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日本人の首都圏民は旅行をしない

興味深い話題が「韓国界隈」で盛り上がっている。海外旅行離れで韓国にすら足が遠のいていると話題な中、首都圏出身者はそもそも国内旅行すらしていないんじゃないかというテーマだ。

地方の人たちにとっては、特に田舎の人には都会に出る=つまり東京旅行という一大イベントがあるものの、最初から首都圏に住んでいればその必要もなくなるというのは一理ある。

また、西日本の人であれば東京に行くより韓国のほうが距離が近く、安いということも多い。日本は島国ではあるものの、「隣国」が身近な西日本の地方出身者であれば、東京にも釜山あたりにも行くので、国内外問わず旅行が当たり前になるというのは、首都圏出身の私にはないが腑に落ちる新鮮な話だった。

実際問題、東京都・神奈川県の人々は4割程度しか1泊2日以上の国内旅行をしていない。理由は簡単だろう。首都圏の中に娯楽が何でもあるので旅行をする必要がないということだ。

これは趣味が旅行である私にとっては残念なことだが、しかしよく考えれば当たり前のことではある。海外とかか以前に、そもそも旅行をしないのが4000万人近くが住まう首都圏の多数派住民の常識なのだ。

香港人のパスポート取得率が9割なワケ

日本人のパスポート取得率の低さが論じられるたび「アジア近隣は高いのに」とよく言われる。その理由を以前、香港人女性に聞いたことがある。あっけらかんとした表情で彼女はこういった。「だって香港、狭いからね」と。香港人はその8割~9割近くがパスポート保有者だ。

都市国家である香港の面積は東京都の約半分でしかない。もちろんすべてがビル街ではなく、ビーチリゾートもあれば離島もあるし、北部には農村風景やハイキングのできる山もあるとはいえ、それらが新鮮に感じるのは私たちが余所者だからである。ずっとそこに生まれ育って生きていれば当然飽きてしまうわけである。。市街地は超高層ビルが圧縮された過密地帯だから、なおさら窮屈に感じるはずだ。すると外に出ざるを得なくなる。旅行といえば海外ありきだ。

日本の首都圏は、先進国では最も巨大な都市圏だと言われていて、多彩な地域がある。鉄道網が整備されているので、日帰りで遊べるスポットが多く、わざわざ「旅行」をしなくても満たされる。

すると一定の旅行好きの層以外は、圏の中で満たされてしまう。私が子どもの頃は、泊りがけの用事は親の出身地の東北地方の祖父母の家に行くくらいで、余暇はもっぱら東京ディズニーリゾートだった。先祖代々首都圏出身なら、旅行経験がなくてもおかしくないだろう。

日本人のパスポート保有ピークはコロナ直前

最近よく日本人のパスポート取得率が過去最低だと言われている。では逆に一番高い時期はいつだったのだろうか。「豊かだったバブル絶頂期では?」と誰もが思いそうだが、調べると意外にも2019年だという。コロナ直前の23.8%がピークだったそうだ。

現在では17%だから少なくなってはいるものの、ピークでも2割前後だから誤差の範囲にしか思えない。つまり日本人が海外旅行をしなくなったというのは大袈裟な表現で、もともと少ないというのが事実だ。

では昔の日本人は海外に行って何をしていたのだろうか。以前ハワイ旅行をしたときに、たまたま相席だった海外慣れした80代の老夫婦からこんな話を聞いたことを覚えている。バブル期にはロサンゼルスに行って服を買ったりしていたそうだ。有名ブランドでも東京でも買うことが難しかったらしい。「最近はその辺のアウトレットモールで安く買えるし、便利になったよねえ」と言っていた。つまり昔の日本人はその辺でできるレベルのことをするために海外に行っていたのである。

筆者は平成時代の神奈川県出身だ。子どもの頃から今に至るまで横浜で新しい大型商業施設ができると必ず主なテナントで「日本初出店!」みたいな宣伝文句が謡われていた。あらかた出そろった結果、もう外に行く必要はなくなったということだ。

