ダメダメなプロデューサーとそれをお世話する通い妻幼馴染燐羽の話書いていい?

  • 1二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:43:57

    内容を言うと昨日知ったえげつないくらい性癖にぶっ刺さった概念のssを読みたかったんだけどどこ探してもみつからないから勝手に書くね。っていう話。


    いくよ。


    ↓俺の性癖を壊した概念スレ

    ここだけ|あにまん掲示板bbs.animanch.com
  • 2二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:45:40

    いくよ。って言ったけど勝手に書いていいのかなぁこれ?!

    今のところPは燐羽の事を燐羽さんと呼ぶし敬語も使う。Pの担当は手毬という設定で書こうと思ってます。

  • 3二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:49:16

    遠慮するな、今までの分出せ

  • 4二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:49:59

    好きに出してくれ

  • 5二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:51:14

     日曜日の午前十一時。
     遮光カーテンが閉め切られた薄暗い1LDKのマンションに電子ロックが開錠される音が響いた。
     泥のように眠っていた俺はその聞き慣れた電子音で薄っすらと意識を取り戻す。
     泥棒ではない。
     この部屋の合鍵を持っている人間は世界でたった一人しかいないからだ。

  • 6二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:52:14

    「……あーあ。相変わらず、ここは魔窟ね」

     玄関から聞こえてきたのは呆れと愛着が入り混じった凛とした少女の声。
     ローファーを脱ぐ音がしてからフローリングを歩く足音が近づいてくる。
     やがて、寝室のドアが無遠慮に開け放たれた。

  • 7二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:53:52

    「起きなさい、このダメ人間。いつまで寝てるつもり?」

     眩しいリビングの光を背負って立っていたのは燐羽さんだった。
     極月学園の制服ではなく、少し大きめのパーカーにロングスカートという年相応の私服姿。
     紫色のツインテールを揺らしながら燐羽さんは俺の枕元に散乱したコンビニの袋や空き缶を汚いものを見るような目で見下ろしている。

  • 8二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:55:45

    「……おはようございます、燐羽さん。今日は早いですね……」
    「早くないわよ。もうお昼前。あなたがだらしない生活をしてるから、私がわざわざ見に来てあげたんじゃない」

     燐羽さんはため息をつくと慣れた手つきで俺の布団をひっぺがした。

  • 9二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:56:40

    俺もりんちゃんに乱暴に起こされてぇ…

  • 10二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 06:59:05

    「……寒いです。急になにするんですか」
    「さっさと顔洗ってきなさい。洗濯機回すから、脱いだ服はカゴに入れておくこと。あと、冷蔵庫の中身がエナジードリンクと賞味期限切れの納豆だけだったわよ。人間やめるつもり?」
    「う……面目ないです」
    「面目ないじゃないのよ。……はぁ。本当に、私がいないと何もできないんだから」

  • 11二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:00:45

     文句を言いながらも燐羽さんは床に落ちていた俺のシャツを拾い上げて丁寧に畳み始める。
     俺が洗面所で顔を洗い、髭を剃ってリビングに戻ると部屋の空気は一変していた。

  • 12二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:02:11

     淀んだ空気は換気されて散乱していた雑誌は片付いている。
     キッチンからはトントンというリズミカルな包丁の音と出汁のいい香りが漂ってくる。
     燐羽さんはキッチンに立ち、パーカーの袖を捲り上げて大根を切っていた。
     その背中はステージで見せる威圧的な姿とは程遠い、家庭的な丸みを帯びている。

  • 13二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:03:11

    「座ってて。すぐ出来るから」
    「いつもすみません」
    「お礼なんていいわ。どうせあなたのことだから、昨日もカップ麺か何かで済ませたんでしょ? 肌荒れしてるわよ」
    「……最近忙しいんです。月村さんがスランプ気味で」
    「言い訳しない。初星のプロデューサーが栄養失調で倒れたなんてニュース、極月の生徒に知られたら一生の笑い者よ」

  • 14二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:04:52

     口は悪いが、手は止まらない。
     やがてテーブルに並べられたのは完璧な和定食だった。
     ふっくらと炊かれた白米、大根と揚げの味噌汁、ふんわりとした出汁巻き卵、そして鮭の塩焼き。
     独身男性の荒んだ胃袋には涙が出るほど優しいメニューだ。

  • 15二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:06:13

    「いただきます」
    「はい、召し上がれ」

     向かいの席に座った燐羽さんは箸をつけず、頬杖をついて俺が食べる様子をじっと見つめてくる。
     味噌汁を一口啜る。
     身体の芯まで染み渡るような完璧な塩梅だ。

  • 16二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:07:33

    「……美味い」
    「当たり前でしょ。誰が作ったと思ってるの」

     燐羽さんは得意げに鼻を鳴らす。
     その頬が僅かに緩んでいるのを俺は見逃さなかった。
     燐羽さんは俺が美味そうに食べる姿を見るのが好きだ。
     昔からそうだった。

  • 17二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:08:44

    「ねえ、シャツのボタン、取れかけてたから付け直しておいたわよ」
    「本当ですか? 全然気付きませんでした」
    「でしょうね。そういう細かい所に気が回らないのがあなたの悪い癖。……アイドルをプロデュースする前に、自分の生活をプロデュースしたら?」
    「ぐうの音も出ません」
    「ふふっ。情けない顔」

  • 18二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:09:53

     燐羽さんは楽しそうに笑うと俺の口元についた米粒を取ってくれた。
     その指先は少し冷たくて、洗剤の匂いがした。

  • 19二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:10:56

     ふと、思う。
     ライバル校のエース級アイドルが、休日にライバル校のプロデューサーの家で家事をしている。
     この状況が週刊誌にでも撮られたら俺の社会的な死はもちろん、燐羽さんのキャリアにも傷がつく。
     それでも燐羽さんは合鍵を返す素振りすら見せない。

  • 20二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:12:06

    「あの、燐羽さん」
    「ん? 何? 味薄かった?」
    「いや……なんでそこまでしてくれるのかなと。俺、今まで一度も燐羽さんに何も返せてませんよ」

     俺の言葉を聞いて燐羽さんの動きが止まった。
     燐羽さんは鋭い瞳を僅かに細めて探るように俺を見る。

  • 21二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:13:17

    「……返せてない、ね」

     燐羽さんは立ち上がるとテーブル越しに身を乗り出した。
     長い睫毛が見える距離まで顔が近付く。

  • 22二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:14:20

    「勘違いしないでよ。私は、私のためにやってるの」
    「自分のためですか?」
    「そうよ。あなたがダメ人間で、部屋が汚くて、ご飯もまともに作れなくて……私の助けがないと生きていけない状態でいてくれないと、困るの」

     燐羽さんの手が俺の頬を包み込む。
     その瞳にはステージ上で見せるような攻撃的な光ではなく、もっと湿度が高く、重たい光が宿っていた。

  • 23二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:15:36

    「あなたが立派な大人になって、一人でも完璧に生活できるようになったら……私、ここに来る理由がなくなっちゃうじゃない」
    「燐羽さん……」
    「だから、あなたはずっとそのままでいいの。ダメなままでいて。私が全部やってあげるから」

  • 24二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:17:03

     それは呪いのような甘い愛の告白だった。
     燐羽さんは俺を更生させたいわけではない。俺を『自分なしでは生きられない人間』として飼い慣らしていたいのだ。
     そして俺もこの居心地の良すぎるぬるま湯から抜け出そうとは微塵も思っていない。
     共犯関係だ。

  • 25二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:18:28

    「……はい、あーん」
     
     燐羽さんが卵焼きを箸で摘み俺の口元に差し出してくる。
     
    「え、いや、自分で食べますよ」
    「いいから。ほら、口開けて」

     拒否権はない。
     俺は観念して口を開けて甘い卵焼きを咀嚼する。

  • 26二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:19:41

    「美味しい?」
    「……はい、美味しいです」
    「よろしい」

     満足そうに微笑むと燐羽さんはようやく自分の席に戻って冷めたお茶を一口飲んだ。

  • 27二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:21:06

     翌日の月曜日。
     俺はテレビ局の廊下を担当アイドルの月村さんと共に歩いていた。
     向こうからスタッフや取り巻きを引き連れた燐羽さんが歩いてくる。
     極月の制服を完璧に着こなして冷涼なオーラを纏ったアイドル賀陽燐羽。
     昨日俺の部屋でエプロンをつけて掃除機をかけていた少女とはまるで別人のようだ。

  • 28二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:22:18

    「……ッ、燐羽」

     月村さんが身構える。
     燐羽さんは俺たちの前で足を止めず、ただ冷ややかな一瞥をくれただけで通り過ぎようとする。
     完全に他人としての振る舞いだ。
     だが、すれ違いざま。
     燐羽さんの視線が俺の胸元に向けられたのに気付いた。

  • 29二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:23:32

     俺が今日締めているネクタイ。
     それは昨日燐羽さんが「明日は大事な会議があるんでしょ? これを着けていきなさい」と選び、結び目の形まで整えてくれたものだ。
     燐羽さんの口角がほんの数ミリだけ上がる。
     ――『いい子ね』
     そんな声が聞こえた気がした。

