任務には無事間に合ったらしい
お互いにやられっぱなしは性にあわない二人であれ、の気持ちを込めました。
かなりイチャイチャしています。原作終了後、同棲している設定の二人の話です。
前作へのブクマ、コメント、いいね等本当にありがとうございます!!!とても嬉しいです!!!
そして感想めちゃくちゃ欲しいです!!!糧にしてます!!!
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「そろそろ出ないと間に合わなくなるぞ………………」
日下部の広い背中を、軽めの力加減で数度叩く。ニュースは既に気象予報士が今日の天気を解説するコーナーに入っていた。普段であればもう靴を履いて、外へ出ている時間だ。
「んー、もうちょい、もーちょいだけ」
俺の脇の下に回された腕の力が少しだけ強まる。密着感と、不快にならない絶妙な力加減が好きな事は、たぶんとっくに彼には知られている。ぐりぐりと首もとに顔が埋められて、気恥ずかしさが増していった。ちくちくと首筋に刺さる固い髪の毛も、与えられる体温も、嫌いではないから困るのだ。このまま、もう少し好きにさせても良いか………と思いかけて、いや駄目だな、と心を鬼にする。
「そう言ってからもう3分は経過している」
カップラーメンができるぞ、と言うと、5分のもあんだろ、なんて返されて。痕にならない程度に、日下部の背中をつねった。そろそろ本当にまずい時間だ。ニュースは天気コーナーすら終わって、いよいよ終盤に差し掛かっている。
「痛ぇ」
如何にも不機嫌だ、というようなわざとらしい低音の声。耳の近くで発せられたそれに、ぞわりと首筋が痺れるような気がした。震えそうになる体をどうにか押さえつける。これはちょっとした意地だ。俺は一刻も早く彼を任務に向かわせなければならない。このまま無反応を貫けばどうにか押しきれるだろうか。
「大袈裟だな、普段もっと痛い思いを散々してるだろうに」
「それはそれ、これはこれだろ。油断してる時にやられるとやたら痛く感じんだよ」
仕返しなのか、さわさわと背中から腰骨の辺りを撫でられて息が詰まった。押しきる作戦は失敗に終わってしまった。反射で逃れようと身じろぎする体を、また日下部が少しだけ腕に力を込めて邪魔をする。今日の彼は、随分と子供みたいだ。学校に行きたくないと駄々をこねる子供。ならば俺は、さしずめあの手この手で子供を学校に向かわせようとする親の立場だろうか。こんな大きな子供を育てた覚えはちっともないのだが。
「っつ、こら、止めないか。君、本当に遅刻するぞ」
「んー………………」
ぎゅうぎゅうと抱きすくめられて、自分がぬいぐるみにでもなった気分だ。親の次はぬいぐるみ。どちらも自分とはかなりかけ離れているものに当てはめてしまった。まぁ、ぬいぐるみと呼ぶには、柔らかさも可愛げも俺には欠けているが。まったく、彼はよく飽きもせずにやっているものだと思う。
「く、さ、か、べ?」
一つ一つの音を切るように、日下部の名前を呼ぶ。咎めるような声音を意識して。君、責任ある立場についてるじゃないか。こんな所で同年代の中年男性を抱き締めている場合ではないだろう。もう遠慮もなく、ぐいぐいと背中を引っ張る。この際シャツが少し位伸びてしまっても仕方ない。悪いのは未だに腕を俺の背に回し続けている男だ。駄目押しとばかりにわざと大きめの溜め息を吐けば、う、と短い音と共に抱き締めている力が緩んだ。やっと離れる気になっただろうか。
「キス」
「は?」
「お前からキスしてくれたら、離れる」
「自分が何を言ってるのか分かってるのか?」
普段酔っていても絶対に言わないような言葉が日下部から飛び出してきた。これは本物の日下部なのか、いや、でも緩く纏う呪力は明らかに日下部のそれだ。
「だってお前、素面ん時自分からあんましてこねーじゃん」
