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気付いてほしい天才少年 VS 友人想いの鈍感少年/Novel by 蒼龍

気付いてほしい天才少年 VS 友人想いの鈍感少年

25,320 character(s)50 mins

漫画のプロットとして書いたもの供養2つ目となります。
n番煎じネタです。
単純に長過ぎて漫画として書き起こすのが面倒になりましたが自分としては割と気に入ってます。

以下注意点です。
・文章能力、語彙力が乏しい人間が書いてますので読みにくいと思います。
・一応恒常のシナリオは完読してますが設定を忘れている場合があります。
・何でも許せる人向けです。

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今日は天気も良いし優雅に外でランチを決め込むかと中庭に出たところだった。

「神代先輩の事が好きです」

図らずも耳に入った可愛らしい声に、オレは動けなくなってしまったのだ。
神代先輩、恐らくこの神山高校内で神代という名字はあいつだけだろう。隣のクラスに転校してきたオレのショー仲間である神代類である。

物陰に隠れて覗いてみると、想定通りの人物と一回り以上小さい女子が立っていた。これは告白現場というやつだなと推測しながら類のことを考える。

確かに見た目はかなり整っているし頭も良い。普段の奇抜な行動を除けば、見た目の華やかさから女子に人気が出るだろうとは常日頃から感じていたんだ。それに実験を除けば性格も紳士的で誰に対しても優しく、好きなことに関してはとことん一途だ。そう考えるとあの女子は見る目があるなと誇らしくなる。オレよりも人気がある点は文句を言いたいところだが、友人が好意的な目で見られているという事は素直に嬉しい。
しかし、続く類の言葉にオレは再度固まったのだ。

「すまない、好きな人がいるんだ」

類の好きな人。好きな人だと!?
まてまてまて!?初耳だぞ!?
失礼な話だが、いつもショーの事しか考えていないような人物が他の人を好きになる事など考えられん!いやまて、寧々か暁山か?違うな。寧々の事をそのような目で見ているようには感じないし、暁山との距離も近すぎず離れすぎずという感じだ。ではファンの子か?それか『ショーが僕の片想い相手さ』なんて言い始めるかもしれない。あいつならあり得る。

「おや?司くん。こんなところで何をしてるんだい?」

気持ちはわかるぞ。オレも好きなものといえばショーだからな!しかしショーが恋人というのも中々かっこいいセリフだ。今度の脚本に織り込んでみるか?

「おおい、司くん。聞こえてないかな?司くん」

不意に肩を叩かれ思わず顔を上げると、そこには類がいた。

「なんだ…おわっ!?類!?」
「やぁ、随分と考え込んでいたようだけどこんな所で何をしていたんだい?」
「あぁ…いや」

ここで見つかっては『盗み聞きしてました』と白状しているようなものである。オレは隠し事が苦手なのでここは素直に伝えて謝る他無いか。

「すまない、ランチを食べようと移動してたら聞こえてしまってだな…友人のことだったからつい立ち聞きしてしまった。悪いことをしたな…」
「フフ、そう落ち込まないで。僕は気にしてないよ」
「いや、しかし仲間とはいえプライベートな事だ。オレが聞いて良いものではないだろうし出来る限り忘れるように努める」
「そうかい、君がそう言うなら…ちなみにどこから聞いていたんだい?」
「ええと、初めからだ…」
「そう。それなら僕に好きな人がいるという事も?」
「…聞いてしまった」

流石のオレでも罪悪感を感じてしまう。
正直今はこの男の前から立ち去りたい。

「こ、こんな雰囲気だと気楽に休めないだろうし、オレは別の場所でランチを食べることに」
「まって、司くん」

逃げ出そうと踵を返したところ類に腕を掴まれる。しまった、逃げられない。

「なんだ!?」
「すこし僕の話に付き合ってもらえないだろうか?」
「この状況でか!?」

お前も大概空気を読まないな!?
この状況で普通誘うか!?

「な、何の話だ?」
「その好きな子についてさ」
「嘘だろう!?」

こいつのメンタルどうなっているんだ?
いや、聞かれてしまったから逆に振り切れた可能性もあるのか?

「所謂恋愛相談というやつか?」
「所謂恋愛相談というやつだよ」
「それはオレじゃないと駄目か?」
「他の誰でもない、君がいいんだ」

こんなやり取りをしながら、ふと気付く。
類が恋愛相談するとして他に相手がいるだろうか?
寧々は距離が近すぎて相談するには躊躇うだろうし、えむは…親身には聞いてくれそうだが、恋愛相談をするような相手としては選びにくいだろう。
暁山は一番相談しやすいだろうが、登校自体疎らで出会えるタイミングが少ない。
そう考えるとオレが適切だろう。

それに…この天才少年から演出以外で頼られる事に嬉しく思っている自分がいる。

「…わかった!お前の相談にこのオレが乗ってやろう!」
「本当かい?ありがとう、司くん」
「ハーッハッハッ!大船に乗ったつもりで任せてくれ!」
「頼もしいねぇ」
「とりあえずこんな所にずっといるのも何だし屋上へ移動するぞ!」
「フフ、了解」

オレは類の力になれるし、類の恋が成就するかもしれない。
それに実れば類が笑顔になる、そう考えると自然と足取りが軽くなった。

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屋上に移動したオレ達は食事も早々と済ませ本題に入る。

「それでは第一回作戦会議を始めるぞ!」
「ただの相談なんだけどねぇ」
「揚げ足を取るんじゃない!さて、まずは意中の相手について色々教えてくれ」
「そうだね…」

類はそう一拍置いて、ぽつぽつと相手の特徴を挙げていく。

「純粋で友達想いの子なんだ。それに明るくて前向きで、好きな事にとことん一途だ」
「ふむ」
「あと家族に対して深い愛情を持っていてね、家族をとても大切にしているんだ。そして何より…」
「何より?」
「ショーが大好きな子なんだよ」

聞き終えた瞬間オレは確定した。
これは成功すると。

「それは…滅茶苦茶良い子じゃないか!!!」
「だろう?司くんならそう言ってくれると思ってたよ」
「何より共通の趣味があるのは良い事だ!会話が続きやすいし話題も広がる!」
「そうだね、助かってるよ」
「そうだ、嫌なら答えなくて良いのだが…その相手はオレの知ってる人物か?」

思索してみても該当する人物を推測できなかったので、念の為聞いてみることにする。

「…もしかしたら司くんも知ってるかもしれないね」
「おお、そうなのか!お前さえ良ければ一度会ってみたいものだ!」
「それは…難しいかな」
「そうなのか?」
「司くんは格好いいからね。君に惚れてしまったら僕が困るんだ」

類にしては珍しく謙虚だな?
しかし、類から外見を褒められるとは思わず破顔してしまいそうだ。
オレも話ができるなら類をアピールしようと考えていたが、本人からこう言われると身を引かざるを得ない。ハーッハッハッ!オレの溢れ出るスター性を恨むといい!