  • 30二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:24:53

     燐羽さんはそのままカツカツとヒールを鳴らして去っていく。
     
    「相変わらず感じ悪い……」
     
     月村さんが憤慨する横で俺は胸元のネクタイにそっと触れた。
     このネクタイは、首輪だ。
     俺がどんなに外でプロデューサー面をしていても、この首輪がある限り俺は燐羽さんの飼い犬なのだと思い知らされる。

  • 31二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:26:17

     そして恐ろしいことに俺はその事実に奇妙な安らぎと興奮を覚えていた。
     ポケットの中のスマホが震える。
     燐羽さんからのメッセージだ。

    『今日、早く終わるから。ご飯作りに行くわ』『ハンバーグでいい?』

  • 32二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:27:51

     俺は苦笑して画面を閉じる。
     ダメなプロデューサーと、完璧な通い妻。
     この甘い地獄から抜け出せる日は当分来そうになかった。

  • 33二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 07:29:31

    夜勤明けで眠さヤバいので早起きできたら続き書きにきます。
    今のところ夕飯作ってもらうシーンと耳かきシーンと添い寝シーンは書きたいと思っています。
    なんか読みたいネタあったらコメントください。
    1,000~2,000字の範囲で書けそうなら書いてみようと思います。

  • 34二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 09:32:14

    膝枕でお腹ぽんぽんしてそのままPが微睡んじゃうとかほしいなぁ…

  • 35二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 09:52:52

    取り敢えず手毬にプロデューサー!!!浮気したの?!とか美鈴にまりちゃんを泣かせるなんて…不誠実だと思いますとハイライト消して詰め寄って欲しい…欲しくない??

  • 36二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 10:19:33

    >>35

    いやまて、美鈴が手毬Pのお世話したいのに燐羽がお世話してる事に不満を抱いてても美味しいな…

  • 37二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 10:37:17

    有能
    元スレ懐かしいなあとか思ったら一年前で草

  • 38二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:09:57

    このレスは削除されています

  • 39二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:13:33

     深夜二十三時。
     日付が変わる直前のマンションの共用廊下を俺は鉛のように重い足取りで歩いていた。
     今日は最悪だった。
     クライアントとの折衝は難航し手配ミスで現場を混乱させ、極め付けに月村さんからは「プロデューサー、顔色が死んでますよ」と逆に心配される始末。

  • 40二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:15:11

     自己嫌悪と疲労で視界がぐらぐらと揺れている。
     電子キーをかざして重たい扉を開ける。
     いつもなら冷たく静まり返っているはずの玄関。
     けれど今日は扉を開けた瞬間に濃厚なデミグラスソースの香りと温かなオレンジ色の光が俺を出迎えた。

  • 41二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:16:26

    「……遅い」

     リビングのドアに寄りかかりながら腕組みをして待っていたのは燐羽さんだった。
     俺のヨレヨレの部屋着を借りて着ているせいで普段の凛々しいオーラは消え失せてあざといほどに可愛らしい幼馴染の姿がそこにある。

  • 42二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:28:14

    「すみません、トラブル続きで……」
    「連絡くらいよこしなさいよ。ハンバーグ、焼きすぎないように火を止めて待ってたんだから」
    「すみません……」
    「はぁ。……まあいいわ。お風呂先にする? それともご飯?」
    「……ご飯でお願いします。腹減って死にそうです」
    「ん、正直でよろしい」

  • 43二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:29:44

     燐羽さんは小さく微笑むと俺のビジネスバッグをひったくるように受け取り廊下のハンガーにスーツの上着をかけ始めた。
     その手つきは長年連れ添った妻のように自然で俺の心臓をぎゅっと締め付ける。
     洗面所で顔を洗いリビングに戻るとテーブルの上には湯気を立てる煮込みハンバーグが鎮座していた。
     付け合わせのニンジンのグラッセ、マッシュポテト、そして彩り鮮やかなサラダ。
     コンビニ弁当と栄養ドリンクで回している俺の食生活とは次元が違う。

  • 44二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:31:27

    「座って。熱いうちに食べましょ」

     向かい合わせに座りナイフを入れる。
     肉汁が溢れ出す断面にソースを絡めて口へと運ぶ。
     ……美味い。
     肉の旨味もさることながら隠し味に使われた赤ワインのコクと炒め玉ねぎの甘みが疲れた脳髄に染み渡るようだ。

  • 45二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:33:27

    「どう?」
    「……美味すぎます。俺、もう燐羽さんのご飯なしじゃ生きられないかもしれません」
    「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」

  • 46二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:34:30

     燐羽さんは頬杖をついて満足そうに目を細めた。
     彼女自身はとっくに食事を済ませているのか手元のハーブティーを時折口にするだけだ。
     ただひたすらに俺が餌を食む様子を観察している。
     その瞳はステージ上でライバルを射抜く鋭いものではなく、愛玩動物を慈しむような湿った光を宿していた。

  • 47二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:35:45

    「あ、口元ついてる」
    「え?」

     俺がナプキンを取ろうとする手よりも燐羽さんの方が早かった。
     テーブル越しに身を乗り出し親指の腹で俺の口角についたソースを拭う。
     そして、あろうことかその指を自分の口に含み舐め取った。

  • 48二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:38:06

    「り、燐羽さん……っ!?」
    「ん。……うん、味付けは完璧ね」
     
     悪びれもせず微笑む燐羽さんに俺は顔が沸騰するのを感じた。
     燐羽さんにとって俺は対等な男というよりは手のかかるペットに近いのかもしれない。

  • 49二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:40:36

     食事と入浴を終えリビングに戻ってくると燐羽さんに「座ってて」と制止された。
     結局、片付けも明日のゴミ出しの準備も全て燐羽さんがやってしまった。
     ライバル校のエースアイドルに家政婦のような真似をさせている。
     その背徳感と情けなさで俺はソファの上で小さくなっていた。

  • 50二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:42:41

     家事を終えた燐羽さんがエプロンを外してこちらへやってくる。
     俺の隣に座ると無言で俺の頭を引き寄せて自身の太ももの上に乗せた。
     強制的な膝枕だ。

  • 51二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:43:43

    「……燐羽さん、さすがにこれは」
    「動かないで。疲れ取ってあげるから」

     燐羽さんの太ももは柔らかくて温かい。
     スウェット越しに伝わる体温と上から降ってくる甘いシャンプーの香りに抗う気力が削がれていく。
     燐羽さんの細い指が俺の髪を梳く。
     そのまま凝り固まった頭皮を優しくマッサージし始めた。

  • 52二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:44:47

    「……凝ってるわね。また眉間に皺寄せて仕事してたんでしょ」
    「……今日は特に、自分の無力さを痛感しました」
    「ふーん」

     燐羽さんの指の心地よさに、普段なら飲み込むはずの弱音が口をついて出た。
     俺は本当にダメな人間だ。
     こうして幼馴染に甘えて、美味しいご飯を食べて、膝枕までしてもらって。
     自立できていない大人の典型例だ。

  • 53二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:47:06

    「燐羽さん。俺……」
    「黙って」

     俺の言葉を遮るように燐羽さんの手が俺の目を覆った。
     視界が闇に包まれる。
     聴覚と触覚だけが研ぎ澄まされる中、頭上から燐羽さんの静かな声が降ってきた。

  • 54二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:48:56

    「あなたが立派なプロデューサーになったら、私は困るの」
    「え……?」
    「あなたがダメで、情けなくて、部屋も汚くて、ご飯も一人じゃ作れなくて……私の支えがないと一日も生きていけない。そうでいてくれないと、私がここに来る理由がなくなるじゃない」

     覆われた手の下で俺は息を呑んだ。
     燐羽さんの声は呪いのように重く、そして甘い。

  • 55二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:50:09

    「外ではみんな私に完璧を求めてくる。誰も私の中身なんて見てないし、甘えさせてなんてくれない。……でも、ここは違う」

     手が外される。
     眩しさに目を細めると逆さまに映る燐羽さんが蕩けるような笑顔で俺を見下ろしていた。
     その瞳の奥には底知れない独占欲が渦巻いている。

  • 56二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:52:06

    「あなたは私が必要で、私もあなたが必要。……あなたがダメ人間であればあるほど、私は安心するの。『ああ、この人は私が管理してあげなきゃダメなんだ』って」

     燐羽さんは身体を折り曲げて顔を近付けてくる。
     吐息がかかる距離。
     長い睫毛が触れそうなほど近くで、燐羽さんは俺の鼻先を指でピンと弾いた。

  • 57二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:53:14

    「だから、あなたは一生、そのままでいいの。私の掌の上で、無様に転がってなさい」
    「燐羽さん……」
    「その代わり、私が死ぬまで面倒見てあげる。……嬉しいでしょ?」

     それはプロポーズよりも重い、絶対的な契約だった。
     俺はこの心地よい檻から出るつもりがない自分に気付いていた。
     彼女に依存し、彼女に管理されることに喜びを感じてしまっているのだ。

