君の世界と四囲の愛
司くんを取り巻く世界はひどく優しくできている、という話
四囲……四方から取り囲むこと、まわり
ATTENTION
*たくさんの害のないモブが出ます
*ポプマイまでのネタバレをこの上なく薄く含みます
イベストを読み、こんなにも優しい世界〜!!!ってなると同時に、その優しい世界は司くんがそも優しいから成り立つのよなとしみじみしたので書きました。
基本優しい世界であるぷせの中でも特に優しい人しかいないのは、そういうことなのではないかなという強めの幻覚を詰め込んでいます。
いつもいいね、タグ、コメントなどなど本当にありがとうございます。ひたすら励みにしております!
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ATTENTION
*たくさんの害のないモブが出ます
*ポプマイまでのネタバレを大変薄く含みます
司くんの隣にいると、心地よい。
それは隣に立つようになってしばらくしてから気付いたことだったが、はじめはその理由がよく分からなかった。同じものを志す仲間だからか、それともそれ以外か。元々自分の交友関係が狭かったこともあり、そのなんとも「心地よい」彼の隣を上手く言い表すことはできなかったのだけれど。
「類」
楽しげにこちらを呼ぶ声に、思わず笑みを返す。
今となって、ようやく彼の隣が心地よい意味を理解することができ始めた。
それは、彼も、彼を取り巻く世界も。全てが優しく、温かだからだ。
単純なことに思えて、実はとんでもなく難しい。だけれど、夜空を照らす光のような存在はきっと、困難など感じずに成し遂げているのだろう。無意識に、ただ、彼がそうある事で。彼の世界はまろやかに、美しく形作られるのだ。
そう、それが分かる話があった。あれは確か、少し前────
【case1 クラスメイト】
「ヤバい!このノート後で提出するんだった!」
「なにぃ!?というかそんなノートにオレのサインを書かせるんじゃない!」
放課後、2-Aの教室にて。
本日はこの後演出用の小道具と、次のショーの衣装に使える何かがないか買い物に行って探す予定だった。ので、授業が終わり一息ついたところで隣のクラスへと司くんを迎えに来たところだったのだが、どうやら何か取り込み中のようだ。
別に急ぎの用事でもないし、ここは声をかけるべきなのだろうか。……ただ、せっかくクラスメイトと楽しそうにしているのだし、自分が割り入るのも無粋だろう。メッセージでもいれておけば先に買い物に行っていても問題ないだろうし、司くんが用事が終わった後で合流するか。と思ったところで後ろから何者かに肩を叩かれた。
「神代!ちょうどよかった!」
「……ん?」
「天馬ー!!!神代も来たぞー!!!」
「おー!類!ちょっと入ってきてくれ!!!」
おそらく、司くんのクラスメイト、だと思う。何度か会話を交わしたことがある(主に司くんを呼んでもらったぐらいの関係のはず)が、これまでにこんなに親しげにされたことはなかった。予想外のことに目を白黒させていると、何かを言う前に声をかけられてこちらに気付いた司くんに満面の笑みで手を振られる。
……ここまで歓迎されて、さすがに先に帰ることは出来ない。
おそるおそる隣のクラスへと足を踏み入れれば、周りの生徒たちも特に闖入者を気にすることなく、逆におつかれ〜なんて言いながらあっさりと受け入れられる。ようやく司くんの近くまでたどり着くと、もっとこっちへ来いと手招きされてしまった。
そこにも、顔だけは見覚えがある司くんのクラスメイトが1人。一緒に教室へと入ってきたもう1名も合流したが、一体どういう集まりなのだろうか。
というか何故自分が呼ばれたのか。
「───この状況はどうしたのかな」
「ん?ああ、実は、この田中がオレ達のショーを見に来てくれたらしくて、どうしてもサインが欲しいと強請られてしまってな!」
「こいつ、なんかスゲー感動したーとかいっててさ、お前ら凄いんだなー!うちの妹もめちゃくちゃ褒めてたぞ」
「いやマジめっちゃよかった、俺立ち見だったんだけど人気もすげーのな…フェニラン久しぶりだったけどあんなにショーが面白いとは思わなかったわ」
「いいなぁ、定期公演やってんだろ?俺も久しぶりに行こうかなー天馬の劇は文化祭の思い出しかないから全然想像つかないし」
掛け値なしの称賛に目を瞬かせる。自分たちがショーをはじめて、それが噂になっていることは知っていた。たまにこそこそとあれが噂の……、だなんて囁かれていることも知っていたし、たまに見に来てくれたという生徒から握手を求められることもある。
けれど、なんというか、自分のものではないにしろ、司くんという同じステージに立つキャストの「クラスメイト」という普段の自分たちに近い層だからこそ、こんなにストレートに褒められるとは思っていなかった。
