ユーリー ユーリー

ADHDが働き始めて一ヶ月、少しずつ無能がバレ始めた

高校を卒業して以来、アルバイトに応募しては面接をバックレ、採用されてもバックレることを繰り返した僕にとって、今働いているガソリンスタンドはまさに理想の職場だ。

仕事内容はトラックの給油サービスの接客だ。
僕は小学生のときにサービスエリアでトラックの運転手に理不尽に怒鳴られた事がある。
その経験から、それ以来トラックドライバーに対して「気難しい」「コワモテ」「怒鳴る」等の偏見をうっすら持っていたし、ブチギレられることも多少覚悟していた。

しかし、それは全くの杞憂だった。
むしろ僕のたどたどしい接客も笑って「頑張れよ!」と励ましてくれたり、丁寧な接客を頑張ったら「ニイチャン、丁寧やな!」と褒めてくれる。

気前が良くて、本当の意味でさっぱりしており、良い接客を自分から心掛けたくなるようなお客様ばかりだ。

そういう人達が客層だからなのか、共に働く正社員やアルバイトも、社交性の高い人が多い。
休憩中や暇なときに二人だけになると、「大学ではなにをしてるの?」「仕事は楽しい?」と雑談を振ってくれる。

社員の人も優しい。
お客様も優しい。
給料もそこそこ良い。

人生で初めてバイトが楽しいと思えるようになった。
今の職場には本当に感謝している。

しかし、とある深刻な問題が顕著に現れ、働き始めてから一ヶ月経ち、徐々に雲行きが怪しくなってきた。
それは、、、

僕が思ったより仕事ができない

ということだ。

初出勤の時、「〇〇くん乙四(※)持ってるの?エリートだね」と驚かれた。
(※ 危険物取扱者乙種四類の略)

職場では、資格を取るまでに苦労した経験がある人が多かった。
10回以上不合格の末にやっと合格したパターンが珍しくなく、未だに取得できてない正社員もいた。

それを聞いた時、心の底から笑顔がこぼれ出た。
人から頭の良さを褒められるのが久しぶりだったからだ。


正直、これを持っているからと言って、なにが特別なことができるわけでもなく、実務的な意味はほとんどないと言っていいだろう。

それでも、二浪するほど学歴に執着のあった僕からすれば、知能を褒められることほど嬉しいものはなかった。

そうそう、今は不運で肉体労働に甘んじているけど、俺は本来有名大学に進学するようなエリートだったんだ!

、、、とまではいかないでも、その時はかなり満更でもない顔をしていたし、多少期待されていたと思う。

そのやり取りの後、早速接客を始めるのだが、そこで化けの皮が剥がれ始めた。

まず接客の基本として「やまびこ」という概念がある。
お客様が来店された場合、一人が挨拶すると続けて他の店員も挨拶する。
一昔前のブックオフでよく聞かれた「いらっしゃいませこんにちはー」のようなものだ。

「やまびこ」を教えられたあとにいざ実践してみるのだが、自分では10段階で7ぐらいの声量を出しているのだが、社員の人達には声が小さいと言われてしまった。

挨拶をした後に、お客様から貰ったカードを返し、車内用タオルを渡す。
「カードをお返しします。車内用タオルをどうぞ。」と言えばいいのに、

「エト ヵ、カードをお返しします。
車内用タオルァ、アゲ、、、どうぞ」

と他人にものを渡すときに使う動詞が「あげる」しか思い浮かばずに、「車内用タオルをあげますね~」と言ってしまいそうなくらい緊張してしまった。

あまりにも僕の接客が拙いため、店で一番接客が丁寧な、年配の女性パートから

「そんな接客では駄目なので、このフレーズを店長の前で30回練習してください」

とタオルを渡すときのフレーズが書かれたメモを渡されてしまった。仕方なく店に戻ると、店長は「最初だからそんなこともあるよ」と笑顔で練習に付き合ってくれた。

30回練習した成果もあって、概ねマニュアル通りにスラスラ言葉が出てくるようになったが、セリフ通りにスラスラと接客することに意識しすぎて、今度は「顔と言い方が怖すぎる」と言われるようになってしまった。

こういう具合にかなり仕事ができないので、同僚からやんわりナメられるようになってしまった。

特に何もせずお客様を待っているだけなのに「〇〇くん、今日も面白いね」と言われたり、
雑巾を畳んでいる途中に名前を呼ばれて「ちょっと待ってください」と返答したら笑顔で「ダメ!」と言われたりした。
「〇〇くんってさ、学校とかで怒られ慣れてたりすんの?」という、「こんなに仕事が出来ないということはどうせ学校でも勉強ができなかったんだろ」という含意のある皮肉めいた質問をされたりもした。

