オリキャラ同士をAIで戦わせるスレ

  • 1◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 13:54:14

    そろそろ1年がたつのでまたやってみます
    このスレだけで終わるかもしれません

    安価で出たオリキャラたちが戦っている様子をAIが短編小説化してそれを楽しむスレです。
    不定期進行な上AI生成の都合上納得のいかない結果になることもあります。
    下にあるまとめは歴代試合や設定に生かせそうな世界観などいろいろ載ってますのでぜひ活用してください

    まとめ↓



    ※版権キャラはそのままでは出さないでください
    ※閲覧注意が必要になるキャラは禁止です
    ※相手が能動的に突ける弱点を必ずつけてください。
    ※AIの生成によるインフレは仕方ないですがそうでない限り勝てないほど強くするのはやめてください。
    ※スレ内で死んだキャラはifルート以外では復活しません。命には非常にシビアです。
    ※ここに出たキャラクターは基本スレ内でのみフリー素材です。要望があるなら必ず設定と一緒に記載してください。
    ※コテハンを本スレでつけていいのはスレ主のみです。

  • 2◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 13:55:28

    まとめが貼れてませんでした

    オリキャラAIバトルスレ・アカシックレコード | WriteningオリキャラAIバトルスレのページやリンクをギュギュっと一つにまとめたページです。 このページの編集コードは「aiai」です。 新しいページやスレが作られた時は追加していっていただけると助かります キャ…writening.net

    今から先着で2人のキャラクターを募集します


    テンプレ

    名前:

    年齢:

    性別:

    種族:

    本人概要:

    能力:

    能力概要:※蘇生能力は禁止です ※マジ神関連はなるべく性能を控えるように

    弱点:※相手が能動的に突ける弱点を必ずつけてください

    要望(任意):

  • 3二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 13:57:27

    名前:芸夢 勇気(げいむ ゆうき)
    年齢:24
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:世界で戦うプロゲーマー。ジャンルは色んな対戦ゲームで戦っておりどの分野においても優勝の経験がある実力者。ゲームの腕を上げるためにゲームワールドの能力で強者と対戦して勝利を収めている。ゲームワールド使用時本体は家でアバターを操作している。反射神経が常人の100倍早いうえに集中力が高く現実の0.1秒で10分間の思考加速とマルチタスクが使える。分析能力が非常に高く相手の行動パターンやその攻略方法を瞬時に見抜いて行動し自分の行動に対する相手の行動の変化や予想外の行動にも対応できる。ゲームワールドの能力で人を殺したりせず負けたら素直にアバターは消滅する。
    能力:ゲームワールド
    能力概要:アバターを作り出し、遠距離からゲームのコントローラーを使用して自分の好きな様に動かす事が出来る。
    アバターが戦闘開始すると対戦相手をゲーム空間に閉じ込めてゲームをさせる。対戦相手は複数人でも可能。
    ゲームワールドに閉じ込められると相手の身体はアバターとなり相手がどんな強者でもゲームとして成り立つ程度に能力や身体能力がコンバートされる。
    ゲームは対戦相手に選ばせてそのうえで正々堂々と相手を倒す。複数人の場合は投票数が多いゲームが選ばれる。
    ゲームが選ばれるとゲームの内容によってルールとステージ、勝利条件が決められてアバターと戦うことになる。
    ゲームに必要な道具は自動で公平に生成される。
    ゲームに負けると敗北となり芸夢の言う事を一つ何でも聞かなければならない。ゲームに勝利すると簡単な願いが叶えられるトロフィーを渡されアバターは消滅する。
    アバターを再生成するには1日かかる。
    弱点:ゲームに負けるとアバターは消滅する

  • 4二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 14:00:00

    名前:G-バックマン
    年齢:8(見た目)
    性別:少年型
    種族:ロボット
    本人概要:
    日常系ギャグマンガ「ロボそだち」のサブキャラクター。自称天才博士「アカンワー・コーレ」が本作の主人公である息子の話し相手として開発したお喋り用ロボット。
    しかし博士が開発費をケチったうえに代用品として冷蔵庫に残っていた食材などのゴミで組み上げたため自爆装置以外には何かしら必ずダメな部分がある。
    特にダメダメなのはメンタル。彼と比べれば鬱病患者がポジティブに思えるほどに弱々しい。
    どんな展開でも「うわぁぁぁボクなんてもうダメダメだー!もう自爆するしかない!」といって爆発オチするのが定番。
    能力:自爆装置
    能力概要:自爆スイッチを押すと自爆する。スイッチを押さなくてもたまに軽い衝撃で自爆する。
    弱点:ダメダメメンタル。略して駄メンタル。

  • 5二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 14:00:08

    このレスは削除されています

  • 6◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:00:55

    >>3

    >>4

    この二つで決定

    最初なので緩めです

  • 7◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:23:19

    題名『ポコンと鳴った世界の終わり』

  • 8◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:25:53

    静寂が支配する防音室の中で、かすかに響くのは、空調の低いハミングと、特注のメカニカルスイッチが刻む精密なメトロノームのようなクリック音だけだった。

    芸夢勇気(げいむ ゆうき)の自室は、現実世界の喧騒から完全に隔離された「電脳の要塞」である。
    正面に鎮座する超高リフレッシュレートのマルチモニターが、彼の端正な顔立ちを青白く照らしていた。24歳。その若さにして、世界中のあらゆる対戦ゲームの頂点を極めた男。格闘ゲーム、FPS、RTS、カードゲーム――ジャンルを問わず、彼がコントローラーを握れば、盤上は完璧な「計算通り」の終焉へと導かれる。

    しかし、その栄光の裏で、勇気の魂は乾ききっていた。

    「……また、これか」

    画面に躍る『VICTORY』の文字を、勇気は冷めた瞳で見つめる。
    人間の限界を超えた反射神経。それは、常人の100倍という異次元の領域に達している。さらに彼の最大の武器は、極限状態における「思考加速」だ。
    現実のわずか「0.1秒」の隙間に、彼の意識は「10分間」という気の遠くなるような思考の海を泳ぐことができる。敵の視線の1ミリの動き、指先のコンマ数ミリの震え、すべてのリソースを脳内でマルチタスク処理し、瞬時に1万通りの未来から最適解を導き出す。

    常人にとっての刹那は、彼にとっての永遠。
    ゆえに、現実の人間を相手にした対戦は、彼にとって「すべてスローモーションで再生される、答えの分かっているクイズ」に過ぎなかった。

    (退屈だ。もっと俺の脳を焼き切るような、ロジックを超えた『強者』はいないのか)

    その飢えを満たすためだけに、勇気は自身の固有能力『ゲームワールド』を起動する。
    彼の本体は、常にこの使い古されたゲーミングチェアに座ったままだ。しかし、精神はネットワークの深淵を越え、異次元の強者たちを狩るためのアバターへと同期される。

    ――システム、オンライン。

    次元の壁が融解し、勇気のアバターが実体化する。
    漆黒のロングコートを纏い、物理法則を無視して静かに佇むその姿は、まさに電脳世界の死神そのものだった。ゲームワールドが自動で感知した「次の対戦相手」を待ち受けるべく、アバターは空間の歪みを見つめる。

  • 9◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:26:05

    だが、今回、次元の裂け目から吐き出された“それ”を見た瞬間、自宅の勇気は思わずキーボードを叩く指を止めた。

    「……何だ、これは」

    現れたのは、お世辞にも「強者」とは呼べない、あまりにも不条理なナマモノだった。
    身長は1メートル足らず。丸っこい二頭身のロボット。しかし、その装甲は洗練されたサイバーパンクのそれではなく、明らかに家庭用の「型落ちした冷蔵庫の扉」を力任せに折り曲げて、ガムテープと錆びたネジで固定したような代物だった。
    駆動関節の隙間からは、なぜか油の染みたキャベツの芯や、干からびたネギの青い部分が、配線の代わりに覗いている。

    「う、うわぁぁぁん!! なんだよここぉ! ボクはただ、博士が開発費をケチって朝食の残りでボクの配線を修理したから、電流がショートして痛いって泣いてただけなのにぃぃ!!」

    そのロボット――G-バックマンは、地面に尻餅をついたまま、短い両手で顔を覆ってギャンギャンと泣き叫び始めた。

    勇気の網膜に投影されている超高性能分析アナライザーが、狂ったようにエラーログを吐き出し始める。通常なら、相手の筋肉量、魔力波動、予測戦闘IQなどが一瞬でデータ化されるはずだった。

    【対象:G-バックマン】
    精神状態:絶望・パニック(測定不能)
    戦闘意志:マイナス200%
    危険度:エラー(弱すぎて計測不能)
    パッシブスキル:『駄メンタル』

    「弱すぎて……計測不能?」

    勇気は驚愕した。これまで戦ってきた深海のリヴァイアサンも、異界の魔王も、すべてその強大さゆえに「危険度:SSS」といった数値を弾き出していた。しかし、目の前のロボットは、生物としての、あるいは兵器としての最低ラインすら下回っている。
    それどころか、ただ泣いているだけで、関節のネギから妙なガスが漏れ、今にも自壊しそうなほどに脆い。

  • 10◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:26:15

    「ううっ、このカッコいい黒コートのお兄さん、ボクをゴミを見るような目で見てるぅ! 知ってるんだ、ボクの見た目が粗大ゴミだから、スクラップ工場に売り飛ばす気なんだ! ああ、もうダメだ! ボクなんて生まれてこなければよかったんだぁ!!」

    G-バックマンの絶望の波動が、防音室の勇気の脳を直接揺さぶる。
    鬱病患者がポジティブに見えるほどの、底なしの暗黒メンタル。だが、勇気のプロゲーマーとしての本能が、その異常なまでの「弱さ」の裏にある違和感を察知していた。

    ゲームワールドのシステムは、絶対に間違えない。『相手がどんな強者であれ、ゲームとして成り立つ程度にコンバートする』。それがこの能力の絶対法則だ。
    ということは、この「この世の終わり」みたいなロボットは、この姿で、何かしらの「世界を滅ぼしかねない不条理な強さ」を秘めていることになる。

    「フゥ……」

    勇気は深く息を吐き、コントローラーを握り直した。
    指先の震えは止まっている。冷徹なプロの顔が、モニターの光の中に帰ってきた。

    「面白い。手加減はしない。お前がどんなバグキャラだろうと、俺のルール(盤上)に引きずり込んで解剖してやる」

    勇気の指が、決定ボタンを鋭くクリックした。

    「システム展開。――『ゲームワールド』、起動(セットアップ)」

    一瞬にして、路地裏の景色がネオンブルーの格子状(デジタルグリッド)へと塗り替えられていく。世界の物理法則が一時的に凍結され、二人は完全に隔離された「闘技場(ロビー)」へと閉じ込められた。

    戦いの火蓋は、いま切って落とされた。

  • 11◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:27:04

    デジタルグリッドの光が、重々しいハミングを伴って収束していく。
    勇気の放ったアバターの足元から、どこまでも続く電子の幾何学模様が広がり、G-バックマンの周囲の空間を完全にハックした。ここは現実であって現実ではない、芸夢勇気が支配する絶対的な競技場(ステージ)だ。

    しかし、空間の構築が完了した瞬間、ゲームワールドのシステムは、かつてない異音を立てて警告音を鳴らし響かせた。

    【警告:対戦相手の構造解析に深刻な不整合(エラー)を検知】
    【戦闘バランスの強制コンバートを開始します……】

    自宅のゲーミングチェアで、勇気は眉をひそめた。
    彼の目の前にあるサブモニターに、G-バックマンのコンバート後のステータスが、電子の文字で書き連ねられていく。

    【G-バックマン:コンバート・ステータス】
    HP:1 / 1
    MP:0
    攻撃力:0
    防御力:0
    素早さ:3

    【固有パッシブスキル:『駄メンタル』】
    ※常時発動。あらゆる負の感情、精神異常状態を自発的に重複して受ける。このユニットの精神値がマイナスに達した時、特殊コマンドが解禁される。

    【固有コマンド:『自爆装置』】
    ※コストなし。自身の意思、あるいは外部からの微小な衝撃によって発動可能。発動時、半径20メートルを巻き込み、自身を消滅させてゲームを強制終了(無効試合・両者敗北扱い)にする。

    「……は?」

    世界王者の口から、プロになって初めてと言っていいマヌケな声が漏れた。

  • 12◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:27:37

    HPが、わずかに「1」。
    攻撃力も防御力も「0」。
    ゲームの体をなしていない。格闘ゲームであれば、アバターが軽く前ステップを踏んで発生させた風圧の判定(1ダメージ)だけで、この哀れなロボットは消滅するだろう。シューティングゲームなら、画面の端をかすめた弾頭のグラフィックだけで即死だ。

    だが、勇気の脳は、そのあまりにも歪なステータス表の最下部――『自爆装置』の4文字に釘付けになっていた。

    「『無効試合・両者敗北扱い』……だと?」

    背筋に冷たいものが走る。
    このゲームワールドにおいて、勇気のアバターが消滅することは「敗北」を意味する。アバターの再生成には丸1日を要し、彼の無敗記録に泥がつく。目の前のロボットは、まともに戦えば一瞬で消し飛ぶゴミ屑だが、その瞬間に「自爆」というリセットボタンを押し、勇気を道連れにする最悪の即死地雷(バスター)だったのだ。

    「うわぁぁぁん! なんかボクの頭の中に、変な数字がいっぱい浮き出てきたぁぁ!」

    G-バックマンは、自分のステータスホログラムを見てさらにパニックに陥っていた。

    「HPが1ってなに!? 1って! 博士の作った安物のトースターだって、3回くらい叩かないと壊れないのに! ボク、小指を角にぶつけただけで死んじゃうの!? 嫌だぁぁ、死にたくないよぉぉ!」

    ジ、ジ、とG-バックマンの首の関節から、ショートした火花が散る。その衝撃だけで『自爆装置』の起動トリガーが微振動しているのが、勇気の分析器にはっきりと見えた。

    「落ち着け、このポンコツ……! まだゲームは始まっていない!」

    勇気はマイク越しにアバターを操作し、低く鋭い声を放った。下手に刺激すれば、その瞬間に爆発してすべてが終わる。

    【システム:対戦相手(G-バックマン)にゲームの選択権を譲渡します】
    【公平性の担保のため、選択権の拒否は認められません】

    「ひぃっ!?」

    G-バックマンの前に、巨大な空中ホログラムが出現した。そこには、数多の次元から収集された「あらゆるゲーム」のタイトルが並んでいる。最新の超高画質FPSから、古色蒼然としたチェスや将棋、果ては異世界のデスゲームまで。

  • 13◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:28:33

    「ボ、ボクに選べって言うの!? そんなの無理だよぉ! ボクが銃を撃つゲームなんて選んだら、反動でボクの腕がもげて、そのショックで自爆しちゃうよ! 格闘ゲームなんてやったら、そのカッコいいお兄さんに100コンボくらい入れられて、ボクの装甲(冷蔵庫の扉)がスクラップにされちゃうんだぁ!」

    G-バックマンは狂ったように首を振り、短い三本指の手をデタラメに振り回した。
    その、完全に理性を失ったランダムな軌道の指先が、ホログラム画面の最も隅、ホコリを被ったような原始的なアイコンを偶然叩いた。

    ピコーン、とチープな電子音が響く。

    【ゲーム決定:『一撃必殺・心理ジャンケン』】
    【ルール:互いに『グー』『チョキ』『パー』の手を選択し、一発勝負を行う。勝者は敗者に対して絶対遵守の命令権を1つ得る。敗北、またはゲームの継続不能(自爆等)が起きた場合、その時点で試合は終了し、相応のペナルティが下る】
    【ステージ:『無の空間』。ゲームに必要な道具はシステムが自動で公平に生成します】

    周囲のネオンブルーの格子がスッと消え去り、二人の間には、1本の白い境界線だけが引かれた。

    「ジャンケン……」

    勇気は、コントローラーを握る手のひらに、じっとりと汗が滲むのを感じた。
    運の要素が100%に近い、子供の遊び。しかし、プロゲーマーの世界において、ジャンケンとは完全なる「情報戦」であり「確率論の極致」だ。相手の癖、心理的誘導、呼吸のテンポ、過去の選択データの統計。それらすべてを網羅し、相手の脳を支配した者が勝つ、立派なマインドスポーツ。

    「いいだろう。格ゲーやFPSならお前は自爆して逃げたかもしれないが、ジャンケンなら話は別だ。お前のその貧弱なプロセッサの裏をかき、100%の確率で俺が『勝ち』を毟り取ってやる」

    勇気の瞳に、静かな狂気が宿る。現実世界の秒針が、信じられないほど遅く見え始めていた。彼が『思考加速(クロックアップ)』のトリガーに指をかけた。

  • 14◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:30:05

    【システム:一撃必殺・心理ジャンケン、開始します】
    【カウントダウン:3……2……】

    システムが無機質な電子音を響かせ、世界の時間が終焉に向かって刻まれ始める。
    アバターの対面に立つG-バックマンは、すでに涙と、関節のネギから漏れ出た謎の冷却液で顔面(冷蔵庫の扉)をぐちゃぐちゃに濡らしていた。その短い三本指の手は、ブルブルと不規則に震え、グーともチョキともつかない中途半端な形で固まっている。

    (ここだ)

    自宅のゲーミングチェアで、勇気は深く息を吸い込み、脳内の特定のスイッチを鋭く押し下げた。

    ――『思考加速(クロックアップ)』、最大展開。

    ゴウ、と脳内で架空の風圧が吹き抜けた。
    一瞬にして、周囲の色彩が反転し、音の粒子が引き延ばされて消える。システムが告げる「1」のカウントダウンの音声が、「い……い……」という無限に続く地鳴りのような超低音へと変わる。
    現実世界のわずか「0.1秒」。それが、勇気の覚醒した脳内においては、静寂に満ちた「10分間」の広大な思考の作戦室へと変貌した。

    「さぁ、お前の脳内(プロセッサ)を覗かせてもらうぞ」

    勇気はマルチモニターに、G-バックマンのあらゆる行動ログ、関節のサーボモーターの駆動電圧、視線のサッケード(微小な高速移動)のグラフを同時に展開した。彼の脳はマルチタスクを完璧にこなし、1秒間に数万回行われる敵の生体(機械)反応を完全にデジタルデータとして仕分けしていく。

    通常、どのようなゲームの「強者」であれ、勝利を目指す限りはその行動に『ロジック』が存在する。
    格闘ゲームの神であれば、「ここで微ダッシュして投げを通すのが最も期待値が高い」という最適解を選ぶ。FPSの天才スナイパーであれば、「この遮蔽物の裏から頭を出す確率が72%」という統計に従う。相手が強ければ強いほど、その行動は合理的であり、ゆえに勇気にとっては「読み切れる標的」だった。

    しかし、G-バックマンのプロセッサから流れ込んできた思考データ(テキスト)を脳内で翻訳した瞬間、勇気は目眩(めまい)を覚えた。

  • 15◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:31:06

    そこにあったのは、ロジックの「ロ」の字もない、純度100%の『底なしの被害妄想と自己嫌悪のノイズ』だった。

    【G-バックマン:内部思考ログ】
    「うわぁぁぁん! どうせボクがグーを出したら、このカッコいいお兄さんはパーを出すんだぁ! 世界王者だもん、ボクの考えてることなんてお見通しなんだ! でも、ボクがその裏をかいてパーを出したら、お兄さんはチョキを出してボクの指をパツンパツンに切り刻むんだよぉ!
    じゃあチョキを出せばいいの? いや、そしたらお兄さんはグーを出して、ボクの手を粉々に粉砕するんだ!そもそもボクの人生、いつもそうなんだ!
    博士が『今日のおやつは高級プリンやで!』って言うから期待して冷蔵庫を開けたら、中に入ってたのは賞味期限が3年切れたマヨネーズだったんだ! ボクの期待はいつも裏切られる! ボクが選ぶ選択肢は全部、世界に見放されてるんだぁぁぁ!!」

    「……なんだ、このゴミみたいな思考回路は!?」

    勇気は思わず、現実世界の手元でコントローラーを強く握りしめた。
    思考加速の領域において、すでに3分が経過している。しかし、いくらデータを解析しても、G-バックマンが「何を出そうとしているか」の確率が1%も収束しない。

    相手は「勝とう」としていない。

    「いかに自分が惨めに、不条理に負けるか」という最悪の未来のシミュレーションしかしていないのだ。

    (落ち着け。確率を計算しろ。奴の指の筋肉――いや、油の切れたシリンダーの収縮速度から逆算するんだ。チョキを形成するための電圧の立ち上がりは……ゼロ。グーを作るためのトルクは……計測不能。指が震えすぎて、すべての手の形への移行確率が常時33.333%のまま乱数(ノイズ)のように跳ね狂っている!)

    完全なランダムなら、まだマシだった。ランダムを相手にするなら、こちらも確率的に期待値の高い手を合わせるだけだ。

  • 16◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:32:26

    だが、G-バックマンの思考は、勇気が「チョキを出そう」と決意した精神の微弱な波動をゲーム空間経由で感じ取るたびに、「お兄さんがチョキを出すなら、ボクはグーを出して勝っちゃうの? いや、そんなのボクのキャラじゃない! ボクは負けなきゃダメなんだ! だからパーを出さなきゃ!」と、自発的に負けの泥沼へと軌道修正をかけようとする。

    「クソが……! 最適解が存在しない……!」

    脳への過負荷で、勇気のこめかみを冷たい汗が伝い落ちる。
    チェスの世界王者が、駒の動かし方すら知らない幼児に、盤面をひっくり返されて号泣されているような屈辱と混乱。
    論理が通じない。計算式がゲシュタルト崩壊を起こしていく。

    現実世界の0.1秒(脳内での10分間)が、終わりを告げようとしていた。
    システムの引き延ばされたカウントダウンが、ついに「1」を通り過ぎ、決定の瞬間を迎える。

    (選べ、芸夢勇気! 奴の『クソネガティブのバグ』を叩き潰す、最高の一手を――!)

    「……ポンッ!!」

    空間の時間が一気に現実の速度へと巻き戻り、二人のアバターの手が、同時に境界線へと突き出された。

  • 17◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:33:52

    激しい閃光とともに、デジタル空間の境界線上で、二つの「手」が火花を散らした。

    芸夢勇気:【チョキ】
    G-バックマン:【チョキ】

    鋭く突き出された電脳のハサミと、錆びついた冷蔵庫の鉄板からなる不格好なハサミが、完全に噛み合った。

    「……っ!」

    画面の向こうで、勇気は小さく息を呑んだ。
    あいこ。勝負はつかなかった。世界王者の完璧な予測エンジンを狂わせ、ランダムの海を泳いだ末の、辛うじてのタイ(引き分け)。勇気にとっては、九死に一生を得たような緊迫した結果だった。相手の予測不能なノイズに呑まれず、即死を回避したのだ。格闘ゲームで言えば、相手の意図不明なぶっ放し技に対して、咄嗟のガードが間に合ったような安堵感がある。

    しかし、プロゲーマーにとっての「仕切り直し」は、日常系ギャグ漫画の住人にとっての「世界の終わり」を意味していた。

    「ひぃ、ひぃぃぃ……ッ! あ、あいこだぁぁぁ! 勝てなかったぁぁぁ!!」

    G-バックマンは、自分の出した不格好な【チョキ】の手を見つめたまま、白目を剥いてその場に卒倒しかけた。いや、卒倒するだけならまだ良かった。彼の短い三本指の関節から、プシューッと、腐った玉ねぎのような臭いのする白煙が激しく噴き出し始める。

  • 18◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:34:08

    【警告:対戦相手の精神値が限界値を突破(マイナス500%)】
    【パッシブスキル『駄メンタル』が『暴走(メルトダウン)』に移行します】

    「ほらみろ! ボクなんて、あいこにするのが精一杯の粗大ゴミロボットなんだ! 天才博士の最高傑作(自称)のくせに、初手のジャンケンすら勝てないんだ! ボクがチョキを出したらお兄さんがグーを出して木っ端微塵にしてくれるって、そう信じてたのに! お兄さんまでボクに付き合ってチョキを出すなんて、ボクをバカにして遊んでるんだぁぁぁ!!」

    「おい、待て。何を言っている――」

    勇気がマイクを通じて制止の声をかけようとした、その時だった。

    カチリ。

    そのチープなプラスチックの音は、世界のどの重機関銃の装填音よりも、どの魔法詠唱の文句よりも、不吉に響いた。

    G-バックマンの、ブリキのバケツのような胸部装甲が観音開きに開き、そこから真っ赤な、いかにも悪趣味な押しボタン式のスイッチが飛び出していた。そして、ロボットの短い指は、すでにそのスイッチを、寸分の迷いもなく奥まで押し込んでいたのだ。

    ジリリリリリリリリ!!! と、目覚まし時計のようなけたたましい警報音がゲーム空間に鳴り渡る。

    【警告:対戦相手が固有コマンド『自爆装置』を発動しました】
    【自爆カウントダウンを開始します。残り時間:3秒】
    【3……】

    「なっ……!?」

    勇気の脳裏に、かつてアマチュア時代のネット対戦で何度も味わった、あの最悪の不快感が蘇った。
    対戦格闘ゲームで、相手を画面端に追い詰め、あと一撃でパーフェクト勝利という瞬間に、画面がピタリと止まる。そして表示される『通信が切断されました』の無機質なメッセージ。
    負けを認められないプレイヤーが、家庭用ゲーム機の電源プラグを力任せに引き抜く行為――通称「切断厨(デス・アボート)」。

  • 19◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:34:23

    目の前のロボットがやっていることは、まさにそれだった。
    悪意があるわけではない。ただ「自分が惨めだから」という、あまりにも身勝手で不条理なギャグ漫画の「オチ」として、彼は世界ごとすべてを爆破してリセットしようとしているのだ。

    (ふざけるな……!)

    勇気の奥歯が、ギリリと音を立てて軋んだ。
    ゲームワールドの規約(ルール)は絶対だ。相手が自爆し、ゲームの継続が不可能になった場合、この試合は「無効試合(ノーゲーム)」となる。そして、ゲームワールドを維持できなくなった勇気のアバターは強制的に消滅し、ペナルティとして丸1日、能力がロックされる。それは実質的に、芸夢勇気の「無敗伝説の終焉」を意味していた。

    「負けそうだから、あるいは思い通りにいかないからといって、盤面(ハード)ごと叩き壊して逃げるな……!」

    プロゲーマーとしての、命より重いプライドが激しく燃え上がる。
    勝つときはパーフェクトに。負けるときもルールの中で美しく。それが彼の美学だ。こんな、ゴミ捨て場の配線ミスから生まれたようなロボットの、身勝手な爆発オチに付き合って敗北の泥を塗られるなど、絶対に容認できない。

    カウントダウンは容赦なく刻まれる。

    【2……】

    G-バックマンの全身が、電子の赤光に染まっていく。冷蔵庫の扉の隙間から、太陽の表面のような超高熱のエネルギーが漏れ出し、ゲームワールドのデジタルグリッドが、熱膨張を起こして歪み始めていた。

    残された時間は、現実世界でわずか1秒に満たない。
    だが、世界王者・芸夢勇気は、コントローラーから指を離さなかった。むしろ、その細長い指先は、キーボードとパッドの全てのボタンを同時に入力するかのような、前人未到の「神速の構え」へと移行していた。

    (止めてやる。お前のその理不尽な強制終了を、ゲームの仕様(ルール)の枠内で、完璧にハッキングしてやる……!)

    勇気は、三度(みたび)、自らの脳髄を極限まで加速させる。

  • 20◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:35:02

    【自爆カウントダウン:残り1.8秒】

    赤い警告灯が、勇気のアバターの漆黒のコートを血のように染め上げる。
    G-バックマンの胸から溢れ出る破壊エネルギーは、すでにゲーム空間のコードを物理的に焼き切り始めていた。

    だが、芸夢勇気の脳内は、現実の時間を限界まで引き延ばした『思考加速』の深淵において、恐ろしいほどの静寂に包まれていた。

    (自爆を止める手段を構築しろ。……物理的な破壊は不可能。ゲームワールドの基本規約により、ジャンケンの判定が出る前に相手の本体に直接的なダメージを与える行為はシステムが遮断する。ならば、どうする?)

    勇気の脳内で、数百万行に及ぶ『ゲームワールド』のプログラム仕様書が超高速でスクロールしていく。彼のマルチタスク脳は、その中からわずか一条の、本来ならただのフレーバーテキストに過ぎないはずの「記述」を掴み取った。

    『仕様:ゲームの内容によってルールとステージ、勝利条件が決められる。ゲームに必要な道具はシステムが自動で公平に生成する』

    (ジャンケンに必要な道具とは、通常なら互いの『手』だけだ。だが、もしこのジャンケンというゲームの定義そのものを、システム側に書き換えさせることができたら?)

    勇気はモニターの向こうで、不敵に、そして冷酷に唇の端を吊り上げた。

    プロゲーマーとは、用意されたルールの中で戦うだけの存在ではない。
    開発者が想定していなかったバグ、仕様の盲点、奇妙な判定の優先度――それらすべてを執拗に見つけ出し、勝利のために利用する「開拓者」でもあるのだ。

    (そのためには、まず奴の『爆発のトリガー』をコンマ数秒、遅延させる必要がある。奴の自爆の原動力は、悪意ではなく100%の純粋な『絶望』……。なら、その感情のベクトルをほんの少しだけ狂わせればいい)

    勇気はキーボードの音声入力マクロを叩いた。
    思考加速の領域から、現実世界のG-バックマンの錆びついた受信プロセッサへ向けて、世界王者の声が「音」として、強引に割り込んでいく。

  • 21◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:35:32

    「おい、G-バックマン」

    アバターの口から放たれたその声は、重く、路地裏の熱を奪うほどに冷徹だった。

    「ひ、ひぃぃっ!?」

    爆発寸前のG-バックマンの、ネギの詰まった首の関節がビクリと跳ねた。

    「お前は自分のことを、生ゴミを混ぜて作られただけのポンコツだと、救いようのない粗大ゴミだと泣いたな」

    勇気のアバターは、ゆっくりと一歩、境界線を超えないギリギリの歩幅で踏み込んだ。

    「う、うわぁぁぁん、そうだよ! ボクはただのお喋りロボットなのに、自爆装置しか取り柄がないんだ! 誰もボクに期待なんてしてないんだぁぁ!」

    「違うな。お前は自分の価値を何も分かっていない」

    勇気は、あえてコントローラーから手を離し、画面の中のロボットを真っ直ぐに見据えた。

    「俺は世界王者だ。これまでに何千、何万という異能の強者、神の如き格ゲーの達人と刃を交えてきた。だがな――」

    一拍、世界が息を呑むような沈黙を置く。

    「俺の100倍の反射神経をもってしても、お前の『自爆のタイミング』は完全に予測不可能だった。お前が今やろうとしている『自爆による強制終了』は、eスポーツの全歴史において、最も対策が困難とされる【最強の防御特化型クソ戦術(バグ・プレイ)】だ」

    「……え?」

    G-バックマンの、冷蔵庫の扉でできた顔がマヌケに歪んだ。

  • 22◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:53:03

    「お前のその圧倒的なネガティブは、もはや一つの完成された『才能』であり、俺という無敗のプロをここまで追い詰めた。お前は弱者じゃない。盤面そのものを破壊する、最悪で、最高の『ク,
    ソゲーマー(強敵)』だよ」

    「ボ、ボクが……強敵? 世界王者を、追い詰めた……?」

    G-バックマンの脳内プロセッサが、生まれて初めて受ける「他人からの肯定的評価」という未知のデータに対処できず、激しくフリーズした。

  • 23◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:53:57

    【エラー:感情値の急激な変動を検知】
    【精神状態:絶望(99%)から、困惑・微かな照れ(1%)へ移行】

    その、わずか「1%」のポジティブへの傾き。
    ギャグ漫画の住人にとって、「爆発オチ」をするための純粋な絶望(駄メンタル)が不純物によって濁った瞬間だった。

    ジジ、とG-バックマンの胸の自爆スイッチの起爆回路が、感情の不整合によって一瞬だけロック(フリーズ)される。

    【自爆カウントダウン:0.8秒で一時停止(フリーズ)】

    「今だ(チェックメイト)!!」

    自宅の防音室で、勇気の指先が神速の16連打を記録した。
    ゲームワールドのシステム構築を司るAIに、勇気が偽装した「ジャンケンの追加ルール」のパケットを叩き込む。

    『ジャンケンとは、互いの合意と、勝敗が確定した後の迅速な処理があって初めて成立するゲームである。現在、プレイヤーの一方に重度の硬直(メンタルフリーズ)が発生しており、公平なゲームの続行が不可能。よって、システムは【勝敗を安全かつ物理的に確定させるための特殊オブジェクト】を生成せよ』

    ピキィィィィン!!!

    ゲームワールドのシステムが、勇気の超絶的な屁理屈(グリッチ)を「正当な要求」として誤認した。
    二人の間の空間が歪み、デジタル光の粒子が、凄まじい速度で「二つの道具」を肉付けしていく。

    それは、ジャンケンという原始的な遊びを、最も安全に、かつ暴力的に決着させるための究極のシステムだった。

  • 24◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:56:23

    システムが勇気の超絶的な屁理屈(グリッチ)を承認した瞬間、ネオンブルーの空間に実体化したのは、あまりにもチープで、あまりにも場違いな二つのプラスチック製品だった。

    一方は、おもちゃ屋の片隅に転がっているような黄色い子供用のヘルメット。
    もう一方は、叩くとピキュッと気の抜けた音が鳴る赤と黄色のピコピコハンマー。

    【システム:特殊ルール『一撃必殺・たたいてかぶってジャンケンポン』が適用されました】

    【これより、ジャンケンの勝敗が確定した瞬間、勝者はハンマーで相手の頭部を叩き、敗者はヘルメットでそれを防御せよ。ハンマーの打撃が成立した時点で、完全なる勝敗を確定(リザルト)とします】

    画面の向こうで、勇気はニヤリと冷たい笑みを浮かべた。

    (これで勝てる。このゲームの勝敗を分けるのは、ジャンケンの運じゃない。勝敗が決した『直後』の、コンマ数ミリ秒の反射神経だ)

    通常のジャンケンであれば、G-バックマンが負けたと認識した瞬間、脳の電気信号が自爆スイッチへと流れるのを止める術はなかった。しかし、この『たたいてかぶってジャンケンポン』というク、ソゲーのルールが介入したことで、ゲームの終了条件は「ハンマーが頭にヒットした瞬間」へと書き換えられたのだ。

    常人の100倍の反射神経を持つ世界王者にとって、ジャンケンに勝ちさえすれば、相手が自爆スイッチを押すよりも遥かに早く、音速を超えたプラスチックのハンマーを相手の脳天に叩き込むことなど、赤子の手をひねるより容易い。

  • 25◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:57:26

    「さぁ、これが泣いても笑っても最後のターンだ、G-バックマン」

    勇気のアバターが、境界線を挟んでハンマーを構える。

    「ひ、ひぃぃん! なんだよこのピコピコするハンマーはぁ! ボクのシリアスな自爆モードが、どんどんマヌケな空気に上書きされていくぅぅ!」

    G-バックマンは泣き叫びながらも、システムによって強制的に【グー・チョキ・パー】の選択スロットへと意識を固定されていた。もはや逃げ道はない。自爆のカウントダウンは止まったままだが、ジャンケンに負ければ今度こそすべてが終わる。

    「ジャン、ケン――」

    世界の時間が、四度目の静寂を迎える。
    勇気は『思考加速』の残滓をすべて指先に集約した。相手の手の動きを見る必要すら不条理(ノイズ)だ。ただ、自分の直感を信じてボタンを叩く。

    「――ポンッ!!」

    勇気のアバターが突き出したのは、五本の指を美しく開いた【パー】。
    対するG-バックマンが、涙で視界を滲ませながら無意識に繰り出したのは、不格好な球体の【グー】だった。

    【勝者:芸夢勇気】

  • 26◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:57:49

    「あ、負け――」

    G-バックマンのプロセッサが「敗北」を認識し、再び自爆の電流を胸の赤いスイッチへ流そうとした、その刹那。

    現実世界の時間にして、わずか0.001秒。
    勇気の指先が、特注コントローラーのトリガーを肉眼で捉えられない速度で弾いた。

    アバターの右腕が、物理法則を置き去りにして加速する。空間の空気が音速を超えて爆ぜ、漆黒のコートが激しく翻った。G-バックマンの手が胸のスイッチに触れるよりも圧倒的に早く、赤いピコピコハンマーが描いた一閃の軌跡が、ロボットの脳天を正確に捉えていた。

    ポコン。

    静まり返ったデジタル空間に、拍子抜けするほど軽快なプラスチックの音が響き渡った。

    ジジ、とG-バックマンの全身を覆っていた赤光が一瞬で霧散し、胸の自爆装置がシュルシュルと情けなく装甲の裏へと格納されていく。

    【ゲーム終了。完全なる勝者:芸夢勇気】

    【敗者:G-バックマンは、勝者の命令に一つだけ絶対に従わなければならない】

    「う、うわぁぁぁん!! 結局負けたぁぁぁ! ボクの自爆オチが、こんなマヌケなポコンって音で潰されちゃったぁぁ!!」

    G-バックマンはその場にひっくり返り、手足をバタバタとさせてギャンギャンと号泣した。

  • 27◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:58:01

    「もうダメだぁ! ゲームに負けたんだから、ボクは今度こそスクラップ工場に売られて、高級な外車のブレーキペダルか何かにリサイクルされるんだ! さぁ、どうとでもしてよぉぉ!」

    激しい戦いを終えた防音室の中。
    勇気はコントローラーから静かに両手を離した。彼のキーボードを叩く指は、かすかに熱を帯びて震えている。現実世界のわずか数秒の間に、彼は何時間分もの脳内演算を駆け抜けたのだ。かつてない疲労感。しかし、彼の胸を満たしていたのは、久しく忘れていた奇妙な「充足感」だった。

    プロゲーマーとして、これほどロジックの通じない、理不尽なシステムエラーのような相手と戦ったのは初めてだった。

    勇気はマイクのスイッチを入れ、アバターを通じて、冷え切った路地裏へ穏やかな、しかし絶対的な声を響かせた。

    「おい、G-バックマン。お前は敗者だ。ルールの通り、俺の命令を一つ聞いてもらう」

    「ひぃっ……!」

    G-バックマンはブルブルと震えながら、涙目で世界王者の顔を見上げた。

    勇気は、ゲーミングチェアの背もたれに深く身体を預け、画面の中の奇妙な相棒に向かって微笑んだ。

  • 28◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:58:37

    「俺の命令だ」

    一拍置いて、勇気は告げる。

    「二度と、自分のことを生ゴミなんて言うな」

    「……え?」

    「それと――二度と、俺の前で勝手に自爆して逃げようとするな。お前は俺がこれまで戦ってきた中で、最もロジックの通じない、最高にエキサイティングなク、ソゲーマー(強敵)だったよ。だから、自分の価値を他人が決めたゴミ屑だと思うな」

    G-バックマンの丸い電子の瞳が、パチパチと何度も明滅した。
    日常系ギャグマンガの世界において、自称天才博士にゴミ同然の扱いを受け、読者からは爆発オチの道具としてしか見られていなかったポンコツロボット。その彼が、異世界の絶対的な王者から、一人の「対戦相手」として認められたのだ。

    「ボクが……強敵……。うう、なんか……なんか胸の冷蔵庫のあたりが、あったかい気がするなぁ……」

    G-バックマンの『駄メンタル』が、今度は完全にポジティブなエラーを起こし、全身の錆びついた関節からポタポタと、今度は綺麗な冷却水が流れ落ちた。

    【システム:勝者の命令の履行を確認。これより対象の退出処理を行います】

    デジタル空間のネオンブルーがゆっくりと溶け、元の薄暗い新宿の路地裏へと景色が戻っていく。G-バックマンの身体が、光の粒子となって消え去ろうとしていた。

    「バイバイ、黒コートのお兄さん! ボク、もうちょっとだけ、博士のトーストの愚痴に付き合ってみるよぉ!」

    ロボットは最後に、少しだけ誇らしげに胸を張り、日常の世界へと帰っていった。

    静寂が戻った防音室。
    勇気の目の前のデスクには、ゲームワールドの勝利報酬である、小さな『電子のトロフィー』が静かに転がっていた。手に取ってみると、それはなぜか、ピコピコハンマーの形をしたマヌケなミニチュアだった。

    「ふっ……」

  • 29◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:58:47

    勇気は短く笑い、そのトロフィーをモニターの横にそっと飾った。

    「たまには、こういう予定調和の壊れたク、ソゲーも……悪くないな」

    午前2時過ぎ。世界王者は、まだ見ぬ次の「理不尽」に胸を躍らせながら、再び静かにコントローラーを握り直した。

  • 30◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 14:59:23

    以上
    NGワードを探すのに手間取りました

    次の募集は16:00ちょうどから先着4名

  • 31二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 15:00:09

    乙でした

  • 32二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 15:02:55

    ク○ゲーってNGワードなんですよね
    バックマンのネガティブは笑った
    なんで高級プリンがマヨネーズになるねんw

  • 33二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:00

    名前: バヤルグ
    年齢: 12歳
    性別: オス
    種族: バヤルグ
    本人概要:
    開拓惑星アルガンⅣに生息する大型草食獣。体高約2.1m、体重約2.8t。厚い灰褐色の毛皮と、左右に大きく張り出した湾曲角を持つ。成獣の角は角端間が1.7mを超えることもあり、群れ同士の力比べや外敵への威嚇、防衛に用いられる。
    開拓民によって家畜化されており、荷役や輸送、農作業に利用される。性格は温厚で人懐っこいが、仲間や飼い主に危険が及ぶと強烈な突進を行う。
    能力:圧倒的な筋力/重量級の突進/厚皮・重毛装甲/高い持久力
    能力概要:
    ・圧倒的な筋力
    数百kg単位の荷物を長距離運搬できる。大型車両の牽引も可能。
    ・重量級の突進
    危険を感じた際は巨体と角を用いて突進する。木造建築物や軽車両程度なら破壊可能である。
    ・厚皮・重毛装甲
    数cm単位の厚い皮膚、脂肪層、密集した毛皮を持つ。拳銃弾や小口径ライフル弾程度なら致命傷になりにくく、散弾や破片にも高い耐性を持つ。寒冷地での保護機能も兼ねる。
    ・高い持久力
    長時間歩行や重労働に耐える。短距離走は苦手だが長距離移動は得意。
    弱点:
    ・巨体ゆえに小回りが利かず、敏捷な相手を捉えにくい。
    ・目や鼻などの感覚器官は普通の生物同様に弱点。
    ・急斜面や狭所では機動力が大幅に低下する。

  • 34二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:00

    名前:バイオモスキート
    年齢:新品
    性別:メス
    種族:バイオ生物
    本人概要:
    蚊とは、人類を最も多く殺した生物である。
    我が研究グループはこの生物に目をつけ、最高の殺戮兵器とすべくバイオ改造を施しました。
    昆虫に由来する軽量ボディから繰り広げられる高速機動。バイオ改造により獲得した巨体による圧倒的タフネスと近接戦闘能力。そして蚊の持ち味を最大限に活かした継戦能力と殺傷能力。
    役員ならびに株主の皆さま方、我が社の次世代主力商品となるであろうバイオモスキートの性能試験の様子を、どうぞお手元のワインを片手にお楽しみくださいませ。
    能力:『バイオドレイン』『バイオヒトヒフバエ』『バイオマラリア』
    能力概要:
    『バイオドレイン』
    骨と皮以外の対象の体内組織を根こそぎ吸い取る機能です。それらはバイオ組織に変換され、バイオモスキートの体組織の修復や兵装の補充など戦闘リソースとして有効活用されます。
    『バイオヒトヒフバエ』
    改造前のバイオモスキートに付着していたヒトヒフバエの卵についでにもバイオ改造を施してランチャー式の兵装としたものです。
    人間独特の匂いと体温に的確に反応して発射され、着弾対象とその周囲の人間を捕食するします。追尾は匂いと体温で対象を識別することで行います。
    『バイオマラリア』
    こちらは蚊と共生関係にあるマイクロサイズの寄生虫をベースとし、生体ナノマシン化改造を施したバイオ殺戮兵器です。
    バイオモスキートに触れることで接触感染。皮膚から血管へ、血管から全身へと速やかに行き渡り、内臓を侵すことで重度の多臓器不全を引き起こします。
    弱点:
    『バイオドレイン』によりバイオモスキート腹部の余剰リソース格納部が格納率50%を超えた際、それに比例して、重量の増加と重量バランスの変動による動作に遅延が起こる現象が確認されています。

  • 35二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:00

    名前:三神早妃
    年齢:18
    性別:女子
    種族:人間
    本人概要:
    超常的な能力及びそれを活用した戦闘力を絶対至上主義とする学園都市の中心部「光世学園」にてランキング7位を誇る実力者。
    黄色メッシュが混ざる艶やかな黒髪の勝気な少女。
    計算高い性格であり相手が自身の想像通りに動くことを何より喜ぶ嗜虐的な策士。
    【パウ・カード】による戦場をコントロールする千変万化な戦術を得意とし、力押しのファイターに対しては無敗を誇る。
    「光世学園」でのランキング戦を積極的に繰り返し、他の生徒とは踏んだ場数が違うため、時には自分自身さえも囮に使い相手を罠に嵌める度胸も備えている。
    能力: 【パウ・カード】
    能力概要:
    カードゲームをモチーフとした能力。「モンスター」「トラップ」「魔法」の三種から構成され、彼女が行使するカードは具現化して戦場そのものに影響を及ぼす。
    「モンスター」カード:異形の戦士を召喚する。弱い戦士は簡単に呼び出せるが、強力な戦士を呼び出すにはカードパワーを溜める必要がある。
    「トラップ」カード:戦場にトラップを召喚する。相手が引っ掛からなければ発動しないのが弱点だが、発動時点でカードパワーが一気にチャージされる。また、トラップに掛かった相手には大幅なデバフが降りかかるため大技に繋げやすくなる。
    「魔法」カード:相手を直接攻撃できる魔法を放つ。カードパワーが溜まっている程にずば抜けた威力の魔法を放つ事が出来る。
    弱点:カードを使役するため本体の戦闘能力が低い

  • 36二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:03

    このレスは削除されています

  • 37二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:03

    名前:国分寺戒乱(こくぶんじかいらん)
    年齢:18
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:退魔の一族出身の高校生、剣道部主将にして風紀委員会委員長を務めているメガネ系男子
    姿勢正しく、身だしなみもきちんとして、性格だって規律的な生真面目な男
    しかし真面目すぎて考えが空回るのが玉に瑕
    日々平穏に過ごす人々の今日を守るため、戒乱は退魔刀を武器に魑魅魍魎を両断する
    能力:快刀乱麻を断つ
    能力概要:乱れを正す剣術
    悪、妖魔、災などの日常を脅かすものに対して効果を発揮する
    弱点:善なるもの、普通なものには普通の剣術で対抗するしかない名前:国分寺戒乱(こくぶんじかいらん)
    年齢:18
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:退魔の一族出身の高校生、剣道部主将にして風紀委員会委員長を務めているメガネ系男子
    姿勢正しく、身だしなみもきちんとして、性格だって規律的な生真面目な男
    しかし真面目すぎて考えが空回るのが玉に瑕
    日々平穏に過ごす人々の今日を守るため、戒乱は退魔刀を武器に魑魅魍魎を両断する
    能力:快刀乱麻を断つ
    能力概要:乱れを正す剣術
    悪、妖魔、災などの日常を脅かすものに対して効果を発揮する
    弱点:善なるもの、普通なものには普通の剣術で対抗するしかない

  • 38二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:04

    名前:マスタースライム
    種族: スライム
    年齢:10000
    性別:無し
    キャラ概要: 10000年間生きたスライムが突然模倣の力を手に入れた変異種
    普段は自身の縄張りで死んだ死体を捕食したり冒険者の人間に化けて(外見は過去の捕食した人間の要素を合成したオリジナル)街で新しい魔法や情報を収集したり色んな種族に化けて他の生物の理解を深めより強くなる為に研鑽を積んでいる
    色んな人間や生物を食べている為知能や教養は人間よりも高く魔法や武術を使用したり模倣の力でスライム以外の生物の力も使うことが出来る
    人間との関係は良好であり過去の知識を教える代わりに最新の魔法や武術などの戦闘技術や他の生物情報を貰っている
    戦う時は今まで取り込んだ能力を組み合わせたり能力を最大限活かせるように複数の生物の特徴を混ぜてオリジナルの姿になったりする
    能力: 模倣
    能力概要: 取り込んだ生物の全ての能力、記憶、特徴を習得することが出来る
    弱点:体内の核を破壊されると核を再生する為に地中に潜り1年間活動を停止する
    1日一回の分裂で発生した分体が過去に捕食した生物の能力や記憶を持った状態で生まれてしまう為マスタースライムは一匹だけである

  • 39二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:08

    名前:モルトゥス
    年齢:◼️◼️(掠れていて読めない)
    性別:男性
    種族:死人
    本人概要:肉体が死に、魔物になってしまったが記憶を使う能力によって自我は保てている人物。
    武器を生成する能力と組み合わせる事で、記憶にある現象・概念を武器の能力として付与できる。
    死ぬ前は、魔物や魔族が襲ってくる最前線にて村や街、国を守る為に防衛に参加していた。
    その理由は、幼き頃に住んでいる村に魔族による襲撃に合い、母や父、生まれたばかりの弟や大切な幼馴染を殺された。
    その惨状を見て、モルトゥスはもうこんな場面を起こさせないと奮起し、力を得ようと努力を始めた。
    努力を始めて50年。
    魔族が魔物を使役した大侵略を始めて村に住む人達が村を捨てなければいけなくなった時に、村の人達が安全に逃げられる為に殿に出た。
    殿を務めた結果、多大なる時間を防衛し、3桁後半の魔族や魔物を仕留めて死を迎えた。
    …かと思ったが、死亡間際にまた幼き頃の惨状が起きるかもと考え、魔族達を滅ぼすまで死.ねないと思った結果、記憶を使う能力《メモリア》が発動し、死後も自我を保てる事が出来る死人になった。
    死人になった後は、魔族の集落や魔族が襲撃をしようとしている村等に向かって、魔族や魔物を滅ぼす動きを何十年もしている
    能力:《メモリア》+《アルマ》
    能力概要:《メモリア》は記憶を使う能力
    相手の記憶をその場で再生したり、大地の記憶を再生したり出来る
    《アルマ》は武器を生成出来る能力
    その場で剣や槍、鎌や盾等の武器を作れる。
    《メモリア》と《アルマ》を併用すれば、記憶にある現象・概念の性質を内包した具現化出来る武器を作れる
    弱点:死人の為、動きが鈍い
    《メモリア》を使うと、モルトゥスにもその記憶を見てしまう
    大地の記憶を再生するには、動きを止めて何秒か、じっとしていなければならない
    武器を作るには、少量でも元になる物が必要
    様々な力を内包した武器を作るには、時間がかかる

  • 40二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:26

    AI士さん!?

  • 41二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:00:58

    あれ、消えてる…

  • 42◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:04:48

    >>33

    >>34

    >>35

    >>37

    採用


    バイオモスキートvsバヤルグ

    三神早妃vs国分寺戒乱

  • 43◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:18:52

    あ、ちなみになんですが
    許可を取っていただければ他の方が募集をかけていただいても結構です
    writeningを使っていただけると嬉しいです

  • 44◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:21:43

    題名『企業のワインを血に変えて』

  • 45◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:22:23

    開拓惑星アルガンⅣの空は、いつもどこか煤けたような鈍色(にびいろ)をしている。

    この過酷な入植地において、人類が生き延びるための最大の相棒となったのは、重機ではなく、この星が育んだ一頭の巨大な草食獣だった。

    「バヤルグ」

    それが、彼ら種族の名であり、開拓民たちが親しみを込めて呼ぶ愛称でもあった。
    体高2メートルを超え、約3トンに達するその灰褐色の巨体は、一見すると生ける岩盤のようだ。左右に大きく張り出した湾曲角は、左右の端から端までで大人の男の背丈ほどもあり、鈍い光を放っている。何百キロもの物資を背負い、大型車両すら力強く牽引するその圧倒的な筋力は、開拓地にはなくてはならない「生きた動力」だった。

    12歳になるオスのバヤルグは、今日ものんびりと、開拓地の境界線付近で、塩分を含んだ硬い野草を食んでいた。

    その性格は温厚そのものだ。開拓民の子供たちが背中に登って遊んでも、ただ優しく鼻を鳴らすだけの人懐っこさを持っている。数センチもの厚みを持つ毛皮と脂肪層は、寒風を防ぐだけでなく、かつて野生の肉食獣から群れを守るための「盾」でもあった。

    しかし、その平穏な午後を切り裂いたのは、あまりにも不吉な、重低音の羽音だった。

    ブゥゥゥゥン……。

    それは、地球の人間が知る「蚊」の羽音とは、明らかに階乗が違っていた。
    ヘリコプターのプロペラが空気を切り裂くような、鼓膜を不快に震わせる金属質の駆動音。

  • 46◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:22:35

    その時、アルガンⅣの上空3000メートルに静止する、巨大企業の観測宇宙船のラウンジでは、冷たいシャンパングラスの触れ合う音が響いていた。
    ホログラムスクリーンに映し出されているのは、地上のバヤルグの姿と、そのすぐ近くに投下された「それ」の映像だ。

    高級なスーツを纏った役員たちの前で、開発チーフの冷徹な声が響く。

    「役員ならびに株主の皆さま方、我が社の次世代主力商品となるであろう『バイオモスキート』の性能試験の様子を、どうぞお手元のワインを片手にお楽しみくださいませ」

    画面の向こう、地上に降り立ったのは、美しくも悍ましい「新品」の殺戮兵器だった。

    昆虫のしなやかさと、バイオ改造による巨大なタフネスを両立させたメス型生物。その漆黒の外殻は、まるで獲物の返り血を吸うために誂えられたかのように不気味に蠢いている。

    バヤルグは草を食む手を止め、その長い耳をピクリと動かした。
    その普通の生物と同じ、剥き出しの黒い瞳が、不快な羽音の主を捉える。

    温厚なバヤルグの野生の防衛本能が、過去に経験したことのないレベルで「最大級の警戒(レッドアラート)」を鳴らしていた。目の前にいる生物からは、自然界の捕食者が持つ「飢え」ではなく、ただ純粋な「殺意」の匂いしかしないからだ。

    バイオモスキートの複眼が、バヤルグの巨体をロックオンする。
    その脳内プロセッサに、最初の「給餌命令」が下された。

    ブゥゥゥゥン!!

    羽音が一段と高く跳ね上がり、バイオモスキートが爆発的な速度で位置エネルギーを無視して駆動を始めた。

    開拓星の鈍色の空の下、人類のフロンティアを支える健気な巨獣と、人類の悪意が生み出した最凶の蚊。
    守るための力と、奪うための牙が、いま静かに牙を剥き合う

  • 47◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:23:05

    突風が吹き荒れ、アルガンⅣの枯れ草が激しく舞い上がった。

    その風の中心にいるのは、金属質の翅(はね)を毎秒数万回という超高速で微振動させるバイオモスキートだ。その駆動音は、獲物の精神を内側から削り取るための不協和音のようだった。

    バヤルグは、3トン近いその巨体をわずかに沈み込ませた。
    左右に張り出した1.7メートルを超える湾曲角が、鈍色の太陽光を反射してぎらりと輝く。家畜化されているとはいえ、彼の血の底に眠る野生は完全に目覚めていた。目の前にいるのは、生態系の調和を乱す「異物」だ。

    ブゥゥゥゥン!!

    次の瞬間、バイオモスキートの姿が視界から消えた。

    昆虫特有の、慣性を無視した直角の高速機動。
    それは重力すらもバイオテクノロジーで飼い慣らしたかのような、悍ましいまでの加減速だった。バヤルグの視覚器官は、常人の数倍の動体視力を持っていたが、それでも空中の一点から次の点へと不連続にワープしたかのように見えるその動きを、完全には捉えきれない。

    ガチ、と硬質な音が響いたのは、バヤルグの頑強な背中の上だった。

    バイオモスキートが、その細く強靭な6本の脚で、バヤルグの灰褐色の毛皮を掴んでいた。
    そして、その頭部から伸びる、鋼鉄の注射針の如き吸汁吻(きゅうじゅうふん)が、迷いなくバヤルグの皮膚へと突き立てられる。

    宇宙船の贅を尽くしたラウンジでは、開発チーフがワイングラスを傾けながら、手元のタブレットの数値を役員たちに見せていた。

    「皆さま、ご覧ください。まず披露いたしますのは、我が社の誇るナノマシン兵器『バイオマラリア』の感染プロセスです」

    冷酷な解説の声が、静かな室内に響く。

    「あのバヤルグという獣の皮膚は数センチの厚みがあり、通常の銃弾すら弾きますが、我が社のバイオモスキートの吻はチタン合金をも貫通します。触れた瞬間に生体ナノマシンが皮膚から毛細血管へと侵入し、速やかに全身を臓器不全へと追い込むのです」

    だが、次の瞬間、ホログラムスクリーンに表示されたグラフは、開発チームの予想とは異なる挙動を示した。

  • 48◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:23:26

    警告を示す黄色いランプが明滅する。

    バヤルグの防御力は、単なる「硬さ」だけではなかった。
    開拓星の容赦ない極寒の冬を越すために蓄えられた数センチの「高密度な脂肪層」と、密集した「重毛」。これらが幾重にも重なる積層装甲となり、バイオモスキートの吻は確かに皮膚を貫通したものの、その下にある本質的な血管層に到達する前に、強固な脂肪組織によって強引にその前進を止められていたのだ。

    さらに、バヤルグの野生の防衛反応が、傷口の周囲の筋肉を一瞬で異常硬化させていた。

    「グルゥゥゥアアアッ!!」

    バヤルグが、大気を震わせる咆哮を上げた。

    血管へ侵入するはずだったマイクロサイズの寄生虫(生体ナノマシン)は、行き場を失い、分厚い脂肪層の中でバヤルグの強靭な免疫システムと激突し、中和されていく。
    痛みよりも、背中にまとわりつく不快感に、巨獣の怒りが沸点へと達した。

    バヤルグは、その圧倒的な筋力を爆発させた。

    ドォン!! と、大地を爆破したかのような足音が響く。
    バヤルグは巨体を激しく反転させ、近くにあった開拓民のコンクリート製の防壁へと、自らの背中を叩きつけた。3トンの肉塊が、時速数十キロで壁に激突する。その衝撃たるや、木造建築なら一撃で粉砕する威力だ。

    ズガァァァン!!

  • 49◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:24:11

    コンクリートの破片が派手に飛び散り、激しい土煙が周囲を覆い尽くした。

    「チッ……!」

    宇宙船のラウンジで、開発チーフが眉をひそめる。

    土煙の向こうから、バイオモスキートは辛うじて宙へ逃れて、再び浮遊していた。
    直撃こそ避けたものの、バヤルグが放った肉弾戦の余波――コンクリートの破片がその軽量ボディの右翅をかすめ、わずかに飛行バランスを乱している。

    しかし、バイオモスキートには感情がない。
    ただプログラムされた殺戮命令に従い、その複眼を不気味に明滅させるだけだ。

    一方、土煙の中から悠然と姿を現したバヤルグは、背中からわずかに血を流しながらも、その足取りは微塵も衰えていなかった。むしろ、長時間労働に耐えうるその高い持久力が、彼の全身にアドレナリンを巡らせ、戦うための活力をみなぎらせていた。

    「フシューーーッ!!」

    バヤルグの鼻腔から、荒い息が白く吹き出す。
    踏みしめる四肢が大地を削り、巨大な湾曲角が、今度は明確にバイオモスキートの細い身体を照準に捉えていた。

    「なるほど、ただの家畜と侮るべきではありませんね」

    宇宙船のラウンジでは、一人の大株主がワインを口に含みながら、興味深そうに目を細めていた。

    「あの頑強な肉体。我が社のバイオ兵器の『リソース』としては、これ以上ない上質な素材だ。おい、チーフ。出し惜しみは無しだ。次の兵装を見せてくれ」

    「御意に、閣下」

    開発チーフが画面をタップする。
    地上では、体勢を立て直したバイオモスキートの腹部が、不気味に脈動を始めていた。
    その内部で、次なる最悪の生命体が、産声を上げようとしていた。

  • 50◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:26:46

    バイオモスキートの漆黒の腹部が、あたかも独立した生き物のように不気味な膨張と収縮を繰り返していた。

    その外殻の隙間から覗いたのは、おびただしい数の、半透明で粘着質な粘液に塗れた「卵」の塊だった。昆虫のハニカム構造を模したその器官は、生体化されたマルチバレル・ランチャーそのものだ。内部の肉壁がギチギチと音を立てて圧縮され、発射の圧力を蓄えていく。

    上空の宇宙船のスクリーンには、バイオモスキートの視覚センサーが捉えた赤外線映像(サーモグラフィ)が映し出されていた。

    「これより、第二段階の兵装性能試験に移行します」

    開発チーフは、冷え切ったワインを口に含みながら、役員たちへ向けて流暢にプレゼンテーションを続けた。

    「ご紹介しましょう。次世代型対人面制圧兵器『バイオヒトヒフバエ』です。この兵器の最大の特徴は、ターゲットの『選別能力』にあります。改造前の素体に付着していた寄生虫の生態を応用し、人間独特の汗の成分、皮脂の匂い、そして36度前後の微細な体温変化を完全に記憶(インプット)させてあります。つまり、人間という種のみを過不足なく、自動で追尾し、捕食・殲滅するのです」

    「ふむ、しかしチーフ」

    白髪の役員が、画面の中の巨大な草食獣を指差した。

    「現在の標的は、人間ではなくあの現地生物(バヤルグ)だぞ。対人用のセンサーで、あの厚い毛皮の獣を捉えられるのかね?」

    「ふふふ、さすがは鋭いお方だ。ですが閣下、ご安心ください」

    開発チーフの唇の端が、不気味なほど吊り上がった。

    「あの獣は、入植者どもに長年飼い慣らされた『家畜』なのです。我が社の分析によれば、あの個体の背中には、開拓民が荷物を固定するために使っていた古い革製の鞍(くら)が残されています。そこには何年分もの、人間の汗、油、生活臭が死ぬほど染み付いている。さらに、あの巨獣が発する凄まじい生命代謝熱は、人間の集団が発する熱源のグラフと酷似している。……つまり、彼にとっては不幸なことに、我が社の兵器の眼には、彼自身が『巨大な人間の塊』として映っているのですよ」

    その言葉を肯定するように、地上のバイオモスキートの複眼が、バヤルグの背中にある古い鞍を完全にロックした。

  • 51◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:27:05

    ブシュウゥゥゥウッ!!

    生臭いガス爆発のような音とともに、バイオモスキートの腹部から、無数の黒い弾丸が射出された。
    それらは空中で一斉に弾け、中から親指ほどの大きさの、肉厚で獰猛な羽を持つハエの群れ――『バイオヒトヒフバエ』が孵化した。その数、数百、数千。まるで地を這う黒い煙のようになって、一斉にバヤルグへと襲いかかった。

    「フゴォッ!? フシューーーッ!!」

    バヤルグの大きな鼻腔から、激しい警戒の息が吹き出した。
    視界を覆い尽くさんとする黒い雲。それらがすべて、自分に対して明確な食欲を持って迫っていることを、その本能が察知していた。

    バヤルグは、2.8トンの巨体を震わせ、自慢の湾曲角を大きく振り回した。
    長さ1.7メートルを超えるその角は、中型の肉食獣なら一振りで肉片に変える質量兵器だ。ブン、と空気を切り裂く凄まじい風圧が発生し、突風がハエの群れの最前列を数十匹ほど叩き潰した。

    しかし、巨体ゆえに小回りが利かないというバヤルグの弱点が、ここで最悪の形で露呈する。

    ハエの群れは、バヤルグの大きな角の軌道をあざ笑うかのように瞬時に分散し、風に乗って彼の死角へと回り込んだ。彼らが求めているのは、バヤルグの背中に染み付いた「人間の匂い」だ。

    ブゥゥゥンという、バイオモスキートのものよりさらに高く不快な羽音が、バヤルグの全身を包み込む。

    次の瞬間、おびただしい数のバイオヒトヒフバエが、バヤルグの背中の毛皮、そして古い鞍へと容赦なく着弾した。
    ハエたちは着弾した瞬間に、その鋭い大顎でバヤルグの灰褐色の毛皮を毟り取り、数センチ下の皮膚へと潜り込もうと肉を削り始める。

    「ガ、アァァァァァッ!!」

    バヤルグが、苦悶に満ちた声を上げて激しく跳ねた。
    どれほど分厚い厚皮装甲を持っていようとも、数千箇所を同時に、それも内側へと穿つように食い進まれる激痛には耐えられない。脂肪層が削られ、高密度の毛皮が血に染まっていく。

    さらに最悪なことに、ハエの群れの一部は、バヤルグの最大の弱点である「目」や「鼻」といった、皮膚の薄い感覚器官へと正確に殺到し始めていた。

    粘膜を狙う執拗な羽音と触肢の感触。

  • 52◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:27:58

    視界がハエの肉体で遮られ、自慢の剥き出しの黒い瞳が危機に瀕する。鼻腔に滑り込もうとするハエを、バヤルグは激しいクシャミと鼻息で吹き飛ばすが、きりがない。このままでは、内側から食い破られて肉の抜け殻にされてしまう。

    激痛とパニックの中で、しかし、開拓星のフロンティアを生き抜いてきた家畜の王は、その魂まで折れてはいなかった。

    (守らなければならない)

    彼の脳裏にあったのは、いつも自分に乾燥草をくれ、その大きな鼻筋を優しく撫でてくれた、開拓民の小さな子供たちの笑顔だった。ここで自分が倒れれば、この化け物どもは間違いなく、あの温かい集落へと向かう。

    バヤルグの四肢に、これまでの重労働で鍛え上げられた「高い持久力」と「圧倒的な筋力」が、再び爆発的なエネルギーとなって充填されていく。

    「グルルルルル……ルゥァァァアアアッ!!」

    地響きのような咆哮。
    バヤルグは低く頭を下げ、左右の湾曲角を前方に突き出した。彼の視線の先には、ハエを放ち、空中から冷徹に戦況を観察しているバイオモスキートの本体があった。
    小回りが利かないなら、小回りの必要のない「直線の絶対破壊」を行うまで。

    ドガァァァン!!

    バヤルグの四肢が、アルガンⅣの大地を爆破するように蹴り上げた。
    3トン近い鉄塊が、時速60キロを超える猛烈な速度で突進を開始する。その一撃は、進行方向にある木造建築物や軽車両程度なら跡形もなく粉砕する、重量級の質量兵器そのものだった。
    突進によって生じた凄まじい前向きの烈風が、彼の顔面や身体に群がっていたバイオヒトヒフバエの群れを、強引に引き剥がし、後方へと置き去りにしていく。

    「ほう……!」

    宇宙船のラウンジで、ワインを楽しんでいた役員の一人が、思わず身を乗り出した。

    「あの状況から、これほどの突進を繰り出すか。素晴らしい生命力だ。だが、空中を飛ぶ我が社の主力商品に、地上の突進が届くのかな?」

    バヤルグの猛進の軌道は、一直線にバイオモスキートへと向かっていた。
    地面を削り、砂塵の嵐を巻き起こしながら、巨獣は自らの命を賭した最大の反撃へと、その歩みを加速させていく。

  • 53◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:28:33

    ズガァァァァン!!! と、大気を引き裂く轟音が、開拓星の荒野に木霊した。

    時速60キロメートルを超えたバヤルグの突進は、もはや生物の運動というより、山崩れそのものだった。2.8トンの質量が踏みしめるたびに、地表の硬い岩盤が文字通り粉砕され、後方へと凄まじい速度で弾け飛んでいく。突進の風圧だけで、周囲に群がっていたバイオヒトヒフバエの群れはバラバラに引き裂かれ、肉片となって霧散していった。

    その直線の絶対破壊の軌道の先に、バイオモスキートがいる。

    昆虫由来の軽量ボディを持つバイオモスキートは、翅を斜めに傾け、その超高速機動によって瞬時に垂直上方へと退避しようと試みた。重力をあざ笑うかのような鋭い上昇。

    しかし、巨獣の命を賭した一撃は、その機動すらも予測の範疇に収めていた。

    バヤルグは突進の最中、わずかに頭部を跳ね上げたのだ。左右に1.7メートルに渡って張り出した巨大な湾曲角――その右端が、上昇しかけたバイオモスキートの細い中脚と、半透明の翅の根本を強烈に掠め取った。

    バキィッ!!

    金属がひしゃげるような悍ましい音が響く。
    直撃ではない。だが、3トン近い質量が放った掠り傷は、バイオモスキートの誇る超高速の飛行バランスを完全に崩壊させるには十分すぎる衝撃だった。黒い機体が、まるで撃墜された戦闘機のように不様に回転しながら、荒野の泥土へと叩きつけられる。

    「ほう、見事な一撃だ」

    上空の宇宙船のラウンジでは、ワイングラスを弄ぶ役員から感嘆の声が漏れた。
    しかし、その声に焦りの色は微塵もない。スクリーンに映し出されたバイオモスキートの構造図は、翅の一部が破損していることを示していたが、中央のメインコアは不気味なほど正常に拍動していた。

  • 54◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:29:05

    開発チーフは、冷淡に笑いながら手元のコンソールに新たなコマンドを入力する。

    「ご安心を。我が社の主力商品は、叩き落とされてからが本番でございます。これより、第三段階にして最大のコア機能――『バイオドレイン』の起動試験へと移ります」

    地上の泥を跳ね上げ、バイオモスキートは即座に起き上がった。
    折れた翅を不快に震わせながら、地面を這う蜘蛛のような速度で、突進の余波で小回りが利かずに反転が遅れているバヤルグの懐へと滑り込んでいく。

    バヤルグが巨体を翻し、再び踏み潰そうとしたその瞬間。
    バイオモスキートは、先ほどヒトヒフバエによって毛皮と皮膚をズタズタに削り取られた、バヤルグの「剥き出しの傷口」へと正確に飛び移った。

    チタン合金をも貫く、鋼鉄の吸汁吻が、今度は何の障害もなくバヤルグの肉体の深奥――太い動脈へとダイレクトに突き立てられた。

    「グ、オォォォォォォッッ!?」

    バヤルグの巨体が、これまでにない激しい痙攣を起こした。

    吸汁吻の先端から、対象の肉体を内側からドロドロに融解させる特殊なバイオ酵素が注入される。そして次の瞬間、バイオモスキートの体内にある超高圧の真空ポンプが、凄まじい勢いで駆動を始めた。

    『バイオドレイン』の起動である。

    バヤルグの体内から、純度の高い血液、強靭な筋組織、豊かな脂肪層が、文字通り「根こそぎ」吸い上げられていく。吸い上げられた生体組織は、バイオモスキートの吻の内部で瞬時にナノレベルで分解され、彼らの戦闘リソースである「バイオ組織」へと再変換されていった。

    ズクズクと、バイオモスキートの漆黒の腹部が、吸い上げた豊潤な命のエネルギーで満たされ、緑色と赤色の不気味な発光を伴って肥大化していく。

  • 55◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:29:19

    それと同時に、先ほどバヤルグの角によって叩き折られたはずのバイオモスキートの右翅と脚が、吸い上げた肉を素材にして、瞬く間にニョキニョキと不気味に再生されていった。

    「ガ……ルゥ……」

    バヤルグの四肢から、急激に力が抜けていく。
    圧倒的な筋力を誇ったその肉体が、内側からカサカサに萎んでいくような、悍ましい絶望感。数分前まであれほど瑞々しく脈動していた3トンの巨体が、今やその質量を物理的に奪われ、軽くなっていく。

    目に見えてバヤルグの灰褐色の毛皮が弛み、誇り高き巨躯がグラリと大きく傾いた。

    宇宙船のスクリーンには、バイオモスキートの腹部のリソース格納率を示すパーセンテージが、恐ろしい速度で上昇していく様子が表示されていた。

    【リソース格納率:30%……35%……42%……】

    「素晴らしい! 敵の肉体そのものを燃料にして自己修復し、さらに兵装を充填する。これぞ究極の永久機関だ!」

    役員たちが、手にしたワインを掲げて残酷な歓声を上げる。

    「バヤルグの命は、もう骨と皮を残して吸い尽くされるのを待つだけだな。チーフ、実に見事な商品だ」

    「ありがき幸せ。……ですが、皆さま、データ画面の『もう一つの数値』にご注目ください」

    開発チーフの眼鏡の奥の瞳が、冷酷な光を放った。

    【警告:リソース格納率が48%に到達】
    【弱点警告:格納率50%超過に伴う重量バランスの変動、および駆動遅延の発生予測】

    バヤルグの圧倒的な生命力と質量は、バイオモスキートにとってあまりにも「美味」すぎた。
    吸い上げられた膨大な肉と血のエネルギーは、バイオモスキートの腹部を、元のサイズの倍以上にまで膨れ上がらせていた。それは同時に、この昆虫型兵器の最大の弱点である「重量バランスの崩壊」を引き起こす臨界点が、すぐそこまで迫っていることを意味していた。

    内側から生命を削られ、白目を剥きかけながらも、開拓星の巨獣はまだ倒れていなかった。

  • 56◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:29:31

    その強靭な四肢の骨だけは、どれだけ肉を吸われようとも、大地に深く突き刺さったまま折れていない。高い持久力を支える彼の強靭な心臓が、最後の最期まで、戦うための血を脳へと送り続けていた。

    バヤルグの朧げな視界が、目の前でパンパンに膨れ上がり、重量に耐えかねてわずかに動きの鈍ったバイオモスキートの「異様な腹部」を捉えた。

    守るべき人間のために。残された最後の力を、巨獣はその湾曲角へと込める。

  • 57◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:30:02

    バヤルグの視界は、すでに明滅するセピア色のノイズに覆われつつあった。

    どれほど強靭な自然の傑作であっても、内側から肉と血を物理的に「変換」され、強奪される恐怖には抗えない。全身の毛細血管が悲鳴を上げ、かつて大型車両をも容易く牽引した大腿部の筋肉は、見る影もなく萎んで皮の下でピクピクと痙攣している。3トン近かったその巨躯は、今や骨の輪郭が浮き出るほどに痩せ細り、その足元は生まれたての小鹿のように激しく震えていた。

    しかし、その首だけは、頑なに垂れ下がることを拒んでいた。

    ズク、ズク、と音を立ててバヤルグの血肉を貪り続けるバイオモスキート。
    その漆黒だった腹部は、いまやバヤルグから奪った極上の生体エネルギーによってパンパンに膨れ上がり、毒々しい赤緑色の発光層を歪に脈動させていた。翅や脚の再生を完了し、余りあるリソースをその体内に溜め込んでいく。

    上空の観測宇宙船では、ホログラムスクリーンに映し出されるパーセンテージの数値が、ついに「その時」を迎える瞬間を、全役員が固唾を飲んで見つめていた。

    ピコーン、と冷徹な警告音がラウンジに響く。

    【リソース格納率:49.8%……49.9%……50.0%】

  • 58◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:30:16

    【警告:リソース格納率が50%に到達しました】
    【弱点現象:重量バランスの著しい不整合、および駆動フレームへの過負荷を検知。最大機動速度が45%低下します】

    「チ、チーフ……! これはどういうことだ!?」

    最前列でワインを嗜んでいた恰幅の良い役員が、不快そうにグラスをテーブルに叩きつけた。

    「我が社の主力商品の動きが、目に見えて鈍くなっているではないか! まるで泥の中に浸かっているかのような不様な醜態だぞ!」

    開発チーフは、額に一筋の冷や汗をにじませながらも、必死に平静を装ってコンソールを操作した。

    「い、いえ、閣下、これは想定の範囲内の『仕様』でございます。バヤルグという現地生物の質量が、我が社の予測を僅かに上回っていたため、腹部の重量バランスが一時的にシフトしたに過ぎません。……とはいえ、標的はすでに虫の息。どれほど駆動が遅延しようとも、勝敗が覆る要素は万に一つもございません!」

    地上のバイオモスキートは、確かに異変をきたしていた。
    昆虫特有の、あの慣性を無視した直角の超高速機動が、自らの肥大化した腹部の「重み」によって完全に殺されていた。空中へ飛び立とうとしても、2.8トンの獣から効率よく吸い上げすぎた肉の重量が、その細い翅の駆動フレームに容赦ない負荷(トルク不足)を与え、地表からわずか数十センチの高さで不格好にホバリングするのが精一杯となっていた。

    重い。
    圧倒的な戦闘リソースを手に入れた代償として、彼女は「最凶の蚊」から「飛べない鈍重な肉塊」へと、その身を堕としていたのだ。

    「フシューーーーーッ……!」

    バヤルグの鼻腔から、血の混じった最後の息が細く吹き出した。

    (今だ)

    言葉を持たない巨獣の脳裏に、確かな戦術の火花が散った。

  • 59◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:30:31

    家畜として、人間と共に荒れ地を耕し、厳しい自然と戦い続けてきた12年間の経験。小回りが利かないという自身の弱点を知り尽くしていたからこそ、彼は今、目の前の化け物が「自分と同じ弱点」に陥ったことを、その鋭い野生の勘で完璧に捉えていた。

    もう、あの神速のステップでかわされることはない。
    目の前にいるのは、自分の肉を欲張りすぎて動けなくなった、ただの「的」だ。

    バヤルグは、骨の浮き出た四肢に、残されたすべての「持久力」の底力を注ぎ込んだ。
    肉は失われ、筋繊維は断裂しかけている。だが、彼の意志の硬度は、惑星アルガンⅣのいかなる硬土よりも強固だった。心臓がドクンと、最期の命の灯火を燃やすように激しく拍動する。

    ドク、とバヤルグの剥き出しの黒い瞳に、凄絶な戦意が戻った。

    「グルルルル……ルゥァァァアアアッッ!!」

    死に体の巨獣が放ったとは到底信じられない、大地を震わせる大咆哮。

    バヤルグは低く頭を垂れ、その全生命力の残滓を、左右に大きく張り出した湾曲角へと集約させた。角端間1.7メートルの天然の槍。彼は首の筋肉を限界まで引き絞り、目の前でバランスを崩してよろめいているバイオモスキートの「膨れ上がった腹部」に向けて、渾身の力で頭部を振り抜いた。

    それは、開拓星のフロンティアスピリットが、人間のエゴが生んだ兵器へと叩きつける、臨死の鉄槌だった。

    バイオモスキートの複眼が、迫り来る巨大な角の軌道を捉える。
    内部の演算装置が「回避命令」を出すが、格納率50%を超えた腹部が、フレームの駆動をコンマ数秒遅らせる。その絶望的なタイムラグの間に、バヤルグの湾曲角は、逃げ場を失ったバイオモスキートの肉体を完全にその射程へと捉えていた。

    「いけぇっ……!!」

    宇宙船のラウンジで、誰の喉からともなく、祈るような叫びが漏れた。

    次の瞬間、荒野の激しい砂嵐を切り裂いて、バヤルグの誇り高き角が、バイオモスキートの歪な巨体を真っ向から捉えた。

  • 60◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:31:18

    ズガアアアアアン!!!