変人ワンツーフィニッシュ、だなんて校内で呼ばれているのも随分前から知っている。そんな変わった、いや浮いた存在、今までの自分の経験だと出過ぎる釘として遠巻きにされるものだったのに。
「ふっふっふ、そうだろうそうだろう〜!それもこの輝けるスターと、そして我が自慢の演出家含む最高の仲間達によるものだからな!な、類!」
「ああ、うん……?」
「そうそう、あのショーの演出も神代がやってるんだってな!?俺舞台ってちゃんと見た事なかったんだけど、普段の爆発があんなとこに使われるとは思わなかったわ……」
「え、爆発ってお前らのショーの為だったのか!てっきり趣味かと思ってた」
「そんなわけがあるか!」
未だに馴染めない展開を何とか理解しようと進めていたところで、目の前の彼がパッと思い出したように手元から真白のページに大きく見覚えのあるサインが書かれたノートを差し出してきた。すかさず隣に座った司くんが、にやにやと手に持ったペンを渡してくる。
「というわけで、将来ビッグになりそうなお前たちのサインをもらおうと思ったのよ!神代も良かったら書いてくれ〜俺大事にするからさ〜お前らが有名になったらクラスメイト枠でテレビ出るんだ〜!」
「まぁこの後1回提出されるんだけどな」
「おい、そしたらオレと類のノートみたいになるんじゃないか?」
「田中成績悪いから大丈夫だろ、天馬は知らんが神代は」
「それって俺にすっごく失礼じゃない!?」
「オレにも失礼だが!?」
小気味いいテンポで繰り広げられる会話はもはやコメディショーのアドリブのようだ。
しかし、サインか。司くんとは違いあまり積極的に書いたりすることは無いので、ちゃんとしたものを考えたことも無かったのだが。
ただ、この目の前の彼の純粋な好意を無下にしたくなかったから、求められるがままペンを受け取るとでかでかと書かれたサインの横に、控えめに神代類と名前を書いた。
良く考えれば、これが初めての"知り合い"へのサインかもしれない。ショーの後に稀に請われることはあったが、それ以外ではまだまだこんな機会は無いのだ。
「ええと…これでいいかな」
「やったー!ありがとう神代!!!」
「おい、オレの時と反応が違わないか!?」
「だって天馬のサイン3つ目だし……」
「お前そんなに貰ったの?てか天馬もそんなにしちゃったの?」
「求められれば応える、これぞスターだ!」
「限度があるだろ」
ふ、思わず笑い声が漏れて、咄嗟にペンを持っていなかった手で抑える。が、残念ながらその笑いはもうバレてしまったようで、司くんは嬉しそうに背中を叩いてきた。
「ふっふっふ、オレ達も有名になったな!」
「…そうだね、全く学校でこんなことになるとはさすがに予想外だったよ」
「すまんすまん、でもオレも嬉しくてな。是非と言ってくれたし、類にもせっかくだから聞いて欲しかったんだ。───よし!ではオレ達はもうそろそろ帰るぞ」
「おう、引き止めて悪かったな」
「おつかれー」
司くんは何事も無かったかのように自分の席へと向かうと、もうまとめていたのだろう荷物を手にクラスメイトへと手を振る。嵐のようだったが、途中で席を辞すことを誰一人として咎めることは無い。
颯爽と出ていってしまった司くんの後を追う際、少し気になってちらりと振り返ってみる。先程まで会話をしていた2人は、こちらにむかって笑って手を振っていた。
【case2 教師】
さすがに、今回は予想外だ。
ドローンと合体させ、自由な浮遊が可能となったその試作品。連結解除機能が搭載され、ボタンによる合図によりドローンが装置部分を離したタイミングで鮮やかな光ととともに爆発し、その後には紙吹雪が舞う簡易的な花火のような装置を作りたかったのだが、どの程度の速度まで耐えられるかの試運転をしている最中にたまたま扉を開けた司くんの勢いよく開けた扉にクリーンヒット。見事に芯を捉えそのままホームランになった試作花火(仮)は、まるでなにかの開会を告げる空砲のように校舎の1番上で爆発した。
もう言い訳などできないくらいに想定通りに弾け飛んだ試作花火(仮)は、思ったよりも派手にヒラヒラと輝く紙吹雪を少しの間だけ撒き散らした。それはいつぞやの花びらのように大層美しいものだったと同時に、あの時と同様被害としては特に出ていない。
けれど、残念なことにこれは昼休みの出来事だった。
「お前らな……」
屋上で2人してあまりに見事な紙吹雪にぽかんとしていたところで、校内放送を通り越して屋上に駆け込んできた教師に捕まって今に至る。その教師…たまたま近くにいたらしい自分の担任に引き連れられ、現在は職員室で立たされていた。横には司くんのクラスの担任が頭を抱えて座っている。今回の事の経緯を説明したらこうなってしまったのだ。