  • 58二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:54:26

    「……嬉しいです。ありがとうございます、燐羽さん」
    「ふふっ。素直でよろしい」

     燐羽さんは嬉しそうに喉を鳴らすと俺の額に口付けた。
     そして耳元に唇を寄せ、とびきり甘い毒を注ぎ込むように囁いた。

  • 59二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 14:56:03

    「こんなに愛されてるのに、自分の幸せにも気付けないなんて」

     熱い吐息が耳の中に入り込む。

    「……本当に、おばか」

     その一言で俺の思考回路は完全に焼き切れた。
     呆れと、慈愛と、支配欲が混ざり合った世界で一番甘い罵倒に、全身の力が抜けていく。

  • 60二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:01:36

    「り、燐羽さん……」
    「なぁに? そんな甘えた声出しちゃって」
    「耳かき、お願いしてもいいですか……?」
    「ふふ、だと思った。じっとしてて。……動いたら危ないわよ」
    「お願いします」

  • 61二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:03:17

     視界が塞がれるわけではないが目の前には燐羽さんの腹部がある。
     俺は気恥ずかしさから目を閉じた。
     髪が払われる感触、綿棒の感触が耳介に触れてゆっくりと奥へ侵入してくる。

  • 62二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:05:03

    「こら。力抜いて。……あ、ここ溜まってる」

     頭蓋骨に直接響くような独特の摩擦音が鼓膜を揺らす。
     くすぐったさと芯を捉えられた時の快感。
     背筋がゾクゾクと粟立ち足の指先が勝手に丸まる。
     自分でやるのとは全く違う。
     急所を完全に他人に握られている緊張感と安堵感が交互に押し寄せてくる。

  • 63二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:07:04

    「ん、あ……そこ……」
    「ここ? ふふ、弱いのね」

     燐羽さんは楽しそうにその「弱い場所」を執拗に攻めてくる。
     リズミカルな音と共に日中の仕事で蓄積されたストレスや雑念が物理的に削ぎ落とされていくようだ。

  • 64二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:08:12

    「……ねえ、知ってる?」

     燐羽さんが独り言のように呟く。

    「耳の中って、自分じゃ見えないでしょ。こうやって誰かに委ねるしかないの」
    「……そうですね」
    「つまり今、あなたの感覚の全ては私のものってこと。……ゾクゾクするわね」

  • 65二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:09:26

     少し強めに壁を擦られる。

    「っ!?」
    「あはっ、可愛い声」

     Sっ気たっぷりに笑う燐羽さんの手つきは驚くほど繊細で優しい。
     痛くはない。ただひたすらに気持ちいい。

  • 66二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:10:57

    「……はい、反対向いて」

     促されるままに寝返りを打ち反対の耳を差し出す。
     今度は燐羽さんの体温が顔の正面に来る。
     パーカー越しのお腹の温かさが理性のタガを完全に外しにかかっていた。

  • 67二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:12:52

     左耳の掃除が終わる頃、俺はもう言葉を発することさえ億劫になっていた。
     ただ、燐羽さんの膝の上で微睡むだけの肉塊。
     そんな俺の耳元に、燐羽さんが顔を近づける気配がした。

     ――フゥッ。

    「うわっ!?」

     仕上げとばかりに耳の中に息を吹きかけられて俺は身体を跳ねさせた。
     鼓膜を直接撫でられたような衝撃に目が覚めるどころか逆に頭がクラクラする。

  • 68二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:14:41

    「何? 驚きすぎよ」
    「い、今のは反則ですよ……」
    「ごめんなさいね。……でも、綺麗になったわよ」

     燐羽さんは耳かきをサイドテーブルに置くと俺のお腹を撫で始めた。
     大きな子どもをあやすような一定のリズム。
     俺はぼんやりとした頭で燐羽さんを見上げた。
     逆光で表情はよく見えないが俺に向けられている感情がとてつもなく重く、温かいものであることは分かった。

  • 69二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:16:40

    「……燐羽さん」
    「ん?」
    「いつもすみません。俺みたいなダメなやつのために、貴重な時間を」

     思考能力が低下しているせいか普段は飲み込む自虐が口をついて出た。
     こんな幼馴染に甘えっぱなしの自分がどうしようもなく情けない。

  • 70二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:18:02

    「俺、もっとしっかりしないと……燐羽さんに頼ってばかりじゃ……」
     
     言いかけた言葉は指先で唇を塞がれて遮られた。
     
    「……余計なこと考えないの」

     燐羽さんの顔が近づいてくる。
     綺麗な瞳が俺の網膜に焼き付く。

  • 71二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:20:20

    「あなたがしっかりしちゃったら、私が困るのよ。あなたがダメで、無防備で、こうやって膝の上で無様にトロトロになってる姿を見るのが……私の生き甲斐なんだから」

     燐羽さんは塞いでいた指を離すと俺の耳元――掃除したばかりで敏感になっているその場所に、唇を寄せた。

    「一生そのままでいて。私の可愛いダメ人間さん」

     熱い吐息と言葉がダイレクトに脳髄へ流し込まれる。

    「……本当に、おばか」

     その甘美な響きに俺の意識はいとも容易くブラックアウトした。抗う気力など最初から残されていなかったのだ。

  • 72二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:21:47

    「あら、もう限界? しょうがないわね」

     燐羽さんはクスクスと笑うと俺の肩を叩いた。

    「ほら、起きて。ベッド行くわよ」
    「ん……ソファでいい……」
    「ダメ。身体痛くなるでしょ。……それに」

     燐羽さんは小さな声で付け足した。

    「……私が、狭いのよ」

  • 73二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:23:04

     気がつけば俺は寝室のベッドに転がされていた。
     隣には当然のように燐羽さんがいる。
     シングルベッドに二人。
     大人の男女が寝るにはあまりに狭い空間だが、燐羽さんはそれを望んでいた。

  • 74二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:24:16

    「……あったかい」

     背中から抱きつくような形で密着してくる。
     燐羽さんの腕が俺の胴に回り、背中に柔らかな感触が押し当てられる。

    「ねえ、こっち向いて」

  • 75二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:25:40

     耳元で囁かれ、俺は重い瞼をこじ開けて寝返りを打つ。
     至近距離。暗闇の中で燐羽さんの瞳だけが濡れたように光っている。
     燐羽さんは俺の胸に額を押し付けると安心しきったため息を吐いた。

  • 76二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:27:34

    「……この匂い、落ち着く」
    「柔軟剤、ずっと同じの使ってますからね」
    「そうじゃなくて……あなたの匂いよ。バカ」

     燐羽さんは俺のシャツの胸元をぎゅっと掴むと上目遣いで俺を睨んだ。
     いや、睨んでいるのではない。
     それは所有権を主張する、雌の目だった。

  • 77二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:29:06

    「明日の朝、ちゃんと起こしてあげるから」
    「……助かります」
    「朝ごはんも作ってあげる。……服も選んであげる」
    「……はい」
    「だから、あなたは何も考えなくていいの。全部、私がやってあげる」

     それは完全なる管理。
     あるいは、この世で最も優しい軟禁。
     薄れゆく意識の淵で燐羽さんの手が俺の耳を優しく撫でるのを感じた。

  • 78二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:30:09

    「……おやすみ。私のプロデューサー」

     その声を聞いた瞬間、俺は完全に眠りへと落ちた。
     明日もまた、燐羽さんの手のひらの上で目覚めることを幸福だと感じながら。

  • 79二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 15:33:18

    次は休日お忍びデートする二人とリクエストあった手毬に浮気と詰められる話、Pのお世話をしたい美鈴が燐羽に対抗する話をボチボチ書いていこうと思います

  • 80二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 18:01:55

    お疲れ様です。ありがとうございます。

  • 81二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 18:19:07

    素晴らしすぎる...

  • 82二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 18:34:17

    良い…既にすっごい満足感…

  • 83二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 21:56:07

    激重感情りんちゃん...ありですね...

