悲願の‘原潜’建造をトランプが承認…韓国のナショナリズムはどう変わるか
核推進潜水艦の燃料の供給を韓国が受けられるよう、大統領に決断をしていただきたいです。
29日、韓国南東部の古都・慶州(キョンジュ)で行われた韓米首脳会談の冒頭で、韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は米国のトランプ大統領に向けこう述べた。
ずばり切り込んだ、という表現がぴったりの瞬間だった。誰も予想していなかったサプライズ発言でもあった。
●トランプの「承認」
・北朝鮮と中国を見越して
核推進潜水艦とは、韓国メディアでは省略して「核潜水艦」とも呼ばれるが、いわゆる原子力潜水艦のことだ。本文では原潜と称する。
ちなみに韓国政府は、「核潜水艦」という呼称を使いたがらない様子がある。核兵器を発射する潜水艦というイメージを嫌ってのものだ。
事実、冒頭の発言の後に、李大統領はこう続けている。
韓国が核兵器を積載した潜水艦を作るというのではなく、ディーゼル潜水艦の潜航能力が落ちるため、北韓(朝鮮民主主義人民共和国、北朝鮮)や中国の潜水艦を追跡する活動に制限があります。
このため、燃料供給を許可していただくことが可能ならば、韓国の技術をもって在来式(訳注:核兵器以外の兵器)の武器を搭載した潜水艦を数隻建造し、韓半島の東海(日本海)と西海(黄海)の海域を防御する活動をすれば、米軍の負担を相当程度減らせると考えます。
この発言に対し、トランプ大統領は即答を避けたが、肯定的な反応がメディアを通じ伝わってきた。そして30日朝、トランプ大統領は自身が所有するSNS「Truth Social(トゥルースソーシャル)」上で、韓国の原潜建造を「承認」したことを明かした。
・韓米協力の一環にも
トランプ氏はさらに、韓国の原子力潜水艦をフィラデルフィアの造船所で建造するとした。そして「わが国の造船業はまもなく大復活を成し遂げる」と、独特の表現で締めた。
なお、同造船所は韓国の造船大手ハンファグループが昨年12月に1億ドルで買収している。
韓国が米国との関税交渉を打開するために提案した大規模な造船業での対米協力計画「MASGA(Make American Shipbuilding Great Again)」プロジェクトの一環だ。
1970年代には世界一だった米国の造船業は今や、見る影もない。そこで世界トップの技術と高付加価値船の受注量を持つ韓国が助け船を出すという計画だ。
その嚆矢となる場所で、象徴的な第一号原潜が建造されることになった。着工する場合、李在明政権の「レガシー」になることは確実だ。
一連のトランプ氏の発表を受け、韓国メディアはこれを一斉に報じた。
さらに、FacebookをはじめとするSNSで、国際政治、北朝鮮、核技術、外交といった様々な分野の専門家が私見を述べ始めた。特に李在明氏の政治的基盤である、進歩派与党・共に民主党の支持者とみられる人々は喜びを隠さない。
今回の「合意」の実現には時間がかかる。
30日、韓国の姜東佶(カン・ドンギル)海軍参謀総長は国会の国防委員会で行われる国政監査に出席し、「(原潜の)建造には10年以上がかかる」と展望した。
争点も少なくない。
専門家の意見をまとめると、▲原潜建造技術の移転はあるのか、▲韓国が小型原子炉の実験をどう行うのか、▲それとも米国が完成品を韓国に売るのか、といったテクニカルな点から、▲韓国は原潜を運用するにあたりどのような国際的な立ち位置に立つのか、▲その戦略はどうなのか、▲中国とはどう折り合いをつけるか、という大局的な点まで、様々な議論を呼ぶことになる。
●韓国世論に与える影響は
いずれも重要な視点だ。しかし私は今回の決定が、韓国のナショナリズムにどんな影響を与えるのかに関心を持っている。
・原潜建造の背景に「自主国防」
既に日本メディアでも報じられているように、原潜保有は韓国の宿願であった。その契機は1993年の北朝鮮のNPT(核拡散防止条約)脱退にさかのぼる。当時の大統領、金泳三(キム・ヨンサム)が原潜建造を指示した。
当時、より原潜関連ノウハウに長けたロシアに接近した。2008年までに9隻を実践配備する計画であったが、船体設計の技術力もない状態であったとされる。
次に原潜開発が盛んになったのは、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時だった。盧氏は原子力研究所を通じ、原子炉の設計図まで完成させたという。だが、IAEA(国際原子力機構)の査察と、メディアによる計画の暴露、さらにイージス艦やアパッチヘリへの予算配分といった事情や技術・人材の不足により、計画は中断した。
最後に原潜建造への意志を見せたのは文在寅(ムン・ジェイン)政権だった。2021年から25年までの国防中期計画に明記されたが、意志の不在(南北対話があったのでなおさらだろう)と、米側の技術供与拒否により前に進まなかった。
原潜建造は、韓国の「自主国防」構想と軌を一にする。これは文字通り、自らの国は自らの力で守るという考えだ。これを誰よりも主張したのが、故盧武鉉大統領だ。
盧氏は2003年8月15日の「光復節(大日本帝国からの解放を祝う日)」の演説の中で、「今後10年以内に我が軍が自主国防の力量を持つ土台を作りたい」と語った。
「(1948年の)政府樹立から55年が経ち、世界12位の経済力も備えている。自らの責任で国を守るときが来た」というものだ。