「フッ!確かにオレの魅力がうっかり相手を惹きつけてしまうかもしれないしな!ここは類一人で頑張ってもらおう!」
「フフ、そうしてもらえると助かるよ」
「と、なると…よし!」
「うん?どうしたんだい?」

並んで座っていたベンチから腰を上げる。正直同じショー好きで、そこまで情報が手に入るような間柄なら勝ち筋はみえているようなものだ。
しかし!このオレがアドバイスをするんだ。デートから告白の流れまでを最高なものにしなければならない。
普段、後方を担当する演出家が主役なのだ。
それならば。

「いいか!類!この一大ショーの主役はお前だ!そして今回の演出家はオレということになる!」
「…そうだね」
「今週、お前に最高の演出ができるように考えてくるから期待して待っていてくれ!」
「フフ、いつもと立場が逆だね」
「なに!座長なら演出もある程度は出来るようにならないとな!それに…」
「司くん?」
「いや、単純にお前をメインとした演出を一度考えてみたかったんだ。初めて演出を考えるなら類が良いなと。オレ達の演出家を自慢できる機会があればといつも思っていたのでな」

楽しそうに演出を考えている類の姿が頭を過ぎる。このワンダーランズ×ショウタイム結成よりずっと類は他人を綺羅びやかに魅せられるように素敵な演出を幾つも考えて提案してくるが、実は類自身をよく魅せるようなものは今まで無い。だから、この目立つ男に対し主役として演出をつけられるのだと、オレ達の演出家は魅力あふれる奴だとアピールできる機会が出来たことは、オレにとって喜ばしい事だ。
思わず綻ぶ表情を隠すように片手で頬を抑えながら類を見ると、類も片手で顔を隠すようにしていた。何だ?笑っているのか?

「…それ、ちょっと卑怯じゃないかい?」
「類?」
「何でもないよ。それでは座長のとびきりな演出に期待しよう」
「ああ!任せてくれ!」

丁度よいタイミングで予鈴が鳴る。
さて、オレも恋愛について勉強しなければな!

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「咲希ー!!!」
「わっ!お兄ちゃん、おかえりなさい!」
「ただいま!帰って早々悪いが咲希にお願いがあるんだ!」
「ん?なになに?」

帰宅すると咲希が既にリビングにいた。これは好都合だ。

「えーっ!?お兄ちゃんが恋愛!?」
「なっ!?違う違う!る…友人のだ!」
「それって恋愛相談受けてるってこと?すごーい!青春っぽい!」
「青春か…言われてみればそうだな」
「あっ!もしかしてお兄ちゃん、こういうこと初めてでよく分からないんでしょ?」
「ぐっ、痛いところだが流石だ。その通り相談を受けたもののどうアドバイスすれば良いか悩んでいてな…」
「ふふふ、そんなお兄ちゃんにピッタリの雑誌があるのです!」
「本当か!?」
「えへへ、ちょっと待ってて!」

駆け足で部屋へ向かう咲希を見守りながら、ふと『類の片思い相手は咲希では?』と頭をよぎった。確かに類が挙げていた特徴に一致しているような気がするが…ショーが特別好きというわけではないなと思い直す。
第一、咲希の恋人として立候補するならオレに話を通してもらわないと困るんだ。性格や外見その他諸々審査させてもらうからな!!!

「おまたせー!って、もー!お兄ちゃん!また変なこと考えてたでしょ?すごい顔してたよ」
「いや、咲希のことを思って…おお、沢山あるんだな!」

咲希は部屋から持ってきた雑誌をリビングのテーブルに次々と並べていく。

「恋愛っていうかモテたい!系の話題って結構いろんな雑誌で特集されてるよ!」
「ほう、そうなんだな」
「あっ!これなんかお兄ちゃんにぴったりかも!」

とても楽しそうに色々な記事を見せてくれる咲希をそっと眺める。まるで自分の事のように真剣に考えてくれる咲希の優しい性格が好きだし、兄として誇りに思う。何より咲希の元気がオレの原動力でもあるんだ。だから。

「ありがとな、咲希」
「え?ふふ、どういたしまして!お礼は新作チョコミントのお菓子がいいなぁ!」
「ああ!今度買ってこよう!」
「わーい!さっすがお兄ちゃん!あ、これなんてどう?」
「どれどれ…」

オレ達は並べた雑誌を互いに見せ合いながら吟味していった。そして、未来のスターによる最高なプロデュース案が完成したのだ。

「おお!これならあいつの恋も実るに違いない!感謝するぞ!咲希!」
「やったー!お疲れ様!お兄ちゃん!」

完成記念に二人でハイタッチ。
それに『頑張ったお兄ちゃんにご褒美!』と言いながら咲希がココアを入れてくれた。本当に良く出来た妹だとしみじみ感じながら隣りに座った咲希の頭を撫でる。

「もーっ!セットが崩れちゃうよ!」
「良いじゃないか、家の中だろう」
「まぁそうだけどぉ…ふふ、お兄ちゃん楽しそうだね!」
「あぁ!友人の力になれるのかと思うと嬉しいんだ!」
「わかるわかるー!あ、でもアタシはちょっと寂しいかもなぁ」

少しだけ声を落として咲希は言う。

「寂しい?」
「うん。だってもしも、いっちゃん達に恋人が出来ちゃったらバンドの練習とか一緒に居られる時間少なくなっちゃいそうだもん。でも、アタシに気を使ってこっちを優先してもらうのもなーって思っちゃうし…」

そう言われると確かにそうだ。類に恋人ができたなら自然とオレと過ごす時間も少なくなるだろう。それは確かに寂しいものだな。

「確かにそれは寂しいかもしれないな」
「お兄ちゃんもそうなの?」
「ああ」

だが、オレは一つだけ確かな事があるんだ。

「だがな、咲希。オレはあいつが恋愛とショーを天秤にかけた時に"どちらかを取る"とは思えないんだ」
「どういうこと?」
「あいつは好きな事にはとことん貪欲だという事を嫌というほど知ったからな。選ぶときは両方掴んで見せる奴なんだ。だから恋人との時間も勿論そうだが、オレ達とのショーも絶対に成し遂げるはずだ」
「ふふ、お兄ちゃんその人の事すごく信頼してるんだね」
「ああ」

オレと過ごす時間が少なくなろうと、オレ達とのショーは必ず続けてくれる。その確証がある限りオレは平気だ。

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「類!神代類は居るかー!?」

朝のHR前に2-Bの教室へ行くと眠そうに机に伏している類を発見する。類には悪いが時間もないので揺さぶり起きてもらうことにした。

「類!起きろ」
「ううん…おはよう司くん。朝から元気だねぇ」
「勿論だ!今日も朝から咲希が美味しい朝ごはんを作ってくれたものでな」
「それで僕に何か用かい?」

咲希手作りの美味しい朝ごはんを自慢したかったのだが遮られてしまった。むむ。

「今日の放課後、時間あるか?」
「今日かい?ショーの練習も無いし暇だけれど、どうしたんだい?」
「それなら良かった!放課後行きたいところがあってだな!付いて来てほしいんだ!」
「おや?小道具の買い出しかい?」
「ハーッハッハッ!それはその時に詳しく説明する!ではまた放課後!」

HRが始まってしまうのでオレは足早に自分のクラスへ戻った。よし、これでプロデュースその1を決行できるぞ!

--

「それで、どこに行く予定なのかい?」

来る放課後。約束通り校門前で類と待ち合わせてお互い歩き出す。

「フッ!お前の恋を実らせる完璧なプランが出来たものでな!それを実行する前にまずは…服を買いに行くぞ!」
「誰の?」
「お前のだ!大体、この前の遠征時も思っていたが類の私服は少し…奇抜だと思ってな」
「おや?マネキン買いの司くんに言われるのは心外だねぇ」
「オレの事は別に良いだろう!?まぁそういう事で今からデート用の服をオレが見繕ってやる!」
「司くんが?」
「ああ!一応勉強もしてきたからな!任せろ!」

この時のためにファッション雑誌を沢山買ったんだ。事前に咲希からもOKを貰ったし何より…類がその服を着ている姿をオレが見てみたい。

「分かった、付いていくよ。君が選ぶ服も気になるしね」
「よし!」

類からの承諾も得たことなので、早速ショッピングモール内の目星をつけている店に足を向けた。

--

服をいくつか試着させてみて分かったことがある。

「類、お前…ずるいな」
「うん?何が?」
「いや…」

今で意識したことが無かったがこの男、少し猫背であることを除けば顔だけでなく長身にスタイル抜群と既に完成されているのだ。その為、何を着せてもそれなりに様になってしまう。そういえば常に着ているオーバーサイズの緩い服や、あの遠征の時に着ていた奇抜なデザインの服もそれなりに着こなしていたな。

