は演劇部の部室へ足を運ぶことになった。幸い、同じクラスに1人男の子で演劇部に入る奴もいるので1人じゃないから心強い。クラスメイトとはほとんど話すことも出来ていて、難なく学校生活も慣れてきた感じもする。まあ、話しているとジェネレーションギャップを感じることもしばしばあるけども…。
ピカピカの内履きを履きながら急いで理科室へ行くともう先生が実験の準備をしていた。どうやら今日は食塩についての濃度の実験をするらしい。よく高校受験に出た範囲だから念入りに聞かないと、そう強く誓いながら指定された席に座る。
「あ、天馬くんだ。今日実験のペアよろしくね〜」
「おお、よろしくな!」
理科の授業は基本毎回ペアの人は入れ替わる。こないだまでは山下だったが今日は初めての同じクラスの女子だ。確か…篠山と言った名前だった気がする。ふわふわとした茶色の髪の毛とおっとりとした言動から密かに男子からの人気者の女子だ。
(えむとは正反対だな。)
強いて言えば望月のような雰囲気そっくりな彼女。いつもはちゃけて目まぐるしく動くえむを思い出して司はくすりと小さく笑った。
微かに窓からは木々のぬくもりを感じる空気が入り込む。司のいる中学は、かつて昔通っていた神山高校とは違い田舎の中に位置する小さな中学校だった。窓を見れば田んぼばかりで夜は街灯も少ない道路ばかり。ほとんどの生徒はヘルメットを装着して自転車で通うヘリ中だ。よくクラスの女子たちは都会に夢を見る。あのファッションブランドがどうのこうの、モデルの◯◯おすすめのコスメがどうのこうの…。そうか、今いるこの地域はそういった流行りの物を買うのですら簡単ではないのか。
じゃあ練習帰りにたい焼き屋に行ったりしてたのは都会だからか?
そうふと、思い、気になった。
「なあ、篠山ちょっと聞きたい事があるんだが。」
「うん?なぁに?」
「ここら辺にたい焼き屋さんってあるか?」
「たい焼き屋さん?えぇと…。」
ハッと司は自分が今たい焼き屋について質問した事を後悔した。授業中、みんなせっせと板書しているのに何故今自分はたい焼き屋なんて気になっているんだ…!!
「うーん、たこ焼き屋さんならあるらしいけど…。天馬くん、たい焼き好きなの?」
「あ…そうか。いや、好きというか……たい焼き、好きなやつがいたから…。」
そう言うと篠山は、「たい焼き美味しいよねぇ」と笑った。ちなみに篠山はたい焼きを食べる時は半分にして食べるらしい。…類と同じ食べ方をするようで、ちょっと司は懐かしながらも嬉しく思った。
「おい、司!!」
「うぉっ?!?!」
給食の配膳を終え、4人くっつけた班で頂きますをしようとした時荒らげた声で名前を呼ばれて持っていた給食着が手から落ちそうになった。向かいにいる山下が眉間に皺を寄せながらキッ、と睨んでいてそれを見て思わず首を傾げる。
「なんだ…?そんな怒って、」
「なんだじゃない、お前理科の時我らアイドル篠山さんとコソコソ話して笑っていただろ!」
「あぁ……。」
そうだ、山下は篠山の事気になっているという噂が流れていたんだった。今の会話を聞くあたり、噂は本当のようだな。どうやら理科の授業の時、たい焼きの話をしていた司たちを偶然にも目撃していたらしい。
あー、めんどくさいことになったな。
「まあ、話していたというか気になったことがあったから聞いたんだ。別にそれ以外何もないぞ。」
「にしては仲良さげに笑っていたじゃねえか。」
「そりゃ面白かったら笑うだろう。なんだ、お前嫉妬しているのか?」
「しっ…?!嫉妬、嫉妬なんてしてねぇよ!!!」
ダンッ、と顔を真っ赤にした山下がそう言って席を立った。大きな音を上げたせいか、周りは一瞬にして静かになり、みんな山下の方を注目している。
「や、山下…落ち着け。とりあえず席に座ろう。」
そう言って促すと周りはまたいつもどうりぺちゃくちゃおしゃべりをしながら給食を食べ始めた。同じ班の2人も怪訝そうな顔をしてこちらを見ている。ましてや先生も静かに山下を見ていた。
「とにかく、オレは別に何とも思ってないし大丈夫だから。」
「……大丈夫って何がだよ。」
渋々と冷静になりつつ、まだムスッとしている山下にそう言うと突っかかるように跳ね返される。あー、山下は確か篠山と同じ小学校卒業だったのを今思い出した。長年の片思いっていうやつが、ここまで拗れるとは。
とにかく自分は篠山に対してそんな気は無いと伝えても全く信頼してくれなかったので司はため息混じりに山下にそう放つ。
「お前が篠山のこと好きなのはわかっているから、オレは応援するぞ。」