当時、韓国のファン・ビョンム国防大教授は韓国の月刊誌『新東亜』04年7月号で、自主国防について「駐韓米軍と韓国軍の戦力をもって北朝鮮の脅威に対抗する基調の上に、いずれは韓国軍だけの戦力で北朝鮮をうわ回ること」と定義している。
これは今も変わらない。「国防において主導的な役割を果たせるようにする(同教授)」基盤の上に、南北の平和繁栄を追求するという形だ。
戦時作戦統制権の返還(回復)と共に、自主国防は進歩派の信念ともなっており、これが今回の原潜建造を進歩派市民が喜ぶ素地となっている。
韓国も新兵器の開発に余念がないが、核兵器とその運搬手段を日増しに高度化させる北朝鮮を抑止するためには、「核」と名のつく戦力が必要であるという認識が根底にある。
・韓国のナショナリズム
先にナショナリズム、といったがこれは韓国の今を理解する重要なキーワードである。私は普段、韓国に住んでいるため、これを感じることが多い。
韓国のナショナリズムには二つの側面がある。
まずは、韓流に代表される世界的な「Kカルチャー」の拡散、昨年12月の尹錫悦(ユン・ソギョル)大統領(当時)による非常戒厳の粉砕による「Kデモクラシー」の効用性の確認から来る、肯定的な自負心がそれだ。
もう一つは、発展途上国を下に見て、人口の5%に達する国内の移住外国人に関心を持たない民族主義的指向や、混迷を極める世界において、韓国の役割から目を背ける自国中心主義といった否定的な側面がある。
こうした前提の下、今回の原潜建造「承認」はどんな意味をもたらすのだろうか。以下の三つの分野を中心に考えてみた。
(1)北朝鮮への対抗心の充足
本稿の冒頭で引用した韓米首脳会談の公開発言の中で、李大統領は「大韓民国の現在の防衛費の支出水準は、北韓(北朝鮮)の1年の国内総生産の1.4倍に達するほどに圧倒的に多い」と述べている。
文在寅大統領もまた、2020年6月の『朝鮮戦争(6.25戦争)70周年記念辞』において、「韓国のGDPは北韓の50倍を超え、貿易額は北韓の400倍を超える。南北間の体制競争はずいぶん前に終わった」と述べた。
こうした認識は、北朝鮮への優位を可視的に体感できるものだ。幅広い韓国人に共有されている。
しかしこんな一種の「上から目線」を打ち砕くのが北朝鮮の核兵器だ。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が2024年時点で「50発」と推定する核弾頭のいくつかは、韓国に向いていると考える場合、この優位は消し飛んでしまうのだ。
この不安が賛成6〜7割という、韓国の高い核保有世論を支えている。
原潜の存在は、この韓国最大の懸案を打ち消してくれる。北朝鮮が持たない「核」関連技術と戦力を韓国が保有する安心感は今後、北朝鮮への認識にどんな変化を及ぼすだろうか。
おそらく、今よりもさらに北朝鮮住民の苦境といった北朝鮮の内情への無関心が進み、北朝鮮への精神的優位を取り戻すことになるだろう。南北平和への第一歩とはならない予感が強い。
(2)海外への雄飛というイメージの充足
米国の原潜建造「承認」と共に、SNSで何度か目についた単語に、「張保皐(チャン・ボゴ)」がある。
800年代前半に、当時の朝鮮半島にあった統一国家・新羅で活躍した人物で、新羅人の人身売買を行っていた近海の海賊を掃蕩し、中国(唐)や日本と貿易を行ったとされる。韓国ではテレビドラマのイメージと共に「海神」や「海上王」とも称される人物だ。
その名は韓国海軍初の潜水艦に付けられ、さらに初の原潜プロジェクトにその名が受け継がれている。
しかし、原潜保有の高揚感がこうしたイメージと結びつき、さらに韓国の「自国中心主義」を助長しないかと不安になる。北朝鮮の核兵器が内向きとしたら、韓国の原潜にはまるで、外向きの開放的なイメージすらある勢いだ。
意外なことに、韓国が国際的にどんな役割を果たしていくのか、そしてそれを市民が理解し、支えていくのかという議論は韓国にほとんど存在しない。
その過程なくして、原潜保有が肯定的な結果を残すことは難しいだろう。
(3)「平和な核利用」という自己満足
原潜保有は、NPTに抵触しない。NPT加盟国は原潜を保有できる。このことから、繰り返しとなるが、韓国の原潜保有は独自核武装を行わずとも北朝鮮に対抗できる、有用な手段となる。
だがこれは、韓国市民が「北朝鮮とは異なる『平和な核利用』」という自己満足に陥る可能性を秘めている。
実際に、韓国が原潜を持つというのは、日本もそれを持つことを意味する。
さらに既に原潜導入を明言している北朝鮮の計画も前倒しにするだろう。互いに軍備増強を行い、結果として安全保障が悪化する「安全保障のジレンマ」を地で行く形となる。
その先に何があるのかは誰も分からない。世界における核兵器の問題から目をそらし、韓国だけに関心を持つような現状の中で、原潜導入が解決策になり得るのだろうか。原潜が議論を打ち消すような事態になってしまわないか。
●結論:目的は何か
原潜保有が正当化されるためには、韓国社会で広く、長期的な国家生存戦略に原潜がどう位置付けられるのかという議論が行われ、同意に達する必要がある。
そこには当然、北朝鮮や中国・ロシアとの関係をどうするのかといった話が欠かせないだろう。これをスキップする場合、原潜導入は韓国のナショナリズムの負の側面を助長する結果をもたらすという恐れがある。
結果として、80年続く南北分断を、さらに強固にすることにもなるだろう。原潜導入を「国家の慶事」と受け止めるような雰囲気を前に、暗い考えが頭から離れない。(了)
【参考資料】『トランプ2.0時代、韓国の核推進潜水艦保有のための国際協力方向』(2025年6月、世宗研究所・鄭成長、ピーター・ウォード、韓国語)