妹概念賀陽燐羽の話書いてもいい?

  • 1二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 20:49:19

    内容を言うと学Pの妹が燐羽だったら多分燐羽は極月学園に転学しないし手毬と美鈴とも仲良いまんまだったんじゃね?って思ったから勝手に具現化するねって話。

    いくよ。

    ※学Pは敬語だったりタメだったりします。賀陽継は海外留学中です。両親もそれに着いていったため家にはPと燐羽しかいないよ。やったね。
    SyngUp!はなんやかんやあって解散してます。

  • 2二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:13:59

    「ねえ、喉乾いちゃった。……紅茶淹れてきて? お兄ちゃん♡」
     
     数万人のファンが聞けば卒倒するであろう、元SyngUp!のリーダー、賀陽燐羽の極上に甘い声。
     だが現在、そんな国民的トップアイドルは——ダボダボのスウェット姿で俺の背中の上に馬乗りになり、実の兄を完全に人間座椅子扱いしていた。
     
    「……重い。どいてくれ」
    「は? さっきまでポンコツ兄貴の汚部屋をピカピカにして、ご飯まで作ってあげた命の恩人に向かって『どいてくれ』?」
    「……ぐっ」

  • 3二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:17:12

     正論という名の物理攻撃。
     両親、そして長女である姉の継が海外へと発ち二人きりになった我が家において家事の全権を握る燐羽に逆らうことは死を意味する。
     生活のすべてをこの妹に依存している俺に反論の余地は1ミリもなかった。

    「私が尽くしてあげたんだから、今度はアンタが奉仕する番でしょ。ほら、お湯沸かして。お砂糖とレモンも入れてよね」
    「俺は燐羽のパシリじゃない。初星学園では『頼れるプロデューサー』って呼ばれる予定の立派な兄貴なんだぞ……!」

  • 4二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:18:35

     床に這いつくばったまま最後のプライドを振り絞って反抗した。
     その瞬間だった。
     背中の気配が動き、俺の顔の横から燐羽がひょっこりと顔を覗かせた。
     スウェットの緩い襟元から覗く小さな鎖骨と甘いラベンダーの香りが至近距離で鼻腔を埋め尽くす。
     妖艶に唇を吊り上げた燐羽は吐息が鼓膜に触れる距離で囁いた。

  • 5二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:20:44

    「昔は『俺が燐羽を守る!』って偉そうにしてたくせに。可愛い妹のお願い、聞いてくれないの? ……ねぇ、お兄ちゃんってば♡」

     その言葉を聞いた瞬間、俺の脳内で理性の城壁が音を立てて崩れ去る。
     上目遣いと無敵の笑顔。
     普段は「アンタ」と呼んで偉そうに世話を焼く妹が、都合のいい時だけ急所を的確に突いてくる。
     この致死量のギャップ攻撃に抗える人類など、この世に存在しないのだ。

  • 6二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:22:08

    「……仕方ないな」
    「さっすが私のお兄ちゃん! チョロいパシリね♡」

     完全敗北を喫した俺がキッチンへ向かい、温かい紅茶の入ったカップを渡すと燐羽は満足げにそれを受け取りソファにふんぞり返った。
     そして、俺の太ももに白くて滑らかな両足を無造作に投げ出してくる。

    「足ダルい。揉んで、お兄ちゃん」
    「……はいはい」

  • 7二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:24:06

     ため息をつきつつふくらはぎを揉むと燐羽は猫のように気持ちよさそうに目を細めた。
     散々こき使ってくるくせに、この密着具合は家族特有のじんわりとした温もりと、不器用な甘えが伝わってくる。
     俺と燐羽二人きりになり、やけにだだっ広くなったこの家で俺たちはこうして少し歪な距離感を保ちながら身を寄せ合っていた。

    「立派なプロデューサーになる予定。ねぇ。一体いつになるのやら。去年一年間フリーだった有能プロデューサー?」
    「ぐっ……それは事実だから言い返せない」
    「どうせなら私がアンタの担当アイドルになってあげようかしら」
    「その心配は無用だ。昨日、やっとパートナー契約が結べたんだ」
    「……ふぅん? 残り物同士お似合いね」
    「いや、一年生の中からなんだが……」
    「は? だってまだ私たちそういう段階じゃないわよ? 確か担当プロデューサーを付けれるようになるのは来週からだったはずよ。例外はあるけど中等部から活動してる子がアンタみたいなのに声かけに来るわけないし」

  • 8二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:26:30

     ……そんなルールあるのか。知らなかった。
     いや、正確には知っていたはずだった。
     スカウトができるようになる日付は俺も去年言われたはずだ。
     ぐ……これ以上は嫌な記憶が蘇るから辞めよう。

    「見栄張った嘘なんてしなくていいから。正直に言いなさい。私をプロデュースするために一年間フリーのプロデューサーでした。って」
     
     燐羽の親指がゆっくりと俺の唇をなぞる。
     外では決して見せない独占欲に塗れた瞳。

  • 9二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:27:40

    「そもそも、他の女がいくらアンタにアピールしても無駄。同じ家に帰ってくる私には一生勝てない。そうでしょう? だからアンタは一生私の尻に敷かれて、都合のいいパシリでいてね?」
    「……性格悪い小悪魔だな」
    「最高の褒め言葉よ、お兄ちゃん」

     クスクスと笑う燐羽の顔を見つめながら俺は内心で重く、深くため息を吐き出していた。
     マッサージをする手元から視線を外してリビングの片隅に置かれた俺のビジネスバッグを見やる。
     その中には今日正式に担当アイドルに加えて学園長とサインを交わしたばかりの、一枚のパートナー契約書が入っていた。

  • 10二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:29:00

     燐羽はまだ気付いていない。
     俺が明日からプロデュースすることになったアイドルの存在に。

    (俺だって、本当は真っ先に燐羽に報告したかったさ……)

     かつて、この家にはもっとたくさんの笑い声があった。
     燐羽がいて、遊びに来る手毬や美鈴がいて。
     手作りのクッキーや他愛のないおしゃべり。
     中等部No.1ユニット『SyngUp!』。
     彼女たちが放つ無敵の輝きを俺は誰よりも近くで見ていた。
     ……そして、それが無惨に砕け散る瞬間も。

  • 11二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:30:28

    (でも、担当が手毬な以上、燐羽に軽率に発言する訳にはいかない……)

     解散の傷はまだ完全に癒えていないだろう。
     燐羽は口に出さないだけで今でもあの二人のことを引きずっているはずだ。
     強がりで、完璧主義な妹がひとりで抱え込んでいる喪失感の深さを兄である俺は嫌というほど知っている。
     だからこそ、俺が手毬をプロデュースして再びステージに立たせるなんて知ったら、こいつはどういう反応を示すのか。

    「……ちょっと、手止まってるわよ。何ボーッとしてるの?」

     不満げな声に我に返る。
     燐羽がジト目で俺を見下ろしていた。

  • 12二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:32:18

    「あ、いや、悪い」
    「ふぅん……? なんか怪しいわね。さては、その新しい担当アイドルとやらのことでも考えてたわけ?」

     鋭すぎる直感に図星を突かれて俺の肩が小さく跳ねる。

    「な、別にそんなんじゃ……」
    「へえ、図星なんだ」

     燐羽の目が細められた。
     先程までの甘えん坊な妹の顔から、すべてを見透かすようなトップアイドルの顔へと一瞬で切り替わる。

  • 13二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:33:43

    「俺だって立派なプロデューサーになったんだぞ。これからの戦略を練るくらいするさ」
    「アンタが? 嘘おっしゃい。ポンコツ兄貴のことだから、担当アイドルができたなら真っ先に私に自慢の報告があるに決まってるじゃない。……それがないってことは、私に言えない理由があるんでしょ?」
    「っ……」

     逃げ場のない正論。
     俺が口ごもると燐羽はソファから身を乗り出して俺の顔のすぐ近くでニヤリと笑った。

  • 14二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 21:36:03

    「ふぅん? 明日、どんな奴がアンタの担当なのか見にいってあげる」
    「なっ……お前、自分のレッスンは!?」
    「自主練に変更するから問題ないわ。……せいぜい、私をガッカリさせないことね、お兄ちゃん」

     楽しげに鼻歌を歌いながら燐羽は空になったティーカップを俺に押し付けた。
     その小さな背中を見送りながら俺は明日訪れるであろう確実な修羅場を想像し、胃の辺りを強く、ひたすらに強く押さえたのだった。

  • 15二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:01:36

     呆れた……本当に。
     初星学園の廊下を歩きながら私は内心で盛大なため息をついた。
     昨日の夜、私に散々こき使われて人間座椅子に成り下がっていたあのポンコツ兄貴が、いっちょ前に「俺だって立派なプロデューサーだ」なんて反抗してきた。
     万年パシリのくせに生意気な。
     どうせ適当なことを言って私から逃れようとしているだけだと思ったけれど、担当の名前を聞き出そうとした時の兄貴の態度は明らかにおかしかった。

  • 16二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:06:10

     目を泳がせ、口ごもり、あからさまに誤魔化すような態度。
     血の繋がった妹の目を誤魔化せるわけがない。

    『ふぅん? 明日、どんな奴がアンタの担当なのか見にいってあげる』

     そう宣言した時のこの世の終わりみたいな兄貴の顔。
     あれは絶対に何か隠している。
     有能な妹としては、兄が変な虫に引っかかっていないか。あるいは、私より手のかかる女に入れ込んでいないかしっかり査定してあげる義務がある。

  • 17二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:08:32

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  • 18二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:12:54

    このレスは削除されています

  • 19二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:14:20

    すみません、2つ連続で誤字脱字がありました…

    「……ここね」

     兄貴がプロデュース活動で使っていると指定された教室。
     その扉の前に立ち、私は少しだけ背筋を伸ばす。
     誰がいようと、中等部No.1ユニットとしての余裕を見せつけてやればいい。
     どうせ、ひよっこみたいなアイドル候補生がいるに違いない。
     そう思い扉を開けた。

    「プロデューサー、遅いです! レッスン、もうすぐ始まります……よ?」

     扉が開く音に反応して勢いよく振り返って飛んできたのは、少し棘のある、だけど真面目さが滲み出た声。
     その声の主を見た瞬間、私の思考は完全にフリーズした。

    「は……? 手毬?」

     信じられないものを見るように私の口から間抜けな声が漏れる。
     そこに立っていたのは見慣れたトレーニングウェアに身を包んだ月村手毬だった。

  • 20二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:16:07

    「な、なんで燐羽がここに……?」

     手毬もまた、目を見開いて私を指差している。
     その顔には、驚きと気まずさ、そして微かな警戒心が入り混じっていた。

     無理もない。
     かつて中等部でトップを獲り、そして解散したSyngUp!。
     その元メンバー同士が何の予備知識もなしにこんな密室で顔を合わせるなんて何の冗談だろうか。

     心臓が嫌な音を立てる。
     けれど、ここで狼狽えるような私じゃない。
     深呼吸をひとつして、強引にいつもの仮面を被り直す。

    「……それはこっちのセリフ。ウチのポンコツ兄貴が担当アイドルができたって言うから、どんな面かと思って見にきただけ……」

  • 21二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:18:38

     言い捨ててから、私は決定的な事実に思い至り頭痛を堪えるようにこめかみを押さえた。
     あのポンコツ兄貴がプロデュースする?
     よりによって、この月村手毬を?

