light
The Works "ポッキーゲーム" includes tags such as "腐術廻戦", "日下部篤也" and more.
ポッキーゲーム/Novel by anonymous

ポッキーゲーム

3,231 character(s)6 mins

日にち、違うけど。短編の篤寛。「平凡な日常」シリーズの二人がベースですが、ストーリーとは全然関係ないので単品で置いておきます。

1
white
horizontal

 俺の同棲人が仕事帰りにポッキーの箱を持って帰ってきた。甘党って訳でもないし、性格的にもポッキーの日だからポッキーゲームしよう、キャー、って感じのヤツでもないから誰かからもらったのだろう。愛想がないように見える顔つきも通常運転だが、俺は経験と勘で「これはちょっと機嫌悪いな」と判断した。俺は小さなテーブルに頬杖をついたまま、ぶっきら棒に、
「おかえり」
 と声をかけた。
 生真面目が黒スーツを着こんだような俺の恋人、日車寛見は「ただいま」の挨拶をすると俺が座るテーブルの上に黙ってポッキーの箱を置き、洗面所に直行した。ちなみに、今日が11月11日であることに俺が気付いたのは日車が手にしたポッキーの箱を見た時だ。寛見は上着を脱いで手を消毒し、足を拭いて部屋着に着替えた後、ゆっくりと俺の元に戻ってきた。恋人はもう食事を終えて帰ってきていたから、食卓を囲んでの恋人団欒の時間はなしだ。寛見は片手に、ちいさなクッキーらしき透明の袋を持っていた。赤々しい派手なポッキーの箱に比して、何の飾りもない。手作りか? と思ったが、簡単な白いシールに黒っぽい文字で分かりやすく商品名と成分表があるのを見て、店で買ってきたものだと察する。
「君は、別にこんなもの、好きではないだろうが…」
 日車は渋い顔のままで、ポッキーの箱とクッキーの袋を開け始めた。ダボっとしたベージュの部屋着が、イベント用の過剰なほど華やかなポッキーの箱と対照的だ。って、言うか、ソレ俺の服じゃねーか。別にいいけど。
「事務所の女性陣、どうしてあんなにイベントが好きなのか理解できない」
 やっぱり同僚の女に押し付けられたか。
 甘いものは自分も恋人も好きじゃないと断ろうとしたら、
「そんな事言ってるから優良物件なのに愛想つかされるんですよ!? 」
 と噛みつかれたらしい。
「どうせ、今の恋人だって自分でしっかり仕事してる独立心のある女性ひとなんでしょ」
「それはそうだが、何の関係が…」
「だから、ちゃんと折を見て愛情表現をしておかないと日車さんより頭悪いくせに、日車さんよりちょっとだけ収入が多くて、もうちょっと見た目が良くて、ずっと愛想がいい男に横取りされるんです!」
「…………」
「さ、これでポッキーゲームでもしてくださいね」


