NHKスペシャル「潤日の肖像 日本に向かう“中国”」に出演していた会社役員・藍沢鵬程容疑者(39)と妻のオリビア容疑者(37)が、入管難民法違反の疑いで警視庁に逮捕された。中国富裕層の日本移住支援を手がけていた人物の逮捕を受け、Xでは番組出演時の発言や、帰化後の国籍取消制度をめぐる議論が広がっている。
藍沢鵬程容疑者と妻オリビア容疑者を逮捕
共同通信によると、警視庁国際犯罪対策課は6月18日までに、東京都港区の会社役員・藍沢鵬程容疑者(39)と妻のオリビア容疑者(37)を、入管難民法違反(上陸)の疑いで逮捕した。2人は容疑を否認しているという。
逮捕容疑は2023年5月8日、共謀のうえ、中国籍の女性ベビーシッターを入国させるため、東京出入国在留管理局に虚偽の在留資格申請をしたというもの。女性の学歴や就業先を偽り、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格で入国させた疑いが持たれている。
FNNプライムオンラインによると、この女性は40代で、申請上は通訳や情報処理などの仕事に従事する形だった。外国人が日本でベビーシッターとして働くには、原則として「永住者」など限られた在留資格が必要とされる。警視庁は、藍沢容疑者らが中国の富裕層から依頼を受け、組織的に関与していた可能性があるとみて調べている。
産経新聞などでは、藍沢容疑者の本名は王鵬程、妻の藍沢オリビア容疑者の本名は汪抒穎と報じられている。中国・台湾系メディアのRTIも、NHKや産経新聞の報道として同じ本名を伝えている。
NHKスペシャル「潤日の肖像」に出演
藍沢容疑者は、2026年5月24日に放送されたNHKスペシャル「潤日の肖像 日本に向かう“中国”」に出演していた。番組は、中国から日本へ移住する富裕層や起業家、中間層の動きを追った内容で、中国出身で日本国籍を取得した藍沢容疑者が、移住した富裕層の生活支援を手がけている人物として紹介された。
逮捕報道後、Xでは「先月NHKスペシャルに出ていた人物ではないか」とする投稿が相次いだ。NHKスペシャル公式アカウントが同番組の見逃し配信を5月31日までと案内していた記録が残っており、NHKオンデマンドには同番組のページも確認できる。
Xでは「関連動画が削除された」とする投稿も広がったが、NHK側は削除の有無や理由について、公式な説明を出していない。
「潤日」と中国富裕層の日本移住
「潤日(ルンリー)」は、中国語圏で使われるネット用語で、日本への移住を意味する。「潤」のピンインが英語の「run」に近いことから、国外へ移るニュアンスを含む言葉として広がった。
東洋経済オンラインは、同番組はコロナ禍以降に日本へ移住する中国人の実像に迫ったものだと紹介した上で、中国の富裕層や中間層が、日本の在留資格、教育環境、事業機会などに関心を寄せている状況が説明している。
今回の逮捕容疑は、こうした移住支援ビジネスそのものではなく、ベビーシッターを就労実態と異なる在留資格で入国させた疑いに関するものだ。移住支援や生活支援はそれ自体が違法とは限らないが、虚偽の在留資格申請に関与した場合、入管難民法違反に問われる可能性がある。
「帰化しているから送還できない」 Xで国籍取消論が拡散
藍沢容疑者が中国出身で日本国籍を取得していたと報じられたことで、Xでは「帰化した日本国民を強制送還できるのか」「帰化取消制度が必要ではないか」といった投稿が広がった。
現行制度では、日本国民に対して外国人の退去強制手続は適用されない。退去強制は、入管難民法上の外国人を対象とする制度であり、日本国籍を持つ者には使えない。
ここで混同されやすいのが、「帰化取消」と「在留資格取消」の違いだ。入管法22条の4で定められた在留資格の取消しは、外国人が持つ在留資格の取消しに関する規定であり、日本国籍を取得した人の帰化許可を取り消す条文ではない。
国籍法には、帰化後に犯罪を行ったことを直接の理由として、日本国籍を剥奪する明文規定はない。一方で、2020年の政府答弁では、申請者の詐欺など重大な不正行為に基づいて帰化許可処分が行われた場合、法務大臣が個別事情を総合考慮し、帰化許可処分を取り消すこともあり得るとの見解が示されている。
つまり、現行制度で問題となるのは「帰化後に犯罪をしたから直ちに国籍取消」ではなく、「帰化許可そのものが重大な不正に基づいていたかどうか」である。
英国、フランス、ドイツの国籍剥奪制度
Xでは、英国、フランス、ドイツなどを例に、帰化後の国籍剥奪制度を導入すべきだとする投稿も出ている。ただし、各国制度は対象や条件が大きく異なる。
英国では、国籍取得時の詐欺や虚偽表示、または公共の利益に反すると判断される場合に、一定の条件下で国籍剥奪が行われる。フランスでは、帰化で国籍を得た者がテロ行為や国家の根本的利益を害する犯罪で有罪となった場合などに限定される。ドイツでは、国外のテロ組織で戦闘行為に参加した二重国籍者について、無国籍にならない範囲で国籍喪失が定められている。
いずれも「犯罪をした帰化者はすべて国籍剥奪」という制度ではない。無国籍の発生、二重国籍者との扱いの差、刑罰との関係など、制度設計には複数の論点がある。
“潤日”逮捕が広げた波紋
両容疑者はいずれも容疑を否認しており、今後の捜査では、在留資格申請に記載された就業先や職務内容、実際の勤務実態、中国富裕層からの依頼内容が調べられる。
中国から日本へ移る人と資金が増えるなか、在留資格と帰化制度をめぐる議論は、X上でなお続いている。