「ぐぬぬ、オレだってスタイルには自信がある!!あとはもう少し身長さえあれば…!」
「うーん、話の意図がよく見えないねぇ」
「お前の身長を少し分けて欲しいところだな」
「おっと、縦に伸びることをお望みかい?それなら今度ポップアップ台に新しく…」
「違う!!物理的に伸ばそうとするんじゃない!!いや、物理的に伸ばしたいけれども!!」

ちなみに、類が今試着している服はネイビーのチェスターコートにグレーのタートルネックという無難な組み合わせのものらしい。咲希が何度も『この組合せが絶対似合うよ!』と言っていたな。事実かなり似合っており流石はオレの妹だと感心するばかりだ。

「しかし、その格好は特に似合うな」
「フフ、司くんはそう思うのかい?」
「ああ、悔しいが格好いいぞ」
「…それは嬉しい言葉だねぇ」

スタイルが良い事もあるから身体のラインが出る服が型にはまると思うし、髪色が派手だから落ち着いた服の色が全体的にバランスよく映えている。ふと類を見ると、先程よりも嬉しそうにニコニコと笑顔を浮かべている。何故こんなにも機嫌がいいんだ?

「でもこの組み合わせは司くんにも似合いそうだよ?」
「むっ?確かにそうだな」
「何ならお揃いで買うかい?」
「いや、友人同士で服をお揃いは流石にどうかと思うぞ」
「フフ、冗談だよ。さて折角君に選んでもらった事だし買ってくるね」

レジへ向かう類を見送る。こいつの冗談は冗談に聞こえない時があるから困るんだ。
店の外にある椅子に座って待っていると先程同様にこやかな顔で戻ってきた。いや、ニヤニヤと表すべきなのだろうか?
類は隣に座りつつ、質問を投げかける。

「ところで司くん。考えてくれたプランの内容を聞いても構わないかい?」
「おお!気になるか!」
「僕に関わることだしね。気になるよ」
「フッ!それでは渾身のデートプランを教えようじゃないか!」

持ってきたメモ帳を見せながら類に一つ一つ説明し始める。
オレと咲希が考えたデートプランは主に3箇所巡るものだ。まずは今いるショッピングモールでの買い物。咲希曰く、女性は二人で買い物というシチュエーションが好まれるらしく、そこでご飯を食べながらゆったりと過ごすとなお良いらしい。

次は最近近場にできた水族館だ。県内でも屈指の巨大水槽が設置されているようで既に人が多いらしい。見た目がきれいな魚が沢山飼育されている上ショーの種類も多いと咲希は言っていた。正直、オレも気になっているスポットだ。

そして最後はお馴染みのフェニックスワンダーランドだ!ここでナイトショーか、豪勢なフェニックスステージのショーを見てお互いが盛り上がったところで告白へ進める、という内容だ。
我ながら良いプランだなと改めて感じながら説明を終えたところで、類が口を開いた。

「成程、君にしては無難なプランだね。ところで一つ気になるんだけれど、最後に見るショーはどうしてワンダーステージのショーじゃないのかい?」
「ん?ああ、オレも最初はそう考えたんだがな…」

そう、ワンダーステージのショーでも良かったんだ。
けれど。

「デートという事なら類は観客側になるだろう?」
「そうだね」
「その場合、オレたちのステージは1人欠けてしまうことになる。それだと…オレが許せない」
「うん?」
「オレ達のショーは四人揃って完成されているんだ。一人でも欠けてしまうとそれは完成されたもので無くなってしまう。当然体調不良等でこのような事もあり得なくもないからな、普段のショーなら仕方の無いことで済ませられるが…仲間の大切な日に不完全なショーで締め括って欲しくなかったんだ」
「司くん…」
「折角見せるなら最高のショーを見せたいものだろう?まぁ、それこそオレの魅力で類の想い人を惹き付けてしまうかもしれんしな!ハーッハッハッ!」

類が黙ったまま暫く沈黙が続く。
もしやこれは悪手だったかと思い恐る恐る類を見ると破顔した表情を浮かべながら頭を片手で抱えていた。

「何故さっきからニヤニヤしているんだ!」
「いや…フフフ、君って本当直球だよねぇ」
「直球?何がだ?」
「そういう所を僕も見習わないといけないなと思っていたところさ」
「よく分からんが、これは褒められてる気がするな!」
「御名答。これは正しく司くんを尊敬しているよ」
「フッ!なら良し!」

褒められてつい嬉しくなっていると、膝に乗せていた手をそっと握られる。

「早く気付いてほしいものだねぇ」
「何をだ?さっきから話についていけないんだが」
「フフ、素直で良いことだけれど相手の気持を読み解く事もショースターとしては重要だと思うよ」
「それは類が教えてくれないからだろう?どれほど考えたって言われないと分からんものは分からん!」
「それはそうなんだけどね。そうだ司くん、掛けをしようか」
「掛け?」
「ああ。僕の想い人を当ててほしいんだ」

突然無理難題を出題されたのだが。
いや、教えてくれないのに難しくないか?それ。

「はあ?以前聞いたとき秘密だと言ってなかったか?」
「秘密だとは一言も言ってないよ」
「それにさっきも言ったが情報が無さすぎて当てられる未来が見えないんだが!」
「それは大丈夫。君ならきっと気付いてくれると信じてるさ」
「なぜオレはこういう事で信頼されてるんだ?」
「フフ、だって司くんだからね」
「答えになってない!」

しかし、信頼されていると言われてしまえば掛けに乗るしかなくなってしまった。この口達者め。

「わかった。出来る範囲で考えてみる」
「君なら乗ってくれると信じていたよ、フフ」
「もっと別のところで信頼して欲しいものだが」
「おや?僕はいかなる時も司くんを信用しているし信頼しているさ」

前のやり取りが無ければ素直に嬉しかったのに、何故か含みがあるように聞こえるぞ。

「そうやって素直に褒めるとは、まだ何か企んでいるのか…?」
「いいねぇ、段々とわかってきているじゃないか。企んているとは少し違うけれどその通りだよ」

そう言うと類は、奥の方のとある店を指差した。

「タピオカジュース?」
「ここで話してばかりも何だと思ってね。服を選んでくれたお礼に一杯奢りたいんだけれど、どうかな?」
「おお!いいのか?」
「勿論。常識的金額範囲内であればどれでも」
「感謝するぞ!類!」

思わず嬉しさを全面に出してしまった。
これでは"がめつい奴"と思われてしまうではないか。

「フフ、分かりやすいねぇ。君は」
「う、うるさい!別に奢ってもらうことに対して喜んでるわけじゃないぞ!」
「そうなのかい?」
「実はタピオカドリンクというものを飲んだことが無くてだな…」

咲希が入院している時に読んでいた雑誌で特集されていたものを見せてもらったことがある。
柔らかい餅のような食感で甘いドリンクに合うと書かれていて、咲希がすごく飲みたそうにしていた。そういえば、少し前に『いっちゃんと飲んだよ!』ってうれしそうに報告していたな。

「奇遇だね、僕も飲んだことが無いんだ」
「おお!ではこのロイヤルミルクティーが美味しいと雑誌に書いていてな。オレはこれにしようと思うのだが、類はどうする?」
「いや、僕は別の味にしてみるよ。同じ味だと面白くないだろう?では買ってくるね」

そこまで並んでいなかった為すぐに類は戻ってきた。見た感じだと類は抹茶系を選んだようだ。
そういえば先程、掛けと言っていたな?何を掛けるんだろうか。

「おまたせ、はいどうぞ」
「ありがとう、類」
「どういたしまして」
「類のそれは抹茶か?」
「抹茶ミルクだよ。無難だろう?」
「確かにな」

軽く会話をしながら一口啜ると早速タピオカが口の中に入り込む。ミルクティーがそこまで甘くないものとなっていたからか、タピオカの甘さがより引き立っているように感じた。
おお、これはなかなか。

