夏に備えろ!! 大ホラゲ時代到来⁉ボカロトレンド攻略
はじめに
ボカロとホラーの相性は抜群だ。様々なジャンル、カルチャーを受け止める包容力を持つボカロは、特にインターネット発のホラーにとって、大事な居場所のひとつでもあった。歴史を振り返ってみると、「検索してはいけない言葉」やニコニコのタグ「VOCALOID幻想狂気曲リンク」は常に一定の需要があり、「結ンデ開イテ羅刹ト骸/ハチ」、「細菌汚染/かにみそP」「暗い森のサーカス/マチゲリータP」、「ももいろうさぎ/ヒーリングP」はその手のクラシックといえるだろう。現在では「マジカルドクター/MARETU」や「鉄の処女と夢見がちなお姫さま/じょるじん」も定番になってきている。
また、ホラーの中でも「青鬼」や「のび太のBIOHAZARD」、「魔女の家」、「殺戮の天使」、「ゆめにっき」などのフリーホラーゲームはかつてニコニコでも人気を博していたが、その中でもボカロ曲でもある「Ib」の非公式イメージソング「「Ib」 / コウ」は非常に有名な例だろう。
これらの存在はボカロ文化と密接に関わりつつも、メインストリームからはある程度の距離を置いていたように思える。しかし、実は現行ボカロシーンにおいて「ホラゲ」というテーマは過去に類を見ないほど存在感を増しており、トレンドにも影響を及ぼし始めている。今回はそんな「ホラゲ」(を中心に緩くインターネット・ホラー)と現行ボカロについて、私の観測範囲内で起きていることを書き記しておく。
・いますぐ輪廻
「いますぐ輪廻/なきそ」は明確な元ネタこそないものの、ホラー(ダーク)的展開の恋愛ADV風の作品だ。このスタイルの古典として、インディーフリービジュアルノベルゲーム「ドキドキ文芸部」が元ネタと囁かれている「きゅうくらりん/いよわ」も挙げられるだろう。
・8番出口
「8番出口/EO」は映画化もされたインディーホラーゲーム「8番出口」の非公式イメージソングだ。楽曲MVにはさしてホラー要素はないが、原作は後に触れることにもなる「The Backrooms」や「リミナルスペール」的な湿度の高い不気味さがあり、実際に本作の開発にあたってそれらから影響を受けたことをインタビューで語っている。
・都市伝説解体センター
「ようこそ都市伝説解体センターへ/MURASAKI」はインディーミステリーアドベンチャーゲーム「都市伝説解体センター」の公式イメージソングだ。ホラーが苦手な人でも楽しめるようになっているためがっつりホラゲではなくホラー要素は低いが、しっかりホラーテイストを楽しめるようなバランスを目指して開発されたようだ。
・ヒトグイ
都市伝説・怪異といえば『ボカコレ2026冬』に投稿された「「ヒトグイ、/ぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」だ。こちらは現在未完成だがボカコレに間に合わせるため投稿されたようで、完成版がYoutubeなど各種動画に投稿される見込みとなっている。ホラゲ要素は薄いが、ホラーテイストの中に怪異としての悲哀が描かれている。
https://www.nicovideo.jp/watch/sm45973678
・シンギュラリラリ
ホラゲというよりは怪異、怪異というよりはSCP、SCPというよりはクトゥルフのような冒涜的な異形が描写されているのは「シンギュラリラリ/さたぱんP」だ。まぁでもTRPGやクトゥルフモチーフのゲームも出てるし、ホラゲとしても括れはするか?ホラーではないものの、3DMVで超人的な機械というテーマは少し「ヘチレスじゃ物足りなくない?て言え/バーバパパ」を思い出す。(バーバパパの動画、ボカロ以外だと結構冒涜的なデザインも多い)
・はやくにげなきゃ
職員的な服装、異常な怪物がSCP的な「はやくにげなきゃ/佐藤ちなみに」は雨衣を明らかな異形としてデザインしており、ボカロキャラのカスタマイゼーションとして非常に優れた好例と言えるだろう。世界観の背景には恐らく「リミナルスペース」「The Backrooms」が存在する。
・「リミナルスペース」「The Backrooms」インスパイア楽曲群
ㅤ「リミナルスペース」は、インターネットミームの一種であり、空虚で不気味で不可思議な空間である。元々は建築用語だったが、長らくインターネットを彷徨った後、「The Backrooms」と呼ばれる画像をきっかけに爆発的に流行した。この「The Backrooms」に世界観を肉付けし、SCP財団のような「集団的創作ホラー群」となったのが現在の「The Backrooms」だ。これを元にして複数のホラーゲームが開発されている。
この様に「リミナルスペース」と「The Backrooms」は指しているものが微妙に違うのだが、今回は一纏めにさせて頂く。今や「リミナルスペース」/「The Backrooms」はボカロ曲において定番のモチーフと化している。
かなしばりに遭ったら/あばらや
ふぁうんどふってーじ/■37
えいえん特異点/にほしか
しっくなほうむ/犬飼
虚無さん/¿?