「〜〜ッなんで、お前がそれ知ってんだよ!!!!」
またもや山下がそう盛大に叫んで、ついに先生が怒鳴った。
やってしまった、本人はきっと自分の噂が流れていることに気づいていなかったなんて。
隣の席だから仲良くしたかったのだが、もう1ヶ月もたたないうちに心が折れそうになる司は味のしないコーンスープを飲み干した。廊下では山下が先生に呼び出されて怒られている。それを横目で見つつ今はただ精一杯知らん顔をして過ごすだけだった。
はぁ、とにかく変に疲れたな。
そう心の中で呟きながらいると一日の終わりを告げるホームルームを迎えた。
いよいよ今から部活動の時間。司は少しワクワクした気持ちと、変に緊張しながら演劇部に仮入部の紙を渡す予定だった。本当はショーをした最後の記憶をワンダーランズショウタイムで終わるつもりだったけど、このままじゃ司自身何も変わることが出来ない。だからこそ、もう一度ショーに対して新しい記憶を残そうとする意味も込めて、仮入部しようと決意したのだ。
また、あの仲間でショーをするのは不可能だからな。
演劇部の部室は空き教室を借りた広いところだった。部長副部長を含め総員10名で活動しているそうで、今回仮入部したのは司ともう1人同じクラスの男だけだった。
部長の女子の先輩はそれはもう喜んで握手を求められ、同じく副部長、そして2年の先輩たちからは仮入部なのにも関わらず優しく温かく迎えられ、部活の雰囲気もとても良かった。そして演劇部の顧問は嬉しいことに司の担任の先生で、演劇部に本入部しない理由が無くなった。
もちろん、それはもう1人の男も同じように思っていたようだ。
仮入部といっても本格的な部活をするわけでもなく、その日の部活はみんなで和気あいあいと話をして終わった。仲良くお互いの面白い話や、おすすめのミュージカル映画の話などをしているとあっという間に下校時間になりそのまま解散という形で終了した。約15分くらい自転車を漕いで、無事家に帰ると玄関からは美味しそうな料理の匂いが漂ってきた。キッチンから顔を見せる母は、今日司にとっての初めての部活だという記念を込めてアクアパッツァを作ったらしい。なんとも、大きな愛だ。
好物のアクアパッツァをペロリと平らげ、片付けを終えた司はゆっくりとリビングのソファに腰をかけてテレビを見ているといきなり父親と母親から呼ばれた。
「司、はいこれ。」
「…これ、スマホ?」
「ああ。これから司は部活とかで帰りが遅くなるだろう?身の安全も考えてお前にはスマホを持たせようと思ってな。雨の日とか迎えが必要だったらお母さんやお父さんに連絡しなさい。」
「基本お母さんが迎えに行くから、貴方はゆっくりと仕事してもらってかまわないからね。」
「なっ!俺だって司の為なら仕事放り投げて帰るからな…?!」
「ふふ、それは困るので止めて貴方。」
こほん、と取り乱した会話を釘つけるように1つ咳をした父親が司を見た。
「いいか、SNSの使い方には注意しなさい。何か書き込みをしたり、アカウントを作るのはいいが人を傷つけるような事はするな。それをしたら即取り上げるからな。」
「そうよ、司の安全をもってスマホを買ったんだからね。決して使い方は間違ってはいけませんよ。」
「ああ、わかった。ありがとう、父さん母さん!」
「うむ、いい返事だ。よーし、じゃあ早速司、父さんとメールをしてみようかー!」
「あらやだ!まず家族グループを作るんでしょ!母さんも混ぜて混ぜて!」
3人でスマホを持って、家族グループをつくり、メールを送り合う。高校の時とはさほど使い方が変わらないスマホだったから、タイピングとかも慣れていたため早く文字を打つ司を見て父親と母親はすごく驚いていた。今まで別にスマホ無くても生きていけた司だったが、やっぱりスマホがあると色々便利だからとてつもなく嬉しかった。
だって今までミュージカル映画を見るにもTSU◯YAとかに行ってわざわざ借りていたんだぞ。高校生の時の自分だったらアプリとかで会員登録して見ていたからその手間も省ける。
そう思うと嬉しかったが、ひとつ、ホームを見て寂しく思うこともある。
"セカイはまだ始まってすらいない"
セカイに行くための、手段が無かったから。
*
「む、このアプリなんだ…?」
見慣れない、アプリがあることに気づいた司はそう独り言を言う。すると隣でカチャカチャとロボットを弄っていた類が顔を上げて「どうしたの?」と言って司のスマホのホーム画面を覗き込んだ。