  • 84二次元好きの匿名さん26/01/14(水) 22:03:50

    賀陽燐羽は私の母になってくれるかもしれなかった女性だ

  • 85二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 01:22:38

    寝る前にいいスレ見つけたありがとう

  • 86二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:04:40

     日曜日の午後一時。
     都内某所、ハイブランドのショップと隠れ家的なカフェが並ぶ表参道の裏通り。
     俺は隣を歩く『彼女』のあまりの変貌ぶりに待ち合わせから一時間経った今もまだ慣れずにいた。
    「……ねえ。さっきから私の顔、見すぎじゃない?」
    「いや……その、雰囲気が違いすぎて」

  • 87二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:05:57

     俺の隣を歩く少女――燐羽さんは不満げに唇を尖らせた。
     いつものツインテールは今日は下ろされて艶やかなストレートヘアになっている。
     目元には縁の太い伊達眼鏡。
     深めのバケットハットを目深に被り服装も制服やステージ衣装ではなく清楚なロングワンピースにカーディガンという、どこぞの深窓の令嬢のような装いだ。
     アイドルの面影はどこにもない。
     そこにいるのは、ただの可愛らしい美少女だった。

  • 88二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:07:25

    「当たり前でしょ。『お忍び』なんだから。……それとも、いつもの私の方がいいわけ?」
    「いえ。その……すごく、似合ってますよ。可愛いです」
    「ふーん。……お世辞でも受け取っておいてあげるわ」

     燐羽さんは帽子で隠しているが耳が僅かに赤くなっているのが見て取れた。
     今日は俺の買い物のために燐羽さんがわざわざ変装して付き合ってくれているのだ。

  • 89二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:08:44

    「ほら、ぼーっとしてないで歩く。はぐれたら面倒でしょ」
     
     燐羽さんの手が伸びてきて俺の手をぎゅっと握った。
     当然のように指を絡める恋人繋ぎだ。

    「り、燐羽さん? これじゃ逆に目立つんじゃ……」
    「相変わらずおばかね。周りを見てみなさい」

  • 90二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:10:06

     燐羽さんに促されて周囲を見渡すと休日を楽しむカップルたちが皆、身を寄せ合って歩いている。
    「『ただのバカップル』に見えるのが一番のカモフラージュなの。変によそよそしくしてたら、逆に怪しまれるでしょ」
    「なるほど……理屈はわかりました」
    「つべこべ言わない。……それとも、私と手を繋ぐのが嫌なわけ?」

     眼鏡の奥から上目遣いに睨まれる。
     嫌なわけがない。
     繊細で少し冷たい彼女の手の感触は心臓が痛くなるほど愛おしい。

  • 91二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:11:12

    「……いや、嬉しいです」
    「よろしい」
     
     燐羽さんは満足げに鼻を鳴らすと繋いだ手をさらに強く握り直して俺の腕に自身の身体を寄せてきた。
     柔らかい感触といつものラベンダーの香りが鼻腔をくすぐる。
     公衆の面前での、秘密のデート。
     その背徳感に俺の足取りは少しだけ浮ついていた。

  • 92二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:12:20

     セレクトショップを三軒梯子させられ、俺の手には新しいシャツやパンツが入ったショッパーが増えていった。
     当然、全て燐羽さんが選んだものだ。
     「あなたはセンスが壊滅的だから、私の選んだものを着ていれば間違いないわ」というありがたいお言葉と共に。

    「次、あのお店見るわよ」

     燐羽さんが指差したのは少し奥まった場所にあるメンズブティックだった。
     店員に案内されて俺はまたしても試着室へと放り込まれる。

  • 93二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:13:34

    「はいこれ、着てみて。カーテン開けなくていいから」
    「えっ、確認しないんですか?」
    「いいから。……入るわよ」
    「え?」

     狭い試着室にするりと燐羽さんが侵入してきた。

    「あ、あの燐羽さん!? ここ狭いですし店員さんにバレる可能性が……!」
    「シーッ。声が大きい」

  • 94二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:14:41

     大人ひとりが着替えるスペースに二人がひしめき合う。
     密室。逃げ場はない。
     燐羽さんは俺の胸元に手を伸ばすと着替えたばかりのシャツの襟を整えはじめた。

    「……うん。サイズ感は完璧ね」
    「そ、そうですか? なら早く出ましょう」
    「待って。……仕上げがまだよ」
    「仕上げ?」

  • 95二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:16:06

     燐羽さんは背伸びをするとマスクを少しずらして俺の首筋に唇を寄せた。
     熱い吐息がかかる。

     ――チュッ。

     柔らかな感触と湿った音が狭い空間に響く。
     一瞬ではなく、じっくりと吸い上げるようなキス。

    「なっ……!?」
    「ふふ。これでよし」

  • 96二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:17:36

     燐羽さんは悪戯っぽく笑いマスクを戻す。
     鏡を見るとシャツの襟で隠れるか隠れないか、そのギリギリの場所に淡い赤色が刻まれていた。

    「これじゃ脱げませんよ……! もし誰かに見られたら」
    「見られなきゃいいのよ。それに……」
     燐羽さんは俺の胸板に手を置いてトントンと軽く叩く。

  • 97二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:18:50

    「外にいる間、あなたは『賀陽燐羽のもの』だって証拠がないと、私が落ち着かないの」

     眼鏡の奥の瞳はとろんと甘く濁っていた。
     マーキング。
     燐羽さんは俺の服だけでなく身体そのものをコーディネートしたがっているのだ。

  • 98二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:20:01

     店を出て少し遅めの休憩のためにカフェに入った。
     運よく個室風のボックス席に通される。
     注文したパンケーキを前に燐羽さんはようやく帽子と眼鏡を外して一息ついた。

    「……ん、美味しい。 やっぱりここのクリームは最高ね」

     一口食べた瞬間、燐羽さんの表情が綻ぶ。
     厳しいアイドルの顔でも、世話焼きの通い妻の顔でもない、年相応の少女の顔。
     そのギャップに胸が温かくなる。

  • 99二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:21:17

     その時だった。
     ふと、店内に流れていたBGMが切り替わりアップテンポな曲が流れ始めた。
     月村手毬のデビュー曲。街中でもよく耳にするヒットソング。
     俺が反応して店のスピーカーを見上げようとした瞬間、テーブルの下で足を軽く蹴られた。

    「いっ……!?」

     驚いて正面を見ると燐羽さんが冷え切った瞳で俺を睨みつけていた。
     さっきまでの甘い雰囲気は霧散し極月の絶対王者としてのオーラが漏れ出している。

  • 100二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:22:25

    「……何? 他の女の曲に反応してるの?」
    「い、いや、つい職業病で」
    「言い訳しない。今は私との時間でしょう?」

     燐羽さんはフォークを置いてテーブルの下で俺の手を上から強く押さえつけた。
     逃がさないという意思表示だ。

  • 101二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:23:59

    「今日は休日。あなたはプロデューサーじゃなくて、ただの私の……『お世話係』兼『所有物』なんだから」
    「……はい」
    「他のアイドルのことなんて、一秒たりとも考えさせない。……私のことだけ見てなさい」

     嫉妬深いお姫様のご機嫌を損ねては命に関わる。
     俺は「すみません」と小さくなりながらもその独占欲を心地よいと感じていた。
     燐羽さんは俺の手を握ったままもう片方の手でパンケーキを切り分けて俺の口元に差し出してくる。

  • 102二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:25:07

    「ほら、あーん」
    「え?」
    「私の機嫌を直したいなら、食べる」
     
     結局俺は燐羽さんに餌付けされる形でパンケーキを口に運ばれた。
     甘い。とてつもなく甘い。
     これは味のせいだけではないだろう。

  • 103二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:26:17

     夕暮れ時。
     デートの終わりは並木道を歩いて駅へと向かう時間だった。
     変装のおかげか一度も騒ぎになることなく一日を終えられそうだ。

    「……寒くなってきたわね」
     
     燐羽さんが小さく身を縮める。
     俺は持っていたショッパーを持ち直して空いた方のポケットを広げて目で合図をした。
     燐羽さんは一瞬きょとんとしたがすぐに意図を察したようだ。

  • 104二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:27:28

     俺のコートのポケットに燐羽さんの手が滑り込んでくる。
     中で冷たい指が俺の指に絡みつく。
     誰にも見えない場所での密やかな愛の確認。

    「……あったかい」
    「風邪、引かないようにしてくださいね。明日も仕事入ってますよね?」
    「分かってるわよ。……ねえ」

  • 105二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:28:35

     燐羽さんが俺の肩に頭を預けてくる。
     重みと、体温。そして、俺だけに聞こえる声で囁いた。

    「このまま、あなたの家に行っていい?」
    「え? でも明日、早いんじゃ……」
    「……買った服、一度洗濯してアイロンかけなきゃ着れないじゃない。私がやってあげる」

  • 106二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:29:40

     それは建前だ。
     ポケットの中で燐羽さんの手がぎゅっと俺の手を握りしめたのが分かった。
     まだ離れたくない、という無言の訴え。

    「それに……今日の『デート代』、まだ身体で払ってもらってないもの」

     マスク越しに燐羽さんが意味深に笑う気配がした。
     首筋に残されたキスマークが熱を持ったように疼く。
     身体で払う、という言葉の意味を想像して俺は観念したように息を吐いた。

  • 107二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:51:40

    手毬に燐羽との関係がバレるパートに入ります

     日曜日の夕暮れ時。
     俺の住むマンションの一室には平和で甘やかな空気が満ちていた。
     キッチンからはシチューが煮込まれる音。アイロンのスチームが噴き出す音。
     そして、鼻歌まじりに俺の世話を焼く燐羽さんの姿。
     それは俺が完全に依存してしまった甘い日常だった。

  • 108二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:52:50

    「ほら、ワイシャツ全部かけたわよ。来週分」
    「ありがとうございます。助かります」
    「お礼はいいから、そこのお皿取って。仕上げにパセリ散らすから」

     エプロン姿の燐羽さんが慣れた手つきでキッチンを行き来する。
     完全に『新婚家庭』のような光景だが、俺たちの関係はあくまで『幼馴染兼お世話係』と『ダメ人間』だ。
     ……少なくとも俺はそう思い込もうとしていた。