「旨い!」
「それは良かった」
「類も飲むか?」
「え?」

そう言いながらドリンクを差し出すと、笑顔のまま類が一瞬強張った。怖いものでも何でも無いだろう、なぜ強張る。

「ああ、他人が口を付けたものは嫌というタイプか。すまない」
「違うよ、少し驚いただけさ。では一口貰ってもいいかい?」
「ああ!」
「よければ僕のも一口どうぞ」
「おお!悪いな!」

抹茶ミルクも気になっていたことがバレてしまった。だが飲み比べというのも友人ならではというものだろう。うむ、抹茶もなかなか旨い。

「これもなかなか旨いな」
「そっちも美味しかったよ。ありがとう」
「こちらこそだ。それでさっきの掛けについてなんだが…」
「ああ、僕の想い人の話だね」
「何を掛けるんだ?」
「そうだねぇ…なら勝った方が負けた方の言うことを聞く、というのはどうだい?」
「それ、掛けになっているか?勝つ意味が無いだろう」
「おや?でも当てられる気がしない君側からみると有利な賭け事だと思うけど?」
「…確かにそうだな?」

確かに今の情報だと負ける確率の方が高い。というか、勝てる気がしない。
ならば好条件であるそれを受け入れるしかないだろう。

「わかった、その内容にしよう」
「けれど、負ける側が有利だからと手を抜くのは無しだよ?」
「勿論だ!何事にも全力でこなすのがスターというものだろう!」
「フフ、そうこなくてはね」

勝つ気がしないからこそ、色々と探ってみようじゃないか。しかし今時点でも本当に相手が分からん。親戚など親しい人の話になってくるとますます当てられる気がしないな。

「美味しかったぞ、ご馳走様でした」
「たまにはこういう甘いドリンクも悪くないねぇ」
「そうだな!咲希が飲みたいとずっと言っていた理由もわかる気がしたぞ」
「おや、咲希くんがそんな事を。そうだ、話は変わるけど今度ショーに使うロボットのデザインをタピオカみたいに黒くて丸くすると可愛くなりそうだね」
「おお!でもそれなら黒じゃなくてもう少しカラフルなものにしたほうが受け入れやすそうだぞ」
「そうだね、見た目をうんと可愛くしてアニメチックにすると子供にも人気が出そうだ」
「いいな!勇者の下僕のようにしても良いしどこかのキャラクターのように愛すべき雑魚モンスターのような立ち位置でも面白そうだ!」
「そうだねぇ、それに…」

ああ、楽しい。
類とならいくらでもショーの話が出来るんだ。
不意に咲希との会話を思い出す。そう、類に恋人が出来てもショーは続けてくれるだろうから寂しく無い筈なんだ。
けれど恋人が出来たなら、友人という立ち位置上こうして時間を気にせずショーの話をする事も減っていくのだろうな。
それは名残惜しく感じてしまう。単に"寂しさ"とはまた少し違うような、この感情は果たして何だろう。

「司くん?」
「ん?ああ、すまない!それならこういうシナリオはどうだ!これなら…」

この時間がずっと続けばいいのにな。
話ながらそんな事を祈り続けていた。

----------------------------------------

「司くん、今度の金曜暇かい?」

買い物に行った日から数日経った本日昼休み、屋上で類とランチを嗜んでいる時に類はいつもの口調でそう尋ねた。

「まぁ、用事はないぞ」
「フフ、それなら良かった」

そう言って類は財布から2枚の紙を取り出す。

「最近出来た映画館で、とある有名演出家が手がけた最新映画が上映されるのだけれど、放課後良ければ一緒に観に行かないかい?」
「おお…って既に席予約していたら断れないだろう」
「司くんなら話に乗ってくれると信じていたからね。どうだい?ショーではないけれどストーリーも好評のようだし勉強になると思うよ」
「ああ、面白そうだしオレは良いぞ!でもそれならえむや寧々も誘って4人で行くか?」
「残念なことに2人分しか席が取れなくてね。それなら脚本担当の司くんが適任かと思って誘った訳さ」

成程、確かに勉強という名目ならオレが適任か。だが映画へのお誘いなら他に適任がいるではないか。

「その映画は想い人と行ったほうがいいんじゃないか?相手もショーが好きなら誘いに乗ると思うぞ?」
「…確かにそれも良いかもしれないね。けれど僕にとって勉強になるものを観た後に議論し合える相手は司くんだけなんだ。だから僕は君が良いのだけれど」
「わかった!わかったからそれ以上言うのやめろ!」
「フフ、それで返事は?」
「…ああ、いいぞ」
「ありがとう、司くん」

あまりにも直球に誘われたものだから思わず了承してしまった。いや、それだけでは無いな。
確かに様々な理由があるものの、類は数ある仲からオレを選んだ。
好きな相手では無く、オレを。
そう考えると先日のショッピングから感じていた気持ちが少し和らいだような気がした。

「司くんも楽しみにしてくれてるようで嬉しいよ」
「はぁ!?何故そう思った!?」
「だって今、君凄く嬉しそうな顔をしているよ?」

嘘だろう!?
まさか顔に出ているとは思わず慌てて手で顔を隠し、類の逆側に顔を反らした。

「み、見るんじゃない!」
「別に此処には僕しかいないだろうし隠さなくても良いじゃないかい?」
「お前だから見られたくないんだ!後々何されるか分からん!」
「酷いなぁ、僕はそんな揚げ足を取るような事はしないよ」
「ね、念の為だ念の為!」

そう言い合っていると、顔を隠していた手の甲に何かが触れる。これは類の手だろう。

「司くん、その顔をもっと良く見せて」
「い…嫌だ」
「司くん」

類の声のトーンが少し下がる。からかっている気配も無く至って真面目にお願いされていることが嫌でも理解できた。それは卑怯だろうと心の中で文句を言いながら類の方に顔を向けると類がオレの頬に手を添えてきた。何かついているのか?

「…なんだ」
「フフ、随分と愛らしい顔をしていたから思わず」
「あっ愛らしいとはなんだ!?オレはどちらかといえば格好いい部類だろう!?」
「演者には時に愛嬌も必要だよ?それに司くんは童顔だからそう否定されると益々可愛く見えてしまうものさ」
「ぐっ!?人が密かに気にしてる事を…!」
「フフフ、コンプレックスを武器にすることもスターには重要なことだと僕は思うけどね」

そうやり取りしながらも類はオレの頬に手を添え続け、終いには親指の腹で優しく頬を撫で始めた。
擽ったくて思わず目を細める。

「る、類、その…擽ったいのだが」
「おっと…悪いね」
「何か汚れでも付いていたのか?」
「…そうだね、睫毛が付いていたよ」
「そうだったのか、すまない」
「どういたしまして」

類の手が頬から離れる。優しく撫でられていたものだからほんの少しだけ名残惜しさを感じてしまった。
って何故だ!名残り惜しさなんて感じてどうする!オレ!

