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この状況で夢精したという事実に最も焦っているのは当の本人である/Novel by キト

この状況で夢精したという事実に最も焦っているのは当の本人である

4,298 character(s)8 mins

習作。特に内容はないので雑にお願いします。
・本編終了後/日車高専就職if
・付き合ってない/工場は篤寛のつもりだがどちらでもない/タイトルがオチ

cvとか出る前にちょっと……

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 二人で向かった地方都市での任務が終わった夜。さてようやく補助監督の車で帰京、という段になって、端的に書くと「迎えが行かれなくなったからどうにか自力で帰れ」という連絡がずいぶん前に入っていた事に二人して気がついた。時間は遅く、新幹線の最終便は既に終わっていた。タクシーを何台か捕まえてみたが、東京までの距離がありすぎて運転手の上の会社側から断られた。レンタカーを借りてどちらかが運転して帰る、それはもう二人とも嫌だ。であればどこかで宿泊したいところだが、二人は更に予想外の難関にぶつかった。
 土曜夜、駅前一帯のホテルはすべて満室。理由は調べてすぐに判明した。人気バンドが参加するフェスが近隣で開催されていたのだ。やたらとTシャツを着た派手な若者が多いとは思っていたが。
「フェスなんてものには縁がなかったが……こういう時は困るな」
 日車がぼやくと、隣を歩く日下部は疲れ切った声で「ああ」と短く相槌を打った。眉間を揉みながら「もうどこでもいい、さっさと寝てえわ」と恨めしげに呟き続けている。もともとホテルの数自体が少ないようで、通りかかるネットカフェも都度覗いているが、まともに休めそうな所は若者でまず埋まっている。カラオケはセキュリティ的にも年齢的にも最後の手段にしたい、と日車がごねた。雑居ビルの出入口でぎゃあぎゃあ騒いでいる輩を見れば、確かに落ち着いて休める気はしなかった。
 彷徨した末にどうにか空きを見つけたのは、駅からはかなり離れた年季の入ったビジネスホテルだった。おそらく二人と同年代、もう少し上くらいの築年数だろう。入口は手動だった。煌々と屋内を照らす蛍光灯の白さが古びた壁紙を際立たせている。シンプルな内装からはスタイリッシュというより、どちらかと言うともの寂しさを覚える。
 フロントで二部屋求めたが「シングル一室しか空いていません」と告げられ、更に中年の男二人をちらちらと見ては言外に止めた方が良い、と言いたそうな微妙な表情をされる。日下部はそれを無視して「仕方ねーけど、いいだろ」とどろりとした眼で日車を見る。日車も日車で疲れから思考が鈍り、「構わない。眠れればいい」と即応した。肉体的にもそうだが、ようやく休めると思って緊張の糸が切れた、そこからの延長戦に何よりも心理的に疲れていた。
 そうして案内された部屋に入った瞬間、二人とも無言になった。スリッパとナイトウェアをサービスで余分に出してくれたフロント係の男から「だからシングルって言いましたよね」とでも言われそうな気がした。
「……マジでシングルだな」
「そうだな。他に寝床もない」
 やたらと白いシーツの敷かれたシングルベッド、もしかするとセミシングルかもしれない、それだけで部屋の大半を占めていた。備え付けの椅子は一脚、机も狭い。もちろんソファなど存在しない。そして家具同士、壁との隙間はひと一人通られる程度のスペースで、床に寝転がるという選択肢さえ現実的ではない。
「あーあーいいよもう、寝るだけだから」
「同感だ」
 二人して机に荷物を投げ捨てるように置き、アウターやシャツを次々と脱ぎ散らかしていく。揃いのウェアを羽織ると、日下部が先に倒れ込むようにベッドへ飛び込んだ。
「手と、顔を洗ったらどうだ。口もすすぐくらいはしておいた方がいい」
 緩慢にウェアのボタンを留めながら、半ば閉じかけた目で日車が言う。日下部はああ、ともうう、ともつかない唸り声を上げて跳ね起きると、ユニットバスに飛び込んでから水音がしてものの十秒足らず、すぐに戻ってきて再びベッドに沈んだ。「おい君それで本当に洗ったのか」と咎める声に手だけで返事をするとそれきり動かなかった。既に丑三つ刻である。日車はそれ以上は構わず、自分ものろのろと最低限の洗面を済ませ、ベッドの大部分を占拠している日下部を軽く押しやり隣に体を滑り込ませた。男二人同衾する事に対して互いに迷いや言い訳はなかった。御託を並べるには疲労があまりにも勝っていた。
「……狭い」
 わかってはいたが狭い。ベッドに潜り込んですぐ、流石に窮屈だとまず思った。人ひとり分の幅しかないスペースで、平均よりも体の大きな男と寝転がっている。日車だって小柄ではないのだからまあ、狭い。半ば無意識に体を丸めると、日下部の胸の中に入り込むような形になった。
「あんまり動くなよ。落っこっちまう」
「動き様もないんだが」
 互いにぼやきながらも、何時間ぶりかに縦向きの重力から解放された肉体にこれ以上抗う力は残っておらず、結局はそのまま眠りに飲まれていった。

