「ヨイトマケの唄」などのヒット曲で知られた、歌手で俳優、美輪明宏(みわ・あきひろ)さんが20日に老衰のため都内の自宅で死去していたことが28日、分かった。91歳だった。所属事務所が公式サイトで発表した。葬儀・告別式は本人の意向により近親者のみで執り行われた。美輪さんは3カ月ほど前から体調を崩し静養していたとされ、最期は「ありがとう」と感謝の言葉を遺し、静かに目を閉じたという。戦後から令和に至るまで、日本のカルチャーシーンの最前線で「美」と「愛」を説き続けた唯一無二の巨星が旅立った。
三島由紀夫さんが「天上界の美」と絶賛したミューズ
長崎県出身。16歳でプロ歌手となり、東京・銀座の伝説的シャンソン喫茶「銀巴里」を拠点に活動。1957年に「メケメケ」が大ヒットし、その中性的な美貌と華やかなファッションで一世を風靡した。作家の三島由紀夫さんが「天上界の美」と絶賛し、生涯のミューズとして溺愛したエピソードはあまりにも有名だ。
しかし、美輪さんの真骨頂は「美」だけに留まらない。自身が作詞・作曲を手掛けた1965年の「ヨイトマケの唄」は、日雇い労働者の母と子の絆を描いた名曲だが、当時の世相や差別的な表現を理由に一時期は民放で放送禁止の憂き目に遭った。それでも美輪さんは信念を曲げず、弱者に寄り添う歌を歌い続けた。
2012年、77歳にしてNHK紅白歌合戦に初出場して同曲を熱唱した姿は、今も語り継がれる伝説となっている。
俳優としても演劇界に不滅の足跡を遺した。寺山修司さんの「天井棧敷」旗揚げ公演に参加し、舞台『黒蜥蜴』(江戸川乱歩原作)は生涯の当たり役となった。美輪さんが舞台に立つだけで、劇場そのものが異次元の美の世界へと変貌した。
平成以降は、宮崎駿監督の映画「もののけ姫」のモロの君役や「ハウルの動く城」の荒地の魔女役で圧倒的な存在感を発揮。テレビ朝日系のバラエティー番組「オーラの泉」では、そのスピリチュアルかつ含蓄に富んだ「言葉の処方箋」で、現代社会に疲弊する多くの人々の心を救った。
黄色い髪をなびかせ、どんな時代にも「愛の他には武器はない」と毅然と言い切った美輪さん。激動の昭和、平成、令和を生き抜き、最期に遺した言葉が「ありがとう」だったという事実は終生捧げ続けた人類への「無償の愛」そのもののようでもある。日本の芸能界から、あまりにも巨大な、そして美しい光が消えた。
公式サイトで掲載された声明全文は、次の通り。