  • 109二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:53:50

     ――ピンポーン。

     不意にインターホンが鳴り響いた。
     俺と燐羽さんの動きが同時に止まる。
     宅配便の予定はない。

    「……誰?」
    「さあ……モニター見てきます」

     俺がリビングを出て玄関のモニターを覗き込んだ瞬間心臓が早鐘を打った。

  • 110二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:55:00

    『プロデューサー、いますか? ……いるのは分かってるんですよ。電気、ついてますし』

     モニターに映っていたのは帽子を深めに被り不機嫌そうにスマホを睨んでいる月村さんだった。

    「つ、月村さん!?」
    「えっ」

     後ろからついてきていた燐羽さんが眉をひそめる。

    「なんであの子が来るのよ」
    「し、知りませんよ。住所なんて教えてないはず……いや、前に資料送ってもらった時にバレたのか……?」

  • 111二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:56:10

     冷や汗が噴き出す。
     居留守を使うか? いや、電気がついているのはバレているし何より月村さんの性格上一度火がついたらドアの前で朝まで待ち伏せしかねない。それに、今の俺たちはやましい関係ではない。……はずだ。

    「……開けてもいいですか?」
    「はぁ。……まあ、いいわ」
     
     燐羽さんは意外にも落ち着いていた。
     むしろ、口元に冷ややかな笑みを浮かべて腕組みをして壁に寄りかかる。

     「あの子に『現実』を教えてあげる、いい機会かもしれないし」

     その不穏な言葉を聞かなかったことにして俺は恐る恐るドアを開けた。

  • 112二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:58:05

    「……お疲れ様です、月村さん。急にどうしましたか?」
    「『急にどうした』じゃないですよ! 電話! 何回かけたと思ってるんですか!」

     ドアが開くや否や、月村さんが怒鳴り込んできた。
     手にはコンビニの袋。目は血走っている。

    「新曲の歌詞のことで相談したいってメッセージしたのに、既読もつかないし……心配になって来てあげたのに」

     月村さんはズカズカと上がり込み、そして鼻をひくつかせた。

  • 113二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 06:59:31

    「……なんか、いい匂いしません? プロデューサー、自炊なんて出来ましたっけ」
    「あ、いや、これは」
    「それに部屋、なんか綺麗だし……」

     こういう時月村さんは妙に勘が鋭い。
     違和感の正体を探るようにリビングのドアを開け放つ。
     そして、そこで凍りついた。

  • 114二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:00:42

    「あら。いらっしゃい、手毬」

     リビングの真ん中。
     俺のエプロンを身につけてお玉を持った燐羽さんが余裕しゃくしゃくの態度で微笑んでいた。
     まるで、この家の女主人のように。

    「……は?」

     月村さんの手からコンビニ袋がドサリと落ちた。
     中からペットボトルや差し入れのゼリーが転がり出る。
     月村さんは口を開閉させて目の前の光景を脳が処理しきれないように瞬きを繰り返した。

  • 115二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:01:56

    「り、燐羽……? なんでここに……」
    「なんでって。夕飯を作りに来たのよ。彼、一人だとロクなもの食べないから」
    「は……夕飯……?」
    「ついでに掃除と洗濯もね。本当に手がかかるんだから、この人は」

     燐羽さんは俺の方を向き、「ねー?」と親しげに同意を求めてくる。
     月村さんの視線が俺と燐羽さんを激しく往復する。
     極月の制服を着たライバルが、エプロン姿で、担当プロデューサーの部屋にいる。
     その事実は月村さんにとって核爆弾級の衝撃だった。

  • 116二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:03:10

    「ぷ、プロデューサー……どういうことですか、これ」

     月村さんの声が震えている。
     怒りよりも混乱と恐怖が勝っている声だ。
    「どういう関係なんですか……?」

    「……幼馴染よ」

     答えたのは俺ではなく燐羽さんだった。
     わざとらしく俺の肩についた糸くずを払いながら勝利宣言のように告げる。

  • 117二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:04:14

    「家が隣同士で、小さい頃から私が彼の面倒を見てたの。……あなたが彼に出会う、ずーっと前からね」
    「おさな……なじみ……?」
    「そう。だからこれは仕事じゃなくて、プライベート。……部外者のあなたが、土足で踏み込んでいい領域じゃないのよ」

     燐羽さんの言葉は鋭利な刃物だった。
    『アイドルとプロデューサー』というビジネス上の関係しかない月村さんに対し『幼馴染』という歴史と時間のマウントを容赦なく叩きつけたのだ。

  • 118二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:05:34

    「……っ!」

     月村さんが唇を噛み締めながら拳を握りしめる。
     空気が張り詰めて破裂しそうになったその時、燐羽さんがエプロンを外し始めた。

    「まあ、せっかくお客様が来たんだし、私はお暇しようかしら」
     
     燐羽さんは俺の目を見て優しく微笑む。

    「シチュー、温め直して食べてね。明日の朝ごはんの分もあるから」
    「え、ええ……ありがとうございます」
    「ううん。……また来るわ」

  • 119二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:07:08

     すれ違いざま、燐羽さんは呆然と立ち尽くす月村さんの耳元で何かを囁いたように見えた。
     月村さんの肩がビクリと跳ねる。
     燐羽さんは涼しい顔で玄関を出て行く。
     扉が閉まる音が響いた。

     残されたのは、俺と月村さん。
     そして、食欲をそそるシチューの匂いだけ。
     沈黙が痛い。
     俺は何とか場を取り繕おうと落ちたコンビニ袋を拾い上げた。

  • 120二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:08:22

    「と、とりあえず座ってお茶でも……」
    「……触らないでください」

     拒絶の声は低く、冷たかった。
     振り返った月村さんの瞳にはドス黒い炎が宿っていた。
     彼女はゆっくりと俺に詰め寄ってくる。

    「幼馴染……世話焼き……。なるほど、そういうことだったんですね」
    「月村さん、誤解です。燐羽さんとは本当に、腐れ縁というか……」
    「何が誤解なんですか!」

  • 121二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:09:36

     月村さんが俺を突き飛ばし、俺はソファに倒れ込んだ。
     逃がさないように月村さんが覆い被さってくる。
     その表情は今にも泣き出しそうで、それでいて人を殺せそうなほど怒っていた。

    「部屋の掃除、洗濯、料理……。これって、恋人がすることじゃないですか!」
    「いや、燐羽さんは世話焼きなだけで……」
    「さっき、燐羽は私に聞こえるようにこう言ったんですよ。『彼は私の味が好きなの』って!」

     月村さんが俺の胸倉を掴む。その手は震えていた。

  • 122二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:11:10

    「私には『体重管理しろ』だの厳しく言うくせに……自分は裏で、燐羽に甘やかされてたんですか?」
    「そ、それは……」
    「私のプロデューサーだと思ってたのに。私だけを見てくれてると思ってたのに……!」

     月村さんの瞳から大粒の涙が零れ落ちて俺の頬を濡らす。
     それは悲しみの涙ではない。
     悔しさと、独占欲が煮詰まった熱い雫だ。

  • 123二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:12:37

    「……プロデューサー」

     月村さんの顔が近付く。
     月村さんの視線が、俺の首元――先日、燐羽さんがつけたキスマークが消えかかっている場所に釘付けになった。
     隠していたはずなのに、至近距離で見られたら誤魔化せない。

    「……っ! これも……燐羽が?」
    「……」
    「答えて!!」

  • 124二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:14:07

     否定できない俺を見て月村さんの理性が音を立てて崩壊した。
     月村さんは俺の首筋に顔を埋めると痛みを感じるほどの強さで吸い付いた。

    「つ、月村さん!?」
    「上書きしてやる……! 私が、全部……!」

  • 125二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:15:17

     獣のような唸り声。
     月村さんは燐羽さんの痕跡を消し去るように何度も何度も唇を押し付けて歯を立てる。
     痛みと熱さが走る。
     ひとしきり暴れた後、月村さんはようやく顔を上げた。
     口元を赤く染め、涙でぐしゃぐしゃになった顔で俺を睨みつける。

    「……ひどいです、プロデューサー」

     その言葉は、まるで浮気現場を押さえた妻のような響きを持っていた。

  • 126二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:16:45

    「私のこと、トップアイドルにするって言いましたよね? 二人三脚で頑張ろうって……」

     月村さんの手が俺の頬を冷たく撫でる。

    「なのに、心も体もライバル校の女に管理されて……それって」

     月村さんの瞳の奥、ハイライトの消えた暗い闇が俺を捉えて離さない。

    「それって……浮気ですよね?」

  • 127二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:20:10

     その言葉の重みに俺は息を呑んだ。
     アイドルとプロデューサー。
     そこに恋愛関係はないはずだ。
     だから『浮気』という言葉は成立しない。
     だが、今の月村さんに正論は通じない。
     月村さんにとってこれは魂の契約違反であり、許されざる裏切りなのだ。

    「許しません……絶対に」

  • 128二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:21:40

     月村さんは俺の上に跨ったままゆらりと笑った。
     その笑顔は燐羽さんの余裕ある微笑みとは対照的な、必死で、不器用で、危険な笑顔だった。

    「燐羽の味が好きなら、私がもっと美味しいものを作れるようになります。掃除だって洗濯だって、私がやります」
    「月村さん、貴方には夢が……」
    「関係ない!!」

