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[篤寛]昼間の居酒屋あつや。・5[現パロ]/Novel by narrプロフ必読1\1加筆。

[篤寛]昼間の居酒屋あつや。・5[現パロ]

4,283 character(s)8 mins

篤寛が店のご近所さんのところで買い出しに行くお話。
誤字脱字などの修正は後日致します。

2024/04/03:誤字脱字諸々修正済。

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 日車は携帯にある日下部という名前をじっと見て、電話をかけるかかけまいか悩んでいた。
 この間虎杖悠仁という少年に啖呵を切ったは良いが、今でも電話一つでこの体たらくである。
 関係は確かに進んだ筈なのにと人差し指をうろうろさせて、今度こそ電話をしようと受話器の形をしたところをタップしようとしたちょうどその時、電話が鳴った。日下部からだ。
 喜びと緊張と情けなさの入り混じる中、耳に聞こえてくる良く通る低音にうっとりする。
 うっとりしすぎて内容が全く入っていなかったことに気づき、慌てて謝罪を入れてもう一度話を聞けば、今日暇ならば家に来ないかと言うものだった。

「行く」
『良っし! 近所で買い出しするから日車さんもどうかと思ったんだわ』
「是非ついていきたい」
『なら決まりだな。家の方から入ってくれ』
「分かった」
『…』
「…」
『いや、切ってくださいよ』
「君こそ切れば良い」
『いやぁ、なんつーか、名残惜しくて。…なんて』
「フ、それは私も同じだ」
『ははは、んじゃあ、カウント取って一緒に切りましょうかね』
「良いな」
『三……、二……、一……プツ、ツー、ツー、ツー』

 日下部の電話が切れると、日車は漸くアドレスを閉じて携帯をテーブルに置いた。
 日下部の声は例え数を数えるだけでもやはり落ち着く良い声だななどと日車は思う。
そんなこんなで日下部の家へ行くべくスウェットでは不味かろうと、室内着から外へ行く為にチノパンと黒の長袖のTシャツに着替え、上に軽いジャケットを羽織った。
 動きやすくカジュアルな服の方が良いだろうと思ってのこの格好だが、日車は秋と春は大抵仕事用のスーツかこの格好である。
 日下部からバレンタインの時に貰ったぬいぐるみをちら見てから、一緒に貰ったキーホルダーとそれ以前に貰ってキーホルダーを付けた合鍵をジャケットの内ポケットに入れて、携帯とカードと現金が入った財布をズボンの後ろポケットに入れた。
 無論ティシューとハンカチは忘れない。
 花粉症が怖いのでマスクも欠かせない。
 靴を履いて戸締りを確認すると、寂しい我が家から居心地のいい日下部の家へと向かうのだった。


 流石にもう迷わずに店へと辿り着き、裏にある日下部の家の玄関の方へまわる。
 呼び鈴を押すがやはり反応はないので、トントントンとノックをすると独特の歩く音が聞こえてきてガチャリと玄関が開いた。

「日車さん、よく来てくれたなぁ!」
「ああ、もう迷わないぞ?」
「はは! そりゃ良かった! 今日は近所で買い出しするけど大荷物になるから軽トラな。前あんた店で使われてる豆腐やらパンやらの店教えてくれって言ってたろ?」
「覚えていてくれたのか」

 日車が目を見開くと、日下部はくすぐったそうに「まあな」と頭をガシガシとかく。それに日車は花が綻ぶように微笑んだものだから、日下部は日車から瞬間目が離せなくなる。
 日車も何か雰囲気に呑まれたように微笑んだまま動けなくなり、何も言えなくなってしまい、漸く二人の意識が戻ってきたのは、太った雉虎の野良猫が餌を強請りに二人に擦り寄りな〜んと鳴いた時だった。
 お互い恥ずかしくて顔をまともに見れない。
 それから暫くして先に立ち直った日下部が、家と店の戸締りをしてからまだ耳がほんのりと赤い日車の手を取り、軽トラへと引っ張っていく。
 日下部の耳も首もまだ真っ赤なままだったのは言うまでもない。

 この狭い路地裏の何処から表に出るのかと思ったら、路地裏の反対方向にある車が停めてあるところから車が通れる道が広がっていた。
 日車を助手席へ乗せて、日下部も運転席へ乗り込む。
 そうして商店街が並ぶ表道りへ繰り出すと、まず向かったのが米屋だった。

「おやっさん、いるかぁ!?」
「なんだなんだ?! おお、あっちゃんじゃねぇか! お連れさんは例の良い人か?!」
「ちょ! 余計なことは言わないでくれよ!」
「例の良い人とは」
「日車さんも乗らないでくださいよ……」
「ハハハハハ!」

 そう言うと、日下部はおやっさんと呼んた米屋の店主についていき、最終的に米数十キロを軽トラへ載せ、諸々書いた伝票を日下部に渡す。

「んじゃま、後から店の方顔出すからよ!」
「頼んます!」
「後払いか?」
「最初のうちは店まで届けてもらってたんですけどねぇ。なんせ年だから」
「そこの連れの人。あっちゃんはむっつりだぞ。温泉なんか行ったらぺろっと食われっちまうからな、気をつけな」
「おやっさん!!!」

 日車が米屋の店主と日下部のやりとりを楽しげに眺めていると、いつの間にか隣に来たのか日下部が助手席のドアを開け、「日車さん」と促した。
 そして、軽トラは次の目的地へと辿り着いていく。
 ベーカリーだ。

