事業再構築補助金の交付決定の取消しには処分性があり、理由付記の不備という瑕疵がある可能性が高いこと
事業再構築補助金について、中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」といいます。)から交付決定を取り消され、補助金の返還を求められた事業者は少なくないかと思います。このような場合、多くの事業者は「行政の決定だから争えない」と諦めてしまいがちです。
しかしながら、事業再構築補助金の交付決定の取消しには処分性があり、取消訴訟(行政訴訟)において、その有効性を争うことができます。
これは、事業再構築補助金に関しては、中小機構法16条が、補助金適正化法という法律を全面的に準用しており、事業再構築補助金の交付決定の取消しは、補助金適正化法17条1項に基づく法律上の根拠のある行政処分となるからです。
そして、本記事で最もお伝えしたいのは、上記のとおり、事業再構築補助金に係る交付決定の取消しの根拠法条が、補助金適正化法17条1項であるにもかかわらず、中小機構は、これを交付規程という中小機構の内規(行政規則)に基づくものと誤解して運用しており、その結果として、事業再構築補助金の交付決定の取消処分には、理由付記の不備という手続上の瑕疵(違法性)がある可能性が高いということです。
理由付記に不備があり、手続上の違法性があるとされた場合には、実体法上の違法性(補助金適正化法17条1項所定の取消事由があるか否か)の有無にかかわらず、それだけで取消処分は違法となり、取消訴訟という行政訴訟を提起すれば、取消判決によって取消処分の効力を遡って失わせることができます。つまり、仮に補助金適正化法17条1項所定の取消事由があるケースであっても、理由付記の不備が認められれば、取消処分が取り消されることとなるのです。
本記事では、このことについて、詳述します。
なお、どのような場合に補助金適正化法17条1項の取消事由に該当するのかという実体法上の問題は、本記事では立ち入らず、別の機会に譲ることとします。
目次
1 交付規程等の要綱に基づく交付決定の取消決定には処分性がないこと
行政の行為に処分性があるとは、その行為が抗告訴訟(取消訴訟等)の対象となる行政処分に当たるということです。処分性が認められて初めて、その行為に不服がある場合に、行政不服審査や取消訴訟でその取消しを求めることができます。
処分性が認められるためには、その行為が公権力性を有することが必要であり、その公権力性の有無を判断する観点の1つとして、当該行為が法律上の根拠を有するかどうかが問題となります(西川知一郎編著『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 行政関係訴訟 改訂版』25頁参照(青林書院、2021))。
そして、補助金の交付決定・交付決定の取消しのような給付行政に関する行為は、本来的には非権力的な性質のものです。法律上の根拠がないことが明らかな行政庁の行為、例えば交付規程等の要綱のみに基づく補助金の交付決定・交付決定の取消しについては、法律上の根拠を欠くため、処分性が否定されると解されています(同書27頁から28頁参照)。
したがって、要綱のみに基づく交付決定や交付決定の取消しについては、処分性がなく、行政訴訟で争うことができません。そして、処分性がない以上、後述する理由付記の不備といった手続上の違法の問題も、そもそも生じないことになります。
中小機構は、事業再構築補助金について、まさにこの交付規程等の要綱に基づく補助金であるかのような前提で運用を行っています。すなわち、これらの補助金の交付決定や交付決定の取消しを交付規程に基づくものと位置づけ、処分性がないものとして扱っているのです。
2 給付行政に関する行為についても法律上の根拠があれば処分性は認められること
給付行政に関する行為についても、法律上の根拠を有する場合には、処分性が認められるとされており、「例えば,国の補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)に基づく負担金交付決定など」がこれに当たるとされています(西川知一郎編著『リーガル・プログレッシブ・シリーズ 行政関係訴訟 改訂版』27頁参照(青林書院、2021))。
つまり、給付行政に関する行為であっても、要綱のみに基づくものは処分性がなく、法律上の根拠があるものは処分性があるという区別がされているのです。問題は、事業再構築補助金がどちらに当たるかです。
3 事業再構築補助金の交付決定の取消しには法律上の根拠があり、処分性が認められること
結論からいえば、事業再構築補助金の交付決定及びその取消しには、法律上の根拠があり、処分性が認められます。
事業再構築補助金は、中小機構が中小機構法15条1項6号に基づく業務として交付する助成金です。そして、中小機構法16条は、このような助成金について、補助金適正化法を全面的に準用しています。具体的には、交付の申請や決定(補助金適正化法5条、6条)、交付決定の取消し(同法17条)、是正命令や返還命令(同法16条、18条)、不服申立て(同法25条)に関する規定を含めて、補助金適正化法を全面的に準用しているのです。
そうすると、事業再構築補助金の交付決定及びその取消しは、補助金適正化法という法律上の根拠を有するものであり、処分性が認められ、取消訴訟(行政訴訟)において、その有効性を争うことができます。
4 ものづくり補助金やIT導入補助金等の交付決定の取消しには処分性がないこと
ここで注意が必要なのは、中小機構が関与する補助金であれば、すべて処分性があるわけではないという点です。事業再構築補助金に処分性があるのは、中小機構が補助事業者に対して直接補助金を交付する制度設計になっているからです。
ものづくり補助金については、まず中小機構から事務局(全国中小企業団体中央会)に対して補助金が交付され、補助事業者は、事務局から補助金の交付を受ける構造になっています。すなわち、交付主体は中小機構ではなく、事務局です。
IT導入補助金についても、中小機構から事務局(TOPPAN株式会社)に対して補助金が交付され、補助事業者は事務局から交付を受ける構造になっています。
これに対して、事業再構築補助金は、中小機構から補助事業者に対して直接補助金が交付されます。事務局は、補助金交付に関する事務手続を行うのみで、交付主体にはなりません。
