健全な男子高校生の争い
上下戦争する類司(健全)です。類司(左右固定)です。
お互いのこと可愛いと思ってて、自然と自分が抱くものだと思ってるの良いですよね。
類は絶対に上がやりたい、司はそもそもあんまり考えてなかった(から自分が上をするものだと思っていた)感じです。
多分司は本質的にどちらでも良い派、でも下になったらハマるタイプ。
- 1,848
- 2,251
- 29,499
「司くんがそんな人だとは思わなかったよ……」
「それは、こちらの、台詞だーッ!」
オモチャ箱をひっくり返したような、類そのものを表したかのような部屋で、司は硬いソファの上で俯せになっている不機嫌そうな恋人を組み敷きながら、ここ最近で一番といって良い程大きな声をあげた。
☆
梅雨も明け、本格的に夏が始まろうとしている。
それはつまり、類と付き合ってから数ヶ月が経ったということだ。
恋人とは言っても、幼馴染曰くショーバカと称された2人が最優先するものは当然のようにショーであるため、昼休みの時間は打ち合わせになるし、外出すれば買い出しに、お互いの家に遊びに行けば鑑賞会になる。それらしい振る舞いと言えば、ふとしたときに、人目のつかない場所で唇合わせる程度のキスくらいだ。
もしかしたら、世間ではこういった恋人関係をあまり長続きしないように思うかもしれないが、そもそも司は愛を与えることにも、相手からそれを汲み取ることにも慣れていた。最初こそ照れていたものの、好きだと自覚したものには司は一直線タイプだ。
自分からキスをするときもあれば、好きだと愛を囁くときもある。類が少しでも寂しそうにしていれば抱きしめて、恋人には惜しみない愛情を注ぐ。未来のスターである自分には優先するものもたくさんあるが、愛しているのはお前だけだと。存外不安定になりやすく、愛情表現が不器用で、自分に対して少々疎いところがある類を心の底から可愛いと、大事にしたいと思っていた。
「君と、もう少し先に進んでみたい」
長い間公演していたショーの千秋楽を終えた帰り道。
そんな可愛い恋人が、片手で赤い顔を隠しながら「僕の親、今日と明日の2日間、家を留守にするんだ」と自信なさげに司の袖を引いて泊まりに誘ったのだ。
天馬司とて、健全な男子高校生である。他の同級生と比べて多少性欲が薄いほうな自覚はあるが、好きな人が出来て先に進みたい、──類と身体を重ねたいと思うのは司にとっても同じことだった。
沈黙に耐えられなくなってそっぽを向く類に、司はバクバクとうるさく鳴る胸を抑えつけて「……帰って、家族に泊まる旨を伝えてから、お前の家に行く」と小さな声で返事をした。不安そうにしていた類が目をまん丸にして、普段から下がり気味の眉をさらにへにょりと下げて幸せそうに笑う。きゅうきゅうと心臓が締め付けられるのを感じつつ、司は浮足立つのを耐えながらその場を後にした。
恋人というものを作ったのだから、当然ながら誠実でありたいと思う。
男同士での性行為は何度か調べたことがあるし、司の予習は既に完璧である。不安要素はたくさんあるが一番心配なのは、受け入れる側が初めての場合、後ろではあまり感じないということだ。痛みを与えるなど以ての外。類をいかに気持ちよくしてやれるかどうか、それはコミュニケーションを取りながら探っていくしかない。
今日は繋がれたら及第点な気持ちで行こう。あまり自分が緊張してしまっては類にも移ってしまうだろう。慌てなくていい、自分たちらしく歩み寄って行けばいいのだ。
「絶対に優しくしてやるからな」
予めドラッグストアで購入していたコンドームとローションを入れた鞄を握りしめ、そんなことを考えていると、あっという間に既に何度か訪れたことのある目的地にまでたどり着く。
これから抱く相手にどんな顔をして会えばいいのか分からず、『神代』と書かれた表札の前で少したじろぐ。
