ポンコツヤンデレメイド氷渡香名江に監禁された
YouTubeに投稿されている「ポンコツヤンデレメイド氷渡香名江に監禁されたPの反応」という動画の台本を書きました。動画本編はこちら↓
https://www.youtube.com/watch?v=GX3ocWd1xHk&t=1306s
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(……目が覚めたら、椅子に縛り付けられていた)
(何を言ってるか分からないと思うが、俺も何故こうなってるのかが分からない)
「おはようございます。……お目覚めですか、害虫さん」
(隣から香名江さんが顔を覗かせる。しかし、その瞳は冷え切っていた)
「はい」
「……」
「……」
(汚物を見るような目で見下ろされている)
「……」
「……」
(これは……俺の方から話すべきなのか?)
「あの、この状況について何も聞かないのですか? 少しは喚いてみてはどうです」
「……それもそうですね。では、何故俺は拘束されてるんですか?」
「貴方の存在が千奈お嬢様にとって有害だからです。物理的に排除、および隔離させていただきました」
(お、俺が有害……?)
「それは……すみません」
(心当たりが全くないが、彼女の中ではそうらしい)
「……」
「……」
(再び沈黙が続く)
「あの、もっと理由を聞かなくていいんですか? プロデューサーの何が悪かったとか」
「では。香名江さんの気に障るような事をしたのなら謝ります」
「謝罪で済むのなら警察もメイドもいりません」
「……プロデューサー、昨日も千奈お嬢様と馴れ馴れしく触れ合ってましたよね?」
「倉本さんがつまずいて倒れそうになっていたんです」
「駄目です。不潔です」
「貴方のような人間が千奈お嬢様の視界に入ること自体が万死に値します」
「千奈お嬢様の純真な心を守るために貴方にはここで一生反省してもらいます」
(そこまで言うのか……)
「あの、前から思っていたのですが何故そこまで俺に構うのですか? こんな……拘束までして」
「勘違いしないでください。これは『害虫駆除』です」
「貴方は千奈お嬢様をたぶらかす悪性ウイルス……。なので私が駆除することに決めました」
「……香名江さんの警戒心は伝わりました」
「あの、プロデューサー状況を理解していますか?」
「何がですか?」
「私は今、貴方を拘束していますよね?」
(縛った張本人がそれを言うのか……)
「つまり、私の匙加減ひとつで貴方をどうにでもできるということです」
「まあ……そうですね」
(マズい……背中が痒くなってきた)
「な、なんでですか……? なんでそんなに余裕そうなんですか?」
(余裕そうなのが気に食わないのか……?)
「こういう時、普通は怖がったり命乞いをするものでしょう」
「香名江さんは俺に怖がってほしいと?」
(香名江さんがそれを望むなら演技くらいはするが……)
「え、えーと……そうです! もっと私に怯えてみっともなく許しを請うてください!」
「あの、無理しないでくださいね?」
「うるさいですね。貴方が千奈お嬢様に近づくのがいけないんです」
「私が徹底的に教育的指導を施さないと……」
「だからって拘束するのはやりすぎではないでしょうか」
「倉本さんと一緒にいる時間は香名江さんの方が圧倒的に長いはずです」
「当たり前です。私は千奈お嬢様の専属メイドですから」
「ですが、最近の千奈お嬢様は貴方の話ばかり……『先生が』、『先生ったら』……と」
「私が一番千奈お嬢様の事を理解しているのに……貴方なんかに……」
「あの、香名江さん」
(駄目だ……何度声を掛けても返事がない)
(さっきからずっと独り言ばっかだ)
(このままじゃ埒が明かない。仕方ない……)
「か、香名江さんっ!」
「な、なんですか急に大声を出して?!」
「こ……このままじゃマズい……!」
「マズいって……何がですか? まさか、千奈お嬢様の身に何か?!」
「理由は詳しく説明できません! とにかく一刻も早くこれを! 倉本さんが……倉本さんが大変な事に!」
「わ、わかりました!すぐに外します……!」
(……倉本さんの名前を出した途端演技で乗り切れた)
(……案外チョロいのか?)
