暦の上では秋なのに、異様に暑い今日この頃。そんな昼の最中にスパイスチキンカツレツを焼く音が響く。
ジュー! パチッ、パチッ、ジュ、ジュー!
これは旨い音だと、腹の虫が喚き出した。
「この音を聞いているだけで腹が減ってくる」
「ハハ! もう少しで出来るから、寛見さんはとりあえずコレ食ってて!」
ついでとばかりに出されたのは日車の好物と言っても過言ではない糠漬けである。
基本のきゅうりとナス、変わり種にトマトや玉ねぎやにんじんなどがあった。
最も、糠漬けをご自分で作っているご婦人などにとっては、日車が変わり種だと思ったトマトや玉ねぎやにんじんなども、普通の糠漬けと一緒だと言う認識だが。
一口噛めばパリッと音がして糠漬け特有の風味に口の中にじゅわと、ヨダレが溢れ出す。
それごとごくりとビールで飲み干せば、喉越しも抜ける香りも慣れることのない旨さに歓喜した。
次に出てきたのは枝豆である。
今年で回る分はもう無くて去年の冷凍物だが枝豆は枝豆。旨いものには罪はない。ただ粛々と食べれば良いのだ。
「そろそろ君も座ったらどうだ?」
「ん、もうちょっとなあ……ほっと、……うし、出来た」
そうしていつものちゃぶ台ではなくカウンター越しに並んだ二人の間には、肉屋直伝の鳥の胸肉のスパシイーチキンカツレツ、新サンマ、白米、わかめの味噌汁だった。
「……何故君だけカツレツではなく新サンマなだ」
攻めるように問えば、モゴモゴと、「これ、旨くねぇんだよ……」という呟きが日下部から返ってきた。
「旨くない? どれ」
「あ! おま!」
「……。…………。……………………。確かにパサパサしていて脂が乗っていなくて……なんというか…………これは如何とも…………その……だな…………」
「不味いって言ったじゃねぇか」
「……」
「だから言っただろうが」
「君一人で新サンマを食べようとするのが悪いと思うのだが……」
「説明してもお前の場合信じないだろう? 実際口にしてみないとー。だからこれ最初は出す気はなかったんだが……」
「……すまん」
日車が最初に新サンマを魚屋で見つけたのだ。
だから日下部はきっと美味しくない即ち不味いと思ったものの、好きな人の、しかも付き合っている人即ち恋人のおねだりに負けて、仕方なく買った。
それでも不味いものは食べさせたくないということで、隠しておいたのをまた日車が見つけて結局食卓に並んだのだ。
詰まるところ全て日車が悪かった。
叱られた犬みたいにしゅんとうなだれた日車の頭をぽんぽんと優しく日下部が撫でれば、申し訳なさそうな顔で日下部を伺う形で日車が上目遣いに見上げる。
可愛い。
普通に考えて自分と同じ年のおっさんを捕まえて可愛いはないだろうとは思うが、実際可愛いのだから仕方ない。
そして、可愛いは正義だ。
故に甘やかしを実行することとした。
「はい、寛見、アーン。よしよし良い子良い子〜〜〜」.
「俺? ん。あが、おい、そこ鼻の穴だよ何すんだてめぇ!」
などなどの甘やかし甘やかされの時に喧嘩腰のいちゃいちゃな言動は、後に彼らの黒歴史の一頁を飾ることになるのだが、それは今は言わなくて良いことですね。お幸せに。
ああ、因みに。
スパイシーチキンカツレツは胸肉なのにジューシーで柔らかく美味しくいただきました。
Comments
- 小夜双☆スカィWebSeptember 27, 2024