逮捕のトランス女性「留置場で屈辱」 ミスジェンダリングとの指摘も
出生時に割り当てられた性別と、自認する性別が異なるトランスジェンダーの人たちは、警察に逮捕されて留置施設に入る際、どの性別で処遇されるのか。「望まぬ扱いを受けた」と訴える当事者の話をもとに、有識者に課題を聞いた。
「暴れたらシバくぞ」
西日本の都市部に住むリカさん(仮名、20代)は2023年、違法薬物に関する容疑で逮捕された。執行猶予判決を受け、犯罪に手を染めたことを今も反省している。
当時、戸籍上は男だが、精巣を摘出し、膣(ちつ)形成の手術を受ける計画を立てていた。名前も女性らしいと思うものに変えていた。
警察署の留置場に入るにあたり、女性として生きるトランスジェンダーであることを担当者に伝えていた。
だが、リカさんによると、服を脱がされる身体検査には、女性のほか男性の警察官も立ち会った。
「男の人には体を見られたくない」と訴えると、男性の警察官は去り際、「暴れたらシバくぞ」と強い口調で言ってきたという。
入れられたのは独居房だったが、取り調べなどで外に出される際、「男性1名!」と号令がかかることもあったという。
最も嫌だったのは、貸し出された男性用のスウェットや下着を着用することだった。スウェットは胴のあたりに「男」と書かれており、家族が面会に来た際には折り込んで隠したという。
一方、入浴に立ち会うのは女性の警察官で、別の場面でも、「男性扱い」をしてこない警察官はいたという。
リカさんは留置場での約1カ月間を振り返り、「嫌でも『自分は男』と意識させられ、屈辱的なことも多かった。配慮も受けたが、警察官によって対応が異なるのはおかしい」と語った。
弁護士「刑務所と比べると…」
警察署の対応に問題はなかったのか。
リカさんがいた警察署を指揮する警察本部の担当者は「個別の案件には答えられない」と話した。その上で、留置場の運用は刑事収容施設法に基づき、警察庁の「留置管理業務推進要領」に沿って検討されると説明した。
要領はトランスジェンダーの人らについて、戸籍を変えていれば「変更後の性別で処遇」、未変更でも性別変更の審判を受けていれば「他の性別に変わったものと扱う」と定めている。
ともに該当しない場合は「本人の希望、外見上の性別、その他の事情を踏まえて判断」としている。担当者によると、本人の希望は必ず通るわけではないという。
兵庫県弁護士会で人権擁護委員会の副委員長を務める吉田維一(ただいち)弁護士は、要領の規定を踏まえ、リカさんが受けたとされる処遇は「本人の性自認に全く配慮されていないわけではないが、不十分だ」と考える。
要領の規定は、刑務所でのトランスジェンダーの人らの処遇について定めた法務省の指針と比べて簡素な内容で、「現場の裁量が大きく、対応にばらつきが生じるなど混乱を招く要因になっているのであれば、法務省の指針を準用するなど具体的な規定を整備すべきだ」と指摘する。
差別「見過ごされている恐れも」
一方、性的少数者が直面する問題に詳しい本多広高弁護士(東京弁護士会)は、警察側がリカさんに男性服などを貸し出したとすれば、「ミスジェンダリング」と呼ばれる差別に当たると批判する。
留置場などでの性別の取り扱いをめぐっては、関東弁護士会連合会が21年、「被収容者が望む限り、性自認のとおりの性別によって収容されるべき」だと宣言しており、本多弁護士も同じ立場だ。
また、留置場は収容期間が短く、勾留が決定するまで弁護士がつかないこともあり、「差別的な扱いを受けても申し出る機会が得られず、問題が見過ごされている恐れがある」と懸念する。
性的マイノリティーの人権問題に取り組む水谷陽子弁護士(愛知県弁護士会)は「留置場での勾留はそもそも、逃亡や証拠隠滅を防ぐための一時的な措置。他の不利益を被ることがあってはならない」と強調し、「警察側は、留置する人の性自認に照らして適切で、かつ留置管理上のトラブルを防ぐ対応を考えるべきだ」と指摘する。
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- 仲岡しゅん弁護士解説
私は関東弁護士連合会とはまた異なる立場で、「性自認」を基準として被収容者を区分することには反対の立場です。 というのも、「性自認」というのは主観的に過ぎるもので、刑事施設のような場での収容区分においては、客観的な基準としての実質を備えていません。 実際問題、私のところには、「自分はミニスカートが履きたいから性自認が女性なのに男性扱いされている。女性用の刑事施設に入れてくれないのは不当」といった相談も寄せられますが、本人の申告する「性自認」の根拠がその程度のものでしかないといったことも少なくありません。 またドイツでは、極右活動家の男性が刑務所への収監前に、突然、「性自認」が女性だと言いだして、周囲が対応に困ったという報道もありました。 あるいは逆に、身体的には女性のままの人が、「性自認」が男性だからといって、男性用の刑事施設でそのまま処遇するのは実際問題として支障があります。 他方で、トランスジェンダー当事者にとって、刑事施設での処遇上の問題が切実な問題であることも事実です。 ここで本当に大事なのは、「性自認」ではなく、「性自認に基づいた社会生活実態」なのです。 本件記事のトランスジェンダー当事者の場合は、記事を読む限り、社会生活実態が伴っている方のようです。 ただ、昨今のあまりに「性自認」のみで単純に物事を語ろうとする風潮は、そこにあるその人その人の具体的な実情というものを見えにくくしてしまう側面があることを私は危惧しています。 「性自認」という抽象的な観念ではなく、個々の当事者の「性自認に基づいた社会生活実態」こそが考慮されなければならないのです。
2026年6月20日 16:13
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