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読書#03 生島治郎『追いつめる』 直木賞を受賞した国内ハードボイルドの金字塔を読む

 生島次郎『追いつめる』は、1967年に発表され第57回直木賞を受賞した作品で、日本にハードボイルドを樹立した作品として知られている。

あらすじ
 舞台は、全国に影響力をもつ暴力団、浜中組が拠点とする神戸一帯。そこでは、海運業をはじめてする各産業を浜中組が牛耳り、警察内部や市政にまで影響力を持っていた。
 腕利きだが昇進試験を受けず、部長刑事の立場で現場で暴力団を追いつめることにこだわりを持つ元兵庫県県警暴力課の志田は、本部長から信任を得て、浜中組壊滅のために課内で組と癒着のある刑事を洗う任務を言い渡されていた。そんななか、小さな船会社を営む義父から、海運業を牛耳る浜中組の幹部から脅しを受けたことを相談される。それをきっかけに、幹部の一人、青谷の逮捕に乗り出した志田であったが、追跡の途中に同僚を誤射してしまい、青谷の逃亡をゆるしてしまう。さらに、誤射された同僚は怪我の後遺症により生きた死体のような状態となってしまう。事件の責任から職を失った志田は、義父から手切れ金を渡され妻子とも別れるが、組織を失い一匹狼となっても浜内組に立ち向かうことを決意する。神戸の夜の世界、港の世界を駆け巡り、逃亡した青谷を手がかりに、浜中組という巨大な組織を追いつめていく男の執念を描いた小説である。

感想
 
ハードボイルド作品に興味はあるが、まだまだあまり読めていない、特に国内ハードボイルドはほとんど触れたことのない分野だったが、本作『追いつめる』は、ハードボイルドの国内のハードボイルドの世界観が完成されていて、国内ハードボイルドといわれる所以が分かった。
 文体は情緒を排除したドライで短めな文を重ねるという、ハードボイルドの特徴的な文体で、チャンドラーの文体にかなり近い。また、主人公は、組織力よりも自分の足で追いつめるスリルを愛しているという人物で、そこらへんはハードボイルドの精神を感じるところだった(ハードボイルドの精神が何か、というのはまた難しい問題だけど)。解説で逢坂剛がハードボイルドには、「文体としてのハードボイルド」と「精神としてのハードボイルド」があるということを書いていたけれど、本作は両者を兼ね備えた、王道のハードボイルドを日本という舞台で実現したということになるのだと思う。
 さらに、ハードボイルドだけでなく、サスペンス要素の詰まったエンタメ作品としても完成されている。例えば、チャンドラーの作品は初めて読んとき、文章がかっこよいがプロットが入り組んでおり話がなかなか進んでいかないことに戸惑ったという印象があったのだけれど、『追いつめる』は、巨大な暴力団組織へ食いついていくサスペンス、そしてすこしずつ明らかになっていく謎の扱い方、そのテンポ感がうまく、どんどんページをめくらされた。
 本作は神戸や大阪の港や歓楽街を舞台にしているのだけど、その湿っぽい港の空気感が、ドライな文章の向こうから立ち上ってくるようで、それが作品の気に入った点だった。例えば、仲士と呼ばれる船へ荷役を行う労働者に扮して船へ乗り込むシーンがあるが、そのドヤ街の大敗した雰囲気や、泥臭い港湾労働の描写などが印象的なだった。作者自身もかつて港で荷役作業をしたことがあるといい、おそらくその時の経験が反映されているのだろうと思う。
 ロサンゼルスを舞台としたチャンドラーなどのアメリカのハードボイルドでは、からっとしたアメリカ西岸の空気感が、私立探偵の孤独と合っていたように思うが、そうしたハードボイルドを日本の風土で作り直した結果生まれたのが、この作品の魅力的な世界観なのだろう。ドヤ街や歓楽街のいかがわしい雰囲気のなかを渡り歩いていくタフな探偵。港町が似合うそんな探偵は、日本ハードボイルドのひとつの象徴的な姿が、生き生きと描かれている小説だった。

 国内ハードボイルドについてはまだまだこれから手を出していきたいジャンルなので、大藪春彦、大沢在昌、原尞などの有名どころや、それから生島治郎の他の作品へも読み広げていきたいと思う。


次回について
 この一人読書会のやり方について、これからどう進めていくか模索中。とくに、個人ブログのほうでも本の感想を挙げているので、noteとの分担については迷いどころ。ブログのほうに移行してもいいかなと考えているので、今読んでいる本についてはブログで感想を書くことにして、noteでの読書記録は一度休憩します。
課題本:「やわらかく、壊れる」佐々木幹郎
内容紹介:詩人の佐々木幹郎が都市について書いたエッセイ




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