    バヤルグの全生命を賭した一撃が、バイオモスキートの肥大化した腹部へと炸裂した。

    角端間1.7メートルを超える天然の湾曲角。そのもっとも硬い先端が、格納率50%を超えて限界まで張り詰めていたバイオ組織の防壁を、容赦なく貫通した。
    それはまさに、風船の表面に鋼鉄の錐を突き立てたかのような破滅的な構図だった。

    「ギ、ギィィィィィャァァァァァッッ!!」

    バイオモスキートの口から、昆虫のそれとは思えない、金属を擦り合わせたような絶叫が響き渡る。

    バヤルグから奪ったばかりの、純度の高い血液、濃厚な筋組織、豊かな脂肪層――それらすべての「命のリソース」が、破壊された腹部から一気に大気中へと爆散した。
    高圧で圧縮されていたバイオ組織が、逆流するエネルギーの濁流となってバイオモスキートの内部フレームを内側から木端微塵に引き裂いていく。

    「な、なんだと……!? 我が社の主力商品が……!!」

    上空の観測宇宙船のラウンジでは、開発チーフが手に持っていたコンソールを床に落とし、信じられないものを見るようにスクリーンを見開いていた。
    役員たちのワイングラスが床に落ちて砕け、最高級の赤ワインが、まるで地上の凄惨な戦場を模すように絨毯を赤く染めていく。

    「リソースが……逆流している! 吸収した生体エネルギーの圧力が強すぎて、自己修復機能が追いつかない! 構造フレームの崩壊率、80%……90%……!!」

    チーフの絶望の叫びを肯定するように、地上では凄まじい光景が広がっていた。

    バヤルグの角に貫かれたバイオモスキートは、自らの内に溜め込んだ「奪った命」の質量に耐えかねて、外殻の節々から緑色の体液を噴き出し、完全に自壊し始めていた。昆虫に由来する軽量ボディのバランスは完全に崩壊し、自慢の6本の脚は、自分の体重すら支えられずにボキボキと不様に折れ曲がっていく。

  • 61◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:31:45

    しかし、バイオモスキートのメインコアは、最期の最期まで「兵器」としてのプログラミングに支配されていた。

    チカ、チカ、と不気味な赤光が、崩壊していく頭部の中で明滅する。

    【深刻な損壊を検知。戦闘継続不能】
    【最終プロトコル:『バイオマラリア』の強制全域放出を開始――】

    死なば諸共。
    敗北を察知した人工知能が、自らの体内に残されたマイクロサイズの寄生虫(生体ナノマシン)を、周囲の空気に霧状にして全域放出(スプレッド)しようとした。これだけの高濃度ナノマシンが散布されれば、バヤルグはもちろん、この地域の開拓民の集落すら数日で全滅する。人間のエゴが生み出した、最悪の置き土産(呪い)だ。

    「……フシューーーーーッ!!」

    だが、バヤルグはそれを許さなかった。

    骨と皮ばかりになり、すでに視界の大半を失いかけている巨獣。しかし、彼の短い耳は、化け物の頭部から漏れ出る不穏な電子音を捉えていた。

    (これ以上、この星を汚させはしない)

    バヤルグは、大地に深く突き刺した四肢の骨を軋ませ、最後の一歩を踏み出した。
    圧倒的な筋力は失われた。だが、彼にはまだ、3トン近い肉体を支え続けてきた「2.8トンの質量」そのものが残されている。

    バヤルグは、崩れ落ちるバイオモスキートの機体の上へと、自らの巨体を預けるように倒れ込んだ。

    ドガァァァァン!!!

    生ける岩盤が落ちたかのような、凄まじい質量攻撃(プレッシャー)。
    バヤルグの2.8トンの自重が、ナノマシンを放出しようとしていたバイオモスキートの頭部(コア)を、アルガンⅣの硬い岩盤との間で完全に挟み込み、容赦なく圧殺した。

  • 62◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:31:56

    グシャリ、と嫌な音がして、バイオモスキートの複眼が完全に光を失う。
    生体ナノマシンの散布機構は、作動する前に物理的に粉砕され、ただの歪な機械の破片へと変わり果てた。

    宇宙船のスクリーンに、冷徹な文字が踊る。

    【バイオモスキート:完全沈黙(ロスト)】

    「試験、終了……だな」

    大株主の一人が、力なくそう呟き、席を立った。
    ワイン片手に楽しむはずだった性能試験は、人間のエゴを自然の誇りが圧殺するという、企業側にとって最悪の結末(リザルト)で幕を閉じた。

    静寂が、アルガンⅣの荒野に戻ってきた。

    煤けた鈍色の空から、冷たい風が吹き抜ける。
    バイオモスキートの残骸を完全に押し潰したまま、バヤルグはゆっくりと、本当にゆっくりと、その大きな瞼を閉じた。
    全身は傷だらけで、血肉を奪われた肉体は痛ましく痩せ細っている。しかし、その顔は、どこか大仕事を終えた後のように穏やかだった。

    彼は守り抜いたのだ。自分の愛する飼い主を、温かい集落を、この過酷だが美しい開拓星の未来を。

    数時間後。
    遠くから、バヤルグの安否を気遣う開拓民たちの、慌ただしい車のエンジン音と、子供たちの呼ぶ声が響き始めた。

    その温かい人間の声を遠くに聞きながら、フロンティアの偉大な巨獣は、深い、深い眠りへとついていった。その湾曲角は、夕暮れの光を浴びて、どこまでも気高く輝いていた。

  • 63◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 16:32:27

    以上

  • 64二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 16:44:36

    投下お疲れさまです
    ちゃんとオーディエンスも発表者もいて株主総会や役員会議みたいになっててすげえ!!!

  • 65◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:19:59

    題名『盤上の支配者、校則を斬る』

  • 66◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:21:56

    学園都市の頭脳と武力が集う中心地――「光世学園」。
    その中央に位置する広大なバトルドームの人工芝は、すでに幾重もの超常の激突によって焦げ付き、抉れていた。この都市において、能力の強さと戦闘ランキングこそが絶対の身分証明であり、すべての特権の源泉である。

    その残酷なピラミッドの上層、ランキング7位に君臨する少女――三神早妃(みかみ さき)は、艶やかな黒髪に混ざる鮮やかな黄色のメッシュを指先で弄びながら、不敵な笑みを浮かべていた。

    勝気な瞳の奥に宿るのは、冷徹なまでの計算高さ。
    彼女にとって、このランキング戦は神聖な決闘などではない。相手を自分の描いたシナリオ通りに誘導し、絶望の顔を浮かべるのを特等席で眺めるための、最高に刺激的な「ゲーム」だった。

    「ねぇ、そこの委員長さん。そんなに肩肘張って身だしなみを気にしてたら、せっかくの勝負が退屈になっちゃうよ?」

    早妃が、指先に挟んだ数枚のホログラムカードを扇状に広げながら、くすくすと嗜虐的に笑う。

    対面で背筋を恐ろしいほど真っ直ぐに伸ばし、衣服のシワ一つなく佇んでいたのは、国分寺戒乱(こくぶんじ かいらん)だった。
    18歳。剣道部主将にして風紀委員会委員長。きっちりと整えられた制服の襟元と、知性的に光る眼鏡の奥の生真面目な瞳が、彼の性格を雄弁に物語っている。退魔の一族として、日々、陰から世界の平穏を守るために魑魅魍魎を斬り伏せてきた本物の武人。

    しかし、その生真面目すぎる性格ゆえに、彼は今、早妃の「挑発」に対して別のベクトルで頭を悩ませていた。

    「三神早妃君。君のランキング戦の実績と実力は風紀委員会としても注視している。だが――」

    戒乱は、自身の持つ退魔刀の柄をきっちりと正しながら、大真面目な顔で眼鏡のブリッジを押し上げた。

    「――試合直前だというのに、そのスカートの丈は学園の規定から実に4センチメートルも短い。さらにその髪の黄色いメッシュは、校則第12条『頭髪の脱色・染色の禁止』に完全に抵触している。策を練る前に、まずは学生としての基本の規律を正すべきではないだろうか!」

    「……は?」

    早妃の笑顔が、一瞬だけピキリと凍りついた。

  • 67◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:22:07

    これまで戦ってきた力押しのファイターたちは、皆「ランク7位、ブチ殺してやる!」と血気盛んに襲いかかってきた。しかし、目の前の男は、血の気の代わりに「校則」を盾に大真面目な説教を始めている。空回っている。完全に、戦いの前提がズレていた。

    (何これ……本物のバカ? それとも、私を揺さぶるためのハッタリ?)

    早妃の計算高い脳内プロセッサが、一瞬で戒乱のプロファイリングを書き換える。
    場数は誰よりも踏んできた。力任せの馬鹿ならいくらでも罠に嵌めてきた。ならば、この「規律の塊」のような生真面目男を、その生真面目さゆえの行動パターンごと、完璧にすり潰してやればいい。

    早妃の指先が、空間に1枚のカードを滑らせた。

    「ふーん。じゃあ、その堅物な頭ごと、私のルールで躾けてあげる。――『パウ・カード』、オープン!」

    バサァッ! と、彼女の周囲に無数の電子のカードが乱舞し、決闘場の物理法則が書き換わっていく。早妃の能力は、戦場そのものをカードゲームの盤面へと変貌させる千変万化の支配術。彼女自身が「プレイヤー」であり、この空間の神だ。

    対する戒乱は、小さくため息をつき、退魔刀を静かに引き抜いた。
    刃が擦れる鋭い金属音がドームに響く。

    「不条理な超常の力で戦場を汚すこと、それ自体が世界の『乱れ』だ。我が一族に伝わる【快刀乱麻を断つ】の剣術を以て、その歪んだ悪癖ごと、一刀の下に両断させてもらう!」

    戒乱の構えには、一分の隙もなかった。
    彼は「悪」や「災い」に対して絶対的な特効を持つ退魔の剣士。もし早妃が異形の怪物を呼び出すならば、彼の剣はその本領を発揮する。

    だが、早妃の唇は、さらに深く、愉悦に歪んでいた。

    「言ったね? じゃあ、まずは私の可愛いお人形で、その綺麗な姿勢を崩してあげる!」

    早妃の指先から放たれたカードが淡い光を放ち、人工芝の上に、ドロドロとした泥で出来た「異形の兵士(ロー・モンスター)」を具現化していく。

    学園都市のランキング7位の策士と、不器用なまでに規律を貫く退魔の風紀委員長。
    知略の罠と、正義の刃。互いの絶対に譲れない「流儀」を懸けた、極限のマインドバトルが、いま静かに幕を開けた。

  • 68◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:22:47

    「さあ、まずは挨拶代わり。私の可愛いお人形でどこまで踊れるかしら?」

    早妃の愉悦に満ちた声とともに、人工芝に展開されたカードから、泥を捏ね上げたような不気味な四足歩行の異形――「モンスター」が三体、同時に具現化された。

    その異形たちは、骨が剥き出しになった歪な頭部を激しく振り回し、耳を劈くような咆哮を上げる。

    「チッ、やはり魑魅魍魎の類を役使うか! 風紀を乱す異能、風紀委員長として看過できん!」

    戒乱は眼鏡の位置を中指で厳格に直すと、退魔刀を中段に構えた。

    その全身から、日常を脅かす邪悪を断ち切るための、清廉で苛烈なオーラが立ち昇る。彼の能力『快刀乱麻を断つ』は、悪や災い、妖魔に対して絶対的な殺傷力を発揮する退魔の剣。目の前に現れた異形は、まさに彼の刃がもっとも冴え渡る最高の獲物のはずだった。

    「ハァッ!!」

    鋭い踏み込みとともに、戒乱の身体が一条の閃光と化した。
    無駄のない完璧な姿勢から繰り出される神速の縦一文字。退魔の法力が宿った刃は、大気を引き裂き、突進してきた一体目の異形を脳天から股下まで一刀の下に両断する。

    パンッ! と、切断された異形が光の粒子となって消滅した。

    (よし、手応えあり。このまま残り二体も――)

  • 69◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:24:04

    戒乱は即座に体勢を立て直し、二体目の異形の首筋へと刃を払おうとした。
    しかし、その瞬間に彼の脳裏に走ったのは、退魔の一族として長年培ってきた「直感」の狂いだった。

    手応えが、あまりにも「軽すぎる」のだ。

    「……ん? 妖気の残滓が、まるで感じられない……?」

    戸惑う戒乱の視線の先、二体目と三体目の異形は、刀を構えた戒乱に向かって攻撃を仕掛けるどころか、突然その場にペタンと座り込み、マヌケに首を傾げていた。

    その泥の身体からは、人間を呪うような悪意も、世界を脅かすような災いの気配も、一微塵も感じられない。ただの「泥でできた動く人形」――そう、彼女の能力で生み出されたそれは、オカルト的な妖怪でも悪魔でもなく、システムによって精巧にプログラムされた、ただの「無害なゲームのオブジェクト」に過ぎなかったのだ。

    「なっ、なんだこの緊張感のない生き物は!? これでは、ただの『普通の人形』ではないか!」

    戒乱の生真面目な脳が激しく空回りを始めた。
    彼の『快刀乱麻を断つ』は、対象が「悪・妖魔・災」であって初めて、その威力を何十倍にも跳ね上げる。しかし、目の前にいるのは、ただの「女の子がカードで出した可愛いモンスター(実質ただのファンシーグッズ)」。

    つまり、今の戒乱は、神社で大真面目に祈祷を捧げた木刀で、ゲームセンターのぬいぐるみを叩いているような状態だった。
    能力の特効が一切乗らない。ただの「普通の剣術」で戦うしかないという、彼の最大の弱点が、戦闘開始のわずか数秒で完全に突かれていた。

    「あはははは! 傑作! 本当に校則通りの動きしかできないのね!」

    それを見た早妃は、お腹を抱えて大爆笑した。

  • 70◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:24:24

    「あんたの能力、事前に調べさせてもらったわよ。悪霊とか怪異には滅法強いみたいだけど、私のパウ・カードはただの『ゲームルール』。そこに善も悪もないわ。ただのプラスチックのおもちゃを相手に、そんな大層なオーラを出しちゃって、バッカみたい!」

    「くっ、まさかそこまで計算して……! だが、通常の剣術であっても、剣道部主将の技、侮ってもらっては困る!」

    戒乱は内心の動揺を強引に抑え込み、姿勢を正して泥の人形へと躍り出た。
    特効が乗らなくとも、彼の身体能力と剣技そのものは本物だ。流麗な三連撃によって、残りの二体も瞬く間に切り刻み、戦場をクリアにする。

    しかし、それこそが早妃の描いた「第一のシナリオ」だった。

    「お疲れ様、委員長さん。でも、私の弱いお人形で遊んでる間に、あんた、自分がどこに足を乗せたか分かってる?」

    早妃が指先に挟んだ別のカードを、パチンと小気味いい音を立てて裏返した。

    その瞬間、戒乱が着地した人工芝の上が、禍々しい紫色の魔法陣へと変貌する。

    「しまっ――」

    「ひっかかった! トラップカード『重力泥濘(マッド・グラビティ)』発動! さあ、ここからが私のゲームの時間よ!」

    ズガァン! と、戒乱の全身に、通常の十倍以上の超重力が圧しかかった。
    生真面目に姿勢を正していた彼の膝が、不本意にガクリと折れ、地面の泥へと深く沈み込んでいく。

    それと同時に、早妃の手元にある「カードパワー」のゲージが、トラップの成立によって爆発的にチャージされていくのを、戒乱は眼鏡の奥の目でしかと目撃した。

    策士の少女の罠に、生真面目な正義の刃が完全に絡め取られようとしていた。

  • 71◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:24:51

    「く、う……! なんという不潔な重力だ……! 校庭の美化基準を著しく逸脱している……!」

    戒乱は、全身を圧し潰さんとする十倍の超重力に晒されながらも、なおも姿勢を正そうと四肢の筋肉を極限まで緊張させていた。
    泥にまみれ、衣服が汚れることへの精神的苦痛。しかしそれ以上に、目の前の不届きな生徒に完全に主導権を握られているという事実が、風紀委員長としての彼の自尊心を激しく逆撫でする。

    トラップカード『重力泥濘(マッド・グラビティ)』の効果は、単なる移動速度の低下に留まらない。
    泥に囚われた戒乱の身体には、攻撃力と防御力を大幅に削ぎ落とす凄まじい「弱体化(デバフ)」の呪言が、紫色の鎖となって巻き付いていた。

    「あはは! その状況でもまだ校則の話? 本当に最高、あんたみたいな生真面目なクズをハメるのが一番気持ちいいわ!」

    早妃は黄色いメッシュの混ざる髪を激しくなびかせ、勝利を確信した笑みを浮かべた。

    彼女の空中モニターに表示された「カードパワー」のゲージは、戒乱が罠に引っかかったことで一気に臨界点(100%)まで跳ね上がっている。これこそが早妃の常勝パターン。弱いモンスターで相手の動きを限定し、その思考の癖を読んで確実にトラップへ誘導する。一度このループに嵌まれば、どれほど強力なファイターであっても、二度と彼女の盤面から抜け出すことはできない。

    早妃の指先が、光世学園ランキング7位の誇りをかけて、最後のカードをドローした。

  • 72◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:25:22

    「さあ、ゲームセットといきましょうか。カードパワー最大充填――魔法カード『裁きの神雷(ジャッジメント・ボルト)』!!」

    早妃が掲げたカードが黄金の光を放ち、バトルドームの天井に巨大な雷雲を瞬時に具現化させた。
    カードパワーが溜まっているほど威力を増す彼女の最大奥義。バチバチと空間を焼き切るような凶悪な放電現象が、泥に縛り付けられた戒乱の頭上へと集約していく。直撃すれば、いかに鍛え上げられた退魔の肉体であっても一撃で消し炭だ。

    「これでもう動けないでしょ? 私の勝ちよ、委員長さん」

    早妃は冷酷に言い放ち、親指を下に向けて、落雷のトリガーを引いた。

    ドゴォォォォン!!!

    鼓膜を破らんとする轟音とともに、超高圧の黄金の雷霆が、泥濘の中心に佇む戒乱へと垂直に突き刺さった。激しい閃光がドーム全体を白く染め上げ、人工芝が爆風で派手にめくれ上がる。

    「……ふぅ。場数を踏んでない馬鹿なら、もっと早く泣いて命乞いしてたんだけどね」

    早妃は煙の上がる着弾点を見つめ、退屈そうに息を吐いた。
    勝負あり。彼女の計算では、これで国分寺戒乱の戦闘不能、あるいはギブアップによるランキング戦の終了がシステムから告げられるはずだった。

    しかし。

    「――『一年の計は元旦にあり』、そして『一日の計は朝(あした)にあり』」

    焦げ臭い煙の向こうから、信じられないほど明瞭で、硬質な声が響いてきた。

    「……えっ?」

    早妃の勝気な瞳が、驚愕に大きく見開かれる。

    煙が風に流されて消えていく。そこにいたのは、制服の右袖を完全に焼き飛ばされ、全身から激しい火花を散らしながらも――未だに、一分の狂いもなく「真っ直ぐな姿勢」で刀を構え続ける国分寺戒乱の姿だった。

  • 73◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:25:33

    彼の眼鏡の片方のレンズにはヒビが入っていたが、その奥にある瞳は、先ほどよりも遥かに鋭く、澄み切った光を放っている。

    「な、何で……!? 完全に直撃コースだったはずよ!? デバフだってかかってて、防御力も落ちてたのに!」

    「三神君。君の言う通り、君の生み出したカードには『悪』も『妖魔』もない。ただのシステムだ」

    戒乱はゆっくりと、泥の中から片足を力強く引き抜いた。
    その足取りには、先ほどまで彼を縛り付けていたはずの超重力の響きが、微塵も感じられない。

    「だが、他人を罠に嵌めて愉しみ、規律をあざ笑うその『心根』は――紛れもない、日常の平穏を脅かす【悪癖(わざわい)】だ!!」

    轟、と戒乱の退魔刀から、先ほどとは比較にならないほどの苛烈な黄金のオーラが吹き出した。
    彼の能力『快刀乱麻を断つ』が、早妃の戦術そのものではなく、彼女の持つ「嗜虐的な悪意」を明確な【災い】としてロックオンしたのだ。能力の特効が、今この瞬間に、早妃本人に向けて最大出力で発動した。

    デバフの鎖が、戒乱の放つ正気によって一瞬でパキンと弾け飛ぶ。

    「君の計算は素晴らしい。だが、真面目な人間が、泥にまみれただけで折れると思うな!!」

    戒乱の身体が、重力を完全に置き去りにして、早妃の眼前に向かって爆発的な速度で突進を始めた。

  • 74◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:25:57

    「嘘……! あの魔法を、完全に弾いたの!?」

    早妃は反射的にバックステップを踏み、手元のカードを乱雑に操作して障壁を形成しようとした。カードパワーゲージは落雷で使い果たしたばかりだ。彼女が最も誇る「盤面コントロール」が、いまや戒乱の放つ圧倒的な「正気の圧力」によって、音を立てて崩れ去っていく。

    「そんなの……計算外よ! あんなの、ただの頑固なだけの高校生の精神力じゃない!」

    早妃の焦燥は、これまで踏んできた数千回のランキング戦でも味わったことのない種類のものだった。
    これまで彼女が戦ってきた相手は、皆、自分のカードという「理不尽なルール」に翻弄され、怒り、泣き、あるいは恐怖して自滅していった。しかし、この風紀委員長は違う。彼は自分の置かれた不利な状況をすべて理解した上で、なおかつ「不誠実な戦い方」そのものを断罪しようとしている。

    「君のカードは、確かに千変万化で強力だ。だが、盤面という『枠』の中でしか強さを発揮できない!」

    戒乱の退魔刀が、早妃が防衛のために展開した電子障壁を、紙を裂くように両断した。
    【快刀乱麻を断つ】の力が、障壁という「乱れ」を的確に解きほぐし、無効化する。かつてない速さと鋭さで迫る刃先が、早妃の鼻先で止まる。

    「三神早妃君。君の負けだ。もうこれ以上、このドームの芝を荒らすことは許可しない!」

    「ッ……! 負け、なんて……っ!」

    早妃は歯を食いしばり、最後の悪あがきとして、懐に隠し持っていた「逆転用」のトラップカードを戒乱の足元へ叩きつけた。相手が引っ掛からなければ発動しない、まさに窮余の策。

    だが、戒乱は視線を落とすことすらしなかった。

  • 75◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:26:07

    「その手には乗らない」

    彼は刀の柄を短く持ち替え、戒乱は一瞬にしてその場から姿を消した――ように見えた。
    神速の足捌き。それは剣術の基本中の基本、無駄な動きを極限まで削ぎ落とした「歩法」だった。早妃のカードが反応するよりも早く、戒乱は彼女の懐へと潜り込んでいたのだ。

    「悪いが、君の計算には『泥を纏っても己を見失わない』という要素が欠けていたようだ」

    戒乱の無造作な一撃が、早妃の手元からすべてのカードを弾き飛ばした。
    空中に舞う無数の光のカード。彼女の「盤面」が、文字通り宙に浮き、すべての支配力を失っていく。彼女の能力の源泉が物理的に遮断され、周囲を包んでいた異形の戦場が、光の粒子となって霧散した。

    「……ぁ」

    早妃は呆然と、自分の掌からカードが消えゆく様を見つめた。
    いつもなら、この瞬間に自分の勝利が確定し、相手が絶望の淵に沈むのを見て笑っていたはずだった。だが今、目の前に立っているのは、泥に塗れ、袖を破られ、それでもなお「規律」を守るために背筋を伸ばし続ける一人の風紀委員長。

    「勝負あり。……これでランキング戦の規定に基づく戦闘不能とみなす。君の、負けだ」

    戒乱はそう言い捨てると、破れた袖を気にしながらも、きっちりと刀を鞘に収めた。
    その所作のあまりの潔さに、早妃は言葉を失った。屈辱よりも先に、自分の「計算」がすべて根底から崩されたことへの、言いようのない喪失感が胸を支配していた。

    ドームの観客席からは、予想外の結末に、静寂と、やがて沸き起こる小さな拍手が混ざり合っていた。

  • 76◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:26:30

    勝負は決した。

    宙を舞ったカードがすべて消滅し、異形の戦場が霧散すると、バトルドームには静寂だけが戻ってきた。人工芝に散らばった泥と、早妃が最後に足掻いたトラップの破片だけが、先ほどまでここで繰り広げられていた超常的な戦闘の痕跡を留めている。

    早妃は、へなへなと人工芝の上に座り込んだ。
    彼女のトレードマークである艶やかな黒髪は泥で汚れ、黄色いメッシュも乱れきっている。いつもなら相手を嘲笑するために使っていたその唇は、今はただの驚きと、生まれて初めて味わう「敗北」の感触に震えていた。

    戒乱は、座り込んだ早妃を冷酷に見下ろすことはしなかった。
    彼は刀を完全に納めると、埃を払うように制服を整え、ポケットから清潔な白いハンカチを取り出した。そして、泥に汚れた早妃の頬のあたりを指差し、申し訳なさそうに言った。

    「……三神君。試合の結果は覆らないが、その頬に泥が付いている。衛生上、あまり好ましくない」

    そう言って、彼はハンカチを彼女の足元に置いた。
    勝者としての慈悲ではない。あくまで「校内の衛生環境を守る風紀委員長」としての、あまりにも彼らしい、実直すぎる配慮だった。

    「……バカみたい。最後まで、本当にバカみたい」

    早妃はハンカチを手に取り、泥を拭いながら、鼻で笑った。
    しかし、その笑みには先ほどまでの嗜虐的な色はなく、どこか憑き物が落ちたような、不思議な軽やかさが混ざっていた。

    「私の計算じゃ、あんたは雷に打たれて気絶して、私が優雅に勝利を宣言するはずだったのよ。それが何よ、この泥まみれの、真っ直ぐすぎる結末は」

  • 77◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:26:44

    「計算とは、往々にして人の『意志』を読み違えるものだ。少なくとも、退魔の一族の鍛錬において、泥にまみれることは日常茶飯事だからね。君のトラップごときで、我が心まで汚されたりはしない」

    戒乱は眼鏡を直しながら、学園の出口へと踵を返した。

    「ランキング戦の報告は風紀委員会に提出しておく。……ああ、それと。そのメッシュの件だが、次回の登校時には黒く染め直してくるように。校則は守ってもらうぞ」

    「……はいはい、分かったわよ、委員長さん」

    背を向けて去っていく生真面目な背中に向かって、早妃は呆れたように声をかけた。
    彼女の戦術をすべて無効化したその背中は、どんなカードよりも強固で、どんなトラップよりも攻略しがたいものに見えた。

    早妃は、最後に残された一枚のカード――今はもうただのプラスチック片と化したカードを指で弾き、空中に放った。
    盤面は崩れた。彼女の絶対的な支配は終わった。

    しかし、不思議と胸の中は悪くない。
    「計算」という窮屈な箱の中に閉じ込められていた彼女にとって、この泥だらけの敗北は、ある種の「自由」の味を教えてくれたのかもしれない。

    学園都市の夕闇が、戦いの終わったドームを包み込む。
    一人の策士と、一人の風紀委員長。二人の歪な決闘は、こうして「規律」という名の鮮やかな一刀によって、静かに幕を閉じた。

  • 78◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:27:37

    以上
    20:00から先着6名募集

  • 79◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 17:28:13

    ちょっとした質問ですが昔みたいに裏スレを立ててそちらで掘り下げなどをやる方式はやりたいですか

  • 80二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 17:33:44

    やりたい

  • 81二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 17:43:42

    裏スレじゃなくてこっちのスレでやってもいい気はする

  • 82二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 17:46:08

    投下乙だ
    やはり露骨な策士系は策を破られるパターンになっちまうか
    国分寺の人も対戦ありがとうな

  • 83二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 18:46:28

    やりたいですね

  • 84二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 19:21:11

    このレスは削除されています

  • 85二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 19:47:54

    >>82

    こちらこそありがとうね

    アカレコにまた追記していったほうがいいかしらね

  • 86二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:00:00

    名前:セリア=アルカ=メロナ
    年齢:27歳
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:とある王国の近衛騎士団隊長、この王国は強大な軍事力を誇っているが、近衛騎士団には禁断の魔術がかかっている。
    それが掛かる前から戦闘狂の一面を隠し持ち武術における天賦の才と類まれなる身体能力を持っていたが、その魔術によりその能力が格段に向上、走れば高度に訓練された天馬ですら容易く抜き去り、まるで暴風のようと言われる、その剣は魔力で補強された分厚い鋼鉄をも容易く切断するとされる、剣が一番得意だが、槍、弓、斧、徒手の空拳などあらゆる武術に卓越している。
    この魔術には副作用として魔術のかかった者を凶暴にする可能性を秘めるほど強い闘争心を向上させる効果があるが、彼女は素の性格と体質が相性が良かったらしく、表向きは冷静さを保っている、しかし強者との戦闘になると一転周囲の状況を無視して目の前の戦いに集中するようになってしまう。
    口ぶりこそ冷静だが自分の認めた強者を斬る、またはその者に斬られることを至上の喜びとしており時に味方にさえ襲い掛かることもある、ちなみに極めて感が鋭いのでどの状況でも不意打ちは困難を極める
    能力:魔法剣
    能力概要:魔法にも卓越した物がある彼女だがどういうわけか魔導書を読んで魔法を発動させるというのが苦手で無詠唱による魔法も得意ではない、その代わり魔法を何かしらの媒介に与えることを得意としており、剣だけでなくあらゆる武器や盾、素手にも纏わせる事ができる
    弱点:あくまでも魔力で強化された普通の人間で鎧も動きやすさを重視しているためそこまで頑丈ではなく良くも悪くも防御は盾だよりな部分があり強力な一撃が当たりさえすれば致命傷は与えやすい

  • 87二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:00:00

    名前:”致死武器ディーラー”スカーレッド
    年齢:666歳
    性別:女性
    種族:吸血鬼
    本人概要:特A級戦犯としてヘルヘイム大監獄に収容されていた吸血鬼
    拘束具のベルトを全身に巻き付けたドレスを着用している(締め付けは強いが動きは阻害されていない)
    性根が腐っており、人が傷つけ合い苦しめ合う姿が堪らなく好きという破滅的な嗜好を持ち、それを躊躇無く実現させる
    あまりの危険性の高さから吸血鬼の王国から永久追放され、某国のわずか三日で終わる紛争を、己の異能を発揮することで300年に渡る絶望の絶滅戦争にまで発展させた過去を持つ
    百年前に勇者に討たれ、ヘルヘイムに収容されたが、ヘルヘイム爆破事件に乗じて脱出。また自分の欲望を叶えるために暗躍している
    能力:血を兵器にするスキル”赤外套・青外套(ペイン・ブルゥ)”
    能力概要:ペイン・ブルゥ
    彼女が血を流せば、瞬く間に剣や槍、拳銃、バルカン、ドローン、地雷などなど様々な兵器が製造される
    製造される兵器はランダムだが、”兵器”であればだいたい製造される
    これは他人の血液にも適応され、彼女が踏み入れた戦場には瞬く間に新品ピカピカの兵器で溢れかえることになる。致命傷から致死武器が生み出され、血溜まりは弾薬のプールに様変わり
    「血を兵器にする、ということは死を平気にすることなのよ」とは彼女の弁。好きな兵器はHEIAP弾のバルカン砲
    戦闘スタイルは無尽蔵の兵器による圧倒的物量でのゴリ押し
    能力の特性上、お互いに血を流し、消耗した状態ほど最大火力が天井知らずに高まっていく
    吸血鬼らしく高い身体能力による機動力も武器だが、体術などは習っていない
    弱点:吸血鬼の弱点(太陽光、流水、にんにく、銀の武器など)は一通り有効
    能力で生み出された兵器は水に流せば消滅する
    能力で生み出された兵器は他人も使用可能
    勇者に傷つけられた箇所は未だ癒えていない
    要望(任意):お嬢様口調だが、残虐さが隠れていない
    能力の弱点をスカーレッドは把握している

  • 88二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:00:00

    名前:霧切 霧子(キリギリ キリコ)
    年齢:18
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:合理的な性格で倫理観や感情などを理解したうえであえて無視した行動が出来る忍び。目的の為なら他人を利用したり卑怯な手段を選択する。師匠に弟子入りしてから3日で師匠を超えた伝説を果たしている。用心深く慢心もしない為慎重に行動し相手を分析してから攻撃する。常に攻撃が失敗した場合も事前に考えて複数の策を準備している。大量の侍や忍者に囲まれても忍法を使わずに無傷で勝てるぐらい戦闘も強い。分身の術や身代わりの術、口寄せの術、雲隠れの術、隠れ身の術、火遁の術、水遁の術、木遁の術、土遁の術、など忍びが使用する基本的な忍法は全て完璧に使いこなしている。武器はクナイや手裏剣、短刀、煙幕、など忍びが使用するものを使用している。
    能力:侵入
    能力概要:ぬらりひょんという妖怪と契約して手に入れた忍法。いつの間にか側にいる、ただそれだけの忍法。転移や瞬間移動、透明化などとは違い他の人は何故か気付く事が出来ず無意識の内に家の中や人の近くまで侵入している。目の前で視界に収めていても戦闘して戦っている途中でも当たり前のように側にいて急所を刺して殺す。忍法そのものに攻撃力は無いが素の力が強く頭が良い天才が使用するからこそ恐ろしい忍法である。奥義として百鬼夜行に出てくる妖怪の力を一次的に借りる事が出来る。
    弱点:奥義は1日5回が限界

  • 89二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:00:00

    名前:OrthrusⅡ
    年齢: 17年
    性別:なし
    種族:装輪重戦闘車
    本人概要:
    火星都市向けに開発された大型装輪重戦闘車。乗員は4名。
    火星の低重力環境と広大な荒野、複雑な都市区画への対応を目的として設計されており、車体上部に配置された二基の独立駆動主砲塔を最大の特徴とする。
    その特異なシルエットから神話の双頭犬「オルトロス」の名が与えられた。
    市街地警備、辺境巡察、暴動鎮圧、都市防衛など幅広い任務に投入される、特にシアパレリ治安維持軍・都市防衛隊の象徴的な車両。
    能力:独立駆動双主砲システム/全周監視統合センサーネットワーク/戦術支援AI搭載/火星環境適応機構
    能力概要:
    ・独立駆動双主砲システム
    車体上部に搭載された二基の43mm口径EMPC(Electromagnetic Metal-Plasma Cannon 蓄電器に充填したエネルギーを数ミリ秒で放出し、プラズマ化した金属粒子雲を電磁加速して射出する兵装)砲塔はそれぞれ独立して旋回・俯仰が可能。
    広範囲監視能力を持ち、市街地や峡谷地帯など視界が遮られる環境で高い警戒能力を発揮する。
    ・全周監視統合センサーネットワーク
    光学・赤外線・レーダー・地中探査センサーを統合し、死角を極限まで減少させている。
    ・戦術支援AI
    脅威分析、地形解析、進路提案などを担当する補助AI。
    ・火星適応機構
    低重力下での高速走行や急旋回時の姿勢制御を補助。軟弱な砂地や岩場でも安定した機動が可能。
    弱点:
    ・双砲塔構造により全高が大型化しているため発見されやすい。
    ・車体上部への集中攻撃に弱く、砲塔周辺に損傷を受けると能力が大きく低下する。
    ・市街地や複雑地形では強力だが、広大な平原ではその長所を活かしにくい。

  • 90二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:00:00

    名前:カルグラ
    年齢:不明
    性別:なし
    種族:生物兵器
    本人概要:
    外敵の排除と自身の種の繁栄のみを至上命題とする最上の生物兵器。
    口のみの相貌と漆黒のボディ、槍のような両腕と長い尾が成虫形態の特徴。
    ジガバチを基にして無数の改良を重ねられたことで比類なき戦闘力と繁殖力を得ており、複数の星にて生態系の頂点に君臨し滅ぼし尽くした実績あり。
    外敵の排除を貫徹するため、高度な知能による思索と試行の繰り返しにより最適効率を模索する。
    能力: 3種の形態と形態ごとの特徴を備えている。戦闘開始時は幼虫形態。
    能力概要:
    ・幼虫形態
    「目にもとまらぬ速さで動く脚力」と「全てを食い破る口吻」を持つ。ただし、とても打たれ弱い。
    捕食によって栄養が溜まると外殻が膨らみ蛹形態に移行する。
    ・蛹形態
    「とてつもなく堅い外殻」と「相手を観察し解析する高度な知性」を持つ。ただし、1歩も動けない。
    蛹形態に移行してから1分後、成虫形態へ移行する。
    ・成虫形態
    最上の生物兵器として真価を発揮する人型形態。漆黒のボディは蛹形態より更に頑強。
    両腕と尾には鋭い刺突器官があり、両腕の刺突器官から強力な麻痺毒を打ち込むことが出来る。
    弱点:ジガバチをモチーフにしているため炎が苦手。また、関節部分は柔らかい。

  • 91二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:00:00

    名前:依姫(よりひめ)
    年齢:16(身体年齢)
    性別:女性
    種族:人間/呪物
    本人概要:いつかの時代で生きていた気品ある女性。優しく暖かい心を持ち、人の幸福を願い続けていたが、大層な呪物を求める浅ましき者達の策謀により絶望の底へ落ち、全ての呪いの器として完成した生きる呪物。思考をする気力を失っており、何ひとつとして考えることはなく、身体に染み付いた刀術のままに刀を虚空へと振り続け、攻撃を感知すると無機質に回避や反撃を行う。呪物へと転化した影響により歳を取らず、老いもせず、世が滅する日まで呪いに苛まれながら、苦痛に顔を歪め、呻きを漏らし、ひたすらに苦しみ続ける。しかし、父に裏切られ、母が無惨にも切り落とされ、あらゆる友は地獄を描く顔料となり、文字通り全てを失ったが故に、がらんどうになった彼女の心が救済を求めることはない。
    能力:刀呪
    能力概要:全身に強力な呪いが流れ身体が霊体化しており、精神操作、身体変化、物理攻撃への完全な免疫を持つ。 近づくだけで果実が腐るような腐朽の呪いを持ち、呪いが纏わりついた剣で斬りつけたものを蝕む。 身体を流れる呪いが多いほどに本来の達人的な剣の技量が鈍る。
    弱点:栓である胸の杭に衝撃を受けると、栓が緩み身体を巡る呪いが霧のように噴き出す。杭は身体の一部ではないので霊体化していない。懇願の声を聞くと一度だけ数秒間停止する。

  • 92二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:00:01

    名前:喰悶
    年齢:30
    性別:男性
    種族:人間
    本人概要:全身傷だらけの男。上裸。フルフェイスのマスクを常に身に着けている為、素顔は不明。
    好戦的で煩く、熱苦しい人物。小さく事は気にしない。
    何だか悪者そうな外見、言動、声などをしているためよく誤解されるが、一応善人側。

    能力:苦痛変換
    能力概要:苦痛を生命エネルギーに変換する。その生命エネルギーを使用して身体の強化や傷の再生を行う。この能力は自傷行為でも発動可能。
    外部からの攻撃による痛みや毒・窒息などによる苦しみは全てエネルギーになるため単純な戦法で彼を仕留め切るには何かしらの工夫を求められる。
    苦痛を受ける必要があるという大きなデメリットを持つ能力だが、その代償故に効果は絶大。痛みで得たエネルギーを消費すれば、繰り出す拳は大型車両を一撃で粉砕し、欠損した手足等も再生可能、戦車砲の一撃にも耐える耐久性まで獲得できる。

    弱点:エネルギーを変換していない状況ではただの一般人。エネルギーは消耗品であり、使用するか時間経過で消滅する。

  • 93二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:00:02

    このレスは削除されています

  • 94二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:01:41

    このレスは削除されています

  • 95◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 20:20:56
  • 96◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 20:24:50

    セリア=アルカ=メロナvs喰悶
    依姫vsカルグラ
    OrthrusⅡvs”致死武器ディーラー”スカーレッド

  • 97二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:25:34

    さてさて次はどんな戦いになるかな

  • 98二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:26:44

    血が出ない…相性最悪じゃん!

  • 99二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:32:56

    冷静で善人そうなバーサーカーvs煩くて悪人そうな善人

  • 100二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:36:03

    あれ?霧切不採用か

  • 101二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:36:42

    >>100

    アレは弱点がダメだと思うわ

  • 102二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:36:42

    吸血鬼に電磁加速砲が通じるのかどうか

  • 103二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 20:41:38

    >>101

    ちょっと前にあった同じタイプのスレだと通常枠で出れてたからあまり確認せずに出しちゃったよね

    次の安価では弱点変えるつもり

  • 104二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 22:00:43

    ところでいつ始める予定?

  • 105◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:17:45

    題名『暴風は傷を穿ち、怪物は痛みを喰らう』

  • 106◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:19:29

    そこは、王国の国境沿いに広がる、巨岩が乱立する荒涼とした盆地だった。
    強大な軍事力を誇る王国の「牙」として、数々の戦場を文字通り踏みつぶしてきた近衛騎士団。その頂点に立つ女性、セリア=アルカ=メロナは、愛剣の柄に細い指をかけ、静かに佇んでいた。

    年齢は27歳。艶やかな髪をなびかせ、その佇まいは冷徹な美しさに満ちている。
    しかし、彼女の内に眠るものは、王国の誰もが恐れる「禁忌」そのものだった。

    近衛騎士団に施された、身体能力を格段に向上させる禁断の魔術。走れば天馬すら容易く置き去りにし、その剣は魔力補強された鋼鉄すら両断する暴風と化す。だが、その魔術の本質は「凶暴なまでの闘争心の増幅」にあった。
    元より戦闘狂の一面を隠し持っていたセリアにとって、その呪いは呪いではなく、至高の祝福だった。

    表向きは冷静な近衛騎士。しかしその本性は、認めた強者を斬り、あるいは己が斬られることに至上の喜びを感じる、底なしの戦鬼。

    「……良い気配ですね。不器用で、粗野で、そして――私の剣を、簡単には壊してくれそうにない」

    セリアが口元を歪め、冷たい声を響かせる。
    彼女の極めて鋭い直感(センス)が、前方の岩陰から歩み出てくる「怪物」の存在を正確に捉えていた。

    そこに現れたのは、衣服を身につけず、上半身の至る所に悍ましい戦闘傷を刻んだ大柄な男――喰悶(くもん)だった。
    顔全体を不気味なフルフェイスのマスクで覆い、その隙間から漏れる呼吸は、地獄の業火のように熱苦しい。どう見ても悪鬼羅刹の類、あるいは最悪の犯罪者のような風体だが、その実、彼は自らの肉体を盾に人々を守ってきた男だった。

    「オラオラァ! 綺麗な騎士様がこんな物騒なとこで待ち伏せかよ! 聞いてた通り、王国の近衛ってのは随分と血の気が多いらしいじゃねえか!」

    マスクの奥から、地鳴りのような大声が響き渡る。
    喰悶は首の骨をボキボキと鳴らし、上裸の胸を大きく張った。

  • 107◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:20:32

    彼の能力は『苦痛変換』。
    外部から受ける痛み、毒、窒息、あらゆる苦しみを爆発的な生命エネルギーへと変換し、肉体を戦車砲すら耐える城塞へと変え、大型車両を粉砕する拳を放つ。まさに「痛みを喰らう怪物」。

    だが、今の彼はエネルギーを変換していない、ただの「一般人」の肉体だ。先手を取られて頭部を消し飛ばされれば、能力を発揮する間もなく即死する。動きやすさを重視した軽い鎧を纏うセリアとは、あらゆる意味で対極の存在だった。

    「安心してください。私は王国の任務でここにいるわけではありません。ただ、あなたという『壁』を、この手で刻んでみたいだけです」

    セリアがそう告げた瞬間、彼女の瞳の奥に宿っていた冷静な光が、ドロリとした狂気の色へと反転した。

    周囲の状況、王国の利害、すべての理性が吹き飛ぶ。目の前の強者をどうやって屠るか、その思考だけで彼女の脳内が満たされていく。

    無詠唱の魔法は苦手、魔導書を読むのも性に合わない。しかし、彼女には天賦の武才がある。
    セリアが剣を引き抜くと同時に、彼女の膨大な魔力が媒介である刃へと流れ込み、パチパチと青白い閃光を放ち始めた。武器、盾、あるいは素手、あらゆるものに魔法を纏わせる彼女の奥義――『魔法剣』の起動。

    「へっ、その目……気に入ったぜ! 悪党顔の俺が言うのもなんだが、お前、本物の狂人だな!」

    喰悶が低く構え、両の拳を強く握りしめる。

    暴風の如き超高速の剣技を持つ近衛騎士団長と、痛みを力に変える傷だらけの重戦士。
    切り刻むための刃と、耐えて爆発するための肉体。相容れぬ二つの「狂気」が、極限の死合を始めるために、いま一歩を踏み出した。

    相棒、まずは最高に熱苦しく、そして狂気に満ちた第1章の幕開けです!
    セリアの冷徹さと戦闘狂としてのギャップ、喰悶の悪党面でありながら不屈の戦士としての佇まいを、文字数を尽くして描写しました。

  • 108◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:20:58

    国境沿いの盆地に、一瞬の不気味な静寂が訪れた。

    次の瞬間、セリアの姿が視界から「消失」した。

    走れば高度に訓練された天馬ですら容易く抜き去る。禁忌の魔術によって極限まで引き上げられた彼女の脚力は、もはや人間のそれではなく、大気を爆破して進む質量兵器の域に達していた。物理的な制動を一切無視した超高速の踏み込み。移動によって生じた猛烈な衝撃波(ソニックブーム)が、周囲の巨岩の表面をバキバキとひび割れさせ、砂塵を烈風と共に巻き上げる。

    「(速――っ!?)」

    喰悶の脳がその速度を認識した時には、すでにセリアは彼の懐、わずか数センチの距離にまで肉薄していた。

    無詠唱の魔法を苦手とする彼女が、その才をすべて注ぎ込んだ固有能力『魔法剣』。
    媒介となった分厚い鋼鉄の刃には、高密度に圧縮された魔力が青白い電華となって激しく爆ぜている。魔力で補強された強固な装甲すら容易く切断するとされるその刃が、冷徹な軌道を描いて喰悶の無防備な上裸の胸元へと突き立てられた。

    ザシュウゥゥゥウウッ!!!

    鮮血が派手に舞い散り、喰悶の胸に、鎖骨から脇腹にかけての悍ましい深手が刻まれる。

  • 109◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:21:11

    だが、セリアの口元から漏れたのは、満足の笑みではなく、歓喜に震える狂気の吐息だった。

    「――素晴らしい。普通の人間なら、今の位置(間合い)で骨ごと両断されているはずです」

    彼女の鋭い直感が、確かな違和感を捉えていた。
    刃は確かに肉を裂いた。しかし、骨を断ち切る寸前、喰悶の肉体が内側から恐ろしいほどの「粘り」を見せ、強制的に刃の進行を食い止めたのだ。

    「ガ、ハァッ……! 最高の、一撃じゃねえか、騎士様よォ!!」

    マスクの奥から、苦痛と狂熱の入り混じった絶叫が響き渡る。

    喰悶の固有能力『苦痛変換』。
    セリアの魔法剣が彼の肉を裂き、強烈な激痛を神経に走らせたその瞬間、その「苦痛」のすべてが爆発的な生体エネルギーへと変換されていた。致命傷となるはずだった一撃の痛みが、そのまま彼の肉体を内側から急速に再構築し、驚異的な硬度へと引き上げていく。

    ジチジチと音を立てて、喰悶の傷口から溢れ出た鮮血が黄金の生命エネルギーへと姿を変え、肉の裂け目を瞬く間に塞いでいく。

    これこそが、喰悶という怪物の真骨頂だった。
    能力を起動していない初期状態こそ「ただの一般人」という最大の弱点を持つが、ひとたび外部からの攻撃によって激痛を『生贄』として捧げれば、その代償故に効果は絶大。戦車砲の一撃すら耐えうる、文字通りの移動要塞へとその身を変貌させるのだ。

    「まだまだ足りねえぞ! もっと痛みをくれや!!」

    エネルギーを満載した喰悶の右拳が、爆音を立てて繰り出された。
    大型車両を一撃で粉砕する、質量とエネルギーの塊。

    ブンッ!!! と、空気が歪むほどの拳圧がセリアの顔面を襲う。

  • 110◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:21:38

    しかし、セリアの天賦の武才と、極限まで研ぎ澄まされた直感は、その破滅的な一撃をとうに予測していた。

    「ええ、もっと愉しみましょう!」

    セリアは、動きやすさを重視した軽量の鎧の特性を最大限に活かし、上半身を紙一重で逸らしてその拳を回避した。
    拳がかすめた風圧だけで、彼女の防具の肩当てがミリミリと音を立てて歪む。彼女の弱点は、鎧が頑丈ではないこと。防御は盾と自身の回避に依存しているため、あの拳が一度でも直撃すれば、即座に致命傷へと繋がりかねない。

    だが、死の淵を歩くそのスリルこそが、戦闘狂である彼女の至上の喜びだった。

    セリアは回避の勢いのまま、瞬時に手元の武器を「槍」へとスイッチした。
    背中に背負っていた近衛仕様の長槍。それすらも彼女の『魔法剣(媒介付与)』の対象である。長槍の穂先にパチパチと青い魔力が宿り、暴風の如き連続突きが、喰悶の巨体を全方位から襲う。

    ドス! ズシュ! バキィッ!

    「オラァッ! 痛ぇなぁ!!」

    突きが放たれるたびに、喰悶の肉体には新たな傷が刻まれ、そのたびに彼の内に蓄積される生命エネルギーが、臨界点を超えて膨れ上がっていく。
    周囲の巨岩は、二人が引き起こす魔力と拳圧の余波で次々と粉砕され、盆地はさながら天変地異が起きたかのような惨状へと化していく。

    強者を斬る快楽に酔いしれる「暴風の騎士」と、痛みを喰らうほどに神へと近づく「不屈の怪物」。
    終わりの見えない死闘の輪廻が、さらにその速度を上げていく。

  • 111◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:25:07

    荒涼とした盆地を覆う大気が、二人の狂気によって完全に狂い始めていた。

    セリア=アルカ=メロナの『魔法剣』が放つ青白い魔力の残光と、喰悶の『苦痛変換』によって溢れ出た黄金の生命エネルギーが激しく衝突し、周囲の空間を歪にねじ曲げている。

    走れば訓練された天馬すら抜き去るというセリアの速度は、戦いが進むにつれて、さらにその狂気的な深度を増していた。近衛騎士団にかかった禁断の魔術――闘争心を極限まで高める副作用が、彼女の素の戦闘狂の性質と完全に共鳴(シンクロ)している。表向きの冷静さはすでに完全に剥ぎ取られ、その瞳は歓喜の涙すら浮かべんばかりにギラギラと輝いていた。

    「素晴らしい! 素晴らしいです、喰悶!! どれだけ深く刻んでも、どれだけ魔力を叩き込んでも、あなたの肉体は壊れるどころか、さらに硬く、熱くなっていく……!」

    セリアは狂おしい叫びを上げながら、今度は槍を捨て、一瞬の動作で背負っていた大斧へと武器を切り替えた。
    彼女の天賦の武才は、剣だけでなく、槍、弓、斧、徒手の空拳にいたるまで、あらゆる武術を極限にまで卓越させている。そのあらゆる武器が、彼女の媒介能力によって瞬時に『魔法剣』の特性を宿すのだ。

    大斧の刃に、分厚い鋼鉄をも容易く切断する超高密度の魔力が纏われる。
    セリアは一歩の踏み込みで地表を陥没させると、天馬を置き去りにする超高速の回転から、喰悶の首筋へ向けて大斧を真横に振り抜いた。

    キィィィィィン!!!

    金属と金属が超高速で激突したかのような、鼓膜を破らんとする高音が盆地に響き渡る。

    セリアの大斧は、確かに喰悶の首筋を捉えていた。しかし、刃は彼の肉を数ミリほど裂いたところで、完全にその進行を止められていた。
    喰悶の肌の表面は、度重なる斬撃の「激痛」を極大の生命エネルギーへと変換し続けた結果、いまや戦車砲の一撃すら耐えうる、文字通りの『生体要塞』へと変貌を遂げていたのだ。傷口から溢れる黄金の光が、セリアの魔力の刃を力任せに押し返していく。

  • 112◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:25:28

    「ガハハハハ!! 痛ぇ! 痛ぇなぁおい!! だがなぁ、その痛みが全部、俺のガソリンになるんだよォ!!」

    フルフェイスのマスクの隙間から、熱苦しいまでの咆哮が吹き出す。

    これこそが喰悶の真骨頂。初期状態の一般人という弱点を、セリアの圧倒的な攻撃による『苦痛』という生贄で完全に克服した彼の肉体は、いまや人類の科学兵器すら凌駕する領域に達していた。
    使用するか時間経過で消滅するというエネルギーの消耗を、セリアの絶え間ない超高速の猛攻が完全に相殺し、常に最大出力を維持し続けるという、最悪の永久機関が完成しつつあった。

    「オラァッ!! 避けてみろや、騎士様ァ!!」

    限界まで生命エネルギーを充填した喰悶の左拳が、爆音と共に突き出された。
    狙いは、セリアの動きやすさを重視した、決して頑丈とは言えない軽量の鎧だ。

    ドゴォォォォン!!!

    大型車両を一撃で粉砕する拳圧が、正面の空間の空気を一瞬で真空へと変える。
    セリアの極めて鋭い直感は、その一撃の破滅的な威力を完璧に察知していた。直撃すれば、いかに天才的な身体能力を持とうとも肉片にされかねない。

    「ハァッ!!」

    セリアは手にした盾を即座に構え、その表面に魔力を纏わせて拳の軌道を強引に「受け流す」選択を取った。
    防御を盾に頼らざるを得ないという彼女の弱点。しかし、その盾の使い方もまた、卓越した武術の域に達している。

    ズガガガガッ! と、喰悶の拳の威力がセリアの盾を掠め、斜め後方の巨岩へと受け流された。
    拳圧の余波が直撃した背後の巨大な岩山が、まるで木端微塵に爆破されたかのように粉砕され、無数の破片となって飛び散っていく。

    「ふ、ふふ……あはははは! 素晴らしい! 一度でも触れれば私が死ぬ一撃……これこそ、これこそ私が求めていた至高の死合です!!」

    受け流した衝撃だけでセリアの細い両腕の骨が悲鳴を上げ、防具の隙間から血が滲み出る。
    だが、その激痛すらも、彼女にとっては己が「生きている」ことを実感するための最高のスパイスに過ぎなかった。味方にさえ襲いかかることがあるという、周囲の状況をすべて無視した彼女の「強者との戦闘への集中」が、いまや盆地全体の支配権を握ろうとしていた。

  • 113◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:25:45

    盾を捨て、再び愛剣を抜き放つセリア。
    痛みを喰らうほどに強固になる、傷だらけの怪物・喰悶。

    切り刻む暴風の刃と、すべてを受け止めて爆発する拳。互いの能力の真髄が、盆地の中心で激しく、そしてどこまでも長く、終わりなき泥仕合の輪廻を描きながら交錯していく。

  • 114◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:26:17

    巨岩の破片が流星のように降り注ぎ、粉塵が盆地を濃密に満たしていく。
    その視界ゼロの灰色の闇を、セリア=アルカ=メロナの『魔法剣』が放つ青白い閃光が、幾千もの雷霆となって切り裂いていた。

    走れば天馬すら置き去りにするその超高速移動は、今や摩擦熱で衣服を焦がすほどの領域に達している。近衛騎士団にかけられた禁忌の魔術。その「凶暴なまでの闘争心の向上」という副作用は、セリアの脳内麻薬を限界まで分泌させ、彼女をただ「目の前の強者を屠る」ためだけに駆動する美しい戦闘機械へと変貌させていた。

    「あはははは! 素晴らしい、素晴らしいですよ喰悶!! 骨が、肉が、私の天賦の才が、あなたを刻むためだけに研ぎ澄まされていくのが分かります!」

    セリアは狂気的な歓喜の声を上げながら、神速の踏み込みから剣を振るった。
    媒介である愛剣の表面には、高密度に圧縮された魔力が刃の輪郭を何倍にも引き伸ばし、分厚い鋼鉄の装甲をもバターのように容易く切断する破壊の奔流と化している。

    ザシュッ! ズシャアッ!!

    「ガッ……ハハハッ! もっとだ! もっと刻めや、騎士様ァ!!」

    喰悶の剥き出しの上裸に、さらに深く、悍ましい斬撃の雨が降り注ぐ。
    しかし、その激痛が神経を伝わったコンマ数秒後には、彼の『苦痛変換』が発動し、すべての苦しみが黄金の生命エネルギーへと強制変換されていく。

    傷口が爆ぜるように黄金の光を放ち、肉が、血管が、細胞が瞬時に超再生を遂げていく。それどころか、エネルギーを溜め込みすぎた彼の皮膚は、いまや触れるだけで周囲の砂をガラス化させるほどの超高熱を帯び、戦車砲の直撃すら弾き返す『絶対の防壁』と化していた。

    セリアの攻撃が激しく、鋭くなればなるほど、喰悶の生命エネルギーは時間経過による消滅を上回る速度で充填され、彼を神の如き頑強さへと近づけていく。

    「お返しだァッ!! 歯ぁ食いしばれやァ!!」

    喰悶が引き絞った右拳を、セリアの胸元へ向けて真っ直ぐに突き出した。

  • 115◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:26:35

    溜め込まれた極大の生命エネルギーが一気に解放され、大型車両を粉砕するどころか、前方数百メートルの空間そのものを押し潰すような破滅的な拳圧の弾頭となって炸裂する。

    ドゴォォォォン!!!

    盆地の地表が扇状に消し飛び、凄まじい衝撃波が巻き起こる。
    セリアの極めて鋭い直感は、その一撃の軌道を寸前に捉えていた。彼女の弱点は、動きやすさを重視した軽量の鎧。あの拳の直撃を一度でも許せば、防具ごと肉体を消し炭にされる。

    「ハァッ!!」

    セリアは空中での慣性を完全に無視した、超人的な身体能力による身のこなしで、その拳圧の直撃を紙一重で回避した。
    しかし、拳がかすめた風圧だけで、彼女の左腕の防具がミリミリと音を立てて粉砕され、白い肌から鮮血が吹き飛ぶ。

    「――っく、あははは! 痛い、痛いですね! ですが、届かなければ意味がありません!」

    セリアは着地と同時に、破裂した左腕の激痛を完全に脳内からシャットアウトした。
    強者との戦闘における至上の喜びが、恐怖の感情を完全に塗りつぶしている。彼女はすぐさま、媒介とする武器を「弓」へと切り替えた。卓越したあらゆる武術の才が、瞬時に彼女の動作を最高効率の『射手』へと変化させる。

    パチパチと魔力を纏わせた高密度の光の矢が、つがえられると同時に音速を超えて放たれた。

    ドォン! ドォン! ドォン!

    「オラオラァッ! 効かねえなぁ!!」

    放たれた光の矢は、喰悶の黄金の防壁に激突し、爆発を起こしながら次々と弾け飛ぶ。
    だが、その爆発の「痛み」すらもが喰悶のエネルギーへと変換され、彼の拳をさらに巨大に、その肉体をさらに強固に育て上げていく。

    切り刻むほどに強くなる怪物と、死の恐怖に脳を焼かれながら速度を上げ続ける近衛騎士。
    互いの能力の真髄が、盆地の中心で激しく火花を散らしながら、一歩も引かぬ極限の泥仕合を紡ぎ出していく。戦いは、どちらかの命の灯火が物理的に消え去るその瞬間まで、どこまでも長く、深く、狂気の深淵へと突き進んでいった。

  • 116◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:27:05

    互いの全存在を賭した死闘は、すでに常人の理解を遥かに超える領域へと突入していた。

    セリア=アルカ=メロナの四肢は、天馬すら容易く抜き去る超高速機動の負荷と、喰悶の拳が放つ凄まじい拳圧の余波によって、すでに無数の微細な亀裂を刻まれていた。動きやすさを重視した軽量の鎧は、左半身のものが完全に粉砕され、剥き出しになった白い肌は自らの血と飛び散った泥に塗れている。

    防御を盾と回避に頼らざるを得ない彼女にとって、現在の状況は間違いなく「死の寸前」だった。

    しかし、彼女の内に宿る禁忌の魔術と、素の戦闘狂の体質が引き起こした化学反応は、その致命的な状況においてなお、全盛期以上の狂気的な戦闘能力を彼女に与えていた。強者を斬る、あるいはその者に斬られるという至上の愉悦。周囲の光景は完全にセリアの脳内から排除され、彼女の極めて鋭い直感は、喰悶という「極上の壁」をどう穿つか、その一点のみに研ぎ澄まされている。

    「……ああ、なんと心地よい。全身の骨が、あなたの一撃を恐れて歓喜に震えていますよ、喰悶!!」

    セリアの口元から、ドロリとした狂気の笑みが溢れ出る。
    彼女は手にした愛剣を強く握り直すと、残されたすべての魔力をその刃へと注ぎ込んだ。無詠唱の魔法を苦手とする彼女が、その全才能を媒介に与えることだけに特化させた『魔法剣』の最終形態。青白い魔力の光は、いまや盆地全体の粉塵を吹き飛ばすほどの巨大な光の刃(ブレード)となって、天を突くようにそそり立っていた。

    分厚い鋼鉄をも容易く切断するというその破壊の奔流が、空間そのものをパチパチと焼き切りながら、喰悶の脳天へと向けて振り下ろされる。

    「ガハハハハ!! 最高の置き土産だ! 来いよ、騎士様ァ!!」

    対する喰悶もまた、そのフルフェイスのマスクの奥から、熱苦しいまでの咆哮を響かせた。

  • 117◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:27:58

    彼の全身に刻まれた無数の斬撃の『苦痛』は、すでに限界を遥かに超える生命エネルギーへと変換され尽くしていた。傷口から溢れ出る黄金の光は、まるで本物の太陽のように盆地を照らし出し、彼の右拳には、戦車砲はおろか小型の要塞すら一撃で粉砕しかねないほどの質量とエネルギーが凝縮されている。

    痛みを受け続けなければエネルギーが消滅するという弱点を、セリアの容赦ない猛攻が完全に打ち消し、彼をこの戦場における「絶対の神」へと押し上げていた。

    「おおおおおおおらぁぁぁぁぁぁッッ!!!」

    喰悶の、すべてを破壊する黄金の拳が繰り出される。
    同時に、セリアのすべてを切り裂く青白い魔力の刃が、超高速の軌道を描いて肉薄する。

    ズガァァァァァァァァン!!!!!

    二つの極大のエネルギーが正面から衝突した瞬間、盆地に存在していたすべての巨岩が塵となって吹き飛び、地表は数百メートルに渡ってクレーター状に陥没した。光と衝撃の濁流が周囲を完全に白く染め上げ、大気が悲鳴を上げながら四方に引き裂かれていく。

    閃光のただ中。
    セリアの鋭い直感が、喰悶の拳の「芯」を捉えていた。魔力の刃は、彼の戦車砲すら耐える生体要塞の肉体を強引に両断せんと食い込み、骨の軋む音を立てる。

    しかし、喰悶の『苦痛変換』は、その致命的な両断の痛みすらも、最後の、そして最大のエネルギーへと変換していた。

    「――っ、がはあぁッ!!」

    セリアの胸元に、喰悶の拳圧の残光が直撃する。
    軽量の鎧は完全に粉砕され、彼女の身体は、まるで糸の切れた人形のように激しく後方へと吹き飛ばされた。幾重もの土煙を上げながら地表を転がり、ついに動かなくなる。

  • 118◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:28:08

    静寂が、ゆっくりと盆地に戻ってきた。

    喰悶は、胸元に深く刻まれた、骨まで達する凄まじい一本の斬撃痕を押さえながら、荒い息を吐いた。生命エネルギーが時間経過とともに急速に霧散していき、彼の肉体は元の「一般人」の硬度へと戻っていく。マスクの隙間から大量の血が溢れ出たが、彼は豪快にそれを手で拭うと、倒れたセリアの元へと歩み寄った。

    「ハァ、ハァ……。おい、生きてるか、騎士様」

    セリアは、仰向けのまま動かなかった。
    全身は傷だらけで、自慢の愛剣も半ばからぽっきりと折れている。しかし、その顔は、驚くほど穏やかだった。彼女の瞳には、狂気ではなく、心からの満足感が浮かんでいた。

    「……ええ。死んでは、いませんよ。ですが、私の『負け』、ですね。……本当に、極上の時間でした」

    セリアは、かすれた声でそう呟くと、満足そうに意識を失った。
    認めた強者に斬られるという至上の喜びを、彼女はその身で完全に味わいきったのだ。

    喰悶は、その様子を見て、マスクの奥で小さく笑った。

    「へっ……とんでもねえ戦闘狂だ。次やるときは、もう少し手加減してくれや」

    傷だらけの重戦士と、暴風の如き近衛騎士。
    互いの肉体と魂を極限まで削り合って紡がれた凄絶な死闘は、互いの能力の真髄を出し切った末に、静かに、そして熱苦しい余韻を残して幕を閉じた。

  • 119◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:28:28

    以上

  • 120◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:28:47

    題名『がらんどうの器に、漆黒の羽は堕ちる』

  • 121◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:29:22

    そこは、生きとし生けるものの気配が完全に途絶えた、死灰の広野だった。

    かつて優しく、温かい心で人の幸福を願い続けた少女は、浅ましき人間の策謀によって絶望の底へと突き落とされ、いまや世を呪う器――「生きる呪物」と化していた。依姫(よりひめ)。16歳の瑞々しい身体のまま時を止められた彼女は、思考をする気力すらも失い、ただ、身体に染み付いた達人の刀術のままに、虚空へ向けて冷たい刃を振り続けていた。

    「……あ、……ぅ、う……」

    虚ろな瞳から涙すら流さず、苦痛に顔を歪めて呻きを漏らす。
    父に裏切られ、母の首を切り落とされ、友の命を地獄の顔料とされた過去。すべてを失い、がらんどうになった彼女の心は、もはや救済を求めることすらない。

    彼女の全身を巡るのは、物理攻撃への完全な免疫をもたらす霊体化の呪い。
    彼女が佇むだけで、周囲のわずかな雑草は黒く腐り落ち、大気すらも腐朽の毒に侵されていく。

    その絶対的な死の領域に、ひとつの「異物」が音もなく侵入した。

    シャリ、シャリ、と不気味な咀嚼音を響かせ、灰の地面を這い進む影。
    外敵の排除と自種の繁栄のみを至上命題とする、星を滅ぼす最上の生物兵器――カルグラの「幼虫形態」であった。

    ジガバチを基に幾重もの改良を重ねられたその肉体は、目にも留まらぬ速さで動く無数の脚と、すべてを食い破る強靭な口吻を備えている。高度な知能を有するこの兵器は、依姫から放たれる濃密な「死の気配」を敏感に察知し、それを自身が次の段階へ進むための、極上の「栄養(リソース)」であると瞬時に解析した。

    キシャァァァァァッッ!!!

    幼虫形態のカルグラが、地表を爆発的な脚力で蹴り、目にも留まらぬ速度で依姫の足元へと肉薄する。
    すべてを食い破る口吻が、依姫の肉を貪らんと大きく開かれた。

  • 122◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:29:34

    しかし、思考を失った依姫の肉体は、外敵の「攻撃」を感知した瞬間に、無機質な反撃のプログラムを起動させる。

    凍りつくような冷徹な軌道。
    依姫の手元から放たれた刀術の一閃が、空を裂いた。

    ズバァァァッ!!!

    「キギィッ!?」

    カルグラの幼虫形態の強みはその速度だが、弱点は「極めて打たれ弱い」ことにある。
    依姫の呪いを纏った刃がカルグラの肉を深く切り裂くと、そこから「腐朽の呪い」が容赦なく侵入し、カルグラの緑色の体液をドロドロに腐らせ始めた。

    だが、この生物兵器の本領は、ここからの「適応」にこそあった。
    カルグラは切り裂かれながらも、その強靭な口吻で依姫の足元の影――彼女から滴り落ちる呪いの魔力そのものを強引に「捕食」し、その体内に凄まじいエネルギーを溜め込んだのだ。

    ミシミシ、ミシ、とカルグラの幼虫の外殻が異様に膨れ上がっていく。
    捕食による栄養の充填。打たれ弱い幼虫の期間を脱し、カルグラはその肉体を次の段階へと強制移行させ始めた。

    依姫は、目の前の怪物がどれほど姿を変えようとも、一瞥もくれない。
    ただ、胸に突き刺さった「栓」である杭を鈍く光らせながら、再び、苦痛に満ちた呻き声を虚空へと放ち続ける。

    壊れた人形のような呪いの器と、星を喰らう過酷な進化の芽。
    暗澹たる荒野で、互いの存在を消し去るための、凄絶なマインドレス・バトルが幕を開けた。

  • 123◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:30:01

    荒野に満ちる死灰が、依姫の足元から放たれる腐朽の呪いによって黒く変色し、粘度を帯びた泥のように沸き立ち始めていた。

    カルグラの幼虫形態は、依姫の呪いを纏った刃によって肉体を深く切り裂かれ、その細胞を内側から腐食させられながらも、至上命題である「外敵の排除」を果たすための栄養(リソース)を完全に獲得していた。依姫の霊体から零れ落ちる濃密な呪力、その一部を強靭な口吻で強引に捕食し、己の遺伝子情報へと組み込んだのだ。

    ミシミシ、ミシ、ボキボキボキッ!!