わたしのふるさと/ウチのボカロは様子がおかしい
ループザルーム/ルシノ
ブレインロット/東京真中
・HAZY MOON JUMPSTYLE
ㅤこのように「SCP」や「The Backrooms」は創作活動を誘発するジャンルだが、「創作の連鎖」「n次創作」「UGC」で名高いボカロも数多の創作活動によって支えられてきたカルチャーだ。その中でも近年は海外のキャラが立ったホラゲ/ホラーアニメを中心に「描いてみた」のようなファンメイドアニメーションも目立つ。「HAZY MOON JUMPSTYLE」はmagnetで有名なminato/流星Pのアルバム限定曲であり、知る人ぞ知る名曲「朧月」をサンプリングし、JUMPSTYLEに仕上げた楽曲だ。と言っても、「朧月」は無断転載などによって知名度を得たわけでもあるのだが。そしてこの楽曲はTiktokなどショート動画のBGMとして流行ったのが主な理由なので、ホラゲ/ホラーアニメのファンメイドアニメーションの文脈だけで決して語れる訳ではないが、Youtubeのリミックスしたショート動画一覧を覗くと、オンラインゲーミングプラットフォーム「Roblox」で公開中のインディーズフリーホラゲ「Dandy’sWorld」のファンメイドアニメーションがチラホラ見えてくる。鬼ごっこゲームのようで、「Dead by Daylight」や「Identity V」にインスパイアされたようだとFandam Wikiなどには書いてあるが、詳しいソースは不明。
(ちなみにサムネは普通に怖いので検索注意だが、Pinterestに投稿されている「Miku gore」が初出だと思われる。かつてDALL・E miniという、ウィル・スミスがパスタを手掴みで食べていた頃のような画像を生成しまくっていたAIで生成されていた初音ミクが一番似ている感じがするが、詳細は不明。アップデートを重ねたようで今は改善されているらしい。この様なミクは「Scary Miku」「Creepy Miku」などとも呼ばれ骸音シーエ的な文脈で一定の需要があるようだ。Tiktokに上がっている動画を見ると、初音ミクと恐らく雑雑音ミクのローポリ動画が出てくる)
・BUTCHER VANITY
突如現れ、恐らく日本で最も過小評価されている1億再生達成ボカロ曲だろう「BUTCHER VANITY/FLAVOR FOLEY」は、その背景に同じく「Roblox」で公開中のフリーホラゲ「FORSAKEN」の影響があったことがRedditコミュニティで語られている。同作は「Dead by Daylight」にインスパイアされたPVPゲームであり、同作におけるキラー(鬼)であるSlasherというキャラに追加されたスキン「Vanity」が「BUTHER VANITY」モチーフであり、付属するカスタムイントロが同楽曲のREMIXであるようだ。検索してみるとジェイソンの仮面を被ったYi Xiが見られたりする。(余談だが、このYi XiのデザインはBUTHER VANITY以前に存在しており、キャラクターデザインが存在しないライブラリにキャラクターを付与する二次創作群「VIMALION PROJECT」によって、VY2に対するロロのように与えられたキャラクターデザインが現在広く知られているYi Xiである。)
ところで、告知するのが少し遅くなりましたかな、はっきりと述べておくのが良いかもしれないと思いました!
— rice (@ricedeity) June 20, 2025
この子はだれもにお使いいただけます! 僕がデザインしたんですが、許可は取らなくていいので、ぜひ色々なオリ曲を作ってください!!