***

 日車が目を覚ましたのは夜明け前。彼には見えないが、遮光カーテンの向こう、窓外がほんのりと白み始める中、街灯の光はまだ残っている。寝ぼけ眼で時計を見ると午前五時半だった。そこで何となく寒いような気がして、ベッドが広くなっている事に気がつく。日下部がいない。何となく空いたスペースに触れるとまだ温かさは残っていた。
 足下の方、バスルームの明かりが点り、水音が規則的に響いている。二人ともシャワーを浴びないまま死んだように眠っていた。日車も今更ながら体のべたつきが気になってきたが、あれだけ動いて数時間眠っただけでは未だ眠さと気怠さが大いに勝っている。よく動く気になるものだと日下部の回復力に感心する。それはそれとして、これ幸いとシーツを引き寄せてベッドを独り占めしてしまう。
 自分たちの関係が同僚を超えて友人なのかというと日車にはわからないが、日下部には一定以上の信頼があり、仕事でも、また同年代の独り身男同士で何となく食事も一緒の事が多く、そして今のような図々しい行動を取っても良いと思うくらいの気安い関係にはある、と思っている。
おそらく、安心している。さあさあと響く休日の雨音のような心地良さ。それを子守歌に、まだもう少しと日車は再び目を閉じた。

 古い扉の軋む音でまた目を覚ました時、一瞬のつもりが三十分は眠っていたらしい。音の方に目を向けると、バスルームから髪を濡らした日下部がそっと出てくるところだった。片手にはビニール袋に入れられた衣類らしきものを持っている。そろそろと動く男は日車が目覚めているとは思わなかったのか、目が合うと「うおっ」と頓狂な声を出した。普段なら多分からかっていたところを、半ば夢の中の日車は全く反応しなかった。
「……コインランドリー、あったから。ちょっと回してくるわ」
 何故か小声で言う。そして視線が逃げていく。そう言えば二階に洗濯機が並んでいた気がする、と日車はぼんやりと思い出し、いつの間にか簡単に畳まれてベッドの端に置かれている自身のシャツを眺め、重い半身を無理やり起こす。
「それなら、俺の分も頼めるか」
「えっ」
「え?」
 文句は言われるかもしれないが、そう言いながらも彼なら引き受けてくれるだろうという甘えた期待を裏切り、日下部は答えを保留して少し顔を強張らせた。日車の眉が動く。
「どうせならまとめて洗った方が効率的だろう。洗濯機は……全部で四台だったか?俺が後から行くにしても、そのうち二台を俺たちで埋めるのは他の客に悪い。ここもほとんど満室だったんだから譲り合うべきだ。それとも俺の汚れ物と一緒は嫌か?」
 日車が淡々と言うと「いやわかってるって、持ってきますよ」と日下部が慌てる。言いくるめられるのが早い男。
「そうか、よろしく」
 そう言いながら、もそもそとウェアの下から下着を脱ごうとする日車にまた日下部が大いに狼狽える。
「いや待て今脱ぐな、ノーパンになるだろ!」
「そうだな」
 だが今一番汚れているであろう衣類は昨日から身につけたままのパンツなのだから、日車としてはこれは優先して洗ってもらいたい。
「脱ぐなら風呂入れ!」
「それは……怠いから、後でいい」
「だろうな?!じゃあ新しいやつ穿いとけって!」
 ホテル探しの迷走中、通りかかったコンビニで下着だけは新品を購入していた。風呂上がりの日下部が着用しているのもそれだ。
「……シャワーを浴びる前は嫌だ」
「こだわりわかんねえ人だな!」
「そもそもノーパンで寝ることの何が悪いんだ」
「自分で何言ってんのかわかってんのかなこの人……」
 わからない。同僚の男に脱ぎたてのパンツを渡す事と、同僚の男の目の前でノーパンで寝る事について今の日車は特に何も考えていない。天を仰ぐ日下部だったが、諦めたように手元のビニール袋を開いてみせた。下着を入れろということだ。
 衣類を放り込むついでに何となく中を見ると、重なる衣類の一番上に置かれていた下着類は洗われたようで濡れて色が変わっていた。
「下着は予洗いする派か。君は案外几帳面なんだな」
 そう呟いた瞬間、日下部の顔が不自然に引きつった。何事かと口を開く前に「そりゃどーも。いいから要らん事言わずに寝とけ」とだけ返され、さっさとドアを閉めて行ってしまった。
 残された日車は首を傾げた。別に悪口を言ったつもりはないし、どちらかと言えば褒めた方だったのだが。ただそれもまたあまり深くは考えられず、もう少し独占する権利を得たベッドで体を伸ばすと早々に三度寝に入っていった。

***へ戻る。

 ここはどこだったか。高専でもない。日下部自身のアパートでもない。かといってホテルだとか、自分の知らない場所ではない。自分の幼少期の生家のような、懐かしいような感覚はあった。まあ、どこでもないのかもしれない。居心地は良かった。ここが永遠でも良いくらいに。その場所にあったソファーに自分は座っていて、腕の中には日車がいる。顔は見えないが、自分の腕の中で大人しくしている。日車の体は温かい。気持ちが良い。体の芯からじわじわと快感が滲み出てくる。緩やかな快感を追って日車の体を抱く。温かい。気持ちがいい……。

 身動ぎした拍子にふっと目が覚めた。非常灯だけが薄暗く灯る中、黒い頭が見える。日車の頭。そこで今いるのが狭いビジホだった事を思い出す。腕の中には夢と同様、日車がいた。死んでいるのかと思うほど深く眠っている。寝息も聞こえない。しっかりと抱いているので胸が動いている事はわかる。こうなったからあんな夢を見たのか、あるいは逆か。徐々に気まずさが募る。脚まで絡まり合っている。先に起きて良かった、この体勢は流石にまずい。そう思って体を離そうとした瞬間、自分と日車の体との間に挟まれた一物を包む布がべたりと濡れている事に気づき、日下部の脳は一気に覚醒した。

Comments

  • なべ
    September 1, 2025
  • ふゆむし
    August 31, 2025
  • 小夜双☆スカィWeb
    August 30, 2025
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