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Ye Guilty/Novel by やさたか

Ye Guilty

17,972 character(s)35 mins

デキてる篤寛が一緒に任務へ行って、ピンチになる話を書きました。日下部さん視点です。
時系列は決戦後。日車さんは、清水さんが頑張ってぶち込んでくれるのを待ちながら、高専の手伝いで術師やってる感じです。
前に書いた話と繋がりはありません。

お互いの命に対してお互いデカ感情を持っててほしいなという気持ちを込めて書きました。
書きたいシーンを好きなように書いたのでだいぶ読みづらい感じになっているかもしれません……。
少しでもお楽しみいただけたらうれしいです……!

※本文中、以下の部分を妄想で補っている部分がありますのでご注意ください。
・日車さんの術式覚醒直後の状況
・呪胎の発生メカニズム
・誅伏賜死のルールと縛り
・法律周りのあれこれ

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 東京から仙台まで、新幹線で約2時間。
 駅から外に出ると、想像していたよりもずっと肌寒かった。東北の秋の空気は東京のそれとは違って、厳しい冬を予感させる。鈍色の曇り空も相まって、どこか重苦しい空気に感じた。
 アイツは岩手の出身だったな。ここよりも北の方は、また空気が違うんだろうか。そんなとりとめのないことを考えながら、窓との合流場所に向かう。
 仙台結界での戦いは乙骨から報告が上がっていたが、こうして見ると聞いていたような激しい戦いの爪痕はほとんど見当たらない。沿岸の震災復興事業が一段落して業者がこちらに流れた結果、復旧が早かったってのもあるかもしれない。

 なんだか思考があっちこっちに行ってんなぁ。でもしょうがねえ、一日の予定が全部狂えばこうもなる。
 本当なら今頃、高専の事務室で学生たちの試験の準備をしているはずだった。

『明日の午前中には戻れると思う。午後は半休予定にした。』

 昨日の夜、出張中の恋人からそんなメッセージが送られてきたもんだから、何なら俺も試験準備は午前中に終わらせて、午後は半休にしてやろうと目論んでいたりもした。
 朝っぱらから伊地知が緊急の案件を持ってきたことで残念ながらその目論見は崩れちまったわけだが。
 伊地知が手渡してきたのは呪胎発生の可能性があるという報告書だった。1級以上の術師による調査の必要性を認めるとの記載がある。
 場所は仙台の……というところまで報告書を読んで、嫌でも自分の顔が強張るのがわかった。

「……こいつは俺一人で行ってくる」
「お一人では危険です、日車さんを待ってから向かったほうが……」
「伊地知、この件は絶対に日車の耳に入れるな。お前も薄々勘づいてんだろ。おそらくアイツとは相性最悪の案件だ」
「……承知しました。内密に手配します」
「頼んだ」

 そんなやり取りのあと、カバンと刀用のバッグを引っ掴んで仙台に向かったわけだ。

 今回は伊地知の都合がつかず、別件を担当している補助監督が一人、県外から応援に駆けつけてくれることになっていた。そいつと現地で合流するまではとりあえず窓から直接情報共有してもらうようにと言われている。本格的な調査は補助監督と合流し、人払いを終えた夜の時間帯になるだろう。
 ペデストリアンデッキの片隅で今回の情報を寄越してきた窓と合流する。挨拶もそこそこに、さっそく詳細な情報を共有してもらった。
 今回の調査対象は仙台高等裁判所。1週間ほど前、とある裁判の公判中に弁護士、裁判官と検事、被告人が相次いで倒れるという事件が発生した。
 警察の捜査では毒ガス等の成分は検出されず、何よりも傍聴席にいた人々には被害が全く無かったため、テロ等の可能性は早い段階で否定されている。
 実況見分の後、法廷での裁判は再開されたが、数日後、別の裁判における口頭弁論中に同様の現象が再び発生した。2度目の発生後に法廷は封鎖され、現在は仮の場所で裁判を続けているそうだ。
 被害者のうち、裁判官と被告人、検事に関してはその日のうちに体調が戻ったようだが、弁護士たちは何故か回復が遅く全員が数日間の入院を余儀なくされた。そのうち1名は現在も意識不明の重体とのことだった。
 窓は2回目の際に裁判所へ赴き、傍聴席でその現象が発生するのを実際に見ていたらしい。呪霊の本体らしいものは見当たらなかったが、別件での呪胎発生のパターンに酷似していると判断し、規定に則り封鎖措置を進言、調査要請を出したとのことだった。

 情報共有が終われば、次は下見だ。
 窓と別れ、スマホで現地への経路を確認する。歩いて18分、車で2分。この距離なら面倒だが歩くか。そう思って裁判所のある方向へと歩き出そうとした時だった。

「俺を置いて行ってしまうとは。君は存外ひどい男だったんだな」

 今一番聞きたくなかった声が後ろから聞こえてくる。恐る恐る振り向けば、いつものスーツ姿ではなく、黒のトレンチコートを着た日車が、いつものように表情を変えず立っていた。

