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じゃあ担当アイドルと結婚すれば良くないですかプロデューサー/Novel by Sabafish🐟

じゃあ担当アイドルと結婚すれば良くないですかプロデューサー

3,310 character(s)6 mins

付き合いそうで付き合わないけど付き合いたい人たち

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「何見てるんですか、プロデューサー」
 後ろから覗き込むようにして月村さんがタブレットを覗き込む。いつもの部屋で、いつもの時間。いつもは月村さんの方が先に来ていて「ずっと待ってたんですけど」などと悪態をつくのだが、今日は別件で用事があったらしい。ここで彼女を待つのは久しぶりな気がする。
「あぁ、これですか。ネットニュースです。最近あったでしょう。人気アイドルが結婚して、その相手がずっと隣で支えてきたプロデューサーだった、というのが」
 初めて知り合ったのはアイドルが若い頃。新米プロデューサーとして長きを共に歩み、やがて二人は夢を叶えて結ばれた。絵に描いたようなシンデレラストーリーと持て囃される一方、ファンの心理的には複雑だということで最近話題になっている。
「プロデューサーもそういうの読むんだ。意外。興味ないと思ってました」
「別段興味があるというわけではないですが、世間的なイメージや理想とされる形に合わせてプロデュースのプランを練るのは基礎の基礎ですからね」
「そっか」
 言いながら月村さんは隣の椅子に腰を下ろす。長い髪が艶やかに揺れて、使い古された蛍光灯でさえステージ衣装のように着こなしてしまう。本人は意識していないのだろうが、こういうところはやはり本物のアイドルだった。
「プロデューサーはさ」
「はい」
「結婚願望とかあるんですか。そうじゃなくても、恋愛したいとか」
 こちらに視線を向けないまま、月村さんは努めて普段通りに切り出してくる。上擦った声音が隠せないのはご愛嬌というか、いつものことというか。
「そうですね…今は月村さんがいるので別に恋愛しようとかは」
「え…プロデューサー、それってどういう意味ですか」
「どうもこうも、言った通りですよ。全く興味が無いとは言いません。いつかそういった相手がいれば理想的だとは思いますが、今のところは月村さんがいらっしゃいますので。プロデュースに集中したいなと」
 こちらがそう答えれば、月村さんは微妙そうな顔をする。嬉しいような、なんだか思ってた答えと違うような、そんな微妙に納得しきれていない顔。
「じゃあプロデューサーは、私がトップアイドルになったら、結婚しようって考えてるんですか」
「そういうわけではないですが、ただ俺がするとすればその後ですね。月村さんのプロデューサーをしながら他の誰かと添い遂げるというのは些か難易度が高いかと」
「…え、プロデューサー、もしかしていつか私のプロデューサー辞める気なんですか」
「可能性の話です。今はそんなつもりありませんし、未来の話をするよりも先に明日のレッスンの方が大切ですから」
「でも、やめる可能性はあるってことですよね」
「可能性としては」
「…やめるの、プロデューサー」
「…いえ、やめません。やめませんから、そんな顔はしないでください」
 捨て犬のような表情だった。その表情を前にして「いつか辞めるかもしれません」と宣うほど残酷な精神は持ち合わせていない。
「そもそも、俺以外に月村さんのプロデューサーが務まるとは思えませんからね」
「分かってるなら変なこと言わないで。プロデューサーがふわふわしてるとこっちも調子崩れるから」
「すみません。一生涯月村さんのプロデューサーでいるつもりですので、安心してください」
「い、一生とか、ちょっと気が早いんじゃないですか。大体私まだ高等部に上がったばっかりですし、いや気持ちは別に、嫌とかじゃないですけど、でもやっぱりまだプロデューサーも大学生だし」
「月村さん、落ち着いてください」
「だってプロデューサーが一生とか言うから……」
 顔を赤くして月村さんは恥ずかしそうに目を背ける。怒っているようにも見える素振りを嗜めるように、彼女の視線を覗き込む。
「それくらい本気だってことです。月村さんのプロデューサーを続けるためなら生涯独身も怖くはありませんから」
 結婚願望や恋愛をしたいという感情さえも振り切って貴方に尽くします。俺はそれが出来ます。そんな言葉を月村さんに向けて発する。誠心誠意練りつくした言葉だ。
「……独身のつもりなんですか」
「はい?」
 けれど、月村さんはそれに不服そうな顔をした。頬を膨らませて、駄々をこねる子供のように口を尖らせる。
「すればいいじゃないですか。結婚」
「ですから、月村さんのプロデュースをしながらでは――」
 そういうことじゃなくて、と。月村さんは俺の頬を両手で挟む。叩かれるのかと思って身構えてしまったけれど、どこか添えるような嫋やかさを伴った所作だった。
 濡れた緑の瞳はこちらをまっすぐに見ている。真剣に、わなわなと震える唇で言葉を紡ごうとしているようだった。
「私をプロデュースしてたら、相手に時間や意識を割く余裕が無い。だから結婚や恋愛はしない。そう言ったよね」
「はい、仰る通りです。相手も月村さんも大事にしようと思ったら、とても時間が足りません。ですから控えるつもりだと――」
 ぺち。
 頬に添えられた両掌が頬を軽く叩く。驚いて彼女を見つめれば、耳まで赤くして顔を逸らしている。色白な肌に朱色がよく映えて、そのアンバランスさに目が奪われる。
「月村さん…?」
「プロデューサーはなんでその相手と担当アイドルを別々にしようとしてるの。そんなことしたら時間が足りなくなるのは当たり前ですよね」
「それはそうですが」
「でもプロデューサーは結婚願望、あるんですよね。その相手が見つかって一緒にいられたら理想的だって言いましたよね」
「言いましたね」
 ぎゅっと握りしめるように添えられた指に力がこもった。白魚のような指が頬にわずかに沈み、目の前の月村さんに視線と意識を釘付けにする。