「そうだ、1つヒントを出そうか」
「何のヒントだ?」
「僕の好きな人を当てる掛け事だよ」
「おお?」
「これには僕も困ってるんだけどね、相手がすごく鈍感なんだ」
「…それヒントか?」
「ヒントさ、それも最大の」
「嘘だろう…ますます分からなくなったんだが?」
「僕は君に当ててほしいんだけれどね」

そう言いながら類がこちらに振り向く。何か雄弁に訴えてくるような視線の強さに思わず目を背けてしまった。癇に障るようなことでも言ってしまったのだろうか。

「鈍感って度が過ぎるとひどく残酷だということを身を以て知ったのさ」
「…それはどういう」
「そうだね、詳しくは君が掛けに勝ったときにでも教えるよ」

類が纏う空気が一気に変わり哀愁さを漂わせている。類がこうなる原因がいまいち見えないが、寂しそうで笑顔でないこの状況はオレを動かすには十分すぎる理由だった。

「類!」

名前を呼びながらオレは類の両頬に両手を添える。

「正直、類が何に傷付いているのか分からん!だが、仲間が困っていると分かればオレだって見過ごせないんだ!だから苦しかったらオレに相談しろ!このオレがお前の悩みを解決してみせようじゃないか!」
「司くん…」
「お前一人で解決できなかった事もオレとお前の二人でなら絶対大丈夫だ!」
「…本当に君は仲間想いで___」

キーンコーンカーンコーン

類が何か言葉を続けていたが、昼休み終了の予鈴によってかき消されてしまった。むむ、何言っていたか聞こえなかったぞ。

「悪い、予鈴で何を言っていたか途中から聴こえなかった」
「いや、何でもないよ。さて教室に戻ろうか」
「ああ…っておい、待て!類!」

オレが慌ててランチの片付けをしている内に、類は屋上を後にしていた。聞き取れなかった言葉はとても大事な事だったのではないかと心に引っかかるものを感じながらオレは教室へ戻った。

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それから類と気まずい関係になったかと言われるとそうでは無く、学校内やワンダーステージでも普段通りに話しかけられ、普段通り昼ごはんを共に食べたり実験に付き合いながら金曜日まで過ごした。

そして金曜日。メッセージアプリを通じて『放課後、下駄箱で待っていて欲しい』と連絡が来たため指示通りの場所で待っていると類がすぐに来た。

「別にここで待ち合わせなくても隣の教室まで出向いたが?」
「いやいや、待ち合わせるという事にこそ意味があるんだよ」
「ほう?これにも意味があるとは!それでその意図は?」
「単なる僕の自己満足さ」
「何も無いじゃないか!!」

そんな他愛もない話をしながら類についていく。学校前のバス停からバスに乗り、向かう先は最近出来たばかりのアミューズメント施設だ。そこには大きなショッピングモールだけでなく動物園や水族館も併設されていて人気を集めている。
そういえば、類に提案したデートプランの水族館はここだったような。

「バスで10分くらいか。あまり遠くないんだな」
「そうだねぇ、幸い遊園地は併設されていないものの大きなアミューズメント施設はフェニックスワンダーランドにとって痛手だろうね」
「確かにな…だが、あの経営者達が何も対策していないとも思わないし大丈夫だろう」
「フフ、また何かあればえむくんが相談してくるだろうしねぇ」
「そうだな!」

えむはアトラクション解体騒動の一件で悩み事があったらすぐに相談するとオレたちに宣言していた。それに、えむの兄達が何も対策を取っていないとは思えないからな。バイトという立場のオレ達に出番はないだろう。

アミューズメント施設に着いた時、ふと疑問に思ったことを尋ねた。

「そういえば、その映画は何時上映のものを予約したんだ?」
「8時だよ」
「8時!?今6時前だぞ!?」
「フフフ、僕も初めてだから折角だし色々見て回ろうかと思ってね。」
「成程…どこか行きたい場所はあるのか?」
「そうだねぇ…」

類はポケットからスマホを取り出し操作し始め、すぐに画面をこちらに見せてきた。
その画面に映し出されているものは。

「水族館?」
「ここに併設されているんだけど、なかなか評判が良いと君から聞いたしね。折角だしどうかな?」
「いや…しかしだな」

そこはオレが提案したデートプランの場所だろう。折角初めて行くなら同伴者はオレよりも適任がいるのではないか?

「お前だって初めてなんだろう?それなら想い人と行ったほうが良いんじゃないか?」
「…そうだねぇ。君のプランにも含まれていたからね。けれど下見も兼ねて一度見て回るぐらいしたほうがいいと思うし、何より…今は君と見て回りたいんだ。駄目かい?」

類が珍しく含み笑いせず真剣な顔で誘ってきた。
ぐっ…そんな珍しい表情でそう言われるとオレが拒否できなくなることを知った上で演じてないか?お前は。

「わ…かった」
「フフ、ありがとう司くん!さあ時間も惜しいし早く行こうか」

それなら別日に一日かけてゆっくり見たほうがいいんじゃないのか?とか、えむや寧々も誘ってくるべきでは?等色々と思うところはあったが、先程と一変しとても嬉しそうにオレの腕を引っ張る類を見ていると何も言えなかった。

入館ゲートを通り過ぎ巨大水槽に差し掛かる。
咲希から借りた雑誌に書かれていたような大きいマンタやタイなど色鮮やかな魚が多く飼育されていて思わず魅入ってしまった。

「噂に聞いた通りすごいな!」
「フフ、複合施設だからあまり期待はしていなかったけれどこれは予想外だ」
「このマンタの裏側、類の顔にそっくりじゃないか?」
「君って時々、大胆なほど失礼な発言をするよねぇ」
「失礼ではないぞ!可愛いだろう!」
「それは僕の顔が可愛いということかい?可愛いと言われたのは初めてだよ」
「かっ…!?違う!そういう事を言いたいわけではない!!」

類が変なことを言うおかげでスタッフから『お静かに』と注意を受けてしまったではないか。後で文句の一つでも言ってやろう。

オレ達はその後案内通りにゆっくりと歩みを進めていく。平日で閉館時間が近いこともあり、どのエリアも貸し切りの状態であった。熱帯魚のエリアやアザラシのエリア、様々な場所を巡りトンネル水槽のエリアに辿り着く。天井や側面が透明になっておりそこでは数頭のイルカが自由に泳いでいた。

「おお…これはまた見事だな」
「フフ、水槽が大きいからイルカもストレス無く泳げているようだね」
「確かに楽しそうだ」
「ああやって泳いでいるところを見ると、人間もエラを退化する種族とそうでない種族と別れて進化を遂げても面白かっだろうねぇ」
「うん…?お前の言ってることはいまいち分からんが、泳ぐと言えばこの前の人魚姫のショーを思い出すな」
「あの時は大きく水の中と地上の2場面を使い分けなければいけなかったからね。演出のやり甲斐があったよ」
「うむ!それにあのショーが成功した事もあって水の中というシチュエーションも今後の選択肢に入れられるようになったのは脚本担当としてもかなり大きいぞ!」
「おや?それなら今度こそ司くんを巨大水槽に入れてよりリアルな水中演出を…」
「それはオレが死ぬから止めてくれ!!」

あ、"また"だ。
ショーの話を始めた途端に、ショッピングモールで感じたものがじわじわとと蘇ってくる。
類と話していると湧き上がる、名残惜しいけどただ寂しいわけではないこの感情は一体何だろうか。いくら考えても分からずにいるので、もやもやした感情まで同じように溜まっていっているんだ。正直気分も良くないので早く解決したいところである。

「大丈夫さ、水中でも息ができるように策は考えているからね」
「何っ…!?それは少し興味があるな…」
「フフ、それでは今度脚本を考えるときにでも説明するよ」
「ああ!よろしく頼むぞ!」

ショーの話をしながらオレ達は先に進む。するとそろそろ出口だろうな、という所で少し開けたスペースにたどり着いた。そこには入り口にあった巨大水槽ではないものの、割と大きな水槽にイルカが3頭飼育されていた。

「トンネル水槽にいたイルカとは少し違うな」
「そうだねぇ…おや?どうやら親子みたいだよ」
「親子?」
「そこの説明に書いていてね、どうやら分けて飼育しているようだ」
「成程な。という事は、大きいイルカ二匹は父親と母親で、小さい一頭は子どもだな」
「フフ、元気に泳いでいるねぇ」

