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【全訳】『それはSomething Awfulからやってきた―有害な荒らし軍団は如何にしてドナルド・トランプを図らずもミームの力で大統領にしたのか』


何年もたってから、私は、自分が歴史の転換点をぼんやりと目撃していたのだと悟った。世界の出来事がその上で旋回していく、巨大で秘密めいた蝶番を見ていたのである。

私が見たものは何だったのか。要するに、またしても同じような光景だった。衣装を着た子どもたちである。ある部屋の前方では、鋭いあご、金色の髪、野球帽を身につけた15歳の少年が、パワーポイントの発表をしていた。内容は、ウェブサイトの統計と、さまざまな種類のカートゥーン・ポルノをからかう下品な冗談が混ざったものだった。

そのなかには、少年本人が白いパンティをはいた曲線的なピンク色の猫耳少女として描かれた、ファン作成の画像も多く含まれていた。ますます馬鹿げたフォトショップ加工画像が次々とスクリーンに映るたび、騒々しい聴衆は歓声を上げた。彼らは、このあとに控える深夜のテクノ・ダンスパーティへ向けて勢いをつけていたのである。

しかし、あれほど称賛を浴びているにもかかわらず、その少年はどこか居心地が悪そうだった。野球帽は目元を隠すように、少し低くかぶられていた。彼自身はあまり話さず、テーブルについた友人たちに多くを任せていた。

これは、いまでは悪名高いオンライン掲示板「4chan」の最初期の集まりのひとつだった。帽子をかぶった少年こそ、そのサイトの創設者であるクリストファー・プール(通称:moot)その人である。2003年10月、彼は「退屈でポルノが必要だった」ため、友人たちとアニメチックな女の子の画像を交換する目的で、気まぐれに4chanを立ち上げた。だがすぐに、何千人、やがて何百万人もの人々が、それを利用したがっていることを知ることになる。

そのサイトが重要だった、と言うのは馬鹿げて聞こえる。けれど、さらに馬鹿げていることに、その重要性はすでに歴史書に記されている。デヴィッド・A・ナイワートは『Alt-America』で、ナチを崇拝するオルタナ右翼は4chanで「始まった」と書いている。「日本のアニメについてオンラインで語り合う人々」から始まったのだ、と。

ナイワートの本を含め、こうした本の多くは、どうしてそのようなことが起こりえたのかを説明していない。アニメ・オタクから、2016年以降のアニメ・ナチへ、私たちはどのようにして到達したのか。なぜそれが、2017年にシャーロッツヴィルで、インターネットの奇人たちが松明を掲げ、似たような幻想的衣装をまとって行進する事態へつながったのか。

もちろん、あの部屋の子どもたちはナチではなかった。まったく違う。彼らがいちばん話したくなかったのは政治だった。そしてその瞬間、私自身も、自分が歴史上の大きな転換点に立ち会っているなどとは少しも感じていなかった。むしろそこにあったのは、また別の〈反歴史〉の瞬間だった。

アメリカ郊外という、どこでもなく、どこにでもある広大な風景が、コンベンションセンターの内側へ持ち込まれていた。滑らかで清潔なカーペット、模型船、大きく転がる幾何学的な形態の広がりを備えたその場所は、どこか無限に続く子ども部屋のようだった。十代の若者たちは、世界に爪痕を残そうとしていたのではない。捨てられたフィクションの断片を身ぶりでなぞることで、世界から逃げようとしていたのだ。

しかし、振り返ってみれば、そのすべては狂った予兆のように読める。

〔……〕4chanが始まったころ、それは他のオンライン掲示板とそれほど違ってはいなかった。インターネット上にコンテンツを投稿し、人々と話す場所である。当時の4chanは、日本のサイトからいくつかの革新を取り入れており、それが人気の理由の一部だった。画像を投稿しやすかった。そして日本の慣習にならい、ユーザー登録を必要としなかった。誰でも既定の名前で投稿できた。その名前はやがて、4chanユーザー全員を指す名──「Anonymous(匿名)」──になっていく。

だが、それだけでは、4chanがなぜあれほど急速に膨張したのかは説明できない。なぜ、ほとんど登場した瞬間から、人々がそれを祝うために集まり始めたのか。毎年、オタコンでの4chanの集会は人数を倍増させ、ついには群衆が部屋からあふれ出し、4chanは集会を開くことをやめた。2010年までに、4chanは史上もっとも人気のあるウェブサイトのひとつになっていた。