    「ちょっと待って。あんたのプロデューサーって……まさか、ウチの兄貴?」
    「……そうだけど、悪い?」

     最悪だ。
     なんでアイツは、よりによって一番厄介で、一番関わりが深くて、一番面倒くさい爆弾を抱え込んでいるんだ。
     静まり返った教室に気まずすぎる沈黙が降りた。
     今すぐあのポンコツをここに引きずり出して、正座で小一時間問い詰めたい衝動に駆られながら私は腕を組んで目の前の『元相棒』を睨みつけた。

  • 22二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:23:13

     シベリアの永久凍土か、ここは。
     指定した教室の扉を開けた瞬間、俺は思わず後ずさりしそうになった。
     室内では俺の妹である燐羽と、今日から担当アイドルになる手毬が、数メートルという絶妙な距離感を保ったまま無言で睨み合っている。
     室温は体感マイナス20度。
     俺の脆弱な胃の粘膜が早くもキリキリと悲鳴を上げていた。

  • 23二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:25:33

    「お、遅れてごめ……」
    「遅いわよ、ポンコツ兄貴」
    「プロデューサー、遅いです」

     見事なハモリと共に二対の冷たい視線が俺に突き刺さる。
     燐羽が腕を組み、靴音を鳴らしながら俺に詰め寄ってきた。
     家でのダボダボスウェット姿とは打って変わった、完璧なトップアイドルのオーラ。
     ……でも、身内である俺にはその奥にある苛立ちがはっきりと読み取れた。

  • 24二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:27:03

    「どういうことか、三文字で説明なさい。なんでアンタの担当が手毬なのよ」
    「三文字は無理だろ……『たのまれた』、最低でも五文字は必要だ」
    「ふざけてるの?」
    「すみません」

     俺は即座に謝罪して手毬の方へと視線を向けた。
     手毬は気まずそうに目を泳がせてツンとそっぽを向いている。

  • 25二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:28:38

     無理もない。
     燐羽も手毬も、そして今はここにいない秦谷美鈴も、俺にとっては昔からの顔馴染みだ。
     こいつらがSyngUp!として活動していた頃、俺は燐羽の兄として手毬や美鈴ともよく顔を合わせていた。
     家に遊びに来たこともあるし、レッスンに差し入れを持っていったこともある。

    「……手毬から、プロデュースしてくれないかって声がかかったんだ」

     俺が真面目なトーンで告げると、燐羽は信じられないものを見るように目を丸くした。

  • 26二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:30:55

    「は? 手毬から? 初星のプロデューサー科にはごまんと優秀な生徒がいるじゃない。なんでよりによってウチの生活力皆無な人間座椅子を……」
    「……誰にも、相手にされなかったの」

     ぽつりと。
     教室の冷たい空気に溶けるように手毬が自嘲気味に呟いた。

    「私、知っての通り問題児扱いされてるから。……誰も、私の担当になんてなってくれなかった。だから……」
    「だから、知り合いで頼みやすかった俺に声をかけたらしい」

  • 27二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:33:17

     俺が引き継ぐように言うと、手毬はギュッと唇を噛み締めた。
     その姿に燐羽が小さく息を呑む。

     かつての中等部ナンバーワンユニット、その絶対的なセンター。
     そんな彼女が誰からもプロデュースされず、昔馴染みである俺の温情にすがるしかなかったという現実。
     いつもは強気で俺を顎で使う燐羽も、かつての相棒の痛々しい現状を前に一瞬言葉を失っていた。

    (美鈴も、今のこの状況を知ったらどう思うだろうな……)

     かつてのメンバーたちの顔が脳裏をよぎる中、俺はプロデューサーとしての表情を引き締めて二人の前に立った。

  • 28二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:45:33

    この話で今日最後になります。

     プロデューサーとしての責任と兄としての感情が入り混じり、俺は次にどんな言葉をかけるべきか必死に脳内を回転させていた。
     何か、この凍てつくようなシベリアの空気を一変させるような魔法の言葉はないのか。

     ——ガチャリ。

     突如、背後の扉が間の抜けた音を立てて開いた。
     俺たち三人の肩が跳ねる。
     こんな地獄の釜の底みたいな空気の教室に、一体誰が……。

  • 29二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:47:38

    「まあ。みなさんお揃いですね」

     のんびりとした春の陽だまりのように柔らかく、そしてどこまでもマイペースな声。
     扉の隙間からひょっこりと顔を出したのは、ふわふわとした空気を纏った少女——美鈴だった。

    「み、美鈴……?」

     燐羽が信じられない物を見たような素っ頓狂な声を上げる。
     手毬もまた、意外すぎる人物の登場に目を丸くして固まっていた。

  • 30二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:49:53

    「お久しぶりです、りんちゃん。それに……お兄さんも。元気にしていましたか?」

     美鈴は室内マイナス20度のブリザードなどまったく意に介さない様子で、ふわりと微笑みながら教室の中へと足を踏み入れた。
     その瞬間、まるでストーブのスイッチを入れたかのように教室内の殺伐とした空気が急速に溶け出していくのを感じた。
     俺の胃痛も嘘のようにスッと引いていく。
     相変わらずだ。
     この少女はどんなに張り詰めた空間であっても自分のペースという名の絶対領域ですべてを無効化してしまう。

  • 31二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:51:50

    「ちょ、ちょっと。なんでアンタがここにいるのよ!?」

     ようやく我に返った燐羽が指を突きつけながら叫んだ。
     ここは俺が手毬のプロデュース活動のために借りた教室だ。
     美鈴が来る理由などひとつもないはずである。

    「なんで、ですか?」

     美鈴はきょとんとした顔で首を傾げると手毬の隣へゆっくり歩いて行く。
     そして、ごく自然な動作でその細い腕に自分の腕を絡ませた。

  • 32二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:53:51

    「まりちゃんがいるからです」
    「……は?」
    「まりちゃん、最近ずっと元気なかったですから。お兄さんがプロデュースしてくれることになったって聞いて、私も安心しました。……ね、まりちゃん」

     美鈴が至近距離で笑いかけると手毬は顔を真っ赤にして慌てふためいた。

    「み、美鈴っ! くっつかないでよ! それになんで美鈴がそのこと知ってるの?!」
    「ふふっ、まりちゃんのことはなんだってわかりますよ。それに、まりちゃんが歌うなら、わたしも一緒に歌いたいなと思いまして」

     あまりにもあっさりとした、それでいて爆弾のような発言に今度こそ教室の時が止まった。

  • 33二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:56:00

    「……はあ!?」
    「えっ……美鈴、今なんて……」

     燐羽と手毬の声が重なる。
     美鈴は二人の驚愕の表情を不思議そうに見つめ返して事もなげに言った。

    「ですから、わたしもお兄さんにプロデュースしてもらって、またまりちゃんと一緒に歌おうかなって。ダメですか? お兄さん」
    「いや、ダメじゃないが……いいのか? そんなにあっさりと決めてしまって」

  • 34二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:57:44

     俺が戸惑いながら尋ねると美鈴は「はい」と嬉しそうに頷いた。
     かつて中等部を席巻したSyngUp!。
     その解散にはそれぞれに深い傷とすれ違いがあったはずだ。
     現に燐羽も手毬もずっとそれを引きずっていた。
     だが、この秦谷美鈴という少女の辞書にはそういったしがらみという概念が存在しないらしい。

    「だって、せっかくお兄さんも、りんちゃんもいるんですから。またみんなで一緒に歌えばいいじゃないですか」
    「なっ……! ちょっと待ちなさいよ! なんで今更このポンコツ兄貴のプロデュースで、アンタたちと……!」

  • 35二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 22:59:04

     燐羽が顔を真っ赤にして反論する。
     だがその声には先程までの冷たい棘はすっかり消え去り、ただの意地っ張りな妹のそれに変わっていた。
     その変化に気付くほど俺と燐羽の付き合いは短くない。

    「でも、りんちゃん。本当は嬉しいんですよね?」
    「う、嬉しくなんかっ……!」

  • 36二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 23:00:28

     図星を突かれた燐羽が美鈴のペースに完全に巻き込まれてワタワタと両手を振る。
     手毬もぽかんと口を開けたまま、すっかり毒気を抜かれた顔で二人を見つめていた。
     ……なるほど。
     俺は、この数分間で完全に理解した。
     手毬の圧倒的なパフォーマンス、燐羽の完璧なカリスマ性。それだけでは、SyngUp!というユニットは成立しなかったのだ。
     この秦谷美鈴という、すべてを包み込み強引に和ませてしまうマイペースな接着剤があったからこそ、あの中等部ナンバーワンユニットは存在できたのだと。

  • 37二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 23:01:56

     俺は小さく息を吐いてプロデューサーとしての顔を引き締めた。
     これは奇跡のようなチャンスだ。
     誰もが諦めかけていた時計の針を、もう一度動かすための。

    「……燐羽」
    「な、なによ。ポンコツ兄貴」
    「お前、昨日言ってたよな。『どうせなら私がアンタの担当アイドルになってあげようかしら』って」
    「……言ったけど。それは私専属プロデューサーとしての話よ」

  • 38二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 23:03:53

     俺は手毬と美鈴、そして燐羽を真っ直ぐに見据えた。

    「燐羽、もう一度、この三人でライブをしないか? この三人なら、SyngUp!なら……必ず一番星になれる」

     あえて挑発するように言うと燐羽は大きく目を見開いて、それから顔を背けた。
     耳の裏まで真っ赤に染まっているのが兄である俺には丸わかりだ。

    「……バカじゃないの。あんたみたいな生活力ゼロの人間座椅子が、私たち三人を抱え込めるわけないでしょ」
    「そこは努力する。部屋の掃除も自分でやるようにするから」
    「そんなの当たり前! ……まったく。どいつもこいつも、私がいなきゃ本当にダメなんだから」