「先生……これは不慮の事故だったんです。まさかあそこまで美しく放物線を描いて飛んでいくとは思ってなくて…ねえ司くん」
「お、オレが悪いのか!?」
「そうだよ、君も共犯に決まっているじゃないか。今日のホームランバッターなんだから」
「いや、そもそも類が学校で爆発物を取り扱うのが悪いのでは…」
「あー!もういいもういい!」
出来るだけ罪を軽くするべく事故性のアピールをしていたのだが、残念ながら弁明は却下されてしまう。うーむ、さすがに今回は反省文は避けられないかもしれない。あそこまで見事に爆発してしまったのは、製作者としては上手く行ってよかったと思うが学生としてはNGだろう。
「お、やっぱりさっきの爆発はワンツーか!」
と、そこでひょいっと新たな人物が顔を出してきた。───C組の担任だ。自分たちも古文担当の教師として顔を合わせることも多い。たしか、担当教科の固さに反してかなりノリがいいタイプだったはずだ。
「いやー、ちょうど外にいたんだが見事なもんだったぞ、歓声があがってた」
「先生……今一応指導中でして」
「おおっとすみません、でも先生も見ましたか、アレ」
「見ましたけどね…まぁ確かに見事ではありましたけど」
「ですよねー。そうそう、神代はあの紙吹雪ちゃんと掃除しとけよ」
「あ、あれちゃんと土に還るので大丈夫です」
「ならそのままでいいか」
「サステナブルだな……」
1人の珍客のせいで、なんだかお説教のムードではなくなってしまった。自分としてはラッキーだな、というところだが、隣りにいる司くんはイマイチ展開が分かっていないのか頭にハテナが浮いてそうな顔で小首を傾げている。
ふう、担任が溜め息を吐く。先程まで眉間に寄っていた皺はもうすっかり浅くなっていた。
「……とにかく、学校ではなるべく爆発しないように!神代もだが、天馬もだ!」
「オレもですか!?」
「相棒だろう!ちゃんと手網を握っておくように!」
「だってさ司くん」
「類はちょっと悪びれてくれ」
なんと、今日はここで解放のようだ。これは本日二度目の予想外。
ただ、逃がしてもらえるに越したことはないので気が変わる前にさっさと退散しようと思ったのだが、その矢先ごふりと吹き出す音がきこえてきた。
声の主に目を向けてみる。それは、司くんのクラスの担任だった。
「……先生まで。もう、ちゃんと指導してくださいよ」
「いや、すみません…ちょっと経緯のところから堪えられなくて……」
どうやら先程から顔を伏せていたのは呆れて頭を抱えていたのではなく、笑いをこらえていたかららしい。ようやくあげられた顔には、うっすら瞳に涙を称えていた。
ただ、漸く落ち着いたらしい。大きく息を吸って吐くと、真面目な顔でまっすぐこちらを見てくる。
「まぁ、お前達のことだ。学校で危険なことはしないと思っている。……が、今回の件ももし間違ったからお前たちも、もしくはその他の生徒が怪我をしてしまう可能性もあるのはわかるな?」
「「……はい」」
「うん、ならいい。危険なことはしないこと、もちろん危険なものを持ち込まないこと。あと、これは先生からのお願いだがあまり派手すぎることは控えるように。毎回追いかけ回さなきゃいけないからな」
「まぁ見応えあるものは面白くていいけどな!」
「先生!横槍を入れないでください!」
「……とまぁ、先生達にもいろいろあるが。出来れば加減してくれると助かる。よし、以上!いっていいぞ!」
もう話は終わり、とでもいうかのようにしっしとジェスチャーされて、司くんと1度目を合わせる。ただ、あまり余計なことを言うもんじゃないという気持ちは同じだったようだ。ゆっくり一礼して、そのまま静かに職員室を出た。
ガタリ、少し立て付けの悪い扉を閉める。その姿が見えなくなって、少し息を吐いて。くるりと踵を返すと、どちらともなく歩き出した。
「……司くん、もちろん今までもだけど、これからも気をつけるね」
「……ああ、そうだな。オレも、気をつけるとしよう」
少なくとも、誰も怪我なんかしないように。声に出さなかったけれど、おそらく2人とも考えていることは一緒だった。
[case3 街の人々]
「……ん?類、あそこ」
「……おや、迷子かな」
休日、2人でショッピングモールをぶらぶらと歩いていた時。
司くんが何かに気づいたように指さした先にいたのは、心細そうに店と店との間の小さな隙間で立ちすくんでいる小さな女の子だった。まだ泣いてはいないが、腕にひとかかえくらいのうさぎのぬいぐるみを抱きしめて地面をじっと見つめている。その様子からも親が辺りにいるとは思えないので、きっと迷子だろう。
なんだか覚えのある展開だな、とアメリカでの一幕を思い出しつつ、いそいでその子の所へ近づいた。もちろん、そこそこの体格の男性が2人なので怯えさせないようにゆっくりとだが。
