【Web再録】BROKEN TETRAGON
篤寛&悠脹(無自覚片想い)前提の友情以上恋愛未満日虎中心本『BROKEN TETRAGON』前後編のWeb再録となります 概要はこちら→ novel/22621362
色んなキャラが出てきて各所でトラブル勃発して寛見もヒロも大暴走して(割といつものこと)当時Web投稿するのを躊躇していたくらいとんでもないことになっているので本当の本当の本当に何でも許せる人向け でも00最大のお気に入り作品なので楽しんでもらえたら嬉しい……です!
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自由気ままに空を羽搏ける自分を愛していた。
適当な賞賛を浴びせかけて紐を括りつけようとしてくる世間が大嫌いだった。
だから何の束縛も柵も無く世界を飛び回るような生き方を選んだ。
出自性別才能年齢ありとあらゆる呪縛に囚われ苦しみ続ける人類に自由という概念を思い知らせる為に各地を放浪し時に踊り時に歌い人生を謳歌している。
歌は良い。隣人を笑顔にする最も簡単で有効な魔法だ。
世界一の女優だなんて至極どうでもいい賞賛を餌に狭苦しい世界に自分を押し込めようとしてくる世間を無視して擦れ違った人間に笑顔と幸福をお届けする世界一お手軽な女神として今も生き続けている。
久々に祖国に戻った。狭く矮小な世界で誰もが必死にマウントを取りたがっている世界は変わらずに其処にあったし辟易としていた。今より若い自分が見限ったその頃から一切変化を来たしていない歪な小世界にささやかな落胆を抱く。肩書だけがご立派な男が派手な色彩のサングラスを付けてだらしのない愉悦を浮かべながら若い女の肩を抱き時折頬を舐めている。女は金と名声の為に、男は肉欲の為に。かつての自分が嫌悪した世界がまるっきり同一のまま貸切ラウンジの対面席で繰り広げられていることに心の底から吐き気を覚えていた。金と性欲は人間を堕落させる最も簡単で有効な魔法だ。日本を去る前に美味な酒を楽しく飲み交わしていた知人の変貌にどうでもいい落胆を抱えながら面白くも何ともない酒を飲み込み続けていた。視界の端に映る、別のソファに座っていた男の顔色がどうにも妙だと感じてはいたが、男女のキスシーンが始まった途端に慌ただしく何処かへ駆け込んでゆくのを見て。なんとなく後を追いたい気分になった。派手な嘔吐音が聞こえてきたので遠慮なくトイレルームに足を踏み入れた。鍵を閉める余裕もない程に便器に向けて大量の吐瀉物をぶちまけている黒髪の男の背中を気紛れな親切心で撫でてやった。元から白い肌が蒼白しきっていた。肩口まで伸びた黒髪。目元を彩る赤系のアイシャドウ。鼻筋の中間点を垂直に横切る直線状のタトゥー。耳や首元を彩るアクセサリーを除いたって十分に特徴的な風貌の男の介抱を我ながら妙に丁寧にしてやったものだ。
「誰だ貴様は」
「昨日一緒に飲んでたじゃん」
「知らん」
「あーそう……」
トイレの中で気を失うように寝入った男をホテルのツインベットにぶち込み一晩過ごした後の第一声がこの様だったので怒りを通り越して呆れを覚えた。モデルとはいえよくこんな性格で芸能人なんて務まるなと思っていたら勝手に部屋から出て行ってしまったので反射的に追いかけた。
「その感じじゃ私の名前もろくに覚えてないね」
「興味が無い」
「九十九。急に具合悪くなった君を手厚く介抱して優しくベッドまで運んでやったお姉さんに何か言う事はないのかな、脹相くん?」
暗闇をそのままくり抜いたような瞳がこちらに無感情に向けられる。
「頼まれてもいない用事を勝手に遂行して恩人面とは随分と厚かましい女だ」
「ふーん? そういうこと言っちゃうんだー? ひょっとして私が女だからって舐めちゃってるのかなー?」
「舐めてはいない。女は苦手だ」
白肌の男が淡々と、無機質に言葉を吐き続ける。
「女は生殖の過程、男の身勝手な欲望の所為で、あまりにも容易く傷を負う。歪にも程がある。女が醜悪な男に好き放題唾液を注がれていた光景を見ただけで生理的嫌悪感が込み上げてくる程だ。だから俺はきっとお前のことも苦手だ、不必要に近付くな」
無表情のまま機械的に呟く男が勝手に好き放題言い捨ててそのまま歩き去ろうとしたから。とりあえずロビーのど真ん中で気合の一本背負いで床に叩きつけてやった。女を舐めんじゃないよ、と言ってやった時の彼の間抜け顔は後から思い出しても相当笑えた。
自分にしてはかなり長く国内に滞在していたと思う。脹相と共に過ごした時間が最も長かったし彼から弟の話を聞く時間が最長であった。彼があまりにも熱心に弟を自慢するものだからとある夜に居酒屋で一次会まで済ませた後に無理矢理彼の自宅に突撃した。褐色肌の次男が驚き半分喜び半分の表情で出迎えてきたのをよく覚えている。
「すまん……壊相……お兄ちゃんでは食い止めきれなかった……」
「いいよ兄さん謝らなくても! いらっしゃいませ、貴方が九十九さんですね? いつも兄がお世話になっております、さぁ中にお入り下さい」
長男と違い礼節の整った人物だというのが次男への第一印象であった。基本的に他者を寄せ付けない性分である兄が親しい友人を自宅に連れてくるというのが兄弟間で如何程のビックイベントであったか、他人ながら容易く想像が出来た。酩酊感も合わさりすっかりご機嫌気分で脹相の肩を抱きながらズカズカと中に押しいってやった訳だが。
ゴトン!
何かが落下し床に衝突する音が聞こえてきたのでそちらに視線を向けると。小学生程の、赤髪混じりの少年が自分と脹相の姿を大きく見開いた可愛らしい瞳の中に留めてお気に入りの玩具を手から零していたのが見えた。そして少年はぷるぷると震えわなわなと唇を震わせ大きな瞳からぽろぽろと大粒の涙を零して長男の足に勢いよくしがみ付いてきたのだ。
「だめー! 兄ちゃんはオレのー! オレのだもーん!」
おそらく自分を脹相の恋人だと誤認したのだろう。そして脹相は大きく目を見開き酷く青褪め狼狽えまくっていた。
「悠仁!? どうしたんだ悠仁!? なんで泣いているんだ!? 俺は悠仁のお兄ちゃんだぞ!?」
「やだやだやだやだぁー! うぁあ――ん!」
「何がイヤイヤなんだ!? お兄ちゃんに教えてくれ悠仁! お兄ちゃんはどうしたらいいんだ悠仁!?」
「そうだぞぉー? 私はゆーじくんの愛しのお兄ちゃんとすっかり仲良しこよしなんだぞぉー? ゆーじくんからお兄ちゃんを奪っちゃうかもぉー」
「九十九!?」
「あぁぁああああああ――!」
「悠仁ー! 大丈夫だお兄ちゃんはずっと悠仁のお兄ちゃんだからなー! ずっと傍で悠仁のことを見守り続けるからお願いだから泣き止んでくれ悠仁! 悠仁ー!」
兄弟の事になった途端に人間らしくあわあわと取り乱す脹相の様子があまりにも可笑しくて、愛らしくて、その場で大爆笑してしまった。
ほんっとうにこのシリーズ大好きすぎる。一生続いて欲しい❤