恐らくここ最近で一番情けない顔をしている自信はあるし、心臓は先ほどからバクバク言っていて、血液が沸騰してるのではないのか、というほど体温が高い。自分は緊張には強いタイプだと思っていたのだが。震える両手で頬を軽く叩き、覚悟を決めて表札横にあるインターホンに指を伸ばした。
鳴らしてから少しすればちゃりと鍵の回る音がして、それだけで心臓が飛び跳ねそうになる。
恐る恐る顔をあげれば、先ほどの制服姿ではない、ラフなTシャツ姿の類と目が合った。少々だらしなく伸びた首元から見える鎖骨が何とも目に毒だ。ぎこちなく視線を逸らしていると、緊張していると思ったのか「どうぞ」と類が安心させるように柔らかく笑う。
「お邪魔します……」
行儀よく三和土に靴を揃えた後、類の部屋までの移動中はほぼ無言だった。ガレージを改造した秘密基地のような部屋に入る片手間に、類が防音シャッターを降ろす。車のエンジン音や人の話し声が一切聞こえなくなるので、いまだけこの静けさは居心地が悪いというか、類を意識せざる得ないというか。気まずさに耐えかね床や机に目を向ければあちこちに小難しい計算式を並べた図面が散らばっていて、思わず眉間に皺が寄った。
「お前、部屋……」
「いやあ、これでも片付けたんだけれどね?」
先週このオレが片付けを手伝ったはずだが何故1週間でここまで散らかせられるのか。
それでも、この恋人のいつも通りさに緊張が解れたのは確かだ。普段の調子に戻れたのはありがたい。
「はぁ、オレが片付けといてやるから、お前は風呂で準備してこい」
「準備?」
今日くらいは甘やかしてやるかと溜息を吐いて腕をまくる司に、類は不思議そうな声で呟く。
「いや、だってお前……その、色々時間掛かるだろう」
「は?」
今度こそ素っ頓狂な声をあげる類に対して、司は手元に落としていた視線を類に向ける。
待て。なんでそこで眉間に皺を深める。嘘だろ?お前まさかここまで来て添い寝とか考えているのか。いや、もしや準備の仕方が分かってないのか!?こういうのもオレが手助けするべきだったんだろうか。気遣いのできない彼氏だと思われたらどうしよう。天馬司の一生の不覚になる。
なんとか良いところを見せねばと思考していたところで、類に強く腕を引かれ、司は片付け始めたばかりの硬いソファに尻もちをつく。
驚いて司が顔をあげると、何とも言えないような顔をした類が困惑気味に口を開いた。
「……司くん、ちょっと、お互いの認識を確認したいというか。違うな、お願いしたいことがあって、」
「……なんだ?」
眉間に皺を寄せたまま、少々顔色の悪くなった類が同じ目線になるよう腰を屈め、肩に両手を乗せた。深刻そうな、尋常ではない雰囲気に司は息を詰まらせ、恐る恐る類に視線だけで続きを促した。
「──僕が、司くんを、抱きたいんだけれど」
「………………………は?」
たっぷり10秒ほど沈黙した後、司の口からは先ほどの類に負けないくらい間抜けな声が零れ落ちる。
抱きたい、誰が。類が? ……誰を。……オレを?
「……オレが、お前を、抱くんじゃなくて?」
「……やっぱり、君もそのつもりだったのかい」
そう言って類は片手で額を抑えて「どうりで話が嚙み合わないわけだよ……」と大きなため息を吐き出し、司の前でしゃがみこんで脱力する。
司もようやく頭の回転が状況に追いつく。
つまり、類も司も、お互い相手を抱くつもりでここに来ていたということで。そしてこのままでは、ショー休み且つ親も留守という貴重なこの機会がお預けになってしまうわけで。
「……る、類!今から抱かれてくれたりとか」
「ない」
「おま、あんなに可愛い顔して家に誘っておいて、オレを抱きたいとか嘘だろ!?」
だってオレは誰から見てもカッコイイ男前なスターで、類は滅茶苦茶に可愛いのだから、当然オレが抱く側だと思うじゃないか!
