君とデタラメなワルツを踊りたい。
他に想い人がいる類への想いを自覚した司が、「食べると想い人の好意を自分に向けさせることができる魔法の金平糖」で、類と恋人になる話です。
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「ごめん、好きな人がいるんだ」
昼休みの屋上。今日は快晴、そして昼休みの屋上とあれば、そこは告白に最適な場所だろう。そんな場所で、我がワンダーランズ×ショウタイムの演出家、神代類は女子生徒に告白されていた。
類はモテることは知っていたが、まさかその現場に居合わせてしまうとは。今日は類とランチと共にショーの構想を練る約束をしていたのだ。なので、決して盗み聞きをしようといていたわけではない。
そうか、類は、好きな人がいるのか。
今まで全く知らなかった事実がなぜか胸に刺さる。ちくちくと針に刺されるように、僅かながらも取れない痛みを不思議に思っていると、屋上の出入り口から女生徒が出てくる。おそらく先ほど類に告白をした生徒だろう。駆け足で階段を降りるその横顔は、たなびく髪が邪魔して見られなかった。
「おや、司くん、来ていたのかい」
ぼーっと駆けて行った後ろ姿を眺めていると、聞き覚えのある声が聞こえる。類は慣れているからか、告白をされた後だというのに、常時と何も様子が変わらず、落ち着いている。
「ああ。今来たところだ」
「そっか。……聞いてたよね?」
「何を」なんて、聞かなくてもわかる。少し困ったように眉を八の字にして笑う類を見て、やはりバレていたと悟る。
「すまん、聞く気はなかったんだが」
「いやいや。司くんと約束していた方が先だったし。今回の告白はイレギュラーだから、仕方がないよ。それに、さすがの僕も司くんが盗み聞きするような人だとは思っていないよ」
手を広げ、「やれやれ」とでもいうように告げる類。その姿には先ほど冷静に告白を断っていた様子とは別人のようだ。
「類って……好きな人がいたんだな」
「え?」
頭の中にずっと浮かんでいた、あの言葉がぽろっと口からこぼれ出る。類も、流石にこの話題に深く触れてくると思わなかったのか、目を大きく見開いている。
「いや……、類に好きな人がいるという印象がなくてな……。意外だったんだ」
「そうかい? まあ、僕だって、恋の一つくらいするさ」
否定しない。どうやら、「好きな人がいる」というのは、断るための口実のためについた嘘ではないようだ。またつきり、と胸が痛む。
「……まあ、オレは応援するぞ! なんせ、仲間の恋だからな! 幸せになってほしいに決まっている!」
「……応援、ね」
それまでの落ち着いた印象から一変、類は急に真顔になる。どうしたのだろう? ……なんだか雰囲気もあって、怒っている、というか機嫌が悪そうだ。
「類? どうした?」
「別に、何も。僕が誰を好きになろうと、司くんには関係ないからね。さあ、お昼を食べようじゃないか」
話題を無理やり変えて、オレの方を向かずいつもの定位置であるフェンスを目指して類は歩き出す。
「関係ない」か……。確かに、仲間とはいえ、人の恋路に口を挟むものではないのかもしれない。でも、いつもの類なら「応援してくれてありがとう」くらい言いそうなのに、明確に拒絶された。
……オレとは関係ない、誰かを好きになったのだろうか。そう思い、また胸が痛む。ランチを食べながら類とショーの話をしている間も、その痛みは消えることはなかった。
――――――
今日も今日とて全力でショーに取り組み、くたくたになって自宅に帰る。たらふく夕飯を食べ、風呂にゆっくり浸かり、少しショーの脚本を練り、今日一日に充実感を感じながら気持ち良く眠りにつく。
「眠れん……」
しかし、今日はそうはいかないらしい。目が冴えて全く眠れない。頭の中にはずっと同じことがぐるぐると回っている。
オレは、昼休みに知った「類の好きな人」が頭からずっと離れなかった。あのショーバカの類が好きな人、名前も知らないその人の存在に、オレは今日ずっと振り回されている。
流石にショーをしている時は気持ちを切り替えられたが、それ以外の時はダメだ。帰り道も、夕食も、風呂も、全部そのことばかり考えてしまう。
眠れないと悩んでいても、時は進む。明日も学校もショーもある。日付はとうに超えているのに眠れないようでは、明日のパフォーマンスにも影響が出る。なんとか眠らなくては。
うんうん唸っていると、ふと枕元に置かれたスマホが目に入る。……そうだ。セカイなら、気分転換ができるかもしれない。あそこなら多少音を出しても迷惑ではないし、散歩でもすれば疲れて眠れるかもしれない。藁にもすがる思いでオレはスマホに手を伸ばし、いつもの軽快な音楽を流した。
「おや、どうしたんだい、司くん?こんな遅い時間に」
夜になっても音楽は控えめだがキラキラとライトアップされたアトラクションが目立つ現実離れした空間に、青い髪の青年、カイトがいた。