「じゃあ結婚する相手も担当アイドルも、私にすれば全部解決するんじゃないですか、プロデューサー」

 目の前の視線は至って真剣にその言葉を放っている。振り絞るような声が必死さを雄弁に物語っている。結婚相手と、担当アイドル。完全に分けなければならないと自分の中で勝手に考えていた。
 だが確かに理屈は通る。
 担当アイドルと結婚相手を同じにする。仕事の時間でも一緒に時間を過ごせるのであれば、どんなに忙しくプロデュースを行っていてもその関係は成立する――が。
 それは、つまり。

 丁度眺めていたネットニュースの見出しのように。
 月村手毬と、プロデューサーが結ばれるという前提の話というわけで。

 言葉に詰まる。何を言おうか、迷って、迷って、それでも想いに応えるように、卑怯な言葉を口にする。
「…月村さん」
「……何。プロデューサー」

早くトップアイドルになってください・・・・・・・・・・・・・・・・・

「――っ、それって」
「俺から言えることはそれだけです。月村さんの言う通り、俺はまだ大学生で月村さんは高等部の生徒ですので。それからのことはトップアイドルになってから考えましょう」
 これ以上の話を、今するわけにはいかない。あくまで世間話にとどめておかねばならない。今はまだ、ただの新米プロデューサーと、トップアイドルを目指す高等部の少女なのだから。
 故に、ここまで。

「…プロデューサー」
「どうしました、月村さん」
「私、最速でトップアイドルになるから」
「はい」
「だから、ちゃんと答え、考えておいてください」

 月村さんの言葉に強く頷いてから、今後のレッスン方針についてのミーティングへと話を切り替える。
 これから二人で歩む未来の先。
 そこにあるのは、互いの気持ちなど、とうに分かり切ったうえでの答え合わせ。
 意味がないはずのそれがこんなにも心を躍らせるのはどうしてだろうか。
 目の前の月村さんも同じ気持ちらしい。
 うっすらと綺麗な笑みを浮かべている。
 互いの気持ちなどもう伝わっているも同然だ。
 なのに。
 ここにいるプロデューサーとアイドルは、想いを伝えたくて仕方がない。

 相手のことが好きなのだと、言いたくて言いたくて、仕方がない。

Comments

  • Lapis48022253

    最高ですわ

    August 19, 2024
  • 猫 永

    最高、最高です… 最高…本当に良い

    July 29, 2024
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