こちらに気付いた女の子の瞳が揺れる前に、司くんはにっこりと完璧な笑顔をつくって先に声をかける。
「こんにちは。1人か?ご両親はどうした?」
「…ママ、迷子になっちゃったから。待っててあげないとダメなの」
完璧なその笑みに、少女の警戒心もすこし和らいでくれたらしい。恐る恐る、といった様子で紡がれた言葉に、やはり予想通りだったかとバレないように顔を見合せた。こくりとアイコンタクトで頷く。
目線を合わせるためにしゃがみ込んだ司くんの後ろで辺りを見回す。たしかインフォメーションセンターが近くにあったはずだ、そこまで連れて行けば館内放送をお願いすることができる。それに、彼女の母親もまずそこからあたるだろう。記憶を掘り返してみても、まだアナウンスは流れていないはずなのでもしかしたらそこで鉢合わせられるかもしれない。
「……なぁ、お母さんはここではぐれちゃったのか?」
「ううん、わかんない。…うさぎさん、ぎゅってしてたらいなかった」
「ふむ、君はずっとここにいたのか?」
「えっと、ちょっとだけ。ママがいなくなったときはじっとしてなさいって言ってたから…」
「そうか、えらいな」
少しずつだがたどたどしく話してくれる女の子のお陰で、だいたい状況が見えてきた。賢い子だ、きちんとご両親からの言いつけを守っていたのだろう。だけれどやはり心細かったらしく、話をしているうちにもその目が徐々に潤んでいく。
「───ママだがな、お兄さん達が一緒に探そうと思うから、よかったら手伝ってくれないか?」
間近にいたからすぐに気づいたようだ。すかさず司くんが少女の気をそらす。
「でも…ママ、知らない人に着いて行ったらダメだって」
「おお……しっかりしているな、えらいぞ!」
「司くん、そこで褒めてどうするの」
「ぬぅ、そうだったな」
幸いにも司くんの声がけで少女の涙は止まったが、しかし未だ警戒心は取れない。この場から動いてくれないようならインフォメーションセンターに連れていくことも出来ないので、まずは信頼して、心を開いてもらうことだろう。ただ…そういうことなら自分たちは得意分野だ。
「よし、そういうことなら大丈夫だ。なにせお兄さん達は、そのうさぎさんの友達だからな」
「……うさぎさんの?」
「ああそうだ、なぁ、そうだろ?」
『ソウダヨ!オトモダチ!』
あんまりな無茶振りでもあったが、立ち位置的にもそうするしかあるまい。口元を隠し、覚えのあるセカイの住人の真似をして高い声で答える。それにあわせて、司くんはさりげなくくいくいとぬいぐるみの手を動かした。
ぱああ。まさにそんな効果音が聞こえるかのように少女の表情が明るくなる。よかった、少なくとも笑顔になってくれた。
「すごい!うさぎさん、おとこのこだったんだね!」
「ごほっ」
「司くん」
予想外のちょっと斜め上な返答に司くんが吹き出すが、少女はそんなことを気にもとめず大きな声で歓声を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねた。それにあわせてうさぎも揺れる。
「実はうさぎさんがな、お母さんを探すために店員さんのところに行った方がいいんじゃないかと言っているが…どうする?」
『迷子ニナッチャッタラ、オ店のヒトニ聞クトイインダヨ!』
「うさぎさん……うん、わかった」
「そうか!なら、いっしょに───」
「────いた!!!」
よし、これで少なくともどこかの店には報告できそうだ。そう思ったところで、突然大きな声が聞こえた。
声の方へ視線を向けると、一人の女性が肩で息をしながらこちらを睨みつけている。服もところどころ乱れているから、そうとう焦ったのだろう。今の状況からしてもこの女性がどういう立場なのかは明白だ。
……しかし、少しタイミングが悪いかもしれない。彼女から見れば、今自分たちは彼女の大切な子供を拐かそうとしているように見えたのでは無いのか。
「ママ!!!」
あれほど大切に抱えていたうさぎを取り落として、少女が母親へと走りよる。虚勢を張っていたけれど、やはり心細かったに違いない。たどり着いてギュッと母親に抱きしめて貰えた時には、先程を超える満面の笑みだった。
その微笑まし光景を見守りつつも、司くんが落とされたうさぎのぬいぐるみを広い上げると、そっとこちらへと手渡してくる。……もう少し小芝居しろ、ということか。
「ええと……お母さん、でしょうか」
「……はい、あなた達は」
「僕達は、たまたまこの場に居合わせたものです。買い物の途中、お嬢さんがそこで一人でいたを見つけて……。丁度店の人に相談しようと思ってたのですが、その前に見つかったようでよかったです!」
「あ……」
「お母さんからのいいつけをしっかり守って、はぐれた場所で待っていたみたいですよ」
「お兄ちゃん達、ありがとう!」
『ヨカッタネ』