「いや、眠れなくてな。少しセカイで気分転換でもしようかと。……カイトはどうしたんだ?」
「僕も似たようなものだよ。なんだかお散歩したくなってしまってね。司くんももし良ければ一緒にお散歩しないかい?」
「ああ!いいな」
カイトに連れ立って歩き出す。いつも賑やかな草花やぬいぐるみも、今はすやすやと眠っているのか、昼間とは違いとても静かだ。なんだか、いつも知っている場所の秘密を知るようで、少しドキドキする。
「なんだか、いいな。たまには夜にここにくるのも」
「うん。僕も好きなんだ。ここは星も綺麗だし、心が洗われる気がする」
「星?……おお!すごいな!」
カイトに言われ上を向くと、キラキラとまるでカラフルなビーズを散りばめたように色とりどりの星が紺色の空に広がる。普通はないようなピンク、緑などの星もあって、いつまでも眺めていられそうだ。
「みんなこの空を見て好き勝手星座を作るのが好きなんだ。ミクなんか以前あの星とあの星を繋いで、『ドーナツ座』とか言っていたな」
「おお……。えむらへんもそういうこと好きそうだよな」
いつもとは違う静かな遊園地に、彩どりの星空。まるで物語の中にいるようだ。じっと星空を見つめていると、カイトがふっと笑う。
「よかった。司くん、少し元気が出たみたいで」
「え?」
「司くんが、眠れずにここに来るなんて、今までなかったからね。何かあったんじゃないかと思ってね」
どうやらカイトには気づかれていたらしい。ここで何があったのか追及してこないのは、きっと「その理由をオレがカイトに伝えたくないと思っているかもしれない」と気づいているからだろう。その気遣いを感じて、オレはほっと安心する。
同時に、カイトには話してもいいかもしれないと思い始めた。正直今のオレは八方塞がりだ。今後、この頭のつっかえをどのように解消すればいいかわからない。でも、カイトなら、オレたちの問題にいつも真摯に向き合ってくれたカイトだからこそ、話してもいいんじゃないかと思えてくる。
「……今日、類が告白されているところを見たんだ」
「類くんが?」
「ああ。あいつがまあ、異性に好かれやすいというのは元々知っていたが、実際にそういう場面を目にするのは初めてだったんだ」
「……司くんは、それを見てショックを受けたと?」
「いや、正確には違う。類はその告白を断ったんだが、その断り文句が『好きな人がいる』だったことに、戸惑いを感じているんだ」
カイトに話しながらすとん、と胸に何かが落ちた。そうだ、オレは、「類に好きな人がいる」ということに、ずっと悩まされている。
「……どうして、類くんに好きな人がいると、司くんがショックを受けるんだい?」
「どうして……」
カイトに質問され、改めて胸につっかえていたものに向き合う。なぜ、「類に好きな人がいる」ということに、ショックを受けるのか。
「知らなかったことが友人として信頼されていないように感じたから」?……これは違う。オレは類以外の友人に対して、何でもかんでも知りたいとは思わない。現に、友人に実は恋人がいたと知らされても、「へえ、そうだったのか」でいつも終わってしまう。それに対して、「先に恋人ができて羨ましい」とも別に思わない。むしろ、めでたいことなので、心の底から応援したくなる。
じゃあ、類はなぜ「応援したい」と口では言っておきながら、こんなにもやもやしているのか。
その答えを探るために、もし類がその好きな人と結ばれ、恋人同士になった時を想像してみる。
学校も同じの生徒であれば、昼休みや放課後も共に過ごすことになるだろう。一緒にランチをして、帰宅をする。オレたちのショーを見に来ることもあるのかもしれない。類は礼儀正しいところもあるから、ショーを見に来た恋人を、オレたちに紹介するだろう。
『この人が、僕の恋人なんだ』
ぐさり。なぜだか背中に包丁を刺されたような強い痛みを感じる。
恋人と一緒に過ごすようになったら、オレとともに過ごしていた時間は減る。あーだこーだ言いながら話し合っていたランチの時間も、翌日のショーに胸を膨らませて歩く帰り道も、多分、一緒にはいられない。それは、なんだかいやだ。
恋人となると、オレがこれまで類と一緒にしてきたこと以上のことをすることになるだろう。手をつないでデートをして、二人きりになり、キスをして……
いいなぁ……
ふと感じた感情に、はっと驚く。今、オレは、類の恋人になることをうらやましがった?
恋人という特別な存在になりたい。そんな感情に振り回される主人公を、ショーの中で何度も見た。その感情をオレが同じように抱いているということは……。
「そうか……。司くんは」
気持ちに気付きかけ黙ったオレを察して、カイトがオレの気持ちを代弁しようとする。やめてくれ、言わないでくれ。まだ、気付かなかった振りができる。しかし、その審判は残酷にも告げられる。
「類くんのことが、好きなんだね」
その気づきは、地獄の始まりだった。