  • 39二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 23:05:55

     燐羽はわざとらしく大きなため息をつきながら腕を組んだ。

    「まあ、ウチのポンコツ兄貴がそこまで言うなら、手伝ってあげなくもないわ。手毬も美鈴も、私がいなきゃすぐダメになっちゃうし。特別にこの私が力を貸してあげる」
    「……燐羽、相変わらず素直じゃないね」
    「うるさいわね手毬! アンタこそ、私に感謝しなさいよ!」

     ギャーギャーと言い合いを始める手毬と燐羽。
     だが、二人の顔に暗い影はもうない。
     美鈴は「ふふっ」と嬉しそうに笑いながら二人を交互に見つめている。

  • 40二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 23:08:01

    「……というわけだから。お前ら三人、これから改めてよろしく頼む」

     俺がそう締めくくると、三人はそれぞれの顔を見合わせてやがて呆れたように笑い合った。
     かつての幻とまで言われた伝説のユニットの再結成は、こうして拍子抜けするほどあっさりといつもの日常の延長線上で幕を開けたのだった。

  • 41二次元好きの匿名さん26/03/24(火) 23:11:57

    プロローグ終わり。それと同時に書きたいシーンを書ききってしまった。

    これからは日常パートメインで書いていきたい。…といってもネタがない。

    この4人で見たい話とか、手毬と美鈴とPで見たい話とか、単純にこんな話が見たいだけでもいいのでリクエストくれると助かります。

    ライブ要素あるシーンとかガチガチのスポ根シーンとかあんま書いた事ないのでリクエストされても応えられない可能性があります。

  • 42二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 00:15:42

    夏休みに4人で海に行く話ください

  • 43二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 02:18:08

    Pに「浮気だ」と詰める奴(美鈴親愛度8話)の3人バージョンとか?

  • 44二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 02:44:09

    全部でなくとも書けそうなのあったらぜひ
    手毬と仲良くしている友達が意外と多い事に驚く燐羽とちょっと安心する学P
    美鈴が生徒会に誘われたと聞いてうまくやってるのか確認に行く燐羽
    オフの日は当然のように学P燐羽宅に居座る手毬と美鈴 自然と料理担当と食う担当に分かれる
    仕事上の臨時ユニットNightmareで手毬がリーダーやるらしいので当日見物に行く燐羽と美鈴
    休日突然の激しい雨に洗濯物を雑に取り込んでメチャクチャにしちゃう学Pとずぶ濡れになって帰ってきた燐羽

    この世界線だと継とはうまく折り合いつけてそうだから咲季佑芽との仲は普通に手毬美鈴の友達レベルにしか進展しなそうなイメージになっちゃう

  • 45二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 10:19:04

    ほしゅ

  • 46二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 10:49:20

    この作品の学Pの有能さはまだ分からないけど、ミスが重なったり仕事ができない学Pを馬鹿にされて本気で怒る3人を見てみたい

  • 47二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 14:45:21

    ほし

  • 48二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:34:01

    再開します。リクエスト順でいくので時系列というか時間軸?がごっちゃになると思いますが適応してください。僕の方でも何月とまではいかずとも季節くらいは読み取れるような文章を書く努力をします。

    4人で海に行く話からです。気合いれすぎて書き込みすぎちゃいました。


    「……海。久しぶりだ」

     手毬はどこか緊張した面持ちで窓の外を眺めていた。
     中等部時代、SyngUp!としてトップに君臨していた頃はオフなど皆無だった。
     解散後は……まあ、知っての通りだ。
     手毬にとって純粋に海を楽しむという経験は想像以上に遠いものだったのかもしれない。

    「楽しみですね、まりちゃん。お兄さん、お弁当、たくさん作ってきましたからね」

     美鈴は相変わらずのマイペースぶりで、膝の上に置いた大きなピクニックバスケットを愛おしそうに撫でていた。
     彼女の纏う春の陽だまりのような空気は周囲の温度を心なしか下げてくれている気がする。

  • 49二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:35:52

    「美鈴、あんたまたそんなに作ったの? どうせ手毬が全部食べるんでしょうけど」
    「燐羽! 私が全部食べるわけないでしょ! ……まあ、美鈴のご飯は、美味しいけど」

     燐羽の挑発に手毬がすぐに食いつく。
     耳まで赤くして言い返す姿はただの不器用な少女だった。

    「ふふっ、お二人とも、仲が良くて何よりです」
    「ほら、着いたぞ」

     車を駐車場に止めて外に出る。
     目の前には青く澄んだ空と、どこまでも続くエメラルドグリーンの海。
     白い砂浜が太陽の光を反射して眩しく輝いている。
     俺が事前にリサーチしておいたプライベートビーチに近い穴場の海岸だ。
     人影はまばらでこの三人と一緒でも騒がれる心配は少ない。

  • 50二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:37:33

    「……わあ」

     手毬の口から感嘆の声が漏れる。
     その瞳は子どものように輝いていた。

    「さあ、着替えてこい。俺は荷物を運んでおくから」

     俺が言うと三人は車を降りて砂浜の端にある更衣室へと向かった。
     荷物を運び終えてビーチパラソルを立てて休憩していると、更衣室の方から三人が戻ってきた。

     その瞬間、俺の思考はフリーズした。

    「……何よ。ボーッとして」

     燐羽が少し顔を赤くして俺を睨みつけた。
     燐羽が選んだのは黒を基調とした、少し大人っぽいビキニ。
     完璧なプロポーションを隠すことなく、むしろ強調するようなデザインだった。
     アイドルとしてのカリスマ性と、妹としての甘さが同居する破壊力抜群の姿。

  • 51二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:38:37

    「……変、じゃない?」

     上目遣いで少し不安げに聞いてくる。
     そのギャップに、俺の心臓は嫌な音を立てた。
     
    「……その、ジロジロ見ないでね」

     手毬が燐羽の後ろから顔を出した。
     彼女は白と青のストライプ柄の、スポーティーなタンキニ。
     恥ずかしそうに腕で体を隠すような仕草をしている。
     クールに見えて実は不器用な彼女らしい、可愛らしい選択だ。

  • 52二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:39:48

    「まりちゃん、とっても素敵ですよ」

     美鈴が手毬の隣でふわりと微笑んだ。
     彼女は、フリルがたくさんついた可愛らしいピンクのワンピース水着。
     彼女の纏うふわふわとした空気にぴったりの癒やし系水着だ。

    「お兄さん。どうですか、私たちの水着?」

     美鈴が無邪気に俺に尋ねてくる。
     三者三様、あまりにも魅力的な水着姿に俺は言葉を失った。

    「……ああ。みんな、よく似合ってる」

     俺がようやくそれだけ言うと燐羽は顔を背けた。

  • 53二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:40:55

    「……ふん。当たり前よ。私が選んだんだから」
    「……ありがとう、プロデューサー」
     
     手毬が少し顔を赤くして小さな声で言った。

    「さあ、お兄さん。サンオイル、塗ってください」

     美鈴が、天然の笑顔でサンオイルのボトルを俺に差し出した。
     その瞬間、ビーチの空気が一変した。

    「……え?」
    「美鈴、アンタ何を……」

     燐羽と手毬の視線が美鈴に集まる。

    「え? お兄さんに塗ってもらった方が隅々まで綺麗に塗れるじゃないですか」

  • 54二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:42:08

     美鈴は不思議そうに小首を傾げた。
     彼女の辞書には『羞恥心』という概念が存在しないらしい。

    「だ、ダメよ! このポンコツ兄貴に美鈴の体に触らせるなんて100年早いわ!」
    「そ、そうだよ! 美鈴、自分が何を言ってるのかわかってるの!?」

     燐羽と手毬が顔を真っ赤にして猛反対する。

    「でも、お兄さんはプロデューサーですし……」
    「プロデューサーだからってなんでもしていいわけじゃないわよ!」
    「燐羽の言う通りだよ! それに、塗るなら美鈴よりも私の方が先に決まってるでしょ!」

     手毬が突然口を滑らせた。
     ビーチに気まずすぎる沈黙が降りた。

  • 55二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:43:47

    「……へえ。手毬。アンタ、このポンコツ兄貴にサンオイルを塗ってもらいたいの?」

     燐羽がゆっくりと手毬の方を向いた。
     その目は家で俺を顎で使っている時の冷酷な独占欲に満ちていた。

    「っ……! ち、違う! 美鈴が、その、あんまりにも無防備だから。私が、その、見本を見せてあげようと……!」

     手毬が慌てふためいて言い訳をする。
     顔は茹でたタコのように真っ赤だ。

    「ふぅん。じゃあ、私が塗ってあげるわよ。見本なんて、必要ないでしょ?」

     燐羽がサンオイルのボトルを美鈴から奪い取ろうとする。

  • 56二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:44:48

    「ダメですよ、りんちゃん。私がお兄さんにお願いしたんですから」

     美鈴が天然の笑みでボトルを死守する。

    「お兄さん。早く塗ってください。まりちゃんとりんちゃんも、その後で塗ってあげますから」

     美鈴のマイペースな言葉に俺はタジタジになった。
     結局、俺が美鈴に。手毬が燐羽に。燐羽が手毬にサンオイルを塗るという歪な形で場は収まった。
     俺が美鈴の背中にオイルを塗っている間、燐羽と手毬の冷たい視線が俺の背中に突き刺さっていたのは言うまでもない。

    (……胃が痛い)

     俺はビーチパラソルの下でひたすらに胃を押さえていた。
     SyngUp!再結成後、初の夏休み。
     羽を伸ばすどころか、俺の胃の粘膜が急速に削り取られていくのを感じていた。

  • 57二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:46:02

     果たしてこの海行きは、彼女たちの仲を深めることになるのか。
     それとも、新たな修羅場の幕開けとなるのか。
     太陽はまだビーチの真上にあった。



     波打ち際でパシャパシャとはしゃぐ手毬と美鈴の姿はまるでグラビア撮影のワンシーンのように絵になっていた。
     青と白のコントラストが眩しい手毬と、ふんわりとしたピンクが似合う美鈴。
     中等部時代からファンを魅了してきた彼女たちの輝きはオフの海辺であっても全く色褪せていない。

