不正受給が5年で80億円も…障害者福祉は高齢者介護の10倍不正が多い? 「ほかの会社もやってるから」障害児デイサービスのスタッフは絶句

千葉県内の放課後等デイサービスで働いていた元スタッフの女性

 障害者の生活や就労を支援する障害福祉サービス。ここ数年、運営事業者による公的な給付費の不正受給が拡大の一途をたどっている。一体どれぐらいあるのか。調べようとしたが、厚生労働省は詳しいデータを積極的に公表していない。そこで情報公開請求してみた。すると、直近のデータがある2024年度は過去最多とみられることが分かった。20年度からの5年間では、約80億円。それまでの5年間に比べると、2・6倍と急増していた。
 高齢者福祉ともいえる介護保険については、厚労省の担当部署がデータを公表しているので、比べてみると、障害福祉のほうが10倍以上多く不正が起きていることが分かった。なぜそんなことになっているのだろうか。(共同通信=市川亨)

利益を強調し、障害福祉事業のフランチャイズ加盟を募集するSNS上の広告(画像の一部を加工しています)

 ▽役員の言い草にあきれ、退職
 千葉県に住む谷原佳奈さん(仮名)は今年、県内で障害児向けの「放課後等デイサービス」を複数運営する会社に転職した。放課後デイは、障害のある小中高生が放課後や夏休みなどに通って発達支援を受ける施設だ。
 これまで医療や高齢者介護の施設に勤めてきた谷原さん。障害福祉分野で働くのは初めてだったが、求人サイトを見て、障害児を支援する仕事にやりがいを感じて応募した。
 ところが、ほどなくして会社に不信感を持つようになった。病気で休職中のスタッフの名前を使って人員基準を満たしたように装ったり、利用児童数をごまかして報酬を不正請求したりしていることに気付いたからだ。
 放課後デイで約10年働いた経験のあるベテランの同僚に相談すると、その返答に谷原さんは絶句した。「同じようなことをやっている事業者はほかにもいるから」
 谷原さんは会社の役員にも訴えた。「困難を抱えている子どもや親を相手に不正をするのは、裏切りじゃないですか」。そう話すと、こう答えが返ってきたという。「あなたがそういうことを言うのは、現場で一生懸命働いているスタッフを裏切ることになりませんか」
 谷原さんはため息をつく。「自分たちの不正を棚に上げた言い草にあきれました」。「言っても無駄だ」と思って、辞めた。

 ▽就労支援事業所やグループホームでも
 谷原さんが経験したのは、全国に広がる不正の一端に過ぎない。特に放課後デイは著しい。情報公開請求で得た厚労省のデータを見てみよう。
 障害福祉サービスは成人と児童向けを合わせて30種類近くある。2026年1月現在、約176万人が利用している。
 運営事業者には国や自治体から公的な給付費(報酬)が支払われるのだが、自治体が裏付けを取れた分だけでも、20~24年度の5年間で約80億1千万円の不正受給があった。20年度は約14億2千万円だったが、24年度には約23億8千万円と1・7倍に増えていた。
 5年間の不正受給額をサービス種類別に見ると、放課後デイが約29億6千万円で最も多かった。次は、主に精神・知的・発達障害者が職業訓練や生産活動をする「就労継続支援B型」で約10億9千万円。3番目は、少人数で共同生活する「グループホーム」で約9億9千万円だった。
 不正受給以外の理由も含めた事業所の「指定取り消し」などの行政処分は、20年度の183件から24年度には262件に増加。5年間では936件に上る(事業者側の不服申し立てなどで処分が後に取り消されたケースは反映されていない)。法人種別では、株式会社など営利法人が7割を占めた。
 近年は不正の大規模化も特徴だ。24年度は愛知県を中心に各地でグループホームを約100カ所運営していた会社「恵」が指定取り消し処分と「連座制」の適用を受けた。今年は約150億円を不正受給していたとして、大阪市が同一グループの就労支援事業所4カ所の指定を取り消した(事業者側は不服として市を提訴)。24年度の最多記録は今後、更新されることが確実だ。