「外れました……!」
「助かります。……次は外の安全を確かめる必要があるな」
「あ、安全……?」
「香名江さんはここで待っていてください。何かあったら大変ですから」
「私も一緒にいきます! 千奈お嬢様の危機なのでしょう?!」
「香名江さんはここで待機して連絡役をお願いします」
「香名江さんが怪我をしたら倉本さんが悲しんでしまいます」
「プロデューサー……」
「……今ならいけそうだな。少し外の様子を見てきます」
「プロデューサー、どうかご無事で」
(……なんか、普通に脱出できてしまった)
(香名江さん……普段は優秀なのに倉本さんの事になるとああなるんだな)
(一応今度会ったら謝っておこう)
*
「プロデューサー、中々戻ってきませんね……?」
「千奈お嬢様のGPS反応は……」
「……え? もうお屋敷にいる?」
「プロデューサーの居場所は……?!」
「……ここは確か、プロデューサー科の寮だったはず」
「もしかして私、騙されたんですか?」
「千奈お嬢様への忠誠心を逆手に取るなんて……絶対に許しませんよ……」
*
(翌日。俺は何事もなかったかのように放課後まで倉本さんと過ごした)
(倉本さんをダンスレッスン室まで送って事務所に戻る)
(ん……ノック音?)
(何か忘れ物でもしたのだろうか)
「失礼します」
「香名江さん……? 何故ここに?」
「……プロデューサー。昨日、私を騙しましたね?」
「何の事ですか?」
「とぼけないでください。私、信じて待ってたんですよ」
「お嬢様に何かあったのかと不安で……」
(め、目が据わっている……!)
「た、確かに昨日俺は帰りましたが……」
「最低です。やはり貴方は信用ならない嘘つきです」
「昨日はすみませんでした」
「謝罪は結構です。言葉より行動で示してください」
「……では、お詫びと言ってはなんですが何でもひとつ言う事を聞きましょう」
「それは本当ですか? 嘘つきの言葉は信用できないのですが」
「はい。二度は騙しません」
「……では、これから昨日の部屋に来てください。徹底的に『再教育』して差し上げます」
「わかりました」
(あまりリスクが高い行動はしたくないが……仕方ない。素直に従おう)
*
「今お茶を用意します。そこに座っててください」
「わざわざありがとうございます」
(あんな態度だったのにお茶は用意してくれるんだな……)
(それにこの部屋……殺風景だが掃除は行き届いている)
「お待たせしました」
「紅茶ですか?」
「はい。毒は入っていないのでご安心を」
「そんな、疑ってませんよ」
「お茶菓子もどうぞ。残り物ですが」
「ありがとうございます。いただきます」
(また監禁されると思っていたが……)
(驚くほど普通のお茶会だ)
「……美味しいお茶ですね」
「なんか、悪いですね。こんなによくして貰っちゃって」
「……監視です。貴方が千奈お嬢様の害虫になり得るか私がこの目で常に見極める必要がありますから」
「監視、ですか」
「ええ。貴方の行動、思考、癖……全てを把握して管理下に置くのが私の務めです」
「……なるほど。お好きにどうぞ」
(それからしばらく香名江さんと話し……)
*
(……っ)
(いつの間にか眠ってしまったようだ)
「おはようございます。プロデューサー」
(昨日と同じように香名江さんが横から顔を覗かせている)
「香名江さん……」
(……なんか、また拘束されてるな)
「すみません。いつの間にか眠ってしまったようです」
「無防備すぎますね。危機管理能力が欠如していませんか?」
(なんで急に寝たんだ……? ……まさか)
(そんなに疲れてたのか、俺)
「ベッドまで移動させてくれたのは嬉しいですけど、縛る必要ありましたか?」
「プロデューサーは嘘つきですから、目を離すとすぐに逃げ出すでしょう?」
(仕方ない、今回もあの手を使うか……)
「香名江さん!」
「なっ、なんですか?」
「理由は言えませんが大変な事が起きています! 今すぐこれを……!」
(昨日と同じ演技をする)
(多分、迫真の演技だったろう)
「……こほん。その手には乗りませんよ。千奈お嬢様は現在ダンスレッスン中です」
「……成長しましたね」
「やはり、貴方は信用できませんね」
(あの手が通じないとなると……どうしたものか)
「やはりプロデューサーは千奈お嬢様の害虫……」
「……香名江さん」
「なんですか? 害虫さん」
「これを外してください」
「お断りします」
「……俺の全てを把握して管理すると言いながら対話を拒否するんですね」
「きょ、拒否などしていません。これは必要な処置です」
(動揺してる……? このまま押し切れるか……?)
「俺、話を聞いてくれない人は苦手です」
「に、苦手……? べ、別に貴方に好かれようとは思ってませんが」
(少しだけショックを受けているような……)
「これを外してください。ちゃんと向き合って話しましょう」
「だ、だって……これを外したら……また貴方は口先だけで私を騙して……逃げてしまうじゃないですか……」
(……もしかして俺がいなくなるのが嫌なのか?)