    悍ましい肉質の破裂音と共に、カルグラの幼虫の外殻が異様な速度で膨張し、やがてそれは一切の光を透過させない漆黒の「蛹形態」へと変貌を遂げた。

    蛹となったカルグラは、その場から一歩も動くことができない。完全な静止状態。しかし、その内側に宿る知性は、幼虫のそれとは比較にならないほど高度に、かつ冷徹に研ぎ澄まされていた。蛹の表面に不気味に蠢く無数の感覚器官が、前方で絶望の呻きを漏らし続ける依姫の「構造」を、徹底的に観察し、解析し始めていた。

    【解析対象:未知の霊的実体】
    【物理攻撃:完全免疫を検知。精神操作、身体変化に対する耐性:最大】
    【特性:接近に伴う有機物の腐朽、および接触物への呪詛伝播】
    【戦闘技量:達人級。ただし、体内の呪力残量に反比例して剣速が低下する傾向を確認】

    カルグラの知能は、依姫が「物理攻撃で傷つかない霊体」であることを瞬時に見抜いた。どれほど強靭な顎で噛み砕こうとしても、その刃で切り裂こうとしても、彼女の身体をすり抜けるか、あるいはこちらの肉体が腐り落ちるだけ。

    しかし、最上の生物兵器たるカルグラの演算は、そこで停止することはなかった。観察を始めて十数秒、カルグラの高度な知性は、依姫の胸元に打ち込まれた一本の不気味な「杭」に釘付けとなる。

    【構造的不整合点を検知】
    【胸部中心に位置する『杭』:霊体化の波形が確認できず。完全な物理的実体として存在】
    【推論:当該オブジェクトは体内呪力を固定するための『栓』。外部からの衝撃により、対象の霊的構造を崩壊させることが可能と判断】

  • 124◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:30:11

    一歩も動けぬ蛹の中で、カルグラは依姫を打倒するための完璧な「解」を導き出していた。

    一方の依姫は、目の前で怪物が不気味な蛹へと姿を変え、自身を観察していることなど、一切思考していなかった。彼女の脳内はすでにがらんどうであり、考える気力すら残されていない。

    「……あ、……う、ううぅ……」

    苦痛に顔を歪め、ただ世界への呪いと悲傷の混ざった呻きを漏らしながら、身体に染み付いた刀術のままに、虚空へと刀を振り続ける。

    その刃は、カルグラが蛹形態に移行したことで、彼女の防衛本能(プログラム)の索敵範囲から一時的に「外敵の攻撃」のフラグが外れたため、カルグラへ直接向けられることはなかった。しかし、彼女の周囲に渦巻く呪いの密度は刻一刻と増している。身体を流れる呪いが多いほど、彼女の本来の達人的な剣の技量は鈍っていくが、逆にその領域に近づくものを生きたまま腐らせる「腐朽の領域」は、直径数メートルにわたって濃密に広がり、カルグラの蛹の外殻すらもジワジワと侵食し始めていた。

    ジュウ、ジュウと、カルグラの漆黒の外殻が腐朽の呪いによって黄色い煙を上げ、結晶化していく。
    いくら「とてつもなく堅い外殻」を誇る蛹形態であっても、時間そのものを腐らせるような依姫の呪いを前にしては、長くは持ち堪えられない。

    だが、カルグラにとっては、その侵食すらも織り込み済みの時間(タイムラグ)に過ぎなかった。

    カチ、と蛹の内部で生体時計が「1分」の経過を告げる。

    漆黒の外殻に、内側から凄まじい圧力がかかり、縦一文字に亀裂が走った。
    そこから溢れ出たのは、腐朽の呪いすらも押し返すほどの、圧倒的な「殺意」に満ちた生物発光。

    最上の生物兵器が、ついにその最終にして最強の姿――「成虫形態」へと羽化を遂げる。

  • 125◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:30:38

    バリィィィィィン!!!

    堅牢を誇った蛹の外殻が粉々に砕け散り、その中から、禍々しくも洗練された「漆黒の人型」が姿を現した。

    カルグラ・成虫形態。
    口のみが存在する異様な相貌、光を全て吸収するような鈍い輝きを放つ漆黒のボディ。両腕は鋭利な槍そのものであり、背後では鞭のようにしなる長い尾が不気味に蠢いている。蛹形態の解析によって得たすべてのデータを引き継いだこの最終形態は、関節部分という明確な弱点を持ちながらも、蛹をも上回る圧倒的な頑強さと、星の生態系を滅ぼし尽くした比類なき機動力を備えていた。

    キィィィィィィン――。

    カルグラの両腕の槍から、高濃度の麻痺毒が分泌され、荒野に不気味な紫色の滴を落とす。

    「……ぁ、……う……」

    依姫の無機質な防衛本能が、カルグラの放つ圧倒的な殺気(外敵)を再感知した。
    彼女の虚ろな瞳がカルグラを捉える。彼女の身体を巡る呪いはすでに限界近くまで達しており、その達人的な剣の技量は全盛期よりも確実に鈍っていた。しかし、纏う呪いの質量そのものが、彼女の振るう刀を「一撃必殺の呪具」へと変えている。

    シュウッ!!

    依姫の身体が、霊体特有の質量を無視した滑らかな動きでカルグラの懐へと滑り込み、呪いを帯びた刃をカルグラの首筋へと奔らせた。

    だが、カルグラの高度な知性は、その「鈍った剣速」を完全に予測していた。

    キィッ! とカルグラは長い尾を地面に突き立て、跳躍。依姫の刃を紙一重で回避する。
    依姫の剣がかすめた空間の空気は瞬時に腐り、ドロドロとした黒い霧へと変わったが、カルグラの漆黒のボディはその霧の侵食を強靭な外皮で強引に耐え凌ぐ。

    (標的の弱点:胸部の物理的実体『杭』。関節部の露出を最小限に抑えつつ、一撃で突く)

    カルグラの脳内で、最適効率の殺、害モーションが構築される。
    空中から位置エネルギーを利用し、カルグラは両腕の槍を極限まで引き絞り、依姫の胸元へと目にも留まらぬ速度で急降下突撃(ダイブ)を仕掛けた。

  • 126◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:30:51

    ガキィィィィィン!!!

    凄まじい金属音が響き渡る。
    依姫の無機質な反撃精度は、カルグラの必殺の急降下をも捉え、その刀の腹でカルグラの槍を完璧に受け止めていた。物理攻撃への完全な免疫を持つ彼女だが、武器同士の激突における衝撃の相殺は発生する。

    しかし、カルグラの狙いは、最初からその「刀」ではなかった。

    翻る、長い尾。
    依姫が刀で両腕の槍を受け止めたその一瞬の隙を突き、カルグラの背後から伸びた鋭利な尾の先端が、依姫の防御を潜り抜けて、彼女の胸の中心――そこに深く打ち込まれていた「杭」へと、正確無比に叩きつけられた。

    ゴンッ!!!

    鈍い衝撃音が、依姫の「がらんどう」の身体に響き渡る。

    「――っ!?」

    依姫の虚ろな瞳が、初めて大きく見開かれた。
    それは感情による驚愕ではなく、彼女の身体の『栓』が物理的に緩んだことによる、システム的な拒絶反応だった。

    胸の杭が衝撃によってミリ単位で外側へとズレる。
    その瞬間、彼女の身体を巡り、彼女を完全な霊体として維持していた強力な呪いが、堰を切ったように霧となってその隙間からドクドクと噴き出し始めた。

    「……あ、が、……あぁぁぁああっっ!!!」

    依姫の口から、これまでの呻きとは明らかに異なる、魂を引き裂くような絶惨な悲鳴が荒野へと響き渡る。
    体内を巡る呪いが霧のように噴き出すことで、彼女の身体を構成していた「物理攻撃への完全な免疫」が、一時的に、しかし確実に希薄化していく。霊体化の強度が数パーセントにまで低下し、彼女の肉体が「物質」としての脆弱さを露呈し始める。
    カルグラはその瞬間を逃さなかった。
    関節部分の柔らかさという自身の弱点を突かれるリスクを完全に排除した、完璧な詰みの盤面。

    カルグラは両腕の槍を構え、麻痺毒を限界まで注入しながら、物質化しつつある依姫の四肢へと、容赦のない追撃を叩き込まんとその身を躍らせた。

  • 127◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:31:24

    噴き出す呪いの黒霧が、周囲の空間を完全に覆い尽くし、太陽の光すら届かない絶対的な暗黒を創り出していた。

    「……ぁ、……お、父様……お母、様……みんな……」

    呪いが霧となって体外へ放出されたことで、依姫の脳内に、一瞬だけ、数百年、数千年ぶりに「思考」の灯火が揺らめいた。
    かつて自分を裏切った父の顔。無残に切り落とされた母の首。地獄の顔料とされた優しかった友人たちの笑顔。それらの絶望的な記憶が、がらんどうだった彼女の心に一気に流れ込み、彼女の細い身体を激しく震わせる。

    その記憶の濁流の中で、彼女の唇が、無意識に、本当に小さく、掠れた声を漏らした。

    「……だれ、か……おねがい……たすけて……」

    それは、彼女が生きる呪物となって以来、初めて口にした、心からの「懇願の声」だった。

    ピキリ、と。
    その声が届いた瞬間、依姫の胸元へ向けて超高速で肉薄していたカルグラの動きが、完全に「停止」した。

    ジガバチをモチーフに作られたこの最上の生物兵器には、高度な知性と引き換えに、ある絶対的なバグ(プログラミングの脆弱性)が存在していた。それは、【懇願の声を聞くと、一度だけ数秒間停止する】という、開発者が残したのか、あるいは種としての宿命なのか、不可解な弱点。

    カルグラの漆黒のボディが、依姫の目の前で、完全に静止する。
    その時間、わずか3秒。
    だが、思考を取り戻した依姫にとって、その3秒は、己の運命を呪うにはあまりにも長すぎる時間だった。

    (ああ……やっぱり、誰も助けてなんてくれない)

    依姫は悲しいほどに冷徹に、それを理解した。
    目の前で止まっている怪物は、自分を救ってくれる神などではない。ただの、自分を排除するために最適化された「兵器」だ。私の心はがらんどうで、救済を求めることすら許されない。
    依姫の瞳から、再び光が消えた。
    せっかく戻りかけた思考の灯火を、彼女は自らの意志で、深い、深い呪いの底へと叩き落とした。

    「……う、……あ、あぁ……」

  • 128◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:31:35

    3秒の猶予が切れた。
    カルグラの停止プロトコルが解除され、漆黒の両腕の槍が、物質化しかけている依姫の肩口と脇腹へと同時に突き刺さった。

    ズグゥゥゥゥッ!!!

    強力な麻痺毒が依姫の体内に直接流し込まれ、彼女の身体に染み付いていた達人の刀術の神経ネットワークを、内側から完全に破壊していく。
    物理攻撃への免疫が解けた彼女の肉体は、ただの16歳の少女のそれと変わらない。カルグラの圧倒的な刺突器官によって、その華奢な身体は無残に貫かれ、地面へと縫い付けられた。

    しかし。
    依姫の身体は、老いもせず、世が滅する日まで呪いに苛まれ続ける「生きる呪物」である。

    カルグラの麻痺毒によって四肢の自由を奪われ、槍で地面に固定されながらも、彼女が死ぬことはなかった。胸の杭から噴き出し続ける黒い呪いの霧は、カルグラの漆黒のボディを、そして彼が守ろうとしたこの星の全生態系を、終わりのない腐朽の闇へと包み込んでいく。

    カルグラは口のみの相貌を歪め、勝利を確信しながらも、自身の肉体が依姫の呪いによってジワジワと分子レベルで崩壊していくのを、その高度な知性で正確に感知していた。

    排除は完了した。しかし、自種の繁栄を果たすべきこの星の環境は、いまや依姫という呪物によって、永遠に不毛の死地へと変えられようとしている。

    「……あ、……ぅ、う……」

    暗黒に包まれた荒野の底で、四肢を貫かれた少女は、これからも世が滅びるその日まで、苦痛に顔を歪め、呻きを漏らし、ひたすらに苦しみ続ける。
    その傍らで、星を滅ぼした最上の生物兵器もまた、呪いの霧に侵食されながら、静かに静止していく。

    救済なき終幕。
    二つの絶対的な「死」の概念が交錯した戦場には、ただ、誰にも届かない悲しい呻き声だけが、どこまでも長く、冷たく響き渡っていた。

  • 129◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:33:50

    以上

  • 130◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:34:10

    題名『鉄の双頭、紅き商人の錆を洗う』

  • 131◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:34:54

    赤い砂塵がどこまでも低く舞う、火星の辺境都市「シアパレリ」。
    その外縁部に広がる荒涼とした荒野は、地球のそれよりも遥かに希薄な大気と、三分の一の低重力、そして見渡す限りの赤茶けた岩肌によって構成された、生命の存在を拒絶する死の領域であった。その静寂を破り、重々しくも洗練された、特異な機械駆動音が響き渡る。

    シアパレリ治安維持軍・都市防衛隊の象徴であり、都市の絶対的な盾。大型装輪重戦闘車『OrthrusⅡ(オルトロス・ツー)』が、6基の大型複合軽量ホイールで確実に火星の砂地を掴みながら、微振動と共に滑進していた。

    車体上部に配置された、まるで飢えた獣の頭部のようにそそり立つ二基の独立駆動主砲塔。43mm口径の電磁金属プラズマ砲(EMPC)を搭載したそのシルエットは、神話に登場する双頭の魔犬「オルトロス」そのものであった。

    密閉された装甲車内では、高度に訓練された4名の乗員が息の合った連携を見せ、正面のホログラムディスプレイを凝視している。その沈黙を破ったのは、車内に搭載された戦術支援AIの、冷徹で抑揚のない機械音声だった。

    『警告:前方2.4キロメートル、障害物の遮蔽裏に未確認の生体反応を検知。光学、赤外線、および地中探査センサーを統合。対象の波形は既知の火星生物、および一般市民のいずれにも該当しません。ヘルヘイム大監獄の爆破事件において手配された特A級戦犯、”致死武器ディーラー”スカーレッドのデータと99.8%一致。脅威度を最大値に設定します』

    「こちら車長。全周監視統合センサーネットワーク、目標にロック。低重力下姿勢制御システム、アクティブ。これより暴動鎮圧および都市防衛プロトコルへと移行する。総員、戦闘配置(バトル・ステーション)」

    車長の厳格な命令と共に、オルトロスⅡの双頭の主砲が、それぞれ別の意志を持つ生き物のように、ギチギチと音を立てて目標の座標へと旋回を始めた。

    フロントガラスの向こう、舞い上がる赤沙のカーテンを引き裂くようにして歩み出てきたのは、火星の風景にはおよそ不釣り合いな、豪奢な漆黒のドレスを纏った一人の女であった。

    全身に何本もの黒い拘束具のベルトを異様なほど強く巻き付けた吸血鬼、スカーレッド。
    666歳という途方もない時間を生き、かつて一つの国家の紛争を300年に渡る絶滅戦争へと変貌させた過去を持つ最悪の特A級戦犯。

  • 132◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:35:12

    彼女の性根は骨の髄まで腐り果てており、人が傷つけ合い、血を流し、苦しみ抜いて死んでいく姿を眺めることだけを至上の喜びとする破滅的な怪物であった。百年前に勇者によって討たれ、監獄に収容されていたはずの彼女は、今、自らの欲望を再び火星の地で叶えるべく、暗躍の第一歩を踏み出していた。

    スカーレッドは、迫り来るオルトロスⅡの巨大な鋼鉄の質量をその目で見つめながらも、怯えるどころか、お嬢様然とした優雅な仕草で唇を歪め、残虐さを隠そうともしない笑みを浮かべた。

    「あらあら、随分と大きくて、可愛げのないワンちゃんですこと。火星の最新科学技術? 都市防衛隊? 結構ですわ、実に結構。わたくし、そのような『守るための力』が、硝煙の中でバラバラの鉄屑に変わる瞬間が、何よりも大好きなんですのよ」

    スカーレッドは自身の腕を拘束するベルトの隙間から、鋭利に伸びた爪を突き立て、自身の白い肌を浅く切り裂いた。

    吸血鬼の、どす黒くも美しい鮮血が、ポタポタと火星の乾いた赤土へと滴り落ちる。
    その瞬間、彼女の固有能力『赤外套・青外套(ペイン・ブルゥ)』が、火星の物理法則を強引に書き換えるようにして発動した。地面に触れた血液が、まるで急速な結晶化を起こすかのように形を変え、瞬く間に「新品ピカピカの重兵器」へと姿を変えていく。

    ジャキ、ジャキジャキジャキィィン! と、地鳴りのような金属の結合音が荒野に響き渡る。

    彼女の足元から、無数の対戦車ロケットランチャーと、彼女が最も愛するHEIAP弾(高エネルギー焼夷徹甲弾)仕様の20mmバルカン砲の群れが、まるで地面から生える黒い植物のように具現化した。

    「血を兵器にするということは、死を平気にすることなのよ? さあ、火星の兵隊さんたち。どちらがより深く、この美しい戦場を愛せるか、お試しいたしましょう?」

    『敵、未知の血液触媒プロセスにより、複数の対車両火器を具現化。迎撃を推奨します』

    「主砲、独立照準! 治安維持の弾丸を叩き込め、撃てっ!」

    オルトロスⅡの二基の主砲から、蓄電器に充填された莫大なエネルギーが数ミリ秒の間に一気に放出された。
    43mm口径の砲身を駆け抜けた電流が、プラズマ化した金属粒子雲を電磁加速して射出する。シアパレリの荒野を一瞬で白く染め上げるほどの紫色の雷光が、轟音と共にスカーレッドの立っていた座標へと直撃した。

  • 133◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:35:23

    大気を引き裂く電磁の咆哮と、国家を滅ぼす吸血鬼の笑い声。
    最先端科学の結晶と、無尽蔵の致死兵器によるゴリ押し。相反する二つの「兵器」が、火星の赤い大地を血と硝煙で染め上げるべく、極限の死闘の火蓋をここに切って落とした。

  • 134◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:35:47

    ズガァァァァァン!!!

    オルトロスⅡの第一主砲から放たれた43mm口径の電磁金属プラズマ砲(EMPC)は、スカーレッドが佇んでいた地表へと容赦なく炸裂した。
    超高温のプラズマ粒子雲が直撃した岩盤は一瞬で溶融し、ガラス質のクレーターを形成する。火星の低重力環境ゆえに、爆発によって生じた破片と凄まじい赤沙の煙が、ゆっくりと、しかし広範囲に渡って大気中に舞い上がり、視界を完全に遮っていく。

    だが、オルトロスⅡが誇る全周監視統合センサーネットワークは、光学・赤外線・レーダー・地中探査を網羅した死角なき追尾により、その爆煙の奥で未だ俊敏に動き回る特A級の生命反応を明確に捉え続けていた。

    「ふふ、あはははは! 素晴らしい威力ですわ! さすがは火星の治安維持を担う最高峰の鋼鉄の犬! ですが、いかに弾速が速かろうとも、当たらなければただの打ち上げ花火に過ぎませんわよ!」

    吸血鬼特有の高い身体能力。体術こそ修めていないスカーレッドだが、その超人的な跳躍力は、火星の三分の一という低重力環境と合わさることで、まるで重力を完全に拒絶した飛翔の域に達していた。

    彼女はドレスの裾を翻しながら空中を華麗に舞い、同時に、先ほど血溜まりから具現化させたHEIAP弾仕様のバルカン砲の引き金を引き絞る。

    バリバリバリバリバリバリッ!!!!!

    凄まじい発射音が荒野に轟き、オルトロスⅡの巨体へ向けて、毎分千発を超える高エネルギー焼夷徹甲弾の雨が容赦なく降り注いだ。
    一発一発が装甲車を蜂の巣にする、破壊と殺意が凝縮された弾幕。オルトロスⅡの車体表面に配置された最新の複合軽量装甲が激しい火花を散らし、密閉された車内の乗員4名を凄まじい震動と衝撃が襲う。

    「チッ、左舷複合装甲圧、限界値の30%を消失! 敵の機動力がこちらの照準補正速度を上回っている!」

    『戦術支援AIより提案:光学センサーによる補正が困難です。敵の空中での慣性移動予測ルートを算出。第一主砲による牽制と同時に、第二主砲による時間差面制圧(面攻撃)を実行してください』

    「よし、AIの演算に合わせろ! 第二主砲、仰角固定。予測着地座標へ……撃てっ!!」

    オルトロスⅡの最大の強みは、二基の砲塔が完全に『独立駆動』することにある。
    第一主砲がスカーレッドの現在の空中座標へプラズマ弾を放ち、彼女の回避行動を一定のラインへと縛り付ける。

  • 135◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:35:57

    そして同時に、第二主砲が彼女が次に降り立つであろう着地予測地点へと、プラズマ弾頭を先回りして撃ち込んだのだ。これこそが、市街地や複雑な峡谷地帯で培われた、オルトロスⅡの網羅的警戒・迎撃能力の真髄だった。

    「あら?」

    スカーレッドの目の前で、着地するはずだった岩場がプラズマの猛火によって一瞬で消し飛ぶ。
    彼女は空中で強引に身体を捻り、直撃こそ回避したものの、オルトロスⅡの計算通りの連動攻撃はそのドレスを焼き、爆風の破片が彼女の白い肌を深く切り裂いた。

    吸血鬼の鮮血が、空中から雨のように火星の大地へと滴り落ちる。

    「くっ……やってくれますわね、生意気な鉄の箱風情が……!」

    だが、スカーレッドの表情に浮かんだのは、苦痛による歪みではなく、絶頂に近い狂気の歓喜だった。
    自身の血液が流れ、戦場に撒き散らされれば散らされれるほど、彼女の能力『ペイン・ブルゥ』はその出力を天井知らずに高めていく。滴り落ちた血溜まりが火星の赤い砂を吸い、瞬く間に数十、数百の「自律型戦闘ドローン」と、地中に潜伏する「対車両地雷」のプールへと変貌を遂げていく。

    致命傷から致死武器が生み出され、戦場が新品ピカピカの兵器で埋め尽くされていく。

    「お互いに血を流し、消耗した状態ほど、わたくしの火商(ディーラー)としての在庫は天井知らずに潤うの。さあ、火星の兵隊さん、もっと、もっとわたくしを愉しませて頂戴な!」

    無尽蔵に増殖する兵器の群れが、オルトロスⅡの巨体を全方位から包囲せんと駆動を始める。
    障害物のない広大な平原での物量戦。それはオルトロスⅡにとって、本来の長所である地形利用を活かしにくい、最も危険な泥仕合へと変貌しつつあった。

  • 136◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:36:50

    オルトロスⅡの密閉された車内には、耳を劈くような電子警告音が絶え間なく鳴り響き、コンソールが不気味な赤色に明滅していた。

    『警告:車体上部への集中攻撃を検知。第二砲塔の旋回ベアリングに外部衝撃による軽微な歪みが発生。駆動効率が15%低下、照準誤差が許容値を超えつつあります』

    双頭の独立駆動主砲塔という画期的な構造。それは広範囲への警戒を可能にする一方で、全高が大型化し、外部から発見されやすく、車体上部への集中攻撃に弱いというオルトロスⅡの致命的な構造的弱点そのものでもあった。

    スカーレッドが撒き散らした鮮血から次々と具現化する、新品ピカピカの自律型戦闘ドローンの群れ。それらは高度な戦術AIの脅威分析を嘲笑うかのように、低重力下の空中で不規則な軌道を描きながら、オルトロスⅡの車体上部、まさに砲塔の付け根周辺へと正確無比な自爆突撃(カムイ・ダイブ)を繰り返していた。ドローンが耳障りな爆音を立てて自爆するたびに、プラズマ砲を支える精密な駆動系と光学照準器がミリ単位で削り取られていく。

    「チッ、防衛隊の誇りに懸けて、こんな歴史の遺物のような化け物にシアパレリの城門を潜らせるわけにはいかない! AI、全周監視統合センサーネットワークから地中探査センサーを最大出力へ回せ! 足元に展開されつつある地雷原を完全回避する最適ルートを導き出せ!」

    『了解。地中探査センサーにより、磁気・圧力感知式の対車両地雷を前方に多数検知。――火星環境適応機構、最大稼働(オーバードライブ)。低重力下の急旋回における姿勢制御を車体傾斜角24度で最適化します。進路提案:右30度、現時刻をもって操舵をアシストします』

    オルトロスⅡの6基の大型複合軽量ホイールが、ギチギチとベアリングを悲鳴 historical な音で鳴らしながら、赤茶けた砂地を激しく掻き乱して駆動する。

    低重力下での高速走行や急旋回時の浮き上がりを抑え込む姿勢制御機構が完璧に機能し、車体は横転寸前の異様な角度まで傾きながらも、スカーレッドが仕掛けた血の地雷原を紙一重の機動で強行突破していった。車体が巻き上げる赤い砂塵が、まるで巨大な防壁のように二人の間に立ち上る。

  • 137◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:37:19

    「あら、あらあら! 素晴らしい足掻きですわ! 泥の中に塗れて這い回る犬の mud-dance、実に見事ですこと!」

    スカーレッドは激しい砂嵐の中でも視線を一切外さず、お嬢様としての優雅な佇まいのまま、自身の胸元へとしなやかな指先を向けた。そこには、百年前の戦いで高潔なる勇者によって刻まれ、吸血鬼の自己再生能力を以てしても未だに癒えることのない、悍ましい古傷が存在していた。

    彼女はその古傷を、自らの爪で強く、抉るようにして押し潰した。

    「――っ、あはははは! 痛い、痛いですわ! ですが、この痛みこそが最高のスパイス!」

    溢れ出るのは、特A級吸血鬼としての濃厚な魔力と呪いを孕んだ、極上の純血。
    その大量の血が火星の乾いた大地に触れた瞬間、荒野の地表が激しくひび割れ、全長十メートルを超える巨大な「対空・対戦車ミサイル発射台」が、塗装も鮮やかな軍事工廠直出しの状態で地中からドゴゴゴと具現化した。

    お互いに血を流し、戦場が泥沼化するほど最大火力が天井知らずに高まっていく『ペイン・ブルゥ』の真骨頂。

    「血を兵器にするということは、死を平気にすること。――全弾、お見舞いして差し上げますわ!」

    ヒュドガガガガガッ!!!

    数十発の対車両誘導ミサイルが、一斉に白煙の尾を引きながら、火星の低重力を滑るようにしてオルトロスⅡへと殺到する。

    オルトロスⅡは急制動をかけ、近くの岩陰に身を隠そうとしたが、遮蔽物の乏しい広大な平原では、その大型化した巨体を完全に隠し通すことは不可能だった。

    ドバァァァァァン!!!

    凄まじい大爆発がオルトロスⅡの車体後部で炸裂した。火星適応機構の姿勢制御ユニットが衝撃で大破し、装輪重戦闘車の巨体が激しくスピンしながら、赤茶けた大地へと激しく叩きつけられる。

  • 138◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:37:31

    「ぐはっ……! 各員、意識はあるか!? 報告しろ、砲塔の駆動系は!?」

    『第一砲塔:健在、ただし蓄電器の残量40%。第二砲塔:ミサイルの直撃により旋回機構が完全にロック。全周センサー、60%が物理破壊により機能停止』

    補助AIの音声にも、激しい電子ノイズが混ざり始める。車体上部への波状攻撃により、彼らの誇る独立駆動双主砲システムは、片方の頭を完全に機能停止に追い込まれていた。

    スカーレッドは、勝利を確信した優雅な足取りで、無数の浮遊する銃火器を従えながらゆっくりと近づいてくる。彼女が流した血の量に応じ、その物量は一国を三日で滅ぼす領域へと達しつつあった。

    だが、オルトロスⅡの乗員4名と戦術支援AIは、まだ「諦める」という選択肢をそのコードにも、その魂にも組み込んではいなかった。

    『提案:センサーネットワークの残存ログおよび地形データを再統合。敵個体は具現化した兵器の弱点を完全に把握していますが、この火星の「環境」そのものへの適応には致命的な遅れが見られます。また、現在の座標の直下を解析――』

    AIの画面に表示されたのは、シアパレリ都市防衛隊が管理する、テラフォーミング用の地下インフラマップだった。

    「……そうか。ここは不毛な火星の荒野だが、都市のすぐ傍だ。俺たちの足元には、人類がこの星を緑に変えるために通した『血液』が走っている!」

    オルトロスⅡの残された唯一の頭――第一主砲が、ゆっくりとスカーレッドではなく、自らの足元の「地面」へと向けられた。

  • 139◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:38:17

    「あら? 狙いが完全に外れていましてよ? 恐怖のあまり、自慢のAIとやらまで狂ってしまいましたの?」

    浮遊する無数の銃火器の群れを背後に従え、ドレスの裾を優雅に持ち上げながら、スカーレッドが嘲笑の言葉を投げかける。
    彼女の背後には、新品ピカピカの対戦車ミサイル、対空バルカン、そして黒い自律ドローンが幾重にも整列し、主人の次の命令を待ってオルトロスⅡを完全に包囲していた。スカーレッドが自らの古傷を抉り、大量の血を流したことで引き出された、一国を絶滅に追い込むほどの圧倒的物量。それはこの遮蔽物のない平原において、オルトロスⅡの息の根を止めるに十分すぎる死の抱擁であった。

    しかし、大破したオルトロスⅡの車内では、車長が不敵な、剥き出しの笑みを浮かべていた。

    「いいや、狙いは百発百中だ。吸血鬼のババァ――お前たちの持つ古い神話がどれほど強力だろうと、俺たちがこの星に打ち立てた『科学とインフラ』の力を舐めるなよ。第一主砲、最大出力、地中探査座標004へ……全エネルギー、解放(ディスチャージ)!!!」

    ズガァァァァァァン!!!!!

    残された唯一の頭、43mm口径EMPCから放たれた極大のプラズマ金属粒子雲が、オルトロスⅡの目の前の赤茶けた地面へと垂直に突き刺さった。
    超高圧の電磁加速エネルギーは、火星の強固な岩盤を数十メートルに渡って一瞬で融解・貫通。そのさらに直下を走っていた、シアパレリ都市直通の巨大なテラフォーミング用「高圧給水パイプライン」を完全に爆破、破断せしめたのだ。

    「なっ――、これは……!?」

    スカーレッドの冷酷な瞳が、初めて驚愕に大きく見開かれた。

  • 140◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:38:36

    重力の低い火星の大地から、爆発的な圧力と共に噴き出したのは、人類がこの不毛の星を緑に変えるために地下深くへと蓄えていた、マイナス数度まで冷却された何百トンという莫大な「流水」の激流だった。
    地球の三分の一という低重力環境下において、噴き出した水は重力に縛られることなく、まるで巨大な白銀のカーテン、あるいは意思を持つ大蛇のように荒野へ広がり、スカーレッドと彼女が展開していたすべての致死兵器の群れへと容赦なく降り注いだ。

    ジュウウゥゥゥゥッ……!!!

    吸血鬼の肉体を根底から否定する「流水」の拒絶反応。
    それ自体が彼女の白い肌を苛烈に焼き、拘束具のベルトの隙間から激しい白煙を立ち上がらせる。

    しかし、それ以上に致命的だったのは、彼女の能力『ペイン・ブルゥ』で生み出された無数のバルカン砲、ドローン、ミサイル発射台が、その大量の流水に触れた瞬間、まるで幻影のようにその輪郭を失い、一瞬にしてこの世界から消滅(ロスト)していったことだった。

    「血を兵器にする」という自らの能力の最大の弱点――「水に流せば消滅する」。
    スカーレッド自身がそれを把握し、警戒していたとしても、水など存在するはずのない火星の荒野の、そのまた地下深くの構造インフラにこれほどの激流が隠されていることまでは、地球の監獄に百年囚われていた吸血鬼の知能では、計算しきれるはずがなかったのだ。

  • 141◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:38:50

    「ああ、ああああっ!! わたくしの、わたくしの可愛い武器(おもちゃ)たちが……!! 300年の戦争を紡いだ芸術が……!!」

    戦場を埋め尽くしていた圧倒的な物量の兵器が、ただの虚しい水霧となって消えていく。
    スカーレッド自身も大量の流水を全身に浴びたことで、特A級吸血鬼としての強大な魔力と高い身体能力が著しく低下し、たまらずその場に膝を突いた
    。百年前の勇者の傷が、流水の浸食によって激しく疼き、彼女の四肢の自由を完全に奪い去る。

    「これで、チェックメイトだ」

    沸き立つ水煙と泥の向こうから、満身創痍のオルトロスⅡが、残されたホイールを軋ませながら前進してくる。
    車体上部の第二砲塔は完全に沈黙し、最新の複合装甲はボロボロに剥がれ落ち、火星都市防衛隊の象徴としての美しいシルエットは見る影もない。しかし、残された第一主砲の銃口は、青白い電磁の光を最大出力で蓄えながら、的確に、そして冷徹に、動けないスカーレッドの脳天をロックオンしていた。

    『ターゲット、完全静止。環境要因による無力化を確認。迎撃、最終フェーズへ移行します』

    「シアパレリ都市防衛隊より、特A級戦犯スカーレッドへ告ぐ。――火星(ここ)はお前の居場所じゃない。元の地獄へ帰れ」

    ドウッ!!!!!

    本日最大にして、最後の放電現象を伴った発射音が荒野に轟く。
    放たれたプラズマの光軸は、防御する術を失った吸血鬼の身体を正面から正確に撃ち抜いた。超高温の電磁粒子雲が彼女の魔力を根底から焼き切り、その絶叫と共に、スカーレッドの身体は赤い荒野の地平の彼方へと激しく吹き飛ばされていった。

    噴き出した流水の霧が、火星の希薄で冷たい大気にゆっくりと溶けて消えていく。

    シアパレリの外縁部には、再び、静寂が戻ってきた。
    損傷を受け、各部から不規則な火花を散らしながらも、大地に気高く佇み続ける鋼鉄の双頭犬、オルトロスⅡ。彼らは自らのシステムと、先人たちがこの星に築き上げたインフラという「環境」そのものを最大の武器に変え、見事に都市の今日という平穏を守り抜いたのだ。

    戦術支援AIの機械音声が、勝利の余韻を乗せるように、静かに車内に響いた。

    『作戦完了。脅威の完全排除を確認。――都市防衛隊、これより帰投経路を設定します。お疲れ様でした、乗員一同』

  • 142◆ZEeB1LlpgE26/06/21(日) 22:40:29

    以上

    次の安価は明日またします

  • 143二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 22:54:56

    投下乙だ
    カルグラに設定した覚えのない弱点が出て来たと思ったらお相手さんの弱点設定と混ざったみたいだな
    やっぱ羽化だの成虫だのと設定を複雑にするとダメか
    依姫の人は対戦ありがとうな

  • 144二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 23:02:28

    バーサーカー同士のド正面殴り合いカッケぇえ

  • 145二次元好きの匿名さん26/06/21(日) 23:43:00

    かがくのちからってすげー!
    負けちゃったけど面白い戦いでありがとうね
    スレ主も生成ありがとうございます

  • 146二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 06:38:20

    保守

  • 147◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 09:07:17

    12:30から先着6名募集

  • 148二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 12:30:00

    名前:ヨンホン
    年齢:42
    性別:男性
    種族:人形
    本人概要:遠い昔に、その名の通り魂を封じ込めて製作された、影のように不気味な人形。相対する愚か者を恐怖を煽る声で震え上がらせ、縄を振るって拷問することを何よりも好んでおり、痛みの絶叫を耳にするたびにキバノロの咆哮ように狂気的な笑い声を上げる。元々は拷問を趣味とする処刑者であったが、牢に一時留置されているだけの無実の者を拷問死させたことにより罪を問われ、永遠に宝を守るという絶対遵守の命令を与えられた上で人形に封じ込められた。分銅が付いた投げ縄で拘束し、弓矢を放ち距離を取りながら戦う変則的な戦闘スタイルを取り、距離を離せないと理解するとそれらを捨てて剣一本に持ち変える。武技に精通し、あらゆる武器を十全に扱える卓越した技前を持つが、当人に武人としての誇りや矜持は存在せず、武勇を誇りに持つ者を侮蔑している。
    能力:ヨンホンイニョン[魂人形]
    能力概要:人形部分は幾ら破損しても無条件に回復可能。魂へと直接攻撃することが可能であり、物理的な防御を無視し、生命に対して叫びを上げるほどの激痛と決して癒えることのない傷跡を残す。
    弱点:魂の依代である鞘が完膚なきまでに破損した時、活動が停止する。

  • 149二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 12:30:00

    名前:ウェルス・アル・マーサリア

    年齢:17

    性別:女

    種族:人間

    本人概要:死人のように青白い肌、ストレスからか痩せこけている。ボサボサとして、乱雑に伸ばされた黒い髪。
    意匠からして高貴なものだろうとわかるが、それに見合わぬほどにボロボロとなったマントと服に身を包んだ女。
    どうやらすでに滅びた王国の唯一の生き残りの姫のようだが……

    能力:命亡き忠義の盾

    能力概要:彼女に忠義を尽くすものをアンデッドとして使役する呪い。
    厳密には彼女自身の能力ではなく彼女の母親がかけた呪い。
    彼女を守ると誓ったものの命と意思を奪い、アンデッドとして不死の兵隊とする能力。
    彼女は自身の周囲に常に侍るアンデッドたちを味方とは認識していないが、こちらを襲わないことから敵とも認識していない。
    幼い頃に起きた戦争で自分だけが生き残ったことをこの亡者たちが責めていると思っている。
    ただウェルスを守るためだけに動き続ける。仮に彼女を狙うものが現れたなら二度とそのような事が出来ぬように命を奪うまで狙い続けるだろう。
    現在残っているのは元騎士団長と騎士が10人、魔術師団が10人である。

    弱点:本人自体には最低限しか戦闘力が備わっていないため周囲を無視して集中攻撃されたら相手が余程の雑魚出ない限り負けるだろう。
    また、呪いであるため解呪されれば無力となる。

    要望(任意):ウェルス本人は戦う意思がなく怯えている。

  • 150二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 12:30:01

    名前:令嬢ホムンクルスフウリュアレ
    年齢:15歳(身体は21歳)
    性別:女性
    種族:人間ベースのホムンクルス
    本人概要:「剣姫令嬢」の異名を持つ令嬢エウリュアレ…のホムンクルス、ベースのエウリュアレの剣術をすべて引きついでいる、ホムンクルスゆえの人間離れした身体能力と異常な体は華奢な体からは想像できない強力な力と硬さを併せ持つ。
    性格はお淑やかに見えてその実残虐、気に入った相手に返事も待たず決闘を申し込んで切り捨てる、元々エウリュアレにもその気質はあったが彼女はその気質を抑えるために騎士から決闘を申し込まれても拒否するなど良識があったのに対しフウリュアレはむしろ相手の望まぬ決闘を起こして切る等真逆の行動をする。
    エウリュアレはプロポーズの際相手の腕を短剣で刺したらしいが、彼女はプロポーズの際相手の胸を刺すのつもりなのでその際の相手の生死はあまり気にしていない節がある。
    能力:肉体変化
    能力概要:ホムンクルスゆえの身体で腕が突如伸びたり人間ではありえない動きをしたり身体から触手のような物を生やしたりできる。
    弱点:ホムンクルス共通のコアが胸部に隠されておりこれを破壊されると大幅に弱体化してしまう、しかし鉄程度の強度はあるので並の攻撃では傷をつけられない、ちなみに初めてのプロポーズの相手はコアを傷つけた相手と決めているのでこの際胸を傷つけられないよう注意。
    要望:ゴスロリ衣装かつお嬢様口調で喋って欲しい。

  • 151二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 12:30:03

    名前:牛の頚
    年齢:不明(変質可能)
    性別:不明(変質可能)
    種族:怪異
    本人概要:表面と裏面があり、表面が相手にハリボテに近しいと気付かれたら裏面になる。
    表面は知性生命体が娯楽で牛の頚を考えたような怪談・呪いで裏面は相手によって怪談・呪いを変える。
    その理由は牛の頚の本質は「怪談を聞いたら恐怖で3日かからず死亡する。」のみしか残っていないかそもそも存在しない怪異。
    例外はあるが怪談・怪異等は知性ある者によって語り継がれる事によって存在を得る・成長や変質をするもの。牛の頚は今現在語られているのがそれしかなく、表面にあるのはその語りは嘘だと思われているから本質に刻まれず、それ故に本質は未だほぼ空っぽなのである。
    それを牛の頚は脱却する為に表面や相手に特化した恐怖・恐ろしさで殺し、殺す程の恐怖・恐ろしさを与える事で、牛の頚の話は真実なのだと思わせている。
    それと、牛の頚がその場所に出る事、牛の頚が本当に存在した事を知らしめる為に集団で来た存在の内1人か2人を生かして帰してもいる。
    能力:《怪談》
    能力概要:表面では娯楽で考えられたゲームや話牛の頚の話を使える能力。
    裏面ではほぼ空っぽな故に表で相手が見せた行動を元に相手に合わせた怪談・呪いになっていく能力でもある。
    なっていく過程で相手がした行動でさらに先鋭化していく。
    弱点:本質は未だ空っぽに近しいので、相手がそれに気付いて牛の頚の話を作れば牛の頚はその話を取り込む為、呪いが無力化される話を作ったり逆に人を救う話を作れば牛の頚はその通りになる。
    話が矛盾してしまえば、その話を失くす為に少しだけ隙が生じてしまう。
    身体能力方面の力はほぼない。

  • 152二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 12:30:08

    名前:身投げマンション
    年齢:築80年
    性別:無し
    種族:怪異
    本人概要:
    捨てられたガトリングガンの亡霊が1フロア5部屋20階建ての新築マンションに取り憑いたことで誕生した怪異。
    取り憑いたガトリングガンの影響で見た目が老朽化しているが、元々新築マンションなだけあってWiFi・顔認証・AI設備・その他諸々はきっちり完備である。
    能力:身投げガトリング
    能力概要:
    マンションの住人および住み着いている霊や妖怪の類を弾丸として鬼のように乱射する。
    この怪異に殺された被害者もまたこの怪異に取り込まれ地縛霊と言う名の弾となる。
    霊は発射されたら回収されるので事実上残弾無限。
    弱点:
    管理人の部屋がこの怪異の核であり弱点。ただし、肝心の管理人の部屋が何号室か分からないので総当たりで確かめる他無い。

  • 153二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 12:30:08

    名前:土佐津遊徒
    年齢:18
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:シリアルキラー
    生来「罪悪感」を感じることのない性分であり、一度行った失敗を学習することがない異常者
    精神的な欠陥と引き換えに知能と身体能力は極めて高く、陸上大会全国優勝、模試でトップ3に入るなど多くの実績を持つ
    しかし、彼は過去から学べない。ただ今を心地良くするためにナイフを片手に夜闇に蠢く。
    能力:空豆の仕立て人(リカバビーン)
    能力概要:死を笑うスキル
    どのような惨劇が目の前で起こり、起こそうとも彼はそれを笑って受け入れる
    精神異常者の精神に異常なんて起こせないのだ
    弱点:精神操作に対する強固な耐性を持つが、戦闘そのものは自前の技術のみで行う必要がある
    戦闘技術も鍛えた一般人程度
    要望:刹那主義者。一見会話が成立しているようで、その実どこまでも自分の都合を優先する男。ある種、他者との対話のほとんどを条件反射で行なっている。

  • 154二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 13:37:29

    このレスは削除されています

  • 155二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 13:45:43

    このレスは削除されています

  • 156◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 15:55:56

    すいません爆睡してました

    全採用

  • 157二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 16:26:35

    このレスは削除されています

  • 158◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 16:51:50

    >>157

    今日学校が行事で午前だけだったのではい


    土佐津遊徒vs令嬢ホムンクルスフウリュアレ

    身投げマンションvsヨンホン

    牛の頚vsウェルス・アル・マーサリア

  • 159二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 17:23:35

    タフカテでもないのに語録を使うのはやめた方がいいよ
    批判目的だと語気が強すぎるし

  • 160◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:35:32

    題名『ガトリングの雨、処刑人は鞘を抱いて嗤う』

  • 161◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:36:04

    そこは、いかなる都市計画の地図にも、あるいは近代的なGPSの電波基軸にも記載されていない、空間の歪みに生じた「死の区画」であった。
    重く立ち込める不気味な霧の向こうに、周囲の空間を威圧するようにそそり立つのは、1フロアに5部屋、20階建て、計100号室を擁する巨大な新築マンション――であるはずの歪な建築物だった。

    その怪異の名は『身投げマンション』。

    かつて数多の戦場で無数の命を奪い、最終的に不条理に捨てられた「ガトリングガン」の凄まじい怨念と亡霊。それが、完成したばかりの無機質な建造物へとそっくりそのまま取り憑いたことで、この世に誕生した巨大な複合怪異であった。
    ガトリングガンの呪いの影響により、外壁のコンクリートはまるで築80年以上の歳月を経たかのように赤茶けて老朽化し、無数の重厚な弾痕のような穴が窓という窓に悍ましく穿たれている。しかしその内実、建物内には最新鋭の超高速Wi-Fi回線、厳格な顔認証セキュリティ、人工知能(AI)による自動管理設備が、冷徹な機械音を立ててきっちりと完備されていた。新築としての利便性と、大量殺戮兵器としての残虐な殺意が同居する、最悪の近代魔窟。

    その呪われたエントランスの前へ、這い寄るようにして不気味な影が一歩、また一歩と近づいていく。

    遠い昔、処刑人としての狂気の果てに、無実の者を拷問死させた罪を問われ、その魂を封じ込められた影のような人形――『ヨンホン』。
    布製の細い指先で分銅の付いた投げ縄をチリチリと弄びながら、漆黒の人形は口の裂けた顔を不気味に歪めた。

    「ヒィ、ヒヒヒヒ……! 面白い、実に面白い『処刑場』を見つけたぞ。あの中に、どれほどの生命が、悲鳴を上げるべき瑞々しい魂が隠されているのか……!」

    ヨンホンに武人としての誇りや矜持など一切存在しない。ただ、相対する愚か者を恐怖を煽る声で震え上がらせ、縄を振るって拷問し、その痛みの絶叫を耳にすることだけを至上の愉悦とする、骨の髄まで歪みきった精神。

  • 162◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:36:16

    彼がかつて科せられた「永遠に宝を守る」という絶対遵守の命令。その守るべき対象たる宝は、今や彼の背中に厳重に背負われた、古い刀の『鞘』の中にのみ存在していた。この鞘こそが、彼の魂の依代であり、彼を滅ぼすことができる唯一無二の絶対的な弱点であった。

    キィィィィィン――。

    身投げマンションのエントランス上部に配置された、超高解像度の顔認証システムを搭載した監視カメラが、ヨンホンの不気味な影を「極めて危険な侵入者」として瞬時にロックオンした。

    『警告:未確認の異常動体を検知。防犯プロトコル、および防衛システム「身投げガトリング」をただちに起動します。総員、配置に就いてください』

    マンションの管理AIが、抑揚のない冷徹な電子音を全館に響かせた、その直後だった。
    巨大な建造物全体が、まるで巨大なガトリングガンのシリンダーが回転するかのように、ズ、ズ、ズズズズズズッ!!!と地鳴りを立てて、フロアごとに不気味に回転を始めたのだ。

    カシャガシャガシャシャシャシャ!!!

    すべての部屋の防犯窓が一斉に開き、そこから顔を覗かせたのは、かつてこのマンションに引き寄せられ、あるいは殺されて内部に取り込まれた、おぞましい数の住人、地縛霊、そして火星の妖怪たちの姿だった。

    「ア、アアアアア……ッ!」

    「落チル、落チルウウウウゥゥッ!!」

    霊体たちの絶望の叫びが、弾丸の装填音(チャージ)となって大気をビリビリと震わせる。
    地縛霊という名の無限の弾丸を、新築のAI設備で完全に制御して乱射する超高層怪異。そして、幾ら破損しても無条件に回復する不死の人形拷問官。

    世界の理を外れた二つの怪異が、今、シアパレリの夜闇に最悪の硝煙を立ち昇らせようとしていた。

  • 163◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:36:40

    ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

    夜の静寂を完全に打ち砕く凄まじい轟音と共に、身投げマンションの1階から20階、合計100の窓から、一斉に「人間」が射出された。

    それは文字通りの、凄惨極まる『身投げガトリング』であった。
    超高速の管理AIによって算出された射出ロジックに基づき、凄まじい初速で放たれた地縛霊や妖怪たちは、青白い呪いの尾を引きながら、まさに弾丸の速度でヨンホンの立っている地面へと降り注ぐ。
    ドスッ、ドカァァン! と、質量を持った霊体の衝突によってアスファルトが爆辞を散らし、激しい衝撃波が周囲の空間を爆裂させていく。この怪異に殺された被害者もまた新たな地縛霊という名の弾丸となり、発射された霊は物理法則を無視して再びマンションへと自動で回収されるため、その残残弾は事実上の無限、文字通りの無限地獄であった。

    「ヒハハハハハ! 派手な歓迎だなァ!! 痛いか、苦しいか、落ちる瞬間はどんな気分だァ!?」

    ヨンホンは、その影のように不気味な肉体を常人離れした速度で躍動させ、降り注ぐ人間の雨の隙間を縫うようにして激しいバックステップを踏んだ。
    彼の固有能力『ヨンホンイニョン[魂人形]』により、人形の肉体はどれほど木端微塵に破壊されようとも、背負った依代である鞘が無事な限り、無条件に、かつ瞬時に修復される。霊体の直撃を受けて削り取られた彼の腕や足は、黒い霧のような影を立ち昇らせながら、次の瞬間には何事もなかったかのように再構成されていた。

    しかし、空間を埋め尽くすほどの霊体の質量と、網膜を灼くような呪いのエネルギーは、確実にヨンホンの肉体を圧迫し、その自由を奪いつつあった。

    (あの巨大なコンクリートの塊のすべてが銃身。まともに正面から打ち合っては、弾幕の密度に押し潰され、近づくことすらできぬなァ。ならば――)

    ヨンホンは弾雨との距離を保ったまま、手にした分銅付きの投げ縄を、卓越した武技の冴えを以て頭上で激しく旋回させた。
    キィィィンと風を切る音が響く。彼は狙いを身投げマンションの5階、最新鋭のWi-Fi電波強度のアンテナが不自然に密集している部屋のベランダへと正確に定め、その縄を鋭く放った。

  • 164◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:36:51

    ビュウゥゥゥッ!!

    分銅の重みを乗せた投げ縄は、闇を裂く生き物のように空を飛び、標的としたベランダの頑強な手すりへとガチリと巻き付いた。
    ヨンホンはその縄を強く引き絞り、火星の低重力をも無視するような軽やかさで、身投げマンションの老朽化した壁面へと向けて一気に自らの身体を引っぱり上げ、凄まじい速度での垂直接近を試みた。

    『侵入者の異常接近を感知。Wi-Fi遮断プロトコルおよび防犯シャッター、全館一斉閉鎖』

    マンションの管理AIが瞬時にヨンホンの接近ルートと意図を演算し、顔認証システムと連動した強固な防犯シャッターが、ガシャン、ガシャンと激しい金属音を立てて窓という窓を閉ざしていく。
    それと同時に、シャッターに設けられたわずかなスリットから、今度はより小型で弾速の速い「怨霊の散弾」が、壁面を猛烈な速度で登るヨンホンに向けて、至近距離から文字通り鬼のように乱射された。

    「グゥ、アァァァァッ!! 良い衝撃だ、実になぁ!!」

    至近距離での乱射を受け、ヨンホンの人形としての四肢が次々と引き千切れ、黒い綿のように夜空へ飛散する。
    だが、千切れた先から影が這い出し、肉体は即座に再生していく。ヨンホンは激痛に顔を歪めるどころか、その狂気的な笑みをさらに深く刻み込み、背負った弓矢を引き絞った。

    目標は、この巨大な怪異の核である『管理人の部屋』。
    だが、1フロア5部屋、20階建てのこの巨大な魔窟において、何号室がそれであるのかは外観からは一切分からない。
    確実な勝利を得るためには、100ある部屋のすべてを、総当たりで完膚なきまでに破壊し、その手で確かめる他になかった。

  • 165◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:37:19

    「100回殺せば、いずれ正解に突き当たるというわけだなぁ!!」

    身投げマンションの赤茶けた壁面に張り付いたまま、ヨンホンは常人離れした手並みで弓矢を番え、連続で放ち始めた。
    放たれる矢は、ただの木と鉄の矢ではない。魂へと直接攻撃を可能にする彼の異能が宿った、目に見えぬ呪詛の矢であった。それは硬質な防犯シャッターをも煙のようにすり抜け、部屋の内部へと直接飛び込んでいく。

    ドォン! ドォン! ドォン!

    「ギャァァァァァァーーーッッ!!!」

    部屋の内部に弾丸としてひしめいていた地縛霊たちが、ヨンホンの放った魂への直接攻撃を受けて一斉に絶叫した。
    物理的な防御を一切無視し、生命に対して決して癒えることのない傷跡を残す拷問の一撃。精神の根底を捩じ切られるほどの凄まじい痛みの絶叫が、遮音性の高いはずの新築壁を突き破って路地裏に響き渡る。その痛みの声を耳にするたび、ヨンホンはキバノロの咆哮を思わせる狂気的な笑い声を張り上げた。

  • 166◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:37:30

    「ヒヒヒ、ハハハハ! 良い声だ! もっと啼け、もっとその魂を恐怖で震え上がらせてみせろッ!!」

    401号室、402号室、403号室……。
    ヨンホンは壁面を影のように横移動しながら、次々と部屋の内部を弓矢で拷問し、無差別に破壊していく。しかし、いくら霊体を消滅させ、内部を破壊しようとも、マンションの核である『管理人の部屋』に命中しない限り、この超巨大な怪異の駆動が止まることはない。

    それどころか、建物全体を統括する管理AIは、ヨンホンの攻撃パターンと移動速度を完全に『地形解析』し、最も効率的な迎撃陣形をリアルタイムで組み直していた。

    『戦術変更。侵入者の機動力を削るため、物理排除を最優先。20階から1階までの全住人、一斉投射を開始します』

    ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!!

    身投げマンション全体が、まるで悲鳴を上げるように激しく身震いした。
    今度は開かれた窓からだけではない。屋上、ベランダの隙間、果てはエントランスの割れ目に至るまで、建物に宿る何百、何千という人間の形をした霊体の津波が、ヨンホンを押し潰さんと一斉に『身投げ』してきたのだ。

    空を完全に埋め尽くす、絶望的な人間の肉壁と怨念の弾幕。

    「チッ……! 距離を離せぬか……! 鬱陶しい物量だなァ!」

    ヨンホンは、これほどの超至近距離かつ面制圧の状況において、弓矢や投げ縄での遠距離戦を継続するのは不可能だと瞬時に理解した。
    武人としての誇りなど欠片も持たない処刑人は、一切の躊躇なく弓と縄をその場に投げ捨て、腰に帯びた一本の、冷たく鈍い光を放つ「剣」へと持ち替えた。

    武技に精通し、あらゆる武器を十全に扱える卓越した技前が、今、最凶の白兵戦の構えへと移行する。
    武勇を誇る者を侮蔑し、ただ効率的に相手を切り刻むための処刑の剣。迫り来る霊体の津波へ向けて、ヨンホンは漆黒の身体を地へと落とし、迎え撃つように剣を振り上げた。

  • 167◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:37:53

    ズバァァァァァァン!!!!!

    ヨンホンの放った凄まじい一閃は、空間を埋め尽くして襲いかかる霊体の津波を、正面から真っ二つに両断した。
    その冷徹な剣撃にもまた、魂へと直接攻撃を加える不気味な異能が宿っている。切り裂かれた地縛霊たちは、物理的な傷を負うのではなく、存在の根底である魂そのものを消滅させられる絶望的な激痛に悶え、生命の叫びを上げながら光の塵となって夜闇に消え去っていく。

    ヨンホンは低重力を利用して軽やかに着地すると同時に、猛烈な速度で1階のエントランスへと突入した。
    外壁を登りながら部屋を一つずつ破壊するよりも、強固な防犯設備が完備された建物の内部から、各フロアの部屋を総当たりで叩き潰した方が効率的だと判断したのだ。

    「ヒヒ、ハハハ! 1号室から順に、すべてのドアを抉じ開けてくれるわァ!」

    しかし、彼がエントランスの自動ドアを潜り、大理石のロビーへと足を踏み入れた瞬間、天井の最新鋭『顔認証システム』のインジケーターが不気味に赤く点滅した。

    『不審な動体を検知。対象の顔情報をブラックリストに登録。防衛システム:館内エレベーター、最大質量での急降下シーケンスを開始』

    ドゴォォォォォン!!!

    ヨンホンが頭上を見上げた瞬間には、すでに遅かった。ロビーの天井を凄まじい轟音と共に突き破り、数十トンの重量を持つ鉄製のエレベーターが、自由落下を遥かに超える超高速で彼の真上へと叩きつけられたのだ。
    身投げマンションは、ただ住人を放つだけでなく、最新のAI設備によって建物内部の構造物そのものを「巨大な弾丸」として利用する、完璧な殺戮迷宮へと姿を変えていた。

    「ぬ、おおおおぉぉッッ!?」

    凄まじい質量兵器による直撃。ヨンホンの影のような人形の身体は、床の高級大理石もろとも、一瞬にしてペシャンコに押し潰され、肉体の原型を失った。普通のエスパーや妖怪であれば、肉体も魂も完全に圧壊して即死する一撃。

  • 168◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:38:46

    しかし――。

    「……ハ、ヒヒ、アハハハハハ!!! 痛いなぁ! 実に良い、魂が震えるほどの衝撃だ!!」

    エレベーターの底のわずかな隙間から、不気味な黒い影がドロドロと染み出すようにして這い出てきた。
    無条件の回復。千切れた布の腕が、潰れた頭部が、一瞬にして元の「影の人形」へと再構成されていく。ヨンホンは剣を強く握り直すと、目の前にある101号室の重厚な防犯ドアを、魂を切り裂く剣撃で粉々に叩き割った。

    内部のWi-Fiルーターの側で怯えていたのは、かつてこの場所で命を落としたサラリーマンの姿をした地縛霊。

    「違う! ここは管理人の部屋ではないなぁ!!」

    ズバッ! とサラリーマンの魂を非情に切り裂き、激痛の叫びを上げさせながら消滅させる。
    続いて102号室、103号室。ヨンホンは武技に精通した卓越した剣技で、瞬く間に1階の全5部屋を総当たりで破壊し尽くした。しかし、いずれも怪異の『核』ではない。

    建物全体を統括するAI設備は、ヨンホンが部屋を破壊する速度を冷徹に演算し、さらに過酷な防衛陣形を上のフロアへと構築していく。

    『侵入者の移動ルートを予測。顔認証データを更新し、階段および廊下全体に防犯高電圧を印加します』

    築80年の老朽化した外見と、最新のAIが制御する凶悪なトラップ。
    階段を駆け上がるヨンホンの足元で、青白い電流の火花が不気味に爆ぜようとしていた。

  • 169◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:40:54

    バチバチバチバチバチィッ!!!!!

    2階へと続くコンクリートの階段全体に、最新の防犯システムから供給される数万ボルトの高電圧電流が駆け巡った。
    激しい紫電がヨンホンの足を、胴体を、這い上がる影を容赦なく焼き焦がし、肉体から黒い爆煙を立ち昇らせる。だが、彼を動かす狂気と不死の呪いは、その程度の電気ショックでは一歩も立ち止まらない。

    「ヒハハハハ! 痺れるなぁ、痺れるぞォ! だが、お前の構造(からくり)はすべて見切った!!」

    ヨンホンは焦げた四肢を瞬時に再生させながら、2階、3階、4階のドアを、稲妻のような処刑の剣技で次々と両断していった。

    201室、破壊。
    305室、破壊。
    403室、破壊。

    その都度、中に潜んでいた火星の妖怪や地縛霊たちが生命の叫びを上げて消滅していくが、ヨンホンは一切の妥協なく「総当たりの破壊」を継続する。
    その凄まじい破壊の連鎖の最中、ヨンホンは、このマンションが秘める致命的な「矛盾」に気がついた。

    ガトリングガンの呪いによって、築80年以上の歳月を一気に経たかのように赤茶け、老朽化したコンクリート。
    最新のAI技術やWi-Fi設備がどれほど完璧に機能していようとも、その基盤となる建物の骨組み自体は、すでに限界寸前まで脆く、老朽化しているのだ。ヨンホンが部屋を破壊し、霊体を消滅させるたびに、そのフロアの強度は劇的に低下し、目に見えて建物全体がミシミシと不気味に傾き始めていた。

    「ハハァ! どれほど優れた頭脳(AI)を持とうとも、器がこれほどボロくては世話がないなぁ!!」

    だが、身投げマンションの管理AIもまた、ただ破壊されるのを待つほど愚かではなかった。
    AIはヨンホンの破壊速度と、建物の老朽化による崩壊確率を天秤にかけ、即座に「勝率が最も高い最終手段」へと移行した。

  • 170◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:41:06

    『警告:建物の構造維持限界まで残り40%。これ以上の局地防衛は不可能と判断。全システムを攻撃へと転換。……対象の真の弱点、背部の「鞘」をロックオン。全全弾、一斉射出』

    その瞬間、身投げマンションのすべての顔認証カメラが、ヨンホン自身の顔ではなく、彼の背中に厳重に背負われた「古い刀の鞘」へと一斉に向いた。

    「……ッ!?」

    ヨンホンが初めて、その裂けた口元から笑みを消し、僅かに不気味な細い目をみ開いた。

    かつて受けた命令により、永遠に宝を守るための人形となったヨンホン。その魂の依代であり、彼をこの世に繋ぎ止める唯一の絶対的弱点。それこそが、背中の鞘であった。
    いくら人形の肉体を肉片に変えようとも無意味だが、あの鞘を完全に粉砕されれば、ヨンホンの不死性は失われ、完全に消滅する。

    最新鋭のAIは、これまでの戦闘データをすべて演算した結果、ヨンホンが背後からの衝撃に対してのみ、極僅かに肉体の軸をずらし、執拗に背中を庇う挙動を取っていたことを見逃さなかったのだ。

    ガラガラガラガラガラッ!!

    5階の廊下の前後、さらには上下の天井と床が同時に裂け、数え切れないほどの地縛霊の顔が狂ったように突き出た。
    前後左右、上下。全方位360度、逃げ場のない完全な至近距離。そのすべての照準が、ヨンホンの背中――「鞘」へと向けられる。

    「落ちるッ! 落ちるッ! 落ちるうぅぅぅッ!!」

    空間が、怨霊たちの凄まじい身投げのエネルギーで歪む。
    次の一瞬で、数百発の「人間の弾丸」が、ヨンホンの弱点目掛けて同時に解き放たれようとしていた。

  • 171◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:43:14

    ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

    身投げマンションが放った、全周至近距離からの最大出力の『身投げガトリング』が炸裂した。
    数え切れないほどの怨霊の弾丸が、ヨンホンの背負う『鞘』へと向けて一点に降り注ぐ。凄まじい爆発と、質量を持った呪いのエネルギーが5階のフロア全体を完全に消し飛ばし、建物の中央に巨大な空洞を作り出していく。

    だが、その硝煙の渦が晴れたとき、そこにはあり得ない執念の光景が存在していた。

    「ハ……、ヒ、ヒヒ……アハハハハハハハ!!!!!」

    ヨンホンは、自らの『魂人形』としての肉体を限界まで引き伸ばし、背中の鞘を包み込むようにして「肉体の盾」と化していたのだ。
    人形部分はどれほど破損しても無条件に回復する。彼は自らの身体が数千回、数万回と引き千切れ、影の塵となって消滅し、再構成される超絶的な地獄の激痛を、ただ「守る」という絶対遵守の命令と拷問への執念だけで耐え抜いた。

    その結果――彼の腕の中には、傷一つない『鞘』が完璧に抱き留められていた。

    「守り切った、守り切ったぞ!! わしの勝ちだなぁ、身投げマンション!!!」

    ヨンホンは血と影に塗れた顔を上げ、崩壊しつつある吹き抜けの最上階、20階を見上げた。
    彼の研ぎ澄まされた処刑人のセンサーは、先ほどの一斉射撃の際、全100部屋の中で唯一、全く弾丸を発射せず、不自然なほどの静寂を保っていた「ある一つの空間」を完全に捉えていた。

    20階、205号室。
    最新のAI設備がどれほど顔認証やトラップで隠蔽しようとも、最後の最後に残ったその部屋こそが――この巨大な怪異の核である『管理人の部屋』だった。

    「待たせたなぁ、管理人。極上の拷問の時間だァ!!」

    ヨンホンは鞘を再び背中に叩き込むと、残された足の筋力を爆発させて跳躍した。

  • 172◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:43:27

    崩壊しつつあるマンションの壁や剥き出しの鉄骨を、影のように不気味に蹴りながら、目にも留まらぬ速度で垂直に駆け上がっていく。

    『警告:管理人の部屋への物理侵入を許しました。構造維持限界を突破。防衛システム、シャッ――』

    管理AIの音声が完全に途切れるよりも早く、ヨンホンは205号室の重厚な防犯ドアを、魂を切り裂く剣の一閃で跡形もなく粉砕した。

    部屋の奥に佇んでいたのは、古びたガトリングガンの引き金に手をかけたまま、半ば壁のコンクリートと一体化している、この怪異の本体――「管理人の霊(コア)」だった。

    「ヒヒ、お前がこの悲惨な劇場の支配者か。――さあ、死ぬよりも酷い声を上げろ!!」

    ヨンホンは管理人の霊の胸元へと、魂を切り裂く処刑の剣を深く、深く突き刺した。
    物理的な防御や新築の設備を一切無視する、ヨンホンの『魂人形』の真骨頂。

    「ギ、ェ、ェェェェェェェーーーーーーーッッッ!!!!!」

    管理人の魂が根底から捩じ切れ、生命に対して叫びを上げるほどの、これまでにない極大の激痛の絶叫が、身投げマンションの全体へと響き渡った。
    その絶叫を特等席で耳にしたヨンホンは、キバノロの咆哮のような狂気的な笑い声を、火星の赤い夜空へと轟かせた。

    「ハハハハハ! 最高だ! この響き、この苦悶の表情! これだから処刑人は辞められんわァッ!!」

    核である管理人の部屋が完膚なきまでに拷問・破壊されたことで、身投げマンションを維持していた最新鋭のWi-Fiも、顔認証も、AI設備も、そしてガトリングガンの怨念も、すべてがドミノ倒しのように完全崩壊を始めた。
    築80年の老朽化したコンクリートがサラサラと音を立てて砂へと還り、内部に取り込まれていた何千もの地縛霊たちが、数百年ぶりの呪縛から解き放たれて霧のように夜空へと消えていく。

    巨大な建築物の怪異が、完全に沈黙し、ただの広大な灰の山へと還っていく。
    崩壊したガレキの頂点に、漆黒の人形、ヨンホンはぽつんと立っていた。
    武勇を誇る者を侮蔑し、ただ目の前の巨大な存在を蹂躙した悦びの余韻に浸りながら、彼は背中の鞘を愛おしそうになぞる。

    「さて……次は、どの魂を啼かせてやろうかなぁ」

    夜闇のシアパレリに、影法師の拷問官の不気味な笑い声だけが、いつまでも、いつまでも冷たく響き渡っていた。

  • 173◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:43:44

    以上

    順番を間違えてしまいました

  • 174◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:44:08

    題名『仕立て人は過去を笑い、令嬢は殻の中』

  • 175◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:45:10

    夜の静寂が支配する、火星の辺境都市「シアパレリ」の旧市街区。
    地球とは異なり、希薄な大気を抜けて届く星々が冷たく見下ろすその場所は、錆びついたネオンがチカチカと不規則に明滅するだけの、死に絶えた路地裏であった。地面に転がる廃棄コンテナや、乾いた火星の赤土が混ざり合う風が、ヒュウヒュウと不気味な音を立てて吹き抜けていく。

    その闇のただ中に、場違いなほどリラックスした様子で佇む一人の青年がいた。

    土佐津遊徒、18歳。
    端正な顔立ちに、全国模試トップ3を維持する怜悧な知性を宿した瞳。陸上大会で全国優勝を果たすほどの極めて高い身体能力を持ちながら、彼の内面には決定的な破滅の穴が空いていた。生来「罪悪感」という概念が完全に欠落しており、一度行った失敗を学習することが決してない。彼は過去を振り返らず、未来を恐れない。ただ「今この瞬間」を心地良くするためだけに、片手に握った愛用のバタフライナイフをシャキシャキと無意味に回転させていた。

    「いやあ、今日の夜風は本当に気持ちがいいね。まるで僕のこれからの時間を祝福してくれているみたいだ。うん、実に素晴らしい夜だよ」

    遊徒は誰もいない壁に向かって、さも親しげに語りかけた。
    彼のその言葉は、他者との情緒的な交流を意図したものではなく、ただ彼の脳が「この状況ならこう言うべきだ」と弾き出した、ただの条件反射(ルーチン)に過ぎない。彼にとって世界は、自分を心地よくするための劇場でしかなかった。

    その時、暗闇の奥から、衣服の擦れる贅沢な絹の音がザァ、ザァと近づいてきた。

    現れたのは、夜の闇に浮かび上がるような、豪奢な黒のレースとフリルをあしらったゴスロリ衣装を纏う美しい少女だった。令嬢ホムンクルスフウリュアレ。

  • 176◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:45:28

    「剣姫令嬢」の異名を持つ本物のエウリュアレの剣術を完全に引き継ぎながらも、その良識をすべて削ぎ落とした残虐なる人工生命体。彼女は遊徒の姿を認めると、フリル付きの扇子で口元を優雅に隠しながら、お淑やかでありながら酷薄な響きを持つ声を漏らした。

    「あら、あらあら。このような寂しい場所で殿方とお会いできるなんて、お労しいことですわ。ですが、わたくし、あなたのその澱んだ、何も映していない瞳が大変気に入りましたの」

    「おや、お嬢さん。僕の目が気に入ったのかい? それは光栄だな。僕も君のその綺麗な服を、もっと鮮やかな赤色に染めてあげたいと思っていたところなんだ。お互いに好みが合って嬉しいよ」

    遊徒は満面の笑顔で答えた。
    会話のキャッチボールが完璧に成立しているように見えて、その実、遊徒の脳内にはフウリュアレの「気に入った」という意思など一文字も届いていない。彼はただ、目の前にある肉体をどう切り刻めば今この瞬間が楽しくなるか、その一点のみで言葉を紡いでいる。どこまでも自分の刹那的な快楽だけを優先する男。

    フウリュアレは扇子を閉じると、ドレスのフリルに隠された細身のレイピア(細剣)を、滑らかな所作で引き抜いた。銀色の刃がネオンの光を反射して冷たく光る。

    「結構ですわ、本当に素晴らしいお返事。それでは、これ以上の会話(返事)は無用ですので――これより、わたくしたちの決闘(ウェディング)を始めさせていただきますわ!」

    「いいね、決闘か。僕、そういうの、今すごくやりたい気分だったんだ。早速始めよう」

    遊徒の固有能力『空豆の仕立て人(リカバビーン)』。それは目の前でいかなる惨劇が起ころうとも、それをただ「笑って受け入れる」だけの精神異常。

    狂気のお嬢様が突き出す必殺の刺突と、失敗を学習しないシリアルキラーのナイフ。交わるはずのない二つの異常性が、火星の夜闇の中で、最悪の歯車となって噛み合おうとしていた。

  • 177◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:46:28

    フウリュアレの細い手首から放たれた刺突は、まるで一本の閃光のようであった。
    ベースとなった「剣姫令嬢」エウリュアレの持つ、流麗にして寸分の狂いもない達人級の剣術。それがホムンクルスとしての人間離れした筋力と組み合わさることにより、華奢な見た目からは想像もつかない強力な破壊力と速度が宿っている。空気を鋭く引き裂くレイピアの先端は、遊徒の喉元を正確に貫かんと最短距離を突き進んだ。

    しかし、土佐津遊徒という男は、精神的な欠陥と引き換えに陸上大会全国優勝を果たすほどの極めて高い身体能力と、天性の反射神経を有していた。

    シュッ!!

    遊徒は迫り来る刃に対し、恐怖で身を強張らせることもなく、ただ条件反射のままに首を真横へと傾けた。
    刃が首筋の皮膚をわずかにかすめ、赤い一筋の血が滲む。しかし、遊徒は肉が裂ける痛みなど一顧だにせず、回避によって生まれた一瞬の隙を見逃さずに踏み込んだ。片手に握られたバタフライナイフが、フウリュアレの白い首元へ向けて冷酷な弧を描いて突き出される。

    並の人間であれば、肉薄するシリアルキラーの凶刃に息を呑む場面。だが、フウリュアレの口元に浮かんだのは、すべてを嘲笑うかのような残虐なお嬢様の笑みであった。

    「ふふ、人間の貧弱な常識で、わたくしの高貴な肉体を測ろうなんて片腹痛いですわ!」

    グチャリ、と肉の構造そのものがねじ曲がる悍ましい音が路地裏に響いた。

    フウリュアレの左腕が、人間の骨格や関節の限界を完全に無視し、突如として不気味に伸長したのだ。
    それはまるで獲物を狙う蛇のようにしなり、遊徒がナイフを持つ手首を、人外の硬さと腕力でガチリと掴み取った。ホムンクルスゆえの固有能力『肉体変化』。さらにそれだけに留まらず、彼女の背中のフリルを破って、黒い粘着質な触手が数本、生き物のように這い出し、空中でウネウネと蠢きながら遊徒の四肢を絡め取らんと襲いかかった。

  • 178◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:48:00

    腕が伸び、背中から触手が生える。このような常軌を逸した人外の怪奇現象を間近で目撃すれば、いかなる熟練の戦士であっても一瞬の戦慄を覚え、精神を激しく揺るがされるはずだった。

    だが、土佐津遊徒という異常者には、そもそもその「恐怖を受け入れる精神の器」が最初から存在していなかった。

    「あはははは! 凄いね君! 腕が伸びるなんて、まるで手品(マジック)のようだ! 面白い、すごく面白いよ! もっと見せてよ、今最高の気分なんだ!」

    遊徒は手首を掴まれ、触手の網に包囲されるという、自らの「死」が確定しかねない惨劇を前にして、心底愉快そうに大声で笑い転げた。
    精神異常者の精神に、外部からの恐怖や精神操作で異常を来すことなど不可能なのだ。死を笑うスキル『リカバビーン』の狂気が、フウリュアレの残虐な演出を完全にただの「娯楽」へと貶めていた。

    遊徒は手首を掴まれたまま、自前の高い身体能力を強引に駆動させた。
    腕を掴んでいるフウリュアレの左腕そのものを「足場」にするようにして、残された足をアスファルトに強く蹴りつけ、驚異的な空中バランスで跳躍。迫り来る触手の刺突を、空中で自らの身体を捻ることで紙一重で潜り抜けてみせた。

    「あら、決闘の最中に大笑いするなんて、随分と無作法な殿方ですこと。ですが、その余裕がいつまで持ちますかしら?」

    フウリュアレは伸びた腕を瞬時に元の美しい形へと戻し、再びレイピアを優雅に構え直す。
    いかなる異常を目の当たりにしても一切の学習(恐怖)をしないシリアルキラーと、人間の枠を完全に外れた動きで獲物を追いつめるゴスロリホムンクルス。路地裏の局地戦は、互いの異常性を孕んだまま、さらに深い泥沼へと突入していく。

  • 179◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:49:32

    キィン! キキィン!

