診療録05.02(1):無自覚発症者Kに関しての報告
【キャプション必読願います】
篤寛花吐き病パロです。
全9話の1話目になります。
原作から7年後の世界線で日車さん呪術師if。
好きな相手がいない(と思ってる)のに花吐き病を発症した日下部さんのお話。
※ラブコメです。
★捏造過多。花吐き病オリジナル設定あり。精神疾患系の話・余命・寿命などの言葉が出ます。
苦手な方は自衛をお願いします。
以前日車さんの夢小説を投稿したのですが基本こちら方面の人間でして、フォローしてくださった方すみません……。
別ジャンル作品の焼き直しなのですが楽しんでいただけると嬉しいです。
2026.6.7追記
タグの追加ありがとうございます…!
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薫風が心地良い雀さえずる早朝五時。
「ごめんなさい、ごめんなさい…っ」と涙ぐむ女性を前に、日下部は今しがた吐いたばかりの『花』を抱えながら茫然としていた。
事の始まりは日下部が任務帰りに道端で蹲る女性を発見した時だった。
今日は大型連休の初日なので前日から深酒でもした類だろうか。めんどくせーと思いつつ若い女性だった事もあり犯罪に巻き込まれても面倒だと覗き込むように声をかけてみたのだが、「だめです、離れてください…っ」と慌てた女性が言うや否や激しい咳と共に『花』を吐き出したので日下部は驚いた。
——は?今この人花吐いた?
女性から零れ落ちたその花を、地面に落ちる前にと手を伸ばしてしまったのは脊髄反射だった。
途端、唐突な嘔吐感と共に咳き込んだ日下部は、次いで今度は自分が鮮やかな赤色の花を大量に吐き出したので目を丸めた。
その様子を見た女性が土下座せんばかりの勢いで謝罪の言葉を繰り返したのが冒頭の経緯なのだが——。
「花吐き病ですね」
「——なんて?」
同日九時十二分。日下部は件の女性から「ここを受診してください」と言われた病院には行かずに家入の元へと訪れていた。
自分の口から花が吐き出されたのだ、何かの呪いの一種なら家入の所に行った方が諸々手間が省けるだろうと踏んだのだ。が。
「だから花吐き病、です」
美しい口元から再度繰り出された単語に日下部は眉を顰めた。
「はなはきびょう?」
「花を吐く病、と書いて花吐き病——正式名称は嘔吐中枢花被性疾患と言います」
「嘔吐中枢……かひ?」
「花を被るって字です。精神疾患に分類される感染症なんですが、簡単に言うと片想いを拗らせると花を吐くようになります」
「——なんて?」
なんか俺今すげぇ頭の悪そうな返事をしているな、と頭の隅が考えたが致し方ない。それくらい日下部は混乱していた。
——片想いを拗らせると花を吐く?