     月村さんは叫び、俺の肩に額を押し付けた。
     震える声が部屋に響く。

  • 129二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:23:42

    「私だけを見てよ……。私だけのプロデューサーでいてよ……!」
    「月村さん……」
    「今日は帰りません。……今日は、私がここで監視しますから」

     月村さんの腕が俺の背中に回り、強い力で締め上げる。
     キッチンからは燐羽さんが作ったシチューの甘い香りが漂ってくる。
     その匂いに包まれながら俺は泣きじゃくる月村さんを抱きとめることしかできなかった。

  • 130二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:36:58

    類は友をとは言うけどSyngUp揃いも揃って独占欲マシマシだな

  • 131二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:38:44

    燐羽のお世話に対抗する美鈴の話いきます

     放課後のレッスンスタジオ。
     月村さんに休憩の合図を出すと共に俺は壁際のベンチに腰を下ろしてペットボトルの水を煽った。
     最近は激務が続いているが不思議と体調は崩していない。
     それもこれも、幼馴染であり通い妻と化した燐羽さんの徹底的な健康管理のおかげだ。

  • 132二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:40:15

    「隣、失礼しますね」

     不意にねっとりと甘い声が鼓膜を震わせた。
     隣を見るといつの間にか秦谷さんが座っていた。
     秦谷さんは髪を指で弄りながら値踏みするように俺の全身をジロジロと観察している。

    「秦谷さん。お疲れ様です」
    「お元気そうですね」
    「わかりますか? 最近寝つきがすごくいいんです」
    「まあ。……『あの子』のおかげですか?」

  • 133二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:41:40

     図星を突かれて言葉に詰まる。
     秦谷さんはつまらなそうに鼻を鳴らすと俺の胸元に顔を近づけた。

    「……やっぱり。りんちゃんの柔軟剤の匂いがします」

     秦谷さんは不機嫌そうに目を細める。
     同じユニットだっただけあって燐羽さんの痕跡には敏感だ。

    「いいご身分ですね。極月学園のりんちゃんに身の回りのお世話を全部やってもらって。……独り占め、ずるいです」
    「誤解です。燐羽さんが勝手に世話を焼いてくるだけで……」
    「でも、断ってないんでしょう? まんざらでもない顔をしてますよ」

  • 134二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:43:02

     秦谷さんはむくれたように唇を尖らせると俺の肩に頭を預けてきた。

    「肩、凝ってませんか? わたしが揉んであげますよ」
    「いや、大丈夫です。昨日お風呂上がりに燐羽さんにストレッチさせられたので」
    「……まあ。じゃあ、お腹はどうですか? わたしが美味しいスイーツ、あーんしてあげますよ?」
    「すみません。昼のお弁当が結構ボリューミーで、まだお腹がいっぱいなんです」

     秦谷さんの手が空を切る。表情が少し強張った気がした。
     
    「……面白くありません」

  • 135二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:45:09

     ポツリと漏れた言葉は本気の不満を孕んでいた。

    「あれもこれも……衣食住から健康管理まで、わたしが入り込む隙間なんて1ミリもないんですね」

     ……秦谷さんは俺の世話をしたいのか?
     それも、燐羽さんのような甲斐甲斐しい家事労働ではなく、ペットを愛でるような一方的な可愛がりを。
     しかし燐羽さんの完璧な防衛ラインが敷かれていて出る幕がないようだ。

    「りんちゃんってば、相変わらず几帳面なんですから。……プロデューサーのこと、そんなにピカピカに磨き上げてどうするつもりなのでしょうか」

     秦谷さんはあからさまにため息をつくとベンチの上でずりずりと身体を寄せてきた。
     そして俺の膝の間に強引に割り込み、太ももの上に腕を置いて体重を預けてくる。

  • 136二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:46:13

    「プロデューサー」
    「秦谷さん。距離が近すぎます」
    「りんちゃんのお世話って、窮屈じゃありませんか?」

     上目遣いの瞳が妖しく光る。

    「『野菜食べなさい』とか『部屋片付けなさい』とか『シャンとしなさい』とか……口うるさいお母さんみたいで」
    「……まあ、耳が痛いのは事実ですが」
    「そうですよね? 人間、ダラダラしたい時だってあります」

     秦谷さんの指が俺のシャツのボタンをひとつだけ器用に外した。
     燐羽さんが今朝、きっちりと留めてくれたボタンを。

  • 137二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:47:23

    「わたしがしてあげたい『お世話』は、少し違います」
    「……どういう意味ですか」
    「ダメにしてあげたいんです」

     秦谷さんは悪魔のように、あるいは聖母のように微笑んだ。

    「お風呂入るのが面倒なら入らなくていいですし、ご飯だって好きなお菓子で構いません。……いっそ、お仕事なんてサボってしまいましょう」
    「な、何言って……」
    「休日はカーテンを閉め切って、二人でお布団の中でゴロゴロして……眠くなったら寝て、目が覚めたらキスして。……そういう、とろとろのお世話がしたいんです」

  • 138二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:48:50

     秦谷さんの甘い香りが燐羽さんのラベンダーの香りを侵食していく。
     燐羽さんが『自立させるための管理』なら、秦谷さんが提案しているのは『共依存のための堕落』だ。
     恐ろしいことに仕事で疲弊した今の俺には秦谷さんの提案するぬるま湯のような地獄が、魅力的に見えてしまった。

    「でも、そのポジション……今はりんちゃんがガチガチに固めてしまっています」

     秦谷さんは不満げに呟くと俺の手を取った。
     そして、俺の指先を甘噛みする。

    「秦谷さん!?」
    「……マーキングです」

     秦谷さんは離さない。
     指先に、湿った熱と微かな痛みが走る。

  • 139二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:49:57

    「りんちゃんが『正しい生活』で縛るのなら、わたしはこうやって『悪いこと』を教えてあげます」
    「……」
    「りんちゃんの前では『いい子』にしてなきゃいけないんですよね? ……そんなの、疲れちゃいます」

     秦谷さんは俺の指を離すと濡れた唇を拭いもせずに笑った。

    「今度の週末。りんちゃんに嘘をついて、わたしの部屋にきてください」
    「え……」
    「プロデューサーが廃人になるまで、よしよししてあげます」

  • 140二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:51:11

     それは明確な浮気の誘いであり、燐羽さんへの宣戦布告だった。
     秦谷さんは立ち上がると俺の耳元に唇を寄せた。

    「りんちゃんが作った『完璧なプロデューサー』を、わたしがぐちゃぐちゃに溶かしてあげます。……楽しみですね?」

     そう言い終えると、ウインクひとつ残して秦谷さんはレッスンスタジオを去っていった。

  • 141二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 07:52:55

    な、なんか欲望のままに書いてたらヤバイ展開になって困った。
    学P君これどうやって収拾つけるつもりなんだい?
    美鈴と密会ルート書くとスレタイから逸れちゃうので書きません。みんなの想像で補完してください。
    修羅場ルート少し書いてみるのも面白そうだけどどうしたものか…とりあえず夜勤明けで眠いのでおやすみなさい。

  • 142二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 08:08:45

    燐羽と美鈴のバチバチな場面も見たいし燐羽に詰められる学Pの場面もみたいぞ

  • 143二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 08:11:32

    主がSyngUp!に脳焼かれすぎてヤバい
    燐羽の自立させるための管理か
    美鈴の共依存のための堕落か
    手毬の管理するための自立か

    (ゆっくり休まれて下さい)

  • 144二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 08:22:08

    お疲れ様、これは良いものだ......

  • 145二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 14:29:19

    ドロドロの三角...四角関係すぎる。
    正直最高

  • 146二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 19:50:43

    これもそれも幼馴染の燐羽をプロデュースせずに手毬をプロデュースしちゃった学Pが悪いからなぁ…
    手毬はプロデュース受けて好感度爆上げだし、美鈴は手毬の視線を奪う者全てを自分に染めようとするから必然的に矢印が向くしね?責任を以ってSyngUp!再結成しようね…

  • 147二次元好きの匿名さん26/01/15(木) 22:30:41

    まだ全部読んでないけど先に書いとくわ
    想像以上の力作に感謝
    久しぶりに小説を読んだけど誰がどこにいて何をしてるかを文章だけで表すのってクソむずいけど普通に読みやすくかったわ

  • 148二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 04:02:11

    気が早いような気もしますが2スレ目の予定有りますか?
    それと過去作あれば是非読んでみたいです

  • 149二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:33:46

    2スレ目の予定はないですね。

    過去スレだったらこんな感じで○○の話書いてもいい?みたいな感じでスレ立てしてるので探してみてください。


    幼馴染系の過去スレを貼るとこれですね。


    距離感がバグってる幼馴染紫雲清夏概念書いてもいい?|あにまん掲示板内容を言うとPと幼馴染な世界線の清夏が無自覚に独占欲発揮したり嫉妬したりする話。いくよ。bbs.animanch.com
  • 150二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:36:01

    修羅場の話を書いていきます。

     その日、俺は高熱にうなされていた。
     過労と心労……主に担当アイドル以外の二人による精神的な板挟みが限界を超えて倒れてしまった。
     薄暗い寝室。
     重たい瞼を開けるとそこには地獄が広がっていた。