    「お兄さん! 早く来てください、水、とっても気持ちいいですよ」
    「プロデューサー! ずっとパラソルの下にいるつもり!? ほら、早く!」

  • 58二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:47:04

     大きなピンク色の浮き輪に乗った美鈴がふんわりと手を振り、その横で手毬が水をこちらに飛ばしながら俺を呼んでいる。
     俺は苦笑しながら立ち上がり、ふと隣に視線を落とした。

    「……お前は行かないのか?」

     パラソルの下、ビーチベッドに優雅に寝そべっている我が妹・燐羽。
     黒のビキニにサングラスというどう見てもハリウッドセレブのお忍びバカンスのような出で立ちの燐羽は鼻を鳴らして答えた。

    「行かないわよ。日焼けするし、海水で髪が傷むもの。それに、アイドルたるもの、あんな子どもみたいに水遊びではしゃぐなんて三流のやることね」
    「そうか。じゃあ俺はちょっと行ってくるわ」
    「……は?」

     燐羽のサングラス越しの視線が鋭くなったのを感じたが俺はあえて気付かないふりをして海へと歩き出した。
     膝下まで海水に浸かった瞬間、背後から「ちょっと待ちなさいよポンコツ!」という声が聞こえた気がしたが波の音にかき消される。

  • 59二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:48:26

    「遅いです、お兄さん。さあ、引っ張ってください」
    「俺はモーターボートじゃないぞ」

     美鈴の乗った浮き輪の紐を渡されて俺は渋々それを引っ張って少し深いところへ向かう。すると、すかさず手毬が俺の横に並走してきた。

    「ちょっと美鈴! プロデューサーを独り占めしないでよね。……ほら、プロデューサー。私が完璧なクロールを見せてあげるから、しっかり目に焼き付けて」
    「おっ、おう。手毬は昔から水泳得意だったもんな」
    「と、当然でしょ! アイドルの基礎体力作りにおいて水泳は……きゃっ!?」

     手毬が語り始めた瞬間、横からザバーッと盛大な水しぶきが飛んできた。
     顔を拭って振り返ると、いつの間にかパラソルから出てきた燐羽が腰まで水に浸かりながら俺たちを睨みつけていた。

  • 60二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:49:44

    「……何よ。手毬ばっかり褒めて。私だって、本気を出せばバタフライくらい余裕なんだから」
    「燐羽!? お前、日焼けがどうとか言ってなかったっけ?」
    「う、うるさいわね! 気が変わったのよ! ……それに、ウチのポンコツ兄貴が他の女にデレデレしてるのを見るのが気に食わないだけ!」

     言うが早いか、燐羽は俺の元へ歩み寄り俺の左腕に抱きついた。
     胸の感触が腕に伝わり俺の心臓が跳ね上がる。

    「なっ……! り、燐羽! 抜け駆けはずるい!」
    「手毬には関係ないでしょ。こいつは私の兄で、私のパシリなの。……ほら、お兄ちゃん。私をあっちの浅瀬までエスコートしなさい」

     家モードの甘えた声と外モードの女王様気質をミックスさせたような口調で燐羽が俺の腕を引っ張る。
     それに焦った手毬がすかさず俺の右腕に抱きついてきた。

  • 61二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:51:09

    「だ、ダメ! プロデューサーは私にクロールを教わるんだから! ほら、行くよ!」
    「ちょ、手毬! 引っ張るな、お前力強いな!」
    「ふふ。まりちゃんもりんちゃんも、お兄さんのことが大好きなんですね。それじゃあ、わたしも」

     美鈴が浮き輪から滑り降りて背後から俺の首に両腕を回してふわりと抱きついてきた。
     背中に当たる柔らかい感触と、三人から漂うそれぞれ違う日焼け止めの甘い香り。
     右に手毬、左に燐羽、背後に美鈴。
     完全に身動きが取れなくなった俺は文字通り海の中の人間トーテムポールと化していた。

  • 62二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:52:25

    「ちょっと美鈴! アンタまでくっつかないで!」
    「いいじゃないですか、りんちゃん。みんなでお兄さんにくっついた方が楽しいですよ」
    「意味わかんないわよ! ……アンタたち、どきなさい! こいつは私の……っ!?」

     燐羽が美鈴を剥がそうと一歩踏み出した瞬間だった。
     海底の砂の窪みに足を取られたのか、燐羽の体勢が大きく崩れた。

    「きゃっ……!?」

     水しぶきが上がり燐羽の体が海面へと沈みかける。
     俺はとっさに両腕の二人を振りほどき、水中に沈みかけた燐羽の腰と腕を力強く抱き寄せた。

    「ぷはっ……! げほっ、ごほっ……!」
    「おい、大丈夫か!?」

  • 63二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:53:56

     俺の腕の中で燐羽が必死に咳き込んでいる。

    「……バカか、そんなに焦らなくても俺はどこにもいかないぞ?」

     俺が呆れたように小さく呟くと燐羽は顔を真っ赤にして、俺の胸に額をグリグリと押し付けてきた。

    「……だって」
    「ん?」
    「だって……アンタが、手毬と美鈴ばっかり構うから……っ。私だけ、置いてけぼりになるみたいで、嫌だったのよ……!」

     いつもより弱気な声で紡がれたその言葉に俺は息を呑んだ。
     いつも強気で、俺を人間座椅子扱いしてくる生意気な妹。
     だが、その奥底にあるのはかつてSyngUp!が解散した時のトラウマ。
     大好きなメンバーとプロデューサーである兄の輪の中から自分だけが弾き出されてしまうのではないかという、ひどく幼くて切実な恐怖。

  • 64二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:55:00

    (……だから、あんなに焦って海に入ってきたのか)

     胸が締め付けられるような愛おしさを感じて俺は燐羽の濡れた髪を優しく撫でた。

    「置いていくわけないだろ。お前は俺の妹で、大事な担当アイドルなんだから」
    「……本当に?」
    「ああ。……それに、手毬も美鈴も、お前がいなきゃダメなんだよ」

     俺が視線を向けると手毬と美鈴が心配そうな顔でこちらを見つめていた。

    「燐羽……大丈夫?」
    「りんちゃん、お水飲んじゃいましたか? 背中、さすりますね」

     二人が駆け寄り、燐羽を気遣うように触れる。
     その温もりに触れた瞬間、燐羽の強張っていた肩の力が抜けたのがわかった。

  • 65二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:56:44

    「……な、なんでもないわよ。ちょっと足が滑っただけ」

     燐羽は慌てて俺の腕から離れていつもの強気な顔を取り繕った。
     だが、その耳の裏は夕日のように真っ赤に染まっている。

    「こいつの背中が広くて無駄に筋肉質だから、変なところにぶつかったのよ。 パシリのくせに生意気」
    「なんだその理不尽なクレームは」
    「ふふっ、りんちゃん、すっかり元気になりましたね」
    「ちょっと燐羽! さっきまでプロデューサーにべったり抱きついてたくせに!」
    「う、うるさいわね手毬! アンタだってさっき胸押し付けてたじゃない!」
    「なっ……!? お、押し付けてなんかっ……!」

     再び始まったギャーギャーという言い合い。
     だが、そこにはもう冷たい風は吹いていない。
     照りつける夏の太陽よりも熱く、そして騒がしい。
     そんないつもの彼女たちの空気が戻ってきていた。

  • 66二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:57:46

    「……よく食べるな、お前ら」

     夕暮れ時。
     オレンジ色に染まる海を眺めながら俺たちはパラソルの下で美鈴のお手製弁当を広げていた。
     重箱にぎっしりと詰められていた唐揚げや卵焼きは、水遊びで体力を消耗した三人の胃袋へと次々に吸い込まれていく。

    「当然でしょ。トップアイドルは体力勝負なの」
    「そうだよ。……それに、美鈴のご飯、本当に美味しいし」
    「ふふっ、たくさん食べてくださいね」

     もぐもぐと頬張る手毬とそれを満足そうに見つめる美鈴。
     そして、こっそりと俺の分の卵焼きを横取りしていく燐羽。
     波の音と三人の他愛のない笑い声が心地よく耳に響く。

  • 67二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 20:59:24

    「……ねえ、兄貴」

     ふと、燐羽が小さな声で俺を呼んだ。
     手毬と美鈴がデザートのフルーツを食べさせ合ってる隙に、燐羽は俺の肩に頭を預けてきた。

    「どうした?」
    「……連れてきてくれて、ありがと。悪くなかったわ」

     夕日に照らされた横顔はトップアイドルでも小悪魔な妹でもなく、ただのひとりの少女のそれだった。
     あの解散から止まっていた時計の針が今、確かに動き出している。
     この三人がいれば、いや、この三人となら必ず一番星に手が届く。

  • 68二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 21:01:44

    「……明日からは、地獄のレッスンが待ってるからな。覚悟しとけよ」
    「ふん。誰に向かって言ってるの? ポンコツプロデューサーこそ、私たちにしっかり着いてきなさいよね」

     燐羽は不敵に笑うと俺の太ももに容赦なく自分の両足を乗せてきた。

    「足ダルい。揉んで、お兄ちゃん」
    「……おい。ここは家じゃないぞ」
    「いいから揉みなさい。……あ、手毬! 今私のメロン取ったわね!」
    「早い者勝ちだよ! ……あ、プロデューサー! 燐羽の足なんかほっといて、私の肩を揉んでよ!」
    「まりちゃん、りんちゃん、喧嘩しちゃダメですよ。お兄さん、私にもあーんしてください」
    「お前ら、俺をなんだと思ってるんだ……!」

     美しい夕暮れの海辺で俺の胃痛と幸せな悲鳴は波の音に溶けて消えていった。
     SyngUp!の再結成。
     それは、俺の平穏な日常の完全なる終わりと、騒がしくも愛おしい日々の本当の始まりだった。

    次は三人に浮気と問い詰められるPの話いきます。美鈴の親愛度8話感はないかもしれません。

  • 69二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 21:38:56

    好きすぎて滅

  • 70二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 22:05:22

    やっぱりあの3人に必要だったのは自分たちの間に立って場を取り持ってくれる大人の存在だったのかもな
    どれだけ優秀でも当時の彼女たちはまだ中学生だったわけだし
    その未熟さに気づけなかった周囲の罪は大きい

  • 71二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 22:21:48

    今日最後です。明日はP宅に集まるSyngUp!メンバーの話でいきます。

    「ありがとうございます! 客観的な意見すごく参考になりました! 今度のステージで試してみます」
    「いえ、パフォーマンスの足しになれば幸いです。応援してますよ」
     
