10人に2人は「右派市民」 1万人調査で見えた特徴と分断回避の道
Re:Ron特集「時代のことば」 右派市民
近頃、日本の政治が右傾化していると言われます。「日本人ファースト」という主張を掲げる政党が支持を伸ばしたり、政権政党が「強い国家」を高唱したり、その傾向は強まっているように見えます。では、そうした右派的な思想や人物・団体に共感する人たちとは、どういう人たちなのでしょうか。
社会意識論が専門の中京大学教授・松谷満さんが「右派市民」というペルソナ(人物像)をつくって分析したところ、従来のイメージとは異なる姿が見えてきたといいます。その実像とは。左・右の分断が深まるいま、対話・共存の可能性はあるのか。
中京大学教授 松谷満さんインタビュー
話題のキーワードや新たな価値観、違和感の言語化……時代を象徴する「ことば」を、背景にある社会とともに考えます。
――近著『「右派市民」と日本政治』で「右派市民」という概念を提示されました。
「市民」には、どちらかというと左派・リベラル寄りのイメージがあります。以前は、市民という言葉が付くだけで、左翼じゃないかと見られる、偏りのある言葉として捉えられていました。
一般的に市民とは、自律的で積極的に政治に関わる存在とされてきましたが、それは左派に限ったことではないだろう。右の価値観を持つ人にも積極的に政治に関わる人もいるとの認識に立ち、彼・彼女らを「右派市民」と定義して、客観的に分析しようと考えたのです。
■「右」の市民に着目したわけ
――市民に着目したのは?
日本は民主主義の社会です。そこではどんな思想、人物、団体であれ、多くの市民から支持されてはじめて力を得ます。裏を返せば、社会を考える際、市民の意識や嗜好(しこう)を知るのは不可欠です。
近年、政治の世界でもメディアやネットの中でも、右派は無視できない存在になっています。ただ、右派の思想や人物、団体の研究は多いですが、それに共鳴する市民の像は明確ではない。そこで1万人以上の市民を対象にしたアンケートを用いて、「右派市民」の実像を数量的に示そうと考えたのです。
――調査はいつ?
2017年12月、安倍晋三さんが首相の頃です。東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県に住む20~79歳から、実際の人口構成比に近くなるよう対象者を選んでアンケートを郵送し、1万1508人から回答を得ました。時期がやや古いですが、表層的な意見というより人びとが強くこだわる価値観や感情に着目しているので、ある程度持続した傾向が見いだせると考えています。
現状は、右派と左派が互いに相手を印象に基づいて語り、許せないとか愚かだとか、ネットやSNSでけなし合っている。あまりに不毛です。どういう考えを持つ人か、どんな行動をとる人かを知り、ダメなところはダメ、認められるところは認めるといった、冷静で客観的な対話、議論ができるデータを示すというのが狙いです。
もっと言えば、アメリカでは今、共和党と民主党の支持者が、感情的分極化というか、お互いにまるで別の人種みたいに対立をしています。日本はそうなって欲しくない。回避する方途を探るというのも、動機としてありました。
■四つのタイプとその特徴
――「右派市民」とは。
「右」と「左」に関するこれまでの研究を見ると、両者を分ける指標は「国」や「伝統」に関する事柄に集約されます。これを念頭に、日本で右派、左派と言ったときに何をイメージするかを踏まえ、三つの判断基準を定めました。
過去の日本に強い愛着を持つ
特定の伝統的な規範、家族や性別に愛着を持つ
国や伝統を軽視するように見える人たちに反発する
この基準の一部を強く満たす人を、四つのタイプの「右派市民」と定義しました。
①国を愛しすぎている人(愛国主義者)
②伝統を愛しすぎている人(伝統主義者)
③中国や韓国を敵国とみなして嫌い過ぎる人(排外主義者)
④左派やリベラルといった政敵を嫌いすぎている人(反左主義者)
具体的な質問と分類の根拠は著書に譲って割愛しますが、結果を示すと、愛国主義者6%、伝統主義者4%、排外主義者13%、反左主義者5%でした。
――特徴を挙げると?