この違いは、各補助金の交付規程における交付決定の通知に関する記載で見分けられます。交付決定をする旨の記載の主語が「事務局は」となっていれば、交付主体は事務局であり、その交付は交付規程(法律ではない)に基づく負担付贈与契約として処分性がないことになります。これに対して、主語が「中小機構は」となっていれば、その交付は中小機構法15条1項6号に基づく業務となり、同法16条により補助金適正化法が全面的に準用されるため、法律上の根拠があり、処分性があることになります。
5 処分性があると何が変わるのか(理由付記の不備)
交付決定の取消しに処分性があり、取消訴訟で争えるというだけでは、あまり意味がありません。しかしながら、事業再構築補助金に係る交付決定の取消しについては、中小機構が、根拠法条を誤って運用していることにより、理由付記の不備という手続上の瑕疵(違法性)が認められ、取消訴訟において勝訴できる可能性が十分にあります。
後記6において、補助金適正化法17条1項に基づく交付決定の取消しをするに際して求められる理由提示の程度、後記7において、中小機構が、事業再構築補助金の交付決定の取消しをするに際して、十分な理由提示をしておらず、中小機構による交付決定の取消しには理由付記の不備という手続上の瑕疵(違法性)が認められる可能性が高いことについて述べます。
6 求められる理由提示の程度
補助金適正化法21条の2は、交付決定の取消しをするに際して、理由を提示する義務を定めており、これは、処分庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を図る趣旨によるものと解されています(小滝敏之『補助金適正化法解説〔全訂新版(増補第2版)〕-補助金行政の法理と実務-』291~292頁参照(株式会社全国会計職員協会、2016))。
そして、求められる理由提示の程度は、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方において、その提示内容自体から了知し得るものでなければならないとされています(最二小判昭和38年5月31日、最一小判昭和49年4月25日、最三小判昭和60年1月22日、最一小判平成4年12月10日等)。
7 事業再構築補助金の取消通知書には理由付記の不備がある可能性が高いこと
中小機構は、事業再構築補助金の交付決定の取消しをするに際して、十分な理由を提示しておらず、以下のとおり、理由付記に不備があるとして、手続上の違法性が認められる可能性が高いです。
(1)いかなる法規を適用したのかが分からない
前述のとおり、事業再構築補助金の交付決定の取消しの根拠法条は、補助金適正化法17条1項であって、中小機構の内規にすぎない交付規程に基づくものではありません。
ところが、中小機構による事業再構築補助金の取消通知書には、根拠法条として、補助金適正化法17条1項ではなく、交付規程22条1項各号が記載されているかと思います。少なくとも、私がこれまで見てきた取消通知書では、交付規程に基づくものと記載されており、補助金適正化法17条1項に基づくと記載されたものを見たことがありません。
中小機構が、根拠法条を誤って伝えているために、処分の相手方は、いかなる法規に基づいて取消しがされたのかを、通知書の記載自体から知ることができないのです。
(2)いかなる事実関係に基づくのかも分からない
交付規程22条1項各号の該当性を基礎づける事実と、補助金適正化法17条1項所定の取消事由を基礎づける事実とは、異なります。中小機構は、取消通知書に、交付規程22条1項各号該当性を基礎づける事実を記載するにとどまり、補助金適正化法17条1項各号所定の取消事由の該当性を基礎づける事実を記載していないことがほとんどです。
交付規程22条1項各号の適用の判断の基礎となった事実を記載することによっては、補助金適正化法17条1項を適用した判断の基礎となる事実を提示したことにはなりません。
したがって、処分の相手方は、いかなる事実関係に基づいて補助金適正化法17条1項が適用されたのかを、通知書の記載自体から知ることができないのです。
(3)小括
このように、中小機構は、事業再構築補助金の交付決定の取消しをするに際して、十分な理由を提示しておらず、当該取消処分には理由付記に不備があるとして、手続上の違法性が認められる可能性が高いです
8 実体法上の違法性がなくても、理由不備だけで取り消されること
理由付記の不備がある場合には、実体法上の違法性の有無にかかわらず、それだけで行政処分が違法となるものとされておりますから、中小機構による交付決定の取消処分については、補助金適正化法17条1項各号の取消事由が実際に存在し、本来であれば取り消すことができるケースであったとしても、当該処分は違法であると される可能性が高いです。
このような場合において、取消訴訟を提起すれば、請求を認容する判決により、取消処分は処分時に遡って効力を失い、元から処分が行われなかったのと同じ状態になります。すなわち、中小機構の取消処分は、遡及的に効力を失うことになるのです。
9 まとめ
事業再構築補助金の交付決定の取消しには、処分性があります。これは、中小機構法16条が補助金適正化法を全面的に準用していることから導かれる帰結です。同じ中小機構が関与する補助金であっても、ものづくり補助金やIT導入補助金のように事務局が交付主体となるものには処分性がなく、事業再構築補助金のように中小機構が直接交付するものには処分性があります。
そして、処分性があるということは、取消しに際して十分な理由提示が必要だということを意味します。中小機構は、根拠法条を交付規程と誤って記載しており、少なくとも私がこれまで見てきた取消通知書では、補助金適正化法17条1項に基づくと記載されたものはありませんでした。そのため、補助金適正化法17条1項を適用した判断の基礎となる事実が提示されておらず、実体法上の取消事由の有無とは関わりなく、理由提示の不備という手続上の違法だけで、取消処分が取り消される可能性が高いといえます。取消判決が確定すれば、取消処分は遡って効力を失い、元から取消処分がなかったのと同じ状態になります。


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