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南の楽園で「発達障害児8年で44倍」の衝撃 対岸の火事か、日本の縮図か 各地で頻発する水の“異変”

ジャーナリスト
農薬を減らして生きものが豊かに暮らす水田を取り戻し、国の特別天然記念物トキの復活に成功した新潟県の佐渡島(筆者撮影)

発達障害児が急増している宮古島で、その原因と疑われている農薬による地下水汚染。宮古島では大きな問題となっているが、全国ニュースではまったくと言っていいほど報じられていない。しかし、同様の地下水汚染や河川汚染、水道水汚染は、実は近年、日本各地で起きている。必ずしも「対岸の火事」と看過できない状況だ。

(前回までの記事はこちら)

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元農相が講演

宮古島に滞在中、島内のコンベンションセンターで「未来の子どもたちのために地下水を守るセミナー」と題した無料のイベントが開かれた。市民グループ「宮古島の地下水を守る会」が主催し、元農林水産大臣の山田正彦さんが講演した。

山田さんは政治家を辞めてからも全国を回って農業の立て直しを訴えている。講演では、日本でも欧米のように有機農業が広がりつつあり、それに伴い各地の小中学校で有機給食を導入する動きが盛んになっている現状を紹介。宮古島でも有機給食を推進することが地下水の安全を守ることにつながると説いた。

同じ日に偶然、別の場所で人気イベントが開かれたことから、人が集まるか主催者は気を揉んでいたが、蓋を開けてみると予想を上回る260人強の市民が参加。守る会の関係者の目撃では、少なくとも全市議会議員の3分の1にあたる8人の市議の姿があった。

この関係者は「これまではセミナーを開いても、来てくれる市議はせいぜい1人か2人だった」と語り、地下水汚染問題に対する島民の関心の高まりを指摘した。

島外からも視察に

参加者の中には本州のとある自治体の議員もいた。この議員の住む地域では近年、沿岸の魚介類の漁獲高が激減しているという。それを裏付けるデータも見せてもらった。

原因は不明ということだが、議員は、陸地から河川や地下水を経由して海に流れ込む農薬や有機フッ素化合物(PFAS)など化学物質の影響を可能性として疑っているようだった。それで宮古島の地下水汚染問題にも関心を抱き、調べに来たという。

以前、松枯れ病対策としてネオニコチノイド系農薬を空中散布していることが問題となった長野県のある地域からも関係者が視察に来たという話も聞いた。宮古島で起きていることはけっして対岸の火事ではない。そう思う人は日本各地に大勢いるようだ。

宮古島市内で開かれたセミナーで講演する山田正彦・元農相(筆者撮影)
宮古島市内で開かれたセミナーで講演する山田正彦・元農相(筆者撮影)

同様の問題が各地で次々と

実際、全国ニュースにはほとんどならないが、宮古島と同じような化学物質による環境汚染は近年、多くの地域で起きている。

東京大学大学院の山室真澄教授が2022年に秋田市内の水道水を調べたところ、最大で欧州連合(EU)の水質基準を8倍強上回る1リットルあたり868ナノグラムのジノテフランが検出された。ジノテフランはネオニコチノイド系の殺虫剤で、稲作によく使われるため、日本ではよく検出される農薬の一つだ。

翌年に行われた同様の調査では、EU基準の約30倍の濃度にあたる1リットルあたり3063ナノグラムのジノテフランが検出された。

島根県の宍道湖では1993年を境にウナギとワカサギの生息数が激減した。原因を調査した山室教授は、同時期に周辺の水田で使われ出したネオニコチノイド系農薬との関連を指摘した。

公益財団法人日本釣振興会(日釣振)によると、釣り人に人気のウグイ、オイカワが20年ほど前から全国各地の河川でどんどん釣れなくなっているという。日釣振は独自調査の結果、ネオニコチノイド系農薬の影響を疑い、現在、専門家の協力を得て本格的な調査を進めている。