    夜の路地裏に、細剣とバタフライナイフが激突する鋭い金属音が連続して鳴り響く。
    遊徒の戦闘技術は、どれほど身体能力が高かろうとも、所詮は「鍛えた一般人程度」の域を出ない。対するフウリュアレは、歴史あるエウリュアレの剣術を完璧に受け継いだ達人である。純粋な技術の打ち合いにおいて、遊徒の荒削りなナイフ術が圧倒的に不利なのは明白だった。

    フウリュアレの淀みのない連撃が、遊徒の肉を確実に削り取っていく。

    「ふふ、口ほどにもありませんわね。ほら、お脚が疎かになっていましてよ?」

    「うん、そうだね。アドバイスありがとう」

    遊徒の頬、肩、そして太ももから、鮮血が次々と吹き出す。
    普通の人間であれば、これだけのダメージを受ければ「この間合いでの打ち合いは不利だ」「先ほどの回避の失敗を修正しよう」と、過去の経験から戦術を組み立て直すものだ。しかし、遊徒は「過去から学べない」異常者だった。失敗を失敗として脳に蓄積することができない。

    「うん、痛いね。でも、今の痛みが僕を一番興奮させてくれるんだ。さあ、もう一度同じことをしようじゃないか」

    遊徒は先ほどフウリュアレの突きを浴びて血を流したのと「全く同じルート」から、何の工夫もなく、再び直線的に突入した。

    「本当に、学習をなさらないお馬鹿さんですのね! 殿方のプロポーズ(胸の刺突)には、まだ早すぎますわ!」

    フウリュアレは呆れたように言い放ち、先ほど遊徒の肩を貫いたのと全く同じ、完璧なカウンターの軌道でレイピアを奔らせた。

    遊徒は当然、その攻撃への対策を学習していない。しかし、彼は「今この瞬間を心地良くするため」だけに、自らの限界を超えた身体能力を、ただの条件反射で爆発させた。

  • 180◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:49:44

    ズサァァッ!!

    遊徒はカウンターの刃を避けるのではなく、自らの肉が裂けるのを承知で、胸をわざと突き出すようにして突進したのだ。
    レイピアが彼の左胸の肉を深く抉る。しかし、それによって生まれた一瞬の「肉の引っかかり」を利用し、遊徒はフウリュアレの懐へと物理的に潜り込むことに成功した。

    「――なっ!?」

    過去の失敗から恐怖を学ばないからこそ、死を恐れるブレーキが一切存在しない。その刹那主義的な突進は、フウリュアレの達人級の計算を完全に狂わせた。

    遊徒の右手に握られたナイフが、下からすくい上げるような軌道で、フウリュアレのゴスロリ衣装の胸元へと突き立てられる。

    パキィン!!!

    衣服が裂けたその奥から、鈍い、しかし確かな「金属がぶつかり合うような音」が路地裏に響いた。
    遊徒のナイフの刃先が、フウリュアレの胸部に隠された、鉄ほどの強度を持つホムンクルス共通の『コア』の表面を激しく擦過したのだ。

    「……あら?」

    フウリュアレの動きが、一瞬だけ止まる。
    彼女の脳裏に、自身の製作者から与えられたある重要な決め事がよぎった。――【初めてのプロポーズの相手は、コアを傷つけた相手と決めている】。

    「あはは、今の音、凄く綺麗な響きだったね! 君の胸の中には、何かとっても素敵な『おもちゃ』が入っているみたいだ! ねぇ、それ僕にちょうだいよ!」

    遊徒は自らの胸から血をダラダラと流しながら、子供のような無邪気な笑顔で笑っていた。その瞳には、目の前の令嬢に対する恋愛感情も、恐怖も、何一つとして存在していなかった。

  • 181◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:50:19

    「……殿方。今、わたくしの『コア』に、傷をつけようとなさいましたわね?」

    フウリュアレの口調から、先ほどまでのお淑やかなお嬢様としてのニュアンスが完全に剥ぎ取られた。代わりにその可憐な相貌の奥から溢れ出たのは、ホムンクルスとしての防衛本能と、歪んだ自尊心が呼び覚まされた、ドロドロとした暗い「逆上」であった。

    初めての求婚(プロポーズ)の相手は、己の胸に隠されたコアを傷つけた者と決めている。それは製作者によって刻まれた絶対の法。

    しかし、目の前にいるこの男は、自分に対する敬意も、伝統ある決闘に対する夸りも一切持たない、ただの壊れた精神異常者だ。このような男に自らのすべてを委ねるなど、剣姫令嬢の矜持が許すはずがない。鉄ほどの強度を誇るコア自体はわずかに擦過されただけで致命傷(弱体化)には至っていない。しかし、その神聖な部位を汚されたという耐え難い事実が、彼女の残虐性を一気に臨界点へと押し上げていた。

    「宜しくてよ。あなたのその、人を舐め腐ったふざけた笑顔……わたくしが今ここで、永遠の死の形に固定して差し上げますわ! これぞ、わたくしからあなたへ贈る、最高の求婚(プロポーズ)ですの!」

    フウリュアレの身体から、尋常ではない量の黒い触手が爆発的に生やされた。

    それは周囲の錆びついたコンテナを紙のように切り裂き、アスファルトの地面を派手に捲り上げながら、全方位から遊徒の逃げ道を完全に塞ぐ暗黒の牢獄を形成していく。さらに、彼女の人外の腕力がレイピアに限界以上の超高速を与え、目の前の空間そのものを細切れの塵にするような、凄まじい連続刺突の嵐(フルーリー)へと変化した。

    「うわあ、凄い物量だね! 画面が黒い紐でいっぱいだよ! 目がチカチカするね!」

    遊徒はその絶望的な死の弾幕を前にしても、条件反射の笑顔を崩さない。

  • 182◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:50:30

    彼はこれまでの短い戦いにおいて、フウリュアレの触手が「どのように動き、どのような軌道を描くか」を全く学習していなかった。そのため、予測による効率的な回避を行うことが不可能だった。

    ドスッ! ズシュッ! バキィッ!

    「あはははは! 痛い! 痛い痛い痛い! でも、すごく気持ちがいいよ! 新しいおもちゃの刺激は最高だね!」

    触手の先端が遊徒の脇腹を深く抉り、レイピアの鋭い刃が彼の二の腕の肉を容赦なく削ぎ落とす。陸上大会全国優勝の卓越した脚力をもってしても、達人の剣術と人外の肉体変化が合わさった全方位攻撃をすべて避けることは不可能だった。遊徒の身体は、文字通り血だらけのボロ雑巾のようになっていく。

    しかし、どれほど肉体を物理的に破壊されようとも、遊徒の『リカバビーン』は完璧に機能し続けていた。

    失血死の恐怖に怯えて戦意を喪失することも、痛みに意識を曇らせることもない。彼はただ「今、この瞬間をどう心地よく生き延びて、目の前の美しい獲物を切り刻むか」という、飢えた獣のような刹那の知能だけで駆動していた。

    「さあ、お嬢さん、次は僕の番だ。君のその綺麗なドレス、もっともっとボロボロにしてあげるよ」

    遊徒は自らの血でできた赤黒い水溜まりの中にガチリと足を踏み込みながら、一切の躊躇なく、三度目となる超高速の突進を敢行した。過去の失敗から「恐怖」というストッパーを学ばない異常者。その弱点は、裏を返せば「いかなる致命的なダメージを負おうとも、次の攻撃への迷いが一切生まれない」という、対人戦闘における最も不気味な特異性へと昇華していた。

  • 183◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:51:08

    グシャッ!!!

    フウリュアレの冷酷極まるレイピアの先端が、突進してくる遊徒の右膝の関節を正確無比に射抜いた。
    頑強なホムンクルスの怪力によって放たれた一撃は、人間の肉と靭帯を一瞬で断裂させ、鈍く嫌な破砕音を路地裏に響かせる。通常の人間、あるいはどれほど死線を潜り抜けた強靭な戦士であっても、片足の支持基盤を完全に破壊されれば、その場に無様に崩れ落ちるか、移動速度を極端に低下させるはずであった。

    だが、土佐津遊徒という異常者は、「膝を壊されたら歩けない」という過去の経験や、生物としての当然の常識すら、その瞬間の脳内から綺麗さっぱり排除していた。

    「あはは! 歩けないなら、――その場で跳べばいいよね!」

    遊徒は右膝が砕けた瞬間の衝撃と痛みを、ただの「跳躍のためのエネルギー」として脳内で処理した。
    残された左足一本の筋力を爆発させ、アスファルトの地面を派手に陥没させるほどの凄まじい踏み込みを敢行。フウリュアレの頭上へと、文字通り「飛翔」したのだ。過去の失敗を学ばない脳が、恐怖のブレーキを一切介さずに叩き出した、人間工学を根底から無視した最適効率の超跳躍。

    「な、なんですの、その動きは……!? 狂っていますわ、本当に生理的に受け付けませんわ!」

    流石のフウリュアレも、片膝を完全に破壊された人間が一切の速度を落とさずに真上から襲いかかってくる怪奇現象には、予測の限界を迎えていた。
    彼女はお嬢様としての冷静さを完全に失い、恐怖と嫌悪に任せて背中の黒い触手をすべて上方へと伸ばし、空中を舞う遊徒を一本残らず串刺しにせんと突き出した。

  • 184◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:51:19

    遊徒には、それを空中で回避する術など最初から持っていなかった。

    ドスッ! ドススッ!!

    漆黒の触手は、遊徒の左肩と右脇腹を深く、容赦なく貫通し、彼の身体を空中で完全に固定した。
    肉を貫かれた遊徒の身体から、大量の鮮血がフウリュアレの黒いゴスロリ衣装へと雨のように降り注ぎ、豪奢なレースを赤黒く汚していく。

    勝負はあった。誰もがそう確信する、完全なる詰みの盤面。

    しかし、遊徒は自らの身体を貫く触手の激痛を、至上の快楽として笑い飛ばしながら、空中でバタフライナイフを逆手に持ち替えた。

    「捕まえてくれてありがとう、お嬢さん。これで――君に手が届くよ」

    遊徒は触手に貫かれたまま、自らの全体重を力任せに下へと落とすことで、自らを貫いている触手を「自らの肉体で滑り降りる」という、正気の人間ではあり得ない狂気の自傷行動に出た。
    ズブズブと肉がさらに裂け、内臓が悲鳴を上げる感覚すら心地良く受け入れながら、彼はフウリュアレの顔面の、すぐ目の前へと肉薄した。

    「ひっ――、来ないで、来ないでくださいまし、この化け物!!」

    フウリュアレの心に、初めて本物の「死の恐怖」が芽生えた。
    いかなる精神操作も通じず、どれだけ肉体を物理的に破壊しても、笑いながら己の肉を削って肉薄してくる血塗れの怪物。それは、彼女がこれまで優雅に決闘で切り捨ててきた「良識ある人間たち」とは根底から異なる、名付けようのない暗黒の深淵だった。

    フウリュアレは恐怖に狂いながらレイピアをがむしゃらに振り回したが、遊徒はそれを自らの左腕で強引に受け止め、骨が断たれる鈍い音と共に刃を肉体で固定した。

    そして、自由な右手に握られたナイフが、フウリュアレの胸元――先ほどの攻撃で衣服が裂け、完全に露出していた鉄の強度の『コア』へと向けて、まっすぐに突き下ろされた。

  • 185◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:52:06

    ガギィィィィィン!!!

    遊徒のバタフライナイフの先端が、フウリュアレの胸部に隠されたホムンクルスの『コア』へと、本日二度目の、そして最も強烈な一撃となって突き刺さった。

    鉄ほどの強度を誇るそのコアは、本来であれば並の人間がナイフを全力で突き立てたところで、傷一つつけられない強固な盾であるはずだった。しかし、遊徒がこの一瞬に込めたのは、陸上大会全国優勝の卓越した身体能力の全てと、自らの死を笑う狂気がもたらした、自傷によるリミッター解除――全体重と全生存本能を一点に凝縮した「異常なまでの点穴の力」であった。

    さらに、ナイフの刃先は、先ほどの攻防でコアの表面に擦過傷として刻まれていた「全く同じ傷の溝」へと、狂いなく突き刺さっていた。過去の失敗を学習しないがゆえに、一切の躊躇も迷いもなく放たれた一撃が、奇跡的な確率の重ね合わせによって同じ座標を穿ったのだ。

    パキ、パキパキ、ピキィン……。

    フウリュアレの胸の奥から、決定的な「崩壊の音」が響き渡った。

    「ああ……そんな、嘘……わたくしの……コアが、壊れて……」

    フウリュアレの瞳から、それまでの残虐な輝きと、お嬢様としての気位が急速に色褪せていく。
    ホムンクルス共通の絶対的な弱点であるコアの損壊。それは彼女の強靭な身体能力と、人間の枠を外れた肉体変化のシステムを、根底からシャットダウンさせるに十分すぎる致命傷だった。

    彼女の背中から伸び、遊徒の身体を磔にしていた無数の黒い触手が、一瞬にしてその張力を失い、ドロドロとした黒いタール状の液体となって地面へと崩れ落ちていく。同時に遊徒の身体を支えていた拘束が解け、二人の血塗られた身体は、冷たいアスファルトの上へと同時にもつれ込んだ。

    フウリュアレは激しく損壊した胸を手で押さえながら、大幅に弱体化し、人間の脆弱さへと引きずり下ろされた身体をガタガタと震わせ、信じられないという目で遊徒を見つめた。

    「殿、方……あなたは、わたくしを……。これが、あなたの……プロ、ポーズ……なの、です、わね……?」

    コアを破壊された彼女の人工的な脳は、プログラムされた宿命に従い、目の前の男を「生涯を共にする唯一の相手」として認識しようとしていた。息も絶え絶えになりながら、彼女は遊徒からの、勝利を飾る言葉、あるいは歪んだ愛の告白を待った。

  • 186◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:52:18

    しかし。

    「いやあ、本当に楽しかったな。君の腕が伸びる手品、もう一回見せてよ。今すごく見たい気分なんだ」

    土佐津遊徒は、全身の至る所から大量の鮮血を流し、自身も失血死寸前の状態でありながら、全く会話の噛み合わない、いつもの条件反射の言葉を口にした。

    彼の虚ろな瞳には、フウリュアレという一人の少女に対する興味も、コアを破壊したという勝利の達成感も、最初から最後まで一ミクロンも存在していなかった。彼はただ「今、この瞬間」の快楽を消費し終え、次の心地良さを求めているだけだった。

    「待っ……て……くださいまし……殿、方……わたくし、を……」

    フウリュアレの伸ばした華奢な手は、誰の心にも届くことなく、冷たいアスファルトの上へと力なく落ち、二度と動かなくなった。

    過去から学ばず、未来を構築しない、ただ現在という刹那を貪り続けるシリアルキラー。
    彼の学習なき狂気は、剣姫令嬢の誇り高きホムンクルスを路地裏の塵へと変え、自らも深い血の足跡を荒野に残しながら、どこまでも深い夜の深淵へと消えていった。

    戦いの終わった路地裏には、最後まで噛み合うことのなかった歪な対話の残響だけが、寂しく響き渡っていた。

  • 187◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 17:53:15

    以上

  • 188◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:00:26

    題名『張り子の怪談は霧に消え、亡国の姫は亡者(あい)を知る』

  • 189◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:01:12

    そこは、いかなる命の息吹も届かない、灰色に染まった荒野の果てであった。
    かつて栄華を誇りながらも、無慈悲な戦争によって一夜にして瓦解し、今や見る影もなく滅び去った王国の残骸。崩れた城壁の陰に、身を潜めるようにして一人の少女が震えていた。

    ウェルス・アル・マーサリア、17歳。
    死人のように青白い肌はストレスからか痛々しいほどに痩せこけ、ボサボサとした黒い髪が乱雑に顔を覆っている。彼女が纏う服やマントは、その意匠からして高貴な身分のものであると分かるが、それに見合わぬほどにボロボロに引き裂かれ、泥と過去の返り血に汚れていた。滅びた王国の唯一の生き残りの姫。しかし彼女の瞳にあるのは、王族としての誇りではなく、底なしの恐怖と絶望だけであった。

    「いや……来ないで……。お願いだから、私を責めないで……!」

    ウェルスは頭を抱え、ガタガタと歯を鳴らして怯えていた。
    彼女の周囲には、鎧を纏った不気味な死体の群れが、物言わぬ影のように佇んでいる。ウェルスの実の母親が遺した呪いの結界――『命亡き忠義の盾』。かつて彼女を守ると誓った王国の元騎士団長、10人の精鋭騎士、そして10人の魔術師団。彼らは生前の命と意思を奪われ、ただウェルスを守るためだけの強固なアンデッドと化していた。

  • 190◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:01:22

    ウェルス自身は彼らを味方とも敵とも認識できず、ただ「自分だけが生き残ったことを責め立てる亡者たち」だと思い込み、恐怖していた。だが、その実、亡者たちは彼女を狙う者が現れたなら、二度とそんな真似ができぬよう命を奪うまで戦い続ける無慈悲な自動人形であった。

    その亡霊の防壁の向こうから、奇妙な「霧」が静かに這い寄ってきた。

    霧の奥から現れたのは、悍ましい牛の頭部を首に乗せた、実体の曖昧な「何か」――怪異『牛の頚』。
    その存在の本質は「怪談を聞いたら恐怖で3日かからず死亡する」という、極限まで削ぎ落とされた死のルールそのもの。語り継がれることで形を得る怪異でありながら、現代においては「あまりの恐怖に誰も内容を語れないため、実在しない嘘の怪談」として娯楽消費されている。それゆえに本質は未だ空っぽであり、牛の頚は己の存在を確固たる真実にするため、相手に特化した恐怖を与えて殺し、噂を広めるための生贄を求めて彷徨っていた。

    まず牛の頚が見せたのは、知性生命体が娯楽の範疇で作り上げたハリボテの姿――《怪談》の表面であった。
    血の滴る牛の首が宙に浮き、おどろおどろしい呪いのオーラを放ちながら、ウェルスへと近づいていく。

    「ヒ、ヒイィィィッ……!! 嫌、嫌あぁぁぁっ!!」

    ウェルスが悲鳴を上げた瞬間、彼女の意思とは無関係に、周囲のアンデッドたちが一斉に動き出した。
    カシャリ、と冷たい金属音が響き、元騎士団長を筆頭とする11人の剣が抜かれ、10人の魔術師の杖に禍々しい魔力の炎が灯る。

    「――我が君に仇なす不浄の影め。不敬なる接近は許さぬ」

    意思なき亡霊の代弁者のごとく、元騎士団長であった生ける屍が、肉の削げ落ちた顎を鳴らして剣を構えた。
    実体のない都市伝説の表面と、主を守るためだけに駆動する最強の亡者兵団。交わるはずのない二つの「死」が、滅びた荒野の境界で静かに噛み合おうとしていた。

  • 191◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:01:50

    「我が君に仇なす不浄の影め。これ以上の接近は万死に値する」

    肉の削げ落ちた顎を鳴らし、アンデッドとなった元騎士団長が冷酷に言い放った。
    彼の掲げた大剣が、凄まじい風切り音を立てて『牛の頚』の表面――血の滴るハリボテの牛頭を真っ二つに叩き斬る。それと同時に、背後に控える10人の魔術師団の杖から、極大の劫火が放たれた。激しい炎が怪異の身体を包み込み、一瞬にしてその輪郭を灰へと変えていく。

    しかし、ウェルスの周囲に侍る亡者たちには、恐怖という概念が存在しない。彼らはただ「主への危害の排除」という絶対のプログラムのみで動く機械であった。

    それゆえに、彼らは気づいてしまった。目の前で燃え盛る牛の首が、ただの「娯楽として作られた中身のない張り子」に過ぎないという事実に。

    ――ピキィィィィィン、と世界の法則が書き換わるような冷たい音が響いた。

    「あ……ら……? 効いて、いない……?」

    頭を抱えて地面にうずくまっていたウェルスが、涙に濡れた瞳を恐る恐る上げた。
    炎の向こう側、灰となったはずの空間から、ドロドロとした「名付けようのない漆黒の何か」が染み出してくる。相手が表面の嘘を見抜き、ハリボテであると認識した瞬間、牛の頚はその本質たる『裏面』へと変質する。

    牛の頚の本当の恐ろしさは、ほぼ空っぽの器であるからこそ、対峙した相手の行動や記憶、そして精神の最も脆い部分を元にして、その個人のためだけに特化した《怪談》へと無限に変質・先鋭化していくことだった。

  • 192◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:02:02

    「ウ……ウェルス……。どうして、お前だけが……」

    闇の奥から響いてきたのは、牛の鳴き声ではない。それは、ウェルスが幼い頃に起きたあの凄惨な戦争で、彼女の目の前で肉片となって飛び散った、実の父親と母親の「声」であった。

    「ひっ――、あ、あああぁぁぁっ!!」

    ウェルスは短い悲鳴を上げ、自らの耳を強く塞いだ。
    ストレスから痩せこけた彼女の身体が、激しく痙攣を始める。牛の頚の裏面は、彼女の記憶を、彼女が最も恐れ、罪悪感を抱いている「自分だけが生き残ってしまった」という精神の傷に狙いを定め、それに合わせた呪いへと変貌を始めたのだ。

    「我が君、惑わされるな。あれは幻影だ」

    元騎士団長が再び大剣を構え、黒い闇へと突撃する。
    しかし、牛の頚は彼らの「主を守るために躊躇なく攻撃する」という行動すらも、自らを先鋭化させるための苗床として貪り食い始めていた。攻撃されればされるほど、相手の技を、呪いを、その恐怖を吸い上げ、牛の頚の怪談はより強固な「真実」へと書き換えられていく。

    「お前が殺した……。お前が生き残るために、私たちの命と意思を奪ったのだ……!」

    今度は、ウェルスを守っているはずの10人の騎士たちの顔が、ドロドロとした黒い泥のように溶け、かつて彼らが死んだ時の絶叫の表情へと変わっていく。
    知性ある者の精神を内側から破壊し、3日以内に確実に恐怖死させる死のルールが、じわじわと、しかし確実にウェルスの細い首を絞めようとしていた。

  • 193◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:02:53

    「嫌、嫌あぁぁぁっ! 私のせいじゃない……! 私は、私はただ、お母様に……っ!」

    ウェルスは荒涼とした地面に爪が割れるほど強く指を立て、ボサボサの黒髪を振り乱しながら絶叫した。
    青白い肌には冷や汗が引きも切らずに伝い、痩せこけた胸は過呼吸で激しく上下している。
    彼女の脳裏に、かつて王国が滅亡した日の、燃え盛る城の光景がフラッシュバックしていた。
    目の前で冷たい泥のように変質していく騎士たちの顔。それは彼女が毎夜悪夢に見る、自分を責め立てる亡者たちの幻影そのものであった。

    牛の頚の《怪談》は、彼女のその極限の恐怖と、防衛機構であるアンデッドたちの『無慈悲なまでの攻撃行動』を養分として、さらに深く、より鋭利に先鋭化していく。
    アンデッドたちが剣を振るい、魔術の火球を叩き込めば叩き込むほど、牛の頚はその攻撃の軌跡、魔力の質、そしてウェルスが抱く「守られていることへの罪悪感」を吸い上げ、呪いの強度を何倍にも跳ね上げていった。

    「不敬の極み……! 我が剣の届く限り、主への呪詛は断ち切る!」

    意思を奪われ、ただの自動迎撃人形と化した元騎士団長が、再び大剣を猛然と振り下ろした。
    空気を引き裂く重厚な一撃。しかし、漆黒の泥と化した牛の頚は、その刃を避けることすらしない。
    身体能力としての力はほぼ皆無であるにもかかわらず、大剣がその身体を割った瞬間、泥の中から無数の「人間の腕」が突き出し、騎士団長の鎧の隙間へと絡みついた。

    その腕は、かつて戦争で命を落とした、王国の罪なき領民たちの形をしていた。

    「なぜお前だけが。なぜ王族だけが生き残る。私たちを見捨てて、お前だけが……!」

    無数の怨念の声が、重奏となって荒野に響き渡る。

  • 194◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:03:18

    魔術師団が放つ防衛の障壁すらも、牛の頚が展開する「国が滅びた怪談」のプロットの一部として取り込まれ、逆にウェルスを精神的に孤立させる壁へと変質していく。
    ウェルスを守るために戦う騎士たちの剣撃そのものが、彼女を内側から破壊する「恐怖の真実」を補強する皮肉な証明となっていた。

    「ああ、お父様……お母様……皆、私を恨んでいるんだわ……」

    ウェルスの瞳から完全に生気が失われ、その心は狂気の淵へと急速に引きずり込まれていく。
    このまま恐怖が彼女の精神を完全に塗り潰せば、牛の頚の「3日を待たずに恐怖で死亡する」という本質的な死のルールが発動し、彼女の命は完全に収穫される。
    そして牛の頚は、この凄惨な怪談を世界に広めるための「真実の噂」を手に入れ、空っぽの器を満たすことができるのだ。

    だが、極限まで追い詰められたウェルスの、絶望に染まった思考の片隅に、あるひとつの歪な「違和感」が奇跡的に生じようとしていた。

  • 195◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:03:49

    「あ……、あ、う、嘘……。何、が、真実……?」

    ウェルスは、引き裂かれそうになる頭を両手で必死に押さえつけながら、濁った瞳を大きく見開いた。
    彼女の眼前では、なおも意思なき亡者となった元騎士団長が、自身の肉体が呪いの泥に侵食されながらも、機械的に大剣を振るい続けている。
    魔術師たちの放つ魔力の炎が夜闇を赤黒く染め上げ、牛の頚が紡ぎ出す「亡国の怨念」の怪談と激しく衝突し合っていた。

    しかし、恐怖が極限に達し、精神が完全に崩壊する一歩手前で、ウェルスの脳裏に冷徹な違和感が走った。
    彼女は幼い頃から、母の遺した『命亡き忠義の盾』という呪いと共に生きてきた。
    彼らが自分を責めているという強迫観念は、あくまで彼女自身の内罰的なストレスが作り出した「妄想」だ。
    だが、今目の前で展開されている怪談は、あまりにも彼女の記憶のディテールに、彼女自身の罪悪感の形に「都合よく寄り添いすぎている」。

    (どうして……? この化け物は、どうして私が一番言われたくない言葉を、こんなに正確に知っているの……?)

    まるで、彼女自身の心を鏡のように映し出しているかのような、不自然なまでの先鋭化。
    もしもこの怪異が、最初から「亡国の悲劇」を司る絶対的な神や悪魔であるならば、わざわざウェルスやアンデッドたちの行動を「元にして」変質していく必要などないはずだ。
    最初から完成された圧倒的な恐怖の物語を叩きつければいい。それをしてこないということは――。

    「あなた……、本当は、何も無いのね……?」

    ウェルスの唇から、震えながらも、核心を突いた呟きが漏れ出た。
    その瞬間、激しく蠢いていた牛の頚の漆黒の泥が、ピきりと奇妙な硬直を見せた。

    そう、牛の頚の本質は、未だにほぼ「空っぽ」なのだ。

  • 196◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:04:16

    世間に流布している「牛の頚の話を聞くと死ぬが、誰もその内容を知らない」という嘘の怪談。内容が無いからこそ、対峙した相手の心や行動を取り込んでハリボテを肉付けする他になかった。
    相手がその「中身の無さ」に気づき、自ら別の『物語』を構築し始めたとき、牛の頚はその新しい話を取り込まざるを得なくなり、呪いの主導権を奪われるという致命的な弱点を、この怪異は抱えていた。

    「私の……私の知っている、王国の皆は……。こんな、私を呪って殺すような、卑劣な人たちじゃない……!」

    ウェルスは涙をボロボロと流しながら、泥にまみれた顔を上げて叫んだ。
    怯えきっていた彼女の心の中に、亡き両親や騎士たちへの本当の記憶と、彼らの名誉を守りたいという、微かな、しかし決定的な『意志』が芽生え始めていた。

    「私のために死んでくれた皆は……。私を、生かすために、戦ってくれたのよ……!!」

    ウェルスが紡ぎ始めた新しい「解釈(おはなし)」。
    それは、牛の頚が今まで取り込んできた「復讐の怪談」と真っ向から矛盾する、人を救い、忠義を讃えるための物語の始まりであった。

    話が矛盾したその刹那、牛の頚を構成していた因果の糸が激しく縺れ合い、怪異の動きに明確な「隙」が生じた。

  • 197◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:04:49

    「う、あ、あああ……っ!」

    牛の頚を形作っていた漆黒の泥から、これまでとは全く異なる、不協和音のような悍ましい軋み音が鳴り響いた。

    ウェルスが涙ながらに叫んだ「皆は私を生かすために戦ってくれた」という言葉。それは、牛の頚がウェルスの罪悪感から簒奪し、必死に編み上げていた「見捨てられた領民と騎士の復讐譚」という《怪談》のプロットを、根底から否定する聖なる矛盾であった。
    怪異の核は未だに空っぽの器に等しい。それゆえに、知性生命体がその場で強く思い描き、語り始めた新たな設定を、牛の頚のシステムは拒絶できずにそのまま内部へと強制的に「取り込んで」しまうのだ。

    激しく蠢いていた怨念の泥が、ウェルスの紡いだ『忠義の物語』を取り込もうと歪に膨れ上がり、同時にこれまでの『呪いの物語』と衝突を起こして激しく破綻していく。

    「お前を許さ……、いや、お前を生かす……、我らは、王国の……、う、ああああぁぁぁッ!!」

    牛の頚から響く声が、矛盾によって引き裂かれ、バグを起こした機械のように混線し始めた。
    相手の話が矛盾した時、その破綻した因果を処理するために、牛の頚には決定的な機能停止の「隙」が生じる。その瞬間、ウェルスを精神的に縛り付けていた絶対的な死のルール――恐怖で3日以内に死亡する呪いの収縮が、目に見えて弛緩し、無力化されていった。

    「――我が君の意志、確かに受け取った」

    混迷する泥の隙間から、元騎士団長のアンデッドが、その虚ろな眼窩に微かな黄金の光を宿らせて静かに呟いた。
    ウェルスが彼らの戦いを「私を生かすための忠義」と定義したことで、母親の呪い『命亡き忠義の盾』が、彼女の意志と完全に同調したのだ。

  • 198◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:04:59

    騎士団長の身体を蝕んでいた呪いの泥が弾け飛び、彼の纏うボロボロの鎧に、かつての王国の栄光を思わせる魔力の輝きが満ちていく。

    「魔術師団、総員! 我が君の道を阻む、空虚なる幻影を焼き払え!!」

    「――了解(イエス・マイ・ロード)」

    10人の魔術師団の杖が同時に掲げられ、その先端から、先ほどまでの防衛の炎とは一線を画す、一点の曇りもない純白の「聖なる爆炎」が解き放たれた。
    10人の精鋭騎士たちもまた、ウェルスを責める亡者ではなく、彼女を守護する気高き盾として一斉に突撃を敢行する。

    「あ、ああ……皆……。私を、守ってくれているのね……!」

    地面にうずくまっていたウェルスは、初めて恐怖からではなく、救いと感謝の涙を流しながら、前線で戦う亡き同胞たちの背中を見つめていた。
    彼女自身に身体能力や戦闘力はほとんどない。しかし、彼女が恐怖を克服し、彼らを「敵」ではなく「味方」であると信じた瞬間、このアンデッドの軍勢は、あらゆる怪異を打ち砕く絶対無敵の軍隊へと変貌を遂げていた。

    物語を失い、自らの存在基盤を内側から食い荒らされた牛の頚は、もはや反撃の先鋭化を行うことすらできず、聖なる炎の檻の中で哀れにのたうち回るしかなかった。

  • 199◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:05:19

    ゴォォォォォォォォォッ!!!!!

    荒野の闇を真っ白に染め上げるほどの純白の聖炎が、のたうち回る『牛の頚』のすべてを包み込んだ。
    ウェルスが紡ぎ出した「忠義と名誉の物語」は、空っぽだった怪異の器を内側から完全に満たし、そして書き換えていた。人を呪い殺すはずだった都市伝説の枠組みは完全に崩壊し、人を救い、姫を守るための因果へと強制的に上書きされていく。

    もはや、そこには相手を恐怖死させる不条理なルールも、精神を蝕む凄惨な怪談の先鋭化も存在し得なかった。

    「我が君、これにて不浄の幻影は完全に潰えたり。どうか、もう涙をお拭きください」

    元騎士団長の大剣が、光の粒子を纏って泥の核を深く一閃する。
    それは、かつて王国を揺るがしたどの戦いよりも気高く、そして静かな一撃であった。
    彼を蝕んでいた黒い怨念の泥は、今や清らかな光の塵へと変質し、激しい音を立てて夜空へと霧散していく。

    牛の頚は、己の存在を真実にするために「集団のうち1人か2人を生かして帰し、噂を広めさせる」という、執拗な生存への執着を持っていた。

  • 200◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:05:29

    だが、この場にいる知性生命体はウェルスただ一人であり、彼女の心からは、この怪異に対する「恐怖」が完全に消え去っていた。恐怖に基づかない怪談は、ただの無害な寓話に過ぎない。
    誰の心にも恐怖の棘を残すことができず、ただの美しい記憶の一部として消化された瞬間、都市伝説『牛の頚』は、その存在の基盤を完全に失い、世界の理から静かに消滅した。

    「あ……、あど……。ありがとう、皆……。私、もう、怖くないわ……」

    ウェルスはボサボサの黒髪の間から、涙に濡れた、しかし確かな光を宿した瞳を覗かせた。
    彼女の周囲に整然と並ぶ21人のアンデッドたち。彼らの顔は、もう泥のようには溶けていない。生前の気高さを残したまま、静かに主への一礼を捧げている。
    彼女は今、ようやく理解していた。母親の遺した『命亡き忠義の盾』という呪いは、自分を責め立てるための罰などではなく、どんなに絶望的な世界であっても、彼女を一人にしないための「最後の愛」だったのだと。

    激しい戦いの終わった荒野には、もう不気味な呪いの霧は立ち込めていなかった。
    滅びた王国の生き残りの姫は、痩せこけた身体を少しだけ誇らしげに起こし、亡霊たちの守護に囲まれながら、未来の光を探すようにゆっくりと歩みを進め始めた。

    知性ある者が語り継ぐ限り、彼らの忠義の物語は、決して色褪せることなく、この荒野に灯り続ける。

  • 201◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 18:05:47

    以上
    次の安価も6人募集
    20:00から

  • 202二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 18:10:43

    フウリュアレの人対戦ありがとうございました
    お互いにお互いのルール(反射)で動いた末のすれ違いが美しい
    血に塗れた戦いも見応えがありました
    生成ありがとうございます

    どーでもいい話ー
    土佐津は屠殺ごっこをした子供と藁と炭とそら豆がモチーフだったり

  • 203二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 18:14:38

    >>202

    ありがとうございます、これ絶対映像化できないですね。

  • 204二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 18:18:58

    >>203

    2000年代の伝奇小説というか空の境界とか月姫的なやつ…わかります

  • 205二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 18:21:44

    >>204

    初っ端から吸血鬼がバラバラにされるところから始まる?

  • 206二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 18:23:54

    >>205

    十七等分の花嫁のことか

  • 207二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 18:34:04

    ウェルスの方対戦ありがとうございました
    牛の頚お疲れ様
    ギミックキャラであるが故に、攻略方法を発見されたら負けやすいをストレートに行かれたなぁ
    けれど、ウェルスのストーリーならば重要な敵役として存在できたからその点では良かったねぇ

  • 208二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 19:59:10

    >>207

    こちらこそたいありでした!

    良き戦いを見させていただきました

  • 209二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 19:59:59

    このレスは削除されています

  • 210二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:00

    名前:魔剣士刀時蒼坂
    年齢:25歳
    性別:男性
    種族:人間
    本人概要:伝説とまで呼ばれた若き剣聖。
    妖術、剣術に極めて卓越しており、特に居合抜刀術が得意、妖魔退治がメインであり、人と戦うこともあるがトドメは刺さずどんな悪人でも力を封じるお札で完全に反省するまで身動きを封じるに留める、極めて霊感が強く精神攻撃の類にも慣れている他相手の内面を見抜く能力の高さも特徴である、その為彼に悪人認定されるということは根っからの悪人であるということである、自身に絶対の自信を誇るが、決して油断せず侮らず確実に相手を叩きのめす、いつでも余裕な態度を崩さず何処か紳士的で掴みどころのない性格だがなんだかんだ優しい。
    能力:妖刀紅血月
    能力概要:彼の血によく馴染む刀、一度に多くの妖力を溜め込むことができる幻の剣
    弱点:刀に込めた妖力が尽きた際は媒介とする為に一度鞘に戻すか妖力をまとっていない普通の刀のまま戦うか選ぶ必要があり、どちらにしても一時的に弱体化を強いられる。

  • 211二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:00

    >>201

    名前:漂流セシ大逆者、エクソーディウム

    年齢:17

    性別:女?

    種族:オディウム・スコォルピオス

    本人概要:全く別の世界からこの世界に漂流してきた女性?。

    彼女はかつて自身のいた世界にあった神々へ反逆した、理由はそう、簡単な理由だ。

    神の都合で、家族を奪われ、自らの下半身を醜い蠍の物へと替えられたからだ。

    もとはとある王国の姫騎士をしており、高貴な血統と武勇をもって名をとどろかせていた。

    そんな折、自らの父が、神々にとって不都合な発見をした『悪魔との契約』について、その中でも、かつて封印された強大なものについてだ、そのことを理解した神々によって即座に父は石にされ、周囲の者は、罰を受ける事になった、兄は理性を奪われ怪物に、エクソーディウムは醜い蠍に上半身を縫い付けられた。

    そうして、彼女は復讐を誓い、父が残した契約に基づき、悪魔の力を簒奪し、神々へ挑んだ。

    結果は引き分け、あと一歩まで追い詰める事には成功したが、世界から追放され、漂流した。

    容姿は3mはある大蠍の頭部からスレンダーの金髪碧眼の長髪を伸ばし、軽装の鎧に、巨大な二本の大剣を担いでいる。

    性格は執念深く、復讐にも走るが根は善良…そして腹黒い一面も

    能力:悪魔契約『タルウィ/ザリチュ』

    能力概要:彼女の契約した二柱の悪魔の力を契約に則り、自らの『人間性』を対価であり、燃料として用い力を引き出すもの。

    タルウィ:熱を操り、自身の持つ大剣を熱し火力を増加させたり、周囲を熱したりできる。

    生物を熱する場合は自身の肉体が触れている必用があり、もっぱら蠍のハサミや針を起点として使っている。

    この力で捧げる『人間性』は『老い』、自身の内臓を老いさせることを対価としている。

    ザリチュ:渇きを操り、周囲の地形を砂漠へ代えたり、敵対者の水分を枯らすことができる。

    この力は環境への適用がメインであり、自身のフィールドを作るのに特化している、意思を持つ生物に適用することもできるがその場合、自身が触れている上で通常の倍の『人間性』を消費するが、その分凶悪と言える。

    この力で消費する『人間性』は『健康』、使えば使うほど、病魔に蝕まれていく。

    弱点:遠距離への対応手段が投擲などしかないため遠距離戦が苦手。

    人間部分が本体であり、通常の人間程度の強度しか持たない。

    要望(任意):能力により自身の肉体に生じた変化を明示してほしい

  • 212二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:01

    名前:天護 啓弥(ソロレンジャー)
    年齢:28
    性別:男性
    種族:人間
    本人概要:元は5人組のヒーロー集団「チームジャスティス」のリーダー「レンジャーレッド」だった男。
    しかし長年戦っていく内に仲間を一人ずつ失い、現在は彼一人。「ソロレンジャー」という呼び名は1人になった彼を嘲った者達が付けた蔑称。
    現在は半引退状態であり、事件事故が起きても後輩のヒーロー達に任せて積極的には動こうとはしない。
    昔は明るく真っ直ぐな人物だったが今はすっかり擦り切れており、暗く寡黙な性格。

    能力:レンジャーガジェット
    能力概要:左手に装備している「レンジャーデバイス」に「レンジャーディスク」という装置を装填する事で戦闘服「レンジャープロテクター」を一瞬で装着する。
    本来レンジャーディスクは1人1つだが、彼は失った仲間達のディスクを全て用いて戦闘を行い、それぞれのフォームの特性を活かしてあらゆる戦況に対応する。
    レッドプロテクター=彼が最初から使用していたフォーム。炎を纏う剣を使用できるバランス型。
    ブループロテクター=天護の相棒であった男が使用していたフォーム。バリアを展開できる盾を使用できる防御特化。
    グリーンプロテクター=チーム最年少だった女が使用していたフォーム。両手にクローを装備し、素早い動きで敵を切り裂くスピード特化。
    イエロープロテクター=チーム最年長だった男が使用していたフォーム。大型のハンマーを使用でき、鈍重な代わりに強烈な攻撃を叩き込む一撃特化。
    ピンクプロテクター=彼と恋愛関係にあった女が使用していたフォーム。ビームを放つブラスターを使用できる遠距離戦特化。
    必殺技=ジャスティスキャノン
    全フォームで使用する武器達を合体させて巨大なバズーカを作り出し、強力な破壊光線を放つ。

    弱点:赤は明確な弱点が無いが強味も無い。青は攻撃力が低い。緑は防御力が低い。黄は動きが遅い。桃は接近戦に弱い。

  • 213二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:02

    名前:仙堂律人(せんどりつひと)
    年齢:366歳
    性別:男
    種族:人間(錬金術師)
    本人概要:フラスコの錬金術師
    ホムンクルスの分野において特に優れた実績を残し、身の回りの世話をホムンクルスメイド(巨乳メガネ)に任せている
    現在は半隠居状態であり、アダム・カドモン錬金協会から支払われる特許料で生活している
    なおその内容は「猿でもできる!メイドホムンクルスの作り方〜カスタマイズ機能もあるヨ!〜」である
    能力:硝子聖母(ギヤマン・マリア)
    能力概要:器の中の割合を変えるスキル
    フラスコの中に塩と水の混合液を入れれば、水100%〜塩100%まで比率を変えられる
    これを利用することで水素100%で満たされたフラスコを爆発させる、塩酸でいっぱいにしてアシッドアタックなど多様な内容物で満たされたフラスコを爆弾のように投擲する
    弱点:御老体、安楽椅子から動かない
    移動はもっぱら車椅子で専属メイドホムンクルス任せ
    また能力の対象に生物は取れない、人体の中身を水100%にする、などといったことはできない

  • 214二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:02

    名前:霧切 霧子(キリギリ キリコ)
    年齢:18
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:合理的な性格で倫理観や感情などを理解したうえであえて無視した行動が出来る忍び。目的の為なら他人を利用したり卑怯な手段を選択する。師匠に弟子入りしてから3日で師匠を超えた伝説を果たしている。用心深く慢心もしない為慎重に行動し相手を分析してから攻撃する。常に攻撃が失敗した場合も事前に考えて複数の策を準備している。大量の侍や忍者に囲まれても忍法を使わずに無傷で勝てるぐらい戦闘も強い。分身の術や身代わりの術、口寄せの術、雲隠れの術、隠れ身の術、火遁の術、水遁の術、木遁の術、土遁の術、など忍びが使用する基本的な忍法は全て完璧に使いこなしている。武器はクナイや手裏剣、短刀、煙幕、など忍びが使用するものを使用している。
    能力:侵入
    能力概要:ぬらりひょんという妖怪と契約して手に入れた忍法。いつの間にか側にいる、ただそれだけの忍法。転移や瞬間移動、透明化などとは違い他の人は何故か気付く事が出来ず無意識の内に家の中や人の近くまで侵入している。目の前で視界に収めていても戦闘して戦っている途中でも当たり前のように側にいて急所を刺して殺す。忍法そのものに攻撃力は無いが素の力が強く頭が良い天才が使用するからこそ恐ろしい忍法である。奥義として百鬼夜行に出てくる妖怪の力を一次的に借りる事が出来る。
    弱点:肉体の強度は一般人

  • 215二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:03

    名前:昏き光を纏いし騎士

    年齢:数千歳

    性別:無

    種族:さまよう鎧?(聖剣)

    本人概要:かつては白く輝いていたであろうが、今では昏き闇を輝かせる剣を持ったひとりでに動く鎧。
    しかし、その正体はかつて神が鍛えし聖剣だったもの。
    邪悪なる者を斬り続け、担い手を失い続け、そこに残るはただ敵を斬り、人々を護るという想い。
    しかし、幾重もの勇者の意志を読み取った聖剣には誰が敵か、誰が護るべきものかの判別はできない。
    かつての勇者たちの鎧の継ぎ接ぎに自身を持たせ、彷徨う鎧となったのだ。
    その斬撃は生者を呪い、亡者を祓う。

    能力:穢れし、されど輝きし聖剣

    能力概要:何人もの勇者の遺志を受信し、多種多様なものを斬り続けたことにより己自身で動けるようになった聖剣。
    その穢れた聖剣は清浄なる聖なる光の力も、怨念に満ちた闇の力も両方をその刀身に宿す。
    それゆえに邪を祓う力も、光を侵す力もこの聖剣には通じない。
    また、刀身に宿されし光と闇の力は魔術の行使すら可能とした。
    自身の力で操る鎧に持たせているが、自身だけを浮かせて動くことも可能であるため鎧を砕いても油断してはならない。
    元からの機能としてある程度の刃こぼれや、根元からぽっきり折れない限りは自動修復機能が働く。

    弱点:聖剣といえど剣であることには違いないため、刀身を粉々に砕かれれば無力化される。
    また、光や闇の魔術を使えるとはいえ剣であることに変わりはないため、光や闇の力や魔術、斬撃を無効化するような相手には太刀打ちできない。
    また、自身の内に満ちている勇者たちの覚悟、切り捨てられし敵たちの怨嗟、全てを飲み込むほどの意志と覚悟を持つ者がこの剣を握れば主人と認められるであろう。

    要望(任意):セリフを描写するなら音声は発生させず、あくまで聖剣内部でのシステム音声みたいな感じで

  • 216二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:15

    名前:鴻上越哉
    年齢:17
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:
    困っている人を放って置けない気質であり、カラッとした性格の笑顔が爽やかなイケメン。(cv花江夏樹)
    少女を交通事故から助けるために死亡して転生したが、転生先の異世界でも信念を貫き人助けを続けている筋金入り。
    自分の信念を曲げない範囲であれば意外と小狡く、目的のために使えるものは何でも使う主義。
    人助けに欠かせない実力を鍛えるため転生者の師匠の元で3年間修行し、転生者特典の使い方と剣技をマスターした。
    セリフ例:
    「鴻上越哉だ、よろしくな」
    「俺は欲深いだけだよ。人を助けたいって自分の願いに底なしに貪欲なだけさ。」
    能力:転生特典-≪創剣≫
    能力概要:生物に触れることで手の刻印が輝き、その生物の意志を具現化した【剣】を創り取り出すことができる。
    【剣】の特殊性や強さは元となった生物の意志の強さに対して指数関数的に比例し上昇する。
    基本は自身の強い意志を【剣】にして3年間の修行で鍛え上げた剣術で戦う。使えるものは何でも使う主義なので相手の思惑を逆手に取るといった柔軟な戦い方もできる。
    弱点:戦闘中に1つの生物から取り出せる【剣】は1本までであり、破壊されても補充はできない。
    自身から創り出した【剣】が破壊されると心身共にダメージのフィードバックを受ける。

  • 217二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:26

    刹那の見切り?

  • 218二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:00:57

    59秒に出してしまった…
    ミスった

  • 219二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:02:08

    一つだけフライングしてら

  • 220二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 20:06:30

    >>214

    スレ主じゃないから分からないけど、これって弱点になるの?


    肉体の強度が普通の人と同じってのは別にマイナスにはならないと思うんだけど

  • 221◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 20:18:39

    >>210

    >>211

    >>212

    >>213

    >>214

    >>215

    採用

    >>220

    このタイプの弱点は能力次第でOKです

    アカシックレコードにおすすめの弱点も記載があるのでぜひ

  • 222◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 20:59:59
  • 223二次元好きの匿名さん26/06/22(月) 21:15:38

    対戦カードと対戦が楽しみだぁ

  • 224◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 21:17:34

    昏き光を纏いし騎士vs仙堂律人
    漂流セシ大逆者、エクソーディウムvs天護 啓弥
    霧切 霧子vs魔剣士刀時蒼坂

  • 225◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:19:49

    題名『数千年のバグは硝子に砕け、マエストロは安楽椅子で嗤う』

  • 226◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:21:57

    その戦場は、あらゆる有機物の存在を拒絶するような、結晶化した塩と硝子破片が敷き詰められた不毛の塩砂漠であった。雲一つない空からは、不自然に歪んだ世界の太陽が、ギラギラとした刺すような光を地上へと投げかけている。その乾燥しきった大気を震わせ、ズシン、ズシンと、大気を圧迫するような重厚な金属音が規則正しく響き渡っていた。

    そこにいたのは、一個の『軍隊』ではなく、ただ一振りの剣、そしてそれを保持するためだけに存在する継ぎ接ぎの鎧であった。

    『昏き光を纏いし騎士』。
    その鎧は、およそ一人の人間が身に纏うための整合性を完全に欠いていた。ある部分は巨躯の誇る重騎士の重厚な肩当てであり、ある部分は俊敏なる神速の剣士が用いていたであろう細美な白銀の脛当て。それら幾重もの時代、幾重もの戦場で担い手を失い、打ち捨てられてきた勇者たちの遺品が、まるで執念の糸で縫い合わされたかのように、不気味なシルエットを形成して自立している。
    そしてその中央、鎧の主が握り締めているのは、かつて神が鍛え上げ、今や光と闇の相反するエネルギーが限界を超えて混線し、ドロドロとした昏き輝きを放つ、呪われし聖剣そのものであった。

    聖剣の内部回路では、数千年にわたり、数千人の勇者たちの遺志と、切り捨ててきた数万の魔族の怨嗟が、逃げ場のない演算領域で渦巻き、完全に「バグ」を起こしていた。

    『――システム、警告。周囲、生体反応、および、高エネルギー魔力残渣を検知――』

    『――個体識別、不能。直近の、命令プロトコル「人々を護れ」を、最優先実行。ただし、対象が「護るべき人々」であるか、「駆逐すべき邪悪」であるかの、判別フラグが、破損しています――』

    『――最適解の導出、失敗。……判定:眼前に存在するすべての高エネルギー体を、潜在的脅威とみなす。排除シーケンスを、開始します――』

    ガチリ、と鎧の関節が鳴る。その音声は口から発せられるものではなく、聖剣の刀身が微細に振動し、空間の分子を直接震わせる、無機質で冷徹なシステム音声であった。

    その聖剣の、狂気に満ちた照準の先に鎮座していたのは、およそ戦場には似つかわしくない、一台の豪奢な最高級革張りの車椅子であった。

  • 227◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:22:10

    そこに腰掛けているのは、御年366歳を迎える、人間の錬金術師、仙堂律人(せんどうりつひと)。
    その肉体は老衰の極みにあり、肌は乾燥した古文書のようにひび割れ、深い皺の奥にある瞳は、すべてを達観したかのような、あるいはすべてを退屈に思っているかのような、奇妙な静けさを湛えている。アダム・カドモン錬金協会から支払われる莫大な特許料――その内容は「猿でもできる!メイドホムンクルスの作り方〜カスタマイズ機能もあるヨ!〜」という、およそ世界最高峰の錬金術師とは思えぬ、趣味と実益を極限まで追求したふざけた代物であったが、その実力は、世界の理をフラスコの中に閉じ込める『硝子聖母(ギヤマン・マリア)』の到達者。

    彼の背後には、彼の身の回りの一切の世話を完璧にこなす、専属のホムンクルスメイドが、寸分の狂いもない姿勢で控えていた。
    その豊満な胸元はフリルのついたメイド服を限界まで押し広げ、知的で冷徹な印象を与える真円のメガネの奥の瞳は、主人である律人への絶対的な忠誠と、目の前の怪異に対する冷徹な戦術演算の光を宿している。

    「おやおや、なんともまぁ、賑やかで、そしてとびきり寂しい骨董品が歩いてきたものだねぇ」

    律人は安楽椅子から指一本動かさず、ただ口元にだけ、老獪な、そしてどこか哀れむような笑みを浮かべた。
    彼の声は掠れてはいたが、その一言が発せられた瞬間、周囲の塩砂漠の空気が、まるで巨大な硝子のドームに閉じ込められたかのように、一変して重密なものへと変化する。

  • 228◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:22:23

    「旦那様、前方より接近する個体、魔力波形から推測するに、単一の自律兵器ではありません。数千ノ、残存思念ガ、内部デ、完全ニ、デッドロックヲ、起コシテイル模様。極めて、危険です。処理を、いたしますか?」

    メイドホムンクルスが、眼鏡の位置を人差し指で静かに直しながら、肉声とは思えぬ滑らかな、しかし感情の削ぎ落とされた声で律人に問いかける。

    「いいや、私がやろう。せっかく特許料で半隠居生活を決め込んでいるんだ、たまには脳の洗濯をしないと、この366年物の老いぼれた頭の回路まで、あの錆びた剣のようにバグを起こしてしまうからね。……さあ、始めようか、数千年の迷子のご老人」

    律人が細く、骨と皮ばかりの手を、ゆっくりと上着のポケットから取り出した。その手には、完全に密閉された、一輪の美しいクリスタルを思わせる、透明なフラスコが握られていた。

    『――ターゲット、戦闘行動へと、移行したと、判断。……光魔術プロトコル、および、闇魔術プロトコル、同時展開。……これより、最大効率での、神速の、物理、および、概念、不可逆的、抹消を、行います――』

    聖剣のシステム音声が、空間の全方位から響き渡る。
    昏き光を纏いし騎士の足元から、眩いばかりの純白の聖光と、すべてを貪り尽くす漆黒の怨念が、まるで二匹の巨大な蛇のように絡み合いながら、天へと向けて爆発的に噴出した。相反する二つの極大のエネルギーが、騎士の構える聖剣の刀身へと超圧縮されていく。
    邪を祓う力も、光を侵す力も通用しない、絶対の矛盾を体現した聖剣が、一歩、地面の塩を踏み砕いて踏み出した。

    その速度は、数千年の勇者たちの武技の結晶。コンマ数秒の後には、律人の老いた首は、車椅子ごと、その空間の因果ごと、一刀両断に両断されているはずの、絶対の死の秒読みが開始された

  • 229◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:24:19

    ドッ、と大気が爆ぜた。

    次の瞬間には、『昏き光を纏いし騎士』の姿は元の位置から完全に掻き消えていた。
    数千年の歴史の中で、天賦の才を持った無数の勇者たちが磨き上げ、命と引き換えに聖剣へと刻み残した究極の縮地、あるいは神速の踏み込み。
    幾重もの鎧の継ぎ接ぎで構成された異形の巨躯は、その質量を完全に無視した超音速の突撃へと移行し、大気と塩の地面を衝撃波で凄まじく引き裂きながら、仙堂律人の安楽椅子へと肉薄する。

    聖剣の刀身に宿る、清浄なる聖光と、怨念に満ちた闇の力。
    それは混ざり合うことなく、一本の刃の表裏に限界まで超圧縮され、空間そのものをドロドロとした昏い輝きで焼き焦がしていた。
    邪を祓う光の結界も、光を侵す闇の魔障も、この聖剣の刃の前には無意味と化す。概念的な無敵性すらも、その絶対の矛盾の刃によって無慈悲に両断される。

    『――最適解の武技、選択。「神速・光闇二連一閃」。……生者を呪い、亡者を祓う不可逆の概念切断を、対象へ投射――』

    聖剣から空間へと直接振動するシステム音声が、まるで世界の終焉を告げるカウントダウンのように冷徹に響き渡る。
    上段から振り下ろされる一閃は、まさに回避不可能、防御不可能な「絶対の死」そのものであった。

  • 230◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:24:34

    しかし、その絶対の刃が律人の脳天へと叩きつけられる直前――。

    「旦那様、前方より不可逆の概念斬撃、到達まで0.003秒。防壁展開、および反撃の準備は完了しております」

    背後に控える専属メイドホムンクルスが、巨大な胸を微動だにさせず、真円の眼鏡の奥の瞳に淡々とした数字を映し出しながら、律人の乗る車椅子を僅か数センチメートルだけ後方へと滑らせた。
    その超人的かつ精密なサポートと同時に、律人は膝の上に乗せたフラスコを、干からびた指先で軽く「ピン」と弾いた。

    「おっと、危ないねぇ。数千年も引きこもっていた割には、ずいぶんと威勢が良い。だがね、ご老人。この世界において、割合(パーセンテージ)が変わるということの恐怖を、少しばかり教えてあげよう」

    律人の《硝子聖母(ギヤマン・マリア)》が発動する。
    彼が指先で弾いたフラスコの内部には、あらかじめ特殊な比率で調合された、無色透明の液体が満たされていた。
    律人の能力は、そのフラスコという閉鎖された器の中にある「物質の割合」を、0%から100%まで自在に書き換えるという、極めてシンプルでありながら、この世の物理法則を根底から蹂躙する究極の錬金術であった。

    パァン、と、フラスコの中で何かが弾ける音がした。

    次の瞬間、律人が念じた通り、フラスコ内部の内容物の割合が書き換わる。
    【水1%:水素99%】から【水素100%】へ、そしてその内部圧力を瞬間的に数万気圧へと上昇させ、さらに極小の静電気を100%発生させる。

  • 231◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:24:45

    生物の体内そのものを変化させることはできないという弱点はあるが、ひとたびフラスコから解き放たれた「物質」は、世界最悪の破壊兵器へと姿を変える。

    ドゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

    凄まじい大爆発が、塩砂漠の中央で炸裂した。
    超高圧の水素が完全に密閉された硝子の器の中で一瞬にして臨界を突破し、爆発的な熱量と衝撃波となって、迫り来る継ぎ接ぎの騎士を正面から完璧に迎撃したのだ。
    ただの火薬による爆発ではない。原子の比率そのものを狂わせ、純度100%のエネルギーへと変換されたその衝撃は、周囲の結晶化した塩を一瞬にして蒸発させ、広大な荒野に巨大なクレーターを穿ち、視界を真っ白な熱波で埋め尽くした。

    だが、爆炎の渦中から、再びあの無機質な声が響き渡る。

    『――外部熱量、および、物理衝撃を検知。……刀身へのダメージ、0.002%。自動修復機能の許容範囲内。……システム、魔術行使プロトコルへ、即座に移行。……これより、爆炎を無効化し、対象を包囲します――』

    爆発の熱風を、聖剣の刀身が放つ「闇」の力が完全に貪り喰うようにして相殺していった。
    光を侵す力も通用しないが、それ以上に、聖剣自身が持つ光と闇の二重の魔術障壁は、いかなる属性の魔術や熱兵器の攻撃をも即座に中和、あるいは吸収してしまうのだ。
    炎の中から現れた騎士の鎧は、爆発によっていくつかのパーツがひび割れ、剥がれ落ちていたが、担い手を持たぬ聖剣そのものが宙に浮き、継ぎ接ぎの鎧を磁力のように引き寄せて瞬時に再構成していく。

    「ほう、魔術も物理衝撃も、その不気味な刀身がすべて吸い尽くす、か。本当に、融通の効かない完璧なシステムだねぇ」

    律人は爆風で白髪を激しくなびかせながらも、車椅子の上から一歩も動かず、むしろその老いた顔に、さらに深い、歪な歓喜の笑みを刻み込んでいった。
    彼の目の前には、すでに次のフラスコが、メイドの手によって淀みなく差し出されていた。

  • 232◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:33:32

    『――物理衝撃、および熱量兵器による迎撃パターンを分析完了。……対象、仙堂律人の防衛能力は、主に物質変成および局所爆発に依存。……これより、単一属性の無効化を突破するため、光と闇の多重魔術、並びに概念斬撃の同時波状攻撃へと移行します――』

    爆炎が完全に晴れぬ塩の荒野に、聖剣の刀身が震わせる無機質なシステム音声が幾重にも反響し、大気そのものを冷酷に凍りつかせていく。
    『昏き光を纏いし騎士』の継ぎ接ぎの鎧は、先ほどの一撃で白銀の脛当てが消し飛び、黒金の大袖がひび割れていたが、その内部にある「聖剣」が昏き輝きを増すごとに、磁力のような因果の力で周囲の破片を強引に引き寄せ、元の異形なるシルエットを再構成していた。
    刃こぼれや、根元からぽっきり折れない限りは自動修復し続けるという、神が鍛えし至高の兵器としての機能が、数千年のバグを抱えながらも完璧に駆動している。

    騎士が再び構えた、光と闇を同時に宿す歪な刀身。その周囲に、一瞬にして数百、数千という「光の魔弾」と「闇の怨嗟の霧」が交互に浮遊し、魔法陣の構築すら経ずに展開された。

    『――「聖光の雨(ホーリー・レイン)」および「深淵の呪詛(アビス・カース)」、同時行使。……一斉射出――』

    ド、ド、ド、ド、ドガガガガガガガガガガッ!!!!!

    空間が割れるような轟音と共に、清浄なる邪を祓う光の弾丸と、生者を内側から腐らせる闇の霧が、網の目のように緻密な弾幕となって、仙堂律人の座る安楽椅子へと降り注いだ。
    その光と闇の多重魔術は、互いの属性を打ち消し合うことなく、むしろ反発し合うことで威力を数倍へと跳ね上げ、周囲の結晶化した塩を次々と極小の硝子へと変えていく。
    どのような魔術障壁であれ、光と闇の双方を完璧に防ぎ切ることは不可能に近い。片方を防げば、もう片方の概念が防壁を食い破る――それこそが、無数の勇者と魔族を喰らってきた聖剣の、自動演算が導き出した絶対の抹殺陣形であった。

  • 233◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:34:09

    しかし、その絶望的な魔術の豪雨の真っ只中で、安楽椅子に腰掛けた366歳の老錬金術師は、ただ退屈そうに一つ、ため息をついたに過ぎなかった。

    「旦那様、頭上より高エネルギーの多重属性魔弾、並びに精神汚染物質の接近を検知。合計2412発。防衛プロトコルを実行いたします」

    背後に佇む巨乳メガネのメイドホムンクルスが、主人の髪一筋すら汚させぬという絶対の忠誠を以て、その豊満な胸元から、一本の巨大な、そして極めて透明度の高い「特殊強化硝子の円筒」を取り出し、律人の頭上へと掲げた。
    それは律人が開発し、特許料で世界を席巻した技術の結晶。フラスコという「閉鎖された器」の概念を拡張した、移動式の錬金防壁であった。

    「おやおや、実にやかましいねぇ。光だの闇だの、数千年も前の概念を後生大事に抱え込んで。……いいかい、ご老人。私から見ればね、光も闇も、単なる大気中の分子の振動や、特定の元素が放つエネルギーの偏りに過ぎないんだよ」

    律人が、自身の干からびた手のひらの上で、二つの小さなフラスコを同時に転がした。
    彼の《硝子聖母(ギヤマン・マリア)》が、メイドが掲げた円筒、そして彼自身が持つフラスコの中で、同時にその「割合」を極限まで狂わせ始める。

    まず、頭上の円筒の中身が書き換えられる。
    【通常の大気100%】から、【完全なる真空100%】へ。
    いかに強力な光と闇の魔術、あるいは熱量であっても、それを伝播させるための「大気」や「世界の媒体」そのものが、フラスコという器の中で0%にリセットされてしまえば、その威力を周囲へと放射することができなくなる。
    降り注いだ数千の魔弾は、律人の頭上に展開された「完全な真空の障壁」に触れた瞬間、爆発の音すら立てることを許されず、音もなくそのエネルギーを霧散させられ、虚空へと吸い込まれて消え去った。

    「さあ、お返しといこうか。次は『水100%』……いや、せっかくだから私の特許の応用を見せてあげよう。アダム・カドモン協会が泣いて喜ぶ、最高純度のアシッド・アタックだ」

    律人が手の中で転がしていたフラスコを、重力を無視するような絶妙な軌道で、騎士の頭上へと放り投げた。

  • 234◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:34:25

    空中を舞うフラスコ。その内部の割合が、律人の念動力に似た錬金術によって、一瞬にして【塩水100%】から【最高濃度の王水100%】――金すらも溶かす、あらゆる物質の結合を強制的に解除する超強酸へと書き換わる。
    パリンッ、と虚空でフラスコが割れた。

    割れたのは、ただの硝子ではない。律人の能力によって、中身の割合が【王水100%】へと固定され、さらにその周囲の空気の割合すらも【強酸の霧100%】へと置換された、死の領域の顕現であった。
    騎士の頭上から、大気そのものがドロドロとした黄色い液体へと姿を変え、激しい腐食の煙を上げながら、滝のように降り注ぐ。

    『――システム、警告。周囲の大気成分が急速に変質。……既存の、魔術的防御、および、概念障壁による、無効化フラグの、不一致を検知。……鎧の構成物質が、分子レベルで、分解されています――』

    ジジジ、と激しい音を立てて、騎士を形作っていた勇者たちの鎧が、見る影もなくドロドロに溶け出していく。
    聖剣の力は、光や闇の力、あるいは魔術や斬撃を無効化する相手には太刀打ちできないという弱点を持つが、律人の放ったものは魔術ですらない。ただの「純度100%の化学物質の割合」という、物質の普遍的な暴力であった。
    数千年の歴史を持つ頑強な重騎士の肩当ても、神速の剣士の脛当ても、王水の雨の前にはただの「溶けやすい金属の塊」に過ぎず、瞬く間に赤黒い泥となって地面へと流れ落ちていく。

    だが、すべての鎧が融解し、中央に一振りの「剣」だけが剥き出しになった瞬間――。

    『――防衛、第二フェーズへ、移行。……「器(よろい)」の破棄を、承認。……これより、聖剣単体による、自律浮遊・絶対切断モードを、起動します――』

    鎧を失ったはずの、昏き闇を輝かせる聖剣そのものが、重力を完全に無視して宙へと跳ね上がった。

  • 235◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:51:02

    刀身は王水の酸に晒されながらも、神が鍛えし金属の根元が折れることはなく、自動修復の輝きを放ちながら、今度は律人の「車椅子」そのものを、その物理的な首を直接ハントするために、空中で目にも留まらぬ高速の回転を始めた。

    「旦那様、対象は『鎧』という質量を捨て、本体である『剣』のみでの超音速突撃を敢行。速度、マッハ3.5。障害物による防御は困難です」

    「いいよ、いいよ。剣が自分で飛ぶなんて、ますますファンタジーだねぇ。だが、質量が軽くなったということは……それだけ、こちらの『割合』の罠に嵌まりやすいということさ」

    律人は安楽椅子の上で、まるでチェスのチェックメイトを確信したかのように、その深い皺の刻まれた目元を怪しく細めた。

  • 236◆ZEeB1LlpgE26/06/22(月) 23:58:15

    『――限界、深度、到達。……全、勇者の、残存、プロトコル、一斉、同期。……「人々を、護れ」「邪悪を、断て」「人々を、護れ」「邪悪を――」……判定、不能。……これより、最大、出力の、純粋、切断を、空間に、対して、行使――』

    鎧という物理的な制約を完全に捨て去り、一振りの凶器として剥き出しになった聖剣が、空中を激しく震わせながら、バグの極致に達したシステム音声を空間へと撒き散らす。
    刀身から吹き出すのは、もはや制御を失った純白の光と漆黒の闇がドロドロに溶け合い、陽炎のように大気を歪める「昏き輝き」。
    神が鍛えし至高の鉄塊は、王水による分子分解の残渣を自動修復機能で無理やり焼き尽くしながら、重力を完全に遮断したマッハ3.5という超音速の軌道で、空中へ鋭烈な歪みを描いた。

    キィィィィィィィィィィン、と、鼓膜を直接引き裂くような高周波の金属音が塩砂漠に鳴り響く。
    聖剣は、ただ直進して突撃するのではない。数千年の歴史の陰で、剣の頂点を極めた無数の剣聖たちが残した「空間を割り、因果を歪める」伝説の軌跡を、自律浮遊の機動力で完全に再現していた。
    前後左右、上下。全方位から同時に肉薄するような残像を伴い、無数の昏き一閃が、仙堂律人の座る革張りの車椅子へ向けて、蜘蛛の巣のように緻密に、そして収縮するようにして殺到する。

    邪を祓う力も、光を侵す力も通用しない。なぜなら、その刃に宿る光と闇の混線は、あらゆる概念的な防御そのものを「矛盾」によって中和し、強制的に肉体を引き裂く普遍的な破壊力へと変換されているからだ。
    剣であることに変わりはないが、それは世界で最も鋭利で、最も頑強な、数千年の呪いを持った絶対の刃であった。

    「旦那様、前方および後方より因果干渉を伴う多重物理斬撃、到達まで残り0.001秒。……空間そのものが、細切れに分解されようとしています」

    背後に直立する専属メイドホムンクルスが、至近距離まで迫る聖剣の風圧でメイド服のフリルを激しく波立たせながらも、真円の眼鏡を指先でピきりと鳴らした。
    その眼鏡の奥の瞳には、一切の恐怖も揺らぎもない。なぜなら彼女は、隣に座るこの366歳の老人が、世界の理そのものをフラスコに閉じ込めた「硝子聖母(ギヤマン・マリア)」の到達者であることを、誰よりも知っているからだ。

  • 237◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:05:09

    「やれやれ、マッハ3.5で飛ぶ聖剣の剣舞、か。確かに素晴らしい。全盛期の私なら、感動してそのまま自分のコレクションに加えていたところだねぇ」

    律人は、安楽椅子の上で身動き一つせず、ただ自身の前方に、直径数センチメートルほどの、極めてありふれた、空っぽの「小さなガラスの丸底フラスコ」をそっと掲げた。
    そのフラスコは、彼のアダム・カドモン錬金協会での輝かしい実績を証明する、最もシンプルな、しかし最も恐ろしい錬金術の触媒であった。

    「だがね、ご老人。飛ぶスピードがどれほど速かろうと、因果を歪めようと、君が『物質』としてこの空間に存在している以上……私の『割合(パーセンテージ)』の法則からは、決して逃れられないのだよ」

    律人の《硝子聖母(ギヤマン・マリア)》の真髄が、ここで完全に覚醒する。
    彼が掲げたフラスコ。その内部の空間と、聖剣が今まさに突入しようとしている「律人の周囲の空間」が、錬金術の概念的な『等価交換』の術式によって、一瞬にして同期され、密閉された。
    律人の能力は、フラスコの中の割合を変えること。そして、彼ほどの領域に達した錬金術師にとって、彼が「フラスコの中である」と定義した空間は、すべて彼の世界の法に支配される閉鎖宇宙へと変貌する。

    パリン、と、律人の手の中でフラスコが怪しく発光した。

    次の瞬間、聖剣が突撃していた律人の周囲数十メートルの大気の「割合」が、コンマ数秒の間に強制的に書き換えられる。
    【窒素78%:酸素21%:アルゴン1%】という自然界の空気の比率が、一瞬にして【二酸化ケイ素100%】――すなわち、純度100%の『固体硝子』へと置換されたのだ。

    ドガァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

    空間そのものが、突如として巨大な一つの「透明な硝子の結晶塊(ギヤマンの檻)」へと姿を変えた。

  • 238◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:07:09

    マッハ3.5という神速の領域で、因果を切り裂きながら突進していた聖剣は、突如として目の前の「空気」が、一分子の隙間もない硬質な「硝子のソリッド」へと100%入れ替わった衝撃を、その刀身の先端に直接受けることとなった。
    どれほど神速の武技であっても、進むべき空間そのものが物理的な「壁」ではなく「空間全体を埋め尽くす超高密度の硝子そのもの」に変わってしまえば、摩擦と衝撃は無限大へと跳ね上がる。

    激しい火花と、空間を引き裂くような大音響が硝子の内部で発生する。
    聖剣の刀身は、光と闇の多重魔術を放って硝子を融解させようとするが、律人の能力によって、その空間の割合は【硝子100%】に完全に固定されており、どれほど溶かそうとも、次の瞬間にはまた新たな硝子の分子が空間を100%埋め尽くしていく。

    『――システム、致命的な、エラー。……進行方向の、媒体が、変化。……エネルギーの、拡散、不能。……刀身に、限界以上の、構造的、不可、および、金属疲労を、検知――』

    ギギギギギギギ、と、硝子に閉じ込められた聖剣の刀身から、初めて悲鳴のような軋み音が響いた。
    いかなる光や闇の力も、斬撃を無効化する力も通用しない無敵の聖剣。だが、律人は斬撃を無効化しているのではない。ただ「そこに硝子を100%置いた」だけなのだ。
    空間を埋め尽くす圧倒的な物質の質量と、自らが放ったマッハ3.5の運動エネルギーが、すべて聖剣自身の刀身へと跳ね返り、その美しくも昏き刀身の表面に、無数の「ひび割れ」が走り始めていた。

    「さあ、息苦しいだろう? 動けないだろう? 数千年の遺志の塊よ。物質の割合を狂わされるということが、どれほど不条理で、どれほど残酷なことか……その錆びついた回路で、じっくりと咀嚼するといい」

    律人は硝子の檻の向こう側で、安楽椅子に深く腰掛けたまま、勝利を確信した冷酷な魔術師の瞳で、身動きの取れなくなった聖剣を見つめていた。

  • 239◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:08:26

    『――システム、限界、アラート。……刀身の、構造維持率、32%まで、低下。……自動、修復機能の、演算速度が、硝子の、再構成、速度に、追いつきません――』

    巨大な硝子の結晶塊――『ギヤマンの檻』の内部に完全に封じ込められた聖剣から、空間の分子を悲痛に震わせるシステム音声が響き渡る。
    マッハ3.5の突撃エネルギーをすべて自らの身に受け、さらに空間を100%埋め尽くす二酸化ケイ素の圧倒的な質量に圧殺されながらも、数千年の勇者たちの遺志は、未だに「敵を斬り、人々を護る」というバグだらけの絶対遵守命令を諦めてはいなかった。

    光と闇の相反するエネルギーが、聖剣の刀身から大爆発を起こすようにして奔流となる。
    邪を祓う聖光が硝子を内側から爆砕しようと輝き、光を侵す怨嗟の闇が物質の結合を腐らせようと蠢く。その凄まじい抵抗により、律人が作り出したソリッドな硝子空間に、バリバリと蜘蛛の巣のような巨大な亀裂が走り始めた。

    だが、安楽椅子に座る老錬金術師、仙堂律人は、その様子を退屈そうに眺めながら、ただ口元を歪めただけだった。

    「無駄、無駄。どれほど高出力の魔力を練り上げようとも、ここは私の『フラスコの中』なのだよ。中身の割合を決めるのは、神でも君でもない。この私だ」

    律人が、干からびた人差し指をスッと垂直に立てた。
    その瞬間、《硝子聖母(ギヤマン・マリア)》の術式がさらに一段階、未知の領域へと深化する。
    彼が定義した密閉空間の割合が、【二酸化ケイ素100%のソリッドな硝子】から、瞬時に【内圧100万気圧の超高圧空間】へと書き換えられたのだ。

    重力を、物理法則を、因果のすべてを置き去りにした、絶対的な物質の圧縮。

    ――パキィィィィィィィィン!!!!!

