「この戦争に参加することは私にとって贖罪であり、人生を立て直すことだった」。そう語る目の前の内気そうな女性が“人殺し”とは、とても思えなかった。ロシア軍が侵攻するウクライナの最前線、南部ザポリージャ州。激しい攻防が続く中、殺人などの重罪で服役するウクライナの受刑者らが仮釈放され、戦闘に参加している。
彼らを知ったのは、ウクライナメディアが交流サイト(SNS)に投稿した写真。曇天の平原でタバコを吹かす戦闘服姿の女性受刑者たちの姿が頭から離れなかった。何を考え、戦っているのだろう。人の命を奪い、自分の命を奪われるかもしれない状況下に身を置くことが、罪を償うことになるのだろうか。そんな釈然としない思いを抱え、現地に足を運んだ。(ザポリージャ共同=立田成美)
▽兵員補充のため受刑者を採用
ザポリージャ州は黒海につながるアゾフ海に面する。工業・物流の拠点が集積しているほか、欧州最大の原発、ザポリージャ原発がある。2022年2月の侵攻開始後、ロシア軍はこれらの拠点や原発を制圧。現在は州の7割以上がロシア占領地だ。
今年4月下旬、ウクライナが統制する州北部を車で訪れた。州都ザポリージャ周辺の幹線道路には、無人機飛来を防止するためのネットが道路を覆うように張り巡らされている。街中は絶え間なく空襲警報が鳴り響き、妨害電波の影響でカーナビは使い物にならない。工場群には無人機やミサイルによる破壊の跡が残っていた。
侵攻の長期化で死傷者が増え、兵力確保が困難となり、補充策として受刑者の軍入隊を可能にするよう法律が改正された。そして、2024年に結成されたのが「シュクバル(突風)大隊」だ。志願者は多く、面接などで選抜される。
▽2匹の犬と共同生活を送る3人の女性
女性たちは、州都からさらに車でしばらく走った先の軍訓練場にいた。
明るく快活な長身のナタリア・カメンスカヤさん(40)、長い髪を三つ編みでまとめたおとなしそうなエルビラさん(30)、はにかんだ笑顔がかわいらしいアンナ・ユルチェンコさん(26)だ。
3人はいずれも2025年11月、東部ハルキウ州の刑務所で服役中に志願し、兵士として採用された。ただこれまでの人生、犯した罪、志願した動機はさまざまだ。
受刑者が共同生活を送る一般住宅に案内してもらった。「ウーマ」「ゲルダ」と名付けられた2匹の犬が駆け寄ってきて、3人をうれしそうに出迎える。キッチンで犬と戯れながらお茶を飲み、話を聞いた。
▽「烙印を押されたままでは嫌」【殺人罪・アンナの場合】
「私が裁かれたのは刑法第115条(殺人罪)。懲役7年3月の有罪判決よ」
アンナ・ユルチェンコさんが隣で眠るゲルダをなでながら、ぽつりぽつりと話し始めた。中部ポルタワ州出身。高校を卒業後、レストランの接客係として働く傍ら、がんの子どもたちを支援する慈善団体でボランティア活動をしていた。
殺したのは義父だ。多くは語らなかったが「正当防衛だった」。殺人犯となった自分を恥ずかしく思い、生きていても意味がないと、刑務所で失意の日々を過ごしていたとき、軍入隊の話を持ちかけられた。
「犯罪者という烙印を押されたままでは嫌。これは生まれ変わるチャンスだ」
戦場でウクライナの子どもたちが殺されていく状況にも憤りを感じていた。多くの受刑者が志願したが、面接を経て採用されたのは5人だけだった。
無人機の操縦者になり、ザポリージャ州の前線に配置された。与えられた任務中のコールサインは「X(エックス)」。内向的で謎めいた印象だったからかもしれない。
戦地での日常は心身ともに過酷だ。重い荷物を背負い、十数キロを移動する。無人輸送機による物資が届かず、真冬の拠点から脱出もできず、1週間氷をろうそくで溶かして、のどを潤したこともあった。
それでも誰かの役に立っていると実感できる。厳しい訓練や任務を一緒に乗り越えてきた他の受刑者の女性たちは、気が置けない友達となった。
今では自由時間を利用してオンラインで大学にも通っている。服飾の刑務作業に従事した経験を生かし、いつか服のデザイナーになりたい。
「戦場で死ぬことは考えていない」
▽並ぶ枯れたひまわりと仲間の遺体【大規模窃盗と書類偽造の罪・ナタリアの場合】
「兵士が使っている戦闘服や寝袋を、以前の私は刑務所で仕立てていたの」。 ナタリア・カメンスカヤさんが笑った。北東部スムイ州の工場で働いていたが、子どもが生まれ、自由に働けなくなった。
「友人に少しだけお金を稼ぐ方法を教えてもらった」のが転落の始まり。手を染めたのは「大規模窃盗と書類偽造」。懲役5年2月の有罪判決を受けた。