  • 151二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:38:16

    「……気がついた?」

     右から覗き込んできたのは燐羽さん。冷えピタを貼り替えながら慈愛に満ちた表情で微笑む。

    「汗かいたでしょ。着替えさせるから、じっとしてて」

     手慣れた介護。燐羽さんは当然のように合鍵で侵入して俺の看病をしている。

  • 152二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:39:30

    このレスは削除されています

  • 153二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:41:27

     左から怒鳴り込んできたのは月村さん。
     涙目で俺の手を握りしめて燐羽さんを威嚇している。
     どうやら俺が休むと聞いて居ても立っても居られず突撃してきたらしい。

    「プロデューサー、大丈夫ですか!? 私、ポカリとゼリー買ってきました! あ、あとカツ丼も!」

  • 154二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:47:26

    「まりちゃん、そんなに騒ぐとプロデューサーの頭に響きますよ?」

     そして、俺の腹の上に重しのように乗っているのが秦谷さん。
     彼女は俺の布団にくるまりながら月村さんが持ってきたゼリーを勝手に食べている。

    「まりちゃんが血相変えて出て行くから心配でついて来たんです。……プロデューサー、辛そうですね」

  • 155二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:49:24

     管理の燐羽さん。執着の月村さん。堕落の秦谷さん。
     混ぜるな危険の劇薬三種がよりによって俺が一番弱っているタイミングで混合されてしまった。

    「……お願いです、帰ってください……」

     俺の掠れた声は即座にかき消された。

  • 156二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:50:35

    「帰るわけないでしょ」と燐羽さん。
    「私がいないとあなた死ぬじゃない」

    「帰りません!」と月村さん。
    「担当アイドルが側についてなくてどうするんですか!」

    「いやです」と秦谷さん。
    「ここ、居心地良いですし、プロデューサーのいい匂いがします」

     三者三様の主張。火花が散る。

  • 157二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:52:16

    「……ねえ」

     燐羽さんが冷徹な声で切り出した。

    「病人は静かな環境が必要なの。部外者のお二人は、そろそろお引き取り願える?」
    「部外者は燐羽でしょ!」

     月村さんが噛みつく。

    「極月学園の生徒がなんで我が物顔でここにいるの?! 合鍵まで持って……非常識にも程がある!」
    「非常識? ……ふふ」

     燐羽さんは鼻で笑うと俺の汗をタオルで拭いながら言い放った。

  • 158二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:54:27

    「彼の平熱、アレルギー、飲んでるサプリ、下着のブランド……あなた、全部言える? 私は言えるわよ。彼の『生命維持』を管理してるのは私なの」

     圧倒的な生活実績によるマウント。
     月村さんが言葉を詰まらせる。
     そこへ、秦谷さんが気だるげに追い討ちをかけた。

  • 159二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:55:59

    「りんちゃん、プロデューサーに『頑張れ』って求めすぎじゃないですか?」

     秦谷さんが俺の首筋に指を這わせる。

    「プロデューサーだって人間なんですから、サボりたい時もあると思うんです。そういう『ダメな部分』を受け止めて、よしよししてあげるのはわたしの役目です。……ね?」

     秦谷さんは俺の耳元に唇を寄せてリップ音を立てた。
     月村さんの顔色が蒼白になる。

  • 160二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:57:55

    「……は?」

     月村さんがわなわなと震え出した。

    「生活は燐羽……精神ケアは美鈴……? じゃあ、私は……?」
    「あなたは『仕事』だけでしょ?」

     燐羽さんが無慈悲に告げる。

    「ステージの上で輝いて、彼に『成果』を持ってくる。それがあなたの役目。……彼のプライベートに、あなたの席はないのよ」

  • 161二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 05:59:06

     それは残酷なまでの役割分担の提案だった。
     俺という人間を部品のように切り分けて、それぞれの領分で独占する。

    「ふざけないで……ッ!」

     月村さんの手の中で空のペットボトルが潰れた。

    「私はプロデューサーの……部品じゃない!!」

     月村さんが俺の胸倉を掴み泣きそうな顔で叫ぶ。

  • 162二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:00:22

    「全部私のです! 仕事も、生活も、心も! あんたたちになんか指一本触れさせない!」
    「痛い、痛いです。月村さん、揺らさないでください……!」
    「あら、独り占めなんて強欲ね」
    「そうですね。まりちゃんには荷が重いですよ」

  • 163二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:02:04

     俺の身体の上で3つの力が交錯する。
     右腕を引く燐羽さん。
     左腕を引く月村さん。
     胴体に絡みつく秦谷さん。

     ミシミシと音がする。
     これは俺の関節の音か、それとも俺の人生が崩壊する音か。

  • 164二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:03:22

    「プロデューサー! 選んでください! 私ですよね!?」
    「選べると思ってるの? 私の管理なしじゃ生きられないくせに」
    「選ばなくていいですよ。みんなで一緒に、ドロドロになりましょ?」

     三方向からの『愛』という名の圧力が高熱の脳を焼き切っていく。
     俺は薄れゆく意識の中で天井を見上げた。

  • 165二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:04:26

     ああ……これ、詰んだな……。

     この日を境に俺の部屋は不可侵条約が崩壊した紛争地帯となった。
     燐羽さんのご飯を食べ、月村さんに監視され、秦谷さんに甘やかされる。
     かつてのSyngUp!の絆は俺という獲物を逃がさないための包囲網として最悪の形で再結成されたのだった。

  • 166二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:17:48

    「……選んで! 私ですよね!?」
    「選ばなくていいですよ。みんなでゆっくり過ごしましょう?」

     月村さんの悲痛な叫びと秦谷さんの甘い囁きが脳内で反響する。
     三方向から引っ張られる身体。
     ミシミシと軋む関節。
     俺は高熱の奔流の中で終わりのない修羅場に溺れていた。

  • 167二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:21:42

    「……っ、はぁ!?」

     勢いよく上半身を起こした。
     心拍数が高まる。
     全身が汗でぐっしょりと濡れ、視界が明滅していた。
     荒い呼吸を繰り返しながら周囲を見渡す。

  • 168二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:23:43

     そこは静まり返ったいつもの俺の寝室だった。
     月村さんもいない。
     秦谷さんもいない。
     怒号も、甘い誘惑も聞こえない。

    「……ゆ、め……か……」

  • 169二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:25:08

     身体の力が抜けて枕に崩れ落ちそうになる。
     どうやら俺は高熱にうなされて最悪の悪夢を見ていたらしい。
     だか、倒れ込む寸前で冷たく柔らかい手が俺の額を支えた。

    「……あらあら。随分とうなされていたわね」

  • 170二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:27:23

     ベッドサイドの読書灯に照らされていたのは燐羽さんだった。
     枕元に椅子を置きタオルと氷水の入った洗面器を用意して心配そうに俺を覗き込んでいる。
     完璧な看病体制だ。
     どうやら俺が倒れてからずっと付きっ切りで看てくれていたらしい。

    「り、燐羽さん……?」
    「そうよ。……凄い汗。着替え持ってくるから、じっとしてなさい」

  • 171二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:29:10

     燐羽さんは甲斐甲斐しく俺の背中に手を回して寝かせようとする。
     そのひんやりとした感触に安堵すると同時にさっきまでの悪夢の残滓がフラッシュバックした。
     まだ夢と現実の区別が曖昧な頭で俺は無意識に呟いてしまった。

    「……よかった、ひとりで……。月村さんと、秦谷さんは……」

     その瞬間。
     俺の額を撫でていた燐羽さんの手が、ピタリと止まった。

  • 172二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:31:12

    「……へえ」

     室温が一度下がった気がした。
     恐る恐る燐羽さんの顔を見る。
     燐羽さんは微笑んでいた。
     けれどその美しい瞳は氷のように冷たく濁っていた。

  • 173二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:32:23

    「私の必死の看病を受けながら……夢の中では、他の女と会っていたわけ?」

     ギクリとした。
     寝言を聞かれていたのだ。

    「あ、いや、違う! 違うんです! 二人に責められる悪夢を見てて……」
    「言い訳無用」

  • 174二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:33:31

     燐羽さんが俺の肩を押してベッドに縫い留めた。
     そして逃がさないように俺の上に跨る。
     高熱で動けない俺に抵抗する術はない。
     燐羽さんの顔が近づいてくる。
     ラベンダーの香りと、消毒用アルコールの匂いが混ざり合う。

    「可哀想なプロデューサーさん。熱でおかしくなっちゃったのね」

     燐羽さんの指が俺の唇をなぞる。

  • 175二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:34:43

    「『月村さん、やめてください』とか『秦谷さん、距離が近いです』とか……私の目の前で他の女の名前を呼ぶなんて。……そんな悪い口は、塞いでおかなきゃ」
    「ちょ、燐羽さん、俺は風邪を……っ!?」

