警察に指紋を採られたら、削除してもらえない? 不起訴の男性が訴えたら裁判所は「別の事件で使えるから」 過去にデータ削除命じた例も、判決が割れる理由は?
これに対し国側はこう反論した。「捜査を担当した警察官が説明し、男性からも拒絶されなかった」 ただ、男性は取り調べの様子を録音していた。録音内容からは、警察官の説明はなかったことが判決で認定されている。 ▽「別事件の捜査で有用」であれば保管必要 それなのに、裁判所が削除を認めなかったのはなぜか。 東京地裁の和久一彦裁判長はまず、警察の対応は適法だと判断している。 「警察官が常に説明する必要はなく、男性も採取を承諾している」 裁判長は次に、指紋データを保管し続ける必要性があるかどうかを検討。 「別の事案の捜査でも有用である場合は保管の必要性が消滅したとはいえない」 さらに、「不起訴」は無罪判決そのものとは異なるとも言及。男性の請求を棄却した。 男性側代理人の袴田安則弁護士は、警察の説明がないのに適法とした裁判所を批判する。 「断れるとの説明が一言もなかったのに、承諾があったと認定するのはおかしい」
別事件でも有用という判断に懸念があると指摘。「事件の捜査で指紋データが検索されたら、関与していなくても偶然現場に居合わせただけで、容疑者として扱われるリスクがある」 男性の場合は前科前歴がなく、削除されるべき必要性が高いと指摘した。「判決は事実上、不起訴の場合に削除は無理といっているようなものだ」 男性側は判決を不服として、控訴している。 ▽法整備に向けた議論を 一方で、指紋などのデータを巡ってはほかにも裁判例がある。 名古屋地裁は2022年、暴行罪で無罪が確定した男性が起こした訴訟で、データの削除を国に命じた。控訴を受けた名古屋高裁も地裁判決を支持し、こう言及している。 「国民的議論を経た上で憲法の趣旨に沿った立法的な制度設計が望まれる」 情報法に詳しい東邦大の高橋和広准教授(憲法学)は、同意の取り方や、どの時点で削除するのかなど現在の運用には透明性がない点を問題視している。
「捜査機関の権限を法律で明確化することは、現場の捜査員にとってもメリットがあるはずで、制度作りに向けた議論が求められる」