軍に入れば、まだ10歳の息子に塀の外で会える―。そんな思いで志願した。
初めての任務は衝撃的だった。真冬の前線。大地は霜で凍り付き、枯れ果てたひまわりが直立している。見上げた空には無人機が飛び交い、足元には仲間の兵士たちの遺体が並んでいた。
塹壕の300メートル先までロシア兵が迫り、発砲を受けた。撤退命令を受け、一人称視点(FPV)無人機が飛び交う中を全速力で駆け抜けた。寒さで手や足の指の感覚はなく、額や耳は凍傷になった。無事に仲間のもとにたどり着くとストレスで全身に発疹が広がった。
塹壕で家族の写真を見せてくれた兵士がいた。「娘に会いたい」。だが3日後には攻撃で亡くなった。ついこの間、一緒に腕立て伏せをしたり、冗談を言い合ったりした人たちが存在しなくなってしまうなんて、信じられない思いだった。
国を守ることには、生きがいを感じている。
「人生につまずいたのは他の誰のせいでもなく自分のせい。でも全ては、ここに導かれるためだった」
たとえ侵攻が終わっても「戦士」として生きたいと切望する。
「神よ、皆が生き残ることができますように」
自分に言い聞かせるように、つぶやいた。
▽「撃てと言われたら、撃つ」【殺人罪・エルビラの場合】
「自分にも“何か”ができると示すことができるかも」
刑務所内で軍入隊の話を耳にしたエルビラさんは、未来にかすかな希望を感じた。家族はいない。ある殺人事件を起こし、約2年半服役していた。
採用が決まり、多数の中から選ばれたことをうれしく思う一方、本当に兵士としてやっていけるのか不安に襲われた。
「刑務所に戻ったほうがいいのではないか」
それでも、人生を正しい道に戻すためだと自分に言い聞かせ、訓練に臨んだ。
歩兵兼無人機操縦者としての任務は、最初のころは楽しかった。しかし時間がたつにつれ「これはゲーム内で起きていることではない」と理解し始めた。
自分が何かミスをしたら、実際に味方が死ぬかもしれないんだ―。そう考えると、言いようのない恐怖に襲われることがある。
ただ、戦場という環境に身を置くことに心が動揺することはない。
「行けと言われたら、行く。撃てと言われたら、撃つ。全ての命令に従う」。少し伏し目がちになる。「私はそういう人間なのかもしれない」
▽あすの命は保証されない
3人が射撃する様子も取材した。
「さあ、訓練だ」
女性軍曹が活を入れる。3人は陣形を組み、片膝を立ててしゃがみライフル銃を構える。
「アーニャ、しっかり!」
軍曹が銃の重みにふらつくユルチェンコさんに近づき、構え方を注意する。
「引き金は何回引けばいい?」「3回だ」
パーン、パーン、パーン。
新緑の平原に乾いた連射音がこだました。
軍務期間は「戦争終結まで」とされ、いつ真に自由の身になれるかは見通せない。家で話を聞いた際の穏やかなひとときは、ひとたび戦場に出れば一変する。無人機の羽音、寒さ、仲間の遺体―。あすの命は保証されない。
▽戦場で「更生」は可能か【取材後記】
軍への入隊は、刑務所でしかばねのように生きていた3人に、未来への目標を与えていた。「死中に活を求む」という言葉があるように、あえて命がけの日々に身を置くことで、人は生きる意味を見いだすことができるのかもしれない。
では戦地で戦うことが罪をつぐなうことになるのだろうか。国が定めた罪を、国が入隊と引き換えに許すというなら、確かに贖罪なのかもしれない。
ただ、日々命のやりとりをしている3人が、受刑の本来の目的通り更生し、ごく普通の市民として将来社会に戻っていくことができるのだろうか。それは今後の彼女たちの人生を見てみなければ分からない。
話を聞き終えた後、ピザをごちそうになり、笑顔の3人に見送られて、家を後にした。彼女たちがこれからどんな未来を歩むのか、また知りたいと思った。次に会うときまで、どうか無事でいてほしい。真っ赤に染まった夕焼けを車窓からぼんやり眺めながら、切に願った。
× × ×
たてだ・なるみ
国内地方紙記者、フィリピン・マニラの邦字紙記者を経て、2016年入社。25年4月からロンドン支局員。
英国の中世英語文献学者J・R・R・トールキンの小説「指輪物語」が人生のバイブル。魔法使いガンダルフのAll we have to decide is what to do with the time that is given us(わしらが決めるべきことは与えられた時代にどう対処するかにある)という言葉が座右の銘。