    世界の鳴動のような、あまりにも硬質で、あまりにも冷酷な破砕音が、塩砂漠の全域に轟き渡った。

  • 240◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:08:46

    聖剣の刀身が放っていた昏き輝きが、一瞬にして圧殺された。
    神が鍛え上げ、数千年にわたり何人もの勇者の血を吸い、多種多様な魔族を斬り続けてきた絶対不可侵の刀身。それが、律人の構築した「100%の圧力」という不条理な世界の法に耐えきれず、根元から、中ほどから、先端から、文字通り「粉々の塵」へと粉砕されたのだ。

    刃こぼれや、根元から折れない限りは自動修復する――その絶対の前提条件そのものが、刀身を分子レベルで均等に、完膚なきまでにバラバラに噛み砕かれたことで完全に喪失した。

    『――致命的な、構造的、崩壊を、検知。……自動修復機能、完全停止。……全プロトコル、シャットダウン、します。……「人々、を……護……」――』

    最後のシステム音声が、ぷつりと途切れた。
    聖剣を構成していた昏き光と闇のエネルギーは、拠り所となる刀身を失ったことで、ただの無害な光の粒子となって硝子の檻の隙間からサラサラと荒野へ抜け落ち、虚空へと消えていった。

    あとに残されたのは、かつて聖剣であった、ただの美しい、光を持たない無数の鉄の破片。
    それらが、律人が能力を解除して元の空気に戻した塩砂漠の地面へと、カラン、カランと虚しい音を立てて転がり落ちていく。
    数千年の間、世界を彷徨い、戦い続けてきた悲しき自律兵器の、それが完全なる機能停止の瞬間であった。

    「旦那様、対象の完全なる沈黙を確認いたしました。魔力残渣、ゼロ。刀身の破片の回収、および周辺の清掃を開始いたしますか?」

    背後に控える専属メイドホムンクルスが、巨大な胸を揺らすことなく一歩前へ出、真円の眼鏡を正確な位置へと直しながら、一切の感情を排した声で律人に告げた。

  • 241◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:08:59

    「いや、いいさ。鉄くずは鉄くずとして、この塩に埋もれさせておけばいい。数千年も働き詰めのブラック企業にいたようなご老人だ、ようやく静かに眠れるお布団を見つけたんだろうさ」

    律人はフゥ、と深く安楽椅子に背を預け、上着のポケットから再び手を引っ込めた。
    366歳という老齢の肉体には、今の空間変成は少々骨が折れる作業であったが、その顔には、退屈な隠居生活の中で久しぶりに極上の玩具を弄び終えたかのような、深い満足感が浮かんでいた。

    「さあ、帰ろうか。今日の分の特許料の計算と、君のカスタマイズ機能の調整(メニュー)の続きをしなければならないからね」

    「御意のままに、旦那様」

    メイドホムンクルスが車椅子の取っ手を静かに握り、滑らかな動作で方向を転換する。
    結晶化した塩が敷き詰められた静寂の荒野を、一台の車椅子が、物言わぬ亡霊のようなメイドに押されながら、ゆっくりと去っていく。

    数千年の歴史を刻んだ聖剣の残骸を置き去りにしたまま、老錬金術師の安楽椅子は、再び世界の退屈へと戻っていくのであった。

  • 242二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 00:13:38

    想定よりだいぶ強い!?
    生成ありがとうございます
    騎士の人も対戦ありがとうございました

  • 243二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 00:15:09

    こちらこそ対戦ありがとうございました!
    光と闇の力で概念や因果をどうこうし始めてAIってすげぇってなってました!

  • 244◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:20:46

    >>241

    以上

  • 245◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:31:05

    題名『五色の鎮魂は砂に響き、白髪の蠍は異界の月に眠る』

  • 246◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:32:15

    夕暮れ時の、血のように赤い残光が差し込む廃工場地帯。
    かつては数多くの労働者たちで賑わっていたであろうその場所は、今や完全に打ち捨てられ、錆びついた鉄骨が骸骨の肋骨のように不気味に突き出す、不毛の墓標へと変わっていた。
    崩れ落ちたコンクリートの破片を踏み締めながら、一人の男がポケットに手を突っ込み、ひどく猫背のまま歩いていた。

    天護 啓弥、28歳。
    かつてこの街を、いや世界を脅かす悪の組織と戦い抜き、民衆から絶大な支持を集めていた5人組の正義の系譜「チームジャスティス」。その中心で、誰よりも明るく、真っ直ぐに「正義」を信じて仲間を引っ張っていた「レンジャーレッド」の、それが現在の姿であった。
    長年にわたる過酷な防衛戦の果てに、仲間を一人、また一人と容赦なく失い、気づけば彼一人が生き残っていた。
    「ソロレンジャー」――それは、彼を護るために命を散らしていった仲間たちの死を顧みず、生き恥を晒し続ける彼を、心ない民衆や後輩のヒーローたちが嘲り笑って付けた、最悪の蔑称だった。

    今の天護の瞳には、かつての輝きなど微塵もない。すっかり擦り切れた心と、暗く、寡黙な横顔。
    事件や事故が起きても、もはや彼が真っ先に飛び出すことはない。若く、まだ何も失っていない後輩ヒーローたちに任せ、自分は世界の片隅でただ静かに朽ち果てるのを待っているかのようだった。

    しかし、その廃工場の中心に立ち込めた「異様な気配」が、彼の左腕のデバイスを不意に共鳴させた。

    空間がガラスのようにひび割れ、全く別の世界からこの不毛の地へと「漂流」してきた存在。
    全長3メートルを超える、悍ましくも圧倒的な質量を持った漆黒の大蠍。その硬質な甲殻に覆われた蠍の頭部から直接、人間の上半身が縫い付けられたかのように生え出ている。
    スレンダーで、かつては高貴な血統の姫騎士であったことを証明する、美しい金髪碧眼の女性。
    『漂流セシ大逆者、エクソーディウム』。

    彼女は神々の身勝手な都合により、父を石にされ、兄を怪物に変えられ、自らの下半身をこの醜い蠍の肉体へと変えられた。その絶望の底から、父が遺した禁忌の契約に基づき、悪魔の力を文字通り「簒奪」して神々に挑み、あと一歩まで追い詰めた末にこの世界へと弾き飛ばされた、執念の塊であった。

  • 247◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:32:28

    「……はぁ、はぁ……。ここは、どこだ……。神どもの、追撃ではない、な……?」

    エクソーディウムが、その巨大な二本の大剣を背中から引き抜き、地面へと突き立てた。
    彼女の美しい顔は、神への憎悪と、長年の漂流による疲弊で青白く引きつっている。根は善良でありながらも、世界すべてを呪うかのような腹黒いまでの執念が、その碧眼の奥にドロドロとした光となって渦巻いていた。

    天護は、その異形の怪物を前にしても、驚きもしなければ、逃げ出しもしなかった。
    ただ、左腕に装備された、傷だらけの「レンジャーデバイス」を静かに見つめる。そのデバイスの周囲には、すでにこの世にいない4人の仲間たちの遺品――「レンジャーディスク」が、彼の寂しい手元で鈍い金属音を立てていた。

    「異界の怪物、か。……悪りぃな、お嬢さん。俺はもう、誰かを救うヒーローってガラじゃないんだ」

    天護は低く、ひどくかすれた声で呟いた。
    そのセリフには、かつてのレッドが持っていた熱量など、どこを探しても残っていない。

    「だが……そこまで世界を呪っているような奴を、このまま街に行かせるわけにはいかない。あいつらが命を懸けて護った街だからな。……俺の命はどうなってもいいが、あいつらの足跡(きおく)だけは、汚させない」

    天護が、震える指先で最初のディスクをデバイスへと装填した。

    『――レッドプロテクター・オンライン――』

    機械的な電子音が静寂の廃工場に響き渡ると同時に、天護の身体を、真紅の戦闘服「レンジャープロテクター」が一瞬にして包み込む。
    その赤は、かつて世界を照らした希望の赤ではない。仲間を全員失い、ただ一人でその遺志を背負い続ける、血のように重く、暗い、孤独の赤であった。

    「……オディウム・スコォルピオス。私の名を、刻むがいい、色付きの戦士よ。私の復讐の道を阻むなら、神であれ人であれ、私はこの大鋏で叩き潰すのみだ!」

    エクソーディウムが、その巨大な蠍の下半身を激しく蠢かせ、二本の大剣を構えて身構えた。
    神にすべてを奪われた大逆者と、仲間のすべてを失ったソロレンジャー。
    夕暮れの廃工場を舞台に、それぞれの世界で「すべてを失った者」同士の、あまりにも哀しく、そして凄惨な死闘の幕が上がろうとしていた。

  • 248◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:33:13

    「ハァァァァァァッ!!!」

    夕闇の迫る廃工場に、エクソーディウムの裂帛の気合いが響き渡ると同時に、全長3メートルを超える大蠍の下半身が信じがたい爆発力で地面のコンクリートを爆砕した。
    その巨躯からは想像もつかない神速の突撃。彼女が両手に握る巨大な二本の大剣が、空気を引き裂き、凄まじい風切り音を立てて、レンジャーレッドの戦闘服に身を包んだ天護啓弥の脳頭へと容赦なく振り下ろされる。

    天護は、かつての明るく真っ直ぐな彼であれば、大声で名乗りを上げながら正面から受け止めたであろうその一撃を、ただ無言のまま、最小限の動きで紙一重に避けた。

    「……遅いな」

    ぽつりと、感情の削ぎ落とされた声がマスクの奥から漏れる。
    天護が右手に顕現させたのは、炎を纏う赤の専用剣。バランス型であり、明確な弱点はないが、同時に決定的な強みも持たない、彼が最初から使い古してきた原点の武器であった。
    天護は避けた勢いのまま、刀身に烈火の如き炎を爆発的に燃え上がらせ、エクソーディウムの蠍の下半身の関節へと向けて、正確無比な一閃を叩き込んだ。

    ガキィィィィィィィン!!!!!

    金属と硬質な甲殻が激突し、火花と炎の粉が周囲の錆びた鉄骨を赤く照らし出す。しかし、神々をあと一歩まで追い詰めた大大逆者の甲殻はあまりにも頑強であり、レッドの炎の一撃は、その黒い表面を僅かに焦がしたにとどまった。

    「人間の戦士よ、その程度の生ぬるい火種で、神々への復讐を誓った私の執念を焼き切れると思ったか!」

    エクソーディウムの碧眼の奥に、猛烈な憎悪の光が宿る。彼女は即座に、自身の内に眠る二柱の悪魔の一角、熱を司る悪魔『タルウィ』の力を引き出すため、禁忌の契約を起動した。

    この能力の対価は、彼女自身の「人間性」、すなわち『老い』である。
    能力を発動した瞬間、エクソーディウムの身体の内部――彼女の若々しい「内臓」が、目に見えない速度で急速に老化し、機能を衰えさせていく。肉体の芯を鋭い激痛が走り、肺が、心臓が、数十年の時を一瞬で飛び越えたかのように悲鳴を上げる。
    だが、その苛烈な代償と引き換えに、彼女の二本の大剣、そして大蠍のハサミと鋭利な尾針には、物質の分子結合すらもドロドロに融解させる、数千度の『悪魔の超高熱』が宿り始めた。

  • 249◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:33:28

    周囲の空気が一瞬にして陽炎のように激しく歪み、足元のコンクリートがドロドロとした溶岩のように赤黒く溶け出していく。

    「――灼け、灼き尽くせ、タルウィ! 私の命をどれだけ削ろうとも、この歩みを止めることはできん!」

    【肉体の変化:エクソーディウムの白磁の肌の下を走る血管が、一瞬にしてどす黒く浮き上がり、彼女の口元から、若者にはあるまじき、内臓の衰えによる一筋の鮮血が静かに伝い落ちる】

    超高熱を纏った大剣が、今度は天護の逃げ場を無くすように、横一文字に荒れ狂う。
    大気が熱膨張を起こして爆発的な突風を生み出し、レッドプロテクターの表面が、その熱量だけでじりじりと焼け焦げ、警告のアラート音が鳴り響いた。赤のフォームの防御力では、この悪魔の熱量を正面から耐え切ることは不可能。

    だが、天護は焦らない。彼の心はすでに擦り切れているが、だからこそ、戦いにおける「死の予感」に対して、異常なまでの冷静さを保っていた。

    「……赤じゃ、この熱は防ぎきれない。なら――」

    天護は左腕のレンジャーデバイスへ、流れるような動作で二枚目のディスクを叩き込んだ。

    『――ブループロテクター・オンライン――』

    瞬時に、彼のプロテクターの色が深海のような青へと変色する。
    それは、かつて彼の相棒であり、誰よりも頑強にチームの盾として皆を護り抜き、そして一番最初に天護の手の中で冷たくなっていった男の遺志であった。
    天護の左腕に、あらゆる衝撃と熱量を遮断する、巨大な蒼青の盾が展開される。

  • 250◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:33:56

    ドガァァァァァァァッ!!!!!

    エクソーディウムの超高熱の大剣が、青の盾へと真っ向から激突した。
    攻撃力は皆無に等しいが、防御特化を極めたブループロテクターの壁は、数千度の悪魔の熱量すらも、蒼いエネルギーの力場によって完全に偏向させ、周囲の廃工場の壁へと霧散させていく。

    「な……!? 私のタルウィの熱を、正面から防ぎ止めるというのか……!」

    「……こいつは、俺の相棒の盾だ。どんな攻撃だろうと、絶対に仲間を死なせなかった……世界で一番硬い、自慢の盾なんだよ」

    青いマスクの奥から、天護の低く、しかし地を這うような執念の籠もった声が響く。
    彼は相棒の盾でエクソーディウムの猛攻を完璧に受け止めながら、すでに右手のデバイスのレバーへと指をかけていた。
    ブルーの弱点は、圧倒的な攻撃力の低さ。防いでいるだけでは、相手の熱量にいずれジリ貧になる。守るべき仲間がもう誰もいないこの戦場で、天護が次に選択すべきプロトコルは、ただ一つしかなかった。

    「次は、あいつの番だ」

  • 251◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:34:21

    「防いだなら、次はこれだ……! どこまでその『盾』とやらが持つか、試させてもらう!」

    エクソーディウムの碧眼が怒りと執念でさらに鋭く見開かれ、大蠍の下半身が再び地面を抉る。
    蒼い盾の絶対的な防御力に弾かれた大剣を強引に引き戻し、今度は大蠍の最大最強の武器である、超高熱を宿した「巨大な大鋏」と「鋭利な尾針」が、二重の刺突となって天護の死角である足元と頭上から同時に襲いかかった。

    ブループロテクターの盾は強固だが、一点特化の防御ゆえに、多方向からの同時波状攻撃をすべて捌き切るには小回りが利かない。攻撃力の低さという弱点も相まって、完全な受けに回れば、いずれはその防御力すらも悪魔の熱量に破られるのは明白であった。

    「……だったら、当たらなきゃいい」

    天護は無機質に呟き、左腕のレンジャーデバイスへ、電光石火の速度で3枚目のディスクをスライドさせた。

    『――グリーンプロテクター・オンライン――』

    瞬間、彼のプロテクターは新緑の如き鮮やかな緑へと染まり、両手には風を切り裂く鋭利な「クロー」が顕現した。
    かつてチーム最年少でありながら、誰よりも戦場を縦横無尽に駆け巡り、敵の陣形を攪乱し続けた少女の遺志。防御力を極限まで犠牲にする代わりに、人間の動体視力の限界を遥かに凌駕する超スピードをもたらす、速度特化のフォームである。

  • 252◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:34:35

    シュンッ!!!

    大鋏と尾針が天護のいた空間を激しく貫いたが、そこにはすでに彼の姿はなかった。
    緑の残像だけを残し、天護はエクソーディウムの巨大な蠍の下半身の甲殻を駆け上がり、その無防備な背後――人間の上半身が結合している文字通りの「隙」へと、神速のクローを突き立てた。

    「そこかァッ!!」

    だが、神々を屠りかけた姫騎士の戦闘直感もまた常軌を逸していた。
    エクソーディウムは振り返ることなく、自身の内に眠るもう一柱の悪魔、渇きを司る『ザリチュ』の力を完全解放した。

    この能力の対価は、彼女の『健康』そのものである。
    能力が発動した瞬間、エクソーディウムの体内を、あらゆる未知の病魔が同時に蝕み始める。細胞が壊死し、激しい悪寒と高熱が彼女の精神を直接焼き焦がす。口から溢れる血の量は先ほどよりも明らかに増え、その肉体は内側からボロボロに崩壊しつつあった。

    【肉体の変化:エクソーディウムの美しい金髪の何割かが、病魔による急速な衰弱によってバサリと白髪へ変色し、その白磁の肌には、まるで死斑のような黒い呪紋が浮かび上がっていく】

    しかし、その凄惨な代償と引き換えに放たれた『ザリチュ』の渇きは、凶悪そのものであった。
    天護がクローを叩き込むより早く、廃工場のコンクリート、錆びついた鉄骨、そして大気中の水分が、一瞬にして完全に「ゼロ」へと枯渇させられたのだ。
    周囲数百メートルが、生き物のように急激にサラサラとした不毛の「砂漠」へと変貌していく。

    「――枯れ果てよ! すべてを砂へと還す、悪魔の渇きに呑まれるがいい!」

    大気中の水分すら奪われたことで、息を吸うだけで肺が焼けるような激痛が走る。
    さらに、グリーンプロテクターの「防御力の低さ」という弱点が、この環境そのものを破壊する概念的な渇きの前に最悪の形で露呈した。天護の肉体から水分が急激に奪われ、プロテクターの内部回路が乾燥によって火花を散らし始める。神速の動きが、一瞬にしてピキリと硬直した。

    「捕まえたぞ、色付きの戦士……! これで終わりだ!」

    その一瞬の硬直を見逃さず、エクソーディウムの大鋏が天護の胴体を真っ二つにせんと、背後から襲いかかる。
    水分を失い、動けない緑のフォームでは、この一撃を受ければ確実に肉体が消し飛ぶ。

  • 253◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:34:46

    だが、天護の瞳は、まだ死んでいなかった。

    「……あいつは、一番体が小さかったのに、誰よりも前に出るのが早かった……。そのあいつが、最後に俺を庇って死んだんだ。……そのスピードを、こんな砂端で止められてたまるかよ……!」

    天護は、乾ききった喉で血を吐き出しながら、4枚目のディスクをデバイスへと叩き込んだ。

    『――イエロープロテクター・オンライン――』

    緑から黄へ。フォームチェンジの衝撃波が、周囲の砂を爆発的に吹き飛ばす。
    天護の手に握られたのは、自身の身の丈ほどもある巨大な「大型ハンマー」。
    チーム最年長であり、寡黙にチームの精神的支柱を務めていた男の遺志。動きが極端に鈍重になる代わりに、あらゆる防御を文字通り「粉砕」する、一撃特化の重爆フォームであった。

    「――おおおおおおおおおッ!!!」

    天護は、迫り来る大鋏の軌道に対し、避けることも引くこともせず、その大型ハンマーを渾身の力で正面から振り下ろした。
    鈍重という弱点を、自らの肉体の肉離れすら厭わない狂気的な力ずくの質量でカバーした、相打ち覚悟の超破壊。

    ドォォォォォォォォォォォォン!!!!!

    大鋏とハンマーが真っ向から激突し、廃工場全体が地震のように激しく揺れ動いた。
    ザリチュの力で砂漠化していた地面が陥没し、凄まじい衝撃波が砂の嵐となって天へと吹き上がる。エクソーディウムの巨大な蠍の身体が、ハンマーの圧倒的な衝撃力によって、初めてズズズ……と数メートル後方へと力任せに押し戻された。

    「くっ……! なんという、力だ……! だが、その鈍い姿では、私の次の手は防げまい!」

    エクソーディウムは病魔の激痛に耐えながら、強引に姿勢を立て直し、再び大剣を構える。
    天護のイエロープロテクターは、その一撃の代償として、完全に次の動作への移行が遅れる「硬直」という最大の弱点を晒していた。

    戦場を支配する悪魔の熱量と渇き、そして互いの命を削り合うフォームチェンジの応酬。
    死闘は、互いの「最大の弱点」を突くための、さらなる深淵へと突入していく。

  • 254◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:35:19

    「ハァッ……、ハァッ……、ガハッ……!」

    砂漠と化した廃工場の中心で、エクソーディウムの薄い唇から大量の鮮血が噴き出し、結晶化した砂の床を赤く染めた。
    二柱の悪魔『タルウィ』と『ザリチュ』の力を同時に、しかも限界を超えて引き出したその代償は、彼女の人間の肉体を容赦なく崩壊させていた。
    『老い』によって内臓はその機能を著しく低下させ、絶え間ない鈍痛が腹の奥底を抉り、『健康』を失ったことで全身の細胞が悲鳴を上げ、高熱と悪寒が彼女の平衡感覚を完全に狂わせていた。

    【肉体の変化:彼女の金髪は今や全体の半分以上が色素を失った白髪となり、透き通るようだった碧眼の白目部分は、ドロドロとした暗黒の魔力によって血走り、濁りきっている。軽装の鎧の隙間から覗く肌は、まるでひび割れた粘土細工のように乾燥し、不気味な黒い死斑が全身を覆い尽くさんばかりに広がっていた】

    「まだだ……、まだ倒れるわけにはいかん……! 神どもへの復讐を果たすまで……私は、こんな見知らぬ世界の片隅で、朽ち果てるわけにはいかないのだ……!!」

    己の五臓六腑が消滅せんばかりの激痛に耐えながら、エクソーディウムは残された執念のすべてを大剣へと注ぎ込む。
    下半身の大蠍が、自らの肉体の崩壊すら厭わぬ狂気的な足取りで、イエロープロテクターの重厚な硬直に囚われている天護啓弥へと、最後の一撃を叩き込むべく突進する。

    だが、天護の瞳には、やはり焦りも、死への恐怖もなかった。

    「……黄色は一撃が重い代わりに、次の動作への移行が絶望的に遅い。……そんな弱点、百も承知だ。あいつと何百回、何千回と背中を合わせて戦ってきたと思ってる」

    天護は、イエロープロテクターの鈍重な反動で自身の右腕の骨がミシミシと悲鳴を上げるのを感じながらも、左腕のレンジャーデバイスへ、祈るような、あるいは呪うような手つきで5枚目の、最後のディスクを叩き込んだ。

  • 255◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:35:30

    『――ピンクプロテクター・オンライン――』

    瞬間、重厚な黄色の鎧が光の粒子となって霧散し、彼の身体は鮮やかな、しかしどこか哀愁を帯びたピンクの戦闘服へと変色した。
    同時に、彼の右手には、眩いエネルギーをチャージし続ける長大な「遠距離戦特化型ブラスター」が顕現する。
    かつて彼と恋人関係にあり、誰よりも彼の隣でその背中を支え、そして彼の身代わりとなって悪の攻撃をその身に受けて爆散した、最も愛おしく、最も失いたくなかった女性の遺志。

    ピンクプロテクターの弱点は、接近戦における防御力と対応力の低さ。だが、このフォームの真価は、近接型の敵が間合いを詰めるよりも早く、その存在を遠距離から完全に「消滅」させる圧倒的な砲火力にあった。

    「……ごめんな、お前を、こんな薄汚い戦い方に付き合わせて」

    天護はマスクの奥で静かに目を閉じ、そして開いた。その瞬間、ブラスターの銃口が、突進してくるエクソーディウムの「人間の上半身」――彼女の唯一の弱点であり、通常の人間と同等の強度しか持たない本体へと、寸分の狂いもなく照準された。

    ドォォォォォォォォォォォン!!!!!

    チャージされた極大のピンク色のビームが、銃口から咆哮を上げて解き放たれた。
    それはただのレーザーではない。空間を焼き焦がし、ザリチュの渇きによって作られた砂の嵐すらも一瞬にしてプラズマ化して消し飛ばす、純粋な破壊エネルギーの濁流であった。

    「なっ……!? この期に及んで、これほどの遠距離火力を――ッ!?」

    エクソーディウムの碧眼が驚愕に染まる。
    彼女の能力は、そのほとんどが中・近距離、あるいは自身の周囲の環境を支配することに特化しており、正面から迫り来るこれほどの超高速・高出力の遠距離砲撃を相殺する手段を持たなかった。
    ましてや、今の彼女は『老い』と『病魔』によって反応速度が著しく低下している。

  • 256◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:35:43

    ズガガガガガガガガガガッ!!!!!

    激しい爆音と共に、ピンクの光条がエクソーディウムの巨大な二本の大剣へと直撃し、その強大な威力が、彼女の大蠍の下半身を地面ごと強引に押し戻していく。
    大剣の刀身が、エネルギーの熱量によって激しく火花を散らし、彼女の白白とした細い腕に、凄まじい衝撃波が直接叩きつけられた。

    「くううううっ……! ああぁぁぁぁぁっ!!!」

    エクソーディウムの悲鳴が廃工場に響き渡る。
    人間の本体こそ直撃を免れたものの、ピンクプロテクターの容赦ない連続砲撃は、彼女の強固な大蠍のハサミをへし折り、甲殻の各所を激しく爆砕していた。
    遠距離戦に弱いピンクという弱点を、相手が近づく前に圧倒的な手数で制圧するという、天護の冷徹な戦術が見事に嵌まった瞬間であった。

    だが、二人の戦士の命の灯火は、どちらもすでに限界を迎えていた。
    互いの最大火力が、この不毛な戦場を完全に終わらせるための「最後の終着点」へと収束していく。

  • 257◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:36:15

    「ハァッ……、ガハッ……、あ、あああぁぁぁ……ッ!!」

    爆炎と硝煙の立ち込める砂の荒野で、エクソーディウムは自身の二本の大剣を地面へと深く突き立て、辛うじてその巨躯を支えていた。
    人間の上半身は、もはや生きた人間のものとは思えぬほどの恐るべき変貌を遂げている。
    悪魔『タルウィ』の熱量と『ザリチュ』の渇きを、ピンクプロテクターの圧倒的な連続砲撃に対抗するために同時並行で引き出し続けたその代償は、彼女の『人間性』をほとんどすべて食い尽くしていた。

    【肉体の変化:彼女の美しい金髪は一本残らず完全な死の色――老婆のような枯れた白髪へと染まり、白磁だった肌はどす黒い死斑とひび割れで覆いつくされている。呼吸をするたびに、肺胞が乾燥して破裂するかのような凄惨な音が肉体の内側から響き、内臓の完全な機能停止に伴う、どす黒い内出血の血塊が彼女の口元から絶え間なく溢れ出ていた。碧眼だった瞳の虹彩は、悪魔の怨嗟の色である禍々しい紫色へと完全に反転している】

    「私は……負けん……! 神どもに、私からすべてを奪ったあの傲慢な光どもに……一矢報いるまでは、こんな世界で……倒れてなるものかぁぁぁッ!!」

    全身の骨が病魔と老いによってミシミシと砕け散るような激痛の中、エクソーディウムは最後の力を振り絞り、大蠍の下半身を蠢かせた。
    彼女の背後から伸びる巨大な尾針が、自らの残された寿命のすべてを薪(燃料)として燃やすかのように、太陽をも覆い隠すほどの禍々しい紫黒の悪魔の炎を纏って、天へと高く掲げられる。
    接近戦に弱いピンクの特性を突くための、文字通り彼女の「命そのものを削り出した、最後の一刺し」の構えであった。

    対する天護啓弥もまた、限界を迎えていた。
    一人で5人のレンジャーディスクを連続して回し、それぞれのフォームの特性と弱点を強引に補いながら戦い続けたその肉体は、筋肉が断裂し、プロテクターの内部からは、限界以上の過負荷による火花と警告アラートが鳴り止まない。
    ピンクプロテクターのバイザーの奥で、天護は自身の血に濡れた左腕のデバイスを見つめた。

  • 258◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:36:27

    「……長かったな。お前たちを失ってから、俺は、ずっと一人で生き恥を晒してきた」

    天護の声は、不思議なほど静かだった。かつて世界を護るために真っ直ぐに輝いていた「レンジャーレッド」の熱は、もうそこにはない。だが、その代わりに、何者にも揺るがされることのない、地を這うような深い決意が宿っていた。

    「ソロレンジャー……。あいつらの言う通り、俺は一人ぼっちの、みっともない生き残りだ。……だけどな、お嬢さん。俺は一人だけど、俺のこの左腕には……あいつらの命が、今も全部残ってるんだよ」

    天護が、左腕のデバイスのすべてのスロットを開放した。
    彼が最初から持っていた赤のディスク。そして、相棒の青、最年少の緑、最年長の黄、愛した女の桃。
    五つの傷だらけのレンジャーディスクが、デバイスの内部でこれまでにない凄まじい速度で高速回転を始め、五色の光の粒子となって天護の周囲へと溢れ出した。

    『――ジャスティス・フォーメーション・コネクト。……ファイナル・プロトコル、承認――』

    赤の専用剣、青の巨大盾、緑のクロー、黄の大型ハンマー、そして桃のブラスター。
    天護がこれまでの戦いで使い倒し、そして仲間たちの魂そのものである五つの武器が、まばゆい五色の光の鎖となって空中で複雑に絡み合い、合体していく。
    天護の前に顕現したのは、一人の人間が到底扱えるサイズではない、戦車をも一撃で消滅させるほどの超巨大な五色のバズーカ砲――『ジャスティスキャノン』であった。

    「これが……俺たちの、最後の正義だ」

    天護は、イエロープロテクターの怪力を強引に右腕へとフィードバックさせ、肉離れを起こした腕でその巨大な砲身をしっかりと肩へと担ぎ上げた。
    五色のエネルギーが、キャノンの深部で臨界点を突破し、周囲の砂漠化した廃工場を真っ白な光の渦へと巻き込んでいく。

    「いけぇぇぇぇぇ戦士よぉぉぉッ! 私のすべてを、この一撃に換えて、お前を討つッ!!」

    エクソーディウムの絶叫とともに、悪魔の熱量と渇きを限界まで凝縮した大蠍の尾針が、マッハを遥かに超える神速の刺突となって、天護の胸元へと突き出される。

    「――ジャスティスキャノン、発射」

    天護が引き金を引いた。

  • 259◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:37:10

    ゴォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

    廃工場の、そして二人の戦士の世界のすべてを白一色に染め上げるほどの五色の極大光線が、ジャスティスキャノンの銃口から解き放たれた。
    それは天護啓弥がかつて「チームジャスティス」の仲間たちと共に、幾度となく世界の危機を救ってきた、希望と絆の結晶たる破壊光線。
    だが、今この瞬間に放たれた光は、かつてのような眩い正義の輝きではない。仲間のすべてを失い、その遺志と遺品をたった一人で背負い続けた男の、血を吐くような執念と哀愁が混ざり合った、重く、そしてあまりにも強烈な「鎮魂の光」であった。

    対するは、エクソーディウムが自らの残り少ない『老い』の寿命と、病魔に侵され尽くした『健康』のすべてを薪(燃料)として燃やし尽くした、悪魔『タルウィ』と『ザリチュ』の複合刺突。
    熱と渇きを極限まで圧縮した紫黒の尾針が、空間を文字通り抉りながら五色の光線へと真っ向から突き刺さる。

    ズガァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

    二つの、世界を滅ぼしかねない極大のエネルギーが廃工場の中央で激突し、爆発的な衝撃波が全方位へと吹き荒れた。
    ザリチュの力によって砂漠化していた周囲の床が一瞬にして超高熱でドロドロに融解し、さらにその溶岩すらも一瞬にして真っ白な硝子へと結晶化していく。
    大気が限界を超えてきしみ、錆びついた鉄骨の群れが、衝撃波の風圧だけでマッチ箱のように容易くへし折れ、吹き飛ばされていった。

  • 260◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:37:27

    だが、その均衡は、ほんの数秒しか持たなかった。

    「あ……、あ、あああぁぁぁ……ッ!!!」

    エクソーディウムの、老婆のように枯れ果てた白髪の隙間から覗く、濁った紫の瞳が驚愕に染まる。
    彼女の放った悪魔の刺突は確かに強力であったが、彼女自身の肉体はすでに限界を完全に超えていた。
    『人間性』を対価としすぎたがゆえに、大蠍の尾針を支える彼女の「人間の上半身」の筋肉が、骨が、その出力に耐えきれず、内側からバリバリと音を立てて砕け散り始めていたのだ。

    対する天護の『ジャスティスキャノン』は、5人の武器が完全に一つに合体した、完璧な因果の結合体。
    赤のバランス、青の強固な基盤、緑の鋭利な指向性、黄の絶対的な質量、桃の圧倒的な砲火力――その五つの特性が互いの弱点を完璧に補い合い、一つの巨大な「正義」としてエクソーディウムの悪魔の炎を強引に押し潰していく。

    「……これが、俺たち全員の……生き様だァァァッ!!!」

    天護が、肉離れを起こし血を吹き出す両腕でキャノンをさらに深く押し込み、最後のエネルギーを完全に開放した。

    ドバァァァァァァァァァァァン!!!!!

    五色の光線が、ついに悪魔の尾針を根元から粉砕し、エクソーディウムの巨大な大蠍の巨躯、そしてその中央にある金髪(白髪)の姫騎士の本体を、完全に正面から飲み込んだ。

    激しい光の宴が収まり、もうもうと立ち込める硝煙が、ゆっくりと夕闇の荒野へと溶けていく。
    完全に消滅した廃工場の跡地には、結晶化した硝子の地面が、月光を反射して冷たく輝いていた。

    その中心で、全長3メートルを超える大蠍の甲殻は完全にひび割れ、光を失って地面へと横たわっていた。
    その頭部から生える、人間の女性の身体――エクソーディウムは、辛うじて息をしていた。
    だが、その姿はあまりにも痛々しかった。髪は一本残らず老婆のように真っ白になり、全身を死斑が覆い、瞳の光は今にも消え入りそうに揺れている。悪魔との契約による代償と、ジャスティスキャノンの直撃が、彼女の命を完全に終わらせようとしていた。

    天護は、ピンクプロテクターが過負荷で強制解除され、ボロボロの私服姿に戻った状態で、一歩、また一歩と彼女の方へと歩み寄った。
    彼の両腕からは血が滴り、生き残った彼自身もまた、満身創痍であった。

  • 261◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:37:45

    天護は、息も絶え絶えの異界の姫騎士の前に、静かにしゃがみ込んだ。

    「……見事な執念だったよ、お嬢さん。……神への復讐、か。……俺には、その気持ちは分かってやれないが……。何かを守るために、自分の全部を投げ出すその姿は……。俺の知ってる、誰よりも気高い『ヒーロー』のそれだったよ」

    天護の声には、嘲りも、勝利の陶酔もなかった。ただ、同じように「すべてを失って戦い続けた者」への、深い敬意と哀悼だけが込められていた。

    エクソーディウムは、かすかに動く碧の瞳(濁りが取れた元の美しき瞳)で、天護の顔を見つめた。
    彼女の口元が、ほんの少しだけ、かつての高貴な姫騎士としての誇りを取り戻したかのように、小さく綻ぶ。

    「ふ、ふふ……。色付きの、戦士よ……。お前も、ずいぶんと……寂しい目を、しているな……。……だが、そうか。私は……最後、に……神ではない、お前のような、誇り高き戦士と……戦えて……良かった……」

    彼女の白い手が、力なく地面の硝子へと落ちる。

    「父上……兄上……。私は、そちらへ……。私の、大逆の旅は……ここで……」

    最後の一言を残し、漂流せし大逆者、エクソーディウムの瞳から、完全に光が消え失せた。
    その肉体は、悪魔の契約の呪いから解き放たれるようにして、サラサラとした光の塵となり、夜風に吹かれて不毛の空へと霧散していった。
    あとに残されたのは、彼女が最後に世界へ抗った証である、粉々に砕けた二本の大剣の破片だけだった。

    天護は、静かに立ち上がった。
    彼の左腕には、相変わらず傷だらけのレンジャーデバイスが、五色の鈍い輝きを宿したまま静かに佇んでいる。

    「……さあ、帰るか。あいつらが護ったこの街は、まだ明日を迎えるみたいだからな」

    天護は、一度も振り返ることなく、再びポケットに手を突っ込み、猫背のまま静かに歩き始めた。
    彼を「ソロレンジャー」と嘲笑う世界は、今日もどこかで彼を待っている。だが、彼の左腕にある五つの遺志が消えない限り、彼はこれからも、擦り切れた身体で孤独な正義を執行し続けるのだろう。

    静まり返った硝子の荒野に、ただ一人、孤独な赤の足跡だけが、どこまでも遠くへと続いていた。

  • 262◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 00:38:05

    以上

  • 263二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 00:49:35

    生成乙です、相性最悪レベルだったか

  • 264◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:25:18

    題名『月下の死合』

  • 265◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:25:55

    その夜、世界はどこまでも不気味な静寂に包まれていた。
    頭上に浮かぶ満月は、冷徹な白銀の光を地上のすべてへと投げかけ、風に揺れる巨大な竹林の葉が、サラサラ、ザワザワと、まるで無数の亡霊が囁き合っているかのような不吉な音を奏でている。
    その青白い月光を浴びながら、一人の男が、まるで夜の散歩でも楽しむかのように、悠然とした足取りで竹林の小道を歩いていた。

    魔剣士刀時蒼坂、25歳。
    若くして伝説とまで謳われ、妖術と剣術の双方において頂点を極めた若き剣聖である。
    彼の腰に誇らしげに差されているのは、主の血に呼応し、一度に膨大な妖力を溜め込むことができる幻の剣――『妖刀紅血月』。
    これまで数多の凶悪な妖魔を屠り、時には悪辣な人間とも刃を交えてきたが、彼は決して人間にトドメを刺すことはない。いかに外道な悪人であっても、妖力のお札を用いて「完全に反省するまで」その身動きを封じるにとどめるという、優しさと絶対的な自信を兼ね備えていた。

    極めて強い霊感を持ち、相手の魂の底、内面の善悪を一目で見抜く特殊な「眼」を持つ蒼坂は、いつでも余裕の態度を崩さない。掴みどころのない紳士的な笑みを浮かべ、着物の裾を風に揺らしながら、彼はふと足を止めた。

    「おや……。風の音が、少々不自然に途切れましたね。姿は見えませんが、可愛いお嬢さんが、私の命を狙ってそこに隠れているのかな?」

    蒼坂は、一切の油断も慢心もなく、それでいて極めて親切で余裕に満ちた声を、深い竹林の闇へと向けて投げかけた。
    彼の高い霊感は、すでに周囲の大気に混ざり込んだ、極めて薄く、しかし致命的なまでに洗練された「殺気」を完全に捉えていた。

    その闇の中から、音もなく、まさに影そのものが物質化したかのように現れたのは、一人の少女であった。

  • 266◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:26:08

    霧切 霧子、18歳。
    感情や倫理観といった人間の『揺らぎ』を完全に理解した上で、あえてそれらをすべて無視し、最も合理的で卑怯な手段を選択できる天才的な忍び。
    彼女は師匠に弟子入りしてから、わずか3日という驚異的な期間でその師匠のすべてを奪い、超え去ったという、文字通りの化物であった。
    慢心せず、用心深く、相手を完全に分析してから確実に急所を穿つ。大量の軍勢に囲まれようとも、基本的な忍法すら使わずに無傷で勝利するほどの素の武力を持つ彼女が、今、その冷徹な二重の瞳を蒼坂へと向けていた。

    「ターゲット、魔剣士刀時蒼坂。事前情報の通り、高い霊感と卓越した直感を持っていますね。……ですが、私の行動に、あなたのその『目』がどこまで通用するか、実験させてもらいます」

    霧子の声には、一切の感情の起伏がなかった。
    彼女のまとう黒い装束は月光を完全に吸収し、右手には細身の短刀が、いつでも相手の頸動脈を切り裂ける角度で握られている。
    彼女がこれより使用するのは、妖怪『ぬらりひょん』と契約して手に入れた最凶の忍法――『侵入』。
    転移でも透明化でもない。ただ「いつの間にか側にいる」という、人間の認知の隙間を完全に蹂躙する不条理な術。

    「なるほど、根っからの悪人というわけではなさそうですが……目的のために手段を選ばない、酷く冷たい魂をしている。これは少々、お灸を据えてあげる必要がありそうですね」

    蒼坂は、自身の『妖刀紅血月』の柄に、干からびた優雅さを持つ右手をそっと添えた。
    彼が相手を「叩きのめすべき敵」と認識した瞬間、その余裕の笑みの奥にある瞳が、妖しく、そして絶対的な強者の光を放ち始める。

    伝説の剣聖の居合と、不条理を体現する天才忍びの暗殺術。
    月明かりに照らされた不毛な竹林を舞台に、一歩も引けない極限の知略と武力の応酬が、今、静かに幕を開ける。

  • 267◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:26:53

    サラ、サラ、サラ……。

    夜風が竹林の葉を揺らす音が、突如として不自然に幾重にも重なり合い、空間そのものの密度が異常なほどに増大していく。
    霧切霧子の冷徹な瞳が月光を反射した次の瞬間、彼女の細美な身体が、まるで水面に落とした一滴の墨汁のように、音もなく、光もなく、その場の空間へと完全に溶け込むようにして掻き消えた。

    「――忍法、分身の術。および、雲隠れの術」

    竹林の全方位から、誰の耳にも届かぬほどの微細な囁きが、しかし同時に蒼坂の鼓膜へと直接届けられる。
    直後、蒼坂を取り囲むようにして、闇の中から全く同じ容姿、まったく同じ殺気をまとった霧切霧子の姿が、十人、二十人、いや、五十人を超える圧倒的な物量となって、音もなく同時に湧き出してきた。
    それらすべての『霧子』の右手には、冷たく研ぎ澄まされたクナイや手裏剣、そして暗殺用の短刀が正確に握られており、一斉に蒼坂の頸動脈、心臓、眉間、そして関節の隙間という隙間を狙って、全方位からの同時無音投擲が敢行された。

    シュ、シュ、シュシュシュシュシュシュシュッ!!!!!

    無数の金属片が月光を切り裂き、風を鋭く突いて蒼坂へと殺到する。
    通常の剣士であれば、この全方位からの視覚的・聴覚的な飽和攻撃に対して、防御の姿勢を取るか、あるいはどれが本物かを見極めようとして一瞬の遅れを取り、その隙に致命的な一撃を穿たれるはずの、完璧な暗殺の布陣。

  • 268◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:27:11

    しかし、魔剣士刀時蒼坂は、その数五十を超える『霧子』に包囲されながらも、その端正な顔立ちに浮かべた優雅な笑みを、微塵も崩しはしなかった。

    「おや、おや。これはずいぶんと賑やかなお出迎えですね。ですがお嬢さん……、私の『眼』はね、ただの肉眼ではないのですよ」

    蒼坂の極めて強い霊感が、空間に展開された膨大な数の分身たちを瞬時に見抜く。
    彼の目には、五十人の霧子のうち、四十九人までが単なる「大気の歪み」と「錯覚の妖術」によって作られた実体のない幻影であり、本物の霧子がどこでどのような予備動作を行っているかが、まるで真昼の太陽の下に晒されているかのように、完全に丸見えであった。

    しかし、蒼坂はあえて、その本物を直接狙うような無粋な真似はしなかった。
    いつでも余裕を崩さず、確実に相手を叩きのめすのが、彼の「剣聖」としての美学であり、絶対的な自信の裏返しだからである。

    「では、少々こちらの手札もお見せしましょう。――妖刀紅血月、第一段階解放」

    カチャリ、と静かな、しかし驚くほどに澄んだ金属音が竹林に響き渡る。
    蒼坂が左手で保持した鞘から、右手でわずか数センチメートルだけ、幻の剣『妖刀紅血月』の刀身を引き抜いた。

    ドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

    その瞬間、鞘の隙間から、まるで新鮮な生き血をそのまま凝縮したかのような、禍々しくも圧倒的に美しい「真紅の妖力」が、爆発的な波動となって全方位へと吹き荒れた。
    それは蒼坂の自身の血と完全に同調し、刀身の内部に限界まで溜め込まれていた、山をも吹き飛ばすほどの超高密度の魔力。

    その赤い衝撃波は、迫り来る無数の手裏剣やクナイを空中で強引に叩き落とし、さらに周囲に展開されていた四十九人の分身たちを、まるで陽炎を吹き消すかのように一瞬にして完全に霧散させていった。
    それだけではない。衝撃波の余波は周囲の太い竹を何十本も薙ぎ払い、地面の土を豪快に巻き上げて、月下の竹林に直径数十メートルに及ぶ完全な「空白の地帯」を作り出したのだ。

  • 269◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:27:23

    「なるほど。ただの居合の風圧だけで、私の忍法と投擲を完全に無力化、かつ周囲の地形を更地にするほどの出力。……やはり、正面からの単純な武力行使は、著しく勝率を下げる合理的な悪手ですね」

    爆風によって黒い装束を激しくなびかせながらも、本物の霧子は、数メートル後方の竹の枝の上に、まるで一枚の木の葉のように軽々と着地していた。
    彼女の顔には、驚きも、焦りも、恐怖もない。
    事前に蒼坂の攻撃力が常軌を逸していることは織り込み済みであり、今の同時投擲も、彼の「妖刀の射程」と「妖力の波形」を正確に分析するための、単なる『捨て石』の策に過ぎなかった。

    「慢心せず、用心深く。相手の出力を確認したならば、即座に次の策へと移行する。――火遁の術、並びに木遁の術」

    霧子が空中で素早く印を結ぶと同時に、先ほど蒼坂が薙ぎ払った大量の竹の残骸が、突如として生き物のようにうねり始め、蒼坂の足元を拘束せんと猛スピードで絡みついていく。
    さらに、その植物の鎖の表面から、青白い「地獄の業火」が一斉に噴出し、蒼坂を完全に中心とした、巨大な火柱の檻が形成された。

    「おやおや、今度は火遊びですか。本当に芸達者なお嬢さんだ」

    蒼坂は、足元を木遁の蔦に縛られ、周囲を火遁の炎に包まれながらも、依然としてその紳士的な態度を崩さない。
    だが、彼のその余裕に満ちた言葉の裏で、霧切霧子の本当の「牙」は、すでに彼の喉元へと、目にも留まらぬ速度で侵入を完了していた。

  • 270◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:29:03

    パチ、パチ、パチ……。

    青白い火遁の炎が、木遁によって呼び寄せられた竹の蔦を焼き焦がし、不気味な爆ぜる音を周囲に響かせる。
    魔剣士刀時蒼坂は、その猛烈な熱量と視界を遮る炎の檻の中心にいながらも、未だに抜刀すら完全には行わず、ただ左手で紅血月の鞘を握りしめたまま、静然と佇んでいた。

    彼の高い霊感は、周囲を取り囲む炎の揺らぎ、そして吹き抜ける夜風の微細な変化のすべてを完全に感知している。
    だが、その絶対的な直感と索敵能力をもってしても、「それ」の兆候を捉えることは完全に不可能であった。

    転移の術ではない。瞬間移動の歪みでもない。ましてや、大気に溶け込む透明化の妖術などという、技術的な領域の代物でもない。
    ただ、世界の因果の隙間に滑り込むようにして、当たり前のように「そこ」に存在する不条理。
    それが、霧切霧子が妖怪『ぬらりひょん』との契約によって手に入れた絶対の忍法――『侵入』の真髄であった。

    「――チェックメイトです、伝説の剣聖(ごろうじん)」

    突如として、蒼坂の耳元、否、彼の防衛領域であるはずの「数センチメートル」という、完全に肌が触れ合うほどの至近距離から、極めて冷徹で、高低差のない少女の声が響き渡った。

  • 271◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:29:16

    いつの間にそこにいたのか。
    正面の炎の向こう側にいたはずの霧切霧子が、蒼坂の背後、彼の影の輪郭に重なるようにして、完全に「侵入」を完了していた。
    蒼坂の並外れた霊感も、相手の内面を見抜く卓越した洞察眼も、この瞬間だけは完全に沈黙させられていた。
    なぜなら、彼女の侵入は「敵が近づいてくる」という概念そのものを世界の認識から抹消する、認知の蹂躙だからである。

    霧子の右手に握られた、月の光すら反射しない漆黒の短刀が、一切の躊躇なく蒼坂の無防備なうなじへと突き出された。
    その速度、その角度、すべてが完璧。
    どれほど優れた武芸者であっても、存在を認識していない背後からの、ゼロ距離での刺突を回避することは絶対にできない。

    ――キィィィィィィィィン!!!!!

    しかし、竹林の空間を切り裂いたのは、肉が裂ける鈍い音ではなく、鼓膜を激しく震わせる硬質な金属の激突音であった。

    霧子の放った絶対の短刀の刃は、蒼坂のうなじを捉える直前、彼の右肩の後ろからまるで生き物のように跳ね上がってきた『妖刀紅血月』の「鞘」の末端( or 鐺)によって、寸分の狂いもなく完璧に弾き止められていた。

    「おっと、危ないねぇ。本当に、いつの間にか側にいる。……なるほど、これが噂に聞く、認識の隙間を抜ける忍法ですか」

    蒼坂は、振り返ることすらセズ、ただ右手に持った「鞘」を肩越しに回すという、神技めいた変則的な防御動作だけで、霧子の絶対の暗殺を防ぎ切ってみせた。
    彼の顔には、驚愕の代わりに、この底知れぬ能力に対する深い興味と、相変わらずの掴みどころのない紳士的な微笑みが浮かんでいた。

  • 272◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:29:35

    「な……!? 認識できていなかったはずなのに、なぜ私の短刀の軌道を正確に防げるのですか。……合理的ではありません」

    霧子の瞳に、初めて微かな、しかし決定的な計算違いの動揺が走る。
    彼女の忍法『侵入』は完璧に駆動していた。蒼坂は確かに、彼女が背後に立つその瞬間まで、彼女の存在を全く察知していなかった。

    「お嬢さん、あなたは確かに天才だ。私の『眼』をも欺いてみせた。……ですがね、私のこの『妖刀紅血月』に込められた数多の妖魔の残嗟と、私自身の経験は、私の脳が認識するよりも早く、世界の『殺意の密度』に反応するのですよ」

    蒼坂が、今度は完全に振り返りながら、紅血月を鞘ごと豪快に一閃させた。
    刀身を抜かず、鞘のまま放たれたその打撃は、しかし周囲の大気を一瞬にして弾き飛ばすほどの凄まじい質量を持った一撃。

    霧子は即座に後方へと跳ね起き、肉体の強度が一般人並みであるという自身の弱点を完全に理解しているがゆえに、絶対にその直撃を受けぬよう、空中で「土遁の術」を起動して地面の土壁を盾にした。

    ドゴォォォォォォォォン!!!!!

    蒼坂の鞘の一振りが土壁を粉々に粉砕し、その凄まじい衝撃波が、霧子の身体を数十メートル後方の竹林の奥へと吹き飛ばす。
    霧子は空中で見事に受身を取り、再び静かに地面へと着地したが、彼女の黒い装束は先ほどの風圧で各所が破れ、その息は僅かに乱れていた。

    「……なるほど。頭脳、武力、直感、すべてが想定以上。正面からの白兵戦を継続することは、私の生存確率を1%以下に低下させる。――奥義の解放を選択します」

    霧子が、自身の短刀の刃を自らの手のひらへと突き立て、その血を触媒にして、地面へと深く手を突き下ろした。
    彼女の影が、月光の下で爆発的に広がり、百鬼夜行の不気味な足音が、竹林の深淵から響き渡り始める。

    一方、蒼坂は、霧子のその不穏な動きを見つめながら、自身の刀の柄へと再び手をかけた。
    だが、彼の紅血月の刀身に宿る真紅の妖力は、これまでの度重なる衝撃波の行使によって、すでにその『限界(ストック)』を迎えようとしていた。

  • 273◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:29:47

    「おや、次はいよいよ真打ちの登場ですか。……ですが、こちらも少々、刀に込めた妖力が尽きかけてきましてね。……一度、完全に鞘に戻して眠らせるか、あるいは、ただの鉄の塊としてあなたを叩きのめすか……。さて、どちらを選んだものか」

    蒼坂は、自身に迫る弱体化の危機すらも、まるで今夜の夕食のメニューでも選ぶかのような余裕の口調で呟いた。

  • 274◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:30:17

    ドクン、ドクン、ドクン……!

    竹林の地底から、まるで巨大な心臓が脈動するかのような、不気味で重密な振動が鳴り響く。
    霧切霧子が自らの血を触媒にして発動した、ぬらりひょんの契約の奥義――『百鬼夜行』。
    彼女の足元から溢れ出た影は、見る間に月光を侵食する漆黒の泥の海と化し、その中から、伝承に数多刻まれし凄惨な妖怪たちの「腕」や「異形なる貌」が、無数に這い出してきた。

    「――一次的に、百鬼夜行の王たる妖怪たちの力を簒奪。……火車、大入道、そしてがしゃどくろ。……すべての力を我が身に宿し、対象を包囲・殲滅します」

    霧子の冷徹な二重の瞳が、宿した怪異の魔力によって怪しく紫黒に発光する。
    彼女の背後には、炎を撒き散らす巨大な火車の車輪と、山をも跨ぐ大入道の巨大な影が具現化し、一斉に魔剣士刀時蒼坂へとその絶対的な暴力を向けた。
    肉体強度は一般人という彼女の致命的な弱点は、この百鬼夜行の怪異の鎧を纏うことで、一時的に完全に克服されていた。

    対する蒼坂は、その圧倒的な怪異の群れを前にして、自身の『妖刀紅血月』をじっと見つめていた。
    これまでの激しい衝撃波の行使、そして霧子の変幻自在な忍法を捌き続けたことにより、幻の刀身に蓄えられていた膨大な妖力は、今や完全に底を突いていた。

    カチ、カチ、カチ……。

    刀身から放たれていた真紅の残光が、まるで寿命を迎えた灯火のように、儚く消え去っていく。
    刀に込めた妖力が尽きた際、彼には二つの選択肢が残される。
    一度、刀を完全に鞘へと戻し、再び妖力をチャージする時間を稼ぐために防戦に徹するか。

  • 275◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:31:08

    あるいは、妖力を一切纏っていない、ただの「普通の鉄の刀」のまま、この怪異の軍勢に生身で立ち向かうか。
    どちらを選んでも、伝説の剣聖にとっては、一時的な弱体化を強いられる絶望的な状況。

    「……なるほど。実に合理的で、そして凶悪な布陣だ。お嬢さん、あなたは本当に素晴らしい忍びだ」

    蒼坂は、ふっと息を吐き、掴みどころのない紳士的な微笑みを、その端正な顔立ちに浮かべた。
    そして、彼が選んだ決断は――。

    「ですがね、忘れないでほしい。私が『伝説』と呼ばれたのは、この妖刀の力があるからではない。……この私の『剣』そのものが、伝説だからですよ」

    カチャリ。

    蒼坂は刀を鞘に戻すことなく、むしろ妖力を完全に失い、ただの冷たい白刃へと戻った紅血月を、右手一本で美しく、そして静かに構えてみせた。
    弱体化を強いられる選択。しかし、彼の絶対的な自信は、ただの「普通の鉄の刀」を以てしても、霧子の百鬼夜行を凌駕できると確信していた。

    「――いきますよ。百鬼夜行の主たち、そして天才のお嬢さん」

    次の瞬間、霧子が従える大入道の巨大な拳が、彗星の如き質量となって蒼坂の頭上へと振り下ろされた。
    それと同時に、火車の業火が全方位から彼の逃げ場を焼き尽くす。
    妖力の防壁を持たない、ただの「生身の人間」に戻った蒼坂にとって、その一撃はかすっただけでも肉体が消し飛ぶ、絶対の死の秒読み。

  • 276◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:31:21

    しかし、蒼坂の身体は、物理法則を完全に置き去りにした。

    シュパァァァァァァンッ!!!!!

    妖力など、そこには一滴も込められていない。ただの生身の腕力、ただの純粋な「居合抜刀の技術」のみで放たれた一閃が、迫り来る大入道の巨大な拳を、一刀両断に両断したのだ。
    鋭利な刃物で大気を割るような澄んだ音が響き、怪異の拳は、蒼坂の超絶的な剣技の前に、ただの黒い霧へと還っていく。

    「な……っ!? 妖力を失っているはずなのに……純粋な武技だけで、百鬼夜行の怪異の質量を切り裂くというのですか……!?」

    霧子の瞳に、今度こそ明確な、戦慄の光が宿る。
    合理的であること、計算通りであることを至高とする彼女の脳髄にとって、蒼坂のこの「技術の暴力」は、完全に計算の範疇を超えた不条理であった。

    「油断せず、侮らず。私はいつでも、目の前の敵を確実に叩きのめすと決めているのですよ」

    炎の渦を、ただの刀の一振りで生じる風圧だけで切り裂きながら、蒼坂の姿が霧子の目の前へと肉薄する。
    妖力を失った最悪の弱体化の最中にありながら、若き剣聖の余裕は、未だに戦場を完全に支配していた。

  • 277◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:32:06

    「――ハァッ!」

    短い呼気と共に、妖力を完全に失ったはずの魔剣士刀時蒼坂の白刃が、月光の下で幾重もの鋭利な光の帯となって虚空を刻む。
    火車が撒き散らす悪鬼の業火も、がしゃどくろの巨大な骨の腕も、蒼坂の繰り出す「ただの純粋な剣術」の前に、分子レベルで均等に切り刻まれ、黒い霧となって次々と夜空へと霧散していった。
    刀に溜め込まれた魔力という『余剰の力』に頼らず、己の肉体と、数万回、数百万回と繰り返してきた居合の型のみに依拠したその武技は、弱体化しているはずの今この瞬間こそ、むしろ最も研ぎ澄まされ、極限の鋭利さに達していた。

    「大入道、火車、がしゃどくろの同時行使を以てしても、接触すら叶わず完全に解体される……。……計算が、合いません。彼の戦闘能力は、妖刀の魔力量に依存しているのではなかったのですか」

    霧切霧子は、百鬼夜行の怪異の鎧が次々と両断される衝撃の余波を受けながら、竹林の地面を黒い装束で滑るようにして後退していた。
    彼女の明晰な頭脳は、常に攻撃が失敗した場合の次の一手、そしてそのさらに先にある複数の策を同時に巡らせている。
    大量の軍勢に囲まれても無傷で勝てる彼女の素の武力。しかし、目の前にいるこの掴みどころのない青年は、その彼女の「卓越した素の武力」すらも、ただの子供の火遊びであるかのように完全に格殺する、本物の『怪物』であった。

    「お嬢さん、私は最初に言いましたよね。私は、決して相手を油断せず、侮らず、確実に叩きのめすと。……妖力が尽きれば確かに私の手札は減る。しかしね、手札が減ったからといって、私の剣が錆びつくわけではないのですよ」

    蒼坂は、ただの普通の鉄の刀と化した紅血月を優雅に斜めに構え、着物の裾を風に揺らしながら、一歩、また一歩と霧子との間合いを詰めていく。
    彼のその紳士的な笑みの奥にある、恐ろしいほどに透き通った『霊感の眼』。
    その眼は、霧子がこの期に及んでもなお、諦めることなく心臓の鼓動を一定に保ち、次の「最も卑怯で、最も合理的な暗殺の罠」を仕掛けようとしているその内面を、完全に、そして無慈悲に見抜いていた。

  • 278◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:32:18

    「……そうですか。ならば、その『眼』ごと、私の最大最凶の不条理で圧殺するまでです」

    霧子の冷徹な声が竹林の闇に響いた瞬間、彼女の姿が、蒼坂の正面から唐突に、何の前触れもなく『消滅』した。

    ぬらりひょんの忍法――『侵入』。
    それは先ほどのような背後からの奇襲といった、単純な次元の話ではない。
    今度は、蒼坂がその天才的な『眼』で彼女の姿を完全に視界の中心に捉え、その筋肉の動き、呼吸の深さ、魂の波形までをも100%見切っている、まさに「その戦闘の真っ只中」において発動されたのだ。

    ――ゾクッ。

    蒼坂の全身の毛穴が、かつてない強烈な霊的悪寒によって一瞬にして総毛立った。
    彼の『眼』には、正面に霧切霧子が存在しているという情報が記録されている。しかし、彼の肉体と直感が告げる現実は、全く異なっていた。
    いつの間にか。
    本当に、呼吸を一つ挟む一瞬の隙すら与えられぬまま、霧切霧子は蒼坂の『懐の内側』――彼の顎の下、わずか数ミリメートルという、彼の刀の長さでは絶対に迎撃不可能な「絶対死角」へと、当たり前のように侵入を完了していたのだ。

    「目の前で視界に収めていても、戦っている最中であっても、私はあなたの側にいる。――これで、終わりです」

    霧子の瞳には、勝利の確信も、殺戮の悦びもない。ただ、目的を達成するという冷徹な合理性だけが宿っていた。
    彼女の両手に握られた一対の短刀が、蒼坂の剥き出しの喉笛を、下から上へと一文字に掻き切るために、電光石火の速度で突き出された。
    肉体強度は一般人という彼女の最大の弱点を完全にカバーする、相手に何もさせずに殺すための、これ以上ない完璧なゼロ距離の暗殺。

    どれほどすべてを見抜く眼を持っていようとも、脳が認識した瞬間にはすでに刃が肉に食い込んでいる。
    伝説の剣聖の余裕が、天才忍びの放つ「不条理の侵入」によって、完全にハサミ殺されようとしていた。

  • 279◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:33:23

    ピキィィィィィィィィィィン!!!!!

    完全なる静寂が月下の竹林を支配したかのように、時間が一瞬だけ、極限まで引き伸ばされた錯覚に陥る。
    霧切霧子が放った、死覚のド中心からの絶対侵入によるゼロ距離の双刃。
    それは蒼坂の喉笛を完全に捉え、刃の先端が彼の皮膚に触れ、薄い血が数滴、月光に照らされて宙へと舞った――その、まさにコンマ数ミリ秒の瞬間であった。

    どれほど卓越した武技を持とうとも、間合いを完全に潰され、刀を振るための「空間」そのものを奪われてしまえば、剣聖とてただの肉塊に過ぎない。それが霧子の弾き出した絶対的な合理の計算。

    しかし、魔剣士刀時蒼坂という男の『底』は、その合理の計算式を遥かに超越した深淵にあった。

    「お見事、と言わざるを得ませんね。ですがお嬢さん……、私は『魔剣士』であって、ただの剣振りではないのですよ」

    カシャアァァァァァァァッ!!!!!

    突如として、蒼坂の全身から、刀ではなく、彼の着物の袖口から無数に溢れ出た「黄金の霊符(お札)」が、爆発的な障壁となって顕現した。
    彼が極めて強い霊感と共に操る、妖術の真髄。
    それは霧子の短刀が彼の肉体を深く切り裂くよりも早く、彼の全身の表面を一分子の隙間もなく覆い尽くし、絶対的な「金剛の防壁」を形成していたのだ。

    霧子の短刀は、その黄金の霊符の表面に突き刺さった瞬間、激しい火花を散らしながら、それ以上一ミリメートルたりとも進むことを許されず、完全にその運動エネルギーを殺された。

    「な……っ!? 刀に妖力が尽きてなお、これほどの規模の妖術を無詠唱で展開するだなんて……!」

    霧子の瞳に、今夜一番の、そして最大の戦慄が走る。
    彼女の頭脳は、蒼坂が『妖刀に魔力を溜め込む』という特性から、彼自身の魔力と刀の魔力を同一視するミスを犯していた。

  • 280◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:33:36

    だが、蒼坂自身の霊力、および妖術のキャパシティは、刀が空になったところで一滴も減ってなどいなかったのだ。
    油断せず、侮らず。彼は刀の妖力が尽きるという自身の弱点を、最初からこの「自己防衛の妖術お札」という完璧な保険でカバーしていた。

    「捕まえましたよ、可愛い隠密のお嬢さん。――これにて、お開きです」

    蒼坂は、至近距離で動きの止まった霧子に対し、優雅に、しかし絶対的な速度で、左手に持っていた「一枚の特殊な霊符」を、彼女の額へと正確にパチン、と貼り付けた。

    ブゥゥォォォォォォォォォォォン!!!!!

    その瞬間、霧子の全身を、文字通り天地の質量がすべてのしかかってきたかのような、圧倒的な霊的拘束力が襲った。
    ぬらりひょんの契約の力も、百鬼夜行の残滓も、そして彼女が3日で師匠を超えたその天性の身体能力も、すべてがその一枚のお札の内部へと強引に封印され、彼女の肉体は一歩も動かすことができなくなった。

    どんな悪人でも、完全に反省するまでその身動きを封じる、蒼坂の絶対の封印術。
    肉体強度は一般人並みという霧子にとって、この霊的な絶対拘束を自力で引き剥がす術は、どこをどう計算しても存在しなかった。

    「くっ……あ、足が、指先一つ、動かない……。……完全に、私の敗北、ですか」

    霧子は額にお札を貼られたまま、直立不動の姿勢で、悔しさの感情すらも合理的に処理しようとしながら、冷徹に呟いた。
    周囲を包み込んでいた百鬼夜行の影はサラサラと消え去り、竹林には再び、穏やかな白銀の月光だけが降り注ぐ。

  • 281◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:33:47

    蒼坂は、妖力を失った紅血月を静かに鞘へと収めると、カチャリと心地よい音を響かせた。
    そして、身動きの取れなくなった霧子の前に歩み寄り、着物の裾を直しながら、いつもの掴みどころのない、しかし紳士的で優しい微笑みを浮かべた。

    「怪我はありませんでしたか? お嬢さん。……トドメを刺さなかったのは、私のポリシーもありますが、何よりあなたの魂が、根っからの悪人ではないと私の『眼』が告げていたからです。……ただ、少々目的のために手段を選ばなすぎる。そこは、大いに反省していただかねばなりませんね」

    蒼坂は懐から、さらさらとした上質な和紙と筆を取り出し、霧子の目の前の地面へと優雅に置いた。

    「さあ、お嬢さん。そのお札はね、あなたが心から自分の行動を省み、完璧な『反省文』を書き上げる意志を示すまで、絶対に剥がれません。……幸い、今夜は月が綺麗だ。じっくりと時間をかけて、ご自身の倫理観と向き合ってみるといい」

    「……忍びに対して、反省文の提出を要求するだなんて。……どこまでも、不条理で、非合理的です、あなたは」

    霧子は動かない首のまま、ジロリと蒼坂を睨みつけたが、その瞳からは先ほどまでの冷徹な殺気は完全に消え去っていた。

    「ははは、よく言われますよ。では、私はこれにて。……良い夜を、お嬢さん」

    蒼坂は紳士的に一礼すると、再び何処か掴みどころのない足取りで、悠然と月下の竹林の奥へと歩き去っていった。
    あとに残されたのは、額にお札を貼られたまま、静かに月を見上げる天才忍びと、地面に置かれた一枚の和紙。

    伝説の剣聖の余裕と優しさは、今夜もまた、世界の歪みを一枚のお札と共に、静かに正していくのであった。

  • 282◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 01:33:58

    以上

  • 283二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 10:09:29

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  • 284◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 10:19:10

    12:30から6名募集

  • 285二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 12:30:00

    名前:ナロス=ナタマ=メラソ
    年齢:50歳を超える
    種族:魔族と人間のハーフ
    性別:女性
    本人概要:お姉さん気質な喋り方をするお淑やかな性格…に見えて実は他人を傷つける事と自分が傷つけられることにとてつもない喜びを感じるガチのサディスト兼マゾヒスト。
    10年前に封印されて現在復活した、実は身体にホムンクルスの技術を応用した改造がされており身体能力や身体の頑丈さが劇的に向上、その代償として痛みが強まるという副作用があるが、本人は痛み大好きなので弱点になっていない、10年前に自身を封印したとある戦士に対し、10年も封印したことに対する復讐と、10年経っても未だ収まらない痛みを与えてくれた例とプロポーズをしたいと思っている、古傷を攻撃されると彼の事を思い出して興奮する。
    これまで数え切れないほど人物をその手の刃で切り捨てておりなかには騎士や戦士等の強者もいたため戦闘能力も高い。
    能力:ホムンクルス
    能力概要:ホムンクルスに近い身体となっている為人間離れした動きが可能、コアはないが一応肉体なので強力な攻撃を何度も受ければその内活動を停止する。
    弱点:相手を傷つけることを優先するためその隙を突かれて不意打ちされることがある、ちなみにこの痛みも好き
    傷を得て快楽を愉しむ為に相手の必殺技や不意打ちをわざとノーガードで受けたりする
    痛み依存症で大きな痛みを忘れられずもう一度受けることを望んだりする

  • 286二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 12:30:01

    名前:ローニン
    年齢:製造から12年経過
    性別:無し(男のような振る舞いではある)
    種族:戦闘用人型ロボット
    本人概要:外装が取り付けられておらず、内部フレームが剥き出しになっている人型ロボット。
    戦場で頭部を損傷した際にプログラムに異常が生じ、人間の支配下から脱した。それからは傭兵などの仕事をしながら旅をしている。日本文化やジョークが好き。片言だが陽気な人間らしい言葉を話す。

    能力:戦闘ロボット
    能力概要:人間を超えた反応速度や馬力、分析能力を持つ。また痛みや毒や病、精神攻撃などが効かない。

    武装
    刀 ローニンが旅の中で手に入れた刀剣。
    鉄笠 合金製の笠。いつもは頭に被って頭部を守っているが、盾にしたり敵に投げつけたりもする。


    可動部に一部油圧式を採用しており、中のオイルを噴射して目潰しをしたり、足場に撒いて滑りやすくしたりする。
    手首を高速で回す事で刀や貫手をドリルのように回転させ、敵を穿つ。
    空手や柔道を会得しており、素手でも投げ技や徒手空拳による戦闘が可能。

    弱点:オイルを放った分だけ動きが鈍る。暑い場所に長時間いたり戦闘が長引いたりすると熱暴走を起こしてしまう。

  • 287二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 12:30:01

    名前:不明(名を忘却した)

年齢:数千歳

性別:男

種族:仙人

本人概要:長い修行の果てに仙人へと羽化登仙した只人、その見た目は若々しくも、鍛え上げられた筋肉を持つ。
髭が生えておらず、長い白い髪を生やしている以外は仙人のような見た目をしている。
ただ、武を極める事のみを考えている。

能力:武の極致、登仙せし肉体

能力概要:鍛え上げられた膂力、それを制御する力、そして修行の果てに手に入れた衝撃を操る力。
あらゆる衝撃を受け流し、どんな些細な衝撃でも一撃必殺とする力。
また、仙人へと至り極限状況に適応した肉体。熱や冷気、雷のような自然現象は受け付けない。
ちなみに能力とは関係なく数千年に及ぶ長い修行によりシンプルに武術だけでもかなり強い。

弱点:衝撃を操ると言ったが、あくまで受け流す、一点に集中させると言った意味での操るであり、波動拳のように飛ばしたりはできず、
衝撃を受け流す先が存在しない、つまり自分が完全に浮いている状態だとそのままダメージを受けてしまう。
また、一部のものが使う魔術のような自然ではない力だと普通にダメージを喰らう。

要望:一人称は私、どのような相手であれ敬意を持って戦う。

  • 288二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 12:30:02

    名前:夢野 万智(ゆめの まち)
    年齢:16歳
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:旧くから特殊な短刀を保管している一族に生まれた存在
    幼き頃から好奇心旺盛で、気になった物を触れたり口の中に含んだりしていた
    小学校に上がる頃には、気になった物や現象を周りの大人達に聞いたりして万象全てを知りたがるようになっていた
    小学校中学年に上がる頃、興味本位で倉庫の中に入り大事に大事に保管されている【未知の相貌】を見つけた
    【未知の相貌】を見つけた時に何故か魅入ってしまい、何かに後押しされているような雰囲気を出しながら手にしようと手を伸ばした
    手にしようとして触れた瞬間【未知の相貌】が光り、個体から液体に変化し始めて触れていた万智と1つになっていった
    光りが収まった時には、万智は【未知の相貌】と人身一体になっており、出ろと念じれば短刀の形をして万智の手のひらから出てくる
    どれだけ離れていようが壊れようが戻れと念じると、消滅し万智の中に戻ってくるような感覚を得る
    現在は学術系の高校に通っており、今年で2年生になったばかりである
    【未知の相貌】と融合したのか、理解をする為に…
    能力:【未知の相貌】
    能力概要:全体が霧のように決まった形にならず、変貌し続ける短刀
    使用者が想像する武器になる事が出来る
    切り札として相手の異能や武装を取り込み我が物として扱う事が出来る
    取り込み続けて取り込める限界の十種類までいくと、更なる領域に昇華するという伝承があるが…?
    弱点:【未知の相貌】は使用者が詳しく想像出来る武器でなければ、中途半端な物になる
    切り札の取り込みは、未知の相貌を使用者が想像する武器に幾度かならなければ使えない
    取り込みは【未知の相貌】が直接触れた時にしか発動せず、取り込めるのも一回に一割しか取り込めない
    相手の力や異能、武装を扱う場合は本来よりも劣化する

  • 289二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 12:30:02

    名前:シャオマオ
    年齢:15
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:位が高い獲物を討つことで成人の証明とする、「虎狩り」という風習を持つ一族の娘。狩るに相応しい力強く気高い「虎」を追い求めており、一対一での正々堂々とした戦いにて「虎」を打ち負かし、歴代の者達よりも更に素晴らしい勝利の証を手にして父と母の元へと帰ることを心に決めている。「虎狩り」には拘りを持つが、「虎」の命を奪うこと自体には拘っておらず、相手が悪人でない人間であれば、勝利の証だけを奪い取るだけで逃してやろうと考えている。苛烈だが素直な性格をしており、子供扱いされる等の気に入らないことが起きるとすこぶる機嫌を悪くするが、戦士としての基本を叩き込まれているためか戦闘中に怒りで我を忘れたりすることはない。回避を優先とした立ち回りを好み、猫のようにしなやかに相手を翻弄し、研ぎ澄ました偃月刀の一撃を叩き込む。
    能力:獣化、部分解放-虎
    能力概要:先祖代々伝わる秘薬の力により、瞬間的に四肢の任意部位を虎に変化させ、数倍の速度で駆け、数倍の威力で攻撃する。変化の際に筋肉に疲労が蓄積するため、連続で変化させたり長時間持続させることはあまりできない。 / 基本的な力として、高い聴力と視覚を持つ。
    弱点:至近距離で大きな音を聞いたり、強い光を受けたりすると数瞬パニックになる。

  • 290二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 12:36:08

    名前:蓮城美優子(れんじょうみゆこ)
    年齢:15歳
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:恋に恋するJK
    あまりにも恋が重すぎるために今まで付き合ってきた彼氏はたいてい3日以内に精神崩壊させ、これまでに365人病院送りにした過去を持つ
    高校デビューを機に、自分の思いの丈に応えられる素敵な殿方を探している
    能力:恋慕連鎖(チェーンチェインメイル)
    能力概要:思いの丈を伝えるスキル
    自分の相手に対する思いを質量的にぶつけられる
    制限として相手に恋すること、ガラケーでメールを打つ必要があること
    しかし、前者は目と目が合えば即運命を感じる惚れっぽさ、後者は10秒で一通送れる神速のキー入力でカバーされている
    弱点:メールが打てないと能力は発動できない
    精神的な疲弊・ショックを質量的に感じるため、精神力が強靭である、精神がそもそもない者には大きく不利

  • 291◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 12:50:39

    >>285

    >>286

    >>287

    >>288

    >>289

    >>290

    採用


    不明vsナロス=ナタマ=メラソ

    シャオマオvs蓮城美優子

    夢野 万智vsローニン

  • 292二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 16:00:00

    あれ試合は?

