ナンパ界隈の構造から生態まで(再掲)



 ここのところ、X(旧:Twitter)で「ナンパ界隈」なるものを観測する機会が増えた。bioに「即(=ナンパからセックスに派生した経験)」の数を自慢げに掲げ、所属しているナンパコミュニティのハッシュタグを羅列したり、非モテから成り上がる覚悟の一言を添えていたり……。
 その中でもごく一部のカリスマは、非モテからナンパで成り上がるまでの過程をnoteで「モテコンサル」のような情報商材として売り、大手のアカウントにもなるとものすごい額の収入を得ているようだ。

 彼らに共通しているのは、女性をモノとして見下しながらも女体にアクセスすることに執着しているという点だ。「女は〜」から始まる偏見まみれのポストをした次の瞬間には、「モテるためには〜」というポストをしている。
 ホモソーシャル的な競争社会においては、女性を従属させられる強いオスにほど権利が与えられ、非モテはまるでそこに存在しないかのように扱われる。それでも非モテはセックスを諦めたくない。動物としての純粋な性欲と、ホモソーシャルで負けてきたことのコンプレックスと、慢性的な空虚感を埋めてくれる女性が現れないことへの怨念。
 これが前提にあると思えば、「女嫌いの女体好き」と化してしまう心理構造には納得がいく。

 わたしは彼らの生態が不思議でしょうがなかった。それをポストするたびになぜかナンパ界隈の目に留まり、毎回おかしなレスバに持ち込まれる。しかし言い方は悪いが知的水準がかなりズレており(例えば「容姿の美醜はアホでも判断できるので容姿の話ばかりするやつはアホであることを自らアピールしているようなもの」というポストに「おまえみたいなブスがそれを言っても説得力ないw」というようなリプライがつくといった具合)、まったく対話にならない。
 これが非常にもどかしく、もしかしたらわたしのアプローチが間違っているのかもしれないと気づいた。敵を倒すためには敵を知るところから始めなければならない。

 というわけで、知人のツテでナンパ界隈で情報商材を売っている人物を紹介してもらい、彼にインタビューをしてきた。今回の記事はそのまとめのようなものである(文字起こしは後日公開)。

搾取する側/搾取される側

 ナンパ界隈の基本的な構造としては、カリスマ性のあるナンパ師(ナンパ界隈でもほんの上位数%だという)が運営するコミュニティがあり、複数人のナンパ初心者や非モテが集まっている。LINEグループもあり、そこでは講習会の案内や、カリスマナンパ師からの有料noteの宣伝、ナンパ報告や相談などの情報共有が行われている。このコミュニティに参加すれば、Xにおけるカリスマナンパ師アカウント/ナンパ初心者フォロワーという関係性よりもさらにプライベートなものに近づく。
 そこではさまざまなおもしろいイベントが行われており、「合流(=いっしょに路上に出てナンパをすること)」の企画や、ナンパを実践するときにLINE通話をつなぎ、カリスマナンパ師が耳元で発言を提案してくれるワイヤレス講習というサービスが提供されたりしている。後者のサービスは1回につき安くて2万円だそうだ。

 カリスマナンパ師は「即」をこなし、非モテからモテに成り上がった経験を持つ。初心者ナンパ師は彼らに憧れて、自分もこんな人のようになりたいと努力するようだ。たしかにこれはマッチョイズムの物語そのものだろう。弱者だって好きで弱者でいるわけではない。チャンスがあればいつだって強者になりたいものだ。ナンパ界隈で強者になることができれば、同時に女性を従属させることも叶う。ひとつの努力で二つも手に入れられるからには、やるしかない。

 しかし、強者側もメリットなしには成り上がる方法を教えたくない。誰もおのれの身を削ってまで他者を救おうだなんて思わないだろう。ここで受けられるメリットを金銭とし、ナンパをビジネス化したとんでもない天才がいて、現在のナンパ界隈に至る。
 これが非常に残酷な階級格差を生んでしまった。生存者バイアスを濃縮した情報商材を売って「搾取する側」と、必ずしも成功が約束されているわけでもない情報を買う「搾取される側」。
 そしてここでいちばん残酷なのは、「搾取する側」が必ずしも泥臭い下積み時代を乗り越えてきたというわけでもなく、いわゆる「地頭のよさ」という資本で効率的にナンパを上達させている者が多いというところだ。信者の数と「即」の数は比例する。
 実は、カリスマナンパ師の中にはそういう情報商材を買った経験がない者もいるという。つまり「搾取される側」を経ずに「搾取する側」に回っているという、初めから勝ち試合しかしてこなかったカリスマナンパ師が存在するというのだ。