「あっ、うさぎさん!」
実はこういう大人たちとのやり取りは宣伝大使になってから増えているので、司くんの対応も堂に入ったものだ。初めははりきりすぎてから回っていたのが懐かしいなと思いつつ、援護をするために手に持ったぬいぐるみで、裏声を駆使しつつ少女へと呼びかける。
経緯を説明したことと、こちらに対して少女が警戒していないことでようやく怪しい人間ではないというのがわかって貰えたらしい。目に見てわかるほど、その母親の肩の力が抜けていくのがわかった。
『マタオ母サンが迷子ニナラナイヨウニ、チャント手ヲ繋イデオコウネ』
「うん!うさぎさんもいっしょにいこ!」
「……すみません、目を離したらいつの間にかいなくなっていて。さっき声が聞こえた気がして、走ってきたんです」
「いえ、心配なさるのも当然ですから!」
「早くに見つかって良かったですね」
とてとてと戻ってきた少女にうさぎのぬいぐるみを差し出せば、またぎゅっと抱きしめる。先程までの心細そうな彼女が嘘のようなその姿に、自然と口角が上がるのを感じた。そのまま、母親と手を繋いで去っていくのを手を振って眺めると、くるりと2人が振り返る。
「お兄ちゃんたち、ありがとう!」
「あの、ありがとうございました!」
「───良かったな、今度はすぐに見つかって」
「フフ、そうだね。今日はえむくんも寧々も居ないから、さすがに男2人は怪しいかとヒヤヒヤしたものだけど。司くんも見事なものだったじゃないか」
「まぁ、ある程度は慣れているし、今回は日本語だったしな!」
「そうだね、でも例え言語が違ったとしても迷わずに助けに行けるのは君のすごいところだと思うよ」
「そうか?」
本心からの褒め言葉は、いまいちわかって貰えなかったらしい。それはつまり、彼が当然の事としてその行動を行っている、ということだろう。あのアメリカでも、今も。彼の根本は、当然変わることも陰ることもしていないのがこんなにも嬉しい。
「僕達もはぐれないように手でも繋ぐ?」
「……何言ってるんだ、馬鹿」
呆れた口調で、笑って言われたからこちらも笑みを更に深める。仲の良い親子は、もう見えなくなっていた。
【case4 そんな彼の家族】
うーん、少し落ち着かない。
それもそのはず、今自分は司くんのお家にお邪魔していた。こうして招待してもらうことは初めてでは無いものの、なんと今回は2人きりでというシチュエーションだ。こんな事は当然初めてになるのでどうしても緊張してしまう。そもそもの人の家にお邪魔する経験が多くないのもあるが、司くんの家ならばなおさらだ。
「紅茶にしてしまったが……よかったか?」
「ああ、うん。もちろん。というか、本当にいつでも良かったのに。御家族も居ないところお邪魔するのは流石に申し訳ないね」
「まったく、さっきも言ったが気にしなくていい!元々こっちが借りていたものだし、近かったんだからついでだ。そしてせっかく来たんだから少し休んでいってもいいだろうが」
トン、とおそらく作りおいていたのだろうアイスティーが目の前に置かれる。まるでお店のようにしっかりシロップやミルクが添えられているきっちりさがイメージ通りすぎて少し笑ってしまった。
今日こうしてお邪魔したのは本当に偶然によるものだ。そもそも先日、自分が持っていた本がちょうど司くんが気になっていたものだったことが分かり、つい返すのはいつでもいいよと貸していたのが事の始まりである。
その本がちょうど読み終わって感想が来た時、たまたま自分が彼の家の近くで予定があった。しかもちょうどその用事が終わったところだったので話の流れでそれを伝えると、じゃあついでに寄っていけと言われて……今に至る。
メッセージで寄っていけと言われたときにはてっきり玄関先で本を受け取るだけだと思ったのだが、そのまま返す訳には行かないと半強制的にお邪魔することになってしまった。ご両親は仕事、咲希くんは今日はバイトの後友人と遊ぶ予定らしい。ということで、2人きりで謎にソファで隣り合っている。
カラン、アイスティーの氷が音を立てる。
何を言うべきか悩んでしまって、ただ差し出されたそれに口をつけた。妙な緊張からか、存外喉が乾いていたようで冷たいそれが心地よい。芳醇な紅茶の香りも爽やかな味わいも、普段あまり飲まないものだがとても好ましかった。
舌鼓をうっていたところで、視線を感じて隣にちらりと目を向けてみる。嬉しそうに微笑んでこちらを見ている司くんの姿が目に入って、なんだか大変目に毒だ。
「ただいまー!」
と、そんな微妙な雰囲気をふきとばすかのように明るい声が玄関先から聞こえてきた。物音と、パタパタと軽い足音が近づいてくる。
「お兄ちゃん、お客さん……あれ、るいさん!こんにちは!」
「こんにちは。お邪魔しているよ」
「おお、咲希!おかえり!一歌たちと出かけるのでは無かったのか?」