     紡がれたその真っ直ぐな言葉に俺は少しだけ照れくささを感じながら彼女の後ろ姿を見送った。

     ——その直後だった。
     
     背後から絶対零度をそのまま持ってきたかのような冷気が俺の首筋を撫でた。

  • 72二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 22:23:35

    「……へえ。ずいぶんと楽しそうじゃない、ポンコツ兄貴」
    「……プロデューサー。随分と鼻の下が伸びてましたね?」
    「あらあら、お兄さん。浮気ですか?」

     振り返るとそこには腕を組んで仁王立ちする燐羽、冷たいジト目を向ける手毬、そしてニコニコと微笑みながらも目が一切笑っていない美鈴の三人が並んでいた。

    「り、燐羽……それに手毬と美鈴も。レッスンは終わったのか?」
    「質問に質問で返さないでくれる? 私が聞いてるのは、なんでアンタが私以外の女と——しかも名の売れてないひよっこアイドルと、あんなに親しげにヘラヘラ笑い合ってたのかってことよ」

  • 73二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 22:24:48

     燐羽が一歩距離を詰めてくる。
     その瞳の奥には家で俺を人間座椅子にする時のあの独占欲が何倍にも膨れ上がって渦巻いていた。

    「親しげって……ただの相談事だよ。少しアドバイスを求められたから答えていただけだ」
    「嘘。プロデューサー、デレデレしてたじゃん。……私たちという担当がいながら、信じられない」

     手毬が唇を噛み締める。
     彼女の不器用な嫉妬心に火をつけてしまったらしい。

    「まりちゃん、泣きそうです。お兄さん、わたしたちじゃ不満なんですか? 浮気ですか?」

  • 74二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 22:27:13

     美鈴の放った『浮気』という爆弾ワードが廊下に響き渡る。
     周囲を歩いていた他の生徒たちがチラチラとこちらを見始めた。

    「バッ、声が大きい! 誤解だ、俺の担当はお前ら三人だけだって!」
    「言い訳なんて聞きたくないわ。ちょっと目を離した隙に他の女に尻尾を振るなんて、パシリのくせにいい度胸ね。……そんなに他の女の世話を焼きたいなら、一生家に帰ってこなくていいわよ」

     燐羽の顔が怒りと、そしてほんの少しの不安で歪む。
     SyngUp!が一度解散し、バラバラになった過去。
     強気な彼女たちの心の奥底には、まだ誰かに見捨てられるかもしれないというトラウマが薄っすらとへばりついているのだ。
     俺は小さく息を吐いて慌てるのをやめた。
     そして、強がる妹と不安げな元センターと、マイペースな爆弾魔の三人を真っ直ぐに見据える。

  • 75二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 22:29:12

    「……あのな。俺のキャパシティを過大評価しすぎだ」
    「は……?」
    「学園一プライドが高くてワガママなトップアイドルと、実力は本物だが手のかかる不器用な元センター、それに、いつ爆発するかわからないマイペースな天才。……この三人を同時にプロデュースして、おまけに家では人間座椅子にされてるんだぞ。俺の手に、これ以上他のアイドルを抱え込む余裕なんて、1ミリも残ってない」

     俺の言葉に三人が呆然と瞬きをする。

    「俺が見ているのは、お前たちだけだ。お前たちの未来を背負うだけで、俺の両手は完全に塞がってる。……だから、浮気なんて物理的に不可能だ。安心しろ」

     静かな廊下に俺の宣告が響いた。
     数秒の沈黙。
     やがて、燐羽の耳の裏が林檎のように赤く染まった。
     手毬も両手で顔を覆い、美鈴は「ふふっ」と嬉しそうに花が咲いたような笑顔を見せる。

  • 76二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 22:31:19

    「ばっ……バカじゃないの!? だ、誰がワガママなトップアイドルですか?! それに、ちょっとクサいセリフ言ったくらいで誤魔化される私だと思わないでください!」

     燐羽が顔を真っ赤にして怒鳴り散らすがその声に先程までの刺々しさは微塵もない。

    「そ、そうだよ! そもそもプロデューサーが誤解を招くような態度をとるのが悪いんです! ……ばか」

     手毬も顔を背けながらそっと悪態をつく。

    「でも、お兄さんの本音が聞けて、わたし安心しました。これでお兄さんは、名実ともに私たち三人の『専属』ですね」
    「……美鈴、その言い方だと俺が奴隷みたいに聞こえるんだが」

     俺のツッコミを華麗にスルーして燐羽がツンと顎をそびやかした。

    「当然よ。アンタは一生、私の……私たちのパシリなんだから。他の女を見るなんて絶対に許さないわ」

     燐羽は俺のネクタイを引っ張り至近距離で睨みつけてくる。
     だがその瞳はどこか嬉しそうに揺れていた。

  • 77二次元好きの匿名さん26/03/25(水) 22:32:31

    「今回の浮気未遂の罰として、学食で一番高いプレミアムパフェ、三人分ね。……それから家に帰ったら、私の足、三時間は揉ませるから覚悟しなさい」
    「……はぁ。了解しました、我が妹にして最高の担当アイドル様」

     俺が深くため息をつきながら降参すると、三人はようやく満足げな笑みを浮かべた。
     初星学園の廊下で繰り広げられた修羅場は、俺の財布と胃袋(と体力)に甚大なダメージを残しつつ、こうして幕を閉じたのだった。

     すみません今日予定よりも書けませんでした。明日以降頑張ります
     さっき言った通り明日は学P宅に集まる三人の話からいきます

  • 78二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 00:33:25

    これはいいものだ

  • 79二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 06:07:38

    可能なら3人にお兄ちゃん呼びされるイベントがほしいです

  • 80二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 12:44:28

    ほっし

  • 81二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 16:22:06

    しえんほしゅ

  • 82二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:28:38

    再開…の前に少し修正を。



    >>76

    の最初のセリフ、燐羽のパートなのに手毬と混ざっててまりんはになってしまいました。正しくは

    「ばっ……バカじゃないの? だ、誰がワガママなトップアイドルよ。それに、ちょっとクサいセリフ言ったくらいで誤魔化される私だと思わないで」

    になります。


    P宅に集まるSyngUp!の話いきます。

  • 83二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:30:16

     休日。
     アイドルたちにオフが与えられるその日、なぜか俺の家はSyngUp!の溜まり場と化していた。

    「……プロデューサー。お腹、鳴ってる」
    「仕方ないだろ。朝から何も食べてないんだから」

     昼下がりのリビング。
     ソファに深々と腰掛ける俺の隣でクッションを抱え込んだ手毬がジト目を向けてくる。
     現在、時刻は午後一時を少し回ったところ。
     俺の脆弱な胃袋はキッチンから漂ってくる暴力的ないい匂いによって限界を迎えようとしていた。

  • 84二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:32:28

    「手毬だってさっきから鳴ってるじゃないか。クッションで誤魔化そうとしてるけど、丸聞こえだぞ」
    「なっ……!? な、鳴ってない! これは……その、腹筋トレーニングの音だよ!」
    「どんなトレーニングだよ」

     顔を真っ赤にしてそっぽを向く手毬。
     相変わらず嘘をつくのが下手なようだ。
     そんな俺たちの腹の虫を挑発するようにキッチンからは軽快な包丁の音とフライパンで何かが焼ける小気味いい音が響いてくる。

    「ちょっと兄貴! 手毬とイチャイチャしてないで、テーブル拭いておいてよね。もうすぐ完成するんだから」
    「お兄さん、まりちゃん。すっごく美味しくできましたよ」

  • 85二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:33:43

     キッチンから顔を出した燐羽がお玉を片手に仁王立ちで俺たちに指示を飛ばす。
     その横で、ピンク色のエプロンをつけた美鈴がふんわりと微笑んでいた。
     今日の料理担当は燐羽と美鈴。
     そして食べる担当が、俺と手毬というわけだ。

     言われた通りに立ち上がり、ふきんを手にしてダイニングテーブルを拭き始める。
     手毬もそそくさと立ち上がりカトラリーを並べ始めた。

    「……なぁ、手毬。お前、料理はしないのか?」
    「……うっ。わ、私は、食べる専門なの! アイドルの仕事は美味しく食べて体力をつけることなんだから! べ、別に、昔家でクッキーを黒焦げの炭塊に錬成したトラウマがあるとか、そういうわけじゃないし!」
    「誰もそこまで聞いてないぞ」

  • 86二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:35:25

     自爆していく手毬を見ながら俺は小さく息を吐いた。
     手毬が並べていくスプーンとフォーク。
     俺が拭き上げたテーブル。
     キッチンから漂うデミグラスソースとバターの甘い香り。
     ふと、窓の外から吹き込んだ夏の風がリビングのカーテンをふわりと揺らした。

     ——ああ、なんだか。

  • 87二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:37:14

    「……なんだか、不思議だね」

     俺の心中を察したかのように手毬がぽつりとこぼした。
     並べる手を止めてキッチンで「美鈴! つまみ食い禁止!」「えへへ、美味しいです」とじゃれ合う二人を見つめる。
     その横顔にはかつての孤独な影はない。
     ただ、静かな安堵と少しのくすぐったさが滲んでいた。

    「またこうして、燐羽の家で、美鈴と……プロデューサーと一緒にいるなんて」

  • 88二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:38:31

     あの解散からどれだけの時間が過ぎただろうか。
     止まっていた時計の針。
     誰も触れようとしなかった過去。
     この広すぎる家に俺と燐羽の歪な生活音だけが響いていた日々はもう終わったんだ。
     彼女たちの笑い声が、料理の匂いが、当たり前のようにこの空間を満たしている。
     俺は自分がひどく満たされていることに気付く。
     あの時、最悪な空気だった教室で俺が下した決断は間違っていなかった。
     この三人が揃ったSyngUp!は誰よりも眩しく、そして——誰よりも騒がしい。

  • 89二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:40:06

    「……そうだな。でも、これからはこれが『当たり前』になるんだ。覚悟しておけよ、手毬」
    「……望むところです」

     手毬が嬉しそうに、けれど少しだけ照れくさそうに笑ったその瞬間だった。

    「お待たせしました。特製オムバーグプレートの完成です」
    「さあ、ひれ伏して味わいなさい! 兄貴、手毬!」

     美鈴と燐羽が大皿に乗った料理を運んできた。
     黄金色に輝くふわとろのオムライス。
     その横には肉汁が弾け飛びそうな分厚いハンバーグ。
     さらに色鮮やかなサラダとコンソメスープまでついている。
     洋食屋の看板メニューをそのまま持ってきたかのような完璧な仕上がりに俺と手毬は文字通り言葉を失った。