そう司が驚愕しながら叫べば、類の肩がぴくりと揺れる。
「ふぅん、君にはそういう言い分があるわけか」
小さく呟いて類がゆらりとその場で立ちあがる。
どれだけ、どれだけ勇気を振り絞ったと思ってるのか。どれほど緊張して羞恥を飲み込んで、それでも司の全てを暴きたいという欲に駆られ、理性を総動員して来た末の提案だったと思っているのか。
青筋をうっすら浮かべながら、類は爽やかな笑顔で司を見下ろす。
「顔立ちや表情は関係ないんじゃないかな?それで言えば君のほうが幼い顔立ちをしているし、玄関先で僕の顔を見たときの表情なんて生娘みたいで可愛かったけれど?それに体格的にも小さくて愛らしい君を抱きたいという発想が出るのは自然なことじゃないかな?」
「きっ……!?」
わざとらしく、口にはしてないものの司が気にしているであろう顔立ちの幼さや、身長のことあげて神経を逆撫でする。
怒りか羞恥か、はたまた両方か。わなわなと顔を赤くし肩を震わす司に、今のは言いすぎてしまっただろうかと目を逸らしながら類は思考する。何も言わない司に対し、ちょっと大人げなかったかも知れないと小さく反省して、視線を司へ移し謝罪を口にしようとしたときである。
「体格差というなら筋肉量ではオレのが上だろう、が!!」
「うわっ!?」
不意を突かれ、司に足払いをされた類はそのままぼすん、と軽やかにソファに転がされた。うつ伏せになった状態の類にすかさず跨り、ふふんと得意げに司は鼻を鳴らす。そういえばこの王様は案外短気だったな…してやられた。と、類は首だけ動かして司を半目で見上げた。
勿論、双方お互いの了承を得ないまま事に及ぶつもりは毛頭ない。
これは、もはやただの男のプライドを刺激された男子高校生の喧嘩だった。しかも、かなりくだらないレベルの。
☆
「……お互い少し冷静になろうか」
「オレも今それを言おうと思っていたところだ……」
頭に血が上っていたとは言え、こればっかりはお互いの確認不足であり、責めるべきでない。付き合い始めてからここまでキス程度の触れあいしかなく、そんなところに突然チャンスが転がってきたことで浮かれきっていたのは認めよう。
組み敷いていた類に一言謝罪し、司は身体を起こしてソファの背へもたれかける。どうしたものかと、同じように隣へ腰かける類の横顔を覗き見する。
ちょっと戸惑っているような、整ったその顔立ちに「やはり可愛いな」「好きだな」という感情が沸き上がる。確かに司は類を抱く気満々ではいたが、それは『類は可愛い=女役』という固定観念があり、それが自然なのだと自分の中で結論付けてしまっていたのだ。そこまで思考して、司は気づいた。
そもそも、類に抱かれている自分を想像したことがなかったな。
「類、ちょっとオレのこと触ってみてくれないか?」
類の背筋がピンっと伸びる。見えない猫耳や尻尾が逆立っているようにも見えるその姿に思わず苦笑しながら、ソファに座っている恋人の膝へ顔が見えるように跨って、司は誘うように類の首に腕を回した。
「ごめん、ちょっと待って。なに?」
「お前に抱かれるイメージがつかん。試しにお前からキスとか……リードしてみてくれ」
どちらかと言えば、類は愛に臆病で遠慮がちなほうだ。よく言えば紳士的なのかもしれないが、恋人同士だというのにキスひとつ司に許可を取るし、そういった愛に慣れてない部分が司の庇護欲を搔き立てていたのかもしれない。
「オレは正直、類ならどちらでも良いのかもしれない。というか、抱かれる側を想像できないから答えが出せない、といった具合だ」
「そんな軽率に触らせて、僕が止まれなくなったらどうするの」
膝に乗せた司と鼻先がくっつきそうなほど、類が顔を寄せる。
ギリギリ触れないくらいの至近距離。類の両手はまるで理性を抑え込んでいるかのように固く握りしめられている。そんな類の気を知ってか知らずか、試すように司は言葉を続けた。
「言っただろ?筋肉量ならオレのが上だ。それに類はオレが本気で嫌がったら止まるだろうしな」