「……プロデューサー。貴方は危険因子です」
「だから、私の目の届くところに置いておくのが一番安全なんです」
「それは……俺の安全のためですか?」
「ち、違います! 千奈お嬢様のためです! 貴方が野垂れ死んだら千奈お嬢様が悲しむからで……」
(さっきと言ってる事が違うような……)
(なんというか、重い……というより不器用だな)
「……香名江さん」
「な、なんでしょうか」
「暇なのでトランプでもしませんか?」
「……え?」
「監視するにしてもただ見てるだけだと退屈じゃないですか?」
「……貴方、状況がわかってるんですか?」
「俺が勝ったら拘束を解いてください。香名江さんが勝ったらなんでもひとつ秘密を話します」
「……いいでしょう。その勝負、受けて立ちます」
「ボロボロにして差し上げます」
(勝負ごとになると乗ってくるのは予想通りだ)
「では、今から準備をしますね」
「あの、俺も手伝いたいので少しでいいから拘束解いてくれませんか?」
「シャッフルくらい私ひとりでできます」
(ガードが堅いな……)
「でも、二人で準備した方が効率はいいです。共同作業ですね」
「きょ、共同作業……?」
「はい。なんだかパートナーみたいですね」
「ぱ、パートナー……。別に嬉しくなどありませんが効率を考えるなら……」
「……仕方ありません。片手だけですよ」
(やっぱりチョロいな……)
「ありがとうございます。あ、お手洗いってどこでしたっけ」
「この部屋を出て廊下の突き当りです」
「……逃げないでくださいよ?」
「勿論です。すぐに戻ります」
(香名江さんはパートナ―という単語が効いたのかうっとりしているようだった)
(片手さえ空けば拘束は簡単に解ける)
(今のうちに帰ろう)
*
「……遅いですね」
「トランプ、並べ終わりましたよ?」
「まだ戻ってこないのですか?」
「GPS……」
「……え?」
「もしかしてまた騙されたんですか?」
「パートナーなんて……嘘つき」
*
(……ああ、眠い)
(昨日何故か香名江とのお茶会中に眠ってしまったせいで全然寝付けなかった)
(頭がぼーっとする)
(仮眠でも取るか……)
「プロデューサー」
(香名江さんの声が……)
(幻聴か……?)
「プロデューサー?」
「無視ですか? 良い度胸ですね」
「……無防備な寝顔」
「このまま息の根を止めてやる事もできますが……」
「……いいんですか?」
「このままだとビンタしますよ?」
「……か、香名江さん?いつからここに?」
「やっと目覚めたんですね」
「最初からいましたよ」
「貴方が眠そうにあくびをした時からです」
「ず、ずっと見てたんですね」
「それよりも、また昨日私を置いて逃げましたよね?」
「に、逃げた訳じゃありませんよ」
「トイレに行った後急用を思い出したんです」
「嘘です。貴方は私との勝負から逃げた卑怯者です」
「……すみませんでした」
「貴方はいつもそうです」
「私の言葉を軽んじて、適当にあしらって……」
「やはり、徹底的な管理が必要です」
(か、香名江さんの目に暗い炎のようなものが宿っている……)
「……さっきから眠そうですね」
「すみません。昨日あまり眠れてなくて」
「どうですか? あの部屋で一休みしていくというのは」
「……いや、遠慮しておきます」
「遠慮など不要です。さあ、行きますよ」
(俺の返事を待たずに香名江さんは腕を掴んでくる)
(この細い腕のどこにそんな力が……?)
*
「先にくつろいでください」
「今お茶を持ってきます」
「ありがとうございます」
(流石に3日連続となるとこの部屋にも慣れてきたな……)
「お待たせしました」
「疲れてるみたいなのでリラックス効果の高いブレンドにしてみました」
「いただきます」
(……ん? 待てよ)
(昨日の紅茶、何か入ってたんじゃないか……?)
(今考えれば急に眠るなんて不自然すぎる……!)
(だとしたら今日も何か入ってる可能性があるな……)
「……すみませんあまり喉が渇いてないので後でいただきます」
「冷めてしまいますよ?」
「実は俺、猫舌なんです」
「……そうですか」
「では、冷めるまで私がフーフーして差し上げましょうか?」
「……え?」
「冗談です。そこまでする訳ないでしょう」
(なんとか回避できた……)
「……はぁ。折角プロデューサーのために睡眠不足に効く調合をしたのですが……」
(香名江さんの呟く声が聞こえた)
(……もしかして普通に気遣ってくれてただけなのか?)