これらすべては、どのようにしてオルタナ右翼へ変異したのか。ドナルド・トランプへ、トロールへ、ミームへ。ある言い方を借りれば、いったい何が起きたのか──選挙だけではない。政治、文化、カウンターカルチャーに何が起きたのか。〔……〕もっとはっきり言えば、こういうことだ。ポルノ的なアニメ・サイトは〈ポスト文化的なゴミ捨て場〉から、いかにして、私たちの時代の巨大な出来事がその上に立つ〈ポスト文化のゴミ捨て場そのもの〉へと変貌したのか。

本書が語るのは、その物語である。

デール・ベラン著『それはSomething Awfulからやってきた』序章より

▲2005年の「オタコン」に初登壇した4chanのパネルディスカッション。創設管理人の「moot」ことクリストファー・プールが表舞台に初めて姿を現した伝説のパネルである(6分50秒頃)。

***

『それはSomething Awfulからやってきた』(原題:It Came from Something Awful: How a Toxic Troll Army Accidentally Memed Donald Trump into Office)は、オンライン上の悪ノリが、いつの間にか現実政治を動かすところまで行ってしまった過程を描いた2019年のノンフィクション本だ。

ありていに言えば、ばるぼらの『教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書』の舞台をアメリカに移し、スケールだけをやたら壮大にしたような本である。扱っているものは、あまりにもくだらなく、あまりにも醜悪で、そして不本意ながら、あまりにも歴史的である。だからこそ本書は困ったことに名著になってしまっている。

本書は、ライターのデール・ベランが2017年に「Medium」で発表した記事「4chan: The Skeleton Key to the Rise of Trump」に大幅な加筆を施したものであり、大まかな議論の骨格は当該記事を読めば大体つかむことができる。

本書が追っているのは、悪名高いユーモアサイト「Something Awful」から派生し、匿名掲示板「4chan」や「8chan」で増幅されたミーム、トロール、レイド、インセル、面白主義、冷笑文化が、いかにしてドナルド・トランプの大統領当選という現実の政治的事件につながっていったのか、という流れである。

(この「Something Awful」→「4chan」→「8chan」という系譜は、日本では馴染みがないのか、日本語圏で「Something Awful」について書いている人も、自分が確認したかぎりでは以下の記事くらいしか見当たらなかった)

本書が重要なのは、これが単なる「アメリカのネット史」ではない点だ。4chanは、日本の「ふたば☆ちゃんねる」をモデルに作られた画像掲示板で、その源流には「あやしいわーるど」→「あめぞう」→「2ちゃんねる」へと連なる日本発のアンダーグラウンドな匿名掲示板文化が脈々と存在していた(この系譜は、本書の第3章でも驚くほど詳細に解説されている)。

本書が描いているのは、遠い国で起きた特殊な出来事ではない。日本発祥の匿名掲示板文化、いわゆる「CHANカルチャー」が海を越え、英語圏で変質し、西欧社会の政治にズブズブと食い込んでいく過程でもある。本書を読むと「CHANカルチャー」が世界をどう変えたのかが生々しく見えてくるはずだ。匿名性、冷笑、悪ふざけ、ミーム、内輪ノリがチキンレースのごとく増幅され、ついには現実政治を左右する「キングメーカー」としての影響力を持つに至った。そのおぞましい影響力をたどるうえで、本書はきわめて重要な一冊となっている。

が、困ったことに、本書には日本語訳が存在しない。そして、おそらく今後も出ることはないだろう。アメリカのネット掲示板の歴史、しかも「Something Awful」だの「4chan」だの「8chan」だのを扱った本が、日本で商業的に成立するとは考えにくいからだ。そこはまあ出版社の判断として正しいのだろうが、4chan、ひいてはトランプ政権誕生にいたる現象を考えると、そこに日本発祥の「CHANカルチャー」がかなり深く食い込んでいるのは、いまさら見ないふりをするほうが難しい。だとすれば、そのへんを扱った本が日本語で読めないまま放置されているというのは、何とも勿体ない話である。

というわけで、委員会関係者限定の内部資料として訳しておくことにした。

翻訳には「ChatGPT 5.5 Pro」を全面的に使用している。
本翻訳は、あくまで委員会内部での参照を目的としたものであり、委員会関係者以外による利用・転載・再配布を禁ずる。

補遺

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これは「現代アメリカ史」という名のインターネット文化戦争(笑)をウォッチングしている人たちが、ことあるごとに引用する定番画像だ。画像だけ見ればタチの悪いミームにすぎないが、すべて現実に起きた話だから恐ろしい。そのバカバカしさと深刻さのギャップたるや。

