ヘルシーでいるために――米津玄師が向き合う「内側からの解体」#アジア文化最前線
一方で、米津は、リアルタイムの洋楽をいち早くJ-POPに落とし込んできた。 「一つのコミュニティーの中にいるというのが絶望的に向いていないんですよね。なので、どこへ行っても、最終的にはちょっと半身で接するようになってしまう。いろんなところを越境したいという気持ちはすごく強くあるし、そういうふうに音楽を作り続けてきたのが、自分に一番心地よかったというか。それをすることによって、翻ってどこにも従属しなくて済む。J-POPという総称には、そういう『どこにでも居たいしどこにも居たくない者』を受け入れる懐の広さというか、ある意味での希薄さがある」
「自分」に戻り「ヘルシー」でいる
昨年、米津玄師は宇多田ヒカルとのコラボ「JANE DOE」、社会現象級のヒット「IRIS OUT」を含む5曲のシングルをリリース。破竹の勢いで活動した。本人はその状況を冷静に見つめ、今を「狭間の時期」と捉えているという。 「あのままの(初期衝動に立ち返るような)気持ちでやっていっても、たぶんどこかで疲弊するだけで『あんまりヘルシーじゃないな』という感じがあったんです。そういうモードとは一回離れて『今の自分にできることって何なのかな?』といろいろ考えながら、やるべきことをやり続けていく。今はそんなモードな気がします」 そのモードは、「2026 NHKサッカーテーマ」として書き下ろした新曲「烏」(からす)にも表れている。繰り返されるのは、来た道を「辿り直す」という言葉だ。
「一回、ヘルシーにいるために『自分の空間』をちゃんと持つというか。『自分ってどこからやってきたんだっけ?』みたいなことを、改めて捉え直すべきなんじゃないかと。だから最近は四国の伝説とか、そういうのを改めて調べ直していて」 「近年、Xがバトル型SNSになって久しいじゃないですか。そこで巻き起こるのって、『負の感情の増幅』なんですよね。文脈から切り離された感情がぶつかり合ってどうも建設的な会話にならないし、そうなるように設計されている。『この人のポスト、不快に思うでしょ?』と誘い込まれているような感覚になる。そこに無批判のまま乗っかると大変なことになるなと思うんですよ。悲しみや怒りや嫌悪感ばかり増幅していって、それよりもっと大切にしなきゃいけない部分が目に見えなくなっていくんじゃないかと」 「まずヘルシーな領域みたいなものをちゃんと確保していないと、人間は簡単におかしくなる。自らの悲しみや怒りや嫌悪感を奪われないためにも、『その手には乗らんぞ』みたいな、そういう気持ちがあるかもしれないです」