「なんでここに……」
「新幹線で。気付いてなかったようだが君と同じ便で来たんだ。自由席に空きがあって助かった」
「いや、そーじゃなくて……」
「ああ、移動手段じゃなくて目的の方か。もちろん、君と共に任務へ向かうためだ」
「そーでもなくてだな……!」

 コイツ、2回もわざとらしいボケをかましてきやがった。しかも窓と話し終わるタイミング見計らって声掛けただろ絶対。
 ため息を吐いて、ツカツカとこちらに近づく日車。さっきまでの無表情はどこへやら。口をへの字に曲げ、眉間に皺を寄せ、その顔にらしからぬほど不機嫌さを露わにして、俺を睨んでいた。

「ちょうど高専に戻ってきた時に、君が伊地知と話しているのが聞こえてきたんだ。会話のなかで自分の名前が出てくれば、嫌でも気になるだろう」
「……盗み聞きか、趣味悪ぃぞ」

 伊地知と話していたのは事務室の中。おそらく廊下で聞き耳を立ててたんだろう。気配が掴めなかったのは、俺が会話に集中していたせいか、それとも日車が敢えて気配を消していたか。
 しかし任務の詳細は口頭で話してなかったはずだ。伊地知もらしくねえ、どうして口を滑らせた?
 そう思ったのが顔に出たのか日車はあっさりと種明かしをしてくれた。

「伊地知のことは責めないでやってくれ。彼に過失はない。必死に口を噤んでいたのを、俺が無理矢理吐かせただけだ」
「……マジ?」
「ああ。彼はすごいな。これまで出会ってきた人間のなかで口の固さはトップクラスだ。俺も久々に本気で落としにかかってしまったから、申し訳ないことをした」

 そうだった。コイツ天才弁護士って言われてたんだった。ああ見えて比較的口の固い伊地知ですら口を割られたのか。プロっておっかねえなオイ。

 とりあえず立ち話も何だからと、2人で駅近くにあるチェーン店のカフェに入る。
 死滅回游が世間の話題をかっさらっていったのもあってか、日車の事件は全国的にはそれほど報道されていなかったが、東北では本人の顔が割れている程度には有名らしい。知ってる奴に見られたら厄介なことになりそうだと思っての判断だ。
 ホットコーヒーを2つ頼み、店の奥のボックス席にそれぞれ向かい合うように座って早々、俺は先手を取ろうと口を開いた。

「悪いが、今回の任務にお前は連れてけねぇ」
「何故だ?」
「……足手まといになる」
「嘘だな。理由は他にもあるはずだ」

 おそらくだが、たぶんコイツにはもう答えがわかっている。こういう時の日車は本当にやり辛い。特に今回ばかりは隠し事をしている以上こちらの分が悪い。

「はっきり言ったらどうだ?"場所が仙台高裁だから"、俺を連れて行きたくなかったんだろう?」

 あーあーちくしょう、大正解だよ。
 日車は岩手で起きた強盗殺人事件の被疑者を弁護していた。その控訴審での判決直後に術式が覚醒し、結果として裁判官1名と検事1名を死に至らしめている。通常、控訴審は一審と同じ地裁ではなく各地方の高等裁判所で行われる。東北地方では仙台高等裁判所がそれに当たるわけだ。
 つまり今回の現場は、当時の事件現場。"弁護士"日車寛見が終わった場所であり、"術師"日車寛見が始まった場所だ。
 それに加えてさっき窓から嫌な情報も仕入れている。少し前、どこぞの週刊誌がこの事件のネタを掘り起こして記事を書いたことがあったらしい。顔写真こそ規制がかかったのか出回らなかったが、それなりに世間の話題にもなっていたそうだ。それから日を待たずして、例の現象が発生している。
 仙台高裁という場所、日車の事件への世間の悪感情の高まり、そして弁護士が重い被害を受けている状況。経緯と内容からして、今回の件は日車の事件と無関係とは思えない。
 関わらせるべきじゃないと俺の勘が言っていた。

「もう理由わかってんなら言うこと聞いてくれや」
「理由は察しているが、納得しているかは別の話だ。そもそも俺を任務から外すデメリットが大きいと思うんだが」
「それを上回って、同行したデメリットのほうがデカかったっちゅーわけよ」
「……その言葉は、本当に妥当性の判断から来るものか?それとも私情か?」
「……五分五分だ」

 嘘だ。7割は私情だ。てか私情入ってんのバレてんじゃん。
 実際、日車の言うことはもっともだ。
 呪胎案件なら変化後の対応も考慮して術師2名以上で当たるのがセオリー。最初に伊地知が言ったように日車と共に任務に当たるってのがベストに決まってる。
 だが今回の場合、かつて弁護士という立場にあった日車自身がトリガーになって呪胎が変化し、事態が悪化する可能性がある。これがまず一番デカいデメリットだ。
 逆に日車側が影響を受けるってパターンも捨てきれない。その隙を突かれでもして、万が一があった場合が一番最悪だ。