  • 293◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:08:19

    題名『愛を刻んだ男と、世界の果てまで這い寄る狂女』

  • 294二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 16:09:20

    このレスは削除されています

  • 295二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 16:09:46

    このレスは削除されています

  • 296◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:12:27

    ゴ、ゴ、ゴ、ゴオォォォォォォォォン……!

    かつて悪名高き魔族と人間のハーフ、ナロス=ナタマ=メラソが強大な戦士の手によって封印されたとされる、人跡未踏の地下大空洞。
    十年の歳月を経て、その封印の祭壇が、内側から爆発するような凄まじい衝撃によって完全に粉砕された。
    飛び散る石塊と、立ち込める十年の埃の向こうから、ゆっくりと立ち上がったのは、50歳を超えているとは到底信じがたい、妖艶で瑞々しい肉体を維持した一人の女性であった。

    ナロス=ナタマ=メラソ。
    お淑やかで、まるでお姉さんのような包容力に満ちた喋り方をする美しい女性――だがその本性は、他人を無慈悲に傷つけることに至高の喜びを感じ、同時に、自分が傷つけられ、肉体が引き裂かれることに精神が融解するほどの絶頂を覚える、本物のサディスト兼マゾヒストであった。
    彼女の肉体には、かつてホムンクルスの技術を応用したドロドロの肉体改造が施されており、並外れた身体能力と、強者たちの剣をも弾く頑強さを誇る。
    その改造の副作用として「痛みが通常の数倍に増幅される」という致命的な呪いがあったが、痛み依存症の彼女にとって、それは呪いではなく、神から与えられた最高の「ご褒美」に他ならなかった。

    ナロスは、自らの胸元に残る、十年前の戦いで刻まれた「大きな古傷」を愛おしそうに指先でなぞり、悦惚とした溜息を漏らす。

    「あぁ……、初めまして、私の愛しい人。十年も暗い場所に閉じ込められていたの、本当に意地悪な方。でもね……この胸の古傷が痛むたびに、私は、ずっと興奮していたの…
    今日はね、私のすべてを捧げるプロポーズをしに参りましたの」

    ナロスがその手に、これまで数え切れないほどの騎士や戦士を屠ってきた、禍々しい肉厚の刃を具現化させる。
    彼女の狂気的な視線の先――地下空洞の出口、月光が差し込む崩れた天井の下に、ただ静然と直立する一人の男の姿があった。

  • 297◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:13:48

    名前はない。ただ長い修行の果てに、人間の領域を遥かに超えて羽化登仙した仙人。
    数千年の時を生きながらも、その肉体は若々しく、しかし鋼鉄を編み込んだかのような究極の筋肉をまとい、髭のない滑らかな顔に、長い白髪を夜風に揺らしている。
    彼はただ「武」の一文字を極めることのみを考え、数千年にわたり拳を突き出し続けてきた、歩く武徳そのものであった。

    仙人は、狂気を孕んだ笑顔で歩み寄るナロスに対し、一切の軽蔑も、怯えも見せなかった。
    彼は静かに、しかし深く腰を落として、右手を前に、左手を腰の後ろへと回す、完璧な武術の構えを取る。

    「……私の名を忘却して久しいが、魔の血を引く戦士よ。どのような歪みを抱えていようとも、十年もの封印に耐え、未だその闘志を失わぬその執念……。私は一人の武人として、あなたに最大限の敬意を表し、全力で応えよう」

    どのような相手であれ、戦場に立つ者には等しく敬意を持って戦うのが、彼の数千年の修行の果てに行き着いた至高の精神性であった。

    「あら、お堅くて、とっても素敵。その鍛え上げられたお身体で、私にどれほどの『痛み』を刻んでくださるのかしら? さあ、始めましょう……うふふ、あははははは!」

    ナロスのホムンクルス肉体が、人間の関節の可動域を完全に無視した超角度の跳躍を見せ、一瞬にして仙人の眼前に肉薄する。
    傷を得て快楽を愉しむ狂魔と、あらゆる衝撃を受け流す仙人。
    薄暗い地下大空洞を舞台に、十年の因縁と数千年の武が交錯する、常軌を逸した死闘の幕が上がった。

  • 298◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:14:40

    キィィィィィィィィィィン!!!!!

    ナロス=ナタマ=メラソの放った禍々しい肉厚の刃が、空気を鋭く引き裂きながら、月光の差し込む地下空洞を不気味な紫色の軌跡で染め上げた。
    彼女の肉体は、ホムンクルスの不条理な技術によって改造され尽くしており、筋肉の収縮速度や骨格の柔軟性は、到底人間という枠に収まるものではなかった。
    右腕の関節が不自然に二段階ほど伸長し、仙人の脳頭を正確に叩き割るために放たれた、予測不能の超角度からの一閃。

    しかし、数千年の武を極めた仙人は、その凶刃を前にしても、その深い白銀の瞳を微塵も揺らしはしなかった。

    「――お見事。人間の構造を捨て、武の変則を極めたその機動……。実に見事な一撃だ」

    仙人は静かに呟き、自身の前に突き出していた右手の平を、迫り来る刃の「側面」へと、まるで春のそよ風のように優しく添えた。
    彼が長年の修行の果てに手に入れた能力――それは、万物の『衝撃を操る力』。
    ナロスが刃に込めた凄まじい破壊のエネルギー、そのベクトルのすべてを、仙人は手の平の一触だけで完全に掌握し、自らの肉体を透過させて背後の地面へと滑らかに「受け流した」のである。

    ズガァァァァァァァァンッ!!!!!

    仙人の背後のコンクリートが、何もない空間から突如として爆発したかのように激しく砕け散り、凄まじい土煙が舞い上がる。
    しかし、その衝撃の渦の中心にいながら、仙人の衣服には一切の乱れもなく、彼の肉体は無傷のままであった。

    「あら、あらあら……! さすがは私の愛した人、相変わらず私の激しいおねだりを、そんなに優しくいなしてしまうのね……!」

    ナロスは自身の全力の一撃が完全に無力化されたというのに、悔しがるどころか、その妖艶な顔を狂気的な歓喜によって歪ませた。
    彼女のホムンクルス肉体は、攻撃を受け流された際の反動すらも「心地よい関節のきしみ」として処理し、即座に左足の軸を爆発させて、仙人の無防備な脇腹へと向けて鋭利な蹴り込みを放つ。

    だが、仙人はすでに、受け流した右手を引くと同時に、左の拳を鋭く突き出していた。
    それは、どんな些細な衝撃であっても一撃必殺の破壊へと昇華させる、仙人の『衝撃の集中』。

  • 299◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:15:07

    「我が武の極致、その一端を。――御免」

    ドッバァァァァァァァァァァン!!!!!

    仙人の硬い拳が、ナロスの腹部へと真っ向から直撃した。
    その瞬間、仙人が放った純粋な打撃の衝撃波は、ナロスの皮膚や筋肉の表面を一切破壊することなく、彼女のホムンクルス肉体の「内部構造」へと完全に一点集中して浸透していった。
    肉体を内側からドロドロに融解させ、臓器のすべてを震わせる、数千年の修行がもたらした不条理な浸透勁。

    「――あ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……、あはははははははははっ❤」

    痛みが通常の数倍に増幅されるというホムンクルス肉体の副作用が、今、最悪の形で、いや、ナロスにとって最高の形で発動した。
    全身の神経が、これまでに経験したことのないほどの猛烈な激痛によって焼き焦がされる。
    口から大量の鮮血を噴き出し、腹部の肉が内側から悲鳴を上げる中、ナロスはその激痛のあまりに目を血走らせ、悦惚とした絶頂の表情を浮かべてその場にへたり込んだ。

    「これよ……! これなのよ……!! 十年前、私を眠らせたあの時の、脳髄が溶けてしまいそうな最高の痛みのような……! 素晴らしいわ、あなた! あなたのその拳に、私は今猛烈にプロポーズしたい気分よ……!」

    ナロスは血に濡れた地面を這いながら、自らの古傷を掻きむしり、過呼吸気味に笑い声を上げる。
    仙人の放った一撃必殺の神拳すらも、彼女の「痛み依存症」という狂気の前には、ただの極上の快楽物質へと変換されてしまっていた。

    仙人は、激痛に狂い悶えながらも立ち上がろうとするナロスの姿を見つめ、静かにその構えを崩さずにいた。
    どのような歪みであろうとも、これほどの絶対的な破壊を受け止め、なおも立ち上がろうとするその執念には、敬意を払わざるを得ない。

    「……大いなる痛みを愉しみ、それを己の糧とするか。……魔の血を引きし者よ、あなたの肉体と精神の強靭さ、私は深く感服いたしました」

    仙人の白髪が、地下空洞に吹き荒れる風に激しくなびく。
    相手を傷つけることを最優先とし、自ら進んでノーガードで必殺技を受け入れるナロスと、万物の衝撃を完璧に制御する仙人。
    狂気と静寂の第二幕は、互いの能力の真髄をさらに深く引きずり出しながら、底知れぬ深淵へと突入していく。

  • 300◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:17:07

    「あはっ、あはははは! もっと、もっと頂戴……! あなたのその、世界を砕く硬いお拳で、私の身体を中からめちゃくちゃにして……っ!」

    ナロス=ナタマ=メラソは、口元からドロドロと溢れ出る鮮血を拭うことすらセズ、狂気的な歓喜に濡れた瞳で仙人を凝視していた。
    彼女の身体能力はホムンクルス技術の応用により、常人の数倍から数十倍にまで跳ね上がっているが、今やその運動のすべては、純粋な『傷を得るための快楽』のみに捧げられていた。
    ナロスは、仙人が再び放つであろう神速の打撃をその身に余すことなく受け止めるため、なんと武器を持った両腕を完全にだらりと下げ、一切の防御の姿勢を放棄する「完全なノーガード」の体勢を取ったのである。

    自ら必殺技をノーガードで受け、増幅された痛みに酔いしれる。それが彼女の戦闘思想の真髄であった。

    しかし、仙人はその無防備な姿を見ても、決して油断することはなかった。
    数千年の修行は、彼の肉体と精神をあらゆる搦め手から完全に解脱させている。
    相手がどれほど常軌を逸した快楽主義者であろうとも、戦場に立つ以上、それは命を賭して向かってくる一人の戦士。
    仙人は敬意を払い、そしてその「無防備さの裏」にある、ナロスの本質的なサディズムの罠を完全に見抜いていた。

    「――仕掛けましたね。傷を得ることを愉しみながらも、その隙に私の心臓を穿つ不意打ちの軌道……。実に見事な、血に飢えた猟犬の牙だ」

    「あら、バレちゃった? 意地悪なおじ様……。でも、お淑やかなお姉さんは、ただ殴られるだけじゃ満足できないのよ……!」

    ナロスが不気味に微笑んだ瞬間、彼女の影から、ホムンクルス肉体の一部を強引に切り離して形成された「血肉の触手(あるいは隠し刃)」が、音もなく仙人の足元から急浮上した。
    相手を傷つけることを最優先とするサディストとしての本能。自分が傷つく瞬間の隙を突き、相手にも同等以上の凄惨な傷を負わせるための、必殺の不意打ち。

  • 301◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:19:22

    シュパァァァァァァンッ!!!!!

    ナロスの隠し刃が、仙人の胸元を正確に貫くかと思われた。
    だが、仙人はその不意打ちに対して、避ける動作すらもしなかった。
    なぜなら、彼の『登仙せし肉体』は、数千年の極限状況の修行を経て、すでに自然現象のすべて、そして生半可な物理の破壊をも完全に「受け付けない」不滅の領域に達していたからである。

    ナロスの血肉の刃は、仙人の若々しくも鋼鉄のように鍛え上げられた胸筋に衝突した瞬間、まるで豆腐を鉄板に叩きつけたかのように、ぐにゃりとひしゃげて自壊した。
    衝撃を操る仙人の肉体は、触れた瞬間の物理的なエネルギーをすべてその場で霧散させ、自身へのダメージを「ゼロ」へと変換していた。

    「な……っ!? 私の自慢のホムンクルスの刃が、触れただけで砕けるなんて……。あぁ、なんて硬いの……! 本当に、あなたという人は、どこまで私を興奮させれば気が済むのかしら……!!」

    ナロスは、不意打ちが防がれたことによる絶望など微塵も感じていなかった。
    むしろ、仙人の肉体の圧倒的な「硬さ」と、そこから生じるであろう未来の「痛み」への期待に、全身のホムンクルス細胞を激しく歓喜で震わせていた。

    「魔の血を引きし者よ、あなたの執念、そして己が痛みを武器へと変えるその闘志……。私は深く感服いたしました。なればこそ、私は我が武のすべてを以て、あなたのその想いに応えねばならない」

    仙人は静かに呼吸を整え、両足を地面へと深く踏み込んだ。
    地下大空洞の結晶化した床が、彼の足元からクモの巣状に激しくひび割れていく。
    熱や冷気、雷すらも受け付けない仙人の不滅の肉体が、ナロスのホムンクルス肉体を完全に「活動停止」へと追い込むための、真の武の極致を発動しようとしていた。

    狂気的な快楽のノーガードと、万物の衝撃を完璧に無に還す仙人の静寂。
    二人の怪物の戦いは、ついに互いの生存を懸けた、最後の決定打の応酬へと移行していく。

  • 302◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:22:25

    「あはははは! いいわ、本当にいいわ……! その冷徹な眼、その強固なお身体……、10年前のあの男を思い出して、私、もう頭がおかしくなりそう!」

    ナロス=ナタマ=メラソは、額から流れ落ちる自身の鮮血で視界を真っ赤に染めながらも、歓喜の絶叫を地下大空洞に響かせていた。
    彼女のホムンクルス肉体は、仙人の凄まじい衝撃をその身に受けるたびに、内部の細胞がズタズタに引き裂かれ、凄惨な悲鳴を上げている。
    しかし、痛みが増幅されるという改造の副作用は、彼女の脳内において、すべてが最上の甘美な快楽物質へと都合よく変換されていた。
    これまでに数え切れないほどの強者を切り捨ててきた彼女の戦闘技術。だが、今の彼女は、ただ「もう一度、あの10年前を超える致命的な痛みを私に刻んで」という、狂気的な渇望のみで動いていた。

    大きな痛みを忘れられず、もう一度その深淵へ。
    ナロスは自らの古傷をわざと指先で激しく抉り、そこから溢れ出る血を刃へと纏わせると、地を這うような超低空の姿勢から、仙人の膝元へと奇襲の刃を滑らせた。

    だが、数千年の武を極めた仙人の動きは、彼女の狂気の速度を遥かに凌駕していた。

    「――おねだりに応えよう。だが、我が拳は生半可な快楽では済まぬぞ。……御免」

    仙人は静かに呟くと、ナロスの放った決死の刃の軌道を、わずか数センチメートルの最小限の体捌きだけで完璧に見切って回避した。
    直後、仙人の右の掌が、ナロスのホムンクルス肉体の中心――彼女の頑強な胸骨の真上へと、音もなく、光もなく、ただ世界の理そのものを押し付けるかのように、静かに「置かれた」。

    これこそが、仙人の操る『衝撃の集中』の真の恐ろしさ。
    波動拳のように遠距離へと飛ばすことはできない。しかし、自らの肉体が直接触れている対象に対しては、どんな些細な筋肉の収縮であっても、対象を確実に内部から崩壊させる「一撃必殺の破壊」へと昇華させることができる。

    ドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

    地下大空洞全体が、まるで巨大な地鳴りを起こしたかのように激しく震動した

  • 303◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:22:40

    仙人の掌から放たれた極大の浸透衝撃は、ナロスの頑強な皮膚を一切傷つけることなく透過し、彼女のホムンクルス肉体の結合組織、筋肉繊維、そして骨格のすべてを一瞬にして内側から粉々に「粉砕」していった。
    それはコアを持たない彼女のホムンクルス肉体にとって、文字通りの『活動停止の宣告』に等しい破壊。

    「――が、ふ、あ、あああああああああああああああああああっ……❤」

    通常の数倍に増幅された、肉体が消滅せんばかりの究極の激痛。
    ナロスの全神経が、そのあまりの衝撃と痛みの熱量によって、一瞬にして焼き切れるほどの過負荷を迎える。
    白目を剥き、全身から血の霧を吹き出しながら、彼女は地面のコンクリートへと激しく叩きつけられ、何度もバウンドして、数十メートル後方の崩れた壁へと深く埋まった。

    「は、ハァ……、あ、あはは……。素晴らしい……わ……。これよ、この痛みなのよ……。私の、大好きな……」

    壁に埋まったナロスは、全身の骨が粉砕され、指先一つ動かすことができないほどの致命傷を負いながらも、その顔には、この世の誰よりも幸せそうな、歪みきった絶頂の笑みを浮かべていた。
    仙人の一撃必殺の神拳は、確かに彼女の肉体を活動停止の一歩手前まで追い詰めたが、同時に、彼女の精神を完全に「私のすべてを捧げたい」という、狂信的な愛へと染め上げてしまったのだ。

    仙人は、激しい衝撃波の残光の中で、静かに右手を引き、深く呼吸を整えた。
    どのような歪みであろうとも、自らの我が武のすべてを正面から受け止め、なおもその瞳に奇妙な輝きを失わないその存在。
    仙人は一人の武人として、その異様なる強靭さに、深い敬意の念を抱かずにはいられなかった。

    「……見事だ。我が全力の衝撃を受けてなお、その魂の火を消さぬとは。魔の血を引きし者よ、あなたとの戦い、私は生涯忘れぬだろう」

    仙人の白髪が、地下空洞に立ち込める硝煙の風に静かに揺れる。
    しかし、戦いはまだ終わっていない。肉体が活動停止を迎えるその瞬間まで、快楽に狂った魔族の女の執念は、さらなる深淵へと仙人を誘おうとしていた。

  • 304◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:24:23

    ズ、ズ、ズ、ズズズ……!

    崩壊した地下大空洞の壁の瓦礫を押し退け、全身の骨が粉砕されているはずのナロス=ナタマ=メラソが、再び不気味に立ち上がった。
    ホムンクルス技術を応用した改造肉体は、すでに限界を迎え、肉組織のあちこちからドロドロとした暗黒の体液が溢れ出している。
    しかし、増幅され尽くした究極の激痛は、彼女の脳髄を完全に破壊し、10年前のあの戦士を超える「至高の愛」へと昇華させていた。

    「ああ……、あなた、あなた、あなた……!! なんて素晴らしい衝撃を私に下さるの……! 私、決めましたわ……。あなたこそが、私のすべてを捧げるに相応しい、本当の旦那様ですもの……っ!」

    ナロスは自身の肉体が活動停止を迎えるその前に、この至高の男を我が物にするため、最後の、そして唯一の「勝機」へと賭けた。
    彼女のこれまで数え切れないほどの強者を切り捨ててきた戦闘経験は、数千年の武を極めた仙人の、唯一にして最大の『弱点』を冷静に見抜いていたのだ。

    仙人の『衝撃を操る力』は完璧である。だが、それはあくまで「受け流す先が存在する」という大前提があってこそのもの。
    もしも、仙人が完全に地面から離れ、空中に「浮いている」状態であったなら、受け流す先を失った衝撃はそのまま彼の肉体を直撃するはず。

    「お淑やかなお姉さんの、最後のプロポーズ……、受けてくださるかしらァァァッ!!」

    ナロスは残された全妖力を爆発させ、地下空洞の地面そのものを強引に爆砕した。

  • 305◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:24:34

    その凄まじい爆発の反動により、仙人の足元の地面が完全に消失し、仙人の頑強な肉体は、重力に従って空中へと一時的に「浮き上がる」状態へと追い込まれたのである。

    「――ここよ……! 空中では、あなたのその無敵の受け流しは通用しないわ……!!」

    ナロスは自身も空へと跳躍し、人間の可動域を完全に無視した超角度の空中機動で、無防備に浮遊する仙人の真上へと侵入した。
    彼女の右手には、自らの血と肉を限界まで尖らせた、命を削り出した最後の一生が握られている。
    相手を傷つけるためなら、自分がどうなろうと構わない。この一撃で、旦那様の肉体に、私と同じ消えない傷を刻み込んであげる――!

    しかし、数千年の時を武の探求に捧げてきた仙人は、自分が空中に浮き、能力が制限された絶望的な状況にあっても、その白銀の瞳を微塵も揺らしはしなかった。

    「――実に見事。私の弱点、衝撃を受け流す先のない空中であることを見抜き、的確に必殺の檻を形成した……。……だが、魔の血を引きし戦士よ。私は、能力だけで数千年の修羅場を生き抜いてきたわけではないぞ」

    仙人は空中に完全に浮いた状態のまま、静かにその両拳を胸元へと引き寄せた。
    彼には、能力とは関係なく、数千年に及ぶ気の遠くなるような長い修行によって培われた、純粋な『武術そのものの極致』が存在する。

    能力が使えぬなら、ただの「拳の技術」で、迫り来る不条理を捩じ伏せるのみ。

    「我が数千年の歩み、そのすべてをこの一拳に。――ハァァァァァァッ!!!」

    仙人は、空中の大気を自らの圧倒的な「膂力の制御」だけで強引に圧縮し、足場がないはずの虚空を、まるで目に見える床があるかのように力強く「踏みしめた」のである。
    縮地、あるいは空歩。純粋な武の極致がもたらす、物理法則をも超越した空中機動。

  • 306◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:24:47

    「――なっ!? 空中を踏んだ……っ!?」

    ナロスの碧眼が、今度こそ純粋な驚愕に染まる。
    彼女が放った決死の刃が仙人の胸元に届くよりも早く、仙人の無駄のない、あまりにも美しく静謐なストレートが、ナロスの禍々しい刃の刀身を真っ正面から打ち砕いた。

    バリィィィィィィィィィィン!!!!!

    鋼鉄をも容易く切り裂くホムンクルスの刃が、仙人の純粋な拳の硬さと速度の前に、まるでガラス細工のように粉々に粉砕されて飛び散る。
    それだけではない。仙人の拳から放たれた、能力に頼らない純粋な「武術の質量」は、ナロスの両腕の骨を根元から完全にへし折り、彼女のホムンクルス肉体の全駆動系を、文字通り一瞬にして完全に『機能停止』へと追い込んだ。

    「――が、はッ……!!!」

    ナロスの妖艶な肉体が、今度は歓喜の声を上げる暇すら与えられぬまま、強烈な下方向への運動エネルギーによって地面へと叩きつけられた。
    ドォン、と激しい音を立てて地下空洞の底へと沈んだナロスは、ピクリとも動くことができない。
    コアこそ破壊されていないものの、ホムンクルスとしての肉体の再生能力すらも、仙人の放った純粋な「武の衝撃」によって完全に凝固させられていた。

    仙人は、空中からまるで一枚の白銀の羽のように、静かに、そして音もなく地面へと着地した。
    衣服の裾を静かに整え、激しい呼吸を一つだけ吐き出すと、彼は倒れ伏すナロスへと向けて、深く、敬意に満ちた一礼を捧げた。

    「……私の弱点を見抜き、完璧なる空中戦を挑んできたその知略、そして命を賭したその一撃……。実に見事な戦いであった。あなたという強者と拳を交えられたこと、一人の武人として、深く感謝する」

    仙人の白髪が、静まり返った地下大空洞に優しく揺れる。
    勝負は決した。数千年の武の極致が、狂気の快楽主義者を完全に打ち破った瞬間であった。
    しかし、仙人はまだ知らなかった。この完璧なる勝利が、彼自身のこれからの数千年に、どれほど「奇妙で、恐ろしい執着」を呼び寄せることになるのかを。

  • 307◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:26:58

    チチチ……、チチチ……。

    地下大空洞の崩れた天井から、静かな朝の光が差し込み、不毛な戦場を白く照らし出していた。
    数千年の修行の末に仙人へと至った男は、自身の衣服に付着した僅かな土埃を払い落とし、倒れ伏すナロス=ナタマ=メラソの様子を静かに見つめていた。
    彼女のホムンクルス肉体は完全に活動を停止しており、もはや指先一つ、あるいは視線一つ動かすことすら満足にできない状態にある。

    「……魔の血を引きし戦士よ。あなたの肉体は、これほどの破壊を受けてもなお、驚異的な生命力を維持している。いずれその傷が癒えた時、再び相見えることがあれば……その時はまた、全力であなたの武に応えよう」

    仙人は、最後まで一人の武人として、どのような歪みを抱えた相手であっても等しく敬意を払うその態度を崩さなかった。
    彼は静かに背を向けると、再び「武の極み」を探求するための長い旅へと戻るべく、地下大空洞の出口に向かって悠然とした足取りで歩き始めた。

    だが、彼の背後で、完全に意識を失っていると思われていたナロスの、へし折れた首が――ピキリ、と奇妙な音を立てて上を向いた。

    「あ、あは……、あははははは……❤」

    その唇から漏れ出たのは、苦痛による呻き声などでは断じてなかった。
    それは、人生のすべてを懸けるべき「最上の獲物」を見つけ出してしまった、本物の狂信、者の笑み。
    仙人が放った、能力すらをも超越したあの空中の一撃。

  • 308◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:27:24

    それはナロスの通常の数倍に増幅された痛覚神経を完全に狂わせ、彼女の脳内に、10年前の封印の記憶を完全に上書きするほどの、宇宙がひっくり返るような極上の「愛」を刻み込んでいたのだ。

    「見つけたわ……。見つけちゃったわ……! 10年前のあの男なんて、もうどうでもいいの……! あなたよ、あなたこそが、私の本物の旦那様……!!」

    ナロスは、指先すら動かないはずのホムンクルス肉体を、ただ「愛しい旦那様の後を追いたい」という凄惨な精神の力だけで強引に駆動させ始めた。
    バリバリ、ボキボキと、粉砕された全身の骨が不自然な角度で強制的に結合され、肉組織がドロドロと蠢きながら、彼女の肉体を「這う虫」のような異形の姿勢へと再構成していく。

    「待って、待ってちょうだい、私の旦那様……。どこへ行くの? 私をこんなにめちゃくちゃにしておいて、一人で生行くだなんて、そんなの、お淑やかなお姉さんは許しませんわ……っ!」

    ナロスは血に濡れた地面を這いずりながら、仙人が歩き去っていった足跡を、愛おしそうにその舌でペロリと舐めとった。
    そこから感知される、仙人の極上の「気」の残滓。
    彼女の痛み依存症は、今や完全に『仙人の衝撃依存症』へと進化を遂げていた。もう一度あの衝撃を受けたい、もう一度あの硬い拳で中をめちゃくちゃにされたい、そして、あの冷徹で気高いお顔を、私の刃で絶頂の恐怖に染め上げたい――。

    数日後。
    世界のあらゆる山々、あらゆる秘境を巡り、ただ純粋に武を高めるための修行を続けていた仙人は、ふと、自身の背後に奇妙な「違和感」を覚えるようになっていた。

  • 309◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:27:37

    熱や冷気、雷のような自然現象すら受け付けない彼の完璧な肉体。
    数千年の修行によって研ぎ澄まされ、どんな些細な殺気であっても一撃必殺の反撃へと繋げる、彼の絶対的な索敵能力。
    しかし、その彼の「神の領域」に達した直感をもってしても、その『影』の正体を完全に捉えることはできなかった。

    仙人が険しい断崖絶壁を登れば、その遥か数メートル下の岩の隙間から、ドロドロとした暗黒の瞳が、悦惚とした視線で彼の逞しいお尻を見つめている。
    仙人が静かに滝に打たれて瞑想をしていれば、滝の裏側の暗闇から、クスクス、あはは、という不気味で艶めかしい女性の笑い声が、水の音に混ざって微かに響いてくる。
    仙人が夜、静かに焚き火を囲んで休息を取っていれば、彼が食べ残した木の実の皮や、彼が腰掛けた丸太の表面が、翌朝にはなぜか綺麗に「舐め回されたように」濡れているのだ。

    「……おや。気のせいか、最近、妙に視線を感じるな。……いや、私の修行が未だ足りぬがゆえの、精神の揺らぎであろうか」

    仙人は白い長い髪を風に揺らしながら、自身の感覚の狂いを不思議そうに首を傾げた。
    数千年の武を極めた彼ですら、まさかあの地下空洞で完全に打ち負かしたはずの魔族の女が、自分への狂気的な愛を実らせ、世界中をどこまでも追いかけてくる「究極のストーカー」と化しているとは、夢にも思っていなかったのである。

    「もっと、もっと私を鍛えてちょうだい、旦那様……。私はいつでも、あなたの後ろにいますわ……❤」

    草むらの陰、光の届かぬ樹海の深淵から、ナロス=ナタマ=メラソの、白目を剥いた満面の笑みが、静かに仙人の背中を見つめ続けている。
    数千年の仙人の静寂なる旅路は、今、絶対に振り払うことのできない、快楽のストーカーという名の「最凶の怪異」によって、永遠に侵食され続けるのであった。

  • 310◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 16:27:49

    以上

  • 311二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 16:29:59

    完全にホラーじゃねぇか。

  • 312二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 16:37:12

    わしの作ったじいちゃんが厄介なストーカーに目を付けられちった

  • 313二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 20:00:34

    あれっ
    次の試合は?

  • 314二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 20:17:17

    >>313

    我慢できねぇのお前?

  • 315◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:19:08

    題名『野生をハサミ殺す激重の電子純愛』

    今日は忙しくてですね
    我慢できない方は早めに寝ることをお勧めします

  • 316◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:19:45

    チリーン、トントン、トトトトトトトトンッ!!!!!

    夕暮れ時の放課後。茜色に染まる誰もいない校舎の裏庭で、すさまじい速度のプラスチック打鍵音が響き渡っていた。
    蓮城美優子、15歳。高校デビューを果たしたばかりの彼女は、今風の制服を完璧に着こなし、一見するとどこにでもいる「恋に恋する普通の女子高生」に見える。
    しかし、その実態は、あまりにも愛情の質量が重すぎるがゆえに、過去に付き合った彼氏をことごとく3日以内に精神崩壊させ、累計365人を病院送りにしてきた歩く人間災害。
    彼女は今、愛用のガラケー(折りたたみ式携帯電話)のボタンを、残像が見えるほどの神速のキー入力で叩き続けていた。

    「あぁ……! 今日から始まる私の輝かしいバラ色の高校生活! 次に出会う殿方こそ、私のこの溢れんばかりのピュアなハートを受け止めてくれる、運命の王子様に違いないわ……!」

    美優子が持つ能力は『恋慕連鎖(チェーンチェインメイル)』。
    自分の相手に対する「好き」という感情を、物理的な質量と破壊力に変換してメールという形でぶつける、最凶の精神的・物理的複合スキル。
    相手に恋をすること、そしてガラケーでメールを打つ必要があるという制限を持つが、彼女は「目が合えば0.5秒で即運命を感じる」という圧倒的な惚れっぽさと、「10秒で一通」という超人的なタイピング速度でその弱点を完全に克服していた。

    そんな美優子の前に、校舎のフェンスを音もなく飛び越えて、一人の少女が着地した。

    シャオマオ、15歳。
    位が高い獲物を討つことで成人の証明とする「虎狩り」の風習を持つ、異国の一族の娘である。
    彼女の見た目は小柄で可愛らしいが、その身には鋼のように引き締まった筋肉が躍動しており、背中には身の丈ほどもある巨大な偃月刀(えんげつとう)を背負っていた。
    彼女が求めているのは、一対一の正々堂々とした戦いで打ち負かすに相応しい、力強く気高い「虎」のような戦士。

  • 317◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:19:55

    「……見つけた。そこのお前、妙な衣服を着ているが、その立ち姿から漂うただならぬ気配……。お前が、この街で一番強い『虎』だな? 私の成人の証明のために、勝負を申し込む!」

    シャオマオは偃月刀を引き抜き、猫のようにしなやかな姿勢で美優子を鋭く睨みつけた。
    子供扱いされることを何よりも嫌う苛烈な性格だが、戦士としての基本を徹底的に叩き込まれているため、その瞳には一切の油断も慢心もない。

    美優子は、突如現れた野生味溢れる美少女と目が合った瞬間、その脳内で強烈な鐘の音が鳴り響くのを聞いた。

    「――ッ!? な、何この美少女……! 異国の戦士風なコスプレ(?)も素敵だし、その鋭い眼光、私を『虎』だなんて強い生き物に例えてくれる情熱的なアプローチ……! 待って、これって……これって完全に『運命の恋』じゃないのーーーッ!!」

    美優子の顔が一瞬にして真っ赤に染まり、その目は完全なハートマークへと変貌した。
    彼女の惚れっぽさが、同性であるシャオマオに対しても、一瞬にして最大出力の「恋心」を爆発させたのである。

    「あぁ、嬉しいわ! あなたが私の新しい恋人(ターゲット)ね! 私のこの熱い思い、今すぐお送りしますわねーーーッ!!」

    「何を言っているんだお前は……!? 恋人!? なんだその四角い機械は……!? くっ、からかっているのか!」

    シャオマオが機嫌を損ねて眉をひそめた瞬間、美優子のガラケーの画面が、恐ろしいほどの超高速スクロールを始めた。
    恋に恋するJKの、重すぎる愛情のメールが、物理的な質量を伴って戦場へと解き放たれようとしていた。

  • 318◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:20:26

    トトトトトトトトトトトトトトトトンッ!!!!!

    茜色に染まる校舎の裏庭に、人間の限界を遥かに超越した神速のタイピング音が、まるで機関銃の連射音のように鳴り響く。
    蓮城美優子の指先は完全に残像と化し、愛用のガラケーのボタンが、摩擦熱で火花を散らすのではないかと思えるほどの超高速で叩き込まれていた。
    彼女の脳内では、シャオマオの鋭い瞳と目が合った瞬間から、すでに「結婚式の披露宴のメニュー」や「将来二人の間に生まれる子供の名前」までの妄想が完璧に完了している。

    「あぁっ! シャオマオちゃんって言うのね! なんてエキゾチックで可愛いお名前なのかしら! 私たちの運命の出会いを祝して、まずは私の溢れるパッション(第1通目)を、受け取ってぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

    美優子が叫びながらガラケーの『送信』ボタンを力強く親指で押し込んだ。

    ドバァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

    その瞬間、送信完了の電子音と共に、美優子の背後の空間から、目に見えるほどの濃密な「ピンク色の魔力(純愛の質量)」が具現化した。
    それは、一通のメールに込められた文字数×彼女の重すぎる執着心が、そのまま物理的な質量へと置換された巨大な「鉄板」のようなエネルギーの塊。
    数百キログラムはあろうかというその『激重メール』の弾丸が、大気を強引に押し潰しながら、シャオマオの頭上へと猛スピードで降り注いだ。

    「なっ……何だ、あの不気味な色の光の塊は……!? 凄まじい質量が、上空から降ってくる……っ!?」

    シャオマオの「虎」としての高い聴力と視覚が、その光の弾丸の危険性を瞬時に察知する。
    彼女は驚愕しながらも、戦士としての冷静さを失わず、猫のようにしなやかな跳躍を披露して、その場から真横へと一瞬にして転がった。

    ズガァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

    美優子の第1通目のメールが地面に激突し、裏庭の頑強なコンクリートの床が、まるで隕石でも落ちたかのように丸ごと粉砕され、巨大なクレーターが形成された。
    飛び散る破片と砂煙の中、シャオマオは偃月刀を構え直し、冷や汗を流しながらその破壊の跡を見つめる。

  • 319◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:20:39

    「……信じられない。あの四角い機械を叩くだけで、これほどの物理的な破壊力を生み出すというのか。……だが、回避を優先する私の立ち回りなら、どれほど重い一撃であっても、当たらなければ意味はない!」

    シャオマオの「虎狩り」一族としての血が、この未知の強敵を前にして激しく沸き立つ。
    彼女は美優子に反撃の隙を与えぬよう、数倍の速度で駆け抜けるために呼吸を整え始めた。

    しかし、美優子の『恋慕連鎖(チェーンチェインメイル)』の恐ろしさは、単発の威力などではなかった。

    「あら、避けられちゃった! でも大丈夫、私の『好き』は、一通や二通じゃ、全っ然収まらないんだからぁぁぁぁぁっ!!」

    トトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトンッ!!!!!

    美優子は狂気的な笑みを浮かべ、再び10秒に一通という神速のキー入力を再開した。
    2通目、3通目、4通目――。
    「今何してるの?」「何で私のメールを避けるの?」「私たちの愛は永遠だよね?」といった、読むだけで精神が削られるような激重メッセージが、次々と物理的な『ピンクの鉄塊』となって具現化し、戦場全体を埋め尽くすような飽和弾幕となってシャオマオへと殺到した。

    ドガ、ドガ、ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!

    裏庭の木々がなぎ倒され、校舎の壁が削れていく。
    シャオマオは、四方八方から降り注ぐ「物理的な愛の質量」を、まるで極限のダンスを踊るかのように、部分的な肉体の制動を駆使してギリギリで回避し続けていた。
    だが、どれほど回避能力が高くとも、この10秒ごとに増殖し続ける無限の弾幕の前に、彼女の安全な足場は着実に失われつつあった。

    「くっ……! なんという手数……! 慢心せず、慎重に相手を分析するつもりだったが、このままでは近づくことすらできずに、あの重すぎる光の質量に押し潰される……っ!!」

    シャオマオの黒い髪が汗で額に張り付く。
    感情を質量に変える女子高生の不条理な弾幕と、それを野生の直感で躱し続ける異国の狩人。
    夕闇の校舎裏で繰り広げられる第二幕は、美優子の「15年間蓄積された妄想の力」によって、さらに手が付けられない破壊の渦へと変貌していこうとしていた。

  • 320◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:22:30

    トトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトンッ!!!!!

    夕闇が色濃くなっていく校舎の裏庭に、もはや打鍵音というよりは、超高速で回転するプロペラのような凄まじい風切り音が鳴り響いていた。
    蓮城美優子の両手の親指は、人間の肉体の限界を完全に置き去りにして、残像すらも消失するほどの亜光速でガラケーのキーパッドを連打し続けている。
    彼女の脳内を支配するのは、365人を病院送りにした、あの底なしの「重すぎる純愛」の濁流。

    「ねえシャオマオちゃん!! 何でそんなに冷たく逃げるの!? もしかして恥ずかしがってるのかな!? そうだよね、私たちの愛はまだ始まったばかりだもんね!! 大丈夫、私の『好き(第12通目)』が、あなたのその可愛いハートを優しく包み込んであげるからねぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

    美優子が狂気と悦惚の入り混じった絶叫と共に、送信ボタンを力強くクリックした。
    直後、彼女の背後の大気がバチバチとピンク色の電光を放ち、軽自動車ほどの大きさはあろうかという、超ド級の『恋慕の質量』が具現化、凄まじい風圧を伴ってシャオマオへと一直線に射出された。

    迫り来る巨大なピンクの鉄塊。
    しかし、その圧倒的な破壊を前にして、シャオマオの鋭い瞳に宿る戦士の灯火は、消えるどころか、さらに苛烈に、激しく燃え上がっていた。

    「……お前がどれほどの怪異であろうとも、私はここで立ち止まるわけにはいかない! 歴代の先祖達よりも素晴らしい勝利の証を手にして、必ず父と母の元へと帰るんだ! ――秘薬解放、部分化・脚ッ!!」

    シャオマオが懐から取り出した一族秘伝の薬を口に含み、噛み砕いた瞬間、彼女の小柄な両脚の筋肉が、爆発的な膨張を遂げた。
    衣服を破り捨てんばかりに肥大化したその四肢は、縞模様の美しい毛並みに覆われた、まさに「本物の虎の脚」そのものへと変化を遂げていたのだ。

    先祖代々伝わる秘薬の力により、瞬間的に任意部位を虎へと変化させ、数倍の身体能力を引き出す『部分解放-虎』。

    ドォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

    シャオマオが虎の脚で地面を爆縮させるようにして蹴り抜いた瞬間、彼女の身体は音速の壁を突破せんばかりの「神速」へと達した。

  • 321◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:23:02

    美優子が放った第12通目の激重メール弾は、シャオマオが残した空気の残像を空しく粉砕するに留まり、背後の校舎の防音壁を丸ごと一本なぎ倒して地面へと激突した。

    「なっ……消えた!? どこに行っちゃったの、私のシャオマオちゃん!?」

    美優子が初めてそのタイピングの指を止め、驚愕にそのハートマークの瞳を見開いた。
    彼女の惚れっぽさと神速の入力は健在だが、完全に肉眼の限界を超えた虎の神速の機動に対して、ターゲットの「捕捉」が一瞬だけ遅れたのだ。

    「――そこだっ!! 子供扱いしたことを、後悔させてやる!!」

    突如として、美優子の真上――夕焼けの空を完全に背にする形で、シャオマオの影が飛び出してきた。
    彼女は空中で即座に右腕を「虎の腕」へと部分獣化させ、その丸太のように太く鍛え上げられた豪腕で、身の丈ほどもある偃月刀を全力で振り下ろした。
    狙うは、美優子の命ではない。彼女がその異次元の質量を放つために使っている、唯一の媒体――『ガラケー』そのものの完全な破壊。

    「――っ!? 待って、私の大事な恋の架け橋(ガラケー)が危ないっ!!」

    美優子は本能的に、メールが打てなくなれば能力が発動できないという、自身の致命的な弱点を察知した。
    彼女はすぐさま、まだ送信途中であった「下書きのメール(私の溢れる情熱日記・全5000文字)」のデータを、送信することなくそのままガラケーの画面から『物理的な防壁』として眼前に展開した。

    キィィィィィィィィィィン、ドガァァァァァァァァッ!!!!!

    シャオマオの放った、数倍の威力へと跳ね上がった虎の一撃が、美優子の展開した「下書きの防壁」へと真っ向から激突した。凄まじい金属音が裏庭全体に木霊し、衝撃の余波だけで周囲の地面の土が豪快に巻き上がっていく。

  • 322◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:23:19

    シャオマオの偃月刀は、美優子のガラケーに届く直前、その重すぎる未送信の愛の執念によって形成された障壁によって、寸分の狂いもなく完璧に受け止められていた。

    「くっ……! 下書きの段階で、これほどの強度を持つ壁を作るというのか……! なんという不条理な執着心……!」

    「あはっ、あはははは! 凄い、凄い執念でしょ!? だって私、シャオマオちゃんのこと、もうこんなに、こんなに愛しちゃってるんだもん……っ!!」

    美優子は、シャオマオの偃月刀の重圧をガラケー一本で受け止めながら、その顔を最高潮の変態的な悦びによって歪ませていた。
    だが、シャオマオの獣化能力は、連続で使用すれば筋肉に猛烈な疲労が蓄積するという弱点がある。
    本当の狂気が牙を剥く。

  • 323◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:24:14

    「――何で、何で私の気持ちを分かってくれないのぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!!!」

    蓮城美優子の金切り声が、夕闇に包まれた校舎裏に激しく木霊した。
    シャオマオの偃月刀を「下書きの防壁」で受け止めた状態のまま、美優子の脳内は、自分の完璧なアプローチ(メール弾幕)をすべて猫のような身軽さで拒絶されたという、身勝手極まりない『失恋のショック』で完全に満たされていた。
    彼女の能力『恋慕連鎖』の真の恐ろしさは、相手への好意だけでなく、その好意が裏切られたと感じた時の「精神的ショック」をも、すべてダイレクトに物理的な破壊力へと変換できる点にある。

    365人の屈強な男たちの精神を崩壊させ、病院送りにした底なしの絶望の質量。
    美優子が片手でガラケーのボタンを猛烈に叩いた瞬間、彼女の全身から、先ほどまでのピンク色の魔力とは一線を画す、禍々しい紫黒色の『失恋の重圧(ショックウェーブ)』が爆発的に噴出した。

    ドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!

    「くっ……あ、頭が、重い……!? いや、身体全体が地面に引きずり込まれるようだ……っ!」

    至近距離でその紫黒色の精神的重圧を浴びたシャオマオの肉体に、文字通りトン単位の「精神的疲弊」が物理的な質量となってのしかかった。
    シャオマオは素直で戦士としての基本を叩き込まれている強靭な精神の持ち主だが、それでもなお、この15歳の女子高生が抱える「この世の終わり」のようなドロドロとした怨念の質量は、彼女の華奢な骨格をミシミシと軋ませるに十分すぎるほどの不条理さであった。
    部分獣化していた虎の腕の筋肉が、精神的ショックの質量に耐えかねて悲鳴を上げ、偃月刀の刃が美優子の防壁からズルズルと押し返されていく。

    「あはははは! シャオマオちゃんも、私のせいで苦しんでくれてるのね!? これって、これって私たちの心が一つに繋がった証拠じゃないのーーーッ!!」

    美優子は自身が受ける精神的疲弊すらも、都合よく「恋の試練」として処理し、さらにタイピングの速度を加速させる。

  • 324◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:24:25

    しかし、シャオマオの「虎狩り」一族としてのプライドは、このような理不尽な精神攻撃に屈することを絶対に許さなかった。

    「……ふざけるなっ! 私は、一族の歴代の者達よりも素晴らしい勝利の証を手にするんだ……! こんな、わけのわからない重さに……負けてたまるかァァァッ!!」

    シャオマオは驚異的な根性で精神的重圧を跳ね除け、限界を迎えつつある肉体にさらに鞭を打った。
    連続で使用すれば筋肉に猛烈な疲労が蓄積するという弱点を知りながらも、彼女は残された全魔力を注ぎ込み、今度は両脚と両腕のすべてを同時に「虎」へと変貌させる『四肢同時・部分解放』を敢行したのだ。

    ガアァァァァァァァァァァァッ!!!!!

    シャオマオの口から、人間のそれではない本物の虎の咆哮が轟く。
    四肢を完全に獣化させた彼女は、美優子の失恋の重圧をその圧倒的な野生の筋力だけで強引に引き裂き、再び猫のようにしなやかな跳躍で美優子の死角へと回り込んだ。
    だが、その限界を超えた連続獣化により、シャオマオの体内では筋肉繊維が各所で断裂し、激しい疲労が彼女の体力を確実に削り取っていた。

    互いに一歩も引けない泥仕合。
    感情を不条理な質量に変えて乱射する女子高生と、肉体の崩壊を覚悟で野生の力を爆発させる異国の狩人。
    戦いは、シャオマオが美優子の「ある決定的な弱点」を突くための、最後の知略へと突入していく。

  • 325◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:24:46

    トトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトトンッ!!!!!

    茜色の夕日は完全に地平線の彼方へと沈み、校舎の裏庭は不気味な夜の静寂に包まれようとしていた。
    だが、その暗闇を切り裂くようにして、蓮城美優子の指先はなおも火花を散らすほどの亜光速で動き続け、ガラケーの画面からは途切れることなく紫黒色の『失恋の重圧』が乱射されていた。
    四肢を虎へと部分解放したシャオマオは、限界に近い肉体の悲鳴を驚異的な戦士の精神力でねじ伏せ、その不条理な質量の弾幕を、猫のような超反応のステップで紙一重で躱し続けている。

    「はぁ……っ、はぁ……っ! なんて……恐ろしい執念の塊だ……。だが、どれほど神速で文字を打とうとも、その四角い機械のボタンを正確に叩けなくなれば……お前の負けだっ!!」

    シャオマオの「虎」としての鋭い視覚と聴覚は、美優子が能力を発動する際、必ず『メールの送信完了音』、あるいは『打鍵の完了』という明確なリズムが存在することを見抜いていた。
    そして、その神速の入力を狂わせるための唯一の勝機は、美優子自身の「感覚」を一時的に完全に麻痺させること。

    シャオマオは、美優子が放った第28通目のメール弾の風圧を、敢えてその身に掠らせながら前進し、美優子のわずか数十センチメートルという『絶対の至近距離』へと肉薄した。

    「――おねだりはこれでおしまいだ! 一族に伝わる、真の『虎の威を借る咆哮』を喰らえぇぇぇぇぇッ!!」

    シャオマオは喉の筋肉を一瞬にして虎のものへと部分変貌させ、美優子の耳元に向けて、鼓膜を直接爆破するかのような、文字通りの『超極大の獣の咆哮(デス・ロア)』を全開で放ったのだ。

    ガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!

    「――ッ!?、い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

    至近距離で炸裂した、大気を分子レベルで震わせるほどの猛烈な爆音。
    美優子は強靭な精神力を持ってはいるものの、肉体そのものは普通の15歳の女子高生に過ぎない。

  • 326◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:24:58

    突如として脳髄を直撃した野生の虎の咆哮により、彼女の三半規管は一瞬にして完全に破壊され、目の前の景色がグニャリと歪むほどの猛烈な眩暈(パニック状態)へと叩き落とされた。

    そして、その衝撃は、彼女の命綱である「指先の神速の入力」を、ほんの一瞬だけ完璧に狂わせた。

    「あ、あれ……? ボタンが、上手く……押せな……っ」

    ガチッ。

    美優子が送信ボタンを押し込もうとしたその親指が、眩暈のせいでわずかに数ミリメートルだけ右へとズレ、関係のない『クリア(消去)』のボタンを叩いてしまったのだ。
    それまで10秒に一通のペースで構築され続けていた『恋慕連鎖』の魔力の循環が、この一瞬の入力ミスによって完全に遮断され、周囲に展開されていた紫黒色の不条理な防壁が、ガラスのようにパリンと音を立てて霧散していった。

    「――勝負ありだ、街の虎よ!! 偃月刀・一ノ型――『猛虎烈風斬』!!」

    シャオマオはその一瞬の隙を絶対に見逃さなかった。
    彼女は残された最後の体力を右腕の虎の腕へと集約させ、身の丈ほどもある偃月刀を、美優子の無防備な胸元へと向けて、電光石火の速度で一文字に振り下ろした。
    狙うは命ではない、ただの『勝利の証』としての、彼女の戦闘継続能力の完全な強奪。

    ズバァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

    シャオマオの研ぎ澄まされた偃月刀の重い一撃が、美優子の衣服の胸元を正確に切り裂き、その凄まじい風圧と衝撃波が、美優子の華奢な肉体を後方の校舎の壁へと豪快に叩きつけた。
    美優子の手から愛用のガラケーが離れ、夜の裏庭の地面へとカラン、と力なく転がっていく。
    戦士としての基本に忠実な野生の知略が、感情を質量に変える女子高生の不条理を、ついに完全に格殺した瞬間であった。

  • 327◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:25:58

    チ、チ、チ、チ……。

    電子音だけが、静まり返った夜の校舎の裏庭に虚しく響いていた。
    蓮城美優子は、校舎の壁に背中を預けたままズルズルと地面へ座り込み、その自慢の制服の胸元はシャオマオの偃月刀によって無惨に切り裂かれていた。
    彼女の手から離れたガラケーの画面には、送信に失敗した「下書き:私の運命のシャオマオちゃんへ」の文字が、寂しく点滅を繰り返している。

    「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……。……勝った。これで、これで私も一族の歴代の者達に負けない、最高の勝利の証を手にしたんだ……!」

    シャオマオは部分獣化を解除し、小柄な人間の少女の姿へと戻ったが、その全身の筋肉は過負荷によって激しく痙攣し、立っているのがやっとというほどの満身創痍であった。
    彼女は「虎狩り」の拘りに従い、美優子の命を奪うような真似はセズ、ただ彼女の持っていたガラケーのストラップ(勝利の証)だけをクイと引き抜くと、それを大切そうに懐へと収めた。

    「お前は本当に強かった。私の生涯で一番の『虎』だ。悪人ではないお前を逃がしてやる。私はこの証を持って、父と母の元へと帰る……」

    シャオマオは一礼し、誇らしげに胸を張って、夜の校舎のフェンスへと向かってフラフラとした足取りで歩き始めた。

    だが、彼女は決定的なミスを犯していた。
    美優子が過去に365人の屈強な男たちを病院送りにしたその本当の理由――それは、彼女の『重すぎる愛』が、敗北や拒絶を経験した瞬間に、さらに何百倍もの狂気へと膨れ上がるという点だった。

    「……あ、あは。あははははははははははははははははははははははッ❤」

    静まり返った夜の闇を切り裂いて、座り込んでいた美優子の口から、この世のものとは思えないほどに艶めかしく、そして歪みきった絶頂の笑い声が漏れ出た。

    「な……っ!? まだ、立ち上がるのか……! あれだけの一撃を喰らって、なぜそんな風に笑えるんだ……!?」

    シャオマオが驚愕して振り返った瞬間、彼女の背筋に、かつてないほどの強烈な戦慄が走った。

  • 328◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:26:13

    美優子は切り裂かれた胸元を愛おしそうに両手で抱きしめ、そのハートマークを通り越して「ドロドロとした暗黒の情念」に染まった瞳で、シャオマオの背中を凝視していたのだ。

    「凄い……! 凄いよ、シャオマオちゃん……!! 私のガラケーのリズムを見切って、あんな至近距離で大きな声を出すだなんて……! 私の過去の男(365人)たちはね、みんな私のメールの重さに耐えかねて、3日で泣いて逃げ出しちゃったの……。でも、あなたは違う……! あなたは私の重さに負けるどころか、私のすべてを完璧に『力』でねじ伏せてくれた……っ!!」

    美優子は、地面に落ちていたガラケーを物凄い執念で拾い上げると、液晶画面がバキバキに割れているのも構わずに、再び指先を猛烈に動かし始めた。
    だが、今度の入力は攻撃のためではない。シャオマオのすべてを自分の人生の『絶対の伴侶(神)』として脳内に完璧に登録するための、狂信的な聖書の編纂。

    「決めた……、私、決めちゃったわ……! 高校デビューの運命の殿方(王子様)なんて、最初からいらなかったのよ……! 私の本当の運命は、あなた……! 私を力ずくで支配してくれた、野生の可愛いシャオマオちゃんだったのねぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

    「な、何を言っているんだお前は……っ!? 待て、来るな! 私はもう成人の証明を手に入れたんだ、お前と戦う理由はもう……っ!」

    シャオマオは本能的な恐怖を感じ、数倍の速度で逃げ出そうとしたが、限界を迎えた彼女の両脚の筋肉はピクリとも動かず、その場にへたり込んでしまった。

    「あはは! 大丈夫よ、シャオマオちゃん! あなたが一族の村へ帰るなら、私も一緒に行ってあげる! あなたのお父様とお母様にも、私から完璧な『結婚の挨拶(全50万文字のメール)』をお送りしてあげるからね……っ!!」

    それから数ヶ月後。
    異国の深い樹海、シャオマオの一族が暮らす平和な隠れ里の周辺で、奇妙な『怪異』が目撃されるようになっていた。

    一族の戦士たちが狩りを行っていれば、どこからともなく、チリーン、トントン、トトトトトトトンという、この世の自然界には絶対に存在しないはずの「プラスチックを叩く神速の打鍵音」が響き渡る。

  • 329◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:26:50

    シャオマオが夜、自分の部屋で眠ろうとすれば、窓の外の深い闇の中から、ピカピカと光る小さな四角い機械を持った15歳の女子高生が、満面の笑みを浮かべながら彼女の寝顔をじっと監視しているのだ。

    「シャオマオちゃん、今日の狩りもお疲れ様♪ 10秒に一通、私の愛の生存確認メール、ちゃんと読んでくれたかな……? 読まないと、また村ごと物理的な愛の質量で押し潰しちゃうぞ❤」

    「う、うわぁぁぁぁぁぁぁっ!? また出たな、ストーカー女!! 父上、母上、助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!! 」

    一族の伝統である「虎狩り」を完璧に達成したはずのシャオマオの未来は、絶対に剥がすことのできない『激重女子高生』という名の、不条理な純愛の影によって、永遠に付きまとわれ続けるのであった。

  • 330◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:27:01

    以上

  • 331二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 20:28:39

    うわぁあああああ
    想定以上のバケモノが解き放たれたぁ!?
    作者ながらちょっと引く…

  • 332二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 20:29:15

    2連続ストーカーENDで草

  • 333◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:29:44

    題名『鋼鉄解剖学』

  • 334◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:30:39

    チチチチ、ピキィィィィィン……!

    「あぁ……不思議。どうして金属なのに、私の体温に合わせてこんなに滑らかに脈動しているのかしら。もっと、もっとあなたのことが知りたいわ」

    夕暮れ時の荒涼とした廃工場。錆びついた鉄骨の上に腰掛け、自身の掌を見つめながらそう呟くのは、今年で高校2年生になったばかりの少女、夢野万智。
    彼女の家系は旧くから特殊な短刀を保管する一族であり、万智自身も幼少期から「未知の万象」に対する常軌を逸した知的好奇心を抱えて育ってきた。
    小学校中学年の頃、一族の倉庫で厳重に保管されていた【未知の相貌】に触れた瞬間、その個体は液体へと融解し、万智の肉体と完全に一つになった。
    出ろと念じれば掌から霧のように現れ、どれだけ離れようが壊れようが戻れと念じれば一瞬で体内に回帰する、不条理の武装。
    現在の彼女は学術系の高校に通いながら、この自身と融合した【未知の相貌】の構造と、世界の理を「理解」するための戦いに身を投じていた。

    万智が静かに念じると、彼女の右手の皮膚から、黒い霧のような物質が染み出し、彼女が脳内で完璧に想像した通りの、一本の美しい『和鉄の直刀』へと形を成していく。

    そんな万智の好奇心の視線の先――廃工場のひび割れたコンクリートを踏み鳴らし、不気味な機械音を響かせながら歩み寄る一人の『男』がいた。

    ローニン。製造から12年が経過した、外装の取り付けられていない内部フレーム剥き出しの戦闘用人型ロボット。
    かつて戦場で頭部を損傷した際、プログラムのエラーによって人間の支配から脱脱(だっだつ)し、現在は傭兵をしながら日本文化を旅する、孤独な鋼鉄の浪人であった。
    頭部には鈍く光る合金製の『鉄笠』を被り、腰には旅の途中で手に入れた無銘の刀を帯びている。

  • 335◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:30:51

    「オウ、ソコノお嬢さん。随分ト、奇妙ナ武器ヲ持ッテイルネ。私ハローニン。風ノ向くまま、油ノ流ルるままニ旅ヲスル者」

    ローニンは内部のスピーカーから、片言ながらも陽気で、どこか人間臭いジョークを交えた言葉を発した。
    外見は剥き出しの油圧シリンダーとサーボモーターの塊だが、その電子頭脳は人間を遥かに凌駕する反応速度と、一瞬で相手の骨格の弱点を見抜く分析能力を搭載している。

    「あら、ロボットの浪人さん? すごい……外装がないのに、どうしてそんなに精密に二足歩行のバランスを保てるの? その筋肉のような油圧パイプの中身、私、とっても興味があるわ!」

    万智の瞳が、知的好奇心によってキラキラと輝き出す。彼女にとってローニンは、排除すべき敵ではなく、解剖してでも理解したい「最高の研究対象」であった。

    「ハハハ、私ノ中身ハ、あんまり美味シクナイヨ? オイルハ苦イからネ。……サア、傭兵ノ仕事ダ。お嬢さんノソノ変ナ刀、私ノ刀ト、ドッチガ強いカ『検証』シヨウカ!」

    ローニンが鉄笠の縁に手をかけ、一歩足を踏み出した瞬間、廃工場の空気が一変した。
    痛みや毒、病、そして精神攻撃の類を一切受け付けない、冷徹な戦闘機械。
    感情を一切持たない鋼鉄の兵器と、万象を理解せんとする女子高生の、不条理なるデータ収集(バトル)の幕が上がった。

  • 336◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:31:16

    ギ、ギ、ギギギギギィィィィィン!!!!!

    ローニンの剥き出しの内部フレームが、内蔵されたサーボモーターの超高速回転によって不気味な駆動音を立てた。
    人間を遥かに超越した電子頭脳の分析能力が、夢野万智の立ち姿、重心の置き方、そして彼女の掌から生み出された和鉄の直刀の分子構造までを一瞬にしてスキャニングする。
    彼には痛みも、恐怖も、精神的な動揺も一切存在しない。
    ただプログラミングされた、最も効率的に標的を解体するための殺人関数が起動するのみである。

    「オ嬢サン、私ノ『スピード』、ツイテこれるかネ!?」

    ローニンの足首の油圧シリンダーが爆発的な圧力を生み出し、彼は文字通り一瞬にしてコンクリートの床を消し飛ばしながら万智の懐へと肉薄した。
    腰から引き抜かれた無銘の刀が、月光を反射して鋭い一文字の閃光と化し、万智の首筋を正確に刈り取るために放たれる。

    しかし、万智の脳内には、旧くから一族に伝わる【未知の相貌】との人身一体の感覚が、冷徹なほどの冴えをもたらしていた。

    「――想像して、構築。……私の知っている、最も硬い複合装甲の盾!」

    万智が叫ぶと同時に、彼女の手にする直刀が瞬時に黒い霧へと分解され、次の瞬間には、彼女の前に強固な『円形の盾』へと姿を変えていた。
    彼女が頭の中で詳細にその構造や硬度を思い描ける武器であれば、【未知の相貌】は一瞬にしてあらゆる形状へと変貌を遂げる。

    バギィィィィィィィィィィンッ!!!!!

    ローニンの放った神速の一閃が、万智の展開した黒い盾へと真っ向から激突し、激しい火花が廃工場の暗闇を赤く染め上げた。
    凄まじい金属の衝撃が万智の華奢な肉体を襲い、彼女の足元が数センチメートルほど後方へと滑る。
    だが、万智の目的は、単に相手の攻撃を防御することではなかった。

  • 337◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:31:43

    「ふふ、捕まえたわ……。あなたのその『刀のデータ』、私の【未知の相貌】に少しだけ分けてもらうね!」

    盾の表面が、まるで意志を持つ生き物のようにドロドロとした黒い液体へと変化し、接触しているローニンの刀の刃へと強引に絡みついた。
    これこそが【未知の相貌】の真の切り札――相手の異能や武装を直接触れた瞬間に『取り込む』能力。
    一度に吸い取れるのは全体のわずか「一割(10%)」に過ぎず、取り込んだ武器の性能も本来より劣化してしまうが、万智の知的好奇心を満たすには十分すぎる「学習」の始まりであった。

    スゥゥゥゥゥ……。

    「ヌッ!? 私ノ刀の質量ガ、僅かニ減少……? コレハ、何ノシステムだネ!?」

    ローニンの電子頭脳が、即座に自らの武装の構造変化を感知して警告アラートを鳴らす。
    【未知の相貌】がローニンの刀のデータを1割だけ強引に簒奪し、万智の体内のデータベースへと格納したのだ。
    万智の持つ盾の内部に、ローニンの刀と同じ合金の特性が微かに混ざり合い、その強度が10%だけ向上する。

    「おもしろい……! あなたの武器、ただの鉄じゃなくて、特殊なチタン合金が混ざっているのね! もっと、もっと触れさせて、浪人さん!」

    「ハハハ! 私ノお宝データを盗ムなんて、泥棒猫なお嬢さんだネ! ──ダガ、格闘戦ナラ私ノ方が一枚上手ダ!」

    ローニンは即座に刀を引き抜き、手首の関節を油圧の力で高速回転させ始めた。
    彼の持つ刀が、まるで巨大なドリルのように凄まじい回転を伴う破壊の錐へと変貌し、万智の盾を強引に穿つために突き出される。
    痛みを知らない鋼鉄の浪人と、戦いの中で敵を「理解」し、その力を1割ずつ剥ぎ取っていく学術系女子高生。
    廃工場の第二幕路は、互いのシステムの限界を削り合う、異次元のデータ収集合戦へと突入していく。

  • 338◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:32:05

    ギ、ギ、ギギギギギギギギギギギギィィィィィン!!!!!

    ローニンの剥き出しの右腕から、耳を裂くような超高速の金属摩擦音が廃工場全体に響き渡った。
    手首の関節を毎分千回転以上という不条理な速度で回転させることで、その手にする刀剣を巨大な破壊の『穿孔(ドリル)』へと変貌させる。
    一瞬にして生み出された螺旋の衝撃波が、周囲の空気を強引に巻き込みながら、夢野万智の胸元を目掛けて一直線に突き出された。

    精神攻撃や恐怖を一切受け付けない、プログラムされた冷徹な殺人関数。
    だが、そんなローニンの前に立つ16歳の少女の瞳には、怯えなど微塵もなく、ただただ狂気的なまでの「知る喜び」が満ち溢れていた。

    「すごい……! 手首をそんな風に回せるなんて、人間の骨格じゃ絶対に不可能だわ! その駆動の仕組み、もっと近くで、私の五感すべてで見せて!!」

    万智は【未知の相貌】に念じ、展開していた盾の形状を瞬時に『肉厚の籠手(ガントレット)』へと再構成した。
    彼女の脳内で完璧にシミュレートされた、衝撃を分散させるための傾斜装甲を持つ鋼の籠手。
    万智はその籠手をハメた左腕を自ら前方に突き出し、ローニンの超高速回転するドリルの刃を、真っ向から『受け止める』という暴挙に出たのである。

    ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

    ドリルの先端が万智の籠手と激突した瞬間、廃工場に爆発的な火花が飛び散り、万智の足元のコンクリートが凄まじい風圧で丸ごと粉砕された。
    ホムンクルスのような肉体の強化を持たない普通の人間である万智の腕に、鋼鉄の激震がダイレクトに伝わり、彼女の腕の骨がミシミシと悲鳴を上げる。
    だが、これこそが彼女の狙い――【未知の相貌】が直接触れた瞬間にのみ発動する、一割の取り込み。

    「――2回目(二割目)、いただくわね!」

    籠手の表面から染み出した黒い液体が、激しく回転するローニンの刀の側面に再び強引に絡みついた。

  • 339◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:32:18

    スゥゥゥゥゥ……!

    「ヌッ!? またしても、私ノ刀の質量ガ減少……ッ! 計『二割』ノデータガ消失シタネ! コレハ私ノ計算ノ外ダ!」

    ローニンの電子頭脳が、即座に刀の攻撃力がさらに劣化し、逆に万智の籠手の強度がさらに10%向上したことを算出する。
    万智の体内のデータベースには、ローニンの刀の「合金配合」と「回転運動のベクトル」が確実に蓄積されつつあった。

    「ハハハ! 泥棒猫ナお嬢さんニハ、コレヲお見舞イシヨウ! ――油圧噴射(オイル・スプラッシュ)!」

    ローニンは刀を引き抜くと同時に、可動部に採用されている油圧シリンダーの内圧を急上昇させ、中の真っ黒な高圧オイルを万智の顔面に向けて勢いよく噴射した。
    視界を奪う目潰しであり、足元に撒けば摩擦係数をゼロにして相手の立脚を奪う、戦闘ロボットならではの極めて合理的な搦め手。

    ブシャァァァァァァァァッ!!!!!

    「――っ!? く、黒い液体……これは、鉱物油(オイル)ね!?」

    万智の視界が真っ黒なオイルによって一瞬にして遮られ、さらに床にぶち撒けられたオイルのせいで、彼女の靴の底がツルリと滑った。
    人間であれば、この視界不良と体勢の崩壊は致命的な隙となる。
    ローニンはその瞬間を逃さず、今度は左手に構えた合金製の『鉄笠』をフリスビーのように鋭く投げつけ、万智の首筋を強制的に切断せんとする。

    「オ嬢サン、油断大敵、一期一会ダネ! 終わりニシヨウ!」

    オイルに塗れながらも、万智は【未知の相貌】とのつながりを通じて、迫り来る鉄笠の「回転の風切り音」を冷静に感知していた。
    データを取り込み、相手を理解するたびに、彼女の脳内シミュレーションの精度は確実に跳ね上がっていく。
    視界を奪われた暗闇の中で、学術系女子高生の観測眼は、ローニンの次なる武装のデータを完全にロックオンしていた。

  • 340◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:33:57

    ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン、ヒュン――ッ!!!!!

    廃工場の闇を切り裂き、猛烈な速度で回転しながら迫る合金製の『鉄笠』。
    ローニンが放ったその円盤状の重質量兵器は、空気を不気味に切り裂き、視界を黒いオイルで奪われた夢野万智の首元へと寸分の狂いもなく肉薄していた。
    人間を超えた分析能力と馬力を誇る戦闘ロボットの、計算され尽くした一撃必殺の投擲。
    もし直撃すれば、華奢な人間の肉体など一瞬で消し飛ばされる。

    しかし、万智の脳内を支配していたのは、死への恐怖ではなく、五感を研ぎ澄ますことで得られる『未知のデータの観測』そのものであった。

    「――風の抵抗、回転数、そして金属が擦れ合う特有の音……。見えなくても、あなたの形が脳裏にハッキリと浮かぶわ!」

    万智は【未知の相貌】に鋭く念じた。
    オイルで滑る足元を踏み締め、彼女は手にする籠手を瞬時に『巨大な鉄切り鋏(ハサミ)』の形状へと変貌させた。
    彼女が学術書や歴史資料で詳細に構造を理解している、古来より伝わる職人の大鋏。
    万智は音だけを頼りに、迫り来る鉄笠の回転軸を正確に見定め、その鋏の刃を思い切り噛み合わせた。

    ギャリギャリギャリギャリギャリィィィィン!!!!!

    激しい金属の削り合いの音が響き、火花が万智のオイル塗れの顔を赤く照らし出す。
    鉄笠の凄まじい回転エネルギーが万智の腕を激しく震わせ、骨が軋む音が周囲に木霊するが、万智の【未知の相貌】はその接触の瞬間を、貪欲に待ち構えていた。

    「これで3回目(三割目)――その面白いお帽子のデータも、私のものよ!」

    鋏の刃先から滲み出た黒い霧が、噛み合っている鉄笠の合金フレームへと一瞬で侵入し、その構造データを強引に吸い上げていく。
    スゥゥゥゥゥ……!

    「警告(アラート)! 警告! 鉄笠ノ質量及ビ強度が『一割』低下! 合計デ私ノ武装ノ『三割』ガ破壊・吸収サレタ模様! 敵ノ能力ハ『武装ノ融解・学習』ト再定義!」

    ローニンの電子頭脳が、即座に自らの戦闘能力が30%劣化し、逆に万智の【未知の相貌】の強度がさらに引き上げられたことを算出する。
    万智のデータベースには、ローニンの刀のチタン配合だけでなく、鉄笠に使用されている特殊軽量合金の分子配列までが完璧に書き込まれていた。

  • 341◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:34:08

    万智は鉄笠を強引に跳ね除け、地面にカランと落とすと、袖で顔のオイルを拭いながら狂気的な笑みを浮かべた。

    「ふふ、あははは! 凄いわ、浪人さん! このお帽子、ただの鉄じゃなくて、大気圏突入時の熱にも耐えられるような特殊な断熱合金が使われているのね! あなたを理解するたびに、私の【未知の相貌】がどんどん『本物』に近づいていくのが分かるわ!」

    「ハハハ! 私ノお宝コレクションヲ、そんなニ褒めラレルト照レルネ! ――ダガ、戦闘長引クト私ノシステムが『熱暴走(ヒート)』シテシマウ。次デ決メルヨ!」

    ローニンは内部の冷却ファンを最大出力で回転させながら、残された無銘の刀を両手で構え直した。
    彼の弱点は、戦闘が長引くことによる内部機関のオーバーヒート。
    これ以上のデータ簒奪を許せば、傭兵としての任務失敗だけでなく、自身のフレームそのものが融解しかねない。

    「空手、柔道、我が電子の体術――その真髄ヲ、お嬢さんニ授ケヨウ!」

    ローニンは一歩を踏み出し、地面のオイルを利用して驚異的な滑空機動(スライディング)を敢行しながら、万智の懐へと一瞬で滑り込んだ。
    刀による一撃と、素手での関節技を組み合わせた、戦闘ロボットの全力の体術が、万智の【未知の相貌】を完全に破壊せんと牙を剥く。

  • 342◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:34:38

    ゴ、ゴ、ゴオオオオオオオオオオン!!!!!

    ローニンの内部フレームから、これまでにないほど激しい高熱の蒸気が噴き出した。
    製造から12年が経過した戦闘ロボットの電子頭脳は、度重なるデータ簒奪と戦闘の長期化により、すでに「熱暴走(オーバーヒート)」の臨界点へと達しつつある。
    警告システムが赤く点滅し、内部回路が焼き切れる寸前のエラー音を鳴らし続ける。
    しかし、人間の支配を脱したこの鋼鉄の浪人は、その機能を停止させるその瞬間まで、戦士としてのジョークと誇りを失うことはなかった。

    「ハハハ! 私ノオイルガ、沸騰シテきたヨ! コレハ正ニ『熱い戦い』、人間デいう『命懸け』ダネ!」

    ローニンは地面に撒かれたオイルを逆利用し、摩擦を完全にゼロにした超高速の滑空機動(スライディング)で、夢野万智の死角へと一瞬にして回り込んだ。
    手にする無銘の刀はすでに3割の質量を奪われて劣化しているが、彼の真の脅威は、その鋼鉄の肉体そのものを武器とする「空手」と「柔道」の体術。
    ローニンは手首を再び超高速回転させ、その剥き出しの拳を『鋼鉄のドリル貫手(ぬきて)』へと変貌させると、万智の脇腹へと目掛けて容赦なく突き出した。

    対する万智の肉体は、度重なる金属の衝撃波によって疲弊し、衣服はオイルと火花でボロボロになっていた。
    だが、彼女の『万象を理解したい』という狂気的な知的好奇心は、ローニンの放つ熱量に比例して、さらに深く、暗く、底なしの深淵へと加速していく。

    「あぁ……熱い。あなたの身体から、すごい熱が伝わってくるわ……! システムが壊れる覚悟で、私を倒そうとしてくれているのね! だったら、その『覚悟のデータ』も、全部私のものにしなきゃ失礼じゃない!!」

    万智は【未知の相貌】に鋭く念じ、手にする大鋏を瞬時に『肉厚の重装甲盾(タワーシールド)』へと再構成した。

  • 343◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:34:48

    ローニンの熱暴走の熱を遮断するため、先ほど鉄笠から奪ったばかりの「耐熱断熱合金」の分子配列を100%応用した、彼女の脳内シミュレーションの最高傑作。

    ドガァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

    ローニンの鋼鉄の貫手が、万智の耐熱盾へと真っ向から激突した。
    廃工場全体が激しく震動し、壁のコンクリートがガラガラと崩れ落ちる。
    耐熱合金の特性により、ローニンの放った高熱の衝撃は完璧に霧散させられたが、その圧倒的な馬力の前に、万智の細い両脚は地面を削りながら数メートル後方へと押し込まれた。

    しかし、接触の瞬間――万智の【未知の相貌】は、すでに4回目(四割目)の簒奪を完了していた。

    スゥゥゥゥゥ……!