  • 90二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:41:28

    「す、すごい……! 美味しそう……っ!」
    「だろ? うちの妹は、家事スキルだけはカンストしてるからな」
    「『だけ』とは何よ。 アイドルとしてもカンストしてるっての。手毬、ポンコツ兄貴のハンバーグひとつあげるわよ」
    「こんな可愛くて家事もできる万能な妹を持てて俺は世界一幸せだなー!」
    「ふん。はじめからそう言えばいいのよ」

     燐羽がツンとそっぽを向くがその耳の裏は照れくささで真っ赤に染まっていた。
     四人でテーブルを囲み、「いただきます」と手を合わせる。
     手毬は待ちきれない様子でハンバーグにナイフを入れ、一口頬張った瞬間信じられないほど幸せそうな顔で咀嚼を始めた。

  • 91二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:42:50

    「んんっ……! お、美味しい……! お肉がすっごく柔らかくて……っ!」
    「当然でしょ。タマネギを飴色になるまで炒めたのはこの私なんだから。……で、ポンコツ兄貴はどうなのよ」

     燐羽が期待に満ちた上目遣いで俺を見てくる。
     俺もオムライスとハンバーグを一緒に口へ運んだ。
     ……美味い。
     バターの風味とデミグラスソースの濃厚なコク、そして肉の旨味が脳天を直撃する。

    「……完璧だ。店出せるぞ、これ」
    「っ……! そ、そう。まあ、アンタがどうしてもって言うなら、毎日作ってあげなくもないわ。パシリの健康管理も妹の務めだし」
    「ふふっ。りんちゃん、昨日の夜から『お兄ちゃん、最近疲れてるみたいだからお肉にしようかしら』ってずっとレシピ調べてたんですよ」
    「なっ!? ちょっと美鈴! 余計なこと言わないで!」

  • 92二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:44:53

     燐羽が慌てて美鈴の口を塞ごうとするが時すでに遅し。
     俺はニヤニヤしながら燐羽を見つめた。

    「へえ……? 俺のために?」
    「ち、違う! 私がハンバーグを食べたかっただけ! ……ああもう、いいから口を開けなさい!」

     顔を茹でダコのように赤くした燐羽が自らのフォークにハンバーグを刺し、強引に俺の口元へと突き出してきた。

    「ほら、あーん! 私の愛情、たっぷり味わいなさいよね!」

     唐突な『あーん』の強襲。
     逃げる間もなく口の中にハンバーグが押し込まれる。
     だが、ここで終わらないのが我が担当アイドルたちである。

  • 93二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:47:52

    「あっ、りんちゃんずるいです! お兄さん、私からはオムライスです。はい、あーん」
    「ちょ、美鈴まで……!」

     右から燐羽のハンバーグ。
     左から美鈴のオムライス。
     口の中が限界容量を迎える中、正面に座っていた手毬が歯を食いしばりながら立ち上がった。

    「な、なんで二人ばかり……! プ、プロデューサー! 私からは……その、ブロッコリーを食べさせてあげます! 野菜も食べなきゃ栄養バランス悪いですよ! ほら、あーん……っ!」
    「手毬、お前は食べる担当だろ!? ていうかブロッコリーってなんだよ!」

    「う、うるさい! 私が食べさせてあげるって言ってるんだから大人しく口を開けて!」
    「手毬、抜け駆けは許さないわよ。ほら兄貴、次はミニトマトよ」
    「ふふっ、お兄さん、スープも飲みますか? 熱いのでフーフーしますね」

  • 94二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 20:49:24

     三方向から一斉に突き出されるフォークとスプーン。
     右に我が家の女王、左にマイペースな春の陽だまり、正面に不器用な元センター。
     休日の穏やかなランチタイムが一瞬にして戦場と化したことに絶望しつつひたすらに胃袋へ食べ物を流し込み続けた。

    「も、もう食えない……!」
    「ダメよ。私が作ったんだから一粒残らず食べなさい」

     賑やかで、やかましくて、そしてどうしようもなく温かい。
     SyngUp!の三人と過ごすオフの日は、俺の胃袋と理性を限界まで削り取りながらこうして騒がしく過ぎていくのだった。

  • 95二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:05:54

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  • 96二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:09:20

    PをバカにされてキレるSyngUp!の話いきます。


     俺の胃粘膜は今日も初星学園の荒波にガリガリと削り取られていた。
     手毬は合同レッスンで些細な解釈違いから衝突して問題を起こし、美鈴は「お昼寝の時間です」と言い残してレッスンをサボり行方不明。
     俺はその尻拭いのために各所へ頭を下げる日々を送っている。

    「プロデューサー。君、少しあの子たちに甘すぎるんじゃないか?」

     廊下の片隅で俺に説教をしているのは学園でもベテランの鬼トレーナーだった。
     トレーナーは手元のバインダーを苛立たしげに叩きながら呆れたようにため息をつく。

  • 97二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:10:41

    「月村の協調性のなさは目に余るし、秦谷に至ってはレッスンすらまともに来ない。君、完全に彼女たちに舐められてるよ。知り合いだからって同情でプロデュースを引き受けたのかもしれないが、あんな問題児たちは君を都合のいいパシリか何かとしか思ってないんじゃないか?」

     その言葉に俺は眉をひそめて口を開きかけた。
     確かに家ではパシリ扱いだし人間座椅子にされている。
     だが、あいつらがアイドルという枠組みにおいて一切の手抜きをしていないことだけは一番近くで見ている俺が誰よりも知っているはずだ。

  • 98二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:12:14

    「……へえ。ウチのプロデューサーが、都合のいいパシリ?」

     俺が声を出すよりも早く氷点下の声が廊下に響き渡った。
     声のした方へ振り向くとそこには腕を組んで立つ燐羽と、ギリッと歯を食いしばる手毬、そして――一切の笑みを消した美鈴の三人が立っていた。

    「り、燐羽……お前ら、レッスンは」
    「黙ってなさい、ポンコツ兄貴」

     燐羽はを制するとベテラントレーナーを冷ややかな瞳で見据えた。
     家でのダボダボスウェット姿など微塵も感じさせない、完全無欠のトップアイドルの覇気が周囲の空気を歪ませる。

  • 99二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:13:53

    「こいつをパシリにして、アゴで使っていいのは世界で私だけなの。……どこぞの三流トレーナーの分際で、ウチの有能なプロデューサーを愚弄するなんて万死に値するわ」
    「なっ……賀陽燐羽、君まで……!」
     
    「……プロデューサーは、パシリなんかじゃない!」

     燐羽に続くように手毬が一歩前に出た。
     その瞳には怒りと悔しさが入り混じった涙が微かに浮かんでいる。

    「私が問題を起こすのは……私が、不器用で、素直になれないからです。プロデューサーは毎日私に呆れながらも、絶対に見捨てないで、私の歌に誰よりも真剣に向き合ってくれています。何も知らないくせに、プロデューサーの努力を……私のプロデューサーを侮辱しないでください!!」

     手毬の魂からの叫びにトレーナーがたじろぐ。
     かつて誰からも選ばれなかった自分に手を差し伸べてくれた俺を手毬は誰よりも誇りに思ってくれている。
     その不器用な愛情が痛いほど伝わってきて俺の胸が熱くなった。

  • 100二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:15:00

    「……まりちゃんの言う通りです」

     そして、最後にとどめを刺したのは普段は春の陽だまりのようにマイペースな美鈴だった。
     美鈴はゆっくり動き出すと、底知れない深淵のような冷たい瞳でトレーナーを見上げた。

    「私がお昼寝しちゃうのも、お散歩しちゃうのも、お兄さんが優しいから甘えてるだけです。……でも、だからって、お兄さんをバカにしていい理由にはなりませんよね?」
    「は、秦谷……君は……」
    「お兄さんを舐めてバカにする人は……わたし、嫌いです。二度と、わたしたちのお兄さんにそんな口の利き方しないでください」

     美鈴の静かで、けれど絶対的な圧力を持った言葉にベテラントレーナーは完全に顔を引きつらせて逃げるようにその場を立ち去っていった。
     嵐が過ぎ去った廊下には俺と三人のアイドルだけが取り残された。

  • 101二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:16:31

    「……お前ら」

     俺が声をかけると三人はハッとしてそれぞれの顔を赤く染めた。

    「か、勘違いしないでよね。アンタがバカにされるってことは、担当してる私たちの顔に泥を塗られるのと同じなの。気弱なポンコツ兄貴の代わりに私から言い返す必要があったのよ」

     燐羽がそっぽを向いて言い放つが、その耳の裏は真っ赤に染まっている。

    「そ、そうだよ! 私たちのイメージが悪くならないようにプロデューサーを庇っただけだから! ……だ、だから、これからも見捨てないでよね……っ」

     手毬が俺の服の袖を掴み消え入りそうな声で呟く。

    「ふふっ。わたしたち、お兄さんのこと大好きですからね」

     美鈴はいつもの笑顔に戻り、ふわりと俺の腕に抱きついてきた。

  • 102二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:17:40

     普段は好き放題で問題ばかり起こすワガママな三人の問題児たち。
     だがいざという時には誰よりも俺を守ろうと牙を剥いてくれる、世界で一番不器用で愛おしい俺の担当アイドルたちだ。

  • 103二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:18:51

    「……仕方ないな。今日のところは、お前らのその気持ちに免じて、特別に許してやる」
    「本当!? じゃあ、帰りに新しくできたクレープ屋さんに寄りたい!」
    「私には帰ったらマッサージをお願い」
    「わたしは、お兄さんの膝枕でお昼寝がしたいです」
    「……お前ら、やっぱり俺のこと舐めてないか?」

     やかましい三人の要求に頭を抱えながらも俺の胃の痛みはいつの間にかすっかり消え去っていた。

  • 104二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:21:00

    次は3人にお兄ちゃん呼びされるPの話いきます。多分今日最後の更新です。
    リクエストなかったら今度は戻って休日突然の激しい雨に洗濯物を雑に取り込んでメチャクチャにしちゃう学Pとずぶ濡れになって帰ってきた燐羽の話を書きます。