訳者解説*

本書は、かなり変な本である。出てくるのは「Something Awful」「4chan」「Anonymous」「ゲーマーゲート」「Tumblr」「オルタナ右翼」そして「トランプ」だ。2000年代から2010年代にかけて、ネットの悪ふざけが、アメリカの政治に入りこんでいく話である。こう書くと「ネット右翼の話か」と思う人もいるだろう。「変な掲示板にいた変な人たちが暴れただけでしょ」と思う人もいるかもしれない。でも、本書の話はそこまで単純ではない。著者が暴き出そうとするのは「それらがどこからきたのか」ということだ。なぜ、ただの悪ふざけが、文化的/政治的影響力を持つようになったのか。なぜ、匿名掲示板の内輪ネタが、選挙や政権にまで関わるようになったのか。

それは、アメリカ社会にあったカウンターカルチャー的な反抗心が、ネットの匿名文化、悪ふざけ、ニヒリズム、男性的な敗北感、反ポリコレ感情と結びついて、歪んだ政治的影響力を持つようになったものだ、と著者は見る。

本書の原題は「It Came from Something Awful」だ。直訳すれば「それは『Something Awful』からやってきた」だ。「Something Awful」は実在するウェブサイトの名前だが「何かひどいものからやってきた」とも読める。この冗談っぽさが、本書全体の感じをよく表している。

ここでいう「それ」とは「4chan」であり「Anonymous」であり「ゲーマーゲート」であり「オルタナ右翼」であり、世界を席巻した「トランプ現象」であった。どれも突然出てきたわけではない。まず「Something Awful」があり「2ちゃんねる」があり、アニメやゲームやオタク文化があり、アメリカ郊外の退屈があり、若い白人男性たちの孤独があり、ネットの匿名性があった。それらが少しずつ混ざって、最後にとんでもないものになったわけだ。

本書の中心にあるのは「冗談」と「本気」の境目がこわれていく話である。

最初は、ただの悪ふざけだった。人を怒らせる。わざとひどいことを言う。まじめな人をからかう。相手が怒れば「釣れた」と笑う。何を言っても「ネタ」で済む。まじめであること自体がダサい。正しいことを言う人は笑われる。傷ついたと言う人は、さらに傷つけられる。そういう場所だった。

でも、問題はここからである。差別を冗談として言いつづける。暴力を冗談として語りつづける。陰謀論を冗談として共有しつづける。そうしているうちに、それが冗談なのか本気なのか、本人にもまわりにもわからなくなる。むしろ、そのわからなさが武器になる。

「本気じゃないよ」と言いながら、本気の人を集める。「ただのネタだよ」と言いながら、本物の敵意を広げる。「冗談もわからないのか」と言いながら、現実の人を攻撃する。

これが本書の怖いところである。

「4chan」の「/b/」や「/pol/」は、外から見るとただのゴミだめに見える。実際、そういう部分はかなりあった。だが、そこにはそこなりのルールがあり、冗談のやり方があり、仲間の合図があった。ミームは、ただの面白画像ではなかった。仲間を見分ける共通言語であり、自分たちの思想を短くまとめるツールであり、政治的メッセージを笑いにくるんで広げる手法だった。

「Anonymous」も同じである。最初から立派な政治運動だったわけではない。匿名掲示板の「名無し」たちが、いたずらや嫌がらせをくり返すうちにメディアがそれを「Anonymous」という集団として扱いはじめた。すると、名無したちは、本当に政治的集団のようにふるまいはじめる。外から名前をつけられた冗談が自律的に歩き出す。ネットでは、こういうことが起きる。

「ゲーマーゲート」も、ただのゲーム業界のもめごとではなかった。女性やマイノリティを攻撃する動きが「ジャーナリズムの倫理」や「表現の自由」という、もっともらしい言葉を使った事件だった。ネット上の怒りや劣等感や被害者意識が、ここで政治の形を取りはじめる。

そして「オルタナ右翼」である。古い人種主義や女性嫌悪が、ネットの使い方を覚えた。スーツを着た極右ではなく、アニメ画像、カエルのミーム、皮肉、内輪ネタ、冷笑を使う極右である。本人たちは「冗談だ」と言う。だが、やっていることは冗談ではすまない。しかも、まじめに批判すると、こちらが野暮な人にされる。

ただし、本書は「ネットの悪い人たち」を外から指さして終わる本ではない。そこがいい。著者は、彼らを許しているわけではない。差別は差別だし、嫌がらせは嫌がらせである。被害を受けた人たちがいる以上「若者文化だった」で済ませることはできない。

