東京
番組名やニュース、出演者などを検索
緊急時のため、命を守る情報をみなさまに広くお伝えしています。

“AI・データセンターにNO” アメリカで広がる反発

一般に提供できないほど“性能が高すぎる”AIモデルが登場するなど、AI=人工知能をめぐるニュースが相次いでいます。日本よりAIの利用も開発も進んでいるアメリカでは、AIに対する反発が広がっています。“あすの日本の姿”かもしれません。
(飯田香織 解説委員)

卒業式で相次ぐ“BOO”

2026年5月、全米の大学の卒業式で異変がありました。

IT大手のグーグル元CEOのエリック・シュミット氏がアリゾナ大学の卒業式でスピーチした際、「2025年の『ことしの人』に選ばれたのは、AI=人工知能の設計者たちだった」などとAIについて前向きな発言をすると、学生からブーイングを浴びました。

また、不動産会社の幹部がセントラルフロリダ大学の卒業式で「AIは次の産業革命だ」と述べたところで、やはりブーイングが起きました。

逆に「数年前までAIは私たちの生活に重要でなかった」と述べると、歓声が沸きました。

今回の卒業生は、2022年、大学1年生の時に生成AIサービス「ChatGPT」が登場し「AIを使いこなす“AIネイティブ”が初めて社会に出る」と言われています。しかし、全米の大学の卒業式でブーイングが相次ぎ、AIに対する戸惑いや反発の表れだと受け止められています。

“Z世代”に広がる反発

アメリカの調査機関ギャラップなどが14歳から29歳までのいわゆる“Z世代”の1572人を対象にした調査(2026年4月発表)では、「AIに期待している」と答えたのは22%にとどまりました。前年から14ポイント下がりました。

全体の51%が「AIを週に1回以上使う」と回答しており、調査では「AIのパラドックス(矛盾)」として、これから最もAIを使うことになるであろう若い人ほど、AIに懐疑的になっていると総括しています。

背景には雇用不安

アメリカの若者の間でAIに対する戸惑いや反発が広がっている背景には、雇用への不安があります。

「AIの活用」を主な理由にしたアメリカ企業の人員削減が相次いでいます。

2026年に入ってからだけでも、SNSの「フェイスブック」を運営するメタが約8000人、決済大手のブロックが約4000人、通信機器を手掛けるシスコシステムズが約4000人の人員削減を打ち出しています。

こうしたIT分野のみならず、化学メーカーのダウも約4500人の削減を発表しました。4月にAI開発企業のアンソロピックが極めて高性能なAIモデルを発表したことも不安に拍車をかけているとみられます。

データセンターにも“NO”

若者に限らず、地域住民によるAIに対する不安や不満をぶつける矛先がデータセンターに向かっています。

データセンターは、SNSや動画配信、ネット通販など私たちの暮らしに必要なデジタルツールの膨大なデータ処理のほか、生成AIサービスを使うためにも欠かせない存在になっています。

データセンターの建設は世界的に増えていますが、圧倒的に多いのがアメリカです。

日本の数百か所に対して、アメリカでは4300か所余りにのぼります。大手IT企業が各地に建設を計画しており、今後、急激に増える見通しです。

5月に発表されたギャラップの別の調査では「AI開発を支えるため、データセンターを地元で建設することをどう思うか」の問いに対して、71%が「反対」と回答しました。

データセンターは、データの処理やサーバーの冷却のために膨大な電力と水を使います。反対の理由として、「環境負荷の大きさ」「生活の質の悪化」「電気代の上昇」、さらに「AIに対する懸念」などが挙げられています。

同じ調査で「原子力発電所を地元で建設することをどう思うか」の問いに対して、53%が「反対」と回答したということで、ギャラップは、データセンターに対するとりわけ強い反発が浮き彫りになったとしています。

新規建設反対の法律も

地域住民の反発を受けて、データセンターの建設を一時停止する動きが全米で広がっています。このうち、市内に約50のデータセンターがあるコロラド州デンバーは5月、新規建設を1年間停止する法律を施行しました。

また、首都ワシントンに近く、全米最多の600余りのデータセンターが集中するバージニア州など11の州議会で、建設の一時停止に向けた法案が提出されました。

トランプ大統領は、AIの開発を急ぐため、規制緩和を通じてデータセンターの建設を推進していますが、11月に予定されている議会の中間選挙の争点になると見られるほど、大きな社会問題になっています。

ローマ教皇にも強い危機感

こうしたAIへの不安や反発について、アメリカ出身のローマ教皇レオ14世が踏み込んだ発言をしました。

5月25日、世界のカトリック教徒に向けて、教皇の立場を示した重要文書を就任後、初めて発表した際のことです。

「(AIの)アルゴリズムにより、医療へのアクセスや雇用、安全が阻まれていると聞く。AIを“武装解除”することが必要だ。すなわち、支配や排除、死の道具へと変えてしまうような論理から解き放たれなければならない」と述べ、このままAIが普及すると、人間の尊厳が損なわれかねないと強い危機感を示しました。

日本でも時間の問題か

日本では、アメリカほどAIの利用が広がっておらず、データセンターの建設が本格化するのはこれからです。

それを踏まえて、AIの進化を研究している国立情報学研究所の佐藤一郎教授に「日本でのAIに対する反発」について聞きました。

佐藤教授は「今は、AIを文房具代わりとしか考えていない日本企業が多いが、本格的に業務の見直しに活用すれば、人員が余剰になるかもしれない。日本の場合は、就職、とりわけ学生の就活に影響が出る可能性がある」と指摘します。

そのうえで、「今後、高度で高額なAIサービスを利用できる人とできない人の間で“AI格差”が広がるようなことがあれば、日本でもAIに対する反発が広がる可能性がある」と警鐘を鳴らします。

つまり、日本でも時間の問題だと見られます。

“逆戻りはできない”

AIは、仕事の効率化につながることが期待される一方で、多くの人が戸惑っていると実感します。そうだとしても“AIがない時代”に逆戻りはできません。

それを前提にして、人の痛みを理解することや相手に共感することなど、人間にしかできないことの価値がこれまで以上に大事になってくるのだと思います。

可能性についてもリスクについても、先行するアメリカの動きをよく見ていく必要があります。

緊急時につき受信契約の必要なくご利用いただけます。通常時でもサービスをご利用になりたい方は下記を確認してください。