「ここのパン屋は若いのがやってるんだが、何せ忙しいもんだから店行かねぇとやってけねぇのよ」
「そうなのか」
「だからここは前払い」
「ああ、篤也さん、いつもご贔屓にしていただきありがとうございます。いつもので良いですか?」
「頼むわ。あと新作あったらそれも貰ってくかな」
「季節限定もありますよ」
「ん、それも」
「ありがとうございます」
「…。篤也さんと呼ばれているんだな。随分と親しそうだ」
「へぁ?! ご、誤解しないでくださいよ?!」
「誤解とは?」
「日車さん……マジで、ほんと、ないですから何も!」
「…信じるしかないな今は」

 日下部が日車の嫉妬からの真顔を見て焦りつつパン屋の店主とやり取りをする中、日車もそれを見てあまり良い気分はしなかった。

(私も篤也さんと呼びたい)

 そうは言っても恥ずかしいが先に来る。
 三十過ぎると会社や趣味などない限り、中々新しい人間関係を構築するのも難しいし面倒だ。
 その前に日車は友人や恋人などの距離感が分からない。そして、それ以前として日車はコミュニケーション障害気味であった。
 それゆえに、中々次の段階に踏み込むのが難しいが、嫉妬などはしっかりするという面倒な男と化していた。まあそれは日下部もだが。
 日下部が軽トラの運転席へ戻ってくると、暫く気まずい沈黙が支配した。
 しかしそれも次の目的地に着くと有耶無耶になってしまい、それにまさか未だにある嫉妬丸出しで何か言うわけにも行かず、日車は悶々としたまま店で食べてやはり美味いと感じた豆腐を作っているご年配の女性と日下部とのやり取りを眺める。
 店で出している白米も野菜も豆腐も、肉も魚介類も卵も美味い。あの若い店主が出すパンもそうだ。
 なんだかいじけている自分が恥ずかしくそして嫌になってきて、日車はその気持ちを心の底に沈めてしまった。
 慣れない感情は日車を苦しめるが、その慣れない感情の中には日下部とのやり取りも含まれている。
 だから、悪いばかりではない。
 そう割り切ることにして、日車は日下部が豆腐を軽トラの中にある水を張ったクーラーボックスに入れるのを、いつかあの人たちの輪の中に自分も混じりたいなどと思ったのだった。
 その後も買い出しは続き、気付けば太陽も中天から少し傾いている。
 今日車は日下部が調理場で何か作るのを見ながら、腹をすかして昼ごはんを待っていた。
 桜の開花が発表されたので、もう少しして落ち着いたら花見でも日下部と行きたいなと思いながら。
 日下部は何かの鼻歌を上機嫌で歌いながらタンタンタンと包丁で何か切り、クツクツと何か煮ている。
 出汁の良い匂いがしてきて、日車の腹が鳴った。
 魚と味噌の匂いもするから漬け焼きかもしれないと、その味を想像して口内に唾液が溢れる。
 それから暫くして日下部がお盆に二人分の昼ごはんを載せて運んできた。
 ことん、ことん、と載せられていくそれらに目移りしているうちに、また日下部が調理場へ戻ってお盆に何か載せて戻ってきてことん、ことんと二人分置く。

「んじゃま、食べましょうか」
「いただきます」
「いただきます」

 先ず日車が手をつけたのは大根とにんじんのマヨネーズ和えだった。
 大根とにんじんは千切りにしてあり、マヨネーズで和えていてもシャキシャキとして歯ごたえも味も楽しめる。
 次に巾着。一口食べればじゅわりと出汁が溢れて、噛み締めると出汁が絡まった肉とにんじんと蓮根と軟骨が美味い。
 ここで炊いたばかりのご飯をいただく。
 米が立っていてツヤツヤしていて見るからに美味そうなそのご飯は、口に入れるとほろりと解けて噛めば噛むほど味が出てきて、鯖の西京漬けが進んだ。
 味噌汁にはじゃがいもと玉ねぎとかき卵入っていて、何やら贅沢な気分になる。
 一口啜れば腹が芯から温まり、ホッとする味だ。
 それらを夢中で日車は食べ、日下部もそんな日車を見つめながら食べるのだった。


「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
「美味かった」
「そりゃあ何よりだ。やっぱ喜んでもらわねぇとな」
「やはりモチベーションに繋がるか?」
「そりゃそうでしょーよ。不味いなんて言われたらそれこそ商売できねぇや」
「フ、それもそうだな」
「あー……、そんで、日車さん」
「なんだ?」
「店で呼ばれると不味いんだが……」
「…なんだ」
「下の名前で呼び合いません?」
「…」
「あー……嫌なら……」
「篤也さん」
「おぅ」
「篤也さん。…フフ、篤也さん」
「あ"〜……」
「…嫌か?」
「…嫌なわけないでしょーよ、寛見さん」
「ッ! …中々、衝撃が大きいな」
「はは、慣れるまでがんばりましょうや」
「フフ、そうだな、篤也さん」
「ああ、寛見さん」


 日下部に数日分、温めれば食べられて冷凍保存出来る食事を手土産にもらった日車は、頭の中で日下部からの名前呼びを繰り返してニマニマしていた。
 側から見たらかなり怪しくて通報ものだが、本人は全く気付いていない。
 まあそれも仕方ないだろう。
 何せあまりまともに人間関係を築いて来なかった人間だ。
 それが友達を通り越して一気に恋人になり名前呼びになったのだから、この浮かれ振りも仕方ない。
 日下部も日下部で料理の仕込みをしながら悶々としていた。
 自分の名を嬉しそうに呼んだ男の顔が頭からあの離れず、手元が疎かになりがちだ。
 まあこの際春のせいにしてと、盛大に二人は浮かれてしまって、その日は年甲斐もなく布団の中でもだもだしてしまい、結果眠れない夜を過ごしたのだった。

Comments

  • なべ
    March 31, 2024
  • 小夜双☆スカィWeb
    March 31, 2024
  • shida
    March 31, 2024
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