  • 105二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 21:58:14

     休日の午後。
     俺の部屋は今日も今日とて完全に占拠されていた。
    「……重い。どいてくれ、燐羽」
    「うるさいわね。妹がスキンシップを図ってあげてるんだから、黙ってふくらはぎを揉みなさい」

     寝転がってノートパソコンを開いている俺の背中にはいつものように燐羽が乗っかっていた。
     俺という人間座椅子に体重を預けながら器用にスマホを操作している。
     そして俺の目の前のベッドには手毬と美鈴が我が物顔でくつろいでいた。

  • 106二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:00:04

    「ねえ、ポンコツ兄貴」
    「なんだよ。今、来月のレッスンスケジュール組んでるから忙しいんだぞ」
    「私たち、SyngUp!としての新しい曲が欲しいわ」

     タイピングしていた俺の手が止まる。
     背中越しに降ってきた燐羽の言葉にベッドで漫画を読んでいた手毬がバッと身を起こし、美鈴も「わあ」と目を輝かせた。

    「た、確かに! 再結成したんだから、今の私たちを象徴するような新しい曲が必要だよ!」
    「りんちゃんの言う通りです。昔の曲も大切ですけど、新しいSyngUp!の歌、わたしも歌いたいです」

  • 107二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:01:22

     三人の視線が一斉に俺に突き刺さる。
     だが、俺はひとつ深呼吸をしてプロデューサーとしての理性の鎧を纏った。

    「……気持ちはわかる。だが、却下だ」
    「はあ? なんでよ。理由、三文字以内ね」
    「お前ら、新曲をなんだと思ってるんだ。初星学園で一流のコンポーザーを動かして完全新規の楽曲を作るにはそれ相応の『実績』と『予算』が必要なんだ。再結成したばかりで、まだ目立った活動実績がない今の状態じゃ、上層部への企画書すら通らない。まずは既存の曲で完璧なパフォーマンスを見せて、実績を作ってからだ」

     俺の正論に燐羽が舌打ちをする。

  • 108二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:02:58

    「正論並べてんじゃないわよ。そこをどうにかするのが、プロデューサーの――アンタの仕事でしょ」
    「無茶を言うな。俺はプロデューサーとして、感情論ではなくビジネスとしての最適解を出しているんだ。いくらお前たちの頼みでも、首を縦に振ることは――」

    「ふぅん……」

     俺の言葉を遮り、燐羽が口元に妖艶な笑みを浮かべた。
     俺の背中から降りた燐羽は手毬と美鈴に視線を送る。

    「……仕方ないわね。美鈴、手毬。アンタたち、絶対に新しい曲、歌いたいでしょ?」
    「うん!」
    「はい、とっても」
    「じゃあ、作戦変更。……アレ、やるわよ」

  • 109二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:05:02

     燐羽の指示に手毬が「えっ!?」と顔を真っ赤にして後ずさる。
     だが、美鈴はニコニコと笑いながらベッドから降りてきた。

    「ちょっと待て、アレってなんだ。俺は絶対に企画書は書かないぞ。実績が――」

     俺が言い終える前に燐羽が俺の正面に回り込んだ。
     スウェットの襟元から白い鎖骨を覗かせて至近距離で見つめてくる。

    「ねえ、お兄ちゃん……♡」

     甘い。
     あまりにも甘く、そして致死量の破壊力を秘めた声だった。

  • 110二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:06:52

    「私、どうしても新しい曲でステージに立ちたいな……。可愛い妹のお願い、聞いてくれないの……?♡」

     上目遣いと鼻腔をくすぐるラベンダーの香り。
     外では絶対に誰にも見せない俺だけに向ける妹の最強の切り札。
     俺の理性の鎧にピシッとヒビが入る。

  • 111二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:08:07

    「……お兄ちゃん♡」

     間髪入れず俺の右腕に美鈴がふわりと抱きついてきた。
     春の陽だまりのような温もりと腕に押し当てられる暴力的なまでの柔らかさ。

    「わたしも新しい歌、歌いたいです。お兄ちゃんが一生懸命考えて、わたしたちのために用意してくれた曲なら絶対に最高ですから……ね? お兄ちゃん……♡」

  • 112二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:10:49

     耳元で囁かれるふわふわとした声。
     俺の理性の鎧は音を立てて崩れ去っていく。
     だが、まだだ。
     俺はまだ耐えられる。
     プロデューサーとしてのプライドが――。

  • 113二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:12:00

    「わ、わ、私は……っ! こんなの、恥ずかしくて……っ!」
    「手毬。アンタ、新曲欲しくないわけ?」

     燐羽に冷たく睨まれて手毬は涙目になりながら拳を握りしめた。
     そして、顔から火が出そうなほど赤面して震える手で俺の左腕を掴んだ。

  • 114二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:13:22

    「お、お、おおお……っ! お兄ちゃんっ……!!♡」
    「っ……!?」
    「わ、私も、新しい曲、作ってほしい……っ! い、いっぱい練習して、絶対にすごいステージにするから……っ! だ、だから……お兄ちゃん、お願い……っ!!」

     普段はツンケンしている手毬の、羞恥心で爆発しそうになりながらの渾身のお兄ちゃん呼び。
     その必死な瞳に見つめられた瞬間、俺の脳内でプロデューサーとしてのプライドも、実績も、予算も、上層部への配慮も、すべてが真っ白に吹き飛んだ。

  • 115二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:14:30

    「…………わかった」

     沈黙の後、俺は天を仰いで深く息を吐き出した。

    「三徹だ。三徹して、誰も文句が言えない完璧な企画書を書き上げてやる。予算が足りないなら学園長に直談判でも土下座でもして、今一番勢いのあるコンポーザーを引っ張ってきてやるから、少し待ってろ」
    「本当? 嘘だったら殺すから」
    「ふふっ。ありがとうございます、お兄さん」
    「し、死ぬかと思った……っ」

     歓喜の声を上げる三人を見て俺は燃え尽きたように床に倒れ伏した。
     すると、つい数秒前まで甘えん坊の妹を演じていた燐羽が冷ややかな視線で俺を見下ろしてきた。

  • 116二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:15:41

    「言質取ったわよ。さっすが私のお兄ちゃん、チョロいパシリね♡」
    「お前なぁ……さっきまでのあの態度は……」
    「新曲のためなら、安い演技くらいするわよ。……まったく。プロデューサーとしての正論はどうしたのよ。ちょっとおだてられただけでコロッと態度変えるなんて、本当に現金なお兄ちゃんね」

     あきれ果てたようにため息をつく燐羽。
     理性をへし折られ、企画書の地獄を自ら背負い込み、その挙句に「現金なお兄ちゃん」と罵られる。
     客観的に見れば悲惨極まりない状況だが俺の心は不思議と晴れやかだった。

  • 117二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:16:49

    「うるさい。お前らの最高を更新する曲を絶対に持ってくるから、その代わり、血反吐を吐くようなレッスンを覚悟しておけよ」
    「当然でしょ。私たちSyngUp!を舐めないでよね。……さ、交渉も成立したことだし、喉乾いちゃった。お兄ちゃん、冷たい紅茶淹れてきて。あ、美鈴が買ってきたケーキも一緒にね」

     燐羽はソファに座り込みスマホの画面に視線を落とした。
     手毬は真っ赤な顔を両手で覆いながらベッドで悶絶しており、美鈴は「ケーキ楽しみですね」と呑気に微笑んでいる。

  • 118二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 22:27:07

    「……はいはい。ただいまお持ちしますよ、我が最強のアイドル様たち」

     人間座椅子兼パシリ兼プロデューサーの俺は重い腰を上げながらキッチンへと向かった。
     この三人のためなら、現金な兄だろうが都合のいいパシリだろうが、いくらでも引き受けてやる。
     そんな決意と共に俺はSyngUp!の新たな伝説の始まりに向けて密かに口角を吊り上げたのだった。

     今日はこれで終わりです。

     もしかしたら明日は一話だけの更新になってしまうかもしれません。

  • 119二次元好きの匿名さん26/03/26(木) 23:44:58

    本日もおつです 楽しみながら読んでます

  • 120二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 06:43:49

    こういうのほんと好きです

  • 121二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 11:33:08

    期待保守

  • 122二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 18:02:43

    日常パートメインでネタかぁ…定番だと3人が学Pのエロ本発見(背表紙を他の論文系書籍に差し替え秘蔵)で内容が妹物とか?美鈴が大和撫子で幼馴染物を勧めたり手毬だけお子様扱いしてエロ本精査から外されたり??

  • 123二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:10:28

    再開します。その前にひとつ報告を。
    次書く話が休日突然の激しい雨に洗濯物を雑に取り込んでメチャクチャにしちゃう学Pとずぶ濡れになって帰ってきた燐羽なのでこのスレは後P×手毬とP×美鈴をそれぞれ書いて最後にSyngUp!の話を書いて終わろうと思います。
    ↑のネタSyngUp!面子で書ける自信ないのでP×美鈴で使おうと思います。力不足ですみません。


     とある夏の休日。
     手毬や美鈴といった騒がしい来客もなく、今日は珍しく俺と燐羽の二人きり……になるはずだった。
    「……あいつ、傘持っていったか?」
     昼下がり。
     静まり返ったリビングで俺は窓の外を見上げて呟いた。
     午前中、「ちょっと駅前のサロンまでネイルのメンテナンスに行ってくるわ」と完璧な変装で出かけていった我が妹・燐羽。
     出かけた時は雲ひとつない快晴だったというのに現在、窓の外はまるで世界の終わりかのようにドス黒い雨雲に覆われている

  • 124二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:12:38

     ――ポツ、ポツ……バラバラバラッ!!