佐渡島の取り組み

一方、行政、農業協同組合(農協)、農家が協力して水の汚染を含む環境汚染の低減に取り組み、実績を上げている地域も増えている。

宮古島と同じく周囲を海に囲まれた佐渡島(新潟県佐渡市)は2004年、台風で主要農産品の米が大凶作に見舞われた。それによって他の産地に奪われた市場シェアはなかなか回復せず、佐渡の経済は大ピンチに陥った。

起死回生を狙って打ち出したのが、他の産地との差別化を念頭に、農薬や化学肥料をできるだけ使わない、生きものと環境に優しい米作りだった。

折しも佐渡では、絶滅した国の特別天然記念物トキの復活・放鳥計画が進行。トキの放鳥を成功させるには、水田をドジョウやカエル、水生昆虫などトキの餌となる生物が泳ぎ回る昔の姿に戻すことが不可欠で、そのためには生物にとって有害な農薬を極力減らすことが必須条件だった。

かくして行政、農協、農家が一体となって生きものと環境に優しい米作りがスタート。農薬や化学肥料の削減は、農家にとっては収量減のリスクが高まり、農協にとっては重要な収益源である農薬や化学肥料の売り上げ減を意味する。だが、目立った抵抗や反対の動きはなかった。

差別化できなければ島全体が沈没するという運命共同体意識が共有されていたからだ。そして何よりトキの放鳥をいかに成功させるかが島民にとって最大の明るい話題だった。

佐渡島の「トキの森公園」で飼育されているトキ。トキは警戒心が強く、短時間の滞在で野生のトキと出会える確率は高くない(筆者撮影)
佐渡島の「トキの森公園」で飼育されているトキ。トキは警戒心が強く、短時間の滞在で野生のトキと出会える確率は高くない(筆者撮影)

世界農業遺産に認定

2008年、佐渡市は「朱鷺(トキ)と暮らす郷づくり認証制度」を創設した。農薬と化学肥料の使用量を一定量以下に減らすなどして栽培した米を市が認証するもので、認証米にはトキをかたどった認証マークを付与した。

一方、佐渡農業協同組合(JA佐渡)は2015年にネオニコチノイド系農薬の米作向け販売を中止、2018年にはJA佐渡が販売する米の全量をネオニコチノイド系農薬不使用の米に切り替えるなど、生きものと環境に優しい米作りを加速させた。

取り組みがメディアに取り上げられるなどして、佐渡米の知名度は全国的に上昇。2011年、国連食糧農業機関(FAO)は、佐渡市を石川県の能登地域と共に日本初の「世界農業遺産」に認定した。FAOの公式サイトは佐渡市を「トキと共生する佐渡の里山」と紹介している。

農家の生き残り策

有機農業を推進する農協として脚光を浴びている茨城県・常陸農業協同組合(JA常陸)の秋山豊組合長は「有機農業に取り組む理由としては、環境問題を挙げる人もいれば健康問題を挙げる人もいるが、JA常陸が有機農業に取り組む最大の理由は、農家の生き残り」と、10月上旬に東京都内で開かれたイベントで語った。

秋山組合長は、JA常陸のある茨城県北部は耕地の約3分の2が山間地で生産性が非常に低く、安価な輸入農産物に勝つには生産物に付加価値を付けることが不可欠と指摘。

そこで出した答えが有機農産物への転換だった。茨城県の大井川和彦知事や地元・常陸大宮市の鈴木定幸市長の支援も得て、有機農業への本格参入は2022年と比較的最近ながら、他の地域から注目されるほどの成果を上げている。

果たして宮古島は災い転じて福となすことができるか。すべては当事者である島民の意思に委ねられている。

終わり。

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ありがとうございます。
ジャーナリスト

米コロンビア大学大学院(ジャーナリズムスクール)修士課程修了。日本経済新聞生活情報部記者、同ロサンゼルス支局長などを経て、独立。食の安全、環境問題、マイノリティー、米国の社会問題、働き方を中心に幅広く取材。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ、韓国語版も出版)、『仕事ができる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。

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