 とまあ、ここまでの理由付けは建前みたいなもんだ。実際はもっと単純な私情まみれの話でしかない。
 現場へ行けば、日車は嫌でも己のやったことを突きつけられ、背負った罪の重さにますます苦しむだろう。自分の起こした事件と関係があるとなった場合、尚更だ。
 大切な人が苦しんで喜ぶバカはどこにもいない。要はただそれだけの話だ。

 さて、とにかくこのクソ真面目な先生を口八丁でなんとか説得しないとな……。
 そう構えていた矢先、日車の顔が辛そうに歪む。そのまま俯いたかと思えば言いづらそうに口を開いた。

「俺の、かつての同僚も倒れたと聞いた」

 ……伊地知め、なんでそこまでゲロっちまったんだ。
 今回の被害者の中には「清水」という名前があった。かつて日車の元で働いていた後輩の弁護士で、今は日車の思いを汲んで、彼を法で裁くため精力的に動いていると聞いていた。
 現在重体の弁護士1名とは、彼女のことだ。
 いつもの日車なら、わざわざ俺を追って仙台まで来ようとはしないだろう。だが今回ばかりは、きっと俺の考えも承知の上で、この事件に首を突っ込もうとしている。結局のところ、コイツも私情でここまでやってきたってわけだ。

「この件、おそらく原因の一端は俺にある。だからこそ、このままでは彼女にますます申し訳が立たない」
「日車……」
「現地に行けば何か気付けることがあるかもしれない。頼む、同行させてくれ。足手まといにはならないつもりだ」

 テーブルに額がつきそうになるぐらい深々と頭を下げられて悟る。
 ああ、これはもう断れねえ。結局のところ俺はコイツのこういうとこに弱い。コイツが動くのは自分自身のためじゃない。いつだって誰かのためなんだろうな。
 仕方ねえ、ちょっとばかし嫌な思いをさせちまうが、背に腹は代えられねえか。
 少しぬるくなったコーヒーを一気に喉に流し込んで、空のカップを机に置いた。

「2つ条件がある。まず1つ、この任務が終わったら休暇を取ること。お前今日は午後から半休予定だったろ」

 日車が顔を上げる。少しホッとした表情だ。条件さえ飲めば同行できると分かって安心したんだろう。

「ああ、わかった。明日の午前は休みに……」
「明日すぐじゃなくていい。あと半日じゃなくて一日だ、全休取れ」
「は?いや、しかし……」
「こっからは2つ目の条件だ」

 腰を浮かせて身を乗り出す。
 日車のネクタイを掴み、引っ張って顔を近づける。ぐっと苦しそうな声を上げて体勢を崩した日車に構わず、息がかかるぐらい近くで、わざと低い声で囁く。

「その休日、一日中抱かせろ。それが飲めなきゃ、同行はナシだ」

 俺の言葉の意味を理解した日車の顔がみるみる赤くなった。恥ずかしそうに目を泳がせたあと、何かにハッと気付いて俺を睨みつける。この間、わずか3秒。

「……君は、これが任務と関係のない不当な条件だとわかって言ってるのか?」

 当然わかっている。だがこっちも単純な欲だけでこんな条件を出してるわけじゃねえ。一応理由はある。
 これは所謂保険のようなもの。効力が無くなるから今は理由が言えねえ。きっと本人は理解してくれねえだろうが、このぐらいはやっておかねえと連れてけねえ。

「悪いがこれは俺が受けた任務だ。決定権は俺にある。嫌なら断わればいい、簡単だろ?」
「……嫌じゃないから、難しいんだ。それに断ったら同行できないんだろう?」

 そう言って日車は目を逸らす。何気にすごいことを言ってるが、本人はそれどころじゃないようで気付いていない。
 嫌じゃない、か。そうだよなぁ、最後に抱いたのいつだっけ?お互い任務だなんだと忙しくて、今日の午後ならチャンスかもしれないと思っていたのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。
 冷静に考えればひっでえ条件だ。普通なら平手の1つや2つ食らってもおかしくない。
 だが、俺にはわかる。この条件を日車は断れない。

「……わかった、条件を飲もう」

 数秒の思案と沈黙の後、諦めたように目を伏せた日車は短い溜息の後に答えた。
 ほらな。思わず悪い笑顔が出る。
 一応これで万が一の時も何とかなりそうだ。あとは任務を無事にこなすだけ。

「決まりだな。さっさとコーヒー飲んじまえ。現場の下見行くぞ」

 そう言って手を離す。そのまま立ち上がって出口に向かうと、日車は顔を真っ赤にしたまま慌ててコーヒーを飲み干していた。

Comments

  • 小夜双☆スカィWeb
    May 9th
  • ミッキー
    May 9th
  • 菅流@芋づる式
    May 9th
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