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向精神薬を大量処方

今回の逮捕容疑は特に悪質であり、インターネットで調べて初めて予約してきた女性患者に対し、診察室に鍵をかけて性的暴行を加えたとされている。精神的問題を抱え、救いを求めて受診した先でこのような目に遭った女性の傷の深さは計り知れない。

彼が及ぼす悪影響は被害者個人にとどまらない。彼はこれまでに少なくとも2度精神医療業界全体に激震をもたらしてきた。一つは2007年のリタリン規制である。リタリンは規制前までは難治性うつ病などにも処方が認められ、適応外でもADHDに処方されていた向精神薬であるが、合法覚醒剤と呼ばれて乱用され、社会問題となっていた。

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伊沢医師の運営する東京クリニックは1年間に約102万錠ものリタリンを処方し、その処方量は他医療機関と比較しても突出していたと報道されていた(毎日新聞2008年6月5日夕刊)。東京クリニックは安易かつずさんな処方でリタリン乱用の象徴となり、リタリンは特別に厳しい流通管理と処方制限が課されることになった。

もう一つの激震が通院精神療法の時間要件である。リタリン問題をきっかけに、たった一人の精神科医が一日で2~300人の患者をろくに診察もせずに薬だけ処方するという行為が可視化された。

秒単位で終わる診察に対して高額な診療報酬である通院精神療法を算定して荒稼ぎする精神科クリニックの存在を問題視した国は、2008年4月から最低でも診療に5分かけないと算定できないという時間要件を加えざるを得なかった。この5分ルールは現在でも様々な議論を引き起こしている。

さて、常識的に考えたらこのような医師に免許を持たせ続ける理由などないだろう。しかしその常識が通用しないのが「医師法」なのだ。実刑が確定し、しばらく刑務所にいたはずの彼がなぜ診療をしていたのか不思議に思った読者は少なくないだろう。性善説で作られた医師法では、悪徳医師を法の下に縛り付けておくことなどできないのだ。

そして、なぜこのような医師の存在が許されてきたのかという本質的な理由として、精神医療の特殊性を指摘しておきたい。特に、身体医療と異なり客観的指標が存在しないために診断や治療の正しさを検証することが困難である点、医師の権限が強大である一方患者の立場は弱く、容易に支配-被支配の関係に陥りやすいという点である。それゆえに不正や隠蔽、搾取がたやすく、悪徳医師にとって最高の環境と言える。

後編記事『なぜ6回逮捕でも医師免許は剥奪されないのか…女性患者を襲い続けた歌舞伎町・極悪精神科医を守る“歪んだ制度”の正体』では、伊沢容疑者が何度も逮捕されながらも、なぜ医師を続けられているのか、米田氏が詳しく解説する。

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