     嫌な予感がした直後、窓ガラスを叩きつけるような暴力的な雨音が響き渡った。
     夏の風物詩、ゲリラ豪雨だ。
     ぼんやりと雨を眺めていた俺の脳裏にある重大なミッションがフラッシュバックした。

    「……っ! 洗濯物!!」

     ベランダには朝イチで俺が干した大量の洗濯物が風に煽られている。
     俺の安物のシャツはどうでもいいが問題は燐羽の衣類だ。
     年頃の女性が纏う、ゼロの数がひとつ多い私服やお気に入りのルームウェア。
     あれがズブ濡れになれば俺の命はない。
     俺は弾かれたように立ち上がりベランダの窓を勢いよく開け放った。

  • 125二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:14:49

    「うおっ、すげえ雨……っ!」

     一瞬で顔面が濡れるほどの横殴りの雨。
     俺は己が濡れるのも構わず、物干し竿からハンガーごと洗濯物をむしり取り始めた。
     綺麗に取り込んでいる余裕などない。
     とにかく雨から避難させることが最優先だ。
     俺のTシャツ、燐羽のブラウス、タオルケット、その他諸々のデリケートな布地たちを両腕に抱えきれないほどまとめて引っこ抜く。

    「くそっ、風が……! とりあえず中へ!」

     バサバサと音を立てながら俺はリビングの床に洗濯物の塊をぶん投げた。
     第二陣、第三陣とベランダとリビングを往復して窓を閉め切った時には俺自身もシャワーを浴びた直後のように濡れ鼠になっていた。

  • 126二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:16:13

    「はぁ、はぁ……間に合ったか……?」

     息を整えながらリビングの中央に鎮座する『それ』を見る。
     そこにあったのは無惨に絡み合い、シワくちゃになり、ハンガーのフックがあちこちに引っかかった混沌を極める布の山だった。
     俺のヨレヨレのジャージと、燐羽の高級なシルクのブラウスがまるで前衛芸術のように複雑に絡み合っている。

    「……終わった」

     俺は膝から崩れ落ちた。
     濡らすことは回避したが、これを見た燐羽が烈火のごとく怒り狂う姿が目に浮かぶ。
     急いで畳み直そうと布の山に手を伸ばした、まさにその瞬間だった。

  • 127二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:17:47

     ――ガチャリ。

     玄関のドアが開く音。
     続いて、重いバッグが床に落ちる音と、酷く不機嫌な震えるため息が聞こえた。

    「……最悪」

     慌てて玄関へ向かうとそこには見るも無惨な姿になった燐羽が立っていた。
     完璧にセットされていたはずの髪は雨水を吸ってペタンと張り付き、高級なサマードレスは水を吸って重そうに体にまとわりついている。
     足元のサンダルからはポタポタと雫が落ちていた。
     ゲリラ豪雨の直撃を文字通り全身で浴びてきたらしい。

    「り、燐羽……お前、ズブ濡れじゃないか!」
    「見ればわかるでしょ……っ。駅からのたった数分でこれよ……。タクシーは捕まらないし、日傘なんてこの雨じゃ何の役にも立たないし……っ」

  • 128二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:19:47

     寒さからか怒りからか、燐羽の小さな肩が小刻みに震えている。
     外では決して見せない弱り切った姿。
     俺は慌てて洗面所から大きめのバスタオルを引っ張り出して燐羽の頭から被せた。

    「とりあえず拭け。風邪ひくぞ。風呂の準備、すぐするから」
    「……アンタが拭きなさいよ。私、もう指一本動かす気力もないの」
    「はいはい」

     タオルの上から冷え切った燐羽の頭をゴシゴシと拭く。
     普段なら「髪が痛む!」と怒られるところだが、今の燐羽は黙って俺の手の動きに身を任せている。
     雨に濡れた子猫のように小さくなった背中を見ていると、兄としての庇護欲がどうしようもなく刺激された。

    「……ん、とりあえず水気は取れたな。早くシャワー浴びてこい。温かい紅茶でも淹れ――」

  • 129二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:20:59

     そこまで言いかけて俺はハッとした。
     洗面所からリビングへ向かう動線。
     そこには俺が先ほど錬成した洗濯物の混沌の山が手付かずのまま放置されているのだ。

    「あっ、燐羽、ちょっと待て! リビングにはまだ……!」
    「なによ。はやくシャワー浴びたいんだから、どきなさい――」

  • 130二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:22:30

     俺の制止を振り切り濡れた足取りでリビングへ足を踏み入れた燐羽の動きが止まった。
     燐羽の視線の先には無惨に絡み合った布の山。
     そして、その山頂付近で俺の毛玉だらけのジャージと燐羽のお気に入りのレースキャミソールが、ハンガーを介してガッチリと抱き合っている光景があった。

     十秒ほどの重苦しい沈黙。
     やがて、燐羽の肩が先程の寒さとは全く別の理由でプルプルと震え始めた。

    「……ポンコツ兄貴」
    「ひっ」
    「……どういうことか、三文字で説明しなさい。私の、私のデリケートな服たちが、なんでアンタの汚い服と一緒に、こんな雑巾みたいな扱いを受けてるのよぉぉっ!!」

  • 131二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:23:59

     リビングに燐羽の悲鳴と怒号が響き渡った。
     タオルを床に叩きつけた燐羽はズブ濡れのまま俺の胸倉を鷲掴みにした。

    「ご、誤解だ! 雨が降ってきたから、濡れる前にと思って急いで取り込んだ結果がこれなんだ! お前のためを思って……!」
    「言い訳無用! たたでさえ雨で最悪の気分だったのに、家に帰ってきても最悪なんてどういうことよ! アンタなんかプロデューサー失格よ! いや、兄も失格! パシリ以下よ!」
    「パシリ以下ってなんだよ、ミジンコか!?」

     ギャーギャーと言い合いながら俺は必死に言い訳を並べる。
     だが、怒り狂う燐羽の顔がふと至近距離にあることに気付いた。
     雨に濡れた肌は青白く、唇は小刻みに震えている。
     怒鳴り散らしてはいるが燐羽の体温が急激に奪われているのは明らかだった。

  • 132二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:25:08

    「……わかった。俺が全部悪かった。洗濯物は後で俺が一枚残らずアイロンかけて綺麗に畳み直す。だから、今は頼むから温まってくれ」

     俺が真剣なトーンで告げると燐羽は少しだけ気圧されたように口をつぐんだ。
     俺の胸倉を掴んでいた手を離して顔を背ける。

    「……当たり前よ。アイロンがけ、きっちりやりなさいよ」

     捨て台詞を吐いて燐羽はそそくさとバスルームへ消えていった。
     残された俺は深くため息をつきながらとりあえず混沌の山から燐羽の服だけを丁寧に救出する作業に入った。

  • 133二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:27:26

     数十分後。
     すっかり雨雲は通り過ぎて窓の外には嘘のような夕焼け空が広がっていた。
     俺がキッチンで温かいミルクティーを淹れ終えてリビングに戻るとそこには見慣れた光景が広がっていた。

    「……遅いわよ。寒くて凍え死ぬところだったじゃない」

     シャワーを浴びていつものスウェットに着替えた燐羽がソファで丸くなっていた。

    「外はあんなに暑かったのに雨に濡れるとやっぱり冷えるな。ほら、飲んで温まれ」

     マグカップを渡すと燐羽は両手でそれを包み込むように持ち、ふうふうと息を吹きかけてから一口飲んだ。
     ほっと小さく息を吐き出すその顔は外で見せる完璧なアイドルでもなく、さっきまで俺を怒鳴り散らしていた暴君でもなく、ただの年相応の妹の顔だった。

    「……美味しい」
    「そりゃどうも。プロデューサー兼、専属シェフ兼、パシリの特製だからな」

     俺が呆れ交じりに言うと、燐羽はカップをローテーブルに置いて無言で両手を広げてきた。
     どういう意味だ、と視線で問いかけると燐羽はジト目で俺を睨みつけた。

  • 134二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:28:51

    「なにボーッとしてるの。さっさと体貸しなさい。まだ温まりきってないのよ」
    「俺は暖房器具じゃないぞ」
    「いいから。妹が温めてって言ってるんだから、黙って従いなさい」

     有無を言わさぬ命令。
     俺はため息をつきつつソファを背にしてラグの上に座り込んだ。
     すると。燐羽が俺に体重を預けてくる。
     それだけでは飽き足らず、俺の体に腕を回してペタリと張り付くように密着してきた。
     シャンプーの甘い香りとじんわりとした温もりが伝わってくる。

    「……ん。やっぱり、アンタの背中は無駄に広くて温かいわね。人間座椅子兼、人間湯たんぽとして認定してあげる」
    「称号がどんどんヒドくなっていくな……」

     俺の愚痴を無視して燐羽は心地よさそうに俺の体に顔を擦り付けた。

  • 135二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:30:07

    「今日は本当に最悪の日だったわ。雨には降られるし、服はシワくちゃにされるし」
    「悪かったって。でも、濡れずに済んだろ?」
    「結果オーライみたいな顔しないで。……でも、まぁ」

     燐羽の腕の力が少しだけ強くなった。

    「帰ってきたら、アンタが慌てて私の服を助けようとしてたのは……ちょっとだけ、マシだったかもね」
    「なんだそれ。素直にありがとうって言えばいいのに」
    「ポンコツ兄貴のくせに生意気ね」

     相変わらず憎まれ口ばかりだ。
     だが、俺にピタリとくっついて離れようとしないこの重みこそが妹なりの最大限の甘えであり、信頼と俺は知っている。

  • 136二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:32:01

    「……風邪、引くなよ」
    「バカにしないで。私はゲリラ豪雨ごときじゃ倒れないわよ。……それより、さっさと足揉みなさい。冷えて血行が悪くなってるんだから」
    「はいはい。お安い御用ですよ」

     俺は文句を言いながらも前に投げ出された燐羽の白い足を手に取りゆっくりと揉みほぐし始めた。
     外では激しい雨が降り、家の中では洗濯物が散乱する、散々などたばた劇。
     だが夕暮れのリビングでこうして二人きりで過ごす静かな時間はプロデューサーとアイドルという肩書きを忘れさせる、俺たち兄妹だけの不器用で確かな平穏だった。

  • 137二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:33:43

    恐らく今日の更新は終わりです。一話だけの代わりに少し長めの話を書きました。


    P×手毬の話と〆のSyngUp!の話のネタ募集中です。
    複数個来た場合僕が書きたいので書かせてください。

  • 138二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 19:50:18

    初星に招かれた実力派の元トップアイドルが臨時講師としてSyngUp! の様子を見てくれる
    実績もあり人間的にも完成された大人でそれを見た三人がそれぞれ自分の完成形を想像し合うような話はどうでしょう

  • 139二次元好きの匿名さん26/03/27(金) 21:33:33

    場所は事務所とかの4人が自由に入れる場所がいいかなと思っています
    珍しく何も無くてボケーッと手毬の曲を口ずさんでいたら、偶然通りがかった手毬がそれを耳にしてそーっと部屋に入ってくる

    Pが気づかないうちに隣に来て合わせて歌い始める

    一瞬驚いて止まってしまうも「続けて?」と手毬に催促され一緒に歌い始める
    的なのが読みたいです。

  • 140二次元好きの匿名さん26/03/28(土) 00:36:56

    寝る前の保守

オススメ

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