脱集団と娯楽の多様化で旅行をやめた日本人

戦後高度成長期の日本人は、旅行が大好きだった。「団塊世代」という言葉があるように、プライベートもプライバシーも何もなく、集団行動が基本の時代。社員旅行、地域の寄り合いの旅行など、あらゆる団体旅行が当たり前にあった。若い頃にははとバスに乗り、晩年のいまはクラブツーリズムの利用者だ。

当時は日本がまだ「発展途上国」だったから、東京だって都市文化や娯楽が洗練されていなかった。都会の遊びだって映画館か、喫茶店でジャズか、パチンコか雀荘か競艇くらしいしかなかっただろう。だからみんな長い休みを利用して、国内のあちこちに行ったのだ。

結果、東京から一番近い伊豆方面が活性化した。伊東温泉の「ハトヤ」みたいな巨大ホテルが乱立し、熱海は新婚旅行の聖地になった。

だがこういう感覚は60代の両親の世代ですらほとんど終わっている。バブル時代の若者は、自由で贅沢な東京の都市文化に没頭し、反動的に旧来の集団行動を毛嫌いし、「国内の田舎に行ってもしょうがない」と思うようになった。(その感覚は、首都圏では今のZ世代の若者にもはっきり共有されているように見える)

それでも少子高齢化で老人人口が多いために、団塊世代をアテにしていれば観光商売は成り立つので、平成以降も観光地に行けば老人だけは見かけるようになり、若者の姿は消えた。インバウンドバブルが起きるまで、日本の地方観光地はどこもかしこも青空老人ホームみたいな感じだった。さもなくば、その老人さえも消えて廃墟と閑古鳥の光景だったのだ。

今の若者は趣味がないと遠出をしない

現在の若者を見ていると、旅行をしたのは高校の修学旅行が人生最後という人が多いようだ。では若者は首都圏に籠るのみなのか?

実は一方で、特定の層に限れば旅行ではない「余暇の遠出」自体はバリエーションが増えている。例えば推し活である。先日も嵐の解散ライブで、地方都市の交通機関やホテルがパンクしたことが話題になっていたように、若い女性が、特定のアイドルグループを追っかけるためには、有休も消化し高い新幹線・飛行機代もはたいて日本のどこにでも行くということは当たり前だ。K-POPファンなら国境を越えて韓国にもいくだろう。

またYoutuberのスーツ君のような鉄道オタクの青年が「乗り鉄」のためだけに全国を回ることもある。稚内からゆいレールまで鉄道は全国に路線網がある。ただし、会社を立ち上げるほどには旅行趣味でもあるスーツ君と違い、多くの鉄道好きの男性は路線や車両だけにしか興味はない。スキー場行きの臨時列車に乗っても、「鉄分」さえ補給すればゲレンデで滑ることなくそのままとんぼ返りで大満足なのだ。

フィギュアスケートが好きとか、特定の動物が大好きでその生き物がいるのが遠方の動物園でしかないとか、そういう趣味人であれば、全国どこでも行くのが今の若者だ。しかし、趣味に該当しない旅行は絶対にしないし、趣味がなければ首都圏から出ないのが多数派の傾向のように見える。

旅行商売には「現代の多数派国民」との接点づくりが必要

私は旅行が好きである。国内も海外もいろんな場所に行くのが好きだ。だからこそ、同僚から「また旅行に行ってきたの」と言われるなどして、世間の周りの首都圏民がほとんど旅行をしないという事実にも気づかされるし、それは旅行商売にとっての脅威ではないかと考える。

繰り返すがいま日本の観光地は「老人と外国人」で成り立っている。団塊世代と言っても厳密な定義でいえば80歳近い人たちだ。人口が多いので気づきづらいが、まもなくいっせいに平均寿命を迎える。その下のバブル世代も老人だが、旅行をしなくなった第一世代だ。

また、いつまで円安が続くかもわからない。日本終わった系の悲観論をヒステリックに煽る左翼は「円安が一生続いて経済破綻を起こして日本は滅ぶ」と呪いの願望を唱え続けているが、経済はそんな単純なものではない。バブル崩壊後の民主党政権がバブル期以上の歴史的円高だったように、現実にはどこかでまた持ち直して、円高にふれる日が来るだろう。

