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知床沖観光船事故めぐり判決 運航会社社長に禁錮5年 釧路地裁

(更新)

4年前、北海道の知床半島沖で観光船が沈没して乗客と乗員あわせて20人が死亡し、6人が行方不明になっている事故で、業務上過失致死の罪に問われた運航会社社長の62歳の被告に釧路地方裁判所は、禁錮5年の判決を言い渡しました。

2022年4月、知床半島の沖合で観光船「KAZU 1」が沈没して乗客と乗員あわせて20人が死亡し、6人が行方不明になっている事故で、船を運航していた「知床遊覧船」の社長、桂田精一被告(62)が安全や運航の管理者として事故を未然に防ぐ義務を怠り、船を沈没させたとして、業務上過失致死の罪に問われました。

裁判は事故を予測できたかどうかの「予見可能性の有無」が争点となり、弁護側は「事故の原因は甲板のハッチから海水が入ったことだ。ハッチのふたは機能不全となっていて、社長は事前に知らされていなかった」として無罪を主張していました。

17日の判決で釧路地方裁判所の水越壮夫裁判長は、ハッチのふたの機能不全が事故に関係したことは否定できないとした一方で、「ふたが開いたのは通常を超える強風や高波の中で航行したからこそだ」と指摘しました。

そのうえで「港を出る時点で予想されていた風の強さや波の高さは、会社の運航基準を明らかに超えるもので、社長はそれらを認識し、事故を予見できたと言える」として、予見可能性が認められるという判断を示しました。

また、刑の重さの理由については「社長の過失は、運航の判断を誤ったという単発的、偶発的なものにとどまらず、安全を軽視する平素からの態度が形となって表れたもので、非難の程度は大きい」と指摘しました。

さらに、「結果はこの上なく重大で、身を切るような冷たい海の中に投げ出され、呼吸もできず波にのまれていくときの痛みや苦しみなど、被害者が負ったであろう苦痛の大きさは想像を絶する。残された家族の悲痛な思いも筆舌に尽くしがたい」と述べました。

そのうえで、「反省や謝罪の弁を述べるが、自己の責任の重さを真摯に受け止めているようには見受けられず、表面的との評価を免れない。所定刑期の上限にあたる刑をもって臨むほかない」として、求刑どおり禁錮5年を言い渡しました。

判決のあと、桂田社長は釧路刑務支所に勾留され、弁護士は判決を不服として控訴するとともに保釈を請求したということです。

この事故をめぐっては、乗客の家族などが「知床遊覧船」と、桂田社長に対し、およそ15億円の損害賠償を求める裁判が札幌地方裁判所で行われています。

判決言い渡しの際の廷内は

桂田社長は法廷に入ると、被害者の家族に向かって一礼しました。

判決の言い渡しの際は前を向いて聞いていました。

傍聴席などにいた被害者の家族からは安どしたような声が上がったほか、涙を流している人もいました。

桂田社長は退廷する際も傍聴席などにいる被害者の家族に向かって一礼していました。

桂田社長「これからも謝罪と償いを続けていく所存です」

桂田社長が乗った車は午前9時半前に、釧路地方裁判所に到着しました。桂田社長は、黒っぽいスーツ姿で、マスクをつけていて、裁判所の入り口で立ち止まると、深く一礼して中に入っていきました。

その後、判決を受けて桂田社長は「当社運航船舶の事故により、多くの乗客の方、船員が亡くなられたこと、また依然として行方不明の方々もおられることについては、これからも謝罪と償いを続けていく所存です。判決については、弁護人と協議のうえで、今後の対応を検討するしだいです」というコメントを出しました。

被害者の家族は

裁判のあと、被害者参加制度を使って法廷で桂田社長に質問などをした被害者の家族が取材に応じました。

事故のあと、いまも行方が分かっていない小柳宝大さん(当時34)の父親は、禁錮5年の判決について、「上限いっぱいの判決が出されたという安心感とともに、やはり5年では短すぎるなという両面を感じました」と話しました。

17日の桂田社長については「判決を言い渡されたときもやっぱり無表情でしたね。もう少し変化があるかなと思いましたが、残念な気持ちになりました」と話していました。

また、亡くなった鈴木智也さん(当時22)の北海道十勝地方に住む父親は裁判を振り返って、「桂田社長の態度については怒りしかありません。つらい思いや悲しい思いをぶつけてきましたが、何も心に響いておらず判決を聞いても微動だにせず、私たちには最後まで心に響くものがありませんでした」と述べました。

長男と元妻がいまも見つかっていない帯広市の男性は「控訴をしたとしてもこの判決は変わらず、無罪になるわけがないと思っています。社長は言い訳などをやめて罪を認めて責任をとってほしいです」と話していました。