親子、親子か。
水槽の中では大きいイルカと小さいイルカが仲良く並んで泳いでいてとても楽しそうだ。
このイルカの両親も人間と同じように出会い互いに惹かれて家族になっていったんだろうな。

そう思ったときにふと気付いた。
そうか、そうだったのか。

オレは、羨ましかったんだな。
類と"恋人"という友人以上の関係性になれる権利があることに。
一番寄り添える立場として周りから認められることに。

いつまでも共に過ごすことのできる関係として名前が付けられることに。

「…どうして泣いているのかい?」
「え?」

そう言われて初めて頬を伝う何かに気付く。理由は分かるものの、泣くまでの程ではないだろう。
オレは慌ててハンカチを取り出し涙を拭った。
するとハンカチを持つ手を覆うように類が手を添え、オレの動きを止める。

「…何故止めるんだ」
「目は擦らないほうが良いからねぇ」
「それは…そうだが」
「それより泣いている理由を聞いても構わないかい?」

ぐっ、流石に言えない。

「目にゴミが入ってしまってな」
「ゴミねぇ…それなら擦るより目を洗ったほうがいいよ。トイレなら前のエリアにあったと思うし戻ろうか」

そう言いながら腕を掴まれ引っ張られる。
トイレに行くならオレ一人で十分なはずだが、この調子だと類まで付いて来そうだ。実際ゴミが入っているわけではないので流石に付き合わせるのも忍びなく、類を止めようと声をかけた。

「おい!る…い」
「ん?」
「いや…何でもない」

声をかけたのだが、止められなかった。
類の横顔があまりにも真剣で、気遣われている事を嫌なほど感じてしまったから。

「ふ…ふははっ…ははははは!」
「泣いたり笑ったり、司くんは随分忙しそうだねぇ」
「いや!なんだか泣いているのが馬鹿馬鹿しくてな!」

そんな顔を見ていたら、こんな事で女々しくなっている自分自身が馬鹿らしくなってきた。
関係性に名前が無くても類との付き合いが変わるわけでは無いだろう。大体既に"変人ワンツーフィニッシュ"なんて不名誉な名前を貰っているじゃないか。それにこんな事でずっと悩んでいるとかオレらしくも無い!

「やっぱり目にゴミは嘘だったのかい?」
「うぐ…嘘をついてすまない。実はさっきまで少し悩んでいたことがあったんだが、吹っ切れた!」
「吹っ切れた?」
「ああ!今度こそ、もう平気だから安心しろ!」
「…その悩みは、相談出来ないような内容なのかい?」
「本当に相談するほど大したことではないんだ。気持ちの整理が出来ていなかっただけでな」
「成程ねぇ」

類は未だに疑り深くこっちを見ているが納得はしたようだ。そんな目で見られても仕方ないだろう、気持ちの整理としか言いようがないのだから。

それにオレはたった今決めたのだ!
そう!
恋人や家族に成れず引き摺るのであれば、他の関係性をすべてオレが埋めてしまえば良い!
相棒でも腐れ縁でも何でもだ!
そっちを目指す方がオレらしいだろう。

「君がそう言うならそうしておこうか」
「大丈夫だと言っているだろう!それに、ここで泣くのはオレ自身が嫌なんだ」
「何故?」
「人を笑顔にするショーキャストが、人を笑顔にする施設で泣いてどうする!」

オレは目に残っている涙を親指の腹で拭い、笑いながら類の腕を掴む。

「つ、司くん?」
「さぁ!閉館時間も近いし行くぞ!」

先程と打って変わり心が晴れ晴れしていたせいか、つい大声を出してしまいスタッフに『館内ではお静かに!』と二度目の注意を受けてしまった。

---

その後、類の腕を引っ張りながら最後まで見て回り、施設内のファミレスで夕飯を済ませ映画館へ足を運ぶ。
確かに類の言っていた通りほぼ満席の状態で、類曰く『有名俳優が出ているからそれ目当てが多いんだろうねぇ』と言うことだそうだ。オレにはよく分からん。

そして上映が始まる。内容はよくあるラブストーリーではあったが、言われていた通り様々な演出で主人公の感情を表現しており斬新で見ごたえのある映画だった。
上映終了後、バスを待ちながら類と映画の話を早速始める。

「心情の表し方にあんなやり方があるとはな!」
「フフ、場面場面で区切りが分かりやすかったから話が混線することも無くすっきり纏まっていたね」
「オレは特に主人公が精神的に追い詰められていたとき、影の周りに虹がかかっているあの演出が凄く印象的だったぞ!」
「ああ、ブロッケン現象を擬似的に作ったんだろうね」
「ブロッケン現象?」
「そうだね、簡単に言うと霧のような細かい粒子の水が周りに散布されている状態で見る人の真後ろから光を当てると、周りの水が光を散乱させてその影の周りに虹のようなものができる現象さ」
「ほう?」
「本来なら高い山の頂上付近とかで見られる現象のようだけど…流石は名高い演出家だ」

珍しく悔しい様子を隠さない類に、自然と頬が緩む。

「分かるぞ!そういう時悔しく感じてしまうものだよな」
「同じ演出家として羨望は勿論だけど、ブロッケン現象を表現技法として扱う作品は希少だからねぇ」
「あれはワンダーステージで出来るものなのか?」

そう呟くと、類は一瞬だけ呆気にとられたような表情になったが、すぐ何時ものニヤけた顔になった。お前なら話に乗ると思ってたぞ。

「フフ、屋外だから難しそうではあるけどねぇ」
「ほう?なら不可能なのか?」
「まさか、君がご所望なら再現してみせるよ」
「フッ、流石はオレ達の演出家だ」

次の新しいショーに取り入れても良いかもしれないな。
そんな話をしている内に帰りのバスが来た。
一緒に乗り込んだものの、人が想定より多かった為オレ達は少し離れてしまった。離れたことにより自然と無言になったオレは、咲希に帰る連絡を入れたり新しいショーの脚本を考えて過ごす。
すぐに学校前のバス停に到着し、人を掻き分けながら降りると類がバス停から少し離れた場所で待っていた。

「離れ離れになってしまったな」
「人が多かったから仕方ないよ」
「そうだな。さて帰るか」
「…ねぇ司くん」
「ん?どうした?」

類が歩みを止めたので自然と前に出ていたオレは振り返る。

「今日、司くんは楽しめたかい?」

えらい真剣な顔をしていたので、てっきり変な事を聞かれると思っていたのだが。
何だそんな事。

「楽しかったに決まっているだろう!」

笑顔でそう応えると、類の纏う雰囲気が柔らかくなった。
しかしまだ言いたいことがあるらしい。

「それなら良かった。司くんさえ良ければ今後もお互い気になる映画を一緒に見に行きたいと思っているんだけれど」
「おお!それも良いかもしれないな!オレもいろんな演出や表現方法を見てみたかったんだ」
「フフ、君はショーに関することなら勉強熱心だねぇ」
「が、学業だって熱心に取り組んでるぞ!確かにショーの為の勉強という名目もあるが、何よりお前に関わることでもあるからな」
「僕?」
「ああ!好きな奴の好きな事なら自然と知りたくなるものだろう?」

そう言った途端、類が硬直した。
なぜ固まったのか分からずしばらくはお互い見つめ合う状況となる。じいと類の顔を見続けていると段々と赤く染まっていく。オレが珍しいものを見た気分に浸っていると、類が手で顔を隠してしまった。
もう少し見たかったのだが残念だ。

「どうした?顔が赤いぞ?」
「君ねぇ…自分の発言にもう少し責任持った方が良いんじゃないかい?」
「うん?失礼な発言はしていないが?」
「いや、それはそうなんだけれど」

