「クソ客」と「ブラック経営者」ばかりが増長!? 性売買を罰しない「非犯罪化」で見えた“負の側面”
客の要求が過激になった
ベルギーの例に見てとれるように、非犯罪化モデルには厳しい批判がある。「性売買を非犯罪化してもセックスワーカーを守ることはできない」という声は大きい。 非犯罪化に賛成する人々は、「この業界が犯罪化されていることこそが性売買を危険なものにしている」という主張を根拠としている。「犯罪性を除去すればセックスワーカーへの虐待を防止し、人身売買や性的奴隷制に依存する性産業を断ち切ることが容易になるはずだ」という。 だが、実際に性売買を非犯罪化している国々では、そういった目論見は達成できていない。それどころか、性売買が営利を追求する一企業となってサービス競争が激しくなることで安全性が優先されなくなり、事態をいっそう悪化させている。 「非犯罪化は、セックスワーカーたちの被害を最小限に抑えることができていないだけでなく、むしろ被害を大きくしている」と主張する人さえいる。性売買の現場での暴力はなくなっていないどころかむしろ拡大し、犯罪組織の関与はいっそう深刻になっているという。 セックスワーカーがこうむるスティグマも減っていない。そのうえ「客が権利を主張するようになって要求はより過激になり、セックスワーカーにとって安全な環境を作ることがさらに難しくなった」ともいわれている。 ニュージーランドでは性風俗店の経営者は、自分たちの雇うセックスワーカーたちが客からより過激なことを強要されても、その行為を絶対に拒否しないように言い含めているという。「非犯罪化は、買春者の振る舞いを増長し助長するだけだ」という声もある。非犯罪化はセックスワーカーたちよりも、むしろ買春者や性風俗店の経営者に利益をもたらしているというのだ。
性売買業者は「非犯罪化」を”推奨モデル”に
こうしたさまざまな批判がされているにもかかわらず、非犯罪化を推進する動きはなくならない。 ニュージーランドは一部の人々の間で成功例とみなされ、性風俗店の経営者、売春斡旋業者など性産業を推進しようとする人たちは推奨モデルにしている。「ドイツの失敗の原因であった過剰な規制を避けたことがよかった」という。非犯罪化が、合法化と同じように「買春者に力を与え、ポン引きや性売買店の経営者を合法化し、性的人身売買を増加させている」と批判されるのは当然のことだろう。 ’16年には、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが、人権侵害と虐待からセックスワーカーを守るため、各国政府に対して「合意に基づくセックスワークの非犯罪化」を勧告する方針を示した。これに対して多くの団体、個人から批判が殺到。各国の女性団体は「売春は性的虐待であり暴力だ」と強く反発している。 それでもアムネスティは「自由意思による性売買の非犯罪化」を支持している。「セックスワーカーは世界の中で最も社会から取り残された存在のひとつであり、常に差別や暴力などの人権侵害に直面している」とし、「非犯罪化はセックスワーカーの人権を擁護し、直面する人権侵害の危険を減少させる最良の方法」と結論づけている。 ’21年にはニューヨークの市長が、警察改革を求める強い世論に押されて性売買の非犯罪化を提案。だが「ニューヨークをセックスツーリズムの目的地にする法律を推奨している」として、女性人身売買反対連合などから抗議された。しかし、その後もニューヨークでは、性売買の非犯罪化を推し進める動きはなくなっていない。