また、判決のあと、被害者の家族の弁護団が会見し、この中では被害者の家族3人が取材に応じました。

このうち家族が行方不明の男性は「禁錮5年という法律の中での最大の刑が言い渡され、主文を聞いたときには、肩の重りが少しはおりましたが、いまだに家族は行方不明で帰ってきていない中で、言葉にできない気持ちがあふれてしまいます」と話していました。

釧路地検 次席検事「検察官の主張がおおむね認められた」

判決について、釧路地方検察庁の水野佑樹次席検事は「検察官の主張がおおむね認められたものと考えている」とコメントしています。


瀬口海上保安庁長官「さらなる救助救急体制の強化に取り組む」

判決について、海上保安庁の瀬口良夫長官は17日の定例会見で「コメントする立場にない」と述べた上で、「1人でも多く、1分1秒でも早く尊い人命を救助することができるよう、現在の体制に満足することなくさらなる救助救急体制の強化に取り組み、国民の安全安心の確保に万全を期していく」と述べました。

木原官房長官「旅客船の安全確保にしっかり取り組む」

木原官房長官は午前の記者会見で「政府として所感を述べることは差し控えるが、国土交通省において痛ましい事故が2度と起きないように、旅客船の総合的な安全・安心対策をとりまとめ、各種の取り組みを進めている。旅客船の安全確保に向けて、引き続き、政府としてしっかり取り組んでいきたい」と述べました。

≪裁判の争点≫

裁判は、2025年11月から12回にわたって審理が行われ、検察と弁護側の主張は、大きく異なりました。


【予見可能性の有無】
大きな争点は、事故を予測できたかどうかの「予見可能性の有無」でした。
弁護側は「甲板のハッチのふたの機能不全が事故の危険につながり、ふたが開いて海水が船内に流入した。桂田社長はふたの機能不全を誰からも知らされていなかった」と説明しました。そのうえで、「ふたの機能不全が起きていなければ今回の風や波の状況でも船は沈没することなく港に帰ってくることができた」として、事故を予見できなかったと主張しました。
一方、検察はふたが外れたハッチから海水が流入して沈没することを具体的に予見できなくても、予想される風や波で船に危険が生じ、乗客らが死傷するおそれが予見できれば足りるとして、予見可能性は認められると主張しました。そして、「ハッチのふたが開くほど船が揺れるような状況で航行したこと自体が問題だ」と述べました。


【出航の判断】
出航の判断について、弁護側は「社長が船長と会って協議をした。具体的な内容は協議自体が日常的に繰り返されていたため、一言一句を正確に記憶していないが午前中に港に帰ってくるという根幹部分は揺らいでいない」と主張しました。
これに対して検察は、船長は朝、事務所に出勤したあと港に移動し船で作業していたとして、町内の食堂にいた社長がその時間帯に船長と会うことは不可能だと述べました。


【気象などの事前確認】
当日、社長が気象や海の状況を確認したかどうかについて、検察は社長のスマートフォンやタブレット端末、ノートパソコンを解析した結果、網羅的ではないものの、事故当日やそれ以前の数日間はアプリの起動歴も天気予報サイトの閲覧履歴も抽出されなかったと説明しました。
これに対して、弁護側は複数の予報を情報収集していたとしたうえで、捜査報告書にタブレット端末の履歴を再現できなかったと書かれていたことなどを挙げ証明力を認めることはできないと主張しました。
社長本人も法廷で「気象サイトを毎日見て、波の高さや風向きなどを調べていた」と述べたほか、事故当日について「予報を確認したところ、午前は波の高さも風も会社の運航基準を超えていなかった」などと述べました。
一方、当日の気象などの状況について、証人として出廷した別の運航会社の担当者は「船を出す判断にならない」と証言し、運航会社の元従業員は、社長について「海や船のことはまったく分かっていなかった」などと述べました。


【責任の重さ】
刑事責任の重さについて検察は「事業主で、安全や運航を管理する立場に照らせば、船長と比べても重いと言わざるを得ない。法律の許す最大限の刑を科し、責任の重大さを理解させることが不可欠だ」と主張し、禁錮5年を求刑しました。
これに対して弁護側は「運航の判断の第1次的な責任はあくまで船長に課されている」としたうえで「社長や運航会社の責任は刑事の過失責任ではなく、社会的・道義的責任だ」として改めて無罪を主張しました。


【社長「責任強く感じる」】
最後の審理が行われたことし4月、社長は「経営者として事故を防げなかった責任を強く感じています。この事故を決して忘れず、今後の人生で向き合い続けていきたい」と述べました。

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