またしても普段絶対に言わないような言葉が飛び出してきた。拗ねているような声を耳元で出さないでくれ。胸の奥が掴まれたみたいに苦しくなる。これが三輪の言っていた、ギャップ萌え?と言うやつなのだろうか。だとしたら随分と恐ろしい。心臓の音がやけにうるさい。これもたぶん、いや絶対に日下部に気付かれている。だって体が小刻みに震えているし、何なら笑い声も漏れていた。からかわれたのか、気付くと同時に、あまりに正直な反応を示す自分の体に腹が立つ。いっそ強めに背中をつねってやろうか。
「うそうそ、冗談冗談」
不穏な気配を察したのか、先程までのしつこさが嘘のように簡単に日下部は俺から離れた。そこそこ長い時間くっついていたから、まだ彼の体温が残っていて顔も体もじんわりと熱を持っている気がする。何故かにやにやとした笑みが日下部の顔には張りついていた。
「あーあ、めんどくせぇな仕事。行きたくねぇ~~」
スーツを羽織りながら、トン、と革靴の先を床に当ててぼやくのを廊下から眺める。
「そう言って結局行くのだから、早く行く方が効率が良いだろうに。もう走らないと間に合わないんじゃないか?」
「ちょっとくらい遅れても問題ねぇよ。今日の任務は乙骨とだし、あいつ居るなら俺の出る幕なんざほぼねぇだろうし」
「いや問題しかないだろう………。生徒を待たすんじゃない。ほら話はいいから早く行け」
ぐいぐいと彼の背中を押す。どうせ彼の事だから遅れるとまではいかないだろうが、時間丁度くらいにはなりそうな気配がする。
「分かったからそんな押すなよ!」
ぎゃあぎゃあと日下部が喚く。その黒いスーツの背に、白い糸屑を見つけた。
「日下部」
「あ?何だよ」
「背中、糸屑が付いている」
「は、どこ?ここか?」
見当違いな所を触る手に、笑いが込み上げた。ついでにちょっとした復讐心も湧いてくる。散々こちらをからかったんだから、少しくらい日下部も痛い目を見るべきだ。
「………………時間が惜しい、俺が取るからそこを動くな」
「ん、頼むわ」
ひょいと指先で糸屑を摘まんで、取れたぞ、と彼に告げ、勢いそのままに肩を掴んで強引に唇を奪う。無警戒だったから、簡単にする事ができてしまった。珍しく目を見開いた日下部の目の中に、愉しそうな俺の顔が映る。最後に舌で日下部の唇を舐めて、軽く突き飛ばす。動揺からか、たたらを踏む姿が可愛いと思った。
「え、おま、なん」
「君が言ったんじゃないか、キスしろと」
「い、言いましたけど………」
「自分の言った事には責任を持つべきだ」
「いや、冗談のつもりで」
俺よりも浅黒い肌が僅かに赤くなっている様は、俺の復讐心を大いに満たしてくれた。腕に巻き付けてある時計を指差す。
「早く行かないと今度こそ遅れるぞ?」
自分の口角が上がるのが抑えきれない。俺は今きっと酷い顔をしているに違いない。
「………………お前、今日の夜覚えておけよ」
先程ともまた違う、随分とドスの聞いた低い声だ。それでも、こちらを睨み付ける顔は目尻に残った赤みのせいでちっとも怖く感じない。可愛らしい、と思う気持ちが増すばかりだ。ふふ、と自分の口から笑い声が漏れて、日下部は眉間にさらに深く皺を寄せた。しまった、少しからかいすぎてしまっただろうか。いや、でもこれは彼も悪い。俺だけ責められる理由はないはずだ。よし、もう一押ししてみよう。せっかく普段言わないような可愛らしい言葉も、あまり見れないような姿も見せてくれたのだし。
「夜と言わずに、もっと早く帰ってきても構わないが?」
「は?」
「君ばかりが寂しい等と思わない方が良い、と言う事だ」
嘘偽りない事実を言った。混乱しているのか、珍しくぽかんとした顔をさらす彼に、更に言葉を紡ぐべく口を開く。
「確かに俺は、君に甘えて自分からはあまりスキンシップをとっていなかったかもしれない。それに関しては申し訳ない、と思っている。これからは気を付けよう。………それと、これもおそらく伝わっていないと思うから言うが、俺はせっかくの休みの日に君がいない事を君が想像している以上に寂しいと思っているぞ?」
「何っで、お前こんなタイミングでんな事言うんだよ!!!」
余計仕事に行きたくなくなるでしょうが!!!と更に顔を真っ赤にして叫ぶ彼に、今度こそ大声で笑った。