Dr.イワケンの「感染症のリアル」
医療・健康・介護のコラム
安心と無責任の日本医療 「念のため」で「やりすぎ」が多い感染対策 合理的に考えれば使わないほうがいいシューカバー
看護師のミスで患者転倒 部長医師「責任は私が取る」
55歳になりました。高齢者の悪い癖ですが、昔話をしようと思います。しかも二つも。
私が亀田総合病院で働いていたときのことです。もう20年以上前の話ですが、ある病棟で事故がありました。看護師のミスで患者が転倒してしまったのです。青ざめるナース、 戦慄 し、うろたえる現場。
そのとき、夏目隆史先生が皆を一喝しました。
「慌てるな。すぐに対応しよう。責任は全て私が取る」
私は当時、総合診療科と感染症科を掛け持ちで部長代理をしていました。その総合診療科部長だったのが夏目先生です。かっこいい。当時30代前半の若僧だった私は感動しました。
思えば、当時の亀田総合病院にはかっこいい 強者 が多々いました。やはり同時期、総合診療科部長だった西野洋先生もその一人です。西野先生は研修医の自主性に任せて、診療科の改善に積極的に取り組んでおいででした。そのときの決まり文句が
「どうぞやってください。責任は私が取ります」
でした。かっこいいでしょ。
「何かあったら誰が責任を…」と採血をしない看護師
昔話その2。別の病院に勤務し始めた私が外来で患者を診ていたとき。採血が必要になったので、後ろで立っていた看護師さんに「採血お願いします」と言いました。すると、その看護師は言いました。
「それは先生の仕事です」
「いや、私は今別の患者さんを診察しています。あなたはそこに立っているだけでしょ。採血してください」
「私が採血して、もし何かあったら誰が責任を取るんですか」
私は憤慨して、看護部長のところに文句を言いに行きました。若かったですね(笑)。その看護部長はしっかりした人だったので、「責任を取れないなら、ナースをやる資格はありません」とすぐに改善を約束してくれました。
そう、責任が取れないなら、プロの資格はないのです。
科学的、合理的対応ができないエボラ対応
話は現代に戻ります。コンゴ民主共和国(DRC)で新たなエボラウイルス感染症のアウトブレイクが起きています。本稿執筆時点で患者数は1000人を超え、何百人もの死亡者が発生しています。
As Ebola cases hit 1,000, almost 3 million children and adolescents face rising risks in eastern DR Congo – UNICEF. Available at:
https://www.unicef.org/press-releases/ebola-cases-hit-1000-almost-3-million-children-and-adolescents-face-rising-risks. Accessed 24 June 2026.
各指定医療機関はエボラの輸入事例対応のために準備に追われているところです。ところが、これがなかなか難しい。科学的、合理的対応ができないからです。
例えば、シューカバー。靴をカバーする覆いですが、基本的に微生物自身には飛翔能力はありません。床や足からウイルスが飛び上がって感染するリスクはまずまずありません。
新型コロナのときにも、防護具(PPE)にシューカバーをかましている医療機関について、私は反対意見を述べてきました。シューカバーは安全性を増し増しにしている「かのように」見えますが、実はさにあらず。あれって脱ぐときにけっこう面倒くさいので転倒リスクがあるのです。
また昔話になって恐縮ですが、昔の集中治療室(ICU)や手術室の入口には、ペタペタ粘着するマットがおいてありました。外から入るときに、靴底の病原体?を排除するためです。仮に靴底に微生物がいたとしても、靴裏から感染症は発生しないので「まったくの無駄」なのですが、「念のため主義」の非合理な人がそういう意味のない対策を考えついたのでしょう。私の感染症の師匠の一人、故・遠藤和郎先生はあれを「人間ホイホイ」と呼んでいました(笑)。遠藤先生も責任感のある、気骨あるドクターだったなあ。
メリット、デメリットを考えない医療現場
メリットがほとんどなく、デメリットがけっこうある。メリデメで考えるとシューカバーは使わないほうがよい、と当然なるのですが、医療現場はメリデメで考える思考習慣を持ちません。「もしなにかあったら、どうするんだ。誰が責任を取るんだ」という口調になり、防護服は増し増しになっていきます。増やせばよいというものではないのですが、医療の世界では「足し算」のロジックばかりが優先され、「引き算」のロジックが通用しないのです。
新型コロナのときの感染対策には妥当なものもありましたが、けっこう「やりすぎ」なものも多かったです。あれを後押ししたのは感染症の専門家ではなく、むしろ素人の医療者でした。「念のため」「万が一のために」「もし何かあったら、誰が責任取るんだ」という発想です。病院長など、組織のリーダーが、感染症の専門性がないのに責任取りたくないタイプだと最悪です。
対策は無尽蔵に増し増しになっていき、現場は疲弊し、患者の人権はないがしろにされ(過度な面会禁止など)、足し算に足し算が重ねられていきます。疲労した現場はもちろんミスやバーンアウトの温床にもなります。人権を無視した医療は、患者や市民の医療バッシングの原因となり、医療不信の原因となり、結局病院は損をするのです。
リーダーに必要なのは大局観を持ったメタ認知能力、そして責任感です。論理的に、科学的に、合理的に判断し、「私が責任を取る」と腹をくくる覚悟が必要なのです。亀田の夏目先生や西野先生のように。
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