 ▽財政規模が10年で2倍「ビジネスチャンス」
 不正受給をした事業者には、ペナルティーの加算金を上乗せするなどして自治体が返還を請求する。20~24年度の返還請求額は、合計で約106億6千万円に上る。
 一方、高齢者の介護保険では5年間の返還請求額は約30億3千万円。障害福祉のほうが3・5倍多い。ただ、年間の財政規模(25年度)は介護保険の14・3兆円に対し、障害福祉は4・3兆円と3割程度だ。単純に計算すると、障害福祉のほうが10倍以上、不正受給が起きていることになる。
 なぜなのか。いくつかの理由が挙げられる。
 まず、障害福祉の財政規模がここ10年で約2倍に増えたことがある。医療や介護保険の伸び率を大幅に上回るペースだ。予算規模が元々小さく、ニーズに応じ切れていなかったためだが、見方を変えれば成長産業といえ、福祉の理念よりも「ビジネスチャンス」と捉えた利益目的の事業者の参入を招いた。
 二つ目は開業のハードルの低さ。例えば高齢者の認知症グループホームの場合、運営法人の代表者や施設長、現場スタッフには一定の実務経験や研修の受講などが要件として定められているが、障害者グループホームでは具体的な要件はなし。事実上、「素人」でも事業を始められる。

株式会社「恵」が「ふわふわ」という名前で運営していたグループホームの一つ=2024年6月、愛知県内

 ▽利用者や家族の生活に悪影響
 その結果、事業所の増加ペースに自治体の指導監査が追い付かず、それが不正を許す悪循環に陥っている。
 厚労省は自治体に対し、3年に1度、各事業所へ運営指導に回るよう求めているが、現実には全国平均で6年に1度のペースにとどまる。
 SNSでは近年、次のようなうたい文句で障害福祉サービスへの参入を促す広告が多数現れている。
 「国の給付金で、億を稼ぐ」
 「利回り50%の福祉フランチャイズ」
 福祉関係者は「50%の利益率なんて、不正請求をしなければあり得ない」と口をそろえるが、規制がないため、そうした広告が堂々とまかり通る状況になっている。
 不正は利用者や家族の生活にも影響を与える。2024年に指定取り消し処分を受けたグループホーム大手「恵」。自閉症の息子を入居させていた愛知県内の女性はこう話す。
 「支援の質よりも利益を優先する会社で不適切なケアを受け、息子は行動障害が激しくなってしまった。退去させざるを得ず、私たちの生活も一変した。質の低い事業者はほかにもいて、『福祉』に疑問を感じてしまう」

厚生労働省

 ▽厚労省は「総力戦で対策を取る」
 厚労省は不正の増加に危機感を強め、指導監査の重点化や事業者向け運営ガイドラインの作成など対策を打ち出している。
 増加が著しいサービスについては、新規参入を止める「総量規制」の動きも自治体の間で出てきた。厚労省は、自治体が総量規制をできる対象として、2027年度にグループホームを加える方針。厚労省の担当者は「不適切な事業者への対策は総力戦だ」と話す。
 27年度は3年に1度の報酬改定の年でもあり、財務省は「質の確保と総費用の抑制に向け、さらなる適正化策が必要だ」と主張する。
 ただ、現場からはこんな懸念の声が上がる。
 「報酬を一律に引き下げると、真面目な事業者までしわ寄せを受けたり、本当に必要な人がサービスを利用しにくくなったりしてしまう」

早稲田大の松原由美教授

 どのような対策が必要なのか。早稲田大の松原由美教授(福祉経営)はこう話す。
 「事業者の経営情報をもっと詳しく公表させ、不正をしにくくすること。ITを活用した給付費のチェック強化。実効性のある第三者評価。この三つが必要です」
 第三者評価の制度は今もあるが、十分に機能していない。松原教授は「親の会や障害者団体の力を借り、評価結果を事業所の指定審査や給付費に反映させる仕組みを検討すべきです」と指摘する。
 「そして、何より厚労省も自治体も指導監査の人手が全く足りていない。公務員バッシングで職員を減らした結果であり、それをどう考えるのか。私たち国民も問われています」

 【取材後記】
 悪質な事業者の不正を目の当たりにしたスタッフや、ひどい目に遭った利用者たちに話を聞くと、多くの人は「行政がちゃんと取り締まってくれるだろう」と思っている。
 ところが、強制力のない「指導」で終わったり、調査に1年以上かかったり、何ともならなかったりすることが少なくない。そこで初めて「え? なんで?」とがく然とするのだ。
 私自身、取材を通じて行政が追い付いていないことを痛感する。参入ハードルを上げるか、事後チェックを厳しくするか、少なくともどちらかはしないと、障害のある人の生活が損なわれる事態がどんどん広がっていくだろう。

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