「あ、あー……なんか、急に喉が渇いてきました」
「別に無理する必要はありませんよ」
「何か怪しいものが入ってると疑ってるのでしょう?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「喉渇いてるので一気に飲み干したいくらいですよ!」
「ふふ、単純な人」
(香名江さんが珍しく柔らかく笑う)
(その笑顔を見てまたしても俺の意識は眠りへと落ちていった)
*
「おはようございます」
(……何度目だ、この展開)
「すみません。また急に眠ってしまって」
「どうやら俺、紅茶を飲むと眠たくなる体質のようです」
「私は気にしませんよ」
「……嘘ですよね?」
「昨日といい今日といい、紅茶に何を入れたんですか?」
「安心してください」
「身体に害のない、ただの睡眠薬ですから」
「訴えたら俺勝てますよね?」
「貴方がちゃんと眠れてなかったようなのでメイドとして配慮をしただけです」
「配慮の方向性がおかしいですよ……」
「それに、相変わらず拘束もするんですね」
「昨日よりキツくなってますよこれ」
「学習しました」
「ガチガチに縛り上げないと貴方は逃げてしまいます」
「……逃げませんよ俺は」
「信用ゼロです」
「もう絶対離しませんよ」
「貴方が千奈お嬢様の害にならないよう私が一生監視し続けます」
「か、香名江さん?!」
「流石に馬乗りは距離が近すぎませんか?!」
「適正な監視ポジションです」
「それに、これくらい近くないと貴方の微細な表情の変化や嘘を見抜けませんから」
(顔が近い……)
(香名江さん、まつ毛長いんだな……)
「最近、貴方の事を見てるとイライラするんです」
「それは……俺が香名江さんに嫌われてるからでしょうか」
「わかりません」
「でも、胸がざわついて、落ち着かなくなって……」
「貴方を縛り付けて私だけの物にすればこのモヤモヤは晴れるのでしょうか」
「香名江さん……それって……」
「黙っててください」
「私は今、観察中なんです」
(香名江さんの細い指先が俺の頬に触れる)
「……間抜けな顔」
「どうして千奈お嬢様はこんな男を……」
「千奈お嬢様であっても、許せない……」
「貴方は私とずっと一緒にいるべきなんです」
「千奈お嬢様のためにも、世界平和のためにも」
「俺は香名江さんの所有物ではありませんよ」
「……っ」
「口答えしないでください」
「でも、香名江さんが俺の事を真剣に考えてくれているのは伝わりました」
「かっ、勘違いしないでください!」
「これは任務で……!」
「任務だけで、こんな近くで俺を監視するんですか?」
「うぅ……」
「……俺も、香名江さんにお返しをしないといけませんね」
「拘束、解いてくれませんか?」
「……いや、です」
「約束します。俺は逃げませんよ」
「……本当、ですか?」
「今度こそ本当です」
「そもそも、マウントポジションを取られてる時点で簡単に逃げられませんよ」
「……逃げたら、絶対に許しませんから」
(全身が自由になった)
「ふん、どうせ今回も口先だけで……」
(俺は香名江さんの頭に手を置いた)
「……え?」
「いつも倉本さんの為に頑張ってて偉いですね」
(優しく、労うように頭を撫でる)
「なっ……ななな……! 気安く触らないでください!」
「すみません」
「嫌ならやめます」
「嫌だなんて一言も言ってません……!」
(香名江さんは真っ赤になって顔を逸らしてしまった)
「……ずるいです」
「プロデューサーの癖に」
「いつもお疲れ様です」
「……もう少しだけ、こうしててください」
「勘違いしないでくださいね」
「これも監視の一環ですから」
(しばらく撫で続けていたら香名江さんは俺に体重を預けて眠ってしまった)
(一定のリズムで寝息が聞こえる)
「……さて、帰るか」
(寝顔は年相応の少女だな)
「んぅ……千奈お嬢様……プロデューサー……」
(寝言でも俺の事を……)
(敵視されてる訳じゃないんだな、安心した)
*
(今日も事務所で香名江さんを待つ)
(会う約束はしてないがなんとなく来る気がした)
(文句を言われる準備はできている)
「プロデューサー」
「どうぞ」
(事務所に入ってきた香名江さんはいつも通りの服装だがどこか雰囲気が違った)
「今日はいつもより早いんですね」
「……はい」
「大丈夫ですか?」
「何がですか?」
「その、あまり元気がないように見えて」
「倉本さんと何かありましたか?」
「……違います」
「プロデューサーのせいです……」
「お、俺ですか?」
「貴方が優しくするから……」
「頭なんて撫でるから……」
(上手く聞き取れなかったが何かを呟く香名江さんは耳まで真っ赤だった)
「……私、決めたんです」
「プロデューサー。今日もお茶……入れて差し上げます」
「……ええ、お願いします」
(今日はどんな手を使ってくるのか、少し楽しみになってきている俺がいる)
*
「今日はなんの紅茶ですか?」
「……今日は、紅茶ではありません」
「……えっ?」
「か、香名江さん?」
「何故俺は急に押し倒されたのでしょうか……?」
「プロデューサー、貴方は鈍感すぎます」
「言葉で言ってもわからないのなら、既成事実を作るしかありません」
(手に何か持っている。あれは……リボン?)
