1: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2014/06/27(金) 22:54:07.08 ID:cMGVLU1+0
※咲の十二国記パロです

といっても世界観を取り入れただけで話はオリジナルですので
閲覧は自己責任でお願いします。ほんのり菫咲風味

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403877246

引用元: 菫「見つけた。貴方が私の王だ」咲「えっ」 



「十二国記」画集〈第一集〉久遠の庭
山田 章博
新潮社
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3: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 22:59:13.91 ID:cMGVLU1+0
咲には両親がいない。

物心ついた時より大きな商家の下働きとして働き、とりあえずの日々を細々と生きていた。

商家の主人からは小さな粗相をしては頭ごなしに叱られ、

姿が見えないからサボっていたのだろうと決め付けられ容赦なく叩かれたりもした。

きっと、反抗もせずじっと耐え続けていたのも主人からしたら気に入らなかったのだろう。

一日に数回は難癖を付けられ、いびられたがそれでも内容は貧相であれ一日二食の食事は約束されており

冬は辛かったけれどなんとか越せる寝床も用意されていた。

ここより叩き出されて、外の世界で生きていくほうが何倍も辛いだろう事を、

商家に出入りする旅商人の噂より咲は聞き知っていた。
 

4: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 23:05:58.48 ID:cMGVLU1+0
この世界は天帝により12の国が定められ、それを治める王がいた。

咲がいるこの国も、その十二のうちの一つだったが……

数十年前に前王が倒れて以来、まだこの国に新王は立ってはいない。

国を治める王は、麒麟という神獣によって人の中より選ばれる。

選定された瞬間より、王は人では無くなり、神にも等しい存在になるのだという。

玉座に座り、その治世が正しく続く限り、王は不死となり国はいつまでも栄える。

だが反面、王が民を省みず悪政を敷くならば天が許さない。

そのため、この国の前王は数十年前に、100年弱の治世を経て天から見放された。

聞いた噂によると前王は悪婦に溺れ、政治を省みなくなったのだという。

長く王の傍らで支え続けた麒麟の声にも耳を傾けず、その神獣を失道させてしまってからはあっという間だったらしい。

5: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 23:12:23.36 ID:cMGVLU1+0
王を神にした麒麟を失えば、王はもはや神ではない。

そうして、酷い病に冒された前王が死んでから数十年。

新しい麒麟による選定は始まっているらしいが、今だ新王が即位したという話は聞こえてこない。

その間に、この国には災いが満ち溢れるようになってしまった。

「隣町でまた妖魔が出たそうだよ…」

「南の方では、干ばつが酷いらしい…」

「それでごうつくな役人が税の上前を撥ねてしまうから…」

商家を訪ねてくる旅人からは気が滅入るような噂しか聞こえてこない。

この世界では王が玉座に在るだけで、国はある程度安定する。

今のように空位な状態が続くと、国中に天変地異が起こり、人を襲う妖魔の出現も増えるのだそうだ。

だから咲は思う。

例え今、主人より酷い扱いを受けていようとも、自分がこの商家より放り出されたら

一日も経たずに身包み剥がされるか、妖魔の餌食になり人生は終わることだろう。

だから、単なる憂さ晴らしに主人より殴られたのだとしても……それに逆らう道は咲にはなかった。

6: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 23:16:58.78 ID:cMGVLU1+0
ある寒い日のことだった。

朝の仕事をある程度終えた咲は、桶を持ち裏の勝手口より井戸へと向かう。

桶に井戸から水を組み入れ、それが終わると赤くなってしまった指先に息を吹きかけ咲は一息ついた。

昨日尋ねてきた旅商人が言っていたが、今年は天災が続き農作物が大打撃を受けたらしい。

今はまだいいが、これから雪が降れば食料が品薄になり世間の生活は更に辛くなるだろうと。

本当に、聞こえてくる話はそんな気が滅入るものばかりで…

このまま新王が立たない時期が続けば国は更に疲弊しているのだろう。

明日は我が身に降りかかる火の粉かもしれない、人生に明確な目的があるわけでもないが

それでも明日一日を無事に生きていきたいと思いながら、咲は小さく息を吐いた。

そろそろ仕事に戻らなければ主人に怒鳴れるかもしれない。

殴られるだけならまだいいが食事抜きになったら本当に辛い。

早く戻らなければ。

そうして、冷えた指先に力を込め、水がたっぷり溜まった桶を持ち上げた瞬間……

咲は視界の先に佇む人影に気付いた。

7: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 23:23:57.61 ID:cMGVLU1+0
咲「えっ」

ついつい短い声を上げてしまったのは、咲の他に人がいるとは思わなかった事と。

佇む人影に見覚えがなかったからだ。

確実に、家内の者では無い。

ならば、ここは商家の奥まった庭先でもあるし…

もしかしたら商家を尋ねていた旅商人が迷って入り込んでしまったのだろうか?