大ざっぱに言えば、「右派市民」は男性が中心で、女性は少なめです。
興味深いのは、男性は大学を卒業している人が、非大卒より多い点。「経済的、社会的に安定していない人に右派が多い」という欧米の先行研究とは異なる結果でした。また、右派市民と最も距離があるのは若年の大卒女性でした。
愛国主義者に、自営業者や経営者、管理職が多いのも目立った特徴です。責任をもって組織を担う人たちにとって、「国家」の物語はしっくりくるのでしょう。右派の本を買って勉強しているという印象があります。
伝統主義者は、やはりというか、高齢の男性が目立ちます。身につけた旧来の価値観を大事にして、最近の価値観に違和感を抱いているのでしょう。そういう方々は地域とのつながりを持っていたりする。
対照的に、排外主義者は何かと不満があったり、属する場がなかったりで、周囲とのコミュニケーションが不足しているという特徴があります。反左主義者は、若めの大卒の男性で、ネットをよく使い、テレビを信用していない人が目立ちます。
――四つのタイプは、「いかにも右派」というイメージですが、日本は大好きだけど、過去の伝統には必ずしもとらわれない人も、いるように思います。
そうですね。実際、あらゆる右派の要素を満たした人は少ない。調査でも、四つのタイプすべてを満たす右派市民は0.2%でした。複数当てはまるのは、合わせて5%程度。右派市民といっても、4分の3は、一つのタイプにしかあてはまらないのです。
一方、どのタイプにも当てはまらない人は78.9%。およそ8割は「右派市民」ではないが、2割はある部分において「右派市民」というわけです。言い方を換えれば、10人のうち2人は、ある分野で極端な意見、例えば排外主義的な意識をもっているかも、という話です。これを多いと見るか少ないと見るか……。
私は、まあまあ多いと思います。
■「左派」の割合は?
――左派はどうなのでしょう。最近、減っているのでしょうか。
今回の調査は「右派市民」の抽出が目的ですが、補足的に「左派市民」も分析してみました。
「右派市民」を裏返した、①非・愛国主義者②非・伝統主義者③反・排外主義者③親・左主義者の4タイプを調査で見ると、①4%②13%③9%④7%でした。
すべて満たすのが0.5%、複数当てはまるのが合わせて5%程度、4分の3は当てはまるのが一つのタイプという、右派市民と似た結果でした。
――にもかかわらず、社会が右傾化して見えるのは、どういうわけでしょう?
右派市民はさほど多くはなくても、伝統的規範へのこだわりの強さ、例えば伝統的な家族観を維持するといった主張はとても強い。それほどでもない人にすれば、声高な主張に抗して規範を変えるのは面倒と考えて、結果的に物事が変わらないことはあるでしょう。
――それも、右傾化と見るべきなのでしょうか。
社会自体は右傾化していないが、政治家は右傾化しているというのが、多くの政治学者や社会学者が言うところです。
ただ私は、日本は全体としてもともと右派的な意識が強いと見ています。
――どういうことでしょう?
1990年代までは、メディアやアカデミズムが自由や民主主義、個人の権利の尊重を理想に掲げ、かつそうした言説が情報空間で主流でした。
ネットの浸透によってそれ以外の言説が情報空間に出てきたのを契機に、日本人の基層にあった右派的な意識が表面に出てきた。それが2010年代以降の日本の社会状況だと見ています。
■自分が何者かを知ったうえで……
――右寄りの基層がリベラルと対立する日本社会で、私たちはどうすればいいのでしょうか。
今回の調査で「右派」「左派」の要素に複数あてはまる人たちはともに2割程度。残る6割は「中間層」の人たちです。
「どうすればいいか」はその人がどういう立場にいるかによって変わるので、おのおので考えるしかありませんが、あえて言えば、次のようなことでしょうか。
「右」であれ「左」であれ、極端な考えは社会を壊しかねません。多数である中間層にとっては、両端の人が極端になりすぎないことが望ましいのでしょうが、こだわりが強くない中間層が、強い考えを持つ人を説得するのは至難の業です。そこで、まずは右派、左派の人の意見を聞くことから始めてはどうでしょうか。
極端な意見だとはなから否定せず、背景や理由に耳を傾ける。そのうえで、互いに生きづらくない社会を目指し、仲良くやろうよという方向に持っていくのがよいのではないでしょうか。「正しさ」を追求する立場からは非難されるかもしれませんが、政治的な立場の違いから社会の分断を招くよりも、和を重視するという日本的な落としどころを目指したほうが、まだマシかもしれません。
