それでも、上げざるを得ない事情がある。帝国データバンクが試算する「ラーメン原価指数(豚骨ベース、東京都区部)」をみると、2022年平均を100として、2023年10月にはピークの124.4まで跳ね上がった。豚肉や背脂、麺、海苔と、スープづくりから具材に至る原材料が軒並み値上がりしたためだ。
ところが、同じ時期に「中華ソバ」の店頭価格は、105前後までしか上がっていない。原価は急騰しても、ラーメン1杯の値段には乗せきれない。この乖離こそが、低価格チェーンの体力を削っていく。
この環境で価格を据え置けば、売れば売るほど損をする。現に、2024年のラーメン店の倒産は72件と過去最多を記録した。価格転嫁が追いつかない中小店舗から、淘汰されていく。スガキヤの値上げは苦渋であると同時に、生き残るための合理的な判断だった。
しかも、上げ方そのものにも設計がある。一度に大幅に上げれば、客離れを招く。スガキヤは数十円単位の改定を、ほぼ毎年のように刻んできた。原価の上昇に小刻みに追随しながら、同時に精度の高いマーケティングリサーチをかけ、「安さ」というブランドの印象を急激に壊さないよう調整する。低価格を看板に掲げる会社にとって、値上げは度胸ではなく技術なのである。
……問題は、ここから先だ。
固定費を下げ、値上げで守りを固めたスガキヤが、3つ目の「売上を増やす」フェーズで何を狙ったのか。その攻めの一手は、ラーメン屋の常識を外れたところにあった。