それを言われたときは流石に腹が立って、「いや、僕は高校のときかなり成績が良かったので、特にそういうのはなかったですね~」と語気強めに、早口で返答した。(ちなみに皮肉を言った奴は乙四の試験に15回くらい落ちている。俺は一発合格である。

仕事が出来なかったり、注意されるたびに、前述の店長の励ましを心の中で反芻しながら仕事をしていた。

また、新人が僕だけでなかったことも心を落ち着かせる材料になっていた。高校を卒業してからすぐにバイトに応募した専門学生のAくんや、陽気で人と話すのが好きなスポーツマンの大学生Bくん。
仕事のできない半人前が僕だけではないという事実は、どんな励ましの言葉よりも心強かった。

昨日のショッキングな話を聞くまでは、、、

睡魔に勝利し、出勤した後、休憩室で準備をしながら雑談していた。
「今日も暑いねー」
「そうですねー」
僕はボタンを留めながら何気なく返答する。

「そういえば、いまどれくらい仕事覚えた?」と聞かれたので、仕事でできるようになった業務を簡潔に伝えた。

すると衝撃の返答が返ってきた。

「そういえば、同じ時期に入ってきたAくんとBくんはもう給油までおぼえたってー」

給油サービスにおいて、給油というのは言わずもがな一番大事な業務だ。
例えば、給油口を間違えれば、最悪の場合、店の1年間の売上が吹っ飛ぶレベルの大惨事になるらしい。
だから、当分の間は給油をさせてもらえないと思っていた。

同時期に入った同僚に仕事の進捗を抜かされてしまったのだ。
さらに、二人とも乙四は持っておらず、時給は僕よりも数百円低い。

つまり僕は、人件費だけ高い上に仕事を覚えるのが遅い人材である。

朝からその話を聞かされ、業務中もそのことを考えながら仕事をしていた。
「なんて自分は能力が低いんだろう」と自責したり、「わざわざ気分が下がるようなこと言うなよ、もしかして皮肉か?」と他責したりしていた。

そんな事を考えていると笑えないミスをしてしまった。

立ち仕事で足へ疲労が溜まり、手を無意識に太ももへやると、金属製の硬いものがポケットの中にある事に気づいた。
通勤に使う自転車の鍵かと思い、取り出すと、それはお客様から預かった給油口の鍵だった。
本来はレシートと同時に返却しなければならないものを、数時間ポケットに入れたままにしていたのだ。

店長にはそのあとすぐ謝罪し、いつもより低い声で「今後気をつけてね」と言われ、監視カメラでどの車両の鍵なのか特定する必要があるため、心当たりがある場面を業務中でもいいから考えるように求められた。

その後は、鍵を返し忘れる可能性のあるイレギュラーな出来事を考え続け、思いついたら店長のいる部屋に行き、逐次報告していた。
しかし、いくら監視カメラを確認し続けてもわからずじまいだった。

僕が退勤するときも店長は監視カメラに張り付いていた。
店長の退勤時間はとっくに過ぎている。
僕の過失のせいで残業を余儀なくされているのだ。

普通に帰宅するのは失礼だと思い、退勤打刻を押して、店長の後ろに立ち、呆然と監視カメラを見ていた。
僕の存在に店長が気づくと、「帰っていいよ」と言われた。
僕はもう一度謝罪したあと、店舗をあとにした。

そして、この出来事が今日に至るまで頭から離れず、この記事を書いている。

接客において、一番重要なのは視野の広さだと思う。

お客様をいち早く視認するという意味でも重要だし、人の気持ちを慮るという意味でもそうだ。

僕はこれまでの人生で、その視野の狭さから人を傷つけたり、反感を買ってきた。

僕はトラックの運転手に対して偏見を持っていた。接客業に対しても、自分には向いていないと決めつけていた。
そしてたぶん、自分自身に対しても「本当はできる人間なのに、今はたまたまうまくいっていないだけだ」と、都合のいい偏見を持っていた。

でも、ガソリンスタンドで働いて一ヶ月経ってわかった。

僕に足りなかったのは、頭の良さ以上に、視野の広さだった。

お客様の車を見る視野。手元の鍵を見る視野。一緒に働く人の言葉を、すべて皮肉だと決めつけない視野。そして、仕事ができない自分を見ても、すぐに人生ごと否定しない視野。

僕はまだ、給油を任されていない。
その前にまず、自分のポケットと視野の狭さを確認するところから始めたい。


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