「うちの場合は、職人が3人1組のチームで動きます。現場が日ごとに違うこともあって、朝会社に集合して、社用車に乗り合わせて現場に向かうんです。運転はリーダーがするのが基本ですが、移動時間に簡単に打ち合わせしたりとか、前回の申し送りの確認というか、雑談も含めつつ情報交換をしておくことが多いんです」
「移動時間だけど、仕事の話もするということですか?」
「仕事の話って言っても、本当に図面を見てどうこうということはなくて、こないだこうだったよな、みたいな確認が多いんですよ。単純計算なら、仕事の話は5分くらいです。早朝から現場に入るときはリーダー以外寝ているときもあります。一緒に移動しているので、眠気覚ましもかねて雑談しながらお互いの状況とか、他のチームの話とかもしている感じです」
「なるほど。聞いていないと仕事に支障が出るわけではない?」
「ええ。現場でもブリーフィングはしますし、社内の会話がほぼ雑談ですから。でも、……Aはこういう時間、一人だけイヤフォンをしてスマホを見ているらしいんです。昼休みも輪に入らず、スマートフォンでゲームをしている。たぶん、みんな最初は若い子だから、とか、まだ学生気分が抜けていないんだろう、と思って大目に見ているというか、協調性がないことについては気にしつつ、そもそも注意することか? みたいな疑問も出てきたようで」
社長はため息をつきました。この会社では移動時間は運転をしている社員を除き休憩時間扱いとしています。休憩時間は自由利用が原則ですし、仕事の必要事項は現場でされるのですから、会話の輪に入らなくても特に問題はないはずなのです。
「でも、Aは仕事をなかなか覚えられなくて。うちは現場仕事ですから、小さなミスが重大事故につながります。だから、他の職人の指導も厳しくなるし、危ないときは声も荒げることもあります。でも、みんなそうやって仕事を覚えてきたんです」
ベテランの職人が激怒した「一言」
社長の話では、現場でミスを連発するAさんに対して「そこ危ないって言っただろ!」「何回同じことやるんだ!」といった怒声が飛ぶこともたびたびだったそうです。Aさんはそのたびに「はい」と素直に返事をするものの、また同じミスをする。おなじ作業を一度見せて、本人にやらせて、と教えてもなかなか覚えられず、翌朝になるとすべて忘れてしまったかのようにまごついている……。