しかしそうなってからが旅行業界や、観光客をあてにしている地方には真の危機である。団塊世代はこの世にいないし、外国人観光客も「高い日本」を避ければ、国内旅行先は空っぽになってしまう。人口が最も多い首都圏民が足を運ばなければ、地域にカネは落ちない。首都圏や逃げ切れそうな大都市(仙台・札幌あたりより上)以外は、総崩れだってありえなくはないだろう。

旅行商売を生業にしている会社や、観光客を誘致することで地域経済が成り立っている地方は、目先のインバウンドバブルで浮かれ、シニアツアー相手の既成のビジネスモデルに甘え、こうしたいつか必ず来る「明日の風景」に目を向け、その備えをすることを全くしていないように感じられる。国内旅行をするたびに、本当に大丈夫なのかと思う。

自分みたいに遠方に足を運び、史跡をめぐって郷土史を考えたり、地域の文化に触れれば満足という人は大手アイドルグループの追っかけよりもさらにニッチな趣味だ。しかし世間の多数派は、「推し活」にもやんわり引いているくらい当たり障りのない人だ。

ネット時代になると尖った存在ほど目立つので誤解するが、そのような安定した多数の層に向けた施策が、今の日本の旅行商売とか地方には三たたらない。そういう普通の多数派の首都圏の人間が行って楽しめそうなものはほとんど見当たらないのだ。

バブル崩壊時期のどん底を脱し、大量の老人と外国人で喰えていて経済的なゆとりのある「猶予期間」のいまこそ、旅行商売をする会社や地方自治体は、対策を考え、先手で実行すべきだ。そうしたことができる集団だけが今後生き残ると確実に言えるだろう。

「熱海の若者人気」から学べること

熱海はバブル崩壊後、ホテルが潰れて廃墟だらけのさびれた観光地になった。しかし今、驚くほど持ち直している。「インスタ映え」する食べ歩きが若者に好評だというが、以下の指摘こそが最大の理由ではないだろうか。

照井氏の言う通り熱海はウォーカブルだ。熱海は東海道線で1本で行ける。SUICAをチャージして普段乗りなれた通勤電車の終着駅を出れば駅の目の前に温泉街が広がっている。湘南のベッドタウンからなら都心に行く程度の所要時間だ。昔の世代には考えられないことだが、旅館に泊まらず日帰りで帰京する若者も多いだろう。

これは若い世代からすれば、「旅行」ではなくレジャー、もっといえば街で遊ぶ感覚に近いのではないかと思う。遠くの地方とか、まして外国に行くほど身構える必要はない。レトロ人気であえて古い場所をめぐる人もいるだろうが、昔の熱海は古臭い食堂や土産物屋しかなかったが、今では原宿にもあるような雰囲気の路面店(こういうときに原宿を例えに出す行為自体がいい加減古そうだが)がスイーツを売っていたりする。私も数か月前に彼女と熱海を歩いてびっくりした。

この熱海のような感覚を持てる場所が重要ではないか。「萌えおこし」みたいな特定のマニアにしか刺さらない一時的なバブルで終わる手法に逃げず、多数派の若者の視野の中に入り、余暇活動の選択肢に選ばれる場所に土地を切り替えたという成功例は、本当に多くの地方が参考にすべきことだと思う。

筆者は台湾に旅行した時に、台北以外の地方都市に行っても、「台北的な」今風の若者向けのお店が多いことに驚いた。南部の都市・台南の神農街なんかもレトロな合間にリノベーションしたカフェがあり、熱海に雰囲気が近いだろう。台湾新幹線の開業で南部も日帰り圏になったことが、台湾全体を巨大なレジャー圏にしたといえる。

いずれにしても、首都圏民は旅行をしないのが普通だし、その普通の人たちをどう引っ張るかがカギだ。幸か不幸か、今の東京は平成初期ほどの浮かれた街ではなく、渋谷は都市文化的にはスッカラカンになり、若者はみんな東京に生きながら東京に退屈している。このチャンスをモノにした地域が最後に笑うのだろう。





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