何か言いたいようで何も言えず、類の視線が定まっていない様子が見て取れた。
何か変なことでも口に出しただろうか?と考えていると、不意に腕を掴まれ引っ張られる。

「おわっ!?」

瞬間、オレは類の腕の中に収まっていた。
細いと思っていたが案外ガタイが良いな、と恐らく見当違いのこと思わず考えてしまった。

「類?」
「…」

続く沈黙。
夜遅いこの時間に、オレ達しかいない道路で類に抱きしめられている。
このシチュエーションは何だ。
まるで。

何かおかしな事を連想する手前で類が離れる。
遠くなった体温に少し名残惜しく感じてしまった。

「もう夜遅いし、そろそろお互い帰ろうか」
「…そうだな」

「また明日、司くん」
「また明日、類」

先程までのやり取りがまるで無かったかのように手を振りながら帰っていく背中を見続けながら頭を整理しようと考えた。

けれど、いくら考えても分からなかった。
なぜ足が動かないのか。
なぜ顔に熱が集まっているのか。
なぜ、心臓の鼓動が早くなっているのか。
考えても考えても、分からないままだった。

----------------------------------------

「今日の練習はここまで!」
「「「お疲れさまでした!」」」

映画を見に行ってから1週間後。
類とは特に何もなく今まで過ごしていた。

あれから帰宅後も色々考えてみたが結局分からず、校内ですれ違った冬弥に相談してみたら『司先輩、それ病気じゃないですか?』と言われ循環器系の良い医者を紹介してくれた。冬弥には悪いが恐らく病気ではないような気がするのだが…。
そういう事もあり一旦保留にしている状態だ。
幸いにも、あの件以降は一度もその現象に陥っていないのでおそらく大丈夫だろう!おそらく!

そして本日はワンダーステージで定期公演の練習日を行なっていた。
何度も行っているショーの練習だからか安定感が日に日に増していくように実感する。
全体の確認みたいなものなので全員で定時退勤となった。

更衣室で練習着から私服へ着替えたところで、類も同時に着替え終わったことを確認する。
今日は類の方が先に来ていたので、私服姿を見るのは今日初なのだが…。
ん?その服は…!

「なぜ先日買った服を今着てるんだ?」
「フフフ、僕も案外この服を気に入っているのさ」
「ほう?しかしその服はデート用に買ったものだろう?今着る必要無いんじゃないか?」
「そうかな?デート当日に新品の服を着て"デートの為だけに服をわざわざ準備する人"なんてイメージ持たれてしまうのは僕としても避けたいかな」
「そんなものなのか?」
「単に僕が嫌なだけだよ。さて、二人を待たせているだろうしそろそろ出ようか」
「それもそうだな」

外に出ると案の定えむと寧々が待っており、こちらの姿を確認した途端えむが笑顔を輝かせながら走ってきた。
寧々も珍しそうな表情を浮かべている。

「えーっ!?類くん今日の服いつもと雰囲気違うね!!とってもわんだほいだよ!!」
「珍しく類がおしゃれしてる…」
「フフ、実はこの服司くんに選んでもらったものなんだ」
「えっ…?司が?」
「そうだぞ!オレのセンスの良さに脱帽すると良い!」
「どうせ天馬さんからアドバイスでも貰ったんでしょ?」
「咲希ちゃんすごーい!!」
「た、確かに助言してもらったものの、選んだのはオレだぞ!!」
「はいはい」
「寧々ちゃん!今度あたし達の服も司くんに選んで貰おうよ!」
「フッ、この類まれなるセンスを持つオレがお前達に似合う服を見繕ってやろうではないか!」
「私は…遠慮しとく」
「なんだと!?」

折角二人に合う服を選んでみせようと意気込んでいたのだが拒否されてしまったなら致し方無し。
また別の機会にするか。

「あ、寧々ちゃん!そろそろ行こう!」
「うん」
「なんだ、お前達どこか行くのか?」
「うん!こないだ寧々ちゃんとゲームセンターに行ったんだけどね、とぉーっても可愛いぬいぐるみが取れなかったんだ!」
「そう、だからリベンジに行こうかなって」
「フフ、すっかり仲良しだねぇ」
「う、うるさい…そっちだって服選んでもらってるくせに。行こ、えむ」
「うん!またねー!司くん!類くん!」

えむと寧々がこちらに手を振り帰っていく姿を見送る。オレが『夜遅くなるなら気をつけろよー!』と叫ぶと寧々の歩くスピードが早くなった。無視するんじゃない!

「さて、オレ達も帰るか!」
「そうだね…おや?」

類がワンダーステージの入口付近を見ていたのでオレもそちらに視線を向ける。すると見知った人物が現れた。

「おっと、残っているのは君達二人だけか」

そう話しかけてきた人物は、えむの兄である"鳳 慶介"だ。今日は珍しく一人でここに居るようだな。

「こんばんは、何か御用でしたか?」
「いや、急遽君達に頼みたいことがあるんだが…えむは居ないのか」
「えむはもう一人のキャストと帰ったぞ。それで頼みたいこととは何だ?」
「君達のお陰で当遊園地も予約殺到となり大盛況となる中、特にナイトショーが注目されているようで上演回数を増やしてほしいと常連の方々から意見が上がっているんだ」
「ほう?」
「現在ナイトショーは君達が不在でも定期的に行っている。しかし上演回数を増やすとなれば今のクオリティを維持することは非常に難しくなるだろう。そこで内容を少し省略した簡易版を別枠で作り、その簡易版を平日に、現クオリティのものを休日に持っていき差分化させようと計画を練っている所だ」
「確かにそれが実用的ですね」
「今日はその簡易版をテストも兼ねて上演する予定でな。そこで君達に依頼する内容だが、今日のナイトショーを見て是非感想を頂きたい」
「成程、評価すればいいわけだな!」
「何もそこまで硬くなくて良い。ただ単にナイトショー制作陣である君達から率直な感想を聞きたいだけだ。勿論少しだけだが手当も出そう。どうだろうか?」
「無論!このワンダーランズ×ショウタイムの座長であるオレがその依頼を拒否するわけにはいかないだろう!」
「フフ、僕も彼と同様ぜひご協力させてください」
「すまないが頼む」

それに、いつも自分達はキャスト側に立っているから観客側からショーを見たことが無いんだ。こんな美味しい機会を見逃せるはずが無いだろう。

思わぬ依頼に二つ返事で頷くと、隣の男が口を開いた。

「僕の手当は要りません。その代わりに一つお願いを聞いていただけないでしょうか?」

---

ガコン、ガコンと規則的に音を立てながら静かに登っていく感覚を味わう。
何度か乗ったことのあるこのアトラクションは、ワンダーステージとその周辺を一望出来るという理由でえむのお気に入りだそうだ。

外が少し騒がしくなる。おそらくショーが始まったのだろうと窓から下を見ると予想通りキャストがステージとその周辺でショーを繰り広げていた。

「おお!確かに類の言う通り、観覧車からだと良く見えるな!」
「だろう?この園内を一望できる観覧車からナイトショーを見てみたくてね。無理だろうと思っていたけれど案外快諾してくれて良かったよ」
「しかしオレまで良かったのか?オレだけが手当も貰う事になるが…」
「君は君で使い道があるだろう?僕は特に気にしてないさ」
「むぅ…そうだ!それなら今度昼ごはんでも奢ってやるぞ!」
「フフ、それはいいねぇ」
「勿論、野菜はきちんと入っているものを選んでもらうからな!」
「司くんがそんな意地の悪いことを言うなんて…よよよ」
「そんな見え見えに泣くフリをするな!…おお!凄いぞ類!見てみろ!」
「うん?…おお」