 そして、各note記事についている「スキ」の数を見ると、やはり「セックスまでのノウハウ」がいちばん人気なようで、「沼らせ」「貢がせ」などの長期的な関係性へのアドバイスは圧倒的に人気がない。
 そして「セックスまでのノウハウ」ばかりに群がる初心者ナンパ師の致命的な点は、「即」の数を追い求めたところで人生にとって何にもならないことに気づかないところだ。目先の利益しか考えられない。同世代が結婚し子を育て、人生を次のステージに進めているにもかかわらず、「即」ばかりを競ってあっという間に30歳。50歳を過ぎてもナンパに励む者もいるという。
 このよくある流れに「未来がないな」と気づける「地頭のよさ」を持ったナンパ師が、「搾取する側」に回る。これに気づけないナンパ師は、「搾取される側」のまま歳だけを重ねていく。

「搾取される側」の逃げ癖

 意外なことに、情報商材に多額を突っ込む「搾取される側」の全員が路上に出ているともかぎらないそうだ。 彼らは「負けるのが怖い」という心理が人一倍に強い。弱者である自覚はなんとなく抱えていても、現実でそれを突きつけられてしまうと耐えられないのだ。自分を否定されることのリスクからの逃げ癖がある。だから、路上には出ずにノウハウだけを手に入れ、おのれの世界の中でのみ物知り博士でいてしまう。

 カリスマナンパ師はYouTubeにナンパ実況動画も載せているが、それを観て自分も実践しようとするのではなく、なんとなくゲームに勝った気分で気持ちよくなって、終わり。
 実際に路上に出るだけの度胸のあるナンパ師も、「合流」に逃げたがる。赤信号はみんなで渡れば怖くないからだろう。そこでナンパ師同士でくっちゃべって、終わり。
 100即を達成しているナンパ師は、おそらく数万回は声掛けをしているだろう。そして数万回の失敗をしている。しかし、逃げ癖のついた彼らはその部分を想像することができない。

 こうして非効率な逃げ癖のナンパばかりを繰り返して、いつまで経っても「搾取される側」から抜け出せないでいる。

「搾取する側」の弱点

 どうしてナンパ系情報商材の市場価値はこんなにも高いのに、ひっきりなしに売れるのか。これは「搾取する側」の弱点が関係している。

 ナンパ界隈は「即」こそ正義という価値観が浸透している。「即」数の多いアカウントほど信者が多い。しかし、「即」はあくまでも「ナンパからホテルに行った回数」であり、「セックスが可能な人間関係を構築した数」ではない。
 実は、信者の多いカリスマナンパ師も、コミュニケーション能力が低いケースが多い。「即」はその場限りの関係性なので、定型文としてパターン化された出力がヒットするまで打てば、それなりの数はついてくる。これはコミュニケーションではないだろう。

 わたしも以前なんばでナンパ師っぽい人物(服装などの雰囲気でなんとなく判断できる)にナンパされたのだが、そこで普通に受け答えしてもおもしろくないので、「やっぱり「即」数で競ってるんですか?」「情報商材を買ったりしてるんですか?」「わたしってスト値いくつですか?」とまくしたてるように聞き返したら、舌打ちをして逃げていった。入力したことのない情報が入るとエラーを起こすらしい。おもしろい体験だった。ナンパの対応に困っている女性読者はぜひ使ってみてほしい。

 彼らが継続的な関係性を続けられない対象は、女性のみではない。男性に対しても同じだ。コミュニティにおいて絆を深めるということがいったいどういうことなのかがわからない。そのため、一発がデカい高額な「セックスまでのノウハウ」という情報商材を売る。
 他者との関係構築ができる自信があれば、信者とファンという関係性を長く続けるビジョンを見出せるし、比較的安価に設定しても長期の顧客でいてくれる。ビジネス戦略としてはそちらのほうが賢いだろう。

 ナンパ界隈には「弾丸即」「即」「準即」という3つの概念がある。「弾丸即」はナンパの直後にセックスをすること。「即」は居酒屋やカフェを挟んでセックスをすること。「準即」は2回目以降に会ってセックスをすること。
 やはり「弾丸即」は需要が大きく、「準即」は需要が小さいようだ。「弾丸即」はコミュニケーション能力が低くても成功するが、「準即」は人間としての度量が試される。どうせセックスにたどりつけるのであれば、苦手な道のりはなるべく避けたいだろう。しかも、「弾丸即」のほうが実績として輝かしい。
 もはや「準即」をナンパ界隈におけるノイズだと捉える者もおり、ここはカリスマナンパ師によって立場が分かれているようだ。ちなみに、「準即」を勧めるカリスマナンパ師のことを「上がったナンパ師」と呼ぶらしい。