――自分がどの立場かを知ることが大事ですね。「右派市民」の基準は物差しになりそうです。
そう使ってもらえればうれしいです。
ちなみに、私は「左派市民」。それも4タイプすべてに当てはまる「ガチ左派市民」です。自分がおそろしく少数派であるというのが、調査で得た教訓の一つでした。知人からも、自分の立場が分かったという声を寄せられました。
右派も左派も「ガチ」は意外と少ないというのも、調査から得られた教訓です。ガチ同士が折り合うのは難しくても、その程度を自覚できたなら、話せる部分もあるのではないでしょうか。
共和党と民主党の支持者が感情的分極化に陥っているアメリカのように、日本はなってはいけない。そのためにも、考えの違う人と一緒にいることをあきらめてはいけないと思うのです。
まつたに・みつる 1974年、福島県生まれ。中京大学現代社会学部教授。博士(人間科学)。専門は政治社会学・社会意識論。1998年、名古屋大学文学部卒業。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。著書に『ポピュリズムの政治社会学 有権者の支持と投票行動』(東京大学出版会)、共著に『ネット右翼とは何か』(青弓社ライブラリー)、共編著に『3・11後の社会運動 8万人のデータから分かったこと』(筑摩選書)、『「右派市民」と日本政治 愛国・排外・反リベラルの論理』(朝日新書)など。
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評者は新書の方も拝読したが、松谷教授の研究は、1万人以上を対象とするアンケートにもとづく、たいへんな労作である。「右派市民」の定義が独創的で、それが興味深い分析結果につながっている。 当記事は「10人に2人は『右派市民』」という見出しになっているが、これはあくまで松谷教授の定義にあてはまる右派的回答者が約2割だったということであって、測り方によっては1割になったり、逆に3割に増えたりするだろうから、この割合の数字自体にはさほど意味はない。 他方で、「日本は全体としてもともと右派的な意識が強いと見ています」という教授の見立てに、評者は全面的に同意する。そもそも、右派政党である自民党(およびその前身政党)が戦後を通じて圧倒的に選挙で強かったわけで、右派的気分の有権者が割合として多かったことはほとんど自明である。 そうしたベースのうえで、さらに右傾「化」が近年、さらに進んだかどうかというのは、また別の論点になるが、当調査は1時点のものだからそうしたトレンドを議論するのには向かない。当調査は2017年に行われたということだが、追跡調査がなされることが期待される。
2026年6月25日 16:43 - 津田正太郎慶応義塾大学教授・メディアコム研究所視点いまなら試し読み
非常に興味深い調査結果でした。 この記事にもあるように、自分がどのような立ち位置にあるのかを知るのは重要なことだと思います。「自分は中立」などと根拠もなく思い込むより、自らの立ち位置を知ることで、「自分が何を信じたがっているのか」「何を信じたくないのか」がより明確になり、情報の真偽を判断するうえでの検討材料になると考えるからです。 その一方で、こういった「右派」や「左派」といったカテゴリーを過度に使わないようにすることも非常に重要だと考えます。「右派」「左派」だけでなく「ネトウヨ」、「パヨク」、「ウォーク」、最近だと「極中道」なども含め、政治的なカテゴリーの濫用はそれ自体で敵対心を高揚させ、分断を悪化させます。 自分としては一個人として発信しているのに、適当なカテゴリーに放り込まれ、一括して否定されるというのは、きわめて不快な経験です。そういうレッテルを貼ってくる人に対しては、敵対的にならざるをえません。 もちろん、この記事のように政治意識の分析にあたってカテゴリーの使用は避けられないのですが、具体的な他者を想定する形でカテゴリーを使用するのはなるべく避けたほうがよいと考えます。 もっとも、ソーシャルメディア空間では、「分析」と「批判」とを切り分けるのが難しく、本人としては俯瞰的に分析しているつもりであっても、特定個人に対する批判と受け止められうるというのが悩ましいところかもしれません。
2026年6月25日 17:53