簡易的とは言っていたが、照明と舞台装置がオレ達が起案したものより多く使われていた。人員を削減する代わりに機材をふんだんに使う訳か、成程。

ライスシャワーの代わりとしてシャボン玉が沢山浮かんでおり、高いところからでも光を纏いながらきらきらと地上で輝いている様が見て取れた。オレは思わず感嘆のため息を漏らす。

「綺麗だな」
「…そうだねぇ」

オレ達はしばらく無言で地上で行われているショーを見つめていた。

---

オレたちが乗っているゴンドラが頂上に近付いた頃にショーが終了した。簡易版が表す所はショーの短さが主らしい。
ちなみにミク達バーチャル・シンガーが担当していたところは、フェニーくんを始めとしたフェニックスワンダーランドのオリジナルキャラクター達がプロジェクトマッピングとして展開されていた。流石は鳳グループといったところだ。

「あとは地上に戻るまでゆっくり過ごすだけだな」
「そうだね…ところで司くん」
「なんだ?」
「灯台下暗し、という諺は知っているかな?」
「また唐突だな…さすがに知ってるぞ!周りを見過ぎて案外近くにあるものに気が付かないことだろう?」
「御名答。それからもう一つ」
「今度はなんだ?」
「僕の想い人は誰か、分かったかい?」
「…それか」

類の想い人。
確かに賭け事の最中ではあるが、それらしい人物なんてあのショッピングモール以降も全く見つけきれなかったぞ。というか、ショッピングモールと水族館、映画館以外はフェニックスワンダーランドでのバイトか学校での休み時間ぐらいしか会ってないだろう?それで当てるのは難しくないか?

「いや、普通に探ってはいたが結局分からずじまいだ」
「…そうかい」
「あぁ、だからこの賭けはお前の勝ちで__」
「待って司くん」

今後考えても分かる気がしないので負けず嫌いのオレが珍しく勝ちを譲ろうかと思ったが言葉を遮られてしまった。

「ん?」
「今、君は勝敗を決めようとしていただろう?一旦待ってくれないかい」
「何故だ?」
「それは…君に当ててほしいからさ」

そう言いながら、真正面に座っていた類がオレの隣に座り直す。長身の男がゴンドラ内で動くのはなかなか見ていて恐ろしいものだな。

「当ててほしいと言われてもだな…難しすぎるだろう。今までの行動を振り返ってみても学校かバイトか遊びに行ったときぐらいしかお前の動きも人との関わりも把握してないぞ?」
「今までの行動の中で全て関わっている人物が一人居るんだけれど…これでもまだ気付かないのかい?」
「何っ!?ヒントがあったなら早く言え!…と言ったものの、そんな人いたか?」
「…はぁ、これでも気付かないとはね」
「だからはっきりと言__」

オレの言葉は、類に引き寄せられた事によって止められてしまう。
あのとき、映画を見たあとの別れ際と同じように優しく抱きしめられ、忘れかけていた鼓動の速さや顔に集まる熱を嫌でも思い出してしまった。

「本当に君は仲間想いで…残酷な人だ」
「類?」
「でもそんな所まで"愛しい"なんて思ってしまうんだから、僕はもう後戻りできないのかもしれないね」

類はオレを抱きしめたまま、ぼそりと呟くように話し始める。肩に顔を埋められてしまい今どんな表情をしているのか全く分からん。

「まず君は前提から間違っているんだ」
「前提?」
「そう、君はこの賭けを当てる時に一度でも自分自身を含めたことがあるかい?」
「オレ自身?…無いな」
「だろうね。だから君は当てられるはずが無いんだ」

オレ自身も対象になる?
何を言っているんだ?

「類、おまえの言ってる事がいまいちわからないんだが」
「…どこまでも鈍感だね君は」
「ど、鈍感!?」
「ではゆっくり整理しようか」

抱きしめられている腕の力が少し緩やかになり類がそのまま顔を上げる。至近距離で見つめられ思わず目をそらすと、屋上でのあの時と同じようにオレの頬に類が手を添えてきた。

「僕の好きなひとは、純粋で友達想いの子なんだけれど」
「ああ、知っているぞ」
「君はとても仲間想いで、僕達の言葉もすぐに信じてしまえる程に純粋だ。今回もこうして僕のために動いてくれているよね。それを実感するたびに、嬉しさともどかしさで…苦しくなるんだ」
「お、おお…?」
「そしていつも明るく何事にも前向きで、何より好きなことであるショーに対してはとても真摯で。そんな君だからこそ僕は座長として僕らを導いて欲しいと思うし、君と共に有り続けたいと欲を出してしまいたくなる」
「る、類?」
「それに、君はとても咲希くんを大事にしているよね。僕には兄弟が居ないからその感情が理解できないのだけれど、咲希くんの事を話している時いつも君の顔は柔らかくて、とても大切なんだろうと嫌でも伝わるんだ。その度に心が荒れていくのを感じてしまい咲希くんにも君にも罪悪感をずっと抱えているんだよ」
「まっ、待て!一旦止まれ!」
「お断りだね、ここまで言わないと気付かないだろう?君は」 

類がまた強く抱きしめてくる。
ガコン、ガコンと規則的な音だけが、ゴンドラ内に鳴り響いていた。

「類、そろそろ観覧車も下に着く頃だし離れた方が…」
「君が当てるまで僕は離すつもりはないよ。何ならもう一周しても良いだろうしね」
「そ、それはだな…!」

頭が混乱しているこの状態でもう一周、この男と二人きりでの観覧車は正直無理だ。オレが持たない…!

そもそもだな、
先程から怒涛の勢いで入ってくる情報に全く頭が追い付かないんだ。
類はオレを"愛しい"と言った事。
類の好きな人がオレの性格と一致していた事。
想い人を当てるときにオレ自身を候補に入れていなかった事。
今までの行動の中、類と共に過ごした人物が一人いて…それは、オレの事?

考えすぎて頭がぼんやりとしているところ、オレを抱きしめたまま類が再度口を開く。

「君が当ててくれないと、僕がここまで感情を吐露した意味が無くなるんだ。寧々から散々『自分自身の感情に疎すぎる』なんて酷評貰っていたものだから、僕なりに君への想いを整理して、纏めて、伝えたわけなんだけれど。君に気付いてもらわないと僕が報われないだろう?」
「お前…もしかして意地張っているだけか」
「意地…そうか、言われてみれば意固地になってるねぇ、僕」

なんだ、類もオレと同じように混乱しているんじゃないか。
そう考えると不意に笑いがこみ上げてきた。

「ふはっ、なかなか滑稽だな」
「それ、司くんが言える立場かい?さっきまで君だって混乱していたじゃないか」
「だったらお互い様か」

抱きしめられている肩を叩くと、類が顔を上げる。それを見計らい類の顔に手を添えて引き寄せ、オレのおでこを類のおでこにくっつけた。

「司くん?」
「お前が意地を張ってくれたお陰でオレも落ち着くことができた、その点は感謝する」
「…僕としては格好がつかないから正直気恥ずかしいんだけどね」
「なに、オレは常にお前は魅力的な奴だと思っているし、今もこうして正直に話している姿は格好いいと思ったぞ」
「…ちょっと離れてもらえないかい?」

類の顔が赤く染まっていく。
こんなに分かりやすいのにどうして気付かなかったんだろうな、オレは。

「無理だな、お前だってさっきオレの頼みを聞いてくれなかったじゃないか」
「確かにそうだけれど…」
「それにもうすぐ観覧車が下に着いてしまうだろう?そろそろこの賭け事も終わりにしなければと思ってな」
「フフ、そうだね」

そうして。
オレは言葉を続ける。

「類の好きな人は___」

そう言うと、類はとても嬉しそうにこう応えた。


「やっと気付いてくれたね、鈍感少年」

Comments

  • qwq

    Jan 22nd
  • 구팔
    December 9, 2025
  • 와후
    November 4, 2024
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