【そもそも解説】子宮移植とは? 救命でなく子を産むための医療
藤田医科大の研究チームが、子宮がない女性が出産するための「子宮移植」の臨床研究を計画している。子宮移植とはどのような医療で、どんな課題があるのか。
記事の解説ポイント
(1)どんな人が受ける医療?
(2)日本ではなぜ行われていない?
(3)医学的にはどんな課題が?
(4)日本での最近の動きは?
(5)実施する場合のポイントは?
(1)どんな人が受ける医療?
子宮移植は、子宮がない人が出産することを目的に、別の女性から提供してもらった子宮を移植する手術のこと。
例えば、うまれつき子宮がない「ロキタンスキー症候群」は、女性の約4500人に1人いるとされる。ほかにも、子宮筋腫(きんしゅ)やがんなどで子宮を摘出する人もいる。こうした子宮がないことが原因で不妊になっている20~30代の女性は、国内で約6万人いると推定される。
子宮がない女性にとって、子宮移植は自ら妊娠・出産するための唯一の方法だ。日本では実施例はないが、世界的には行われている。
2000年にサウジアラビアで世界初の子宮移植が報告された。そのときは出産には至らなかった。その後、14年にスウェーデンで子宮移植を経て子どもが生まれた。26年までに世界でおよそ150例以上が実施され、70例以上の出産があるとされる。
800(2)日本ではなぜ行われていない?
医学的観点だけでなく、倫理的な課題があることが大きい。
まず、誰に子宮の提供者(ドナー)になってもらうか。心臓や肝臓、腎臓などの臓器移植では、提供者は原則として、脳死や亡くなった人で、生きた人から提供してもらう生体移植は「やむを得ない場合の例外」とされている。生体移植は、健康な人の体にメスを入れなければいけないためだ。
日本では、脳死となった人から移植できる臓器は法律で決められており、子宮は対象外だ。そのため、日本での子宮移植は生体移植が前提となり、ドナーは親族が担うことが想定される。世界でも子宮移植の75%は、親族など健康な人がドナーとなる生体移植が占めている。
いま行われている臓器移植の多くは、「救命」や「生命維持」のための医療だ。一方、子宮移植の目的は「出産」となる。このため、子をもつために、健康な人から子宮を取り出すことには根強い慎重論もある。
(3)医学的にはどんな課題が?
ドナーから子宮を摘出する手術には平均8時間以上、移植を受ける人(レシピエント)も手術に平均5時間以上かかる。どちらにも負担は大きい。
移植を受けた人は、移植した子宮が正常に機能していることを確認し、その後、体外受精した受精卵を子宮に入れる。出産が終われば子宮を摘出する。
移植後は、子宮を摘出するまで拒絶反応を抑えるために免疫抑制剤を使い続けなければいけない。母親だけでなく、生まれてくる子にどんな影響があるのかフォローが必要となる。
(4)日本での最近の動きは?
慶応大学で臨床研究の計画が進み、21年に日本医学会の検討委員会が子宮移植の倫理的な課題に関する報告書をまとめた。
報告書では、生体からの移植に限って少数での臨床研究を容認した。ただ、いくつか条件が示された。例えば、子宮が売買されることを防ぐため、ドナーに十分なリスクの説明などをして、自由意思に基づいて「自発的に無償提供に同意していることが必須条件」とした。
慶応大では25年2月に臨床研究の計画が学内で承認されたが、研究責任医師が藤田医科大に移った。今後は藤田医科大で臨床研究の実施に向けた動きが進む。
学内で、検討会(ワーキンググループ)を数回重ねた後に、研究計画を学内の委員会で審査する。その後、日本移植学会と日本産科婦人科学会の合同の検討委員会にも状況を報告しながら、まず数例の子宮移植を実施していくとみられる。
(5)実施する場合のポイントは?
レシピエント・ドナーともに、心理的なサポートは欠かせない。子宮移植をしても、必ず妊娠・出産できるわけではない。子を持ちたいと願うその人にとっての最善の解決策は何か。医療者が継続的に寄り添っていけるような体制作りが必要だ。
次に、費用の問題がある。移植のための費用は約2500万円ほどかかる。身近な医療とは言えない。この費用は誰が負担するのか。公的医療保険でまかなうべきものなのか、患者はどれくらい負担すべきなのか。国際子宮移植学会の倫理委員会は25年に「公的あるいは民間の保険適用を求める働きかけが必要だ」と提言している。
将来はこんな可能性もある。出生時の性別は女性で、男性として社会生活を送るトランスジェンダーの人がドナーになるケースだ。性別適合手術のときに摘出した子宮を移植に使うことが想定される。ただ、摘出前に性ホルモンを長期間使っていた場合、子宮にどのような影響があるかの研究は十分でない。
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