インタビュー

住宅高騰と排外主義が進む欧州、日本社会も注視を 社会学者が警鐘

聞き手・藤生京子

 住宅費高騰の影響は、欧州などでは人々の政治的姿勢にも及びつつあります。住宅問題に取り組んできた社会学者で高崎経済大学准教授の佐藤和宏さんが現状を解説し、日本社会のゆくえにも警鐘を鳴らします。

 欧州でも住宅費の高騰は深刻な社会問題です。2010年から23年末までに、住宅価格は約48%、平均家賃は約23%上昇し、インフレ率を上回っています。

 影響を受けたのが若者と困窮層です。可処分所得の4割超を家賃が占めるとする調査もあり、家賃は逆進的な税負担のように認識されています。24年の欧州議会選挙前には市民の4分の1が公共住宅の不足やホームレス問題を最重要関心事項の一つに挙げました。

 こうしたなか、欧州で「危機の真の原因は移民」と叫ぶ排外主義が台頭しています。たとえば極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率は住宅費が上昇した地域ほど伸びたことがわかっています。

 実際は、住宅高騰の原因は別にあります。建設コストの高騰や住宅ローン金利上昇などで供給が圧迫されたことに加え、都市部では富裕層による投資用などの住宅購入が広がった。1980年代以降、各国が民営化と規制緩和の政策を進めた影響も大きいでしょう。

 しかし極右政党は、危機の原因をわかりやすく移民と結びつけます。大衆も飛びつく。階層性の強い権威主義社会では、皆が下を向いてペダルをこぐようなもので、偉い人には頭を下げ、自分より下の人を足蹴にする。かつてナチス政権下の人々の行動様式を分析した哲学者アドルノを踏まえ、後続の研究者が「自転車反応」と呼んだ現象を思い起こします。

「住宅は人権」、自己責任ではない

 さて日本です。昨年の都議選と参院選では、外国人排斥を打ち出す政党が躍進しました。都議選を見る限り、家賃上昇率の高い選挙区での当選が目立っていたわけではありません。しかし今後、人々の不満が絶望感に変わっていけばどうなるか。注意深く見ていく必要があります。

 昨年の3大都市圏の人口移動調査では、日本人の転入超過は約11万人なのに対し、外国人は9千人弱にすぎませんでした。人口集中が住宅市場の逼迫(ひっぱく)と家賃高騰を招いたのであって、外国人と結びつけるのは無理があります。

 日本は持ち家政策に偏ってきたうえ雇用と家族への期待も根強く、住宅を手に入れられないのは自己責任とみられがちでした。しかし住宅問題や労働運動に関わってきた私の体験からいえば、これは社会の構造がもたらす切実な問題です。「住宅は人権」なのだと訴えたい。

 社会の分断を広げないためにも、家賃上昇を抑える法整備や公共住宅の拡充など、正面からの住宅政策を急ぐべき時と思います。

佐藤和宏さん

 さとう・かずひろ 1988年生まれ。高崎経済大学准教授。2016年から「家賃下げろデモ」を主催。著書に「戦後の住宅政策と民間貸家・家主」など。

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    安田菜津紀
    フォトジャーナリスト・D4P副代表
    視点

    「偉い人には頭を下げ、自分より下の人を足蹴にする」——家賃問題と排外主義を結びつけ、自らの政治的求心力を高めようとする政治家たちが後を絶たない、という問題。佐藤さんが指摘するように日本でも深刻です。「ファクト」の広がりはフェイクに比べて遅いと言われても、ふと誰かが立ち止まったとき、「外国人と結びつけるのは無理がある」という「ファクト」が手に届くところにあることが大切なのでしょう。また「住まいは人権」を土台に、社会設計を考えることも急務です。

    2026年6月22日 09:06