日下部の混乱を察知したらしい家入が「まあ気持ちは分かります」と淡々と告げる。
「待て待て、色々待て。まず病気っつったか?呪いじゃなくて?」
「もしかしたら元はそうだったのかもしれませんが、発症条件が医学的に解明されているので現在では病に分類されてますね」
「……花吐く病気なんて聞いた事ねぇけど」
「この病気は感染する上に治療法がまだ見つかってないんですよ。対処法はあるんですが、病気の特性から暴動や差別を起こしかねないので世界規模で箝口令が敷かれてます。だから日下部さんも他言無用でお願いします」
つらつらと病状説明をする家入の声にはもちろん嘘も揶揄もない。だからこそ日下部は頭を抱えたくなった。
「精神疾患っつったよな?なのに感染症っておかしくねぇか」
「あえて分類するなら、です。言うなれば『恋の病』なので」
「こいのやまい」
二十年ほど前に人生から置いてきたような単語が出てきて日下部は結局頭を抱えた。パンダと狗巻がいたら大喜びされていた事だろう。
「花吐き病の感染源は罹患患者が吐いた『花』です。その他での接触感染はありませんが『花』に触ると漏れなく感染します」
「もれなく」
「秘匿疾患なんで本来なら感染者は指定病院への受診を義務付けされるんですが、まあ私も医師として関係者だったので結果オーライでした」
「けっかおーらい」
「ただ感染しただけではまだキャリアの段階です。恋患う相手がいなければ発症、つまり花を吐く事はありません」
「こいわずらうあいて」
オウムでももっと流暢に復唱するだろう。
家入からの説明に頭悪くひらがな言葉を返しているだけの自分を日下部は自覚していたが「仕方ねぇだろが」とセルフツッコミを入れていた。
だって「片想いを拗らせると花を吐く病気に感染しています」だぞ。頭の回転は速い方だという自負がある日下部でも、そんなにすぐ脳が受け入れてくれる事態ではない。
「つまり俺が花を吐いたのは、片想いを拗らせてるからって事か?」
そしてこれが一番の問題なのだ、と日下部は家入に問いかけた。
家入が複雑そうに口を開く。
「まあ、そういう事です」
「——とりあえず家入、笑いたきゃ笑っていいんだぞ」
笑いをこらえるような、しかし何だか悩まし気な様子を見せる家入に日下部は先手を打った。
いまだ受け入れがたい病の話だが、とりあえず四十も超えたおっさんが患っていい病気じゃない事は確かだ。罹患者が『日下部篤也』となれば尚更、高専関係者の九割は盛大にからかってくる事だろう。
「いえ、確かに秘匿義務がなかったら酒の肴にして歌姫先輩と夜通し盛り上がったと思うんですが」
「そこまでは言ってねぇ」
「『余命三年』の病気なんで、笑ってられないんですよ」
「は!?そんなやべぇ病気なの!?」
軽口の叩き合いから一転、突如下された余命宣告に日下部はさすがに目を剥いた。
家入の様子から実際の『余命』とは異なるのだろうと察したが、それでもこんなファンシー病名の疾患に生殺与奪の権を握られているのかもと思うと抵抗感が湧く。
対する余命宣告をした医師は表情を変えずに言葉を続けた。
「通常の『余命』とは違う意味なんですけど……。とりあえず日下部さん、その『恋の病』のお相手と恋愛関係になるのは難しい状況ですか?」
「え、急になに」
「花吐き病の唯一の治療法なんですよ。片想いを拗らせると発症する病気なんで、相手と両想いになれば花は吐かなくなります。なので日下部さんが意中の相手と両想いになれば問題は解決するんですが」
先程とは打って変わった心配の色を含んだ声だった。家入がこんな声を出すくらいだ、花吐き病とはそれだけ治癒の難しい病気なのだと日下部は察する。
元より花を吐くほど患ってしまった恋心だ、花吐き病患者が想う相手は成就の難しい相手である事が多いのだろう。
——つってもなぁ。
がり、と日下部は頭を掻いた。
「難しいっつーか、その意中の相手とやらがいねーんだけど」
「——はい?」
「だから、惚れてる相手がまずいねぇ」
そう、花吐き病に関して日下部を混乱の渦中に追いやっている最大の要因はこれだった。
日下部には恋患うどころか『好きな相手』というものが存在しないのだ。
それなのに『片想いを拗らせると花を吐く病気』になっているとはこれいかに。
「あーそれは……、相手が多すぎて一人に絞れないとかですか?」
「え、お前には俺がそんな男に見えてるの?」