絶対的な信頼は時として残酷だな、なんて類は考える。
君が想像できないのも当たり前だろう。こっちが普段からどれだけ我慢してるか知らないくせに。想像の中で、どんな風に組み敷いて、啼かせているのか。
しかし、これは類にとっては最大のチャンスでもある。司はまだ結論を出していない。つまるところ、想像できれば抱かれてやってもいい、と言っているようなものだ。しかも司からの据え膳状態で。なんでもない顔で彼はいつも平然とこちらの理性を揺さぶってくる。常日頃から距離が近めではあるが、あれは完全に司の無意識であり、今回のようなわざと挑発するような機会はなかなかに無いことだ。
ならば、司から与えられたチャンスをみすみす逃がす手はないだろう。
自分の理性には多少無理をして貰うかもしれないが、と自嘲気味に笑って、類はきゅうっと目を細めてから、司の両目を覗き込んだ。
「──司くんが、僕に抱かれたくなるようにすればいいんだよね?」
月のような瞳の奥で、獲物を前にした獣のようにギラギラと光る。にんまりとチェシャ猫のように口角が上がり、司の腰を引き寄せその白い首筋にひとつ、キスを落とす。びくりと肩が飛び跳ねて、膝の上で身じろぎする司をやんわりと腕の中へ押し込める。
「好きだよ司くん。僕に抱かれて欲しいな」
今までで一番甘ったるい声を出して、司の耳に問答無用で愛を囁きねじ込んだ。愛情の与え方を教えてくれたのは他でもない司だ。そこに己の欲望をほんの少し足して、そのままかぷりと耳たぶを柔く噛む。耳の淵をなぞるようにわざとぴちゃぴちゃと水音が聞こえるように舐めて、小さいリップ音を立ててキスをする。鼓膜が揺れる度に背中が粟立つ司は、殆ど反射的に噛まれた耳を両手で抑えて狼狽える。
「……い、今のはちょっと、ぐっと来た。」
目が回る程に視線を彷徨わせて頬を紅潮させる司は、必死に平静を装って虚勢を張った。バクバクと高鳴る心臓がどちらのものか分からないくらいに密着したこの体勢が、類に正面から跨っているという状況が途端に恥ずかしいものに思えて司は思わずヒクリと喉を鳴らす。
「司くん、もっと僕を意識して?」
類は骨ばったしなやかな指を司に伸ばし、耳裏をなぞりながらうっとりと愛を囁き続ける。機械を常に触っているためか類の手は乾燥していて、ところどころ皮膚が硬く厚くなっている。それは一見手入れが十分にされてないように見えるが、反面指先は綺麗に整えられており、深爪しているのは今日自分を抱くためだったのではないだろうかと司は錯覚しそうになる。
思考が上手くまとまりきれない間に、今度は噛みつくように唇が塞がれ、呆けた口にするりと、類の熱い舌が侵入する。ざらりと上顎を舐めて、歯列をなぞられる度に全身から蒸気が出そうなほど司の体温は高くなる。深い口づけに思考や呼吸まで奪われていき、司は身体が沸騰する感覚に思わず強く目を閉じた。
──もしや、オレはとんでもない提案をしてしまったんじゃないだろうか。
るい、あんなに、かわいかったのに、かっこいい。
そんな混乱している司を、類は据わった目つきで観察する。
あぁ、本当に止められなくなりそうだな、なんて思いながら既に腹を括り終えている類は、司の理性がぐずぐずになるための作業を興奮が抑えきれないまま探り探りで続けていく。
こんなの殆ど我慢比べだ。でも類には今回限りは自信がある。既に蕩けて美味しそうな司の唇に噛みついた。
甘い甘い砂糖菓子のような星が落ちてくるのを待ち続けるのは、もう類の専売特許なのだから。
「覚悟してくれ、司くん」
数分後、想定より早く恋人を求めてきた司に、本当に歯止めが効かなくなりそうになって大慌てした類がいたのはまた別の話である。
了
いつも楽しくお話拝見しております。今回のお話も最高でした…最高でした!!もし機会がありましたら、最後類くんのいう「別の話」も…是非読んでみたいなって……(図々しくてごめんなさい)素晴らしいお話をありがとうございました!!!