「もう、煩いから反論せずに受け取った」
「そうか」
 俺は笑いそうになりながらクッキーを並べる寛見を眺めた。かなり凸凹したクッキーのボコの部分にポッキーの持ち手を突き刺そうとして失敗し、折れたポッキーが散らばる。
 いや、当然だろ。つーか、ポッキーゲームってそういう遊びじゃないんだけど。
 「……ケーキのロウソクみたいに立ててみようかと思ったのだが」
 寛見はテーブルにキッチンペーパーを広げ、ナイフで小さなクッキーの真ん中をぐりぐりし始めた。穴掘ってポッキー突っこむつもりか。バキッ、と音を立てて小さなクッキーが粉砕される。
 そりゃ、そーだろ
「ふむ、やはりクッキーが固すぎるし、小さすぎるな。…あまり食べないから、小さいものを買ってきたんだが」
 カステラの方が刺しやすいのは自明だが、あまり食べたくないし、ボンドでくっ付けるなど論外だ、と述べるお茶目な寛見ちゃん。
「食べ物で遊ぶのはよくない。イベントで見た目を飾るのはともかく、ちゃんと食べられるものを作るべきだ」
 ごもっとも。で、どうして、何を作りたいのだろうか、この可愛い恋人は。
 寛見はナイフを投げだした。ポッキー&クッキーでケーキもどきを作ることは諦めたらしい。俺は粉砕されたクッキーの欠片を口に放り込んだ。
「ん? あまくねぇな…」
 それに匂いが何というか香ばしいし、食感がざらざらしている。
「ああ、君にはソレの方がいいかと思ってな。オートミールとナッツの粉で作ったものだそうだ。小麦粉は使っていない」
「ほお、ナッツ喰ってるようなもんか」
 それなら酒のつまみと同じだ。寛見もクッキーを摘まむのを見て、酒も飲みてぇな、という考えがふと頭に浮かぶ。
「安価な輸入小麦粉に、過剰な砂糖。君の身体づくりには有害だ」
 いや、ボディビルダーじゃねぇし、そこまで厳密な食事制限なんかしてねぇけど。
「11月11日がポッキーの日だなんて、企業が売り上げのために考え出したこじつけだ。特に何かの意味がある訳ではない」
「まあまあ、そんなモンでしょ。イベントなんて。理屈でやるコトじゃねーし。酒飲んで騒ぐ口実にはいいじゃねぇか」
「ふむ…クリスマスも、ヴァレンタインも本来の意味とはかけ離れたイベントになっているしな。商魂たくましい現代企業の企画部から生まれた新たな文化といったところか」
 俺は寛見の様子を伺った。ちょっと憮然とした感じだ。なんか難しい依頼でもあったかな? 酒の気分じゃなさそうだな、と見て取って、俺は大切な恋人のためにお茶を淹れてやることにした。クッキーで口の中、ぱさぱさするしな。寛見が茶飲みに手を添えてずずーっと緑茶を啜った。お上品だな、おい。
「君も……そんなに、記念日やイベントに拘る方ではないし、我々には無縁だな…」
「ん?」
 歯切れが悪い。
「関係性の確認という意味では、無意味ではないと思っている。………同僚に言われたから、という訳ではないが、愛情や感謝の気持ちの表明というものは、実際に必要なこともある。愛情表現なんて言われても…母が手作りでいろいろなものを作ってくれたことぐらいしか思いつかないが…」
「ん? あー…手作りね。確かに」
 あれ? 訳のわからんクッキー&ポッキー作ろうとしたのって。
「陳腐なイベントでも、これを契機に関係性をさらに発展させることだって、できるだろうしな」
「うん…?」
 じっと目の前の寛見を見る。寛見は自分が買ってきたナッツクッキーをポリポリと食べ、ずずっと日本茶を啜った。お茶の飲み方が普段よりも微妙にお行儀いい。もう、いいよな、と俺に確認して寛見は残りのクッキーを丁寧に袋に戻した。
 なぜか視線が合わない。
 砕けたものだけは綺麗に食べたが、残った細長いお菓子を見て、寛見は躊躇った。こんなモン、ちょびっとなんだから食べちまってもいいし、冷蔵庫に放り込んだっていいだろう。なにをもごもごしているんだ? そして、
 ふと、俺は気付いた。
 照れてるな、こいつ。
 単に俺の服を間違えて着たわけじゃないってコトだ。俺はニヤッとしてポッキーを一本取り、タバコのように咥えた。テーブルに肘を付いて寛見の方に軽く身を乗り出す。
 寛見は目に見えてうろたえた。
「あ、篤也、…その…」
「ん?」
 わざとらしく煽ってやる。寛見がはっきりと「ポッキーゲームしよう」って言うかどうか興味が湧いて悪戯心を抑えられなかった。視線が泳ぐ目の前の恋人。ピコピコとポッキーを上下させる俺。
 突然、寛見がキッと俺に向き直るとガタッと音を立てて立ち上がり、勢いよくテーブルの上に体を乗り出した。いや、そんなに何かを決意するような顔しなくても。
 ぱきっと鼻先で消費されたポッキーの音。期待に反して、寛見の唇の感触はなく、代わりにがしっと両手で頭を鷲掴みにされた。額の辺りに馴染みの温かみを感じる。
 いや、可愛いかよ。
「今日は、ダメ?」
 上目遣いになったのは仕方ない。俺のせいじゃない。だって、寛見ががっしり俺の頭を掴んで、立っているからだ。
「いや、…汗臭いから」
 寛見は表現しがたい照れ顔で俺を見下ろし、辛うじて聞き取れる小声で言った。
「シャワー、浴びてくる。すぐ、終えるから」
 俺はにっこりとほほ笑んだ。
「ゆっくり湯船に浸かって疲れを取れよ」
 そそくさとバスルームに向かう寛見の後姿に声をかける。小さく頷いたのが見えた。
 きっと顔は赤くなっているだろう。



——— 風呂場に乱入したろーか

Comments

  • しゅん

    お誘いするのに色々考えて遠回りしてしまう日車が可愛いです…!最後の日下部のセリフも好きです🤣 anonymousさんの作品全て大好きで、何度も何度も繰り返し読んでいます。 新作書いてくださって嬉しいです!!

    December 4, 2025
  • なべ
    November 22, 2025
  • もったり馬

    事務所の所員辛辣すぎて笑う。そしてまんまとのせられる寛かわいいよ。

    November 19, 2025
Potentially sensitive contents will not be featured in the list.
© pixiv
Popular illust tags
Popular novel tags