「て、手錠じゃないんですね」
「手錠だと痛いでしょう?」
「私だって、貴方を傷つけたくないんです」
「……ん、暴れないでくださいね」
(今日も手首を縛られる)
(だけどそれは、自力で解けるほど緩い)
「貴方が悪いんです」
「私をこんな気持ちにさせて……」
「責任、取ってください」
(昨日のような馬乗りになり香名江さんとの距離が近くなる)
「ど、どういう意味ですか?」
「わからないのなら教えてあげます」
「私たちはこれから、共犯者になるんです」
(想像以上にマズい展開だ)
「……千奈お嬢様には内緒ですよ?」
「ま、待ってください!」
「こんな事……倉本さんが悲しみますよ!」
「……っ」
「千奈お嬢様は……関係ありません」
「香名江さんが一番大切にしている人じゃないんですか?!」
「……うるさいです」
「私のこの気持ちはどうすればいいんですか?!」
「千奈お嬢様が一番なのは変わりません」
「でも……貴方のことが頭から離れないんです!」
「拘束して、監視して、ずっと見てたら……」
「貴方のダメなところも、優しいところも、全部……好きになってしまったんです!」
「……香名江さん」
「なのに貴方はいつも余裕ぶって……」
「私のことなんて、軽くあしらって……」
「私、メイドですから」
「アイドルみたいにキラキラしてないし可愛げもありません」
「そんなことはありません」
「私なんて、ただのお世話係で」
「……こんな事、したくないんです」
「でも、こうでもしないと貴方は私を見てくれないじゃないですか!」
「……手、解いてもいいですか?」
「ダメです。逃げるつもりなのでしょう?」
「逃げませんよ」
「貴方を抱きしめたいんです」
「……え?」
(俺は泣いている香名江さんを優しく抱きしめた)
「ぷ、プロデューサー……?」
「すみません。不安にさせていたんですね」
「ず、ずるいです……」
「また、そうやって……」
「俺も、最近貴方の事ばかり考えていました」
「気付いたら好きになってたんだと思います」
「……そんなの、嘘です」
「私は貴方に酷い事ばかりしました」
「ええ。拘束されたり、薬を盛られたりしました」
「……すみませんでした」
「でも、その不器用すぎる行動の裏にある一途な気持ちは伝わってきました」
「倉本さんを大切にする気持ちも俺に向けてくる激重な感情も、全部受け止めます」
「ほ、本当ですか?」
「はい。もう拘束する必要はありません」
「……プロデューサー」
「……うぅっ、大好き、です……」
「もう、絶対離してあげませんから……」
「覚悟の上です」
(こうして俺と香名江さんは付き合う事になった……のだが、問題が)
次の日。
(レッスン終わり。俺は倉本さんの部屋でダンス動画の確認をしていた)
「ここのステップ、凄く良くなりましたね」
「努力の賜物です」
「トレーナーや先生のおかげですわ!」
(倉本さんが嬉しそうに俺に抱きついてくる)
「倉本さん、距離が少し近いですよ」
「いいではありませんか!」
「先生に褒めていただけてとっても嬉しいですわ!」
(可愛らしい無邪気なスキンシップだ)
(……しかし、背後から強烈な殺意を感じる)
「お疲れ様でございます。千奈お嬢様」
「タオルとお飲み物をご用意いたしました」
「か、香名江さん……」
(俺と倉本さんの間に強引に割って入ってくる)
「それとプロデューサー、千奈お嬢様と距離が近すぎます」
(親の仇のような目で睨みつけている……)
「お、俺から近付いた訳では……」
「言い訳は不要です」
「いくら指導の一環とはいえ距離が近すぎます」
「千奈お嬢様の純真なお体に貴方のような害虫が気安く触れるなど言語道断です」
「香名江、先生に対するお言葉が強いですわ……!」
「お嬢様は優しすぎます」
「この男は息を吐くように女性をたぶらかす油断ならない存在なのです」
(さっきから酷い言われようだ)
(俺たち、本当に付き合ってるんだよな……?)
「反省していますか?プロデューサー」
「もし、言ってもわからないのであれば──」
「また『教育』して差し上げましょうか?」
(……やれやれ、この人には敵わないな)