「うん、そうなんだけど一度荷物を置いていこうと思って!」
「そうだったのか、なにか飲むか?」
「だいじょーぶ!すぐまたでちゃうから!」
予想通り、部屋に入ってきたのは咲希くんだった。突然の珍客だったが嫌な顔ひとつせず、にっこり笑って挨拶してくれたからこちらも笑って会釈する。
「すまないね、ちょっと司くんから物を受け取ったら僕もすぐにお暇するから」
「ええっ、そんな〜!アタシこそ突然ごめんなさい、あの、お兄ちゃんが友達連れてくるのなんてめったにないですし、よかったらゆっくりしていってくださいね!」
「まったく、さっきからずっとこうなんだ。借りてきた猫みたいになって……」
「そりゃあさすがに人の家では僕だって気を使うってば」
「むぅ……まったく疑わしい……」
「こら、そこで疑わないでくれるかな」
「へえ……」
すこし司くんと会話を交わしていると、咲希くんはピタリと黙り込んだ。何かを考えているのだろう。腕を組んで、手を口元に持っていき小首を傾げる、という見覚えのあるポーズでこちらを見てくる。
そうしているとさすが兄妹、表情までそっくりだ。
「……お兄ちゃん、そういえば前何かのCDをるいさんに見せなきゃって言ってなかった?」
「ああ!あったな!そういえば!」
「せっかくだし、今日聞いて貰ったらどうかな?」
「ふむ、そうだな。類も時間はあるんだろう?」
「まぁ、僕は大丈夫だけど……」
「よし!なら取ってくるからちょっと待っていろ!」
思い立ったら即、とでも言うように司くんが立ち上がり席を離れる。階段を上がっていったから、自分の部屋へとその品を取りに行ったようだ。極めて自然なながれだ。けれど、何故か微妙に違和感があった。どうも、なんだか司くんをわざと遠ざけたような…。
まぁ気のせいだろう。咲希くんもすぐに出かけていくようだから、そのCDを聞かせてもらったら目的物を受け取って帰ることにするとしよう。そう決めて、目の前のアイスティーに再度口をつける。
「るいさんとお兄ちゃんって、付き合ってるんですよね?」
「ゴホッ」
しかしそれを飲み込む前に咳き込むことになった。
「わぁ、すみません!びっくりさせちゃって……」
「ぐっ…いや、ゴホン、大丈夫さ。というか咲希くん、今の質問は……」
「えっ、違うんですか?」
真っ直ぐに見つめられて言葉につまる。
ええと、その、だとか意味をなさない言葉ばかりが言い訳のように口からこぼれていくが、ただただ純粋な瞳にはどうにも嘘も誤魔化しも言いたくなかった。それは、おそらく想い人によく似ていることもあるが、なによりも自分が誠実でありたかったからだ。だから、なんとか落ち着きを取り戻してからゆっくり答えを返すことにする。
「───うん、そうだよ。付き合い始めたのは、最近だけどね」
「ふふ、やっぱり!最近お兄ちゃんがうれしそうだったから、そうかな〜って思ってたんです!」
「…おや?それだけなら、何故僕だと…?他にも候補はいるはずだけど」
色々な葛藤を飲み干して、素直に事実を告げたなら。返ってきたのは満面の笑みだった。それをみて、いつの間にか力が入ってしまっていた肩が急に軽くなる。ほ、と声にならない息を隠して吐いたあと、じわじわとにじり寄ってきた少しの照れを誤魔化すために言葉を続けた。
「えーっと……うまく言えないんですけど、お兄ちゃんがるいさんの話、良くしてましたし!あと、その時、なんだかとっても優しい顔をしてたんです」
「優しい顔……?」
「ハイ!それで、いまさっきのるいさんも同じ顔をしてたから、ああ、そうだったんだって!」
合っててよかったです!とニコニコ言われてしまうと返す言葉もない。優しい顔、優しい顔か。そんな風に言われても、自分にはその表情がどんなものなのか分からなかった。
トントンと規則的な足音が聞こえて、振り返れば司くんが階段からおりてきているところが目に入る。お目当ては見つかったようだ。少し熱くなった頬を冷ますべく、先程飲み損なったアイスティーに再度手を伸ばした。その間も咲希くんは笑顔でこちらを見ている。
「……るいさん、ありがとうございます。これからも、お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」
「……え?」
「おーい、またせたな!見つけたぞ!ついでに本も持ってきた」
「じゃあお兄ちゃん、私部屋に荷物置いてそのまま出ちゃうね!」
「わかった、気をつけていってくるんだぞ!遅くなる時は連絡するように!」
「はーい、わかってます!」
戻ってきた司くんと入れ替わるように咲希くんが部屋へと駆けていく。最後にかけられた言葉は、本当に小さな声だったけれど、確かに自分の耳に届いていた。
***
「じゃあ、行ってきまーす!」
