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ゼロから作るな。パクれ。

僕は何度も事業の立ち上げに失敗してきました。

そのほとんどが、同じ原因で、「存在しない市場」に挑んでしまったからです。

誰も困っていない課題を、勝手に課題だと思い込んで作ったり、
困っている人はいたけれど、お金を払ってまで解決したいほどの課題ではなかったり、
本当に困っている人はいたけれど、その人数がごくわずかだったりです。

どれも、作ったものはちゃんと動いていて、問題はなさそうだったけど誰もお金を払ってくれませんでした。

何度も失敗して、ようやく一つの結論にたどり着きました。ソフトウェアエンジニアが事業を立ち上げるなら、新しいことをやってはいけない
ということです。

新しいことをやらないというのが大事

新しい事業をやるというと、誰もやっていない新しいことに挑戦するイメージがあるかもしれません。でも僕の経験では、それは一番もったいない戦い方です。

存在しない市場や、極端に小さい市場に参入してしまう。お金を払う価値がない課題を解決しようとしてしまう。こうした失敗は、すべて「需要が証明されていない市場」を選んだことに原因があります。

需要があるかどうかを、自分でゼロから検証しなければなりません。検証には時間もお金もかかります。そして多くの場合、検証した結果「需要はなかった」とわかって終わります。

だから僕は、すでにお金が払われている市場を狙うべきだと考えています。

すでにその課題を解決するためにお金を払っている人がいる。
需要があること、お金を払う価値がある課題であること、払う人が一定数いること。この三つを一発で証明してくれます。

自分で需要を検証する必要がありません。市場が、すでに答えを出してくれています。

例えば、今より10倍良いものを半分の価格で提供できれば乗り換えてもらうことはそこまで難しくありません。

「後発じゃ勝てない」は思い込み

すでにお金が払われている市場には、当然すでにプレイヤーがいます。

ここで多くの人が「後発じゃ勝てない」と考えて、わざわざ新しい市場を探しに行ってしまいます。でも、これは思い込みです。

後発で勝った会社は、いくらでもあります。
Googleは18個目の検索エンジンですし、Facebookも後発のSNSでした。
先行する競合がたくさんいた市場に、後から入って勝っています。

日本企業の例でいうと、フリマアプリのメルカリがわかりやすいです。メルカリが出てきたとき、フリマアプリ市場には先行するフリルがありました。フリルは女性限定のサービスとして、数年間その路線で運営していました。

詳しくは下記記事が参考になります。

下記資料はフリルの元CTOが登壇した資料になりますが参考になります。

会計ソフトのfreeeも後発です。会計ソフト市場には、長年の王者である弥生がいました。freeeの創業は2012年で、サービスのリリースは2013年です。何十年も前から会計ソフトが存在する市場に、完全に後から入っています。freeeは「経理の知識がなくても使える」UIと、銀行口座と同期してAIが自動で仕訳をする仕組みで差別化しました。
先行者が前提にしていた「使う人は簿記を知っている」という暗黙の条件を、ズラしたわけです。
その結果、弥生の牙城を崩すことに成功しています。


企業の口コミサイトのOpenWork(旧Vorkers)も後発でした。口コミサイト市場には先行する競合がいました。OpenWorkは「自分が口コミを書かないと、他人の口コミが読めない」という仕組みと、500文字以上で審査を通った口コミだけを載せるという質の担保で差別化しました。掲載企業数では競合に負けていても、口コミの質と信頼性で居場所を作りました。

丸パクリではなく、1点だけズラす

後発で勝った会社は、市場そのものはパクっています。

フリマアプリも、会計ソフトも、口コミサイトも、誰かが先に始めたものです。後発の会社は、その市場をそのまま狙いに行きました。

でも、丸パクリで勝ったわけではありません。市場をパクった上で、勝ち筋を1点だけズラしています。

メルカリは、ターゲットを全方位に広げてズラしました。
OpenWorkは口コミの集め方の仕組みでズラしました。
freeeは簿記を知らない人でも使えるUIでズラしました。

ズラすポイントはそれぞれ違いますが、やっていることは同じです。需要が証明された市場をパクって、勝ち筋を1点だけズラす。市場検証のリスクを消した上で、競合と差がつく1点を作り込む。これが後発の正しい戦い方だと、僕は考えています。

Winner takes allかどうかを見極める

ただし、すべての市場で後発がうまくいくわけではありません。

ここで大事になるのが、その市場がWinner takes all(勝者総取り)かどうか、という見極めです。

僕の経験では、toCのプロダクトはWinner takes allになりやすいです。ネットワーク効果が強く働くからです。

メッセージングアプリを考えてみてください。日本ではLINEが圧倒的です。みんなが使っているから自分も使う、という構造になっています。フリマアプリも同じで、出品が多いから買い手が集まり、買い手が多いから出品が集まります。一度勝者が決まると、その勝者にユーザーが集中していきます。

メルカリがフリルに勝てたのは、まだ勝者が確定する前のタイミングだったからです。すでに勝者が決まりきったtoC市場に、後から入っていくのは茨の道です。しかも、勝者を覆すには莫大な広告費が必要になります。メルカリも大規模な資金調達をして広告に投下しました。