     弁解は柔らかい唇によって強制的に遮断された。
     看病人のキスではない。
     俺の口内を蹂躙し、酸素を奪い、全てを上書きしようとする懲罰の口付けだ。

  • 176二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:35:51

     熱い。
     自分の熱なのか、燐羽さんの熱なのか分からない。
     舌が絡み合い唾液が混ざり合う。
     俺の呼気から漏れる熱を燐羽さんは厭うどころかその全てを飲み干そうとしていた。

     一瞬だけ唇が離れる。
     俺は酸欠で喘いだ。

  • 177二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:36:59

    「はぁ、はぁ……移りますよ……!」
    「うつしなさいよ。……あなたの熱も、風邪も、全部私のものなんだから」

     燐羽さんの瞳がとろんと潤み妖しく光る。
     燐羽さんは満足していない。
     夢の中でさえ、他の女が俺に触れたことが許せないのだ。

    「手毬? 美鈴? ……そんな子たちのこと、思い出せなくなるくらいにしてあげる」

  • 178二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:38:07

     再び唇が重なる。
     今度はより深く、粘着質に。
     俺の脳裏に焼き付いていた月村さんの怒り顔も、秦谷さんの甘い笑顔も、燐羽さんの圧倒的なテクニックと支配欲によって溶かされて白く塗りつぶされていく。

    「ん……ちゅ、じゅる……」

     夢の中の修羅場よりも遥かに強烈で、逃げ場がない。
     高熱で浮かされた意識が燐羽さんの甘い毒でさらに混濁していく。
     長い長い『お仕置き』の後。
     燐羽さんはようやく顔を上げて糸を引く唇を指で拭った。

  • 179二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:49:28

    「……これでよし」

     燐羽さんは恍惚とした表情で俺の耳元に囁く。

    「もう夢なんて見なくていいわ。……現実(ここ)で、私に一生縛られてなさい」

     俺は力なく頷くことしかできなかった。
     極月の魔女は、看病という名目で俺を夢の世界から永遠に連れ戻してしまった。

  • 180二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:51:54

    最後は王道的な感じで〆ようと思います。多分このスレ最後のSSです。どうぞ

  • 181二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:53:00

     日曜日の午後二時。
     レースのカーテン越しに柔らかな陽光が差し込むリビングは平和そのものだった。
     ベランダからはスズメの鳴き声が聞こえる。
     部屋の中には洗いたての洗濯物の匂いとアイロンのスチームの湿った匂いが混ざり合っている。

  • 182二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:54:19

    「……いてっ」

     静寂を破ったのは俺の情けない声だった。
     俺はリビングの床に座り込みソーイングセットを広げて格闘していた。
     お気に入りのシャツのボタンが取れかけていたんだ。
     いつもなら燐羽さんに任せてしまうところだがこの前見た修羅場の夢……月村さんや秦谷さんに責められる悪夢のせいで少しだけ自立しなければという殊勝な心が芽生えていた。
     しかし、現実は非情だ。
     針穴に糸を通すだけで十分かかりいざ縫い始めれば指を刺す始末。

  • 183二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:57:07

    「……はぁ。貸して」

     背後から呆れたような、けれど鈴が転がるような優しい声が降ってきた。
     振り返るとマグカップを片手にした燐羽さんが立っていた。
     極月の制服でも、バッチリ決めた私服でもない。

  • 184二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 06:58:48

     俺の部屋に置きっぱなしにしている大きめのパーカーに、ショートパンツという無防備な部屋着姿。
     髪もいつものツインテールではなく緩く一束にまとめている。
     その姿はただの愛らしい幼馴染そのものだった。

  • 185二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:00:02

    「燐羽さん、これくらい自分でやります。貴方は休んでてください」
    「見てられないのよ。そんな手つきじゃ、ボタンを付けるどころか指が穴だらけになるわ」

     燐羽さんはマグカップをテーブルに置くと俺の手から針とシャツをひったくった。

    「どいて。そこに座って見てなさい」
    「……はい」

  • 186二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:01:39

     結局、俺はいつもの定位置……ソファの端っこに追いやられ燐羽さんが針仕事をする様子を眺めることになる。
     燐羽さんの手つきは魔法のようだった。
     迷いのない手つきで針を運び、あっという間にボタンを固定していく。
     その横顔は真剣で、職人のように凛々しいけれど時折「ん」と満足そうに小さく頷く仕草は年相応の少女らしくて愛おしい。

    「……すごいですね、やっぱり」
    「当然でしょ。あなたのボタン、いくつ付け直してきたと思ってるの」

  • 187二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:03:29

     燐羽さんは手を止めずに答える。
     パチン、と糸を切る音が小気味よく響く。

    「はい、出来上がり。……ついでに袖口のほつれも直しておいたわ」
    「ありがとうございます、燐羽さん。……本当に、頭が上がりません」

  • 188二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:04:29

     俺が修復されたシャツを受け取ると燐羽さんは息を吐いて、俺の隣にストンと腰を下ろした。
     沈み込むソファ。伝わってくる体温。
     燐羽さんはテーブルの上のクッキーをひとつ摘まんで口に放り込むと少し拗ねたように俺を見た。

  • 189二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:05:35

    「……ねえ。なんで急に自分でやろうとしたの?」
    「……え?」
    「いつもなら『燐羽さんボタン取れたー』って泣きついてくるくせに」
    「いや、その……いつまでも甘えてばかりじゃ悪いと思って。俺も少しは自立しないと、燐羽さんに愛想尽かされそうで」

  • 190二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:07:03

     俺が正直な不安を口にすると燐羽さんはきょとんとして、それから噴き出すように笑った。

    「あはは! 相変わらずおばかねぇ」
    「わ、笑うことないじゃないですか」
    「だって、見当違いもいいところなんだもの」

  • 191二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:09:30

     燐羽は笑い涙を指で拭うと、ソファの上でずりずりと身体を寄せ、俺の腕に自身の腕を絡ませてきた。
     甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。

    「あのね、勘違いしないで。私は、私が好きであなたの世話を焼いてるの」
    「好きで、ですか?」
    「そうよ。……外ではみんな、私に『完璧』を求めてくるわ」

  • 192二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:10:41

    このレスは削除されています

  • 193二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:12:43

    このレスは削除されています

  • 194二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:16:46

     燐羽さんの声が少しだけ低くなる。

    「誰も私を甘えさせてなんてくれないし、私も弱音なんて吐けない。……でも、ここは違う」

     燐羽さんは俺の肩に頭を預けて猫のように擦り寄せた。

    「あなたがダメで、不器用で、ボタンひとつ付けられないおかげで……私はここで『頼れる幼馴染』として、堂々と振る舞える。あなたの世話を焼いている時だけは、私は難しいことなんて忘れて、ただの『お世話好きの女の子』でいられるの」

     燐羽さんは顔を上げて至近距離で俺を見つめた。
     その瞳には支配欲でも独占欲でもない、ただ純粋な信頼と慈愛が揺らめいている。

  • 195二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:20:50

    ※191燐羽さんじゃなくてミスって燐羽って書いちゃってます。削除漏れです。


    「だから、あなたが自立しちゃったら、私の癒やしの時間がなくなっちゃうじゃない」
    「燐羽さん……」
    「あなたは一生、ボタン付けなんて出来なくていいの。シャツのアイロンがけも、部屋の片付けも、全部出来なくていい。……私がやってあげるから」

     それはとても歪で、けれど世界で一番優しい理屈だった。
     俺がダメでいることが、燐羽さんの救いになる。
     それなら、俺はこの心地よい座布団の上から一生動かなくてもいいのかもしれない。

    「……それなら、これからも全力で甘えさせてもらいます」
    「ふふっ。よろしい」

  • 196二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:26:46

     燐羽さんは満足げに微笑むと俺の太ももに頭を乗せてきた。
     当然のような膝枕。
     窓から差し込む西日が燐羽さんの髪をキラキラと照らしている。

    「……少し寝るから。枕になりなさい」
    「了解しました。おやすみなさい、燐羽さん」

     俺は燐羽さんのサラサラとした髪を指で優しく梳いた。
     燐羽さんは気持ちよさそうに目を細めてすぐに規則正しい寝息を立て始めた。
     月村さんに見つかったら殺されるかもしれない修羅場も、秦谷さんの甘い誘惑もない。
     日曜日の午後という穏やかな時間だけがここにある。

  • 197二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:31:15

     俺は膝の上の幼馴染が起きないようにテレビの音量をさらに下げた。
     明日からまた熾烈な競争の日々が始まる。
     だからこそ、今はただこの温もりを守っていたい。
     燐羽さんが目覚めたら、美味しいコーヒーでも淹れてあげよう。
     俺にできる、数少ないお返しとして。
     平和な寝息を聞きながら俺もまた、誘われるように浅い微睡みへと落ちていった。

  • 198二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 07:33:14

    これで終わりになります。
    ここまでお付き合いありがとうございました。
    また何か書きたくなったら似たようなスレタイでss書くと思うので見かけたらその時はまたよろしくお願いしますねー。

  • 199二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 09:14:50

    燐羽が一方的に世話するんじゃなくて燐羽もPを身の拠り所にしてるのがいいわ

  • 200二次元好きの匿名さん26/01/16(金) 11:42:23

    最高のSSでした
    無限大の感謝を

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