「このアプリだ。今気づいたんだが、入れた覚えがない。」
ここは類の部屋。
久しぶりにショーの練習もなく、互いに休日である日を一緒に過ごそうという事で今こうしている。いつ来ても相変わらずごちゃついたこの部屋は、前までの司なら小言を言って掃除をしていたが何度しても無駄だと気づいたのでもう放置状態。というか恋人が来るんだからせめて少しは掃除してもらいたいが、それでも類のことは嫌いになれないので惚れた弱みなのだろう。
カラフルな可愛らしい風船のアプリは、いつの間にか入っていた。そう類に言うと「ああ、それ僕のせいだね。」とあたかも挨拶をするかのようにサラッと公言した。
「は?なんだ、どういう事だ?!」
「うん。だからそのアプリは僕が作ったお手製のアプリさ。昨日インストールしたことを司くんに言うの忘れていたみたいだね。」
「いやいやいや、まてまてまて?!どういう事だ、なんでお前が勝手にオレのスマホを操作してアプリを入れたんだ?!いや、その前にこのアプリはなんだ?!」
「ふふ、元気だね。」
「元気だね、じゃなーーい!!!!!」
ロボットを机の上に置いた類は代わりにスマホを持ってきてロック画面を開いた。するとそのホームには、司が言っていたのと同じ、カラフルな風船のアプリがあった。
「これ、僕が作った司くんと共有するアプリだよ。」
「きょ、共有…?なにを一体共有するんだ?」
「ふふ、例えばメモとか。日記とかかな。」
「おお…。カップルアプリみたいだな。」
「あとは…司くんの現在の位置情報とか、検索した履歴とか、使用したアプリとかその他諸々さ。」
「おい、それもうストーカーだろ?!」
「ふふ、もちろん司くんも僕の情報とか見れるからそこは心配いらないよ。」
「そういうことじゃないっ!位置情報はともかく、検索した履歴とかは流石にプライバシーの問題があるだろう?!」
いや、位置情報も本当は良くないが!
抗議をすると途端、類の表情は暗くなる。しまった、このアプリを作った類の努力を否定してしまった。そういえばここ最近、徹夜続きで寝不足だった類。きっとこのアプリを作るために自己犠牲していたのだ。そんな類の努力を知らずに、否定してしまった事に少し罪悪感を感じる。…いや、だけどこれは流石にダメだろ。検索した履歴は流石にプライバシーのひとつも無い。危ない、騙されるところだった。そう思いながら司は罪悪感を抱きながら抗議をしようとするとポツリと類の口から言葉が漏れる。
「…悩んだら、きっと君は人に悩みを話さずにネットを参考に自己解決しようとするだろう?」
「え?」
「すこしでも好きな人の笑顔を消したくないから、検索した履歴を見れば、司くんの悩みとかを真っ先に解決できるかなと思ってね。」
「類…」
「大事なこと…君はそれこそ人に言わないから。だから作ったんだけど確かにプライバシーの問題もあるし、このアプリは消すよ。」
「えっ、消す…?」
「うん。だって入れてても意味ないだろう?」
「だが…お前、こないだまで徹夜続きでふらふらだっただろ。そこまでして作ったのに消すなんて…。」
そう言うと類は「僕が勝手にした事だから。」と寂しそうに笑う。そして手を伸ばして司のスマホを取り上げようとした時、司は反射でその手を掴んだ。
「?司くん?」
「うっ……いや、お前が、その、オレの為を思って作ってくれたアプリだ…。そんな、確かにプライバシーとか色々あるが…それもオレを思ってつけた機能だろ?なら、別に…使ってやらん事もない。」
「え、」
「なんだ、その、オレも類のこと好きだから。だから別にこのくらいー……「本当かい?!司くん!」……は?」
「やった、本当にこのアプリ使ってくれるんだね!いやぁ、良かったよ!確かに作る時すごく時間かかったし寝不足だったから苦労はしたけどね。でも正確な情報を互いに共有できるから心配いらないよ。」
「おい…類……」
「ふふ、これで司くんの位置情報も知れるからお互い会いやすくなったし、なんなら探しやすくもなったね。ああ、メモは何かあった時だけじゃなくてその日その日の出来事をお互いに書いていこうね。電話でもいいんだけど、やっぱり形に残る方がいいだろう?」
「……類、」
「ああ、だとしたら日記機能も付けるべきだったな。それにボイスメッセージとかも必要かも。もっとアップデートするのも今後において必要かもしれないね。ね、司くんは他にどんな機能が欲しい?」
「ふっ…ふっ、ふざけるなぁあああ!!!こんの、馬鹿類!!!」
機能追加できるなら、機能を消すことも出来るのに嵌めやがって!!
