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試しにキスしてみます?/Novel by ひよっこ

試しにキスしてみます?

6,736 character(s)13 mins

ハグから始まる篤寛。日下部さんが頑張ります。

日車高専術師if。
死滅回遊はなかった設定です。

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 日車が生きていた。

 それだけで十分だった。

 呪術師として生きていくと決めてから、「自分が死なない為にはどうすべきか」を一番に考えている。周りが死ぬのは、とうの昔に慣れたと思っていた。それなのに、他人が死ぬのが怖いという感覚は久しぶりだった。

 気が付けば腕が動いていた。目の前の男を引き寄せるように、強く抱きしめる。

 温かい。ちゃんと生きてる。

 血と砂埃の匂い。その奥に、かすかな日車の匂いがした。無意識のうちに首元へ顔を埋める。髪が頬に触れて、くすぐったい。

 「おい」

 耳元で日車の声が聞こえ、ようやく自分が何をしでかしたのか理解した。

 やべえ、やっちまった。

 日車を抱きしめている。

 それも十分最悪だが、もっと最悪なのは俺がコイツに片想いをしていて、距離感を馬鹿みたいにすっ飛ばしたことだ。

 こんな形で触れるつもりなんて、当然なかったんだ。



 ――数分前。

 今日は、いつも以上にクソったれな任務だった。報告ではなんてことない一級呪霊と聞いていたのに、実際は特級レベルだったのだ。激しい戦闘のせいで建物は崩壊している。

「日車ァ!!」

 日車の返事がない。嫌な汗が背中を伝った。戦闘中はアドレナリンが出ていたはずなのに、一気に体が冷えていく。呪霊は祓った。それは間違いない。最後の一撃を叩き込んだ瞬間を、この目で見た。刀が呪霊を断ち切る感触も、まだ手に残っている。

「おい、日車!!」

 もう一度呼ぶが返事はなかった。ついさっき、日車は呪霊に吹き飛ばされている。その方へ駆け出す。足元で砕けたコンクリートが音を立てた。アイツも生きているなら、何かしら返事をするだろう。だが、それがない。嫌な想像が頭によぎった。

 瓦礫の向こうに人影が見える。

 「日車!」

 日車は壁にもたれかかるように目を閉じて座り込んでいた。顔には血がついている。一瞬、心臓が跳ねた。だが、よく見れば大きな出血はなさそうだった。髪には砂埃が絡みつき、スーツも土まみれになっている。胸がゆっくりと上下している。生きていることが分かり、力が抜けそうになった。

 俺の足音に気付いたのか、日車がゆっくりと目を開き、こちらを見上げる。俺は手を差し出した。

「立てるか?」
「ああ……なんとか」

 日車は俺の手を掴み、ゆっくり立ち上がろうとする。だが、動きは鈍かった。ここまで消耗している日車を見ることはあまりない。

「無理すんなよ」
「問題ない」

 そう言うわりに、呼吸はまだ整っていない。日車が顔を上げる。血の気が引いている顔だった。その顔を見た瞬間、先ほどの光景が脳裏に甦る。巨大な呪霊の腕に吹き飛ばされる日車。崩れ落ちる建物。もし、瓦礫の下敷きになっていたとしても、コイツなら反転術式で治せるだろう。だが、頭に相当なダメージを負ってしまえば、それも使えない可能性がある。助かっていたのは運が良かっただけなのかもしれない。そう思った瞬間、足元がぐらりと揺らぐような感覚がした。
 
 ――そして。

 気付けば俺は、目の前の男を抱きしめていた。

 ……最悪である。

 「おい」

 日車の声で我に返る。俺は弾かれたように体を離した。数歩後ずさり、手を思い切り上げてハンズアップのポーズを取る。

「わ、悪い!」

 今、俺何した?
 抱きしめた。
 惚れてる相手を、勢いで。

「いや、その、違くて」
「何がだ」
「あ~~~~」

 言葉が出てこなかった。上手く誤魔化せる訳がない。てか、コイツと言葉で戦っても百パー勝ち目がない。日車が怪訝そうな顔をしている。やめろ。そんな顔で見るな。今さら自分の行動が恥ずかしくなってきて、逃げ出したくなる。

「……お前が死んでるかと思ったんだよ」

 ようやくそれだけ絞り出した。日車が何か言おうとしたが、それを遮るように俺は口を開く。

「と、とりあえず戻ろうぜ!」

 叫ぶように言って踵を返した。これ以上日車と二人きりなのは駄目だ。俺が精神的に耐えられん。

 帳の外で待つ補助監督の所へ向かって早足で歩く。少し歩いたところで違和感を覚えた。日車の足音がしない。心配になって立ち止まりかけたその時、背後からトッ、トッと小走りの音がした。

 次の瞬間、背中に何かがぶつかった。

「うおっ!?」

 思わず声が出る。下を向くと、腹の周りに腕が回っていた。

 日車に後ろから抱きしめられている。

 何が起きているのか理解できなかった。
 
 いや、なんで?

 すると、背中越しに小さな声が聞こえた。

「……ふむ」

 数秒後、腕が離れた。背中の感触がなくなる。

「おい、戻るぞ」

 日車はいつも通りの口調だった。まるで、今の出来事がなかったように横を追い越していく。俺は完全に固まっていた。

「……」
「日下部?」

 日車が振り返った。返事が出てこない。

「君、大丈夫か?」

 大丈夫なわけないだろ。

Comments

  • ミッキー
    Jun 7th
  • 小夜双☆スカィWeb
    Jun 7th
  • 菅流@芋づる式
    Jun 7th
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