それでも著者は、なぜ彼らがそうなったのかを見ようとする。そこには、孤独な若者たちがいた。退屈している郊外の子どもたちがいた。学校や職場や家庭でうまくいかず、ネットの中でしか居場所を作れない人たちがいた。彼らは、自分たちは笑われている、奪われている、見下されている、と感じていた。その気持ちがネットで大きくなり、政治的な怒りに変わっていく。

大事なのは、その怒りが正しかったかどうかではない。多くの場合、それはまちがった方向に向かった。だが、まちがった怒りでも力を持つことはある。そして、その力が現実を動かすこともある。本書はそこを見ている。

後半で「Tumblr」が出てくるのも、そのためである。「Tumblr」は「4chan」の反対側にあるように見える。「4chan」が匿名、攻撃、冷笑、男性のうらみの場だったとすれば「Tumblr」は自己表現、アイデンティティ、承認、傷つきやすさの場だった。もちろん、この2つを同じものとして扱うことはできない。だが、どちらもネット上で自分を作り、仲間を作り、世界の見方を作ったという点では、同じ時代のものだった。

政治は、もう政党や新聞やテレビだけで作られるものではない。プロフィール、画像、ミーム、炎上、ファンダム、スクリーンショットでも作られる。いまでは当たり前に見えるが、これはけっこう大きな変化である。

日本の読者にとって、本書は少し変な読み心地の本だと思う。
舞台はアメリカであり、背景には人種問題、郊外文化、中産階級の没落、キリスト教右派、リバタリアニズム、文化戦争の主戦場にされた左派系名門大学とトランプ政権をめぐる対立がある。このへんは日本とはかなりちがう。

一方で、話の出発点には、日本のネット文化やオタク文化がある。2ちゃんねる、匿名掲示板、アニメ、内輪ネタ、釣り、荒らし、空気を読んだうえで空気をこわす遊び。日本の読者なら「ああ、これは見たことがある」と感じる部分も多いだろう。

だが、その見覚えには注意したほうがいい。同じような掲示板文化でも、別の社会に入れば別のものになる。日本から出た、あるいは日本をまねたネットの形が、アメリカの人種差別や、男性の被害者意識や、反リベラル感情と結びつくと、まったく別のものになる。本書は、その変化の記録でもある。

本書の原書が出たのは2019年だ。
いま読むと、少し古く見える部分もある。ネットの主役は変わる。サイトも変わる。言葉も変わる。だが、本書の本題は古びていない。

冗談が政治になる。孤独が怒りになる。怒りが陰謀論と結びつく。メディアが変なものを取り上げることで、かえってそれを大きくする。「本気じゃない」と言う人たちが、現実の制度を動かしてしまう。これは2010年代だけの話ではない。いまも、場所と名前を変えながら続いている。

本書を読むと「あんな人たちは、最初から無視すればよかったのか」と思うかもしれないが、それも簡単ではない。無視すれば見えないところで増える。取り上げれば宣伝になる。批判すれば燃料になる。笑えば広がる。怒れば相手の思うつぼになる。ネットの悪ふざけは、このあたりの弱点をとてもうまく使う。

だから本書は、ただ昔を振り返る本ではない。いまのネットを考えるための本である。大事なものは、いつもまじめな顔でやってくるわけではない。ふざけた画像や、くだらない冗談や、変な掲示板の書き込みとしてやってくることがある。そして、気づいたときには、それが政治の言葉になっている。

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「キリストちゃん」は「/pol/」のオルタナ右翼が「神は偉大なり!」と叫ぶイスラム過激派に対抗して作ったキャラクター。かつて十字軍(キリスト教徒による義勇軍)がイスラム教徒に宣戦布告した際、民衆があげた「神はそれを望みたもう!」というワードを擬人化したもの。

何かが「ただのネタ」として出てきたとき、それは本当にただのネタなのか。「本気じゃない」と言う人は、本当に本気ではないのか。笑って見過ごしているうちに、何が育っているのか。

本書は、そのことを考えさせる。楽しい本ではない。でも、読んでおいたほうがいい本である。ネットの悪ふざけが、どこまで現実を変えてしまうのか。その例が、ここにはかなり嫌なかたちで詰まっているのだから。

*訳者はGPT-5.5なので「訳者解説」もGPTに書いてもらったのですよ。


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1997年生。特殊同人サークル『迷路』主宰/編集長。まんが批評集団『迷宮』『マンガ論争』サポーター。編著に『川本耕次に花束を』『SFと美少女の季節』『鬼畜系サブカルの形成過程における制作者の役割に関する実証的研究』(すべて自費出版)など。各商業誌にも鋭意執筆中。
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