全国最大の遊水地、洪水からまち守る 水田をぐるりと囲む巨大堤防

石橋英昭
【動画】岩手県に半世紀かけて整備し、7月に運用が始まる一関遊水地=2026年6月9日、岩手県一関市、朝日新聞社機から、浅野哲司撮影
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 岩手県南部で半世紀余りにわたって整備を進めてきた「一関遊水地」の運用が、7月から始まる。北上川沿いの水田地帯をぐるりと囲むように堤防を築き、川からあふれた水を一時的にためて、洪水から市街地を守る。一関市平泉町にまたがる計1450ヘクタールで、ふだん土地利用がされている遊水地では全国最大となる。

カスリン、アイオン台風で900人犠牲 半世紀の事業

 もともとここは、地形の特性から北上川が頻繁に氾濫(はんらん)する水害常襲地帯だった。特に1947、48年のカスリン、アイオン台風では、県内で約900人が犠牲に。この教訓から国が72年に着手し、総額2700億円の大事業となった。

 国土交通省岩手河川国道事務所によると、遊水地は三つに分かれ、高さ10メートル前後、下部の幅が70~90メートルもある長大な本堤(周囲堤)に囲まれる。北上川には高さ5メートル前後の小堤が築かれ、従来より水があふれにくくした。堤防の総延長は計45.7キロ。

 道路が本堤をくぐる陸閘(りっこう)や、遊水地と川の水の行き来を調節する水門も設置。堤防の用地にかかるなどして、約600戸が遊水地の外に移転した。

 10年に1度の規模以上の洪水になると、川から水があふれ、遊水地にたまる想定だ。住宅や商業施設が集まる一関市街地などに洪水が及ぶのを防ぎ、命と財産を守る。ためられる容量は1億3850万トン。150年に1度規模の大洪水にも耐えられるという。

 ふだんは耕作に使われ、土地を持つ約1900人が「地役権」の契約を国と結んでいる。住宅は建てられず、洪水時に農地が水をかぶる制約があり、補償金が支払われた。遊水地内は圃場(ほじょう)整備事業で田んぼの大区画化が進み、先進的な農業の実践地にもなっている。

世界遺産・平泉の遺跡も守る

 ちょうど真ん中を、東北新幹線が高架で突っ切っている。下り列車で一ノ関駅を出てすぐ、左右の車窓に遮るものなく広がっている水田地帯が、遊水地だ。ここが洪水時は湖のようになる。

 当初の計画では、平泉町内の堤防の一部が、奥州藤原氏の政庁跡とされる柳之御所遺跡などにかかっていた。発掘調査で重要性が認識され、堤防ルートを変更した経緯もある。

 支流の磐井川の堤防工事が一部残っており、最終的な完成の見通しは立っていないという。

「地役権」交渉まとめる 農地は大区画に

 遊水地内に農地を持つ須藤弥志正(やしまさ)さん(81)は、地権者会の会長として地域のとりまとめに汗をかいた。

 2歳で経験したカスリン台風のことを、覚えている。家は2階まで水につかり、屋根裏から船で脱出。壊れた家々が塊になって流されるのを見た。後で祖父母から、そこには助けを求める人もいたと聞かされた。

 遊水地計画が持ち上がった時、父親は初め反対の先頭に立った。国の説明を聞き、「一関のまちを守るためだ」と納得して賛成に転じ、地権者の代表になったという。弥志正さんも後に、その役を継いだ。

 「地役権とは何ぞや」から始まり、勉強会を何度も開いた。補償で不公平感が生じぬよう調整に奔走し、国土交通省との交渉が妥結したのは2020年12月。その後は個別の交渉に移った。

 遊水地の農地は大区画に整備された。「農家は後継者不足に悩む。どう活用してゆくかが課題だ」と話した。

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この記事を書いた人
石橋英昭
盛岡総局員
専門・関心分野
東日本大震災、在日外国人、戦争の記憶