グリーンブック
■映画「グリーンブック」 新宿 TOHOシネマズ
【初出:2019年3月6日 旧ブログ(ココログ)より転載】
2019年のアカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚本賞を受賞した作品。その効果もあってか、平日の昼間にもかかわらず、新宿TOHOシネマズの最大のスクリーンがけっこう埋まってたね。
ストーリーはこんな感じ。
「1962年、ニューヨークの高級クラブで用心棒を務めるトニー・リップ(ヴィゴ・モーテンセン)は、クラブの改装が終わるまでの間、黒人ピアニストのドクター・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手として働くことになる。シャーリーは人種差別が根強く残る南部への演奏ツアーを計画していて、二人は黒人用旅行ガイド『グリーンブック』を頼りに旅立つ。出自も性格も違う彼らは衝突を繰り返しながらも、少しずつ打ち解けていく。」(シネマトゥデイ)
この映画に関しては、日本で最初に紹介された頃(2018年後半くらい)から、おもしろそうなのでぜひ見てみたいなと思っていた。といっても、別に自分の目のつけどころがいいと言いたいわけではなく、当時から「アカデミー賞最有力」とされていた。その前評判通りに受賞しているわけだから、当然期待値も高くなるというものだ。 見終わっての印象としては、インパクト重視系の作品ではなく、非常にスマートにまとまった映画ということだろうか。
基本は「人情話」といっていいだろう。人種差別を扱っているが、戦闘的なメッセージを前面に出すわけではなく、「人と人のつきあいに肌の色なんて関係ないだろ」というしごくまっとうな話を普通に「いい話」として物語化している。 ロードムービーであり、ほんのりコメディっぽい要素もある。脚本賞を受賞していることでもわかるが、本当に思い返してみても、無駄なエピソードや意味のわからないシーンがまったくない。繰り返しを効果的に使う演出もいいし、自然な流れで出てきたエピソードが、さらに後のシーンの伏線になっていたりもする。かなりハードルの上がった状態で見たのが、最初から最後までまったく隙のない名人芸のような映画だと思わされた。
比較するようなものでもないだろうが、日本映画でいえば「男はつらいよ」シリーズにちょっと通じるようなところも感じた。「男はつらいよ」を"ぬるい映画"と見るならば、本作もまた"ぬるい"と言われてしまうのかもしれない。しかし、人種差別のような社会的なテーマをとりあげる場合、本当に痛みを感じるようなインパクトの強い作品と同時に、こういうソフト路線もやはりあるべきなのではないかという気がする。これは光州事件を題材にした韓国映画「タクシー運転手」を見た時にも感じたことだ。本作はステレオタイプな先入観というものを繰り返し否定している。社会問題をとりあげるには"こう"でなくてはならない…というのもまた一種のステレオタイプといえるのではないだろうか。
映画の最後には、主人公ふたりの「その後」が紹介される。実話もの映画によくあるパターンである。それによるとトニー・リップは、ナイトクラブ「コパカバーナ」が再開されると復職し、後に支配人にもなったとある。ところが、自宅に戻ってさらにWikiなどを見ると、そのナイトクラブで数多くの有名人と知り合いになり、その縁で映画にも何度も出演している。晩年の肩書は「映画俳優」である。ちょっと意外だった。
そのトニーの本名は「トニー・ヴァレロンガ」でこれは映画の中でも何度も出てくる。アメリカでもめったにない姓らしい。エンドロールを見ているとその珍しい「ヴァレロンガ」という名前にもう一度出くわした。脚本のニック・ヴァレロンガ氏は、なんとトニーの息子なのだった。実の父親から聴いた話をもとに本作のストーリーを組み立てたのだという。「後日談」をトニーがクラブのマネージャーになったところで終えたのは、それ以上やると身内自慢になると思ったからだろうか。
最後に音楽のことにも触れておこう。ドクター・シャーリーが演奏するのは、クラシックを基調にした音楽だ。劇中でも「黒人のクラシック演奏家には可能性がない」というセリフが出てくるが、1960年代としてはかなり異色な存在だったはずだ。じつは、私も映画を見るまでは、ドクター・シャーリーはジャズ・ピアニストの設定だと思い込んでいた。これまたステレオタイプな先入観というものだろう。
そんな、決してわかりやすいとはいえない音楽を演奏するドクター・シャーリーを、あまり教養のないトニーがすぐに「天才だ」と認めたのはなぜか。可能性としては、トニーはイタリア系なのでオペラ音楽が比較的身近だったのかもしれない。あるいは一流のナイトクラブで一流の音楽を聴いていたので、演奏の良し悪しが自然にわかるくらい耳が鍛えられていたのかも…。いずれにしてもこれも実話ということになる。
(奥さんに言われた手紙をせっせと書くトニーはなかなかかわいい)


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