だけど突如現れた人影は、どうも長旅を主にする旅商人の格好でもないような気がした。

落ち着いた色彩の身なりだが纏っている生地は高価なものだと思う。

咲よりも少し上ぐらいの年頃の少女に見えた。

少女は言葉も無く、ただ、じっと咲を見つめていた。

咲「……?」

そんな不躾な視線を受けて、咲は首を捻った。

だが、いつまでもここで見つめ合っている訳にもいかないと目の前の少女に話しかけた。

咲「あの。店にいらしたお客様でしたら、申し訳ありませんが表に廻って頂きたいのですが……」

そう言いながら、家屋を回り込む道筋を一方的に教える。

旅商人には見えなかったが、そうでなければ彼女がここにいる説明が付かない。

強盗するような身なりにも、雰囲気にも見えないのだから。

すると意外にも咲の言葉に従うように少女はその場より歩き出す。

ほっ、と咲は安堵の息を付く。

8: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 23:27:14.47 ID:cMGVLU1+0
どうやら、本当に迷い込んでしまったのかもしれない。

無愛想だが、世の中、色んな人がいる。

こんな気難しそうな商人がいても可笑しくはないのだ。

だが、咲が感じた安堵はすぐに消える。

自分が指し示した道筋を辿る事無く、真っ直ぐ向ってきたのは…咲の眼前だ。

咲と、たった一歩程の距離で立ち止まった少女に「あの、」と焦り気味に咲は声を掛ける。

だけど、その問いかけに答える事無く、代わるよう伸びてきたのは腕だ。

驚き、咲の体がビクリと震える。

それでも逃げに入らなかったのは、無愛想な少女だが咲を見下ろすその瞳には

咲の主人のような蔑みの色が見えなかったからだ。

伸びてくる腕の先、その指先が咲の目尻に触れる。

ヒヤリとした指先の冷たさと共に、痛覚へと響いた痛みに咲は顔を顰めた。

昨日廊下の掃除をしていたら主人がやってきて、有無も言わさず殴られたのだ。

後から、咲と同じような下働きから聞いたが旅商人との交渉が思っていた程上手くいかず、

手当たり次第、見かけた者に当り散らしていたのだそうだ。

まさしく、そんなとばっちりを受けた咲の目尻 は理不尽に受けた暴力から腫れて赤くなっていた。

今日は寒かったから痛さは引いていたが、触れられた事で痛みを思い出してしまった。

9: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 23:31:25.07 ID:cMGVLU1+0
咄嗟に、触れたままの指先を退けてもらおうと、咲は眼前に立つ少女に訴えようとした。

が、見上げる先にある端正な顔立ち。その瞳が気難しげに細められた。

そして、形の良い唇が開く。
 
菫「遅くなって申し訳ない」 

見上げる先の、少女の声は静やかだったけれど。

なにか真摯な想いが込められたその声を聞き咲は混乱を覚える。

だって、初めて出会った少女だ。

こんな身なりの良い知り合いなど咲にはいないし、見たことも無い。

そんな人間が、なぜ、突然咲に謝るのだろう?

咲「あの、すみませんが。人違いではありませんか?」

咄嗟にそう言い返していた。だって、その理由が一番しっくりくる気がする。

世の中には同じ顔の人間が数人いるというのだから、

きっとこの少女は咲と他の見知らぬ誰かと間違えているに違いない。

10: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 23:34:43.37 ID:cMGVLU1+0
だが、そんな咲の希望的観測を否定するよう少女は首を左右に振る。

菫「私が、貴方を見間違うはずがない」

咲「で、でも、初めてお会いしましたよね?」

少女は素直に頷く。

ほらね!と、咲は言葉を返そうとした。だが、

菫「それでも、ずっと…私は貴方を探していたんだ」

咲「え?」

どういうことですか?と咲が声を返そうとした瞬間。

家屋の方より怒鳴り声がした。

主人「おい!」 

その鋭い声に対して、咲は長年通して受けたきた恐怖が植え付けられている。

ひっ、と短い悲鳴を上げながら、咲は声がした方より数歩後ずさった。

自然、目尻に添えられていた指先も離れる。

咲の視界の片隅に、その指先を丸め握り締める少女が見えたが構っていられない。

まずい所を見られた、咲にはその気はなかったが怒鳴り込んでくるに違いない。

主人からすれば、咲はサボっていたように見えたはず。

11: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) 2014/06/27(金) 23:37:31.18 ID:cMGVLU1+0
主人「そんな所で何をやっている!?」

野太い怒鳴り声と、寒さで悴む指先で咲は持っていた桶を地面に落としてしまった。

バシャリと汲んだ水が辺りに染み渡り、その向こう側から荒々しい足音を響かせ主人がやってくる。

主人「本当に愚図な奴だ、水汲み一つできんとは!」

主人がそう言葉を吐き捨て、水溜りの上を水滴を飛ばしながら咲の前まで来ると、

太い腕を伸ばし有無を言わさず咲の髪を鷲掴みにした。

髪の毛一本一本を強く引っ張られる痛みに、咲は顔を歪ませるが…

きっと、今感じる痛み以上の折檻がこの先待っているに違いない。

恐怖でぶるりと震えた体が強い力で引き摺られる。

頭皮が感じる痛みに逆らえず足を縺れさせながらも数歩分、家屋へと近づいた瞬間。

主人と、咲との背後より硬い声が響いた。
 
菫「そ