 人生においてどちらが有意義なナンパかというと、明らかに「準即」なのだが(彼女や妻という関係性に発展するケースもある)、苦手なことから逃げながら目先の快楽だけを求めて「弾丸即」にこだわるナンパ師は多いようだ。

毒親育ちと福祉的コミュニティ

 ここまでナンパ界隈の構造を見てきたが、ここからが本番である。ナンパ師はなぜナンパ師になるのか?というわたしの最大の疑問の答えだ。

 実は、幼少期から親に勉強ばかりをさせられてきて、悪いことは絶対にしてはならないという教育を受けてきたタイプが多いという。親の教育方針が過干渉に発展して、毒親と呼べるレベルの親をもったナンパ師が非常に多く、愛着障害を抱えているケースが珍しくない。
 勉強ばかりしてきたために陽キャ的なコミュニケーションがわからない非モテになり、愛着障害ゆえに他者との関係構築がうまくできない。彼らナンパ師は非モテの愛着障害という二重の苦しみを抱えているようだ。
 他者との関係構築が苦手なためにナンパ界隈ではカリスマナンパ師/信者という構図になり、コミュニケーションがわからないために「即」にこだわるナンパ師になってしまう。

 そして、彼らにとってナンパコミュニティは「居場所」となっている。幼少期からこころの居場所がなかった彼らは、いつだって母のような存在と安心できる家を求めている。カリスマナンパ師は彼らにとって母であり、ナンパコミュニティは彼らにとって安心できる家なのだ。彼らの買う高額な情報商材は、母によって存在を認めてもらうために子が気を惹くための手段かつ、安心できる家に支払う家賃なのだろう。

 もし女性に生まれていれば、居場所は作りやすかっただろう。女性であれば、腟を差し出せばいくらでも男性が相手をしてくれる。しかし、陰茎にはそれほどの価値はない。非モテの愛着障害の陰茎ならなおさらだ。
 そして何より、福祉的なコミュニティにアクセスしようにも、男性の場合はセルフスティグマがついてまわる。福祉に頼ることは「情けない」。弱者から抜け出すためにナンパに励む彼らは、公的に弱者の称号を与えられることは絶対に引き受けられない。

 きっと彼らは、こころから安心して帰るべき居場所があれば何でもよくて、ナンパはあくまでもその手段でしかないのだろう。ナンパコミュニティに属して努力をすれば、母と家のみにとどまらず、セックスまでついてくるのでよりオトクなのだ。

 わたしはてっきりホモソーシャルに敗北した人たちが、女性をあてがわれなかったことに対するコンプレックスから、ミソジニーを抱えつつ女体に執着しているのだと思っていた。
 その側面は少なからずあるが、彼らはそもそもホモソーシャルの競争社会に参加しておらず、こんなの勝てるわけがないとはじめから負けた気になっていて、言うなれば観客席からリングのプロレスを見て、打ち負かされた戦士に感情移入しているような状態であるようだ。
 そもそもホモソーシャルの土俵に上ったことがあれば、経験則によってそれなりの戦略を練られるし、わざわざ高額なnoteを買わずともトライアンドエラーで戦い方を学んでいく。ナンパ界隈には漂流してこない。

 それすらもできないほどに、彼らは脆い。

おわりに

 とあるカリスマナンパ師にご協力をいただいて、5000字以上かけてナンパ界隈の構造から生態までをざっくり述べたが、これは決してわたしがナンパを容認しているわけではないことをご留意願いたい。
 ふつうの人間として街を歩いていたら、いきなり腟としてジャッジされることは非常に不愉快で迷惑だ。街ゆく女性は移動式おまんこではない。

 ただ、彼らにも彼らなりの地獄があり、幸せを獲得するためにもがいている。その方法が加害性を帯びてしまっていることは咎めるべきだが、ひたすらに「ナンパは性加害だ」と糾弾したとて、彼らは抑圧を感じて反発するだけだ。
 ナンパについてネガティブな言及をする際は、彼らも救いの手を差し伸べられるべき対象であることを念頭に置いておいてほしい。

 どうか、日々ナンパに励む彼らがこころから幸せになれる日が来ることを祈っている。ナンパ界隈の外にある救済を獲得できますように。

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美術と社会
ナンパ界隈の構造から生態まで(再掲)|愛野まう
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