手元近くにあったクッションを力いっぱい投げつけてやってそのまま帰宅した司はその日1日類からのメールを無視した。
このくらい、反省しろ馬鹿者め。
だけどそれでも類への愛は消えることなく、次の日、反省している類を見て許してしまうのが司であった。
あのアプリ、実を言うと司もちょくちょく使って類のことを監視していた。
だって電話したい時、家にいなかったら申し訳ないからな。
今思えばあのアプリを使っていたのは類よりも司のほうが多かったかもしれない。そのくらい、司は類のことが好きだった。
それは、きっと今もー……。
*
手に持っていたシャーペンを置く。復習も課題もバッチリ終えた司は部屋についてある時計を見て、お風呂に入ろうと椅子から立ち上がった。仮入部の週間も終わり、本入部として入った演劇部は司にとってとても居心地の良い場所だった。程よくみんな演劇について関心していて、真面目。だけど中学生らしく和気あいあいとする時間がとても良い。同じクラスの男の子とも仲良くなってきて、スマホでよくやり取りをする相手になっていた。
隣の席の山下は、あの昼休み事件から気まずくなるかと思いきや、そんなことは無く。廊下でこっぴどく先生から怒られた次の日には「昨日はごめん。…篠山さんのこと、色々今度相談してもいいか。」と言われたので今や良き相談役となっている。もちろんメールのやり取りもしているぞ。
勉強も部活も友達もなんなく上手くいっている司は毎日が平和で気楽だった。
今度体育で持久走をやる、とそんな噂があるらしくそれだけは少し憂鬱だけど。とにかく、上手くいっているとはおもう。
でもやっぱり頭の片隅には類がいた。同じ学校の可愛い子とか、今流行りのモデルさんとかを見てもピンとこなくて、青春というものはからっきし出来てなかったのだ。思春期男子なのに。
(はぁ…。忘れようにも、忘れられないなぁ。)
あいつはきっと、自分をおいてもう他の誰かと付き合っているだろうし、もしかしたら結婚しているかもしれないのに。
だけど中々司の脳はそう認知してくれない。せめて今の類の事実をどうか知れたら吹っ切れるかもしれない。どうにかして知れたら…知れたら……いや、待てよ、
「スマホで検索すればいいんだ!!」
ザバアッ、と勢いよく風呂から立ち上がって思わず叫ぶ。そうだ、そうだ!スマホを貰ったんだからあいつの名前を検索すればきっと演出家としての成績やら記事やらを見ることが出来る!