🗣️Yi Xi を使って曲を作れば大ヒット間違いなし‼(僕に) pic.twitter.com/oCCd4xq2dc
・色彩電気
(恐らく)ほぼ同じような文脈でスリーピー・ヒットを決めたのが「色彩電気/ムシぴ」だ。こちらはムシぴの初殿堂入り作品でありヒット作だったが、「FORSAKEN」によって再び、そしてかつて以上に注目されることとなった。こちらも「FORSAKEN」のキラー「c00lkidd」のスキン「Color and Electricity」のモチーフおよびカスタムイントロとなったのが「色彩電気」だったようだ。
・FROSTBITE
同じく「FORSAKEN」と「Project Diva: Deep Blue」のコラボにて実装されたのがサバイバー「1x1x1x1」のスキン「DIVA」であり、そのOST(オリジナルサウンドトラック)が「FROSTBITE/Ohaikou」だ。
「Project Diva: Deep Blue」はmirageLilithによって展開されているホラープロジェクトのAU(オルタネイト・ユニバース)で、初音ミク(を中心としたボカロキャラ)が歌姫として廃れた世界を描いているようだ。いわば、現代版ホラー初音ミクの終焉だ。あえて深くは言及しないので、気になった方は是非自分の手で情報を探ってみるといいだろう。「FORSAKEN」の他にも「Domino Effec」というゲームとコラボしているようだ。
ちなみに先ほどの「c00lkidd」には「DIVADAYO」というスキンも存在しており、こちらは「Project Diva: Deep Blue」の一環である「Dayo's Dollhouse」の主要な敵キャラのようだ。ちなみにこちらのチェイスBGMは「MIRACLE CATASTROPHE/Thrick,Ohaikou&
Thinasshi」だ。
https://pddb-fan.fandom.com/wiki/Project_Diva:_Deep_Blue_Fan_Wiki
https://sheusedtocallme.fandom.com/wiki/The_Weak_Voice_of_a_Diva_Wiki
https://www.reddit.com/r/Vocaloid/comments/1om1bfm/project_diva_deep_blue_the_vocaloid_horror_youve/
・BURNOUT
同じく「FORSAKEN」と「Project Diva: Deep Blue」のコラボによって実装されたのがサバイバー「Two Time」のスキン「Ghoul」とそのOST「BURNOUT/Ohaikou」だ。
ちなみに「FORSAKEN」に登場するボカロネタはRedditに有益なまとめがあるので是非ご覧頂きたい。
https://www.reddit.com/r/FORSAKENROBLOX/comments/1ng2qd1/every_vocaloid_thing_in_forsaken/
・メズマライザー
現在最も人気なインディーホラゲの一つであろう、「Poppy Playtime」に出てくるハギーワギーを元ネタにしているのが「メズマライザー/サツキ」のギザ歯ミクだ。今回のサムネにもお借りさせてもらった。(サムネ自体はイラストからデザインまで私が制作しています)MV担当のChannel氏が言及したことで発覚、サツキ氏は特に関与していないようだ。
・シニタイちゃん
この「Poppy Playtime」のファンメイドアニメーションに、JubyPhonicによるカバーverが使用されたことで更に注目を浴びたのが、「シニタイちゃん/すいっち」だ。特にキャラクター性と世界観の強い海外製のインディーホラゲは、ファンメイドアニメーションの動きが活発であり、間接的にボカロシーンにも影響を及ぼしたりしなかったりしている。
・アメイジングハッピーハロウィンナイト
世界中で大人気なインディーホラーアニメ「アメイジング・デジタル・サーカス」をモチーフにしているのが、「アメイジングハッピーハロウィンナイト/syudou」だ。ボカロ曲ではないが、「The Backrooms」をモチーフにした「インザバックルーム/syudou」の時といい、比較的早期にオマージュしており、syudouのインターネット・ホラー及びトレンドへのセンサーが優れていることが伺えるだろう。
「アメイジング・デジタル・サーカス」には、もしも1996年に同作が存在したら…?というロストメディア風の作品や、bunnycat氏による非公式イメージソングも等も存在している。
・ヤラララ
「ヤラララ/ABM」を始めとした同氏の作品には、ゾンビアポカリプスのようなホラーめのダークな世界観と、Undertaleの様なドットRPGのモチーフが見受けられる。現段階で明確なモチーフは分かっていないが、この様なビビッドな色合いと強めのデフォルメ、パキっとした線画などのホラー(ダーク)なカートゥーンスタイルは「ハズビン・ホテル」や「ヘルテイカー」などのインディーアニメーション/ゲームを想起させる。少なくとも「ハズビン・ホテル」のヒット、あるいはそれがヒットした土壌は、「ヤラララ」のヒットに多かれ少なかれ関係しているだろう。
なぜ「ホラゲ」は強いのか
で、ここまでが私の調査報告。ここからが私の所感になる。例を集めただけではつまらないので、勝手ながら簡潔に私の所感を述べさせて頂く。
なぜ「ホラゲ(を中心としたインターネット・ホラー)」が現行ボカロシーンにおいて重要なトピックなのか。それは、現行ボカロリスナーの主な属性である「グローバル」「若年層」「ジェンダーニュートラル」「厨二病」の最大公約数にリーチしているからである。ホラーは性別を問わず人気なコンテンツであり、最近のボカロは特に重音テトの性別:キメラなどを中心にLGBTQコミュニティが強いターゲット層の一つになっている。(Machine Love/Jamie Paige)また、ボカロの強い文法としてウェルメイドではない、インディーさを重視する文脈ともインディーフリーホラゲ/アニメーションは相性が良い。フリー/安価というのも重要。ボカロシーンは基本的に無料のMV群によって支えられており、だってボカロオタクは、お金がないからね。
ここに私が最近noteの記事や「ボーカロイド文化の現在地2」「ボーカロイド文化の現在地:海外特集号」で語っている「ボカロキャラクターMVへの回帰」「ボカロキャラのカスタマイゼーション」などを加えると、「メズマライザー/サツキ」「ブレインロット/東京真中」「ヤラララ/ABM」などの様な作品が生まれる。私が考えるに、この組み合わせが現行ボカロシーンの中で、最も再現性が高く確度の高いヒットを生み出す手法だろう。
以上、私なりの現行ボカロシーンの楽しみ方を共有した。この記事があなたのボカライフをもっと楽しくさせることができれば幸いだ。


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