元気のいい声の後、数秒遅れて扉が閉まる音がした。それを合図に、先程までの緊張や多少被っていた猫が嘘のように溜め息を吐いてソファへともたれ掛かる。ただ、そんな気を抜くこちらの様子をみても司くんはひたすら楽しそうだ。
「なんだ、猫をかぶるのはやめたのか?」
「……まったく、誰のせいだと思ってるんだい」
「オレは普通でいいって初めからいってるだろうに」
「そうだけどね……司くん、咲希くん、僕達が付き合ってること、分かってたよ」
「……ああ、そうか」
少し目を見開いたあと、司くんは穏やかに薄く笑った。咲希くんからその事を聞かれた時、先に伝えていたのか、という疑問ももちろん浮かんだ。けれどそんなことは先程までの2人の様子からしても有り得ないだろう。
司くんとは、ちょうど2週間ほど前からお付き合いをはじめていた。そう、恋人同士の、恋愛感情のあるお付き合いである。それまでもずっと、己の中で彼に向けるべきではないと分かりながらも消すことが出来なかった思いだったが、ある日いきなり告げられた司くんからの言葉にあっさりとそんな燻りは崩壊させられた。正直、未だに夢ではないかとさえ思ってしまう。だって、好きな人に好かれるだなんて、どんな確率なのか自分には途方もないということしか分からなかったから。
「ふふん、ほらみろ、類が気にしてるようなことは何も無かったじゃないか」
「……そうだね、本当に」
そして実はこのお付き合い、周りの誰にもまだ何も報告していなかった。ワンダーランズ×ショウタイムの仲間にも、セカイの彼らにも、だ。 もともと自分の中にこの想いが芽生えたときに誰かに話したりもしなかったし(そもそもが墓場にまで持っていくつもりでいた)、司くんも同じく誰にも言っていないということだったから。───今は、報告すべきだ、という彼に少しだけ自分が時間を貰っている形になっている。
同性同士。世間は昔よりもずっと寛容になったけれど、それでもオープンにするには勇気がいる関係でもある。だから、言えなかった。なんて───いや、それは世間体を傘にした言い訳だ。
少なくとも先程あげたような近しい人が、それを理由に僕達から離れることは絶対ない。そんな事は、自分で気付くことが出来るくらいにはしっかり理解している。では、己が本当に避けたかったことはというと。
「……僕はね、司くん。君の世界が壊れてしまうのが怖かったんだよ」
「……オレのセカイ?いつもの、あのセカイか?」
「ううん、そちらのほうではなくてね。司くんを取り巻く環境のことだ」
司くんを取り巻く環境は、優しく、あたたかい。
それは時に涙が出そうになるほど美しくもあって、こんな気持ちを抱き始める前から、自分は司くんと、司くんのまわりに広がるその世界が大好きだったのだ。その世界はきっと司くんが周りに与える愛によって出来ていて、そこに居るとこの世には汚いものなんて無いかのように錯覚してしまいそうになる。
「類は友を以て集まる、とも言うだろう。全てに対して優しい司くんの周りに集まる人は皆優しくて、僕のこともなんてことなく受け入れてくれるから…僕か隣にいることで、それを、壊してしまうかもしれないことがすこし、恐ろしくて」
クラスメイトと、先生も、街中でたまたま居合わせただけの人だって。
今まで自分が生きてきた中では知らない世界だった。あんなふうに自然に受け入れられて、見守られて。異質でしかなかったものだった自分でさえ、まるでそこに居るのがあたりまえだというかのような柔らかな愛は、どうにも泣いてしまいそうになるくらいに優しい。
それに、司くんが凄いのはそれだけではない。本当のいい人というのは、悪い人もいい人に変えてしまうほどの力を持っているとどこかで読んだことがある。それを体現するかのように、司くんは、その自分の持つ愛で、たとえ攻撃的に来た人でも解してしまうことができる人だった。そして、いつの間にかその人さえもまろやかな世界で包んでしまう。悲しみや、怒りでさえも最後に笑顔に変えて。
ぽすり。並んで座っていた右肩に少しだけ重さが乗る。目線を向ければ輝く金色が肩にかかっていて、その持ち主は先程妹さんがしていたのと全く同じポーズをしていた。
「……うーん。ようやくお前が頑なだった理由が聞けたのはいいが、オレにはよくわからんな」
「フフ、そうだろうね。司くんにとっては、当たり前のことなのだろうし」
「そうじゃない。オレが分からないのは、類が自分を"類"でないと考えている事だ」
言っている意味がよくわからず、そのまま司くんの顔を覗き込む。きらきらと輝く夕焼け色は、真っ直ぐにこちらをみている。
「オレが優しいといって、周りに集まってきた人も優しいなら。隣に居るはずのお前が、優しくないように言われるのはおかしいだろう」
「え……」