そしたら、そしたらもう類のことは忘れることが…出来るかもしれない。
「…諦めたくないけど、でも、もう…!」
そうするしか、ないのだ。
と、そんなことを言ったのにも関わらず。
あれから数日が経つ。司はスマホで神代類の、か、ですら検索することが出来ずにいた。我ながら決意が弱い。そう失笑しかける。気になるし、受け止めなければいけない現実を避けてはいけないのはわかるけど、でもやっぱり怖い。だってもし類の奥さんの顔写真とか出たらどうする?!失恋だぞ、こっちは!そんなことを想像しただけで涙が出そうになった。
もう少しきちんと現実が固まったら、類のこと、そして寧々やえむ。フェニラン、彰人や冬弥の活動とかを調べてみよう。アイツらのことも、大事だから。あと、レオニードというバンドも。CDとか発売していたら買わないと。ファンクラブも…入れたら、入りたい。
意思は固まらずに日々は過ぎていく。そして今日は土曜日。司は今日、久しぶりにとある場所へ来ていた。
「天馬くん、こっち!」
「ああ、待たせたな!!」
「ううん、大丈夫だよ。俺のわがままだし、まだ開演時間にも余裕あるしね。」
「そんな事ないぞ、オレもこの舞台、見てみたかったから誘ってくれて嬉しかった!パンフレットも買いたいし、早速だがもう中へ行くか?」
「うん。そうしよう!俺もパンフレット買う!」
来た場所は…劇場だった。
同じクラスの演劇部の男、山崎がこないだチケットをくれたのだ。気になる舞台があって、ちょうど2枚手に入ったから一緒にどう?というそんな魅力的なお誘い。久しぶりに生の舞台が見れること、そして友達から誘ってくれたことに嬉しく思った司は即頷いて誘いを受け入れた。
山崎が見たい、と言っていたミュージカルはどうやら恋愛物語のようだった。詳しく調べたらネタバレになるのでそれしか情報がない司だが、かの有名なミュージカル俳優さん達が勢揃いな今作品、楽しみが止まらないわけがない。
劇場の中に入り、早速パンフレットを買った司たちはそのまま指定された会場へ向かった。開演時間まで10分くらい残っていたので先にトイレを済ませて、そしてようやく座席に座る。休日、そして有名な俳優さんがいるおかげか周りには沢山の人がいた。ざわざわと会話が飛び交う中、司は隣に座る山崎と一緒にパンフレットを見ながら楽しみだなと話す。
「山崎はなんで演劇が好きなんだ?」
司と同じくらい演劇に知識があった山崎は普段クラスでは大人しい人物だった。騒がしいと言えば山下で、あいつと一緒にいる司はよく目立つ。その正反対が、山崎だった。
口数は少ないけど演劇の話になるとまるで人が変わったかと思えるくらい喋る。まるで我が歌姫の寧々みたいだな、と最初はそう思った。
「俺?俺は昔見たショーで演劇が好きになったんだ。」
「ほう、なんかの作品か?」
「いや、ゲリラパフォーマンスだよ。よく道端でやってるやつ、あれをたまたま見かけてねそれから演劇が好きになったんだ。」
ゲリラパフォーマンスとか、懐かしい響きだ。よく類が道端でしていたなぁ。
「その人のバルーンアートとか、物語を語る時の声とかが素敵で周りにいる人みんなを虜にしていたんだ。俺…あまり人と話すの得意じゃないから、すごく魅力的に思ってさ。こんな風になりたいなぁ、って思ったのがきっかけ。」
「そうなんだな…すごくいい出会いをしたじゃないか!」
「うん、今やその人は有名な演出家になったからね。貴重な出会いだよ。」
そう山崎が言った途端、会場がだんだん静かになった。開演時間まで残り1分くらいでみんなは一斉に前のステージへ目を向けている。広げていたパンフレットをしまって、司は足元に置いてあったカバンに丁寧に入れた。そしてスマホも電源を切ったのを確認して、ステージの方を見ようとした。
その時だった。
バチン、と視線を感じ目を向けた。
そしてこちらを見ていた、2つの金色の瞳を見つけてしまった。
自分よりも少し前の席に座って、酷く恐ろしい顔をして驚いた様子でこちらを見ていた男がいたのだ。
司も目が合う。
いや、合ってしまった、のだ。
"あいつ"と……
「…………る、い」
高校の時より少し長くなった髪の毛は括っていて、相変わらずダボッとした服を着ている。でもそれすら様になっていて、顔はやっぱり整っていた。
ー…神代類が、いた。
目が合って、思わず類の名前を呼んだ瞬間、空気を読んだのか会場は真っ暗になった。
もう前に座っていた類は見えない。見えるのはステージに立ってスポットライトを浴びている人だけだった。安心からか、ハカハカと息が少し苦しくなった。そしてバクバクとした心臓は落ち着かない。だんだんと手には変な汗が滲む一方だ。
だって、だって、この空間には類がいるんだ。
会いたくて、たまらなかった。
でも会ってはいけない、人物……類と会ってしまった。
自分の手を見た。
まだ、子供らしく小さな手。類はきっと同じ顔をした中学生のオレを見て驚いたのだろう。でもきっとドッペルゲンガーだとしか思わない。だってオレは中学生で子供だから。同じ時を過ごして29歳の類とは違い、13歳の天馬司なのだから。
目の前ではセリフが飛び交っていた。もう既に物語は始まっている。そひて隣に座っている山崎はキラキラした様子で楽しそうにステージを見ていた。
司もゆっくりとステージを見た。
ああ、どうしような
楽しみにしていたこのミュージカル舞台、
何一つ頭に入らないじゃないか。
頭の中はもう、ぐるぐるだ。
本当に好きです!!続きを楽しみにしてます!!