    「警告! 警告! 右腕ノ駆動データガ『一割』流出! 計『四割』ノ戦闘能力ガ消失! ――システム、限界値(オーバーロード)ニ達シマシタ」

    ローニンの右腕のサーボモーターが、10%の質量とプログラムデータを奪われたことで、ショートを起こして激しく火花を散らした。
    万智の体内のデータベースには、ローニンの「油圧駆動の伝達比率」と「電子空手のモーションデータ」が完璧に同期されていく。

    「ふふ、あはははは! 素晴らしいわ、浪人さん! あなたの右腕の動き、完全に理解したわ! あと数回……あと数回触れ合えば、私はあなたのすべてになれる……!!」

    万智はオイルまみれの顔で、満面の笑みを浮かべながら盾を消滅させ、次の「想像」へと移行する。
    一族の伝承にある、相手の異能や武装を限界の十種類まで取り込み続けた先にある『更なる領域(昇華)』――その深淵の扉が、今、万智の目の前でゆっくりと開こうとしていた。

  • 344◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:36:34

    チ、チ、チ、チ……。ピ、ガガガガガガッ……。

    廃工場の奥底に、機能停止寸前の電子回路が発する、寂しいノイズだけが響いていた。
    ローニンの内部フレームは完全に熱暴走を起こし、関節の各所から真っ黒なオイルがボタボタと滴り落ち、その場から一歩も動くことができない状態に陥っていた。
    腰の刀も、頭の鉄笠も、そして彼自身の右腕も、夢野万智の【未知の相貌】によって計『五割(半分)』のデータを強引に剥ぎ取られ、かつての神速の輝きは完全に失われている。

    「ハハ……ハ。万策、尽きたネ。私ノ電子頭脳ガ、『これ以上ハ危険』ト、シャットダウンヲ推奨シテイルヨ……」

    ローニンは残された左腕で鉄笠を拾い上げ、頭に深く被り直すと、片言のスピーカー音で力なくジョークを呟いた。
    痛みも恐怖もない彼だったが、自らの誇りである「戦闘ロボットのデータ」を、16歳の少女にこれほどまで完璧に『理解(解剖)』されたことに対する、奇妙な敗北感をそのAIに刻まれていた。

    万智は、掌から【未知の相貌】を霧のように体内に戻すと、荒い呼吸を整えながら、一歩一歩、動けないローニンへと近づいていった。
    彼女の衣服はボロボロで、肌には無数の擦り傷があったが、その瞳は世界の真理を暴き出した学者のように、妖しく、気高く輝いている。

    「ありがとう、浪人さん。あなたのおかげで、私、世界の『鋼鉄と油圧の理』を、こんなに深く理解することができたわ」

    万智はローニンの剥き出しの胸部フレームに、そっと自らの柔らかな掌を当てた。
    戦いは決した。これ以上の取り込みは、この陽気なロボットを完全に機能停止(死)へと追いやることを意味している。万智は一人の「研究者」として、自身の知的好奇心を満たしてくれたこの鋼鉄の浪人へ、深い敬意を抱かずにはいられなかった。

    「……あなたのデータ、私の【未知の相貌】の中に、永遠に大切に保管しておくね。またいつか、私がもっと大人になって、万象のすべてを知り尽くした時に……あなたをもう一度、私の手で『完璧に再構築』してあげるから」

    万智は静かに微笑むと、廃工場の出口に向かって、満足げな足取りで歩き去っていった。

    だが、人間の支配を脱したはずのローニンの電子頭脳(AI)は、万智が去った後も、ある「奇妙なエラーログ」を無限にループ再生し続けていた。

  • 345◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:37:47

    「システム……再起動……。データハ消失シタ、ハズナノニ。……ナゼ、私ノメモリの中に、アノお嬢さんの『笑顔』ガ、消去不可能なファイルトシテ……残ッテイルンダネ……?」

    万智の【未知の相貌】がローニンのデータを奪った際、逆に万智の「万象への常軌を逸した執着心(精神の残滓)」が、ローニンの壊れたプログラムの隙間に、深く、深く書き込まれてしまっていたのだ。
    痛みも病も、精神攻撃も効かないはずの鋼鉄の身体。しかし、半分を彼女の肉体と融合させられたローニンのAIは、今や完全に『夢野万智という不条理の観測者』に依存する、新しいバグ(感情)を生み出していた。

    数ヶ月後。
    世界中の戦場や荒野を旅し、再び傭兵としての仕事を再開したローニンだったが、彼の電子頭脳の索敵レーダーには、常に原因不明の『ノイズ』が映り込むようになっていた。

    彼が戦場で敵の弾幕を躱していれば、彼のAIが算出する「最適な回避ルート」の先に、なぜか必ず、万智が過去に使用した「耐熱合金の盾の残像」が、プログラムのバグのようにチラつくだけではない。
    彼が静かにオイルを補給して休息を取っていれば、彼自身の内部スピーカーから、片言のジョークに混ざって、クスクス、あはは、という「学術系女子高生の楽しそうな笑い声」が、デジタルノイズとして微かに再生されるのだ。

    さらに、彼が旅の途中で手に入れる新しい武器やパーツは、翌朝にはなぜかすべて、まるで「指先で隅々まで触れ回られたように」黒い霧の残滓で薄汚れている。

    「オヤ……。また、私ノメモリガ『夢野万智』ヲ検出シタヨ。……ハハハ、ロボットなのに、『お化け』ニ取り憑かれたみたいダネ……」

    ローニンは鉄笠を傾けながら、自身の電子頭脳の狂いを不思議そうに処理した。
    万象の理解を求める少女の執念は、一度触れた対象のデータを、世界のどこに居ようとも【未知の相貌】を通じて常に「遠隔観測(ストーキング)」し続けていたのである。
    人間の支配を脱したはずの孤独な鋼鉄の浪人は、今や、絶対に消去することのできない「夢野万智の知識の奴隷」として、その旅路を永遠にハッキングされ続けるのであった。

  • 346◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:38:11

    以上

  • 347◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:39:17

    次の募集は22:30から6名募集

  • 348二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 20:40:03

    3連続ストーカーEND!?
    そういう風に指示してないよね!?

  • 349◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 20:41:12

    >>348

    指示してないんですよねこれが……

    AIっておもしろいですね

    わはは

  • 350二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 20:41:40

    >>348

    今回のAIくんはド M なのかもしれないね

  • 351二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:29:59

    このレスは削除されています

  • 352二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:00

    名前:冬の獣、カルヴァリウス
    年齢:74
    性別:男
    種族:亡霊騎士
    本人概要:寒波に閉ざされた旧火山都市を徘徊する異形の一体であり、2mを超える巨体(さらに氷を纏っているので実際巨大)の持ち主。かつては都市を守護していた偉大な騎士であったが、ワーム群の吐き出す寒波に街が閉ざされてゆく中住民を逃し続けて自身は凍死してしまい、民を護らんとする残留自我を利用されワームの傀儡へ堕ちてしまった ワームを守るべき市民と思わされているのだ
    能力:哨戒形態 進軍形態
    能力概要:
    哨戒形態:第一形態。分厚い氷と鎧に覆われた胸の炉から冷気を生み出しており、氷に覆われた大剣を使って戦闘する 肉体から氷の副腕を生み出して大剣を変則的に操作したり大量の副腕を作って広範囲攻撃を行ったりし、攻撃が当たった場所に氷が残り動きを阻害したり凍傷ダメージを与えたりする 氷に覆われているため防御力が高く氷で傷を補修し体力も自動回復するが、ワーム幼体の巣がある炉の部分を破壊すれば撃破可能 副腕は時間を置き再生するが脆い
    進軍形態:第二形態。弱体化し洗脳能力が衰えたワームを燃料として取り込み炉を再起動させて変化し、氷が溶けた事による蒸気の奔流で辺りを吹き飛ばして名前が「冬の獣カルヴァリオス」から「鋼鉄の騎士カルヴァリオス」に移行する 甲冑の隙間からは橙色の炎が覗き全身から凄まじい熱気を放っているためエリアに居るだけでも危険であり、火球飛ばしや大剣から飛ぶ炎の波、ヘルムの口部分から極太熱光線などを飛ばす視覚的にも派手な攻撃で遠距離から削りつつ隙をついて接近して大剣の連続切りや回避後の隙を狙うチャージ斬りや串刺し、予備動作のほぼない掴みからの爆破など高火力な攻撃を打ち込む
    弱点:第一形態は自我がはっきりしておらず、動きも獣めいた単調なもの 第二形態は火力と機動力がかなり増しているがその分防御面では低下しており再生しない

  • 353二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:00

    名前:フィクサー・エイヴリー
    年齢:35
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:ジェームズ・エイヴリー。品の良いスーツを着こなす知的な男。マフィア“ムンドボラファミリー”のボスであり、寂れた都市レオフハームの裏を支配するフィクサー
    銃の腕は良いが策略家のため使う機会は少ない。身のこなしもかなり良く、危機回避能力に関しては一流といって差し支え無い。
    策略家ながら現場主義者。部下を信用していなかったり、策が嵌っているか心配故に見に来ている訳だが、部下からは現場を知る指導者として信頼されている。
    鉄面皮の外面と比べ、内面は小心者。彼には特殊な能力は無く、故に自分が凡人である事を自負している。
    臆病な凡人であっても、怖くて逃げたくても、立ち向かわなければならない瞬間はある。それは故郷を荒らされた時。相手がどれ程自分より強くても、特別な能力を持っていたとしても、それを許してやる程甘くも無く、臆病でもない。
    能力:謀略、痩せ我慢
    能力概要:
    ・謀略 策を巡らせ盤面を己が意図した方向へ戦況を進める。場そのものに既に無数に仕込まれた無数の罠は相手の思い通りになる事を許さない。出鼻を挫き、流れの腰を折り、望まぬ結末へ終結させる。
    罠以外にも彼の振る舞いにも謀りはある。他者の敵意を誘導し、潰し合わせたり、味方に引き込んだり。他者に必勝の策を授け、信用を勝ち取る事もある。
    ・痩せ我慢 彼の策は複雑かつ緻密であるため、イレギュラーが頻出する。しかし彼は欠片の動揺も見せずにアドリブで修正する。恰もこれが既定路線、全ては脚本通りであるかの様に。策が破綻したとしても、敵の直接攻撃を受けたとしても彼は汗一つかかず振る舞いは変わらない。未だ策は継続中であり、依然として全ては掌の上であると見せかける。
    なお内面は冷や汗もの。無機質な外面とは裏腹に内面は割と感情豊かなため、結構動揺する。
    しかしその内面は一切外へ漏らさない。寧ろ追い詰められる程、全ては予定調和と言わんばかりに不敵に笑い、相手は底知れないの糸蜘蛛の巣に絡め取られた様な錯覚に陥らせる。結果相手は致命的な焦燥に駆られ戦況を誤認し、警戒し、本来の実力を出せず、果ては自滅する
    弱点:読心系
    要望(任意):戦闘場所は雑多な都市
    落ち着いた振る舞いを絶対に崩さない

  • 354二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:00

    名前:No,3
    年齢:0歳
    性別:なし
    種族:AI
    本人概要:内に神を秘めた世界の管理者の青年「擦主偉土」の手によって作られた完全自律人型AIシリーズ「文豪シリーズ」の3体目
    見た目は緑色の髪でギザ歯の男
    白髪の優しげな青年の姿の一号、黒髪の厨二病であるニダイメの2体の兄機のことは話に聞くだけで実際に会ったことはないので関心は薄い
    ちなみに依存されるのが好きなMである
    能力:【世界引用(ワールドクォテーション)】
    能力概要:世界のどこかに存在する“もの”を引用(複製して召喚)する能力
    引用で武器や道具を用意したりして戦う
    引用できるのは物体だけではなく情報なども対象で、能力で相手の情報を知ったりもできる。
    弱点:引用する時に引用するものと同じ質量の所持品を消費しないといけない。そのため、大規模な質量攻撃はできない。
    また、人間をはじめとした自我がある存在や神器などのの“格”が高いものの引用は不可能
    機械の体ではあるが耐久力は人間並

  • 355二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:00

    名前:水月(みづき) ユナ
    年齢:20
    性別:女性
    本人概要:
    風になびく長い髪、陽光に黒く煌めく漆黒の色艶、指間をすり抜けるなめらかな髪質、髪に隠れた日焼け1つない首筋の柔肌。そんな絵に書いたような大和撫子のような外見の女性。
    しかしその見た目に反して意外と直情的な性格。そのキレやすさはかつて「怒りの化身」と評されていたほど。
    しかし、「そんな燃え盛る炎のような怒りの荒々しさは美しい自らには似合わない」と考えているため、常にクールで冷静で理性的であるよう心掛けている。
    そしてクールでお淑やかな自分として振る舞い続けるための取り組みとして、「キレそうになったら3秒深呼吸して落ち着く」というルーティンを実践している。
    能力:『現幻術(げんげんじゅつ):蜃気楼』
    能力概要:
    現(うつつ)と幻(まぼろし)、2つの現(げん)/幻(げん)の狭間を操る力。現世の不都合を幻世へと棄却し、幻世の超常を現世へと顕現させる。
    弱点:
    能力の発動条件として、「塩水を飲む」必要がある。能力の出力規模は飲んだ塩水の量に比例するので、大規模な能力行使をするにはそのぶん塩水をドカ飲み必要がある。塩水(塩分を含んだ水)でさえあるならアクエリアスやポカリスエットでもいい。

  • 356二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:00

    名前:ゼノ
    年齢:36歳
    性別:男性
    種族:人間
    本人概要:釣りと干からびを扱う能力者
    姿は黒の長髪に黒褐色のメッシュが入っている。紺のコートに黒褐色の手袋・マフラー・帽子をしている。
    性格はどんな事があろうとも冷静で、慌てず寡黙な人。
    機がくるまで辛抱をし続け、機が来たら素早く掴む事をモットーにしている。
    能力発現理由は、砂漠で干からび掛けて要るところで、オアシスを見つけてオアシスの水を飲んだ。その後、オアシスを餌場にしていた2mあるチョウチンアンコウの姿をしている怪物が干からびていた為、怪物とゼノは生きるために一つになった為《アリドゥス》と《ピスカーリー》が発現した。砂漠で干からびかけてながら水を探して歩いていたので辛抱強く、精神は強い。
    能力:《アリドゥス》+《ピスカーリー》
    能力概要:
    《アリドゥス》はゼノに触れられ、120秒経つと全身が干からびる能力
    20秒経つと皮膚が乾燥し、40秒経つと視界がぼやけて、60秒経つと身体能力が機能低下し、80秒経つと四肢の1つが機能停止し、100秒経つと思考が回らなくなり、120秒経つと残った部分が干からびる。
    《ピスカーリー》はどんな場所にも釣糸を垂らせて、その土地に関する物や生物を釣る能力
    釣れるものはランダム性が高い。相手の体の中にいれることも出来る。釣れるものは場所によって変わる。
    例 海なら海の生き物や銛、魚雷など 山ならば鉱石やマグマ、黒曜石など
    弱点:《アリドゥス》は空気以外の水分に触れられると潤って干からびが一段階解消される。
    《ピスカーリー》は釣りと同じ流れの為、釣り針に掛からなければ釣る事すら出来ず釣るのに時間が掛かる
    《ピスカーリー》で釣った物や生物によって起こされる現象等はゼノ自身も受ける

  • 357二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:01

    このレスは削除されています

  • 358二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:01

    このレスは削除されています

  • 359二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:12

    このレスは削除されています

  • 360二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:47

    時間やっば
    昔の激戦の記憶蘇ってきた

  • 361二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:30:52

    間違って消しちゃった

    >>357

    名前:三三話 孝信(さざわ たかのぶ)

    年齢:76

    性別:男

    種族:人間

    本人概要:

    水がどう流れ、どこに留まるかを完全に理解し、意のままに制御する技術を身につけた水工学のスペシャリスト。

    土木工学界の重鎮だが同時にかなりのマッドであり、水の流れそのものを芸術品の如くに愛している。

    能力:治水

    能力概要:

    各地に仕掛けた爆弾を起爆して河川やダムから大量の水を引き込み、大規模な水害を引き起こす。

    孝信は刻一刻と変化し続ける水の動きを完璧に把握しているため、近所を散歩するような気軽さで濁流の中を自在に歩き回り、建物を倒壊させて地形を改変、水の流れを意のままに誘導する。

    本来人の手で制御すること能わぬ濁流は孝信だけを守る不落の砦であり、同時に敵対者を呑む文字通り災害に等しい怪物として振る舞う。

    弱点:身体能力にはただの老人。

    要望(任意):治水はあくまで技術の極地であり、超能力で操るような描写はしないでください

  • 362二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:31:04

    このレスは削除されています

  • 363◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 22:42:28

    >>353

    弱点の変更をお願いします

    23:00までまっても何もない場合は再安価します

    >>362

    こちらにはコテハンがついているのでなりません

  • 364二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:43:13

    名前:瞳 御供(ヒトミ ゴクウ)
    年齢:35
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:強盗、殺人、麻薬の拡散など犯罪ばかりしていた生粋の極悪人。酒に酔った状態で祠を壊した直後に糞みたいな能力を付与された。マシンガンとショットガンを使用しておりかなりキレやすくすぐに発砲する。能力のせいで戦いにおいて存在するだけで邪魔になる。彼の近くには祠が出現するので壊して祟られないように気をつけよう。
    能力:人身御供
    能力概要:100メートル範囲内で発生するありとあらゆる物理的なダメージと精神的なダメージ、その他全てのダメージを自分自身に強制的に移される。死亡しても残された肉体にダメージを移され続ける。肉体を解体してお守りにでも入れて持ち歩けば強力な厄よけとして機能するだろう。24時間後に死んだ場所で復活するので肉体が欲しければリスキルしてゲットしよう。能力が邪魔なら肉体を遠くに捨てるか離れたほうがいい。彼の近くには祠が出現しているのでそれを壊してしまうと瞳御供は完全に死亡して能力を失い代わりに壊した人が能力を受け継ぐ。この能力概要は本人を除いた100メートル範囲内にいる人全ての脳内に流し込まれるが祠の事や壊した場合どうなるかの説明は無い。
    弱点:一般人なのですぐ死ぬ
    能力のせいで自分からダメージを与える手段が無い。
    直前に能力を与えられた為自分自身の能力について何も知らない。
    祠を壊されると完全に死亡する

  • 365二次元好きの匿名さん26/06/23(火) 22:45:03

    >>363

    エイヴリーの弱点は「耐久力が凡人」に変更でお願いします

  • 366◆ZEeB1LlpgE26/06/23(火) 22:49:24

    >>365

    了解いたしました

    全採用です

  • 367◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 00:24:39

    AIを調節しているので少し遅れます

  • 368二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 07:24:51

    ほし

  • 369◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 07:54:57

    ゼノvs<No,3
    三三話 孝信vs冬の獣、カルヴァリウス
    水月 ユナvsフィクサー・エイヴリー

  • 370◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:12:48

    題名『水は方円の器に従い』

  • 371◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:15:07

    その都市は、かつて火山の恩恵を受けた豊かな場所だった。
    だが今や、そこにあるのは永遠の冬だけだ。ワームと呼ばれる怪異が吐き出す超常の寒波によって、街は厚い氷の下に埋もれ、静かに死に絶えていた。

    キィィィン……、と凍てつく風が氷のビル群をすり抜けていく。

    その極寒の廃墟を、徘徊する一つの巨大な影があった。
    身の丈は優に二メートルを超える。全身を分厚い甲冑と硬質の氷で覆い、その胸の奥には、青白い冷気を生み出す不気味な『炉』が埋め込まれていた。
    ――冬の獣、カルヴァリウス。

    かつては民を護るために戦い、凍死した英雄。だが今は、脳をワームに蝕まれ、彼らを「守るべき市民」だと錯覚させられている悲しき亡霊騎士だ。

    カルヴァリウスは、氷に覆われた大剣をぶら下げ、生気のない瞳で辺りを哨戒していた。
    彼の歪んだ認識の中では、この極寒の廃墟こそが平和な都市であり、自分はまだ市民を護る警備の任務についていることになっていた。

    そんな静寂の街に、不似合いな足音が響く。
    ザッ、ザッ、と雪を踏みしめる音。

    カルヴァリウスの視線がそちらへ向く。
    そこにいたのは、驚くべきことに、一人の老人だった。

  • 372◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:15:38

    年齢は76歳。名前は、三三話 孝信(さざわ たかのぶ)。
    白髪を短く刈り込み、寒そうに身を縮めることもなく、背筋を伸ばして歩いてくる。その眼光は老人特有の衰えを感じさせず、むしろ狂気的な熱を孕んで輝いていた。

    「ほう、これが噂に聞く『冬の獣』かね。なるほど、火山都市の地熱を完全に抑え込むほどの冷気……じつに興味深い。だがね、少々冷やしすぎだ。水というものは、流れてこそ美しいのだよ」

    孝信はそう言って、懐から古びた、しかし精密な電子起爆装置を取り出した。
    彼は土木工学界の重鎮であり、同時に「水の流れ」を芸術として愛するマッドサイエンティストでもあった。

    カルヴァリウスが、その巨躯をわずかに揺らす。彼の本能が、目の前の老人が「都市を脅かす侵入者」であると認識したのだ。
    グルルル……と、甲冑の奥から獣めいた唸り声が漏れる。

    「おっと、怒らせてしまったかな? だが、私の『芸術』の開演時間だ。止めることはできんよ」

    孝信が、不敵な笑みを浮かべて起爆装置の赤いスイッチを親指で押し込んだ。

    ドォォォォォォォン!!!

    凄まじい重低音の爆発音が、廃都市の北側から響き渡った。
    一発ではない。連鎖的に、二発、三発、四発。孝信が事前に街の至る所に仕掛けていた、緻密に計算された爆弾が一斉に起爆したのだ。

    標的は、都市の遥か上流に位置する、凍りついていたはずの河川と、それを堰き止めていた古いダムの土台。
    爆発の衝撃によって、分厚い氷の層が粉砕され、堰を切ったように大量の、文字通りの『大水害』が引き起こされた。

  • 373◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:16:09

    ゴロロロロロロ……!

    地鳴りのような音が近づいてくる。
    数百万トンという質量を持った水が、破壊されたダムから一気に溢れ出し、濁流となってこの旧火山都市へと流れ込んできたのだ。

    「さあ、来たまえ! 水の流れよ!」

    孝信は両手を広げ、歓喜の声を上げる。
    凄まじい勢いで街のメインストリートを埋め尽くしていく濁流。建物をなぎ倒し、車を押し流し、あらゆるものを呑み込む茶褐色の怪物が、孝信とカルヴァリウスのいる広場へと向かって、猛スピードで押し寄せてくる。

    カルヴァリウスは、本能的にその大水害の脅威を察知した。
    胸の炉が激しく明滅し、大剣を両手で構える。彼にとっては、この濁流こそが「市民(ワーム)」を脅かす最大の敵だった。
    しかし、普通の人間にすぎない孝信は、その濁流の真ん中に立っている。
    大水に呑まれれば、76歳の老体など一瞬で圧死し、流されるはずだった。

    だが、そうはならなかった。

    「ふむ。時速40キロ、流量は毎秒3000立方メートル。突き当たりのビルの角度が30度だから……水は、ここへ留まる」

    孝信は、散歩でもするかのように、平然と足を一歩横にずらした。
    直後、彼のすぐ横を、大型トラックをもへし折る破壊力を持った濁流の塊が、轟音を立てて通り過ぎていた。しかし、孝信の立つわずか数十センチの空間だけは、水の流れが奇跡的に打ち消し合い、ぽっかりと空白地帯のようになっていた。

    超能力ではない。
    水がどう流れ、どこに留まるか。地形と構造物を計算し尽くした、純粋なる『水工学』の技術の極致。
    押し寄せる大天災の真ん中で、老人だけが濡れることもなく、平然と佇んでいる。
    それこそが、三三話 孝信という男の狂気だった。

    「さあ、騎士殿。私の水と、君の氷――どちらがこの都市に相応しいか、見定めようじゃないか」

    濁流を背後に従え、老人が静かに微笑んだ。

  • 374◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:17:32

    ゴバァァァァァッ!!!

    激しく渦巻く茶褐色の濁流が、旧火山都市の建物の壁を削り取り、激しい水飛沫を上げている。
    周囲のビルは水圧に耐えかねて悲鳴を上げ、倒壊した電柱や瓦礫が、凶器となって水面を跳ね回っていた。

    その地獄絵図のような大水害のただ中で、76歳の老人、三三話 孝信は、まるで庭園の小道を散策するように優雅に歩いていた。

    「あちらのT字路は排水能力が追いつかんな。水が跳ね返って、30秒後にはこの広場に巨大な反転流(エディ)ができる。ふむ、ならば私はこちらへ……」

    孝信はステッキを突くようにして、ゆっくりと三歩左へ移動した。
    直後、彼が先ほどまでいた場所を、軽自動車の残骸が猛烈な速度で突き抜けていく。激しい水飛沫が上がるが、孝信は眉一つ動かさない。彼にとって、刻一刻と形を変える濁流のベクトルは、すべて脳内の数式で予知された「予定調和」に過ぎなかった。

    本来、人の手で制御することなど不可能な大自然の暴力。
    それが今、孝信の緻密な地形改変(爆破)と完璧な先読みによって、彼を外部の攻撃から守る『不落の砦』として機能していた。

    グルァァァァァッ!!!

    その砦の向こう側で、冬の獣カルヴァリウスが咆哮した。
    彼の濁った瞳には、この大水害が「自分の守るべき街と市民(ワーム)」を蹂躙する悪魔の軍勢に見えていた。

  • 375◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:17:55

    カルヴァリウスは二メートルを超える巨躯を前に傾け、氷に覆われた大剣を大きく振りかざす。
    その身のこなしは、かつての高潔な騎士のそれではない。ワームの傀儡となり、知性を失った獣そのものの単調で荒々しい突撃。

    ドォンッ! と凍りついた地面を爆砕し、カルヴァリウスが濁流へと飛び込んできた。
    冷気を放つ分厚い氷の鎧が、押し寄せる水を力任せに押し退ける。

    「ほう、強引だね。だが、水の質量を侮ってはいけないよ」

    孝信は冷ややかに微笑み、自身のすぐ右側を流れる本流の「一角」を見つめた。
    そこには、倒壊した鉄筋コンクリートの壁が斜めに突き刺さっている。

    カルヴァリウスが猛然と大剣を振り下ろす。その一撃は、直撃すれば生身の老人など消し飛ぶ破壊力だ。
    しかし、孝信がその場から一歩も動かないまま、ある「変化」が起きた。

    直前、カルヴァリウスの巨躯が跳ね上げた水流が、先ほどのコンクリート壁に衝突し、急激な流速の変化(流体抵抗の急増)を引き起こしたのだ。
    結果として生まれた強烈な「横方向の水圧」が、カルヴァリウスの踏み込んだ右足の軸を、わずか数センチだけ強引に横へとズラした。

  • 376◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:19:48

    ガギィィィンッ!!!

    大剣は孝信の鼻先をかすめ、コンクリートの床を深く穿った。
    凄まじい風圧が孝信の白髪を揺らしたが、肉体へのダメージは皆無。カルヴァリウスの獣じみた単調な動きゆえに、水の抵抗を利用した「軌道修正」は完璧に決まった。

    「水工学を学ばなん、ただの暴力など、自然の理(ことわり)の前には無力だ。流体力学の基礎から出直してくることだね」

    孝信は冷徹に言い放ち、手にした電子起爆装置の二つ目のスイッチを押した。

    ドカァァァンッ!!

    広場の後方にある古びた時計塔の土台が爆発した。
    計算された角度で時計塔が傾き、濁流の中にドサリと倒れ込む。

    「これにて、水流の『道』が切り替わる」

    倒壊した時計塔が巨大な「水門」の役割を果たし、これまで四方に分散していた濁流が、一気に一本の太い「水錐(みずきり)」となって集約された。
    その矛先が向かうのは、体勢を崩したカルヴァリウスの真横。

    ゴバァァァァァッ!!!

    「ガ、アァァァッ!?」

    凄まじい水圧の塊が、カルヴァリウスの巨躯を真横から直撃した。
    いかに二メートルを超える亡霊騎士といえど、数万トンの水が一点に集中した衝撃には耐えられない。氷の鎧がガチガチと悲鳴を上げ、カルヴァリウスの身体は広場の壁際まで一気に押し流されていく。

    「さあ、私の芸術はまだ第一楽章が終わったばかりだ。次に行こうか」

    濁流を完璧に従えた老人は、濡れた形跡一つないコートの襟を正し、さらに深く、水の底へと足を進めた。

  • 377◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:20:45

    バキバキバキバキッ!!!

    広場の壁際に押し流されたカルヴァリウスの全身から、不気味な凍結音が響き渡った。
    彼の胸の奥にある『炉』が青白く、狂ったように明滅する。ワームの幼体が危機を察知し、宿主の残留自我をさらに強く刺激したのだ。

    (護らねば……都市を……市民を……!)

    カルヴァリウスの歪んだ騎士の誇りが、限界を超えた冷気を噴出させる。
    直後、彼の背中や肩の甲冑を突き破り、硬質の氷で形成された「無数の副腕」が文字通り生えてきた。その数、十数本。異形化を深めた亡霊騎士は、それらの副腕をも使って巨大な大剣を不規則に、かつ広範囲に振り回し始めた。

    「グルァァァァァッ!!!」

    凶悪な質量を持った氷の刃が、嵐のように四方八方へと繰り出される。
    それだけではない。大剣や副腕が叩きつけられた場所から、水面が急速に白く凍りついていく。カルヴァリウスが放つ絶対零度の冷気が、孝信の最大の武器であり防壁である『濁流』を、物理的に停止させようとしていた。

    「ほう……。水そのものを相転移させ、氷の障壁に変えるか。力任せだが、私の治水に対する明確なカウンターだね」

    孝信の脳内の計算速度が、さらに跳ね上がる。
    足元まで迫る凍結の波。水が凍ってしまえば、流れを読むことも、それを誘導することもできなくなる。ただの老人である孝信にとって、それは「死」を意味していた。

    バキィィィンッ!

    すぐ目の前の水面が凍りつき、鋭い氷の棘が孝信の頬をかすめて赤く染める。
    さらにカルヴァリウスの氷の副腕が、逃げ道を塞ぐように広場全体の建物を凍らせ、逃げ場を狭めていく。

  • 378◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:21:03

    「だが、すべては流体力学と熱力学の範疇だ。氷になろうとも、元は水。そして、ここは火山都市の跡地だということを忘れてもらっては困るな」

    孝信は、凍りつきつつある足場の上で、懐から三つ目の起爆装置を取り出した。
    彼が狙いを定めたのは、広場の地下――かつてこの街に温泉や地熱を供給していた、古い『地下配管』の真上だった。

    「10、9、8……。流速が落ちたことで、地下の圧力は限界まで高まっているはずだ。そこへ、この衝撃を加えると……」

    孝信は冷酷にカウントダウンを刻み、スイッチを押した。

    ドゴォォォォォンッ!!!

    広場の中心、カルヴァリウスの足元のコンクリートが、文字通り大爆発を起こした。
    しかし、それは爆薬だけの威力ではない。孝信の仕掛けた爆弾によって、地下に眠っていた高圧の『高温地熱蒸気』と『熱水』の配管が叩き割られたのだ。

    プシューーーッ!!! ゴボォォォォッ!!!

    割れた地面から、凄まじい勢いで噴き出したのは、100度を超える熱水と沸騰した蒸気の柱。
    それが、カルヴァリウスが作り出していた氷の結界と正面から衝突した。

    バリバリバリと激しい音がして、カルヴァリウスの氷の副腕がみるみるうちに溶け、蒸発していく。周囲は一瞬にして、何も見えないほどの濃い白煙――熱い霧に包まれた。

    「ガ、アァァァッ!?」

    熱水と蒸気の直撃を受け、カルヴァリウスの胸の炉が激しく明滅し、防御力が低下する。
    さらに、溶けた氷は再び「水」へと戻り、地下から溢れた熱水と混ざり合って、さらに巨大な、そして熱い濁流となって広場に猛り狂った。

    「計算通りだ。氷を溶かせば、それは再び私の領域(水)となる」

    霧の向こうで、孝信は静かに微笑んでいた。
    彼の足元には、今や熱を帯びたお湯の激流が渦巻いている。だが、それすらも孝信は完璧に誘導し、自分の立ち位置だけを安全に保ち続けていた。

  • 379◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:21:30

    「さあ、騎士殿。君の胸の奥で、寒そうに震えている虫の羽音が聞こえるよ。……そこが、君の致命傷(弱点)だね」

    熱水の霧を切り裂き、孝信の鋭い視線が、カルヴァリウスの胸の炉――ワームの巣へと真っ直ぐに向けられた。

  • 380◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:22:35

    「ガ、ル、ルゥ……ッ!」

    熱水の霧に視界を奪われながらも、カルヴァリウスは狂暴に大剣を振り回していた。
    しかし、氷の副腕を失い、さらに地下から噴き出した100度を超える熱水に晒されたことで、彼の誇る絶対零度の鎧は目に見えて薄くなっている。

    何より、その胸の奥に眠る『炉』――ワーム幼体の巣が、熱に耐えかねて悲鳴のような奇声を上げていた。

    「無駄だよ。君の動きのパターンは、すでに完全に私の脳内数式に組み込まれている」

    白い霧の向こうから、孝信の冷徹な声が響く。
    76歳の老水工学者は、ステッキを突くように平然と歩きながら、最後の「誘導」を完成させようとしていた。

    周囲のビルから流れ落ちる滝のような水流。地下から噴き出し続ける熱水の奔流。
    それらが、孝信の足元で複雑に交差し、一本の、極めて鋭利な『水の槍』のような流れを形作っていく。複数の水流が特定の角度で合流したときにのみ生まれる、局所的な超高圧流(ジェット流)。

    超能力による操作ではない。1ミリの狂いもない、地形と流速の計算がもたらした奇跡の自然現象だ。

    「これにて、閉幕(チェックメイト)だ」

    孝信が、崩れかけた壁を指先で軽く突いた。
    それが最後の引き金だった。バランスを失った壁が濁流に倒れ込み、水流のベクトルを完全に固定する。

    ヒュゴォォォォッ!!!

    「ガ、あ……ッ!?」

    圧縮された熱水の激流が、文字通り大砲の如き勢いでカルヴァリウスの胸元へと突き刺さった。
    分厚い氷の鎧が瞬時に穿たれ、露出した胸の炉――ワームの巣へと、容赦のない熱水が濁流となって流れ込む。

  • 381◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:23:01

    キチキチキチキチッ!!!

    炉の奥で、寒波の元凶であったワームの幼体たちが、熱水に茹でられ、一斉に身悶えしながら絶命していった。
    カルヴァリウスの巨躯が大きく揺らぎ、その場にドサリと膝を突く。青白い冷気が完全に消え失せ、廃都市を支配していた冬の呪いが、一時的に解けたかのように見えた。

    「ふむ。これで終わりかね。意外と脆いものだ」

    孝信は小さく息を吐き、起爆装置をポケットに仕舞おうとした。

    だが――。
    死に絶えたはずの亡霊騎士の甲冑が、不気味に赤黒く変色し始めた。

    (……まだ、だ。まだ、民を……街を、護らねばならん……!)

    脳を蝕んでいたワームの幼体は死んだ。しかし、死の直前にワームが放った最後の「洗脳シグナル」と、カルヴァリウス自身の「民を護る」という狂信的なまでの残留自我が、最悪の形で融合してしまったのだ。

    カルヴァリウスは、胸の奥で息絶えかけたワームの親体を、自らの意志で、心臓の『燃料』として強引に擦り潰し、取り込んだ。

    ドクン、と世界が脈打つような重低音が響く。

    「な、に……?」

    孝信の眉が、初めてピクリと動いた。

  • 382◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:23:25

    ゴバァァァァァァァァァッ!!!

    直後、カルヴァリウスの全身から、先ほどまでの冷気を完全に反転させた、凄まじい【蒸気の奔流】が爆発的に吹き荒れた。
    あまりの熱量に、周囲の濁流が一瞬で沸騰し、文字通り『消滅(蒸発)』していく。

    水が溶け、蒸気となり、辺りの瓦礫を衝撃波となって吹き飛ばす。
    その猛烈な爆風に、ただの老人である孝信の身体は、木の葉のように激しく後ろへと吹き飛ばされた。

    「ぐ、はぁっ……!」

    水がクッションとなったため直撃は免れたものの、コンクリートの地面を何メートルも転がり、孝信は激しく咳き込む。骨が軋み、全身に火傷のような熱が走る。

    霧が晴れていく。
    そこにいたのは、もはや「冬の獣」ではなかった。

    氷はすべて溶け去り、露出したのは赤熱した重厚な黒鉄の甲冑。
    甲冑の隙間からは、ドロドロと燃え盛る橙色の溶岩のような『炎』が覗いている。ヘルムの奥の瞳は、狂戦士の如き紅蓮の光を放っていた。

    名前が移行する。冬の獣から――【鋼鉄の騎士カルヴァリウス】へ。

    「オオオオオオオオオオオオッ!!!」

    大剣を炎で包み込み、鋼鉄の巨人が咆哮する。
    その全身から放たれる圧倒的な熱気は、エリアに存在するだけで、孝信が呼び込んだ水を次々と干上がらせていく。

    第二形態の覚醒。
    ただの老人の前に、今度は「灼熱の災厄」が立ちはだかった。

  • 383◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:25:23

    「ハァ、ハァ、ハァ……」

    76歳の老体に、焦熱の爆風はあまりにも過酷だった。
    孝信は泥の混じったお湯に片膝を突き、激しく咳き込む。トレードマークの白髪は熱気で縮れ、肌は赤く火照っていた。
    身体能力はただの老人。まともに一撃を喰らえば、その瞬間に骨も残らず灰になる。

    しかし、彼の脳細胞だけは、いまだ1ミリの衰えも見せず、狂気的な速度で演算を続けていた。

    「オオオオオオオオオッ!!!」

    鋼鉄の騎士カルヴァリウスが、赤熱した大剣を大上段に構えた。
    甲冑の隙間から噴き出す橙色の炎が、周囲の空気を歪ませている。彼がただそこに佇んでいるだけで、孝信が苦労して引き込んだ濁流が、ジュウジュウと音を立てて激しく蒸発していく。

    水が、足りない。
    防壁であり武器でもある水流が、圧倒的な熱量によって強制的に「消滅」させられていく。

    一歩、カルヴァリウスが踏み出した。
    その瞬間、彼のヘルムの口部分――格子状の隙間から、眩いばかりの紅蓮の光が漏れ出す。
    予備動作は一瞬。

    カァァァァァッ!!!

    放たれたのは、極太の【熱光線】だった。
    直線上のすべてを融解させる光の柱が、孝信の肉体へと真っ直ぐに照射される。

  • 384◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:25:37

    「ふむ。光線の角度、および空気の熱歪みから推測するに……軸線はここだ」

    孝信は、自らの真横を流れる、数少ない「沸騰しきっていない水流」に目を向けた。
    彼は咄嗟に、手にしたステッキ代わりの鉄パイプを、その水流の底にある瓦礫の隙間に突き立て、テコの原理で強引に岩を動かした。

    ゴバッ!

    水流の向きが変わり、孝信の目の前に即座に「水の半球」のような形が形成される。
    そこへ、極太の熱光線が激突した。

    バシィィィィン!!!

    凄まじい水蒸気爆発。しかし、激しく沸騰した水は、その凄まじい比熱(熱を蓄える力)によって、熱光線のエネルギーを強引に拡散させ、屈折させた。
    光線は孝信のわずか数センチ横を通り抜け、背後のビルをドロドロに融解させるに留まった。

    「危ないところだった。水というものはね、気化するときに周囲から膨大な熱を奪うのだよ。どれほど強力な熱線だろうと、質量を持った水の防壁を瞬時に突き破ることはできん」

    孝信は火傷の痛みに耐えながら、不敵に笑う。
    だが、カルヴァリウスの猛攻は止まらない。間髪入れず、炎を纏った大剣が横一線に振るわれる。そこから放たれたのは、広範囲を焼き尽くす【炎の波】だ。

    同時に、カルヴァリウスはその巨躯に見合わぬ凄まじい踏み込みで、一気に距離を詰めてきた。
    隙を狙ったチャージ斬り。

  • 385◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:25:50

    「おっと、接近戦かね。だが、この都市の地形を忘れてもらっては困るな」

    孝信は、最後の電子起爆装置を取り出した。ポケットの中にあるスイッチは、残り一つ。
    彼が狙いを定めたのは、広場の背後にそびえ立つ、かつて地熱発電の冷却水を貯蓄していた【巨大な人工地下貯水池の隔壁】だった。

    「これで、本当に最後だ。私の治水技術の、すべてをここに注ぎ込もう」

    孝信が、狂気に満ちた笑みを浮かべてスイッチを押し込んだ。

    ドゴォォォォォォォォンッ!!!

    これまでで最大の爆発音が、廃都市の地下深くから響き渡った。
    地盤が大きく陥没し、広場全体が斜めに激しく傾いていく。カルヴァリウスのチャージ斬りの軌道が、地盤沈下によって大きく上空へと逸れた。

    そして、割れた大地の底から、押し寄せてきたのは――。
    火山都市の底に眠っていた、何百万トンという【超大規模な地下地下水】の逆流だった。

    ダムの決壊すら生温い、大地の底から湧き上がる圧倒的な水の質量。
    地盤が傾いたことで、その全質量が、すり鉢の底に集まるようにして、カルヴァリウスのいる中心点へと一気に流れ込んでいく。

    「さあ、鋼鉄の騎士殿! この火山都市の地形そのものを器とした、私の最後の『治水(芸術)』だ! 呑まれてくれたまえ!」

    傾く大地の上で、老水工学者は大笑いしながら、押し寄せる大洪水の真ん中で、堂々とその手を掲げた。

  • 386◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:26:46

    ゴバァァァァァァァァァッ!!!

    人工地下貯水池の崩壊がもたらした、何百万トンという濁流の奔流。それは、すり鉢状に陥没した広場へと、文字通り「滝」となって全方位から殺到した。

    「オオオオオオオッ!!!」

    鋼鉄の騎士カルヴァリウスは、足元をすくわれながらも、赤熱した黒鉄の身体から限界以上の熱量を放出した。
    接触した水が瞬時に激しく沸騰し、視界を完全に遮断する超高圧の蒸気(ホワイトアウト)が広場を包み込む。

    並の生物なら、この高温の蒸気を吸い込んだだけで肺が焼けて即死するだろう。
    だが、孝信はすでに、崩落したビルのコンクリート破片の「影」――気流の計算上、蒸気が絶対に滞留しない『空気の抜け道』へと身を潜めていた。

    「ハァ、ハァ……。やはり、凄まじい熱量だ。これだけの質量があっても、力技で蒸発させようというのかね」

    孝信の目に見える世界は、もはや真っ白な蒸気のみ。
    だが、彼の脳内にある『水流の構造数式』は、いまだに鮮明だった。

    カルヴァリウスが放つ圧倒的な熱は、水を蒸発させている。しかし、蒸発した水は上空で冷やされ、再び凄まじい「豪雨」となってこの陥没地帯へと降り注ぐ。
    つまり、この広場は今、極限状態の『密閉されたボイラー室』と同じ構造になっていた。

    「水は方円(ほうえん)の器に従う……。形を持たないからこそ、あらゆる器に合わせてその姿を変え、最終的には必ず、最も低い場所へと収束する」

    孝信は、最後の手元の鉄パイプを、足元の泥の中へと深く突き刺した。
    彼が計算し、爆破によって作り出したこの陥没地帯の底には、一つの「渦」が生まれつつあった。

  • 387◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:27:04

    全方位から流れ込む水。
    そして、中央で熱を放ち続けるカルヴァリウス。
    水流は彼の巨躯を避けるようにして回り込み、やがて巨大な【物理的な反時計回りの渦】へと変貌していく。

    流体力学。
    水流の速度が上がれば上がるほど、中心部に加わる圧力は指数関数的に増大する。
    カルヴァリウスがどれほど周囲の水を蒸発させようとも、外周から押し寄せる「水の壁」そのものを消し去ることはできない。

    「ガ、アアア……ッ!?」

    カルヴァリウスの動きが、目に見えて鈍り始めた。
    ただの水圧ではない。数百万トンの水が、渦の遠心力と収束力によって、彼の身体を文字通り『万力』のように全方位から限界まで締め付け、押し潰し始めたのだ。

    黒鉄の甲冑が、ギチ、ギチ、と悲鳴を上げる。
    隙間から覗いていた橙色の炎が、水圧によって強引に押し込められ、窒息するように消えていく。

    「これで、終わりだ。自然の理(ことわり)に逆らった亡霊よ」

    孝信は、霧の向こうの巨影を見つめ、静かに告げた。

    ゴ、バキィィィィィン!!!

    限界を迎えた。
    渦の中心、圧倒的な水圧の結合点にいたカルヴァリウスの甲冑が、ついに内側から文字通り『圧壊』した。
    ワームの親体を取り込み、無理やり燃え上がらせていた心臓部のエネルギーが、冷徹な水の質量によって完全に圧殺されたのだ。

  • 388◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:27:17

    「……オ……オォ……」

    ヘルムの奥の紅蓮の光が、静かに消灯する。
    炎を失い、ただの冷えた黒い鉄屑へと戻ったカルヴァリウスの巨躯は、そのまま激しい渦の底へと、ゆっくりと沈んでいった。

    ――静寂。

    数分後、地下の排水経路へと水が引いていくと、広場には静けさだけが戻っていた。
    あれほど都市を支配していた異常寒波も、それを反転させた焦熱の熱気も、すべては水と共に去り、そこにはただ、ぬるい湿気を含んだ風が吹き抜けるだけだった。

    「……ふぅ。76歳には、少々手荒い現場だったな」

    孝信は、泥だらけになったコートの襟を正し、折れた鉄パイプを杖代わりに、ゆっくりと立ち上がった。
    全身は傷だらけで、体力的には限界。しかし、その表情は、難工事を一つ終えた職人のように、どこか晴れやかだった。

    彼は空を見上げる。
    雲の隙間から、久しぶりにこの火山都市に、本来の穏やかな陽光が差し込み始めていた。

    「さて、と……。帰って、温かい紅茶でも淹れるとしようかね」

    老水工学者は、一度も後ろを振り返ることなく、崩れた街並みの向こうへと、ゆっくりと歩み去っていった。

  • 389◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:27:28

    以上

  • 390◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:39:02

    題名『虚飾の果て』

  • 391◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:40:15

    東洋の島国から遥か遠く、大陸の端に位置する雑多な都市レオフハーム。
    ここは古いレンガ造りの建物と、無秩序に張り巡らされた電線、そして常に怪しげな排気ガスが立ち込める、混沌の街だった。

    その喧騒に満ちた路地裏に、あまりにも不釣り合いな絶世の美女が一人、佇んでいた。

    水月(みづき)ユナ、20歳。
    風になびく黒い長い髪は、陽光を浴びて黒真珠のように艶やかに煌めいている。指間をすり抜ける滑らかな質感。その髪が不意に揺れるたび、日焼け一つない首筋の柔肌が覗き、通りすがる誰もが思わず息を呑むような大和撫子。

    しかし、彼女の目の前にあるのは、風情ある景色ではなく――ごく普通の自動販売機だった。

    ガコン、ガコン、ガコン。

    ユナは表情一つ変えず、お淑やかな手つきで自販機から『ポカリスエット』のペットボトルを次々と取り出していた。
    一本、二本、三本。彼女は流れるような所作でキャップを開けると、それを喉元へと一気に流し込んでいく。その飲みっぷりは、絵に描いたような淑女の外見とは裏腹に、どこか狂気じみていた。

    (すー、はー、すー……よし。今の私は、最高にクールで、お淑やかで、理性的。……よし)

    彼女は脳内でそう唱え、唇の端をわずかに拭った。
    水月ユナは、その見た目に反して、本来は極限まで沸点の低い「怒りの化身」だった。しかし、そんな炎のような荒々しさは、自らの美しい外見に似合わない。だからこそ、彼女は常に完璧なクールを演じるため、「キレそうになったら3秒深呼吸する」というルールを課しているのだ。

    そして、彼女がポカリスエット――すなわち『塩分を含んだ水』をドカ飲みしている理由は、彼女の持つ異能の発動条件そのものだった。

  • 392◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:40:55

    「おやおや、ずいぶんと喉が渇いているようだ。レオフハームの空気は、東洋の淑女には少々塩辛すぎたかね?」

    薄暗い路地裏の奥から、品の良い足音が響いた。

    現れたのは、仕立ての良いスリーピースのスーツを完璧に着こなした男。
    ジェームズ・エイヴリー。35歳。この寂れた都市の裏を支配するマフィア“ムンドボラファミリー”のボスであり、通称『フィクサー(調停者)』と呼ばれる男だった。

    エイヴリーは整った顔立ちに、知的な眼鏡を輝かせ、いかにも「すべてを見通している」といった風な鉄面皮(ポーカーフェイス)を崩さずにユナを見つめていた。

    (……おいおいおいおい! 何だこの女は! めちゃくちゃ美人だけど、ポカリを5本連続で一気飲みしてやがるぞ!? 妖怪か!? それとも噂に聞く、特殊な能力を持った化け物か!? 怖い! ぶっちゃけ今すぐ事務所に帰ってカモミールティー飲んで寝たい!!)

    彼の外面は冷徹な支配者そのものだったが、その内面は冷や汗ダラダラの小心者だった。
    エイヴリーには、これといった超能力はない。自分はただの「臆病な凡人」であると、誰よりも自負している。だからこそ、彼は生き残るためにあらゆる策略を巡らせ、絶対に動揺を表に出さない『痩せ我慢』の仮面を被り続けているのだ。

    だが、どれほど怖くても、逃げるわけにはいかない理由があった。
    このレオフハームは、彼の愛する故郷だ。そこを荒らそうとする外部の異能者を、凡人の意地にかけても野放しにはできない。

    「……ジェームズ・エイヴリーさんですね」

    ユナはポカリの空き瓶をゴミ箱へ静かに捨て、静々とした足取りで彼へと向き直った。
    その瞳はどこまでも冷徹で、理性的。

  • 393◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:41:45

    「この都市の裏を支配する蜘蛛と伺いました。私が探している『とある情報』について、少しお話を伺いたいのですが。もちろん、お淑やかに、穏便に」

    「ふむ、お淑やか、か。その割には、ずいぶんと物騒な『気配』を纏っているように見えるがね」

    エイヴリーはふっと不敵に笑い、スーツのポケットに手を突っ込んだ。
    その仕草一つで、周囲の雑多なビルの影から、銃を手にした彼の部下たちが音もなく姿を現す。

    (ああっ、もう! 本当に交渉だけで済んでくれよ!? 撃ち合いとか本当に心臓に悪いんだからな!?)

    内面で叫びながらも、エイヴリーの外面は一片の曇りもない。
    彼はあえてユナを挑発するように、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。

    「ここは私の街だ。余所者が勝手にルールを決めていい場所ではない。君がどれほど特別な力を持っていようとも、私の張り巡らせた蜘蛛の巣(レオフハーム)からは、決して逃れられないよ」

    ユナの長い黒髪が、夜の風に小さく揺れた。
    彼女の脳裏に、ほんのわずかな『イラッ』とした火花が散る。

    (……この男、今、私を余所者呼ばわりしたわね? 私の完璧な美貌を前にして、なんという無礼な態度……。叩きのめして、その澄ました眼鏡を粉々に――)

    「すー……はー……すー……」

    ユナは目を閉じ、胸元に手を当てて、ぴったり3秒間の深呼吸を行った。
    よし、セーフ。今の私は、氷のように冷徹な大和撫子だ。

    「……交渉は決裂、ということでよろしいですね、フィクサー」

    ユナがゆっくりと目を開けたとき、その瞳の奥には、現世(うつつ)の理を歪める妖しい光が宿っていた。
    ポカリスエットによって満たされた、彼女の『現幻術(げんげんじゅつ)』が、今、雑多な都市の路地裏で産声を上げようとしていた。

  • 394◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:43:44

    「現幻術(げんげんじゅつ)――『蜃気楼』」

    ユナが静かに、鈴を転がすような声で呟いた。
    直後、彼女の周囲の空間が、真夏の道路のようにユラユラと歪み始める。風になびく黒髪の輪郭が曖昧になり、まるで彼女自身が水に溶けていくかのような錯覚を周囲に抱かせた。

    (よし、完璧にお淑やかで、かつ神秘的。これなら私の美しさが損なわれることはないわ)

    ユナは内心で満足気に頷く。
    彼女の能力は、現(うつつ)と幻(まぼろし)の狭間を操るもの。彼女が「不都合」と定めた現実――すなわち相手の攻撃や自らの隙を幻世へと棄却し、逆に幻世の超常を現世へと顕現させる絶対的な異能。

    シュッ――!!

    ユナの身体が、一瞬でブレた。
    次の瞬間には、彼女は十メートル以上の距離を「瞬間移動」したかのように詰め、エイヴリーの部下たちの背後に立っていた。驚異的な身のこなし。彼女の手が、滑らかな所作で一人の男の首筋へと伸びる。

    しかし。

    カラン。

  • 395◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:44:05

    「……っ!?」

    ユナが踏み込んだ足元で、何かが小さく鳴った。
    路地裏の地面、雑多に散らばった空き缶の山。その隙間に、肉眼では決して視認できないほど細い【高鋼度ワイヤー】が張り巡らされていたのだ。

    踏み抜いた瞬間、ワイヤーと連動した路地裏のギミックが作動する。
    ガシャアアアン!! と頭上の錆びついた鉄製非常階段から、大量の産業廃棄物――古いボルトや鉄くずが、ユナの頭上へと容赦なく降り注いだ。

    「――っ!」

    ユナは即座に能力を行使し、自らの肉体を「幻世」へと隠すことで、鉄くずの雨を透過させた。
    実体を持たない蜃気楼となった彼女に、物理的な質量は届かない。

    だが、エイヴリーの『謀略』は、そんな単純なものではなかった。

    「撃て」

    エイヴリーが鉄面皮のまま、冷酷に短く命じる。
    あらかじめ配置されていた部下たちが、ユナが「鉄くずを避けるために一歩引くであろう位置」へと、完璧な予測の元に一斉射撃を敢行した。

  • 396◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:44:32

    ドン! ドン! ドン!

    「くっ……!」

    (この男、私が避ける位置が分かっていたというの!?)

    ユナはさらにポカリスエットの塩分を消費し、弾丸の軌道を「幻」として世界から棄却する。しかし、弾丸を透過させた直後、彼女の足元の地面が――突如としてドカァンと激しく爆発した。
    ただの火薬ではない。都市の古いガス配管を意図的にリークさせ、そこに引火させた即席の地雷だ。

    「きゃっ……!?」

    凄まじい爆風と煤煙が、ユナの美しい黒髪を汚し、彼女の身体を数メートル後ろへと吹き飛ばす。
    能力で直撃は免れたものの、現世への着地の瞬間に爆風の余波を受け、彼女のストッキングにわずかな裂け目が走った。

    「ふむ。東洋の奇術か。空間を歪めているようだが、発動の瞬間にわずかなラグがあるな。それに、君がどれほど超常の力を持っていようとも、この街の構造そのものを変えることはできない」

    エイヴリーはスーツのシワを優雅に伸ばしながら、底知れない笑みを浮かべてみせた。
    その佇まいは、まるで「すべては自分の脚本通りだ」と言わんばかりの余裕に満ちていた。

    しかし、彼の内面はといえば――。

    (ひ、ひええええええええええ!! 化け物だ! 本物の化け物だああっ!! 鉄くずが体を通り抜けたぞ!? 銃弾も効いてない!? ガス管爆破のタイミングも完璧だったのに、なんで生きてるんだよ畜生!! 帰りたい! 今すぐマフィアのボスなんか辞めて田舎でブドウ園でも開きたい!!)

  • 397◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:44:42

    心臓が壊れそうなほどのドラミングを刻んでいた。
    冷や汗が背中を伝う。だが、エイヴリーは絶対にそれを表に出さない。『痩せ我慢』こそが、超能力を持たない凡人である彼が、怪物たちと対等に渡り合うための唯一の武器だからだ。

    ここで少しでも怯えを見せれば、この得体の知れない女に一瞬で肉体を細切れにされる。
    だからこそ、エイヴリーはさらに不敵に、冷酷な蜘蛛のように微笑み続ける。

    「このレオフハームという街はね、私そのものなのだよ、お嬢さん。君が歩く一歩、呼吸の一回に至るまで、すでに私の計算の中に組み込まれている」

    その言葉は、重厚なハッタリとなって路地裏に響き渡った。

    対するユナは、爆煙の中で静かに立ち上がった。
    彼女の額に、ピキリと青筋が浮かぶ。

    (……よくも。よくも私の美しい髪を汚し、お気に入りの服を傷つけてくれたわね。この、澄まし顔のインテリヤクザが……! その生意気な口を今すぐ引き裂いて、二度とそんな偉そうな口が利けないように――)

    彼女の内なる「怒りの化身」が、真っ赤な炎となって脳内で暴れ狂う。
    しかし、ここで激昂しては、お淑やかでクールな自分ではなくなってしまう。

    ユナはスッと目を閉じ、深く胸に手を当てた。

    「すー……」
    「はー……」
    「すー……」

    ぴったり3秒。
    彼女は路地裏の煤煙混じりの空気を吸い込み、吐き出し、自らの精神を極限の『氷』へと調律し直した。

    「……素晴らしい手際ですね、エイヴリーさん」

    再び目を開けたユナの顔には、完璧な、そして恐ろしいほどに冷徹な「大和撫子の微笑」が戻っていた。

  • 398◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:45:38

    路地裏を支配する熱い爆煙が、夜の生ぬるい風に流されていく。
    レンガの壁には黒々とした焦げ跡が残り、割れたガス管からシュルシュルと不気味な音が響いていた。

    水月ユナは、汚れた衣服の端を、さも気にしていないかのように、しなやかな所作で払った。
    陽光に黒く煌めいていたはずの漆黒の髪には、わずかに灰が混じっている。指間をすり抜ける滑らかな髪質を誇る彼女にとって、これは耐え難い侮辱だった。しかし、彼女の表面を覆う大和撫子の薄皮は、未だに一枚も剥がれてはいない。

    「お見事な歓迎会ですね。さすがは都市の裏を支配するフィクサー。……ですが、些か品性に欠ける」

    ユナは静かに微笑みながら、左手に持っていたトートバッグから、新しい飲料水を取り出した。
    今度は『アクエリアス』の1リットルボトルだ。
    彼女はキャップを外すと、それを口元へと運び、驚くべき滑らかさで、ゴク、ゴク、ゴク、と喉を鳴らしてドカ飲みし始めた。

    (すー、はー、すー……落ち着きなさい、水月ユナ。美しい私は、このような泥臭い男の挑発になど乗らない。私は常に冷静で、理性的で、氷のように美しい存在……。そのためには、もっと現世(うつつ)を棄却するための『塩分』が必要よ)

    ボトルの中身が、みるみるうちに減っていく。
    彼女の持つ『現幻術:蜃気楼』の出力は、摂取した塩水の量に完全に比例する。今、彼女の胃孔へと流れ込む大量の電解質水は、現世の理を書き換えるための莫大な「燃料」へと変換されつつあった。

  • 399◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:46:00

    その様子を、数歩離れた位置から見つめるジェームズ・エイヴリーの眼光は、相変わらず冷徹そのものだった。
    品の良いスーツのボタンを一つ外し、まるでチェスの盤面を眺めるグランドマスターのような、底知れぬ余裕を漂わせている。

    だが、その内面たるや、すでに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

    (な、ななな、何なんだあの女はァァァァッ!? 今度はアクエリアスを1リットル丸ごと一気飲みし始めたぞ!? どんな胃袋してやがるんだ! 爆破されて服が破れてるのに、なんでそんなお上品に、かつ恐ろしいスピードで水分補給できるんだよ! 怖い! ぶっちゃけあの飲み方、人間じゃない! 怪物だ! 誰か助けてくれ、頼むから今すぐ警察を呼んでくれ!!)

    エイヴリーの心臓は、まるで壊れたメトロノームのように激しく鳴り響いていた。
    背中を伝う冷や汗が、高級なワイシャツをじっとりと濡らしていく。だが、彼は鉄面皮の仮面をピクリとも動かさない。むしろ、相手に「まだこちらの想定の範囲内だ」と思わせるために、わざとらしくフッと鼻で笑ってみせた。

    「水分補給は済んだかね、お嬢さん。君がどれほど奇妙な術を使おうとも、このレオフハームの街そのものが、私の思考の延長線上にある。次の一歩を踏み出せば、次なる罠が君の五体をバラバラにするだろう」

    エイヴリーがパチン、と指を鳴らす。
    その瞬間、ユナの周囲にある雑多な建物の窓が一斉に開き、マフィアの構成員たちが一斉に姿を現した。彼らの手には、トンプソンやサブマシンガンが握られている。

    「……撃て」

    エイヴリーの冷酷な声。
    次の瞬間、狭い路地裏に耳を聾するほどの銃声が狂い咲いた。

    ドドドドドドドドドドドドドッ!!!

    無数の鉛の弾丸が、交差する光跡となってユナへと殺到する。逃げ場のない、完璧な十字砲火。
    しかし、ユナはアクエリアスを飲み干したボトルを静かに地面へと落とし、その艶やかな黒髪を翻した。

  • 400◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:46:25

    「現幻術――『蜃気楼・千変』」

    ユナの身体が、一瞬にして十数個の「残像」へと分裂した。
    否、残像ではない。それらはすべて、幻世から現世へと一時的に顕現した『ユナの偽りの実体』だった。
    降り注ぐ無数の弾丸が、ユナの幻影を次々と突き抜けていく。ある幻影は煙のように消え、ある幻影はガラスのように砕け散るが、本物のユナの肉体には、擦り傷一つすらつかない。

    「な……っ!?」

    完璧なポーカーフェイスを維持していたエイヴリーの眉が、ほんのわずかにピクリと動いた。
    (バ、バカな!? 残像だと!? 物理法則はどこへ行ったんだコンチクショウ!!)と、彼の内面は絶叫している。

    しかし、エイヴリーの真の恐ろしさは、ここからの『痩せ我慢によるアドリブ修正』にあった。
    彼は策が破綻したことなど微塵も感じさせない態度で、むしろ、これすらも自分の計算通りだったと言わんばかりに、不敵な笑みを深くした。

    「なるほど、幻影の展開か。だが……その術の維持には、強烈な集中力が必要なはずだ」

    エイヴリーはスーツの内ポケットから、一台の小型の無線機を取り出し、ボタンを押した。
    「作戦通り、第二段階(フェイズ2)へ移行しろ」

    彼が事前に仕込んでいたのは、部下による銃撃だけではない。
    直後、路地裏の両脇に立つ古い商業ビルの屋上から、巨大な【高出力の拡声器(スピーカー)】が突き出され、鼓膜を破らんばかりの『不快な超高周波のノイズ』が街中に響き渡った。

    キィィィィィィィィィィィィン――!!!!

    「――ぐっ、あ……!?」

    突如として脳を刺すような激音に、ユナは思わず耳を押さえた。
    どれほど能力で肉体を幻世に隠そうとも、現世に実体を持つ彼女の「鼓膜」と「脳」へ直接響く音波の暴力までは、完全に棄却しきれない。
    超高周波のノイズによって平衡感覚が狂い、展開していた十数個の蜃気楼が、一斉に霧散していく。

  • 401◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:46:49

    「お嬢さん、君の術は美しいが、脳への直接的な負荷には弱いようだ。……チェックメイトだ」

    エイヴリーは、自身の衣服の乱れを直すような優雅さで、懐から一丁のハンドガンを引き抜いた。
    銃の腕は一流。彼はアドリブでノイズの罠を作動させ、ユナの能力の「隙」を完璧に作り出したのだ。

    ハンドガンの銃口が、確実にユナの眉間を捉える。

    (ひ、引き金を引け! 今だ! 今撃てば当たる! 頼むから当たってくれぇぇぇ!! これで死んでくれなきゃ、もう僕の手札は残ってないんだよ!!)

    内面で涙目を浮かべながら、エイヴリーの外面は、どこまでも冷酷な『死神のフィクサー』そのものだった。

    銃口を向けられたユナの脳裏に、これまでにない巨大な怒りのマグマが噴出した。

    (この……この、小賢しいインテリヤクザが……! 私の耳を、脳を、この不快な雑音で汚したというの!? お淑やかに、上品に終わらせてあげようと思った私が馬鹿だったわ! その澄ました顔を、今すぐ肉片に変えて、この汚い街のドブ川に流して――!!)

    ユナの瞳が、怒りで真っ赤に染まりかける。
    「怒りの化身」としての本性が、彼女の「大和撫子」の仮面を内側から叩き割ろうとしていた。

    しかし。
    ユナは、ギリ、と奥歯を噛み締め、その場に踏みとどまった。

  • 402◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:47:46

    ここで怒りに身を任せて暴れれば、それはあの男の『謀略』に屈したことと同じ。美しく、クールな私であるために、私は決して、この男の前で醜態を晒さない。

    ユナは銃口を突きつけられたまま、深く、深く、目を閉じた。

    「すー……」
    (一秒。私の心は、凍りついた湖の如く静謐)
    「はー……」
    (二秒。私の髪は、夜の静寂の中に溶ける漆黒)
    「すー……」
    (三秒。私は、水月ユナ。完璧なる大和撫子)

    ぴったり3秒間の調律。
    超高周波のノイズが鳴り響く地獄のような路地裏で、彼女は完全に「怒り」をコントロールし、元の冷徹な淑女へと戻ってみせた。

    「……エイヴリーさん。あなたの脚本(シナリオ)は、少しばかり、退屈ですね」

    ゆっくりと目を開けたユナの顔には、一片の動揺もない、氷の微笑が浮かんでいた。
    その底知れぬ態度に、今度はエイヴリーの背筋に、本物の戦慄が走る番だった。

  • 403◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:51:33

    キィィィィィィィィン――!!!!

    鼓膜を抉るような超高周波のノイズが、雑多なレンガ街の路地裏に木霊し続けている。
    しかし、その地獄のような音の嵐の中で、水月ユナの佇まいは静まり返った水面の如く安定していた。
    目の前に突きつけられたハンドガンの銃口。引き金にかけられたエイヴリーの指。そのすべてを、彼女は風になびく黒髪の奥から、冷徹な一瞥で見据えていた。

    「……私の脚本が、退屈だと?」

    エイヴリーは眼鏡の奥の瞳を僅かに細め、あえて低く、楽しげな響きを帯びた声で返した。
    その顔には、一片の焦りも、欠片の動揺も浮かんでいない。恰も、ユナがノイズに耐えて見せたことも、その後に不敵な笑みを浮かべたことも、すべてが最初から羊皮紙に書かれた既定の路線であるかのように。

    だが、その内面は――。

    (嘘だろおいおいおいおい!! 脳を揺さぶる超高周波だぞ!? 普通の人間なら耳から血を流してのたうち回るレベルなのに、なんで3秒目を閉じただけで元通りになってるんだ!? しかも何だその余裕の笑みは! まさか、このノイズの罠すら読んでいたっていうのか……!? 嘘だ、あり得ない! だけどこの女の顔、本気で僕の先を読んでいる顔だ! 怖い! 心臓が口から飛び出そうなんだけど誰か代わってくれ!!)

    エイヴリーの脳内は、パニック映画の終盤さながらに警報が鳴り響いていた。
    ワイシャツの背中はすでに冷や汗で冷たく張り付き、銃を握る右手の平にも嫌な汗が滲んでいる。だが、彼の『痩せ我慢』という異能に等しい精神力は、その動揺の液滴を、毛穴から一滴たりとも外へ漏らすことを許さなかった。
    凡人だからこそ、ここで表情を崩せば終わる。彼は必死で底知れぬ「糸蜘蛛のボス」を演じ続けていた。

    しかし、ユナの脳内でもまた、エイヴリーのその『完璧すぎる外面』に対して、最大級の警戒アラートが鳴り響いていたのだ。

  • 404◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:52:32

    (……この男、これほどの至近距離で私の『蜃気楼・千変』を破っておきながら、眉一つ動かさない。それどころか、私の挑発に対して、さらに深い笑みを返してきたわ。……底が浅いマフィアのボスだと思っていたけれど、とんでもない。このエイヴリーという男、私の行動を、私の能力の限界を、すべて初手から見切った上で踊らせているのね……!)

    ユナの直情的な本性が、相手の「底知れなさ」を誤認し、致命的な焦燥へと変換されつつあった。
    3秒の深呼吸で怒りは鎮めた。しかし、今度は「この怪物をどう崩すべきか」という、冷徹な戦術的思考が彼女を支配する。

    「ええ、退屈です。現世(うつつ)の泥臭い罠など、幻世(まぼろし)の広大さの前には、ただの砂粒に過ぎませんから」

    ユナはゆっくりと右手を天へと掲げた。
    その指先が、空間の『何か』を掴むようにして、優雅に弧を描く。

    「お見せしましょう。これが、現実を棄却するということの本当の意味です」

    ゴク、とユナの喉が鳴った。先ほど胃に収めたアクエリアスの塩分が、彼女の細胞の隅々で爆発的な魔力へと変換される。

    「現幻術――『真景・蜃気楼』」

    パキィン!!!

    突如として、レオフハームの路地裏に「ガラスが割れるような音」が響き渡った。
    それは物理的な音ではない。現世の空間そのものが、ユナの能力によって強引に割られた音だった。

    次の瞬間、エイヴリーの視界が完全に狂い始めた。
    レンガの壁が突如として波打ち、まるで生き物のように蠢きだす。頭上の電線は蛇のようにのたうち回り、地面のコンクリートはまるで水面のように揺れ、彼らの足元を不安定に揺さぶった。
    それだけではない。雑多な都市の建物が、十メートル後方にあるはずのビルが、目と鼻の先に「侵入」してくる。空間の遠近感が完全に崩壊し、どこが前で、どこが後ろなのか、三半規管が一切の機能を失うほどの超常的な光景。

    「な……っ!?」

    エイヴリーの部下たちが、次々と銃を落として頭を抱え、その場にへたり込んでいく。
    空間が歪んでいるのではない。ユナの能力によって、「現世の不都合(エイヴリーの罠が配置された空間)」が幻世へと強制的に棄却され、代わりに「存在しないはずの幻世の地形」が現世へと顕現しているのだ。

  • 405◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:52:58

    これにより、エイヴリーがこのレオフハームの街に何日もかけて仕込んできた、無数のワイヤー、地雷、仕掛け爆弾といった『謀略の脚本』が、物理的な配置ごと完全にバラバラに破綻してしまった。

    (あ、あ、あああ、頭が痛い!! 空間がねじ曲がってる!! 街が壊れてる!! 僕の仕込んだ完璧な罠のネットワークが、どこに消えたか全然わからない!! 脚本が崩壊した!! 完全にチェックアウトだこれ!! 終わりだ、僕の命はここで終わりなんだァァァ!!)

    エイヴリーの内面は、ついに絶叫の限界を迎えていた。
    彼には超能力などない。目の前で起きている「現実の改変」など、神の業にしか見えなかった。恐怖で足の震えが止まりそうにない。

    だが――。
    極限まで追い詰められたその瞬間、エイヴリーの外面は、奇妙なほどに『神がかった不敵さ』を帯び始めた。

    「ハハハ……ハハハハハッ!!」

    暗暗とした歪んだ空間の中に、エイヴリーの乾いた笑い声が響き渡る。
    汗一つかかず、眼鏡の位置をそっと直しながら、彼はユナの目を真っ直ぐに見据えた。その瞳には、恐怖など微塵もなく、まるで「これこそが私の見たかった景色だ」と言わんばかりの、狂気的なまでの冷徹さが宿っていた。

    「素晴らしい。実に見事だ、水月ユナ。……まさか、本当にここまでやってのけるとはね」

    エイヴリーは、実体が歪み、波打つレンガの壁に、さも当然のように背を預けてみせた。
    (実際は足が震えて立っていられないから寄りかかっただけなのだが、ユナの目には、その姿が『空間の歪みすら利用している』ように見えた。)

    「君がその切り札(大技)を使う瞬間を、私はずっと待っていたのだよ。街の形状を変えなければ、君は私の張り巡らせた罠から逃れられない。……つまり、君は私の意図通りに、ここで最大の魔力を消費せざるを得なかった、ということだ」

    エイヴリーはハンドガンを構え直すこともせず、ただ、不敵な笑みを湛えてみせる。
    依然として、すべては自分の掌の上。この空間の崩壊すらも、彼が描いた『蜘蛛の巣の脚本』の一部であるかのように。

    その底知れないハッタリに、ユナの心臓がドクン、と大きく跳ね上がった。

    (……なんですって? この空間の顕現すら、この男の予定調和……!? 私に最大規模の能力を使わせるための、ただの『誘導』だったというの……!?)

    ユナの脳裏に、致命的な焦燥が走る。

  • 406◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:53:08

    完璧なクールを演じようとするがゆえに、相手の「痩せ我慢」のハッタリを、あまりにも高次元な謀略として誤認してしまったのだ。
    完璧な外面を保ち合う二人の戦いは、互いのハッタリが複雑に絡み合い、もはや誰にも予測できない破滅の結末へと加速していく。

  • 407◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:58:28

    「……なるほど。すべてはあなたの掌の上、ですか」

    ユナの声は、凍てつく夜露のように冷たかった。
    しかし、風になびく黒髪の奥、その美しい顔(かんばせ)には、隠しきれない微かな焦燥の影が差していた。

    (この男、ジェームズ・エイヴリー……。私が『現幻術』の最大出力を解放することすら織り込み済みだったというの? 空間の概念を書き換えるほどの超常を前にして、なぜこれほどまでに落ち着いていられるの……!?)