「そもそも、オレの周りが優しいというがそれは類の周りでもあるんじゃないか?活動範囲は被っているんだし、オレから見ても類の周りは十分優しいぞ。過去は知らんが、今現在類の周りにいるオレ達は、類が優しいから隣にいるんだ。勝手に一方通行にするんじゃない」
少し怒っているようで、でも真っ直ぐ告げられた言葉にぱちぱちと瞬きを繰り返す。勝手に、一方通行に。……その言葉で、確かに今まで自分は司くんの隣に立ってはいるけれど、それはあくまで客演のような、ただのゲストとして見ていたことに気がついた。 ぶわりと思考に色がつく。あの時、司くんのクラスメイトはしっかりと自分をみて応援してくれていた。注意をしてくれた教師は、二人のことを心配してくれていた。少女は、二人に礼を言った。
そういえば、咲希くんは自分たちの関係に気づいたきっかけを、優しい、同じ目をしているといっていたっけ。もしそれが真実であるならば、自分もいつの間にか彼のように、優しい世界の一員になれていたのだろうか。
……そうか、確かに今まで自分は司くんの隣にいることで、この優しさを借りているような気持ちになっていたのだけれど。でも、君はそうではないと言ってくれるんだね。
正に晴天の霹靂で、こんなにも今まで抱えてきたモヤモヤとした悩みが、彼の言葉でサラサラと砂になっていくのを感じる。考えすぎは自分としても自覚していたが、こんなにも簡単に解かれて、なにかの感情を覚えるよりも先になんだかおかしくなってしまった。
「……本当に、適わないなあ」
またじんわりと熱くなってしまった頬を見られたくなくて、隠すつもりでそのままギュッと抱きしめて肩口に顔を埋める。怒っていたはずの司くんだが、まだ慣れない接触に一度身体を固くしたあと、おそるおそる背中へと手を回してくれた。それだけで、なんだか泣きそうになる。あぁ、僕は幸せ者だ。
「まずは、そうだな……ちゃんと寧々とえむくんに報告しなくちゃね」
「うむ、そうしろ。せいぜい怒られるといい」
「ええ、そこはフォローしてよ」
「駄目だ!ちなみにミクたちに言う時もフォローはなしだからな」
「よよよ……司くんが冷たい」
「人が大丈夫だというのに怯えていた冷たい奴のせいかもしれないな?まったく、名前が類のくせに、どうも一人になりたがるから困ったものだ!」
まぁ、でも惚れてしまったものは仕方ないか。
耳元で笑うように囁かれたそれの少しあとに、頬に柔らかい感触がひとつ。可愛らしいお叱りに、とうとう堪えられなかった笑い声が飛び出した。
くすくす、くすくす。
多分これから全てがこんなにも優しいはずは無いし、こんなにも都合がいいこともない。だけれど、同気相求めるというように、きっとどんどんこのあたたかさは寄り集まって行くのだろう。それは多分、司くんと、そしてその隣にいる僕が、優しくあり続ければ叶う未来でもあるのだろうから。
今はこの幸福に感謝しつつ、初めてのキスを遂行するために。少し熱くなった、柔らかな頬に手を添えるのだった。
【case5 親愛なる僕等の仲間たち】
「……という訳で、司くんといまお付き合いしているんだ。報告が遅くなって、すまなかったね」
ショーの練習終わり。伝えたいことがある、と帰ろうとする2人を呼び止めて、報告できなかったことをようやく口にした。さて、彼女達はどう思うのだろうか。すこしだけ、まだ恐ろしさが頭をよぎる。けれど、不思議と落ち着いているのは彼女達もまた優しき隣人であることを十分知っているからだ。
「お……」
「お?」
「「おそーーーい!!!」」
だから、ほら。隣に立つ司くんも笑っている。
「まったく、馬鹿!類も司も馬鹿!1番に報告しなさいよ、仲間でしょ……!」
「いや、言うのを待てと言ったのは類だからな。今回は責めるのは類だけで頼む」
「よかった〜!あたし、ずーっと、ずーっと、いいたかったんだよ…!うう……うえーん!寧々ちゃーん!よかったよー!」
「ほんとに。はぁ、まったく…」
「ほらみろ、類。やっぱり怒られただろ」
「…そうだね。これは反省しなきゃいけないなあ」
「そうして!あと、ちゃんとミクたちにも言いなさいよ。アンタたちバレバレだからこっちが気を使ったんだからね」
「はっ!そうだ!皆でお祝いしなきゃ!あ、でもでも、その前に……」
「「おめでとう、2人とも!」」
司くんも、司くんを取り巻く世界も。全てが優しく、あたたかだ。
そう感じているのは今も変わらないけれど、いつの間にか、夜空を照らす光のような存在は遠くの空ではなく、こんなに近くに立っていた。彼に向けられる愛は変わらずにあって、その隣に自分が立って。
きっと、そうしてこれからも広がっていくのだろう。
「「ありがとう!」」
それは、とんでもなく幸せで、夢物語みたいなものだけれど。
案外世界は、そんな優しき愛で溢れているものなのだと、もう自分は充分知っていた。
僕等の世界と四囲の愛