ここで狙い目になるのが、ネットワーク効果が薄い市場です。

ネットワーク効果が薄い市場は、Winner takes allになりにくいです。誰か一人が使うのに、他の人が使っている必要がないからです。先行者がいても、後発が1点ズラしで居場所を作れます。

その代表例がBtoBです。業種や会社の規模、業務フローによって求められる要件が違うので、1社が市場のすべてを取り切ることが難しいからです。先行者がいても、セグメントを変えれば共存できます。freeeが弥生の牙城である個人事業主の市場を崩しきれなくても、法人の市場で勝てたのは、この構造があるからです。

ただ、ネットワーク効果が薄いのはBtoBだけではありません。BtoCのプロダクトでも、ネットワーク効果が薄いものはたくさんあります。

たとえば翻訳です。翻訳ツールは、自分が使うのに他の人が使っている必要がありません。最近見つけたNaniというAI翻訳ツールが、まさにそうだと思いました。翻訳という市場には、すでにGoogle翻訳やDeepLという巨大な先行者がいます。それでもNaniは、トーン別の翻訳提案やニュアンスの解説、画像の翻訳、データをサーバーに残さない仕組みといった1点ズラしで、後発として居場所を作っています。ネットワーク効果が薄いから、勝者総取りにならず、後発が入り込む余地があるわけです。

つまり狙うべきは、BtoBそのものというより、ネットワーク効果が薄い市場です。BtoBはそのわかりやすい一例にすぎません。

ネットワーク効果が薄い市場で、開発力が効く

そして、ネットワーク効果が薄い市場こそ、ソフトウェアエンジニアの優位性が最も活きる場所です。

エンジニアが事業を立ち上げるときの最大の武器は、ソフトウェアを開発するコストが圧倒的に安いことです。自分で速く安く作れます。複雑な機能をシンプルに作れます。大きくなったものを保守し続けられます。これはエンジニアにしかない優位性です。

この優位性が活きるのは、資金力ではなく製品力で勝負できる市場です。勝者総取りのBtoC市場は、広告資金の勝負になりがちです。いくら開発力があっても、資金がなければ勝者を覆せません。エンジニアの優位が薄まってしまいます。

ネットワーク効果が薄い市場は違います。勝者総取りになりにくく、居場所を作るために必要なのは、莫大な広告費ではなく、競合と差がつく1点をきちんと実装しきる開発力です。エンジニアの優位が、そのまま効きます。

すでにお金が払われている。ネットワーク効果が薄い。製品力で居場所を作れる。この三つの条件がそろう後発市場こそ、ソフトウェアエンジニアが積極的に参入すべき場所だと、僕は考えています。

しかも今は、機能の多さが武器にならない時代

ここまでの話は、いつの時代でも通じる戦略です。でも今、後発にとってさらに大きな追い風が吹いています。生成AIの進化です。

生成AIの進化によって、今まではるかに低いコストでプロダクトを作って、リリースできるようになりました。これは後発にとって、とても大きな意味を持っています。

かつては、長く開発して多機能であることが参入障壁でした。先行者が何年もかけて積み上げた機能の山に後発が追いつくのは大変だったからです。機能の多さが、そのままMOATとして機能していました。

ところが、生成AIで開発コストが激減したことで、機能の多さはMOATではなくなりました。先行者が何年もかけて積み上げた機能に、後発が短期間で追いつけるようになったからです。

先行者の視点で見ると、深刻な事態です。これまで積み上げてきたプロダクトの機能的な価値が、減衰しているということを意味します。長年の開発で築いた優位が、目減りしているわけです。

機能で守れなくなった今、勝敗を分けるのは、どの市場を選んで、どこを1点ズラすか、という設計の方に移りました。作れること自体は、もう誰でもできます。だからこそ、市場選びと差別化の設計が効くのです。

先行者の機能の優位が薄れ、後発が低コストで追いつける。
それが今です。

ダサくてもパクればいい

新しいことをやるのは、かっこよく見えます。まだ誰も気づいていない市場を、自分が見つけた。誰もやっていない市場を、自分が作っていく。響きがいいですし、憧れます。

でも、現実はもっとシビアです。そもそも、作れる市場なんてほとんどありません。

僕が何度も失敗したように、「自分が見つけた」と思った市場の多くは、誰も困っていない課題だったり、お金を払うほどではない課題だったり、困っている人がごくわずかな課題だったりします。新しい市場を見つけたのではなく、ただ需要のない場所を選んでしまっただけでした。

そして、新しいことをやるというのは、ソフトウェアエンジニアの優位性を捨てる行為でもあります。需要の検証からやり直すことになり、開発が安いという最大の武器が活きません。

すでにお金が払われている市場をパクる。ダサく見えるかもしれません。でも、これが一番合理的な戦い方です。

需要が証明された市場をパクって、勝ち筋を1点だけズラす。ネットワーク効果が薄い市場で、開発力を武器に居場所を作る。新しい市場を探し回るより、ずっと勝率が高いです。

ソフトウェアエンジニアが事業を立ち上げるなら、僕は積極的にパクるべきだと思っています。
終わり。

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