ちょっとドン引き、みたいな顔をした家入に日下部は不服な気持ちになる。
のらくら生きてる自覚はあるが過去の恋人はそれなりに大事にしてきたつもりだし、そもそも面倒くさがりの自分が遊びでも複数を相手にするわけがない。
それなのに何を言い出すのだこの小娘は、という気持ちで家入を見れば「まあ冗談はさておき」としれっと返された。
いやお前さっき『ドン引き』みたいな顔してただろ。
「新しい症例です、興味深い。とりあえず採血するとして、まずは日下部さんの片想いの相手の特定からですね」
「まずもって発症してないって事はねぇのか?」
「花を吐いた時点で発症は確定です。感染者がすでに片想いを拗らせていた場合はその場で一度花を吐くので」
「ぬあ~~~」
どん詰まりである。日下部は再度頭を抱えた。ファンシーな病名の病気に感染した挙句思い当たりもないのに発症してしまったのだ、多方面から精神的ダメージが強い。——更には。
「……俺の片想い相手の特定ってどうやんの」
「まあ、まずはヒアリングからですかね」
「それはつまり」
「端的に言えば私と日下部さんで恋バナをします」
「俺とお前で恋バナ」
やっぱりか、と日下部は眉間に拳を当てながら項垂れた。
なにが悲しくて妹よりも歳の離れた同業者と恋バナをしなければいけないのか。しかも聞く方ではなくて言う方。まごう事なきセクハラ案件である。
「花吐くだけなら様子見じゃだめなのか?マジで相手に心当たりねぇから、ヒアリングされても家入の時間無駄にするだけだと思うんだけど」
「しばらくはそれでもいいですが、『余命三年』なんで引き延ばしてもいい事ないと思いますよ」
「あ゛~、それがあったかぁああ」
やっぱりどん詰まりである。日下部は抱えた頭をガシガシと掻いた。
正直なところ、そのとんでも病に感染した事も発症した事も起こった事はもうどうしようもないので割り切りは完了させていた。余命はあれど解決法もあるようなので向き合っていかなければならない事も理解した。が、だからといってそれで家入の時間を取らせるわけにはいかないのだ。
本気で『片想いの相手』が分からない日下部に一朝一夕でその相手が判明できるとは思えず、そんな事で呪術界のたったひとりの医師の手を煩わせるわけにはいかなかった。
そんな日下部の葛藤を見て取ったのだろう、「そういうところですよ」と家入がため息を吐いた。
「——それなら外部のカウンセリングを受けてみますか?」
「外部のカウンセリング?」
「まぁある意味『内部』なんですが」
言いながらがたり、家入がデスクの引き出しから一枚の名刺を取り出した。
「その人も花吐き病患者なんですけど『余命』がなくなった初症例の人で、罹患期間も長いんで国から他の花吐き病患者のカウンセラーを任されてるんです。日下部さんと同年代だから私よりは話しやすいと思いますよ」
「え、余命がなくなるとかあんの?」
「その辺りも含めて詳細を彼から聞いてもらえればと」
「男のカウンセラーなのか」
「淡々とした話し方をする人なんで最初は取っつきにくい印象を受けるんですけど、気を許してもらえるとたまに笑うのがレア人気で結構引っ張りだこみたいです」
取っつきにくいのはカウンセラーとしてどうなんだ、と思うが、本職ではないようだし患者から人気が高いのなら最終的にいいのだろう。と、そこでふと日下部の脳裏に知った人物が過る。
言葉を操る職業だったくせに淡々とした喋り方で滅多に表情を崩さない彼も、いつの頃からか日下部に笑った顔を見せるようになっていた。
「ただ」
「——ん?あ、なに」
「日下部さんと同世代のついでに同業者なんですが、まあ、私と恋バナするよりは気楽ですよね?」
「え?」
言うや否や「カウンセラーの情報です」と家入が名刺を差し出してきたので反射で日下部は手のひらサイズのカードを受け取った。
言われた言葉を脳で処理しながら飾り気のない名刺に視線を落とせばびたり、思考が停止する。
脳の視覚野が認知したのは明朝体で書かれた知った名前と知らない電話番号。
【カウンセラー 日車寛見】
「——家入、『カウンセラー日車寛見』って書いてんだけど、うちの日車と同姓同名の方?」
「うちの日車さんと同一人物の方です」
「——なんて?」
この瞬間、とうとう日下部の脳が処理落ちした。
Comments
- 小夜双☆スカィWebMay 2nd