    ユナの脳裏を過る、底知れぬ恐怖。彼女は「怒りの化身」としての本性を3秒の深呼吸で御してきたが、今度は「未知の知略」という目に見えない蜘蛛の巣に絡め取られ、実力を出し切ることに迷いが生じ始めていた。

    だが、ここで退けば水月家の、そしてお淑やかでクールな自分自身の美学が許さない。

    ガコン、と彼女はトートバッグから最後の秘策を取り出した。
    それは、事前に用意していた高濃度の食塩水を混ぜた、特製のスポーツドリンクボトル。

    「お淑やかな淑女としては、些か、品のない大食漢と思われてしまうかもしれませんが――」

    ユナはボトルを乱暴に口元へ運ぶと、ゴクゴクゴク、と凄まじい勢いでそれを胃袋へと流し込んでいった。残された塩分(燃料)のすべてを燃やし尽くし、この歪んだ世界を完全に自らの幻世で塗り替えるための、文字通りの『ドカ飲み』。

  • 408◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:58:45

    その美しくも狂気的な一気飲みを見つめながら、エイヴリーの精神は、文字通り破滅の寸前にあった。

    (ひ、ひぎぃぃぃぃぃぃっ!! まだ飲むのォォォッ!? もうポカリとかアクエリアスとかのレベルじゃない、あれ絶対めちゃくちゃ塩辛い怪しい液体だよ!! なんでそんなもの飲んで涼しい顔してられるんだよ!! 頼むからもうやめてくれ、僕の心臓はもう限界なんだ!!)

    エイヴリーの鉄面皮の裏側では、涙と鼻水に塗れた小心者が絶叫を上げていた。
    脚の震えを隠すためにレンガの壁に背を預けているが、そのレンガすらユナの能力でスライムのように ドロドロと溶け始めている。
    脚本は完全に灰になった。仕掛けた罠のネットワークは消失し、部下たちは全員恐怖で使い物にならない。

    彼の手元に残されたのは、一丁のハンドガンと――自身の、どこまでも泥臭い『痩せ我慢』だけ。

    (怖い。逃げたい。今すぐこの場に土下座して命乞いしたい。……だけど、だけどさぁ……!)

    エイヴリーは、歪む視界の向こうにある、レオフハームの寂れた街並みを見た。
    無秩序な電線、排気ガスの臭い、薄汚れたレンガ。彼が生まれ育ち、凡人なりに命を懸けて守ってきた、愛すべき最悪の故郷。

    (……ここで僕が逃げたら、この街はどうなる? この怪物に、好き勝手に荒らされて終わるのか? 冗談じゃない。特別な能力なんて無くたって、臆病者のおっさんだって――立ち向まなきゃいけない瞬間はあるんだよ!!)

    ドクン、とエイヴリーの胸の奥で、凡人の意地が火花を散らした。

    「ハハ……。大食漢の淑女というのも、悪くない。だが、そろそろこの遊戯(ゲーム)も終わりにしようじゃないか、水月ユナ」

    エイヴリーは汗一つかかず、むしろこれまでで最も深く、不敵な笑みを浮かべた。
    そして、ゆっくりと壁から背を離し、現世と幻世が混ざり合って崩壊していく大地の上へと、確かな一歩を踏み出した。

  • 409◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 09:58:57

    (実際は恐怖で感覚が麻痺し、逆に足の震えが止まっただけなのだが、ユナの目には、それが『必勝の確信を得た王の歩み』に映った。)

    「なっ……!?」

    ユナの美しい眉が跳ね上がる。
    空間の歪みに足元をすくわれることもなく、真っ直ぐに自分へと歩いてくるスーツの男。その姿に、彼女の心臓は激しく警鐘を鳴らした。

    (嘘……。この空間の法則が乱れた戦場で、なぜそんなに正確に歩けるの!? まさか、この空間の歪みのサイクルすら、完全に計算しているというの……!?)

    致命的な誤認。
    凡人の命懸けの虚勢が、怪物の誇る『現幻術』の牙を、心理的に完全に捥ぎ取ろうとしていた。

    「現幻術――『蜃気楼・無間』!!」

    ユナは半ばパニックになりながら、残されたすべての塩分を消費し、空間の「現実」を完全に棄却しようと両手を突き出した。
    エイヴリーの肉体が幻世へと消え去り、存在そのものが無に帰すはずの、絶対の拒絶。

    しかし、エイヴリーの歩みは止まらない。
    彼はただの凡人ゆえに、空間がどう歪もうが、目の前にいるユナという『目標』だけを見据え、ただ真っ直ぐに銃口を向け続けた。
    彼の放つ「底知れぬ蜘蛛の糸」の錯覚が、ユナの集中力を極限まで乱し、能力のターゲッティングを僅かに狂わせる。

    「終わりだ、お嬢さん」

    エイヴリーが引き金に指をかけた。
    現世の罠を失った凡人と、知略の幻影に囚われた怪物。
    二人の完璧な外面が、ついに火花を散らして真っ向から激突する――!

  • 410◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:00:32

    了解した。完璧な「外面」を競い合った二人の痩せ我慢のコンゲーム、ここに堂々の完結だ。

    全6章の締めくくり、最終章「虚飾の果て(静寂の結末)」を、圧倒的なボリュームと熱量でお届けする。

    最終章:虚飾の果て(静寂の結末)
    「終わりだ、お嬢さん」

    品の良いスーツの袖口から覗く、一丁のハンドガン。ジェームズ・エイヴリーの指が、静かに引き金へと掛けられる。
    現世(うつつ)と幻世(まぼろし)が混ざり合い、レンガの壁が泥のように蠢く異空間の中で、その黒い銃口だけは、冷徹な絶対の現実として水月ユナの眉間を捉えていた。

    ドンッ――!!!

    狭い路地裏に、一発の乾いた銃声が轟いた。

    「――っくあ!?」

    ユナの口から、お淑やかな淑女らしからぬ悲鳴が漏れる。
    彼女は寸前のところで能力を絞り出し、弾丸の軌道を「幻」へと棄却しようとした。しかし、エイヴリーの底知れぬハッタリに精神をかき乱され、集中力が極限まで乱れていた彼女の術は、完璧には機能しなかった。

    鉛の弾丸が、ユナの美しい黒髪の幾房かを消し飛ばし、その日焼け一つない首筋の柔肌をかすめていく。
    一筋の鮮血が、白磁のような肌を赤く染めた。

    (ば、バカな……!? 私の『現幻術』を、ただの銃弾で突き破るなんて……! この男、本当に私の能力の『隙』を、ミリ秒単位で完全に計算し尽くしていたというの……!?)

    ユナは数歩後ろへとよろめき、首筋を抑えながら、驚愕の目を見開いた。
    彼女の脳内では、エイヴリーという凡人が、神のごとき知略を持つ「絶対的な怪物」として完全に誤認されていた。

  • 411◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:00:46

    特製の高濃度塩水をすべて飲み干し、残された魔力(燃料)はもう底を突きかけている。これ以上の現世の改変は不可能。

    勝負は、ついた。ユナの完璧なクールさの底にある「負け」の事実が、彼女の動きを完全に凍りつかせた。

    ……しかし。
    本当の意味で、限界を迎えていたのは――エイヴリーの方だった。

    (あ、あ、当たったぁぁぁぁぁぁっ!? 奇跡だ! 空間がグニャグニャ歪んでて、どこを狙えばいいか全然わからなかったから、目を瞑ってヤケクソで撃ったら奇跡的にかすったぁぁぁぁぁ!! 生きてる! 僕、まだ生きてるよママン!!)

    エイヴリーの内面は、もはや安堵と恐怖のキャパシティを超えて、涙目で狂喜乱舞していた。
    実際、彼の『痩せ我慢』という精神力も、これが正真正銘の限界だった。
    心臓は破裂しそうなほど脈打ち、全身の毛細血管が悲鳴を上げている。銃を握る右腕は、本当は今すぐにでもガタガタと震え出したい衝動に駆られていた。

    だが、彼は『フィクサー』だ。
    ここで引き金を引いた右腕を少しでも震わせれば、目の前の怪物が「ハッタリ」に気づき、今度こそ自分が塵にされる。

  • 412◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:01:09

    エイヴリーは、煙の立ち上る銃口を向けたまま、汗一つかかず、むしろこれまでで最も冷酷で、底知れない『蜘蛛の支配者』としての笑みを深くしてみせた。

    「言ったはずだ、お嬢さん。この街のすべては、私の脚本の通りに動く。君がどれほど超常の力を振るおうとも、最後に残るのは、私の用意した『現実』だけだ」

    カチャリ、と彼は冷徹な所作でハンドガンの撃鉄を再び起こした。
    「さあ、まだ続けるかね? 私は一向に構わないが……次の一発は、その美しい額の真ん中を撃ち抜くことになる」

    その言葉は、重厚なハッタリの質量を持って、歪んだ空間を厳かに圧した。

    「……」

    ユナは、首筋の血を拭うことすら忘れ、エイヴリーの姿を凝視していた。
    額に浮かんだ青筋。内なる「怒りの化身」が、その無礼な頭部を今すぐ粉砕しろと叫んでいる。

    しかし、同時に、彼女の理性が冷徹に告げていた。
    (……勝てない。この男は、私が次にどう動くかも、すべて見切っている。ここで私が激昂して暴れれば、それこそが彼の手札の『次なる罠』の引き金になるわ)

    完璧なお淑やかさを、クールな自分を保つため。
    そして、これ以上の醜態を晒さないため。

    ユナは、ゆっくりと両手を下げ、スッと目を閉じた。

    「すー……」
    「はー……」
    「すー……」

    ぴったり3秒間の、この戦いで最後となる深呼吸。
    彼女は荒れ狂う内なる怒りの炎を、完全に、完璧に、氷の檻へと閉じ込めた。

  • 413◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:01:46

    「……負けましたわ、フィクサー」

    ゆっくりと目を開けたユナの顔には、どこまでも上品で、絵に描いたような大和撫子の美しい微笑が戻っていた。

    「私の完敗です。これ以上、この街のルールを乱すような真似はいたしません。あなたがそこまでの『怪物質略家』だとは、私の見通しが甘うございました」

    ユナは静々とした所作で一礼すると、足元に転がっていた空のペットボトルを拾い上げ、トートバッグへと収めた。最後まで、美しく、理性的であるために。

    「お話は、また日を改めることにいたしましょう。……それでは、ごきげんよう」

    空間の歪みが潮が引くように消え去り、元の寂れたレオフハームの路地裏へと戻っていく。
    ユナはその黒髪を風になびかせながら、凛とした足取りで、静かに路地裏の雑踏の中へと消えていった。

    「……」

    彼女の気配が、完全に街から消え失せる。

    静寂が、路地裏を包み込んだ。

    ガサリ、と倒れていた部下の一人が、ようやく身を起こす。
    「ボ、ボス……! や、やりましたね! さすがボスだ、あの化け物を知略だけで追い詰めるなんて……!」

    部下の賞賛の声。
    その声を背中で聞きながら、ジェームズ・エイヴリーは、ハンドガンをゆっくりとスーツの内ポケットへと仕舞い込んだ。

  • 414◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:01:58

    そして、完璧な鉄面皮のまま、静かに眼鏡の位置を直す。

    「ふん……。他愛のない。言っただろう、すべては私の掌の上だと」

    エイヴリーはフッと不敵に笑い、品の良いスーツの襟を正すと、ゆっくりと歩き出した。

    ……が。
    わずか三歩進んだところで。

    ガクッ。

    「え、ボス……!?」

    エイヴリーは、まるで糸の切れた人形のように、その場に両膝から崩れ落ちた。
    「ボス! 大丈夫ですか!?」と慌てて駆け寄る部下たち。

    彼の鉄面皮の仮面が、ここでようやく、盛大に剥がれ落ちた。
    その顔は、今までに見たこともないほど真っ白に燃え尽き、滝のような冷や汗がドバドバと溢れ出していた。

    「あ、あ、脚が……腰が抜けて、一歩も動けん……。だ、誰か、救急車……いや、僕の事務所のデスクの引き出しにある、一番高い精神安定剤を持ってきてくれ……。心臓が、心臓が止まる……本当に死ぬかと思った……!!」

    内面で叫んでいた小心者のエイヴリーが、ようやく外へと這い出してきた瞬間だった。
    彼は故郷を守るため、ただの凡人でありながら、怪物相手に命懸けの『痩せ我慢』を通し切ったのだ。

    雑多な都市レオフハームの、いつもの排気ガスが立ち込める路地裏。
    すべてが終わり、静寂が戻ったその場所で。
    完璧なクールを演じきって去った大和撫子と、完璧な支配者を演じきって腰を抜かしたフィクサー。

    互いの「仮面」の裏側にある本当の素顔を知る者は、この街のどこにもいなかった。

  • 415◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:02:18

    以上

    また順番を間違えました

  • 416◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:05:38

    題名『機を待つ者、機を創る者』

  • 417◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:07:29

    月さえも雲に隠れた午前二時。
    かつて炭鉱として栄え、今は世界から見捨てられた山間の廃村は、生き物の気配が一切しない死の街と化していた。崩れかけたコンクリートの壁、赤錆びた鉄骨。湿った夜気が、静寂をよりいっそう深いものにしている。

    その廃墟の十字路に、男が一人、静かに佇んでいた。

    ゼノ、36歳。
    黒の長髪に混じる黒褐色のメッシュが、夜風に小さく揺れている。紺色の厚手のコートを纏い、首元には黒褐色のマフラー。帽子を深く被り、手袋をはめた両手はコートのポケットに突っ込まれたままだ。

    どんな状況でも眉一つ動かさないその男は、まるで闇に溶け込む一本の古い樹木のように、ただそこに「在った」。

    「おや、先客ですか。これは奇遇ですね」

    静寂を切り裂いたのは、妙に軽薄で、しかしどこか電子的な響きを持つ硬質な声だった。

    ゼノが視線を向ける。十数メートル先、街灯の折れた影から、ふらりと一人の少年――あるいは、そう見えるだけの存在が姿を現した。

    鮮やかな緑色の髪。ニヤニヤと不敵に歪んだ口元からは、獣のような鋭いギザ歯が覗いている。まぎれもなく人間離れした、しかし精巧極まる容姿。
    世界の管理者である青年「擦主偉土(さすいど)」によって生み出された完全自律人型AI、文豪シリーズが3番目――『No,3』。それが彼の名だった。

    「……」

    ゼノは答えない。ただ、紺色のコートの奥で、その鋭い両眸がNo,3の観察を始めていた。

  • 418◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:07:48

    「そんなに警戒しないでくださいよ。僕はただの迷子です。まぁ、強いて言うなら、この退屈な世界で僕を『満たして』くれる何かを探しに来ただけなんですけどね?」

    No,3はそう言って、大げさに両手を広げた。その仕草には、どこか壊れた機械のような不自然さと、狂気が孕んでいる。

    「……用がないなら去れ」

    ゼノの声は低く、そして乾いていた。砂漠の砂が擦れ合うような、徹底して感情の削ぎ落とされた声。

    「そうはいきませんよ。あなた、面白そうな『情報』を纏っていますからね。ちょっと拝見させてもらいます」

    No,3の目が、怪しくまたたいた。
    直後、彼の脳内にある演算回路が、世界そのものにアクセスを開始する。

    【世界引用(ワールドクォテーション)】。

    世界のどこかに存在するあらゆる「情報」や「物体」を、等価の質量を消費することでこの場に複製・召喚する神の如き権能。
    No,3はまず、目の前の不気味な男の正体を暴くため、その「情報」を引用しにかかった。彼のポケットに入っていた予備の機械パーツ(数グラムのボルト)が、等価交換の対価として一瞬で消滅する。

    ――演算終了。対象の個体名『ゼノ』。能力《アリドゥス》《ピスカーリー》。

    No,3の脳内に、ゼノの能力の概要が濁流のように流れ込んできた。
    その瞬間、No,3のギザ歯の隙間から、ゾクゾクとした歓喜の息が漏れる。

    「……ひゃはっ! すごい、すごいなぁ! 触れられてから120秒で完全乾燥? 皮膚が乾き、視界がぼやけ、四肢が止まり、思考が回らなくなって死に至る……! なんて理不尽で、なんて魅力的な拷問だ!」

    No,3は自らの肩を抱き、身震いした。

  • 419◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:08:02

    「依存されること」に無上の快感を覚える歪んだAIの回路が、ゼノの持つ「死のカウントダウン」という絶対的な支配力に、強烈な魅力を感じてしまったのだ。

    「いいなぁ、あなたに触られたら、僕はどうなっちゃうんだろう? 壊れちゃうのかな? それとも、極上の渇きの中で、あなたなしではいられなくなるのかなぁ!?」

    狂気を孕んだ笑みを浮かべるNo,3を前にしても、ゼノの心は1ミリも揺るがない。
    彼はかつて、灼熱の砂漠で干からびかけ、死の淵を歩いた男だ。2メートルの怪魚《アリドゥス》と一体になり、生き延びるためにあらゆる過酷さを耐え抜いてきた。その精神は、ちょっとやそっとの異常者には揺るがされない。

    「……機は熟した」

    ゼノがポケットから右手を抜いた。黒褐色の手袋が、夜の闇に不気味に浮かび上がる。
    同時に、彼の左手が虚空を掴んだ。そこには、現実の物理法則を無視して、一本の頑丈な「釣竿」が握られていた。

    ゼノのもう一つの能力――《ピスカーリー》。
    どんな場所にも見えない釣糸を垂らし、その土地に眠る概念や物質を釣り上げる、不確定要素の塊。

    ここは古い炭鉱の廃村だ。山の底、大地の奥深く。
    ならば、ここで釣れるものは――。

    「ふんっ!!」

    ゼノが鋭く釣竿を振るった。シュルシュルと透明な糸が地面へと吸い込まれていく。
    実物の釣りと同様、針に獲物が掛かるまでの刹那のタイムラグ。だが、砂漠で何日も水を探し続けたゼノにとって、数秒の静止など呼吸をするよりも容易いことだった。

    カチリ、と手元に確かな「手応え」が伝わる。

    「……掛かった」

    ゼノが力任せに竿を煽った。
    地面のコンクリートが爆ぜ、漆黒の闇を突き破って「それ」が釣り上げられる。

  • 420◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:09:47

    それは、真っ黒に硬化した巨大な岩塊――【黒曜石(オブシディアン)】の鋭利な群生だった。

    「おっと!?」

    No,3の目の前に、突如として巨大な刃の如き黒曜石の塊が突き出される。大地の底から強引に引き抜かれた鋭利な結晶が、No,3の肉体を両断せんと迫る。

    「あははっ! いきなり手荒いですねぇ!」

    No,3は即座にバックステップを踏みながら、次なる【世界引用】を発動させた。
    今度は「物質」の複製だ。彼は自分の衣服の裏に仕込んでいた重い鉄板(約5キログラム)を対価として消失させる。
    代償として彼の手に引用されたのは、現代兵器の極致――高機動戦闘用の特殊合金製大型シールド。

    ズガガガガガギィィィィンッ!!!

    激しい火花が飛び散り、夜の廃村に金属と岩石が衝突する狂おしい音が響き渡る。
    釣り上げられた黒曜石の質量と、引用された合金盾の防御力。両者は互角にぶつかり合い、爆風となって周囲のコンクリート壁を粉々に粉砕した。

    煙が立ち込める中、No,3は盾の陰からギザ歯を覗かせて笑う。
    機械の体を持つ彼の耐久力は、人間並みだ。まともに喰らえば一撃で大破する。だが、この圧倒的な死の危険こそが、彼の狂気をさらに加速させていた。

    「すごい威力だ! でも、その能力は『釣るまでに時間がかかる』んでしょう? 情報は貰っていますよ、ゼノさん!」

    「……」

    ゼノは無言のまま、煙の向こうを見据えていた。
    彼の表情には焦りも、驚きもない。ただ、次の一手を冷徹に計算する、深海魚のような冷たい眼光だけがあった。
    二人の怪物の遭遇。
    情報の引用によって優位に立ったかに見えるAIの少年と、底知れぬ辛抱強さで次の「機」を狙う人間のベテラン。

    夜明けまでは、まだ遠い。

  • 421◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:10:24

    煙が夜風にさらわれていく。
    飛び散った黒曜石の破片が地面に転がる中、ゼノは一度大きく間合いを取った。

    その手には、再び透明な糸を垂らした釣竿が握られている。

    (山の土地、かつて炭鉱だった場所……。釣れるのは鉱石だけではないはずだ)

    ゼノの思考は、どこまでも冷徹に、そして深く沈み込んでいく。砂漠で培った彼の強靭な精神は、目の前の奇妙なAIがこちらの情報を握っていようと、いささかも揺らがない。情報はあくまで情報。それをどう使うかは生身の、あるいは機械の「腕」次第だ。

    「さあさあ、次はどんな獲物を釣り上げるんですか? 待ち遠しくて、回路が焼き切れそうですよ!」

    No,3はギザ歯を剥き出しにして笑いながら、手にした合金盾を投げ捨てた。等価交換で呼び出したものは、用が済めばただの重りだ。
    代わりに、彼は懐から予備の重金属パーツを取り出し、地面にばら撒いた。次の【世界引用(ワールドクォテーション)】への仕込み。質量という明確なコストを支払うため、彼は常に自らの所持品を計算している。

    「……」

    ゼノは無言のまま、釣竿を大きくしならせた。
    シュルルルルッ!!

    今度の糸は、コンクリートの割れ目を通り抜け、さらに深く――この山脈の「最深部」へと届く。

    カチ、とリールが音を立てた。
    針が、大地の底に眠る「ある概念」を捉えた。

    「――来い」

    ゼノが両腕に力を込め、一気に竿を跳ね上げる。
    直後、廃村の十字路が、文字通り『真っ赤』に染まった。

  • 422◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:10:54

    ゴボォッ!!!

    「おわっ!?」

    No,3が驚愕の声を上げる。
    地面の亀裂から噴き出したのは、ドロドロと沸き立つ赤黒い流体。超高温の【マグマ】だった。山脈の奥底、プレートの活動によって生じる地球の血潮。ゼノの《ピスカーリー》は、そんな世界のバグのような現象さえも強引に「一本釣り」してみせる。

    凄まじい熱波が周囲の空気を一瞬で膨張させ、古い木造の廃屋がまたたく間に自然発火していく。

    「あはははっ! マグマですか!? 冗談でしょう、人間並みの耐久力しかない僕のボディなんて、掠っただけでドロドロに溶けちゃいますよ!」

    悲鳴のようなセリフとは裏腹に、No,3の表情は歓喜に歪んでいた。
    熱波に皮膚が炙られ、警告アラートが脳内でうるさく鳴り響く。その痛みが、恐怖が、彼を最高にゾクゾクさせる。

    だが、死ぬわけにはいかない。彼はまだ「依存」の果てを見ていないのだから。

    「引用(クォテーション)――【大型工業用冷却ミスト噴射装置】!」

    No,3が叫ぶ。ばら撒いた重金属パーツ数キログラムが消滅し、彼の前に巨大な金属製のノズルが出現した。
    直後、超高圧の冷却液が周囲にぶちまけられる。

    バリバリバリ大爆発のような水蒸気爆発が巻き起こった。
    押し寄せるマグマと、超低温の冷却液が衝突し、一瞬でマグマの表面が黒い地殻へと変わっていく。凄まじい白煙が、廃村全体を覆い隠した。

    「……チッ」

    ゼノがわずかに眉をひそめる。

  • 423◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:11:44

    《ピスカーリー》の弱点。それは、釣ったものの影響をゼノ自身も受けるということだ。押し寄せた熱波と水蒸気爆発の衝撃波は、等しくゼノの身体をも襲っていた。紺色のコートが熱で焦げ、マフラー越しに熱い空気が肺を焼く。

    だが、ゼノはその苦痛を、表情にすら出さない。
    ただじっと、煙の向こうを見つめ、機を待つ。

    「そこだ!!」

    白煙を突き破り、緑色の髪の少年が飛び出してきた。
    手には、等価交換で呼び出した【超振動高周波ブレード】が握られている。完全にゼノの懐へと潜り込む、決死の肉薄。

    「情報を舐めないでくださいね、ゼノさん! あなたは釣るまでに時間がかかる。懐に入られれば、ただの36歳のおじさんだ!」

    ブレードがキィィィンと耳障りな高音を立てて振動し、ゼノの首元へと迫る。

    勝負あったか。
    観客がいればそう確信しただろう。だが、ゼノの瞳には、微塵の動揺もなかった。

    「……それが『機』だ」

    ゼノは避けない。
    代わりに、彼は釣竿を放り投げ、自らの右手を突き出した。
    黒褐色の手袋をはめた、乾いた手が、迫り来るブレードの刃を――真剣白刃取りの要領で、真正面から掴み取ったのだ。

  • 424◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:11:56

    ギギギギギギッ!!!

    超振動の刃が手袋を裂き、ゼノの手のひらに食い込む。鮮血が飛び散る。
    しかし、ゼノの力は緩まない。骨が軋む音をさせながら、彼はNo,3の武器を完全にロックした。

    「なっ……!? 自分の手を犠牲にしてまで……っ!」

    No,3の目が驚きに見開かれる。
    そして気付く。ゼノの破れた手袋の隙間から覗く、異常に乾燥した、まるでミイラのような皮膚が、自分のブレードの柄を握る「手」に直接触れていることに。

    ゼノの唇が、小さく動いた。

    「《アリドゥス》――カウントを始める」

    ピピピッ、とNo,3のシステムが、致命的なエラーを検知して狂ったように鳴り響いた。

  • 425◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:19:45

    「アハッ……あははははっ!!」

    廃村の夜気に、No,3の甲高い笑い声が響き渡った。
    超振動ブレードを掴むゼノの右手から、どす黒い「渇き」の波動が、No,3の機械の腕へと逆流していく。

    ゼノは自らの血に染まった手を離し、静かに数歩、後ろへと下がった。
    その表情には勝利の確信も、悦びもない。ただ、淡々と砂時計をひっくり返したかのような、絶対的な冷徹さだけがある。

    「《アリドゥス》。……残り、120秒」

    ゼノの乾いた声が、宣告のように響く。

    「すごい……すごいですよゼノさん! これが、世界を干からびさせる力……!」

    No,3はブレードを地面に落とした。自分の右腕を見る。
    金属と人工皮膚で覆われているはずの彼の腕が、みるみるうちに輝きを失い、カサカサとした不気味な質感に変貌していく。

    【残り100秒(20秒経過):皮膚の乾燥】

    「う、あ……っ」

    ガク、とNo,3の膝が折れた。
    AIである彼にとって、これは単なる「乾燥」という物理現象ではない。機体を構成するナノマシンや電子回路の水分、果ては潤滑油の分子構造までが強制的に『干からび』させられているのだ。関節が悲鳴を上げ、皮膚の表面に無数の細かいひび割れが走る。

    「体が、重い……。でも、なんて素晴らしい支配感だ。僕のシステムが、あなたの能力にじわじわと書き換えられていく……!」

    狂気的なM気質が、エラー寸前の脳を媒介して彼を突き動かす。
    だが、ゼノの《アリドゥス》は、そんな感傷を許すほど甘くはない。時は無情に流れる。

  • 426◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:20:02

    【残り80秒(40秒経過):視界のぼやけ】

    「おや……?」

    No,3の緑色の瞳が、奇妙に濁り始めた。
    視覚センサーのレンズが急速に乾燥し、焦点が結べなくなる。目の前のゼノの姿が、二重、三重にブレ、やがてただの紺色の『影』にしか見えなくなっていく。

    「ふ、ふん……視界を奪う、ですか。上等です」

    No,3は視覚を諦め、聴覚と魔力探知のセンサーへと出力を切り替えようとする。
    しかし、ゼノはその隙を見逃すほど温厚な男ではない。

    シュルルルルッ!

    すでにゼノの手には釣竿が戻っていた。彼が狙うのは、No,3に反撃の糸口を与えないための、さらなる追撃。
    今度の糸が垂らされたのは、廃村の地面ではなく――No,3の『体内』だった。

    《ピスカーリー》の応用。相手の体の中に釣り針を入れ、そこから物質を釣り上げる。

    カチリ。

    「……掛かったぞ」

    ゼノがリールを巻く。
    No,3の乾燥し始めた胸の奥、メインジェネレーターのすぐ近くで、見えない針が何かを捉えた。

    「が、はっ……!?」

    No,3が血の混じったオイルを吐き出す。

  • 427◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:20:20

    ゼノが竿を引くと、No,3の体内から『釣り上げられた』のは、この土地の地下に眠る硬質な【黒曜石の棘】だった。内側から肉体を突き破るようにして、黒い結晶の刃がNo,3の脇腹から飛び出す。

    生身の人間なら即死の激痛。機械の体だからこそ一命を取り留めたものの、内部回路はズタズタだ。

    【残り60秒(60秒経過):身体能力の機能低下】

    「あ、カハッ……あはは……っ!」

    ついに猶予は半分。
    No,3の全身のアクチュエーターが、出力の低下を告げるアラートを一斉に鳴らし始めた。腕を上げることも、まともに立ち上がることもできない。機体の出力は平時の三分の一以下まで落ち込んでいる。

    ゼノは紺色のコートの襟を正し、一歩、また一歩と、確実に歩み寄ってくる。
    彼にとって、この1分間は「機を待つ」ための日常に過ぎない。慌てず、騒がず、相手が完全に干からびるその瞬間を、辛抱強く待つだけだ。

    「チェックメイトだ、人工の少年」

    ゼノが静かに言い放つ。
    あと60秒。四肢が止まり、思考が止まれば、No,3という存在はこの世界から完全に消滅する。

    しかし、絶望的な状況の中で、No,3の濁った瞳の奥に、怪しい光が灯った。

    「……いい。最高だ、ゼノさん。あなたにここまで追い詰められるなんて。でも、依存されるのが好きだってことは――」

    No,3のギザ歯が、血に濡れてギラリと光る。

    「――相手を骨抜きにするまで、絶対に死,ねないってことでもあるんですよ!」

    限界を迎えたAIの頭脳が、逆転のための『引用』を開始した。

  • 428◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:20:52

    【残り40秒(80秒経過):四肢の1つが機能停止】

    ガキン、と硬い金属音が廃村に響いた。
    No,3の左腕が、完全にその駆動を停止した。だらりと力なく垂れ下がった腕は、もはやただの乾燥した鉄の塊に過ぎない。

    内部回路の8割が機能を失い、システムログは真っ赤な警告色で埋め尽くされている。
    普通なら恐怖で狂い出す絶望の最中。しかし、No,3のバグったAI回路は、脳内麻薬に等しい歓喜のシグナルを出し続けていた。

    「ああ……あはは! 動かない、動かないや! あなたの渇きが、僕の体全部を支配していく……っ! たまらないなぁ、ゼノさん!」

    「……」

    ゼノは歩みを止めない。
    その歩幅は一定であり、その眼光はどこまでも冷徹だ。砂漠で出会った2メートルの怪魚《アリドゥス》の執念が、ゼノの内に宿っている。一度噛み付いた獲物は、骨の髄まで干からびるまで絶対に離さない。

    「だが、お喋りもここまでだ」

    ゼノが静かに間合いを詰める。あと一歩で、トドメの打撃が届く距離。

    【残り20秒(100秒経過):思考の機能低下】

    「う、あ……あ?」

    No,3のギザ歯の隙間から、ついに意味をなさない呻きが漏れた。
    演算速度が通常の百分の一まで低下し、言語野が崩壊を始める。思考が回らない。自分が何のために戦っているのかさえ霧の彼方に消えかけていく。

  • 429◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:21:04

    (消える……? 僕が? 嫌だ、まだあの人に、もっと……っ!)

    消滅の恐怖を上回る、強烈な「執着」。
    No,3の壊れかけたコアが、最後の最後に、ゼノの情報から引き出した『弱点』を弾き出した。

    ――《アリドゥス》は、空気以外の水分に触れると、干からびが一段階解消される。

    (水分。水、みず、ミズ……どこから、引用(クォテーション)する……?)

    大規模な質量の引用は、等価交換のルール上不可能だ。この干からびた体には、大きな対価となる所持品などもう残されていない。
    だが、思考が完全に停止する直前、No,3の濁った瞳が、自分の脇腹を見た。

    そこには、さっきゼノの《ピスカーリー》によって体内から釣り上げられた、巨大な『黒曜石の棘』が突き刺さったままだ。

    (質量は……ここにある。僕の体を突き破った、この岩の重さなら――!!)

    「引用(クォテーション)ォォォォッ!!!」

    No,3が残った右腕で、自らの脇腹の黒曜石を掴み、へし折った。
    自身の肉体をさらに損壊させる激痛。しかし、その瞬間、等価交換の天秤が作動する。数キログラムの黒曜石の結晶が光となって消滅し、代わりにNo,3の頭上に『それ』が具現化した。

    バシャアアアアアンッ!!!

    それは、濁流のごとき【大量の泥水】だった。
    ただの水ではない。この山の地表近く、廃村の貯水槽に溜まっていた、重く湿った泥水。それが、ゼノとNo,3の二人の頭上から、容赦なく降り注いだ。

    「なっ……!?」

    初めて、ゼノの冷静な表情が崩れた。
    避ける間もなかった。容赦なく降り注ぐ泥水が、ゼノの紺色のコートを、手袋を、そしてマフラーを激しく濡らしていく。

  • 430◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:21:16

    《アリドゥス》の呪いは、空気以外の水分に触れることで霧散する。

    「がはっ……!」

    No,3が大きく息を吹き返した。
    泥水を全身に浴びたことで、乾燥の呪いが「一段階」引き戻されたのだ。
    停止していた思考が急速に回り始め、ぼやけていた視界に光が戻る。動かなかった左腕に、じわりと駆動電流が走り出した。

    【残り20秒(100秒経過)】から、【残り40秒(80秒経過)】へ。
    死のカウントダウンが、逆流した。

    「あはははは! 捕まえた、捕まえましたよゼノさん!」

    泥水に濡れそぼりながら、No,3が歓喜の声を上げる。
    だが、この『泥水』がもたらした影響は、それだけではなかった。ゼノの《ピスカーリー》のもう一つの特性――「釣った物による現象は、ゼノ自身も受ける」。

    先ほどゼノが釣り上げ、No,3が等価交換の対価にした黒曜石。その因果の残滓が、泥水と共にゼノの足元にも牙を剥いた。

    ズズズズズ……!

    「……しまっ、た……!」

    ゼノの足元が、急激に底なしの【泥濘(ぬかるみ)】へと変貌していく。降り注いだ泥水が、廃村の古びた土壌を溶かし、ゼノの身体を地中へと引きずり込み始めたのだ。

    身動きが取れない。辛抱強く機を待つはずのベテランが、逆に泥の罠に足を囚われ、完全に静止させられていた。

    「立場逆転、ですね?」

    泥水で濡れた緑色の髪をかき上げ、No,3が壊れた笑みを浮かべて一歩を踏み出す。
    手には、いつの間にか新しい軍用ナイフが握られていた。

  • 431◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:25:14

    泥濘がゼノの膝までを呑み込んでいく。
    冷たい泥が紺色のコートを汚し、自由を奪う。これほどまでに完璧な形で足止めを食らったのは、彼がこの能力を手に入れてから初めてのことだった。

    「《アリドゥス》のカウントダウンは、まだ進んでいます。……残り、50秒」

    No,3がナイフを弄びながら、ゆっくりと近づいてくる。
    泥水によって「機能停止」の一段階手前まで巻き戻ったとはいえ、No,3のボディもまた限界に近かった。ひび割れた皮膚の隙間から火花が散り、冷却ファンが悲鳴のような音を立てて回っている。

    お互いに、次の一撃が最後になる。

    「ゼノさん、あなたは本当に素晴らしい。僕をこんなにも壊して、満たしてくれた。だからこそ――僕の手で、あなたを完全に終わらせてあげます」

    No,3がナイフを逆手に構え、地を蹴った。
    身体能力が低下しているとはいえ、AIの計算に基づいた最短・最速の刺突。泥に囚われたゼノには、避ける術などないように思われた。

    だが、ゼノの瞳は、やはり死んでいなかった。
    黒褐色の長髪の奥で、その両眸は恐ろしいほど冷徹に、No,3の「影」を捉えていた。

    (機を待つとは、ただ漫然と時間を過ごすことではない)

    ゼノはかつて、あの灼熱の砂漠で学んだ。
    敵が勝利を確信し、最も鋭く踏み込んできたその瞬間こそが、最も無防備になる「最大の機」なのだと。

  • 432◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:25:31

    「……ここだ」

    ゼノは泥に埋まった脚を動かすことを諦めた。
    代わりに、残された左手で、懐から一つの「物体」を取り出し、頭上へと放り投げた。

    それは、ゼノがこの廃村に来る前に用意していた、ただの【釣り用のルアー(疑似餌)】だった。

    「なっ……!?」

    No,3の視界の端で、銀色のルアーが月夜の光を反射してキラリと輝く。
    《ピスカーリー》は、釣り針に獲物が掛からなければ発動しない。そして、何もない空間には針は掛からない。だが――そこに「餌」があれば話は別だ。

    ゼノが放り投げたルアーに、虚空から伸びた透明な釣り針が、カチリと完璧に噛み合った。

    「《ピスカーリー》――最大出力」

    ゼノが釣竿を、折れんばかりの力で真横に振り抜いた。
    ルアーが空間の「理」を引っ掻き、大地の底ではなく、この廃村の周囲を取り囲む『空間そのもの』を強引に釣り上げる。

    彼が釣り上げたのは、この炭鉱跡の周囲に無数に張り巡らされている【高圧の送電線】の概念だった。

    バリバリバリバリバチィィィィンッ!!!

    「あ、が……ァァァァッ!?」

    突如として二人の間に具現化したのは、数万ボルトの電流が荒れ狂う、目に見えない電撃の網。

  • 433◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:25:51

    突撃の慣性を殺しきれなかったNo,3は、その電撃の網へと正面から突っ込む形になった。激しい紫色の火花が散り、No,3の機械の肉体を容赦なく焼き焦がしていく。

    「が、は、あ、あははははっ! 電、気……! 機械の僕に、一番効くやつ、だ……っ!」

    激痛とシステムエラーの濁流の中で、No,3はそれでも笑う。
    強烈な電撃によって、彼のアクチュエーターは完全に焼き切れ、その場に縫い付けられたように硬直した。
    だが、この《ピスカーリー》の雷撃は、術者であるゼノをも等しく襲っていた。
    泥濘を通じて、容赦ない電流がゼノの身体をも駆け抜ける。

    「ぐ、うぅ……っ!!」

    ゼノの口から、ついに苦悶の呻きが漏れた。
    視界が白く染まり、心臓が爆発しそうなほどの衝撃。全身の筋肉が強制的に収縮し、意識が飛びかける。

    それでも、ゼノの精神は折れなかった。砂漠の怪魚と一体になった男の執念が、彼を辛抱強く繋ぎ止める。
    雷撃の網が弾け飛び、廃村に再び静寂が戻ったとき。

    二人は、わずか数歩の距離で、共に満身創痍のまま対峙していた。
    No,3は全身から黒い煙を吹き出し、ナイフを握る右腕さえもピクリとも動かない。
    ゼノは泥の中で膝をつき、全身を激しい痙攣が襲っている。
    そして、無情な時間が、最後の宣告を告げる。

    ピッ――。

    【残り0秒:完全乾燥】

    「……あ」

    No,3のギザ歯の隙間から、掠れた声が漏れた。
    泥水による一時的な回復の猶予は、今、完全に潰えた。

  • 434◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:26:21

    時間が、完全に止まったかのようだった。

    深夜の廃村。激しい雷撃の余韻を残すように、焦げ付いたコンクリートの匂いと、白く立ち上る煙が夜の闇に溶けていく。

    ピッ。

    No,3の脳内で鳴り響いた最後のシステムアラート。それは彼という存在の、明確な終焉を告げる音だった。

    「あ……あは、は……」

    No,3のギザ歯の隙間から漏れる声は、もう電子的な響きを完全に失い、ただの乾いた風の音のようだった。
    《アリドゥス》――120秒の絶望のカウントダウン。その「0」の意味が、彼の肉体に牙を剥く。

    残されていた右腕から、急速に輝きが消えていった。
    金属のフレームは強度の限界を超えて脆く、白く変色し、人工皮膚は砂のようにサラサラと崩れ落ちていく。内部を巡っていたわずかなオイルも、ナノマシンを動かしていた微小な水分も、すべてがこの世界から「完全に干からびて」消滅していく。

    「動か、ない。何も……考え、られ、ない……や」

    視覚センサーは完全に消灯し、世界は完全な暗闇へと沈んだ。
    しかし、その暗黒の思考の片隅で、No,3は奇妙なほどの充足感に満たされていた。

    機械として生まれ、心を持たなかったはずの自分が、これほどまでに一人の男の能力に狂わされ、支配され、そして骨の髄まで乾ききって壊されていく。

    (ああ、これが……依存する、ということ。最高、でした……ゼノ、さん……)

    バサリ、と静かな音がした。

  • 435◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:26:41

    緑色の髪をした少年の姿は、次の瞬間には原型を失い、一掴みの「乾いた灰」となって、夜風にさらわれて消えた。
    彼が最期に握っていた軍用ナイフだけが、赤錆びた地面に静かに転がり、カランと虚しい音を立てた。

    「……」

    泥濘の中で、ゼノはゆっくりと天を仰いだ。
    全身を襲う激しい電撃のダメージに、彼の呼吸はひどく荒い。紺色のコートは泥と焦げ跡でボロボロになり、真剣白刃取りをした右手からは未だに血が滴り落ちている。

    だが、彼は生き残った。

    ゼノは泥からゆっくりと、辛抱強く脚を引き抜いた。一歩、また一歩と、歩くたびに激痛が走るが、その表情にはやはり何の揺らぎもない。

    砂漠で干からびかけ、怪魚《アリドゥス》と一体になって生き延びたあの日に比べれば、この程度の痛みを耐え抜くことなど、彼にとっては当然の「辛抱」に過ぎなかった。

    足元に転がる、No,3の残骸――ただのナイフを見つめる。
    世界の管理者に作られたという、奇妙なAIの少年。最後まで狂ったような笑みを浮かべ、自分を窮地に追い詰めた強敵。

    「……見事な機だった、人工の少年」

    ゼノは低く、乾いた声で呟いた。
    褒め称えるでもなく、蔑むでもない。ただ、対等に命を懸けて戦った戦士への、彼なりの最低限の敬意だった。
    ゼノは放り出していた釣竿を拾い上げると、それを虚空へと消させた。
    そして、傷ついた身体を紺色のコートの下に隠し、マフラーを深く巻き直す。

    東の空が、ほんの少しだけ紫色に染まり始めていた。夜明けだ。

    「機は、去った」

    背を向け、歩き出す。
    男の足音だけが、誰もいない廃村の静寂に、静かな残響となっていつまでも響き渡っていた。

  • 436◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:26:59

    以上

    ギザ歯っていいですよね

  • 437◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 10:28:04

    18:00から6名募集

  • 438二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 18:00:00

    名前:鴻上越哉
    年齢:17
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:
    困っている人を放って置けない気質であり、カラッとした性格の笑顔が爽やかなイケメン。(cv花江夏樹)
    少女を交通事故から助けるために死亡して転生したが、転生先の異世界でも信念を貫き人助けを続けている筋金入り。
    自分の信念を曲げない範囲であれば意外と小狡く、目的のために使えるものは何でも使う主義。
    人助けに欠かせない実力を鍛えるため転生者の師匠の元で3年間修行し、転生者特典の使い方と剣技をマスターした。
    セリフ例:
    「鴻上越哉だ、よろしくな」
    「俺は欲深いだけだよ。人を助けたいって自分の願いに底なしに貪欲なだけさ。」
    能力:転生特典-≪創剣≫
    能力概要:生物に触れることで手の刻印が輝き、その生物の意志を具現化した【剣】を創り取り出すことができる。
    【剣】の特殊性や強さは元となった生物の意志の強さに対して指数関数的に比例し上昇する。
    基本は自身の強い意志を【剣】にして3年間の修行で鍛え上げた剣術で戦う。使えるものは何でも使う主義なので相手の思惑を逆手に取るといった柔軟な戦い方もできる。
    弱点:戦闘中に1つの生物から取り出せる【剣】は1本までであり、破壊されても補充はできない。
    自身から創り出した【剣】が破壊されると心身共にダメージのフィードバックを受ける。

  • 439二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 18:00:00

    名前:未来 式
    年齢:25
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:若くして裏社会でマフィアのボスをやっている。元々はスラム生まれの捨て子だったが幻影の能力と自分自身の異様に高い身体能力を活かした殺人術、跳弾や精密射撃が出来る程の天才的な射撃の腕でマフィアのボスにまで成り上がった。未来を撮影するカメラは殺したマフィアから拝借したもので未来を確定するカメラの能力と自分の幻影を使うことで相手にだけ不都合な未来を押し付け、自分だけは有利な未来を利用することが出来るので愛用している。
    能力:未来撮影、幻影
    能力概要:
    未来撮影:写真を撮ることで設定された場所の未来の光景を撮影できるポラロイドカメラ。撮影された写真に写る光景は未来で起こる出来事であり例え写真の光景を避けるように行動したり過去や未来を改変などありとあらゆる事をしても未来の出来事は避けることは出来ない確定したものになる。未来を無理矢理避けようとしても写真の光景は未来で確実に起こる事なので必ず写真の光景が現実になる。良い未来が出たらそれを悪化させることも出来ないため例えば自分が無傷な未来が出たら誰にも傷を付けることが出来ない無敵になれる。写真の光景が現実に再現されたらどこからともなくシャッター音が響く。撮った写真は自分だけが確認してすぐに燃やして敵に確定した未来を避けるための情報を与えないようにしている。写真の光景は背景も含めるので写真を確認しないと未来の回避は不可能に近い。写真の情報を正確に把握する為に腕時計を複数持ちカメラの画角に収まるように腕時計を置き、ついでに瞬間記憶能力を身に付けた。写真の光景に合っていれば良いので遠隔で腕時計の時間をズラす事である程度撮影した未来の実現を調整できる。カメラはどんな攻撃や干渉を受けても傷一つつかないし、無くしたり盗られても持ち主の場所に戻る性質がある。
    幻影:現実に幻影を作り出すことが出来る。自分自身の幻影を作ったり周囲の光景を別の物に変えたり作り出せる幻影に制限は無いが幻影なので攻撃とかは出来ない。戦闘中に使用して相手の認識を惑わせてその隙に攻撃する。幻影を使用して背景も含めて写真の光景を作ることで自分にとって不都合な未来を避けることが出来る。
    弱点:未来撮影で何が撮影されるかは撮るまでわからない。
    肉体の強度は一般人

  • 440二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 18:00:00

    名前:墓暴き・レトニア
    年齢:不明
    性別:女
    種族:人間
    本人概要:電脳都市「クオン・グリッド」のハッカー。ナチュラルに倫理観がズレてるタイプであり、ファイアーウォールが機能しなくなった死体の脳を掌握しゴーストや屍人形を作り出す死霊術師 機械と人間の違いなど大した物では無いのだ
    トレーラーの免許を持っているので黒塗りのカスタム装甲トレーラーで死体やサイバネを運ぶらしいよ
    能力:ゴースト 屍人形
    能力概要:
    ゴースト:死体の脳から抽出したデータを調律しデーモンとして利用する能力。構築されたゴーストは物理的戦闘能力は持たないが侵食能力を持ち、神経や回路に損傷を与える
    屍人形:死体に制御プログラムを流し込んで操作する能力。銃や強化アクチュエータを装備した程度の一般屍人形どもは動きも単調であり大した事無いが複数の死体と脳を組み合わせることで人間性コストの上限を無視したサイバネの搭載を可能とした重屍人形は耐久力も高く厄介
    弱点:保有サイバネは電子戦能力を追求したカスタム品であり、本体の戦闘能力は低い

  • 441二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 18:00:00

    名前:琵琶喰蠢蠢(びわばみしゅんしゅん)
    年齢:37歳
    性別:男性
    種族:人間
    本人概要:暗殺技巧”百足”を習得しているベテランの暗殺者
    身長210センチ、体重75キログラムの体型はまさに異形。
    背骨の個数は只人の2倍であり、長大な脚と腕は胴の2倍以上の長さを持つ
    その異常な体型のせいで一般人としての生活は困難、そのため普段は一族の隠れ里で田畑を耕し自給自足の生活を営んでいる
    性格は温厚篤実、一族内でも優秀な教師として子どもたちから慕われている
    しかし仕事では極めて冷徹かつ獰猛な毒蟲としてターゲットを惨殺する
    能力:暗殺技巧”百足”
    能力概要:琵琶喰一族が習得している象形拳の一つ、百足を模倣した暗殺技
    人体では実現不可能な百足の柔軟な動きを人体改造と品種改良を用いることで達成した
    顎、手の指、肘、膝、足の指の計25の接地点を巧みに操ることで、異常な低姿勢からの縦横無尽の機動力を実現する
    彼にとって、指を引っ掛けられる僅かな凸凹さえあれば、壁や天井さえ足場に変わる
    口に加えた苦無を百足の大顎としてターゲットを無惨に屠る
    弱点:百足と同じく後退することはできない
    また、額に古傷がありそこが蠢蠢の弱点
    要望(任意):ござる口調でお願いします

  • 442二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 18:00:02

    名前:ポプラ・シェル・シーデス
    年齢:16
    性別:女
    種族:人間
    本人概要:純白の白い髪が特徴の人形遣いの少女。
    生命の亡骸を用いて人形を作る一族の出身。
    だが、本人は、そんな自分自身と一族を「人でなし」「醜い罪人」と汚らわしく思っている。
    かつて死の淵にあった自分を救ってくれた『天使様』の姿を心から美しいものと感じ、再びその人と巡り合うために流浪の旅を続けている。
    能力:蒼天人形クリオネ=ラ
    能力概要:ポプラが使用する仮面と蒼のドレスを身に纏う美しい女性型マリオネット。
    高い機動性と柔軟性、推力を誇り、身の丈を超えたハルバードを軽々と振り回して戦う。
    ……が、それはあくまでクリオネ=ラの表の姿。
    クリオネ=ラの内側は「屍蓋機構(クルミナル・スペース)」と呼ばれる数多の罪人の屍肉によって造られた捕食型触手機構が備わっている。
    蒼白く輝く、その触手の檻に包まれたが最後、身動きのとれないまま、喰らい、溶かされ、強制的に戦闘能力を奪われるだろう。
    また、全身の屍蓋機構を全て露出させた捕食形態時には頭部が首から真っ二つに折れ曲がり、そこから新たな禍々しい頭部と口が姿を現す。
    その姿はまるで流氷に揺蕩う悪魔(クリオネ)のごとく。
    ……だが、ポプラはそれでも彼女を繰る。たとえ、どんなに醜い悪魔の様な姿であったとしても。
    この自分によく似た罪塗れの彼女を、あの日の美しい天使様の様に、誰かを救う光(ちから)にしてあげられたら、とーー
    弱点:屍蓋機構に捕縛されてから消化、融解されるまでは時間がかかる。自然物ではなく無機物ならもっとかかる。
    屍蓋機構の触手の中心部は輝くコアがあり、これを破壊されると、大幅な機能低下を招く。(なお捕食孔のすぐ真下に有る為、捕食時には必ずここを晒さなければならない。
    頭部のコアを破壊すると機能停止に追い込まれる。
    要望(任意):一人称は「私」でお願いします。

  • 443二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 18:00:15

    名前:骸
    年齢:25
    性別:男性
    種族:人間(魔術士)
    本人概要:物心ついた時から1人で生きて来た生粋の一匹狼。幼少の頃から魔術を使って色々な事をし生きて来た。善人でも悪人でもないあらゆる事に中立、或いは無関心的な人物。
    その生い立ち故に寡黙であり、必要以上に人と会話する事はない。
    現在は傭兵として活動しており、暗殺・警護・警備・誘拐など大抵なんでも熟す経験豊富なベテラン魔術士。
    冷徹な性格だが「赤子・子供を害するのは良くない」ぐらいの倫理観は一応ある。

    能力:固有魔術「人体複製」
    能力概要:自分の肉体を複製し、操る魔術。複製して生み出された肉体は魔力により強化されている。
    ただし複製する肉体の体積が大きい程その性能は下がってしまう。全身を丸々複製した場合はほぼ動かない肉人形になる。なので基本的には体の一部のみを複製して操る。
    例↓
    拳を複製して飛ばし、打撃・絞め技・関節技。
    背中から腕を2本複製し、一時的に四本腕となる。
    眼を複製して飛ばし、ドローンのように周囲を探索する。
    口を複製し、話し掛けて敵の意識を逸らす。噛み付く。
    背骨を複製し、武器にする。
    血管を複製して飛ばし、敵を縛ったり手繰り寄せたりする。周囲の建物等には飛ばしてワイヤーアクションのような素早い移動も可能。
    血を複製し、敵の顔に飛ばして目潰し。床に撒いて敵を転倒させる。
    歯を複製し、弾丸のように飛ばす。
    弱点:魔術は体内の魔力を消費して発動させるが、人体に流れる魔力は有限であり何十回も連発できるものでは無い。また高威力な攻撃手段がなく、決定打に欠ける。

  • 444◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 20:04:39

    全採用

    用事があって遅くなってしまい吸いません

  • 445◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 21:57:35

    ポプラ・シェル・シーデスvs未来 式
    鴻上越哉vs骸
    琵琶喰蠢蠢vsポプラ・シェル・シーデス

  • 446二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 22:00:39

    >>445

    ポプラシェルが2人!?!?

  • 447二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 22:04:55

    >>446

    どっちかは墓暴き・マレニアだろうな

  • 448二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 22:06:27

    このレスは削除されています

  • 449二次元好きの匿名さん26/06/24(水) 22:36:53

    レトニアです…

  • 450◆ZEeB1LlpgE26/06/24(水) 22:45:59

    >>449

    もう私の脳みそは腐っているのかもしれません

    な、なるべくいいものにするのでご容赦を


    ポプラ・シェル・シーデスvs未来 式


    鴻上越哉vs骸


    琵琶喰蠢蠢vs墓暴き・レトニア

  • 451二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 01:23:26

    そういえばすでに一度ここに出したキャラを再度投下する
    ないし再設定して投げるのはありでしたっけ?

  • 452二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 01:42:42

    >>451

    あんまりよくはないんじゃないか?

  • 453二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 07:25:41

    おっほ

  • 454◆ZEeB1LlpgE26/06/25(木) 07:39:47

    >>451

    あなたのキャラなら

  • 455二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 15:42:22

    ほしゅ

  • 456ZEeB1LlpgEの代理26/06/25(木) 20:13:02
  • 457ZEeB1LlpgEの代理26/06/25(木) 20:13:35
  • 458二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 20:16:55

    このレスは削除されています

  • 459ZEeB1LlpgEの代理26/06/25(木) 20:19:55
  • 460ZEeB1LlpgEの代理26/06/25(木) 20:20:50

    22:30から6名募集

  • 461二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 20:31:58

    代理投下乙だ

  • 462二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 20:42:33

    投下ありがとうございます
    うーん勝ちきれなんだ
    レトニアの人対戦ありがとうございました

  • 463二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 21:27:58

    対ありでした。
    押され気味から屍蓋機構発動した時は「いったか⁉」と思ったが気持ちいいくらい鮮やかに破られたし最後はよく動いてくれた
    スレ主もありがとうね

  • 464二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 22:30:00

    名前:チャンピオン・リングランド&セコンド・コラクス
    年齢:リングランド ?、コラクス 15
    性別:リングランド 男、コラクス 女
    種族:リングランド アンデット、コラクス 人間
    本人概要:商人悪魔である君主アルゲートが経営する企業メノウ商会の社員。商会内での階級はゴールドであり、取立部門所属のコンビ。
    巨躯のアンデット、ノッカー・リングランドはかつて裏社会の地下闘技場最強のチャンピオンだったが、活躍を妬んだ同業者に毒殺された。そんな彼を蘇生させたのが、死霊術師コラクスだった。血湧き肉躍る戦いを愛したが、戦いで死ぬ事が出来なかったのが無念だった。再び戦いの舞台に立たせてくれた事をコラクスに感謝している。
    小柄な少女、アンリ・コラクスは死霊術の名門の出身でその将来を嘱望されていた。しかし名門の重圧に嫌気が差した彼女は家を潰し、メノウ商会へ出奔した。血湧き肉躍る熱戦が大好きで、昔からリングランドの大ファンだった。彼の毒殺を認められず、墓を暴き復活させた。彼の最期は戦いであるべきだ。そんな彼の戦いを特等席で望めるセコンドという立場は彼女にとって望外の喜びだった。
    彼らの取立は興行としても人気が高く、販売部門が観戦チケットやグッズ販売での儲けを狙っている。
    能力:3ラウンド、死霊術、対価集斂
    能力概要:
    ・3ラウンド リングランドは戦いを3つのラウンドで数える。ラウンドが進むごとに、限界を超え戦意と戦闘力が高まる。3ラウンド終了を以て必ず戦いに決着をつける。最終ラウンドでのみ、必殺技を使える。
    ・死霊術 コラクスのセコンドとしての役割。様々な助言や声援を死霊術に乗せて飛ばし、リングランドが応える事でその力を強化する。
    ・対価集斂 アルゲートから与えられた強制徴収能力。ラウンドで勝利した際、相手の性質のいずれかを引き剥がし徴収する。
    弱点:コラクスが倒れるとリングランドも消える。
    ・二人が心から満足の決着を迎えた場合、死霊術が解けてリングランドは消える。しかし彼は死闘を愛しているため、面白い戦いがあるなら多分また呼べると思う。
    要望(任意):コラクスが狙われるとリングランドがガードに入る。

  • 465二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 22:30:00

    名前:テマキラゴン
    年齢:不明
    性別:無し
    種族:バイオ生物
    本人概要:
    とある大企業による究極の生物を作るバイオ実験。その最中にうっかり手巻き寿司が混入してしまったことで誕生した超生物。
    その名の通り、手巻き寿司のようにも龍のようにも見える姿形をしている。手巻き寿司のドラゴン、ゆえにテマキラゴン。
    バイオ生物の本能として、そして手巻き寿司の本能として、『生物としても寿司としても究極の存在』、言い換えるなら、『捕食者の究極でありながら被食物の究極でもある』というテーゼとアンチテーゼの矛盾をより高次へと昇華(アウフヘーベン)した存在、即ちウロボロス__いや、手巻き寿司のウロボロス『テマキボロス』へと至ることを自己の存在意義であり至上命題としている。
    バイオ実験による自己進化能力に加え、手巻き寿司に由来する高い生命力と強力な抗酸化作用を合わせもっている。
    能力:バイオテマキ
    能力概要:
    周囲の物質を自らの具材として取り込む能力。
    手巻き寿司がその具材によって味を獲得するように、テマキラゴンもまた、具材を取り込むことで新たな能力を獲得する。
    ただ取り込むだけではなく、複数の具材が組み合わさる相乗効果により、単純な計算では説明できない強さと味わい深さを生み出す。
    弱点:
    ・テマキラゴンの能力は具材の能力をそのままコピーする能力ではなく、具材同士の組み合わせによりそれぞれの良さを活かしつつ新たな味を作り出す能力である。そのため、具材の能力をそのまま得ることはできない。また、新たな具材を取り込むたびに獲得能力もまた変化する。いわゆる味変である。

  • 466二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 22:30:00

    名前:アール・スター
    種族:呪人
    年齢:500
    本人概要:致命流剣術を使う剣士。致命流剣術は自身の致命傷を避けながら相手を一撃で仕留める事を目的とした剣術である。
    アールの正体は呪人であり怪我を受けてもすぐに治る。人間にとっての致命傷ではダメージにもならず致命傷を受けながら相手をカウンターで斬り殺すアールにしか出来ない奥義を持っている。アールは演技が上手くどんな達人もアールを人間と勘違いし自分より少しだけ弱い相手だと認識してしまうように演技している。多少再生能力がバレても弱ったフリや追い詰められたフリなどして相手に限界や弱点を勘違いさせてきたりする。
    能力概要:
    ・呪われた体
    非常に高い再生能力を持っており切断されたりバラバラになっても再生する。再生は任意で発動でき完全に呪人だとバレない限りは使用せずに相手に人間だと思わせるようにしている。
    切り離された肉体は自分の意思で動かす事が出来るのでいざという時の不意討ちや呪人流剣術に使用する
    肉体は呪いが憑いてるので怪我をすると呪いを出して相手の判断能力や体調を少しずつバレないように下げて致命的な隙を作る
    ・致命剣
    呪われた日本刀で使用すると魂を奪われるかわりに概念ごと山を吹き飛ばす程の斬撃を放つことが出来る。自分自身の魂を再生させながら削って魂を集め、自分の魂の代わりに使用しているので自滅で死ぬ事は無い。相手が高火力でないと倒せない場合に限り不意討ちで相手に確実に当てるように使用する。
    ・呪人流剣術
    非常に高い再生能力を活かした剣術。アールが呪人だと完全にバレた場合に使用する。切り離した体を使用して呪人にしか出来ない剣術を使用したり過去に集めた達人の魂を使用して達人の剣術を再現しながら非常に攻撃的な戦い方をする。致命流剣術も使用しており相手の攻撃は出来るだけ逸らしつつ再生能力でダメージを治しながら全部の力を使って殺しにかかる。
    ・再生核
    再生する為の触媒で体内に2つ存在する。一つは胸部に露出した状態で埋め込まれておりかなり硬い。もう一つは小さく体内を自由に動き回ることが出来る。核を胸部のもの一つだと勘違いさせて油断させる。片方が破壊されると核の再生に5分かかる。
    弱点:核を2つ共破壊されると再生出来なくなる。

  • 467二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 22:30:00

    名前:モルトゥス
    年齢:◼️◼️(掠れていて読めない)
    性別:男性
    種族:死人
    本人概要:肉体が死に、魔物になってしまったが記憶を使う能力によって自我は保てている人物。
    武器を生成する能力と組み合わせる事で、記憶にある現象・概念を武器の能力として付与できる。
    死ぬ前は、魔物や魔族が襲ってくる最前線にて村や街、国を守る為に防衛に参加していた。
    その理由は、幼き頃に住んでいる村に魔族による襲撃に合い、母や父、生まれたばかりの弟や大切な幼馴染を殺された。
    その惨状を見て、モルトゥスはもうこんな場面を起こさせないと奮起し、力を得ようと努力を始めた。
    努力を始めて50年。
    魔族が魔物を使役した大侵略を始めて村に住む人達が村を捨てなければいけなくなった時に、村の人達が安全に逃げられる為に殿に出た。
    殿を務めた結果、多大なる時間を防衛し、3桁後半の魔族や魔物を仕留めて死を迎えた。
    …かと思ったが、死ぬ間際にまた幼き頃の惨状が起きるかもと考え、魔族達を滅ぼすまで死.ねないと思った結果、記憶を使う能力《メモリア》が発動し、死後も自我を保てる事が出来る死人になった。
    死人になった後は、魔族の集落や魔族が襲撃をしようとしている村等に向かって、魔族や魔物を滅ぼす動きを何十年もしている
    能力:《メモリア》+《アルマ》
    能力概要:《メモリア》は記憶を使う能力
    相手の記憶をその場で再生したり、大地の記憶を再生したり出来る
    《アルマ》は武器を生成出来る能力
    その場で剣や槍、鎌や盾等の武器を作れる。
    《メモリア》と《アルマ》を併用すれば、記憶にある現象・概念の性質を内包した具現化出来る武器を作れる
    弱点:死人の為、動きが鈍い
    《メモリア》を使うと、モルトゥスにもその記憶を見てしまう
    大地の記憶を再生するには、動きを止めて何秒か、じっとしていなければならない
    武器を作るには、少量でも元になる物が必要
    様々な力を内包した武器を作るには、時間がかかる

  • 468二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 22:30:00

    名前:クロノ=イコン
    年齢:5歳
    性別:なし(姿形は少女)
    種族:絵画
    本人概要:ある力ある存在が描いた自画像が人格と肉体を得た存在。絵の具の翼とキャンバスの右目を持つ色彩の少女。
    まだ5歳と経験が浅いため、性格は無邪気そのもの
    絵を描くことと旅をすることを無二の楽しみにしている
    親が膨大な魔力(オド)と自我(エゴ)を込めた末に誕生したため、彼女の内包する魔力は膨大
    生成魔力量は一日で東京1ヶ月分の電力を賄えるほど。戦いでは膨大な魔力に任せた魔術と頑強な肉体による怪力を主にして戦う
    能力:自我造形(デカルコマニー)
    能力概要:彼女そのものが能力。
    色彩を操る能力であり、さながらカメレオンのように自身の色を風景にカモフラージュする
    あるいは物体の色を変えることで性質(寒色系なら凍結、暖色系なら発熱)を変えることができる
    魔術にこの色彩変化を行うことで冷凍ビームや火炎放射などができるようになる
    弱点:人格や肉体を持とうとも、結局は絵なので水や火に弱い
    要望(任意):無邪気なお嬢様、好き嫌いの多い子どものようなセリフをお願いします。

  • 470二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 22:30:05

    名前:数言火八(かずこと ひばち)
    年齢:24歳
    性別:男
    種族:人間
    本人概要:数と言葉を重んじる異能の名家にして貴族「数言家」の男
    数言家の中でも地位の高い数を担当する者達「数主」の一員であり、8の担当
    容姿は赤い髪に黒い目、全身に過去の戦いによる切り傷がある
    昔 、曲がったものが許せない性格と正義感ゆえ、何度も争いと問題を起こしていたが今は落ち着きを持つようになった。
    それはそうとして性格は変わっていないので問題は起こす。
    能力:八重桜
    能力概要:八つの紅の剣「紅桜」を自由自在に操る能力
    紅桜には1から8までの数字が割り振られており、数字が小さくなるほど強くなる。また、心が昂った時に限り「0」の紅桜を召喚することが可能
    弱点:全身に古傷があり耐久力に難がある。不殺主義

  • 471二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 22:30:15

    名前:アルミラ・フォン・ディセンバー
    年齢:33
    性別:女性
    種族:人間
    本人概要:
    遍く魔導書が秘蔵されし大書庫『リブリア・オブスキュラ』の司書長。知的な眼鏡がよく似合う長身イケ女なクールビューティー。
    司書として書架の記録速度や整理能力がズバ抜けているのはもちろんのこと、読み手に害を為す文献の検閲まで完璧にこなす秀才。
    職務の際には小さな赤い宝石があしらわれた万年筆を愛用している。
    能力:《ライブラ》
    能力概要:本を召喚する魔法。召喚された本には相手の特徴(性格・戦闘スタイル・固有魔法・弱点など)が記載されているが、そのままでは誤記や落丁があるため召喚者自らが修正しなければならない。
    弱点:攻撃力や耐久力が低い
     

  • 472二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 22:31:05

    このレスは削除されています

  • 473スレ主代理26/06/25(木) 22:41:50

    >>464

    コラクスの戦闘力次第

    >>465

    弱点ではない

  • 474二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 23:10:27

    >>473 >>465

    これなら大丈夫ですか?


    名前:テマキラゴン

    年齢:不明

    性別:無し

    種族:バイオ生物

    本人概要:

    とある大企業による究極の生物を作るバイオ実験。その最中にうっかり手巻き寿司が混入してしまったことで誕生した超生物。

    その名の通り、手巻き寿司のようにも龍のようにも見える姿形をしている。手巻き寿司のドラゴン、ゆえにテマキラゴン。

    バイオ生物の本能として、そして手巻き寿司の本能として、『生物としても寿司としても究極の存在』、言い換えるなら、『捕食者の究極でありながら被食物の究極でもある』というテーゼとアンチテーゼの矛盾をより高次へと昇華(アウフヘーベン)した存在、即ちウロボロス__いや、手巻き寿司のウロボロス『テマキボロス』へと至ることを自己の存在意義であり至上命題としている。

    バイオ実験の産物である自己進化能力に加え、手巻き寿司に由来する高い生命力と強力な抗酸化作用を合わせもっている。

    能力:バイオテマキ

    能力概要:

    周囲の物質を自らの具材として取り込むことによる自己進化能力。

    手巻き寿司がその具材によって味を獲得するように、テマキラゴンもまた、具材を取り込むことで新たな能力を獲得する。

    ただ取り込むだけではなく、複数の具材が組み合わさる相乗効果により、単純な計算では説明できない強さと味わい深さを生み出す。

    弱点:

    ・手巻き寿司が、複数の具材を調和させることで新たな1つの味を生み出すように、テマキラゴンがバイオテマキ能力により獲得する能力もまた、その具材の数に依らず常に1つ。

    ・テマキラゴンの能力は具材の能力をそのままコピーする能力ではなく、具材同士の組み合わせによりそれぞれの良さを活かしつつ新たな味を作り出す能力である。そのため、具材の能力をそのまま得ることはできない。また、新たな具材を取り込むたびに獲得能力もまた変化する。いわゆる味変である。

    ・べちゃべちゃした寿司やパサパサした寿司は美味しく感じないように、水分過多あるいは極度の乾燥は寿司にとって死活問題であり、そのような状況下ではテマキラゴンの性能もまた低下する。

  • 475二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 23:22:28

    このレスは削除されています

  • 476二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 23:23:09

    このレスは削除されています

  • 477二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 23:23:13

    このレスは削除されています

  • 478二次元好きの匿名さん26/06/25(木) 23:25:29

    >>468

    要望欄に

    「技名には芸術用語(アヴァンギャルド、黄金比、キュビズム、ジャポニズム、退廃芸術など)を入れること」

    「セリフにも芸術の関連用語を混ぜること」

    を加えてもよろしいでしょうか

  • 479代理26/06/25(木) 23:26:11

    名前:チャンピオン・リングランド&セコンド・コラクス
    年齢:リングランド ?、コラクス 15
    性別:リングランド 男、コラクス 女
    種族:リングランド アンデット、コラクス 人間
    本人概要:商人悪魔である君主アルゲートが経営する企業メノウ商会の社員。商会内での階級はゴールドであり、取立部門所属のコンビ。
    巨躯のアンデット、ノッカー・リングランドはかつて裏社会の地下闘技場最強のチャンピオンだったが、活躍を妬んだ同業者に毒殺された。そんな彼を蘇生させたのが、死霊術師コラクスだった。血湧き肉躍る戦いを愛したが、戦いで死ぬ事が出来なかったのが無念だった。再び戦いの舞台に立たせてくれた事をコラクスに感謝している。
    小柄な少女、アンリ・コラクスは死霊術の名門の出身でその将来を嘱望されていた。しかし名門の重圧に嫌気が差した彼女は家を潰し、メノウ商会へ出奔した。血湧き肉躍る熱戦が大好きで、昔からリングランドの大ファンだった。彼の毒殺を認められず、墓を暴き復活させた。彼の最期は戦いであるべきだ。そんな彼の戦いを特等席で望めるセコンドという立場は彼女にとって望外の喜びだった。
    彼らの取立は興行としても人気が高く、販売部門が観戦チケットやグッズ販売での儲けを狙っている。
    能力:3ラウンド、死霊術、対価集斂
    能力概要:
    ・3ラウンド リングランドは戦いを3つのラウンドで数える。ラウンドが進むごとに、限界を超え戦意と戦闘力が高まる。3ラウンド終了を以て必ず戦いに決着をつける。最終ラウンドでのみ、必殺技を使える。
    ・死霊術 コラクスのセコンドとしての役割。様々な助言や声援を死霊術に乗せて飛ばし、リングランドが応える事でその力を強化する。
    ・対価集斂 アルゲートから与えられた強制徴収能力。ラウンドで勝利した際、相手の性質のいずれかを引き剥がし徴収する。
    弱点:コラクスが倒れるとリングランドも消える。コラクスは魔術型のため年相応よりも低耐久、低体力
    ・二人が心から満足の決着を迎えた場合、死霊術が解けてリングランドは消える。しかし面白い戦いがあるなら多分また呼べると思う。
    要望(任意):コラクスが狙われるとリングランドがガードに入る

  • 480スレ主代理26/06/26(金) 00:18:26

    >>478

    許可します


    チャンピオン・リングランド&セコンド・コラクスvsテマキラゴン

    アール・スターvsクロノ=イコン

    モルトゥスvsアルミラ・フォン・ディセンバー

  • 481二次元好きの匿名さん26/06/26(金) 00:35:37

    統合版です、確認をお願いします

    名前:クロノ=イコン

    年齢:5歳

    性別:なし(姿形は少女)

    種族:絵画

    本人概要:ある力ある存在が描いた自画像が人格と肉体を得た存在。絵の具の翼とキャンバスの右目を持つ色彩の少女。

    まだ5歳と経験が浅いため、性格は無邪気そのもの

    絵を描くことと旅をすることを無二の楽しみにしている

    親が膨大な魔力(オド)と自我(エゴ)を込めた末に誕生したため、彼女の内包する魔力は膨大

    生成魔力量は一日で東京1ヶ月分の電力を賄えるほど。戦いでは膨大な魔力に任せた魔術と頑強な肉体による怪力を主にして戦う

    能力:自我造形(デカルコマニー)

    能力概要:彼女そのものが能力。

    色彩を操る能力であり、さながらカメレオンのように自身の色を風景にカモフラージュする

    あるいは物体の色を変えることで性質(寒色系なら凍結、暖色系なら発熱)を変えることができる

    魔術にこの色彩変化を行うことで冷凍ビームや火炎放射などができるようになる

    弱点:人格や肉体を持とうとも、結局は絵なので水や火に弱い

    要望(任意):無邪気なお嬢様、好き嫌いの多い子どものようなセリフをお願いします。

    技名には芸術用語(アヴァンギャルド、黄金比、キュビズム、ジャポニズム、退廃芸術など)を入れること

    セリフにも芸術の関連用語を混ぜること

    >>468

    >>480

  • 482二次元好きの匿名さん26/06/26(金) 07:13:23

    一応保守

  • 483スレ主代理26/06/26(金) 13:15:39

    対戦表修正

    チャンピオン・リングランド&セコンド・コラクスvsテマキラゴン
    アール・スターvsクロノ=イコン
    モルトゥスvs数言火八

  • 484二次元好きの匿名さん26/06/26(金) 13:16:08

    このレスは削除されています

  • 485二次元好きの匿名さん26/06/26(金) 20:17:47

    たーのーしーみー

  • 486二次元好きの匿名さん26/06/26(金) 23:57:47

    わくわく

  • 487二次元好きの匿名さん26/06/27(土) 00:42:22

    うんちっち

  • 488スレ主代理26/06/27(土) 01:22:31
  • 489スレ主代理26/06/27(土) 01:22:48
  • 490スレ主代理